特許第6252379号(P6252379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6252379-電線およびケーブル 図000005
  • 特許6252379-電線およびケーブル 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6252379
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20171218BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20171218BHJP
   C08K 5/5425 20060101ALI20171218BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20171218BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20171218BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   H01B7/02 F
   C08L23/02
   C08K5/5425
   C08K5/42
   H01B7/00
   H01B3/44 D
   H01B3/44 F
   H01B3/44 L
   H01B7/02 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-132750(P2014-132750)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-12440(P2016-12440A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2016年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】久保 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】中山 明成
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−096252(JP,A)
【文献】 特表2004−526808(JP,A)
【文献】 実開昭56−169314(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
C08K 5/42
C08K 5/5425
C08L 23/02
H01B 3/44
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
アルキル化ナフタレンスルホン酸の添加されたシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成され、前記導体を被覆する絶縁内層と、
ポリオレフィンで形成され、前記絶縁内層を被覆する絶縁外層と
を有し、
前記絶縁外層を形成する前記ポリオレフィンは、密度が0.94g/cm3以下であり、
前記絶縁外層の厚さは、前記絶縁内層と前記絶縁外層の厚さの和に対して、0.05〜0.2の範囲内の比率となる厚さである電線であって、
前記アルキル化ナフタレンスルホン酸は、1〜4個のアルキル基で置換され、各アルキル基が炭素数5〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、各アルキル基は同一または異なり、これらのアルキル基中の炭素の総数は12〜80の範囲にあるとともに、1〜2個のスルホ基で置換されたものである電線。
【請求項2】
前記アルキル化ナフタレンスルホン酸の添加されたシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物には、前記シラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物に含まれるポリオレフィン100質量部に対して、シラン化合物が1〜5質量部添加されており、前記アルキル化ナフタレンスルホン酸が0.1〜1質量部添加されている請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記絶縁内層を形成するシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物の含むポリオレフィンは、密度が0.92g/cm3以下である請求項1または2に記載の電線。
【請求項4】
前記シラン化合物は、1.5〜5質量部添加されている請求項2に記載の電線。
【請求項5】
前記アルキル化ナフタレンスルホン酸の添加されたシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物には、遊離ラジカル発生剤が、遊離ラジカル発生剤に対するシラン化合物の質量比率が100以下となるように添加されている請求項1〜のいずれか1項に記載の電線。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電線が撚り合わされた構造を有するケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物を用いた電線およびケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
シラン架橋ポリオレフィン樹脂を生成するためのシラノール縮合触媒として、従来、Sn化合物が用いられてきた。しかし、近年、一部のSn化合物がrohs禁止物質に指定されるなど、Sn化合物は人体に対し有毒性があることがわかってきている。そのため、Sn化合物触媒を用いないシラン架橋ポリオレフィン樹脂の生成技術が注目されている。
【0003】
近年、強酸基であるスルホ基を有しSn触媒より架橋速度の高いドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)触媒を用いるシラン架橋ポリオレフィン樹脂の生成技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3148245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者の検討によれば、DDBSA触媒は、極性が強く、非極性のポリオレフィンに対する分散性が悪いので、DDBSA触媒を用いると、電線被覆時にスコーチが起こって、外観に粒が生じやすいことがわかった。
【0006】
また、電線の絶縁被覆には、良好な外観とともに、架橋性能も求められる。
【0007】
本発明の一目的は、架橋性能と外観との両立が図られた電線、およびそのような電線を用いたケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、
導体と、
アルキル化ナフタレンスルホン酸の添加されたシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成され、前記導体を被覆する絶縁内層と、
ポリオレフィンで形成され、前記絶縁内層を被覆する絶縁外層と
を有し、
前記絶縁外層を形成する前記ポリオレフィンは、密度が0.94g/cm3以下であり、
前記絶縁外層の厚さは、前記絶縁内層と前記絶縁外層の厚さの和に対して、0.05〜0.2の範囲内の比率となる厚さである
電線であって、
前記アルキル化ナフタレンスルホン酸は、1〜4個のアルキル基で置換され、各アルキル基が炭素数5〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、各アルキル基は同一または異なり、これらのアルキル基中の炭素の総数は12〜80の範囲にあるとともに、1〜2個のスルホ基で置換されたものである電線が提供される。
【0009】
本発明の他の観点によれば、
上述の本発明の一観点による電線が撚り合わされた構造を有するケーブル
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
スコーチを抑制するアルキル化ナフタレンスルホン酸触媒の添加されたシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成された絶縁内層と、密度が0.94g/cm以下のポリオレフィンで形成され、絶縁内層と絶縁外層の厚さの和に対して0.05〜0.2の範囲内の比率となるような厚さを有する絶縁外層との積層構造により、電線における架橋性能と外観との両立が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態による電線の概略構造例を示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態によるケーブルの概略構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態による電線10およびケーブル20について説明する。
【0013】
電線(絶縁電線)10は、導体1、導体1を被覆する絶縁内層2、および、絶縁内層2を被覆する絶縁外層3により構成されている。絶縁外層3は、スキン層として形成されている。絶縁内層2および絶縁外層3の材料等の詳細については、後述する。
【0014】
ケーブル20は、複数本撚り合わされた上述の電線10、これらの電線10の外周に形成された層4、および、最外周に形成されたシース層5により構成されている。層4は、必要に応じて形成され、層4として具体的には、PETテープ等の樹脂テープ等からなるテープ層や、金属編組等からなる金属層等が形成される。シース層5は、例えば、塩化ビニル樹脂組成物で形成される。なお、図1に示すような電線10の形態であっても、図2に示すようなケーブル20の形態であっても、共通に、絶縁内層2と絶縁外層3との積層構造を含む。
【0015】
次に、絶縁内層2および絶縁外層3について、より詳しく説明する。まず、絶縁内層2の形成材料である内層材について説明する。内層材としては、シラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物が用いられる。シラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物中のシラン架橋ポリオレフィンは、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリオレフィンを、シラノール縮合触媒および水分の存在下で架橋させて生成されたものである。シラン化合物をグラフト共重合させたポリオレフィンを架橋させるためのシラノール縮合触媒を、以下単に、触媒と呼ぶこともある。
【0016】
絶縁内層2に用いるポリオレフィンは、密度が0.964g/cm以下であることが好ましく、密度が0.920g/cm以下であることがより好ましい。ポリオレフィンの密度を0.964g/cm以下とすることにより、常温常湿下(例えば、温度23℃、湿度50%)における架橋反応に必要な水分の透過性を充分に高くでき、充分な架橋速度を得ることができる。さらに、ポリオレフィンの密度を0.920g/cm以下とすることにより、より高い架橋速度を得ることができる。ポリオレフィンの密度が0.964g/cmを超えると、充分な架橋速度を得ることが難しくなる。なお、絶縁内層2に用いるポリオレフィンの密度の下限は、例えば0.88g/cmとすることが好ましい。密度が0.88g/cm未満では、一般的に融点が75℃以下と低くなり、押出作業性に劣る。
【0017】
絶縁内層2に用いるポリオレフィンとしては、例えばポリエチレンが挙げられる。絶縁内層2に用いるポリオレフィンは、2種以上をブレンドすることにより、密度が上述のような好ましい範囲となるようにしても良い。
【0018】
シラン化合物は、シラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物に含まれるポリオレフィン100質量部に対して1〜5質量部の範囲で添加することが好ましい。このような範囲内の量でシラン化合物を添加することにより、充分な架橋度と成型物の良好な外観とを得やすくなる。架橋度をより高めるために、シラン化合物の添加量は、1.5質量部以上とすることがより好ましい。シラン化合物の添加量が1質量部未満では、充分な架橋度が得られない。また、添加量が5質量部を超えると、グラフト共重合時にシラン化合物同士の反応が多くなって異物が生成され、反応器内にこびり付き、成型物の外観不良を起こす要因となる。
【0019】
シラン化合物は、ポリマーと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシ基の双方を有する。シラン化合物として具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリスシラン等のビニルシラン化合物を用いることが望ましい。
【0020】
遊離ラジカル発生剤は、シラン化合物(A)の遊離ラジカル発生剤(B)に対する質量比率(A/B)が、125以下となるような量で添加することが好ましく、100以下となるような量で添加することがより好ましい。質量比率A/Bを、125以下とすることにより、充分な架橋速度を得ることができ、100以下とすることにより、より高い架橋速度を得ることができる。質量比率A/Bが125を超えると、充分な架橋速度を得ることが難しくなる。
【0021】
また、質量比率A/Bは、15以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましい。質量比率A/Bを15以上として高い架橋性能と良好な外観とを得られることを確認しているが、質量比率A/Bを25未満とすると、スクリューへの粘着物が生じることで、作業性は悪くなる。より詳しく説明すると、シラン化合物に対して遊離ラジカル発生剤の割合が高い程(質量比率A/Bが低い程)、ポリマーの架橋点が多くなり、反応初期の架橋形成速度が向上するものの、遊離ラジカル発生剤が過多になると、ポリマー同士の高分子量化が進み、粘度の違いから流速が異なり、高粘度物がスクリュー内に留まるため、作業性が劣ることとなる。質量比率A/Bを25未満とする場合は、絶縁内層2に粒が目立つため、スキン層として絶縁外層3を形成することが特に有効である。
【0022】
遊離ラジカル発生剤としては、熱によって分解し、遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物を用いることができる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が望ましい。
【0023】
触媒としては、高い架橋速度と良好な外観とを両立させる観点から、アルキル化ナフタレンスルホン酸を用いることが好ましい。アルキル化ナフタレンスルホン酸は、シラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物に含まれるポリオレフィン100質量部に対して、0.1〜1質量部添加することが好ましい。アルキル化ナフタレンスルホン酸の添加量が0.1質量部未満では、充分な架橋速度が得られず、添加量が1質量部を超えると、反応器内で架橋が進行して、外観荒れを引き起こす。
【0024】
触媒のアルキル化ナフタレンスルホン酸としては、1〜4個のアルキル基で置換され、各アルキル基が炭素数5〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、各アルキル基は同一または異なり、これらのアルキル基中の炭素の総数は12〜80の範囲にある。また、上記のアルキル基の条件に加え、1〜2個のスルホ基で置換されている。
【0025】
次に、絶縁外層3の形成材料である外層材について説明する。外層材としては、ポリオレフィン樹脂が用いられ、このポリオレフィンは、架橋されていないものであってよい。絶縁外層3のポリオレフィンは、密度が0.94g/cm以下であることが好ましい。絶縁外層3のポリオレフィンの密度を0.94g/cm以下とすることにより、絶縁内層2の架橋反応に必要な水分の透過性を充分に高くでき、充分な架橋速度を得ることができる。
【0026】
なお、絶縁外層3に用いるポリオレフィンの密度の下限は、例えば0.90g/cmとすることが好ましい。0.90g/cm未満の密度となると、架橋速度は大きく向上させられるが、ポリオレフィンの結晶性が低くなり、べた付きが生じやすくなって、作業性が悪くなる。
【0027】
絶縁外層3に用いるポリオレフィンとしては、例えばポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂が挙げられる。絶縁外層3に用いるポリオレフィンは、2種以上をブレンドすることにより、密度が上述のような好ましい範囲となるようにしても良い。
【0028】
次に、絶縁外層3の好ましい厚さについて説明する。絶縁外層3の厚さ(外層厚)の、絶縁内層2の厚さ(内層厚)と絶縁外層3の厚さの和に対する比率(外層厚/(内層厚+外層厚))が、0.05〜0.2の範囲内の値となるような、絶縁外層3の厚さとすることが好ましい。絶縁外層3をこのような厚さとすることで、常温架橋性と良好な外観とを両立させることができる。
【0029】
この比率が0.05未満であるような薄すぎる絶縁外層3とすると、メルトフラクチャーに起因する絶縁内層2の表面上の凹凸を、絶縁内層3で覆って良好な外観を得ることが難しくなる。また、この比率が0.2を超えるような厚すぎる絶縁外層3とすると、絶縁内層3を透過させて絶縁内層2に水分を供給することが難しくなり、絶縁内層2の充分な常温架橋性を得ることが難しくなる。
【実施例】
【0030】
以下、上述の実施形態で述べた絶縁内層2および絶縁外層3に関する好適な条件を見出すために行った実験について説明する。
【0031】
(1)サンプル作製方法
各材料を、表1〜表3に記載するような割合で用い、下記の工程A〜工程Dを行って、各サンプルを作製した。表1および表2は、実施例1〜17のサンプルについて作製条件および評価結果をまとめた表であり、表3は、比較例1〜11のサンプルについて作製条件および評価結果をまとめた表である。表1〜表3において、組成についての数値は質量部単位で示されている。その他の項目の数値は、それぞれの単位で示されている。
【0032】
(工程A:ポリオレフィンにシラン化合物を共重合させる工程)
40mm押出機(L/D=24)を用い、ホッパーからポリオレフィンを投入し、シラン化合物に遊離ラジカル発生剤を溶解させた溶液を液添ポンプで注入して、シリンダ温度200℃、押出機内滞留時間100〜150秒に設定しストランド押出後、ペレタイザーにより径2〜3mmの、シラン化合物がグラフト共重合したポリオレフィンを作製した。
【0033】
(工程B:触媒マスターバッチの作製工程)
6インチオープンロールを用い、共重合させていないポリオレフィンに対して触媒を添加し、160℃で5分間混練後、各ペレタイザーで3mm×3mm×0.5mmの触媒マスターバッチ(以下、触媒MBと記載)を作製した。
【0034】
(工程C:電線の製造工程)
130mm押出機(L/D=24)を用い、ホッパーから上記工程(A)、(B)で作製した材料を所定の組成となる割合で同時に投入し、シリンダ温度200℃、押出機内滞留時間100〜150秒に設定し、断面積100SQの導体上に所定厚で絶縁内層を被覆した。その際、ヘッドに90mmのサブ押出機(L/D=20)を接続し、絶縁内層と同時被覆により架橋材を添加していないポリオレフィンを絶縁外層として所定厚被覆し、内層厚と外層厚の和が1.5mmとなる電線(絶縁電線)サンプルを作製した。
【0035】
なお、電線の製造方法は、ここで説明している態様に限定されない。例えば、工程Aにおいて、スクリュー先端近傍にサブ押出機またはフィーダなどを接続し、触媒MBを注入するようにしてもよい。もしくは、ホッパー部に直接触媒MBを注入する方式をとってもよい。即ち、シラングラフト作製後に触媒MBを混練させても、シラングラフトと同時に触媒MBを混練させても良い。
【0036】
(工程D:架橋工程)
上記工程(C)で作製した電線サンプルを、温度23℃(±1℃)、湿度50%(±5%)の常温常湿条件で48〜120時間放置して、絶縁内層の架橋を行った。なお、放置した時点を架橋開始時間とした。
【0037】
(2)評価方法
押出外観とホットセット試験結果とにより、各サンプルを評価した。
【0038】
(押出外観)
押出後の表面の平滑さを、手触り、粒状の突起の有無で評価することにより、押出外観の良/不良を判断した。平滑な手触りで粒状の突起の無い良好なものを良(○)とし、粒状の突起の有るもの、および、粒状の突起は無くとも僅かでもメルトフラクチャーを起こしているものを不良(×)とした。
【0039】
(ホットセット試験)
所定時間放置した電線サンプルの絶縁体を剥ぎ、JISC3660−2−1の9に示されるホットセット試験を実施した。空気温度200℃の恒温槽内にダンベル状の試験片を吊るし、20N/cmの荷重を15分加えた後の伸び(荷重時伸び)を測定した。その後、荷重を取り除き5分経過した後、試験片を槽内から取り出し、5分間常温で放置した後の伸び(永久伸び)を測定した。荷重時伸び≦175%かつ永久伸び≦15%以下の規格を満たすものを合格とした。サンプル架橋時間120時間の条件で、荷重時伸びおよび永久伸びが合格であるものは、サンプル架橋時間48時間および72時間で不合格であったとしても、総合評価を合格とした。
【0040】
押出外観が良好で、かつ、ホットセット試験を常温常湿(温度23℃、湿度50%)、架橋時間120時間以内の条件で合格したサンプルが、実施例1〜17である。それ以外のサンプルが、比較例1〜11である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
(3)実験結果に対する考察
実施例1、比較例1,2より、絶縁内層のシラン架橋ポリオレフィン生成に用いる好適な触媒について検討する。触媒としてSn化合物(ジラウリン酸ジブチルスズ)を用いた比較例1に対し、触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸を用いた比較例2、および、触媒としてアルキル化ナフタレンスルホン酸を用いた実施例1では、架橋速度の向上が見られた。なお、アルキル化ナフタレンスルホン酸としては、KING社製 NACURE CD−2180を用いた。
【0045】
強酸の加水分解性が、シラノール縮合反応を促進することにより、比較例2および実施例1における架橋の早期進行に寄与していることが考えられる。ただし、比較例2のサンプルでは、絶縁内層に粒状突起が複数存在し、絶縁外層を被覆しても突起が残り、良好な外観が得られなかった。これは、ドデシルベンゼンスルホン酸が、例えばアルキル化ナフタレンスルホン酸に比べ強い極性を有しているため、非極性のポリオレフィン樹脂への分散性が悪く、比較例2ではスコーチが生じたためと考えられる。
【0046】
一方、実施例1では、アルキル化ナフタレンスルホン酸触媒を用いることで、ドデシルベンゼンスルホン酸触媒と同等の架橋速度が得られるとともに、スコーチが見られない良好な外観が得られた。このように、触媒としては、アルキル化ナフタレンスルホン酸が好ましいことがわかった。
【0047】
次に、実施例2,3,4,5、比較例3,4より、絶縁内層のシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物に含まれるポリオレフィン100質量部に対するアルキル化ナフタレンスルホン酸の好適な添加量について検討する。アルキル化ナフタレンスルホン酸触媒の添加量が0.1質量部未満では充分な架橋速度が得られず、1質量部を超えると外観が悪化した。アルキル化ナフタレンスルホン酸触媒の添加量を0.1〜1質量部の範囲内の量とすることにより、充分な架橋速度と良好な外観とを両立させることができた。
【0048】
次に、実施例1,3,5,7、比較例5,6より、絶縁内層のシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物に含まれるポリオレフィン100質量部に対するシラン化合物の好適な添加量について検討する。シラン化合物の添加量が1質量部未満では充分な架橋度が得られず、5質量部を超えると外観が悪化した。シラン化合物の添加量が1〜5質量部の範囲において、架橋時間120時間以内でホットセット試験を合格するとともに、良好な外観が得られた。さらに、添加量が1.5〜5質量部の範囲では、架橋時間48時間でもホットセット試験を合格できることから、高い架橋性能を得るために、より好ましくは、シラン化合物の添加量を1.5〜5質量部とする方が良いことが示された。
【0049】
次に、実施例5,6,8,9より、絶縁内層に用いるポリオレフィンの好適な密度について検討する。絶縁内層のポリオレフィン密度が0.964g/cm以下であれば、架橋時間120時間以内でホットセット試験を合格できることがわかった。ポリオレフィン密度が低いほど、架橋速度が向上する傾向があり、密度が0.920g/cm以下では、架橋時間48時間でもホットセット試験を合格する高い架橋性能が得られることがわかった。よって、高い架橋性能を得るために、絶縁内層に用いるポリオレフィンの密度は、0.920g/cm以下とすることがより好ましい。
【0050】
次に、実施例1,2,16,17より、グラフト共重合に用いる遊離ラジカル発生剤の好適な添加量について検討する。遊離ラジカル発生剤の添加量を、シラン化合物をA、遊離ラジカル発生剤をBとして、遊離ラジカル発生剤に対するシラン化合物の質量比率(A/B)として表す。質量比率A/Bが15〜125の範囲で、充分な架橋性能と良好な外観とを得ることができた。質量比率A/Bが低い程、架橋速度が向上する傾向があり、架橋時間48時間でもホットセット試験を合格できる質量比率A/Bは、100以下であることがわかった。よって、高い架橋性能を得るために、A/B質量比率は、100以下とすることがより好ましい。また、質量比率A/Bが25未満になると、押出後のスクリューに架橋物の粘着が生じて、作業性が悪くなることがわかった。よって、質量比率A/Bは、25以上とすることがより好ましい。
【0051】
次に、実施例1,10,11,12,13,14、比較例9,10,11より、絶縁外層の有無の効果と、絶縁外層に用いるポリオレフィンの好適な密度について検討する。絶縁外層無しでは、外観にメルトフラクチャーが生じてしまうのに対し、絶縁外層有りでは、メルトフラクチャーが隠れて、良好な外観が得られることがわかった。また、絶縁外層に用いたポリオレフィンの密度が0.94g/cm以下であれば、常温架橋性が損なわれないことがわかった。2種以上のポリオレフィンをブレンドして絶縁外層を形成した場合についても、ブレンド後の密度が0.94g/cm以下であれば、同様に、常温架橋性が損なわれないことが示された。
【0052】
次に、実施例1,15、比較例7,8より、絶縁外層の好適な厚さについて検討する。絶縁外層の厚さを、外層厚/(内層厚+外層厚)が0.05〜0.2の範囲内の値となるような厚さとすることで、常温架橋性と良好な外観を両立させることができることがわかった。
【0053】
以上の検討をまとめると、実施例1〜17および比較例1〜11より、
アルキル化ナフタレンスルホン酸の添加されたシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成された絶縁内層を有し、
絶縁内層のシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物に含まれるポリオレフィン100質量部に対して、シラン化合物が1〜5質量部、アルキル化ナフタレンスルホン酸が0.1〜1質量部添加されており、
ポリオレフィンで形成された絶縁外層を有し、
絶縁外層を形成するポリオレフィンは密度0.94g/cm以下であり、
絶縁外層は、外層厚/(内層厚+外層厚)が0.05〜0.2の範囲内の値となる厚さである、
ような構成とすることにより、
押出外観が良好で、ホットセット試験を常温常湿(温度23℃、湿度50%)、架橋時間120時間以内の条件で合格する電線を得ることが容易になるといえる。
【0054】
なお、少なくとも、アルキル化ナフタレンスルホン酸の添加されたシラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成された絶縁内層と、密度0.94g/cm以下のポリオレフィンで形成され外層厚/(内層厚+外層厚)が0.05〜0.2の範囲内の値となる厚さの絶縁外層とを有する積層構造を形成することにより、以下のような効果が得られるといえる。
【0055】
絶縁内層の形成にアルキル化ナフタレンスルホン酸触媒を用いることにより、高い架橋速度を得られるとともに、同程度の架橋速度を有する触媒として例えばドデシルベンゼンスルホン酸を用いる場合に比べてスコーチに起因する粒状突起を抑制できるので、良好な外観を得やすくなる。ただし、メルトフラクチャーに起因する絶縁内層表面の凹凸は生じ得るので、良好な外観を得るために、スキン層として絶縁外層を形成することが望ましい。
【0056】
スコーチが抑制されているので、絶縁外層は、比較的薄くすることができる。そして、絶縁外層を薄くできることにより、絶縁外層被覆に起因する絶縁内層の常温架橋性低下を、効果的に抑制することができる。密度が0.94g/cm以下のポリオレフィンを用い、外層厚/(内層厚+外層厚)が0.05〜0.2の範囲内となる厚さで、絶縁外層を形成することが、常温架橋性と良好な外観とを両立させるために特に効果的である。このような絶縁内層と絶縁外層との積層構造により、電線における架橋性能と外観との両立が容易になる。
【0057】
以上、実施形態および実施例に沿って本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態および実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0058】
1 導体
2 絶縁内層
3 絶縁外層
4 テープ層や金属層等
5 シース層
10 電線(絶縁電線)
20 ケーブル
図1
図2