(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6253105
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】層間光波結合デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20171218BHJP
【FI】
G02B6/122 311
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-505440(P2014-505440)
(86)(22)【出願日】2013年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2013077037
(87)【国際公開番号】WO2015011845
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-152430(P2013-152430)
(32)【優先日】2013年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100133282
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 春喜
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(72)【発明者】
【氏名】▲榊▼原 陽一
(72)【発明者】
【氏名】武井 亮平
(72)【発明者】
【氏名】森 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】亀井 利浩
【審査官】
野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−261952(JP,A)
【文献】
特開2011−180166(JP,A)
【文献】
特開2011−192876(JP,A)
【文献】
特開2010−230982(JP,A)
【文献】
特開2008−139478(JP,A)
【文献】
特開2012−198465(JP,A)
【文献】
特開2007−272229(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0160326(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0083948(US,A1)
【文献】
特開平8−234244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光配線層を多層に積層した三次元光配線における層間光波結合デバイスであって、基板と、該基板上に配置され第一の先鋭構造を有し水素化アモルファスシリコンからなる第一のコアと、該第一のコアとは空間的に離隔して配置され第二の先鋭構造を有し水素化アモルファスシリコンからなる第三のコアと、該第一のコアと該第三のコアとの間に介在し該第一のコア及び該第三のコアよりも屈折率が小さいSiON、SiOX、SiN、SiC、GaAs及びInPのいずれかからなる第二のコアとを備えるとともに、該第一の先鋭構造及び該第二の先鋭構造は、それらの先端側が互いに対向するとともに平面視して重なりを持たないように配置されており、該第一の先鋭構造は、先端に向かってかつ前記基板側に向かって厚みが減少し、かつ該第二の先鋭構造は、先端に向かってかつ前記基板側に向かって厚みが減少していることを特徴とする層間光波結合デバイス。
【請求項2】
上記第一のコア、上記第二のコア及び上記第三のコアの内の少なくとも一つがステップ屈折率導波路あるいはグレーデッド屈折率導波路であることを特徴とする請求項1に記載の層間光波結合デバイス。
【請求項3】
上記基板上に、上記第二のコア及び上記第三のコアを覆うクラッドをさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の層間光波結合デバイス。
【請求項4】
上記クラッドは、エポキシ樹脂又はSiO2のいずれかからなることを特徴とする請求項3に記載の層間光波結合デバイス。
【請求項5】
上記先鋭構造は、少なくとも一辺に傾斜した側壁を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の層間光波結合デバイス。
【請求項6】
上記先鋭構造を構成する一辺及び他の一辺の双方が、傾斜した側壁を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の層間光波結合デバイス。
【請求項7】
上記先鋭構造の先端付近の断面形状が三角形であることを特徴とする請求項6に記載の層間光波結合デバイス。
【請求項8】
上記基板は、SOI基板であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の層間光波結合デバイス。
【請求項9】
上記基板は、光集積回路基板であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の層間光波結合デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層間光波結合デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
将来の高性能コンピューティングシステムは、プロセッサーのグローバル配線に対して、十分な通信帯域幅を持つことや、通信遅延が小さいこと及び消費電力が低いことなどが必要とされる。しかしながら既存の金属配線技術には、配線断面積の縮小や駆動周波数の上昇などの理由により、今後の性能向上が十分に期待できない。そこで、シリコンフォトニクスに基づいたオンチップ光配線技術が有望であるが、配線に求められる通信帯域幅は急激な速度で増大し続けているため、いかに光配線技術を導入したとしても単層の光配線では帯域幅が不足する。そこで、配線密度を劇的に増加させることのできる、光配線層を多層に積層した三次元光配線技術に高い期待が寄せられている。
【0003】
三次元光配線技術は帯域幅を拡大させるだけにとどまらず、低損失かつ漏洩の少ない光導波路交差を実現できるという長所も併せ持つ。これは、二つの交差する光導波路を空間的に分離することができるためである。高性能な優れた光導波路交差の重要性は、光配線の高密度化及び複雑化に伴い劇的に増大している。
三次元光配線を実現するためには、異なる二つの光配線層間での低損失な光結合が不可欠であるが、この実現は容易ではない。なぜならば、光は電気の場合と異なり、急激な伝送路の屈曲や屈折率の不連続によって大きな光損失が発生してしまうためである。そのため、層間で光波をやり取りする際には、以下のような技術が提案されている。
【0004】
図7に示すように、チップと光ファイバの間の光信号の接続に主に用いられるテーパ構造を有するスポットサイズ変換器を複数組み合わせることにより、異なる層にそれぞれ配置されている光導波路間で光信号を相互に結合する方法が提案されている。(非特許文献1参照)
図7において、(a)は層間光波結合デバイスの斜視図、(b)はその平面模式図、(c)はその中央横断面模式図である。
上下層に配置されている光導波路が互いにテーパ構造を有しているために、互いの光導波路に構造的あるいは材料的な屈折率の差異が存在したとしても、テーパ構造のどこかで、上下層の光導波路がそれぞれ単独で存在した場合の実効屈折率が上下層で一致する箇所が存在する。そのため、構造的あるいは材料的な屈折率の変動に対して鈍感な光波結合を実現できる。加えて、光波結合を利用しているために原理的に低損失であり、しかも光波の上下層間の結合箇所は一箇所のみであるため、一度光波が移行した後は再び元の光導波路へ光波が戻ることはほとんどない。
【0005】
この方法では層間の距離を十分に離すことは難しい。すなわち、テーパ構造の先端幅を十分に細くすることで、光波のモード形状を光導波路の外側へ広く拡大させることができるために、層間距離を十分に離しても原理的には光波を結合させることはできるが、その場合、意図せず発生するわずかな光導波路構造の摂動により容易に光波は光導波路から散逸してしまい、損失の原因となる。
すなわち、この方法は、効率は高いものの、層間の間隔を十分に離すことが困難であるといった問題がある。
【0006】
次に、光導波路の側面に回折格子を設けることにより光導波路の側面に光を導き出すことができるグレーティング結合器を用いた方法がある。(特許文献1、非特許文献2、3参照)
しかしながらこの方法では、原理的に低い効率、大きな波長依存性、大きな偏波面依存性、上下層に配置されるミラー面を高い位置合わせ精度を持って配置しなければならないなどの問題がある。
【0007】
また、光導波路中にミラーを置くことにより光の伝搬の向きを変え、異なる層に向かわせた上で、同様なミラーを用いることにより異なる層の光導波路に光を導こうとする方法がある。
しかし、高い反射率を有する鏡面の形成は非常に困難であり、特にシリコンは屈折率が高いために、鏡面形成がより一段と困難である。
さらに、上下層間のミラー面の位置合わせトレランスが小さく、高い製造精度を必要とする。(非特許文献4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7065271号公報
【特許文献2】特開2011−180166号公報
【特許文献3】特願2013−006445号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. Sun et al.,“Impedance matching vertical optical waveguide couplers for dense high index contrast circuits,” Opt. Express 16, pp. 11683-11690, 2008
【非特許文献2】J. Yao et al., “Grating-coupler based low-loss optical interlayer coupling,” Proc. 8th Int. Conf. Group IV Photonics, pp. 383-385, 2011
【非特許文献3】J. Kang et al., “Layer-to-Layer Grating Coupler Based on Hydrogenated Amorphous Silicon for Three-Dimensional Optical Circuits,” J. Jpn. Appl. Phys., Vol 51, 120203, 2012
【非特許文献4】D. C. Lee et al., “Monolithic Chip-to-chip WDM Optical Proximity Coupler Utilizing Echelle Grating Multiplexer/Demultiplexer Integrated with Micro Mirrors Built on SOI Platform,” IEEE Photonics Society Summer Topical Meeting Series, pp. 215-216, 2010
【非特許文献5】「i線露光法を用いた超低損失シリコン導波路スポットサイズ変換器」、2012年秋季第73回応用物理学会学術講演会「講演予稿集」
【非特許文献6】Ryohei Takei et al., “Ultra-Low-Loss Silicon Based Spot-Size Converter Fabricated by CMOS Compatible Process,” IEEE THE 9TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON GROUP IV PHOTONICS(GFP) 29-31 August 2012 WB4 P36-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載の先行技術は、次のような点で十分ではなかった。
(1)層間距離を十分離せないこと。
また、特許文献1並びに非特許文献2、3に記載の先行技術は、次の点で十分でなかった。
(2)原理的に結合効率が低いこと。
(3)結合効率に非常に大きな波長依存性並びに偏波依存性が存在すること。
(4)上下層のグレーティング結合器を高い位置合わせ精度で配置しなければならないこと。
さらに、非特許文献4に記載の先行技術は、次の点で十分でなかった。
(5)ミラーの鏡面形成が困難であり、高効率な光波結合の実現が困難であること。
(6)上下層のミラー面を高い位置合わせ精度で配置しなければならないこと。
【0011】
本発明は、上記(1)〜(6)の点に鑑み提案されたものであり、異なる光波回路層間で、光波回路中を伝搬する光波を、擬TEモードと擬TMモードとの両偏波に対して効率よく結合させかつ、製造等によって生じる構造的、並びに材料的な変動による結合効率の劣化を十分抑制できる層間光波結合デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段は次のとおりである。
(1)基板上に先鋭構造を有する少なくとも二個のコアが該二個のコアよりも屈折率が小さい他のコアを介して空間的に離隔するとともに、該二個のコアの先鋭構造は、平面視して重なりを持たないように配置されていることを特徴とする層間光波結合デバイス。
(2)基板と、該基板上に配置され第一の先鋭構造を有する第一のコアと、該第一のコアとは空間的に離隔して配置され第二の先鋭構造を有する第三のコアと、該第一のコアと該第三のコアとの間に介在し該第一のコア及び第三のコアよりも屈折率が小さい第二のコアとを備えるとともに、該第一の先鋭構造及び該第二の先鋭構造は、平面視して重なりを持たないように配置されていることを特徴とする層間光波結合デバイス。
(3)上記第一のコア、上記第二のコア及び上記第三のコアがステップ屈折率導波路あるいはグレーデッド屈折率導波路であることを特徴とする(2)に記載の層間光波結合デバイス。
(4)上記基板上に、上記第二のコア及び上記第三のコアを覆うクラッドをさらに備えたことを特徴とする(2)又は(3)に記載の層間光波結合デバイス。
(5)上記第一のコア及び第三のコアは、シリコンからなることを特徴とする(2)ないし(4)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
(6)上記第二のコアは、SiON、SiO
X、SiN、SiC、GaAs及びInPのいずれかからなることを特徴とする(2)ないし(5)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
(7)上記クラッドは、エポキシ樹脂又はSiO
2のいずれかからなることを特徴とする(4)ないし(6)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
(8)上記先鋭構造は、少なくとも一辺に傾斜した側壁を有することを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
(9)上記先鋭構造を構成する一辺及び他の一辺の双方が、傾斜した側壁を有することを特徴とする(1)ないし(8)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
(10)上記先鋭構造は、先端に向かって厚みが減少していることを特徴とする(1)ないし(9)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
(11)上記先鋭構造の先端付近の断面形状が三角形であることを特徴とする(10)に記載の層間光波結合デバイス。
(12)上記基板は、SOI基板であることを特徴とする(1)ないし(11)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
(13)上記基板は、光集積回路基板であることを特徴とする(1)ないし(11)のいずれかに記載の層間光波結合デバイス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低損失でかつ、波長依存性と偏波依存性の低い光波回路層間の光波結合構造を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る層間光波結合デバイスの基本構造を示す平面模式図である。
【
図2】本発明に係る層間光波結合デバイスの基本構造を示す中央横断面模式図である。
【
図3】本発明に係る層間光波結合デバイスの基本構造を示す左側面模式図である。
【
図4】本発明に係る層間光波結合デバイスの基本構造を示す右側面模式図である。
【
図5】本発明に係る層間光波結合デバイスの一実施形態の斜視図である。
【
図6】本発明に係る層間光波結合デバイスの一実施形態の中央横断面模式図である。
【
図7】従来の層間光波結合デバイスの構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明に係る層間光波結合デバイス)
図1ないし
図4は、本発明に係る層間光波結合デバイスの基本構造を示す模式図である。
図1は、その平面模式図であり、
図2は、その中央横断面模式図である。また、
図3は、その左側面模式図であり、
図4は、その右側面模式図である。
【0016】
図1ないし
図4に示す本発明に係る層間光波結合デバイスの基本構造は、次のとおりである。
SOI(Silicon On Insulator)基板等の基板上に形成された第一の光導波路と上層の第三の光導波路とは、第二の光導波路を介して光波結合される。
なお、
図1ないし
図2において、第一及び第二の先鋭構造の長さ方向は、実際より縮小して模式的に図示している。
【0017】
上記の層間光波結合デバイスの基本構造は、基板と、基板上に配置され第一の先鋭構造を有する第一の光導波路の第一のコアと、第一のコアとは空間的に離隔して配置され第二の先鋭構造を有する第三の光導波路の第三のコアと、第一のコアと第三のコアとの間に介在し、第一及び第三のコアよりも屈折率が小さい第二の光導波路となる第二のコアとからなる。
さらに、
図1ないし
図4から分かるように、第一の先鋭構造及び第二の先鋭構造は、空間的に離隔して配置されるとともに、平面視して重なりを持たないように配置されている。
【0018】
(本発明に係る層間光波結合デバイスの動作)
第一の光導波路又は第三の光導波路中を伝搬している光波は、それぞれの先鋭構造の箇所を通過することで、第二の光導波路へと結合する。その後、第二の光導波路中を伝搬している光波は、異なる光波回路層に配置されている第三の光導波路あるいは第一の光導波路へ、先鋭構造の箇所を通過することで結合する。
【0019】
このような構造の場合、第二の光導波路への光波の結合効率は、適切な先鋭構造を用いてさえいれば、第二の光導波路のコアの大きさに依存しない。第二の光導波路のコアの高さは層間の距離に一致するため、第二の光導波路のコアサイズを大きくすることによって、層間の距離を大きくとることができる。
また、連続的な構造を用いていることから、適切な横長の先鋭構造を用いた場合、原理的に層間での光波結合効率は非常に高く、波長依存性はきわめて小さい。
【0020】
(本発明に係る層間光波結合デバイスの先鋭構造)
本発明では、光導波路の先端部のコアの構造が鋭角を構成するものを先鋭構造とする。
図1から分かるように、コアの先端が平面視して鋭角の二等辺三角形を構成する構造が代表例である。
【0021】
本発明者らは、光導波路の先鋭構造をi線ステッパ等解像度が低いステッパを用いても電子ビーム露光技術あるいは液浸エキシマーステッパ技術によると同等に作製することができる方法を提案している。(特許文献2参照)
この方法によれば、先鋭構造として、コアの先端の各辺を均等に斜めに除去した鋭角の二等辺三角形やコアの先端の一辺のみを斜めに除去して鋭角の三角形としたものを精度良く作製することができる。
【0022】
さらに、本発明者らは、上記の技術を改良した、コアの先端の辺に傾斜した側壁を形成した先鋭構造及び先端に向かって厚みを低減させた先鋭構造とその作製方法を提案している。(特許文献3、非特許文献5、6参照)
これによれば、さらに先鋭構造として次のような変形例があげられる。
(1)一辺に傾斜した側壁を有する先鋭構造。
側壁の傾斜角度は、60度以上85度以下が好ましい。さらに、75度以上80度以下がより好ましい。
(2)一辺及び他の一辺の双方が、傾斜した側壁を有する先鋭構造。
側壁の傾斜角度は、上記(1)に準ずる。各辺の傾斜角度は必ずしも同一である必要はない。
(3)先端に向かって厚み(高さ)が減少している先鋭構造。
(4)上記(2)及び(3)の構造を組み合わせることにより、ナイフエッジのように先端付近の断面形状を三角形とした先鋭構造。
【0023】
なお、上記(1)ないし(4)の先鋭構造は、特許文献2に開示したダブルパターニング技術と特許文献3及び非特許文献5ないし6に開示した側壁の上部に比べて下部が広がるコアの傾斜構造を形成できるドライエッチング技術を適宜組み合わせることにより実現可能である。
例えば、先鋭構造における側壁の傾斜構造は、シリコンにアンダーカットの入るガス、SF
6と、側壁の保護膜を堆積させることのできるガス、例えばC
4F
8との混合ガス雰囲気中で誘導結合型反応性イオンエッチング行い、その混合比R(=SF
6/C
4F
8)を調整することで適宜傾斜角度を制御することにより実現することができる。
【0024】
シリコンコアの高さが220nmとした場合には、低損失な光波結合を実現するために擬TEモードに対しては、100nm以下の幅の必要性が指摘されており、擬TMモードに対しては、先端が50nm以下の幅のものが望まれている。
本発明に係る層間光波結合デバイスでは、コアの先端が細くなった先鋭構造を用いることによって、層間での光波結合効率の偏波依存性を減少させることができる。
特に上記(1)ないし(4)の先鋭構造は、その断面構造上その先端が壊れることがなく50nm以下の幅を維持することができるため、層間での光波結合効率の、擬TEモードのみならず擬TMモードに対しても偏波依存性を顕著に減少させることができる。
【0025】
次に、高効率な光波結合を維持するためには、少なくとも第一の光導波路が備える第一の先鋭構造が全て第二の光導波路の中に入っており、第三の光導波路が備える第二の先鋭構造の底面の全てが第二の光導波路の上面に接していればよい。
したがって、第二の光導波路の幅及び長さを大きくとることにより、二つの先鋭構造を構造的にきわめて厳しい条件で対向させる必要がなくなり、製造コストを下げることができる。
【0026】
二つの先鋭構造の間で光波を移行させる際に、低い屈折率の第二の光導波路を介在させることにより、光波の散逸は制限され、第二の光導波路内に沿う形で光波は進行するため、光波の広がる範囲を任意に制限することが可能となる。
これにより二つの先鋭構造の配置の範囲があらゆる方向に関して広がる。これは設計の自由度を上げるのみならず、製造精度を低くし製造コストを下げる効果がある。
【0027】
さらに、先鋭構造の厚み(高さ)が減少するという構造的特徴は、構造力学的利点以外にも、光モードの物理光学的利点をも有する。
すなわち、厚みが減少することで、先端付近での擬TMモードにおける光強度のシリコン光導波路中から第二導波路コア中への浸み出しがより効果的になり、その結果として、擬TMモードに対するモード変換損失を効率的に減少させることができる。このために、モード変換損失の偏波依存性を減少させることができる。
【0028】
また、上記(1)ないし(4)の先鋭構造を作製するための側壁傾斜エッチング工程は、光集積回路基板等に形成されたLSIの金属配線を形成するためのバックエンド工程(BEOL)で広く用いられているi線露光法により行うことができるため、BEOLと潜在的に高い互換性を持っている。
このため、LSIの金属配線層上に積層される、高い透過性を有し低温成長可能な水素化アモルファスシリコンに基づいた光配線ネットワークを有する光集積回路の低コスト化が期待できる。
【0029】
(層間光波結合デバイスの一実施形態)
図5に、本発明に係る層間光波結合デバイスの一実施形態の斜視図を示す。
図5から分かるように、基板上に形成された下クラッド上に、傾斜した側壁を備え、先端付近の断面形状を三角形とした先鋭構造(ナイフエッジ構造ともいう)を有する第一の光導波路の第一のコアが形成されている。
第三の光導波路の第三のコアも第一のコアと同様の形状を有し、第一のコアとは空間的に離隔するとともに、平面視して重なりを持たないように配置されている。
第一のコアと第三のコアとの間には、第一のコア及び第三のコアよりも屈折率が小さい第二の光導波路の第二のコアが介在している。
【0030】
第一のコア及び第三のコアの材料は、屈折率等の関係からシリコンが好ましい。
シリコン材料としては、結晶シリコンに限らずポリシリコンやアモルファスシリコンでもよい。アモルファスシリコンの場合、材料の吸収損失を低減化するために、水素化アモルファスシリコンが好ましいが、シリコン元素以外に炭素、ゲルマニウム等を添加した材料であってもよい。
【0031】
また、第二のコアの材料は、SiON、SiO
X、SiN、SiC、GaAs、InPが好ましい。
さらに、第二のコア及び第三のコアを覆うようにエポキシ樹脂又はSiO
2からなる上クラッドが形成される。
なお、
図5における光波結合デバイスのための基板としては、SOI(Silicon On Insulator)基板、光集積回路基板等が使用される。
【0032】
図6に、その中央横断面模式図を示す。
第一ないし第三の光導波路の第一ないし第三のコアと第一及び第二の先鋭構造の断面形状並びに位置関係は、図示のとおりである。
第一の光導波路の第一のコアと第三の光導波路の第三のコアとは、
図6では厚さ1.0μmの第二の光導波路の第二のコアを介して空間的に離隔されている。
第二の光導波路の厚みは、第一の光導波路の厚みよりも厚ければいくらでもよい。
【0033】
第一のコアの第一の先鋭構造と第三のコアの第二の先鋭構造とは、100μm程度空間的に離隔している。
なお、第一のコアの第一の先鋭構造と第三のコアの第二の先鋭構造は、平面視して重なりを持たないように配置されていることが肝要である。
さらに、第二の光導波路の第二のコア及び第三の光導波路の第三のコアを覆うように、上クラッドが形成されている。
【0034】
以上、
図1ないし
図6に図示した基本構造及び実施形態を参照して、本発明の層間光波結合デバイスを説明したが、これらはあくまでも本発明の層間光波結合デバイスの理解を容易にするためのものである。
したがって、特許請求の範囲に記載された本発明の技術思想に基づく変形、他の実施形態は、当然本発明の層間光波結合デバイスに包含されるものである。
【0035】
例えば、
図1ないし
図6に図示した基本構造及び実施形態における第一のコア及び第三のコアの先鋭構造の各辺は、平面視して直線形状であるが、凹形状又は凸形状であってもよい。
また、第一のコア、第二のコア及び第三のコアの内の少なくとも一つをグレーデッド屈折率導波路あるいはステップ屈折率導波路とすることもできる。この場合、第一の光導波路及び第三の光導波路が単独で存在した時の実効屈折率が第二の光導波路のそれよりも大きい必要がある。