特許第6254518号(P6254518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許62545187−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド及びその製造方法並びに7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6254518
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド及びその製造方法並びに7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/263 20060101AFI20171218BHJP
   C07C 21/19 20060101ALI20171218BHJP
   C07C 67/10 20060101ALI20171218BHJP
   C07C 69/24 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   C07C17/263
   C07C21/19CSP
   C07C67/10
   C07C69/24
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-262612(P2014-262612)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-121105(P2016-121105A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】石橋 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】湯本 嘉恭
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−110540(JP,A)
【文献】 J. Org. Chem.,2001年,Vol. 66,8248-8251
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される求核試薬と下記式(2)で表される求電子試薬をカップリング反応させて下記式(3)
【化1】
(式中、MはLi、MgQ、ZnQ、Cu、CuQ及びCuLiQ(Qはハロゲン原子または3−メチル−3−ブテニル基を表す。)からなる群から選ばれるカチオン部であり、Xはハロゲン原子であり、Lは脱離基を表す。)
で表される7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)を得る工程を少なくとも含む7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドの製造方法。
【請求項2】
下記式(1)で表される求核試薬と下記式(2)で表される求電子試薬をカップリング反応させて、下記式(3)で表される7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドを得る工程と、
前記7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)をプロピオニルオキシ化反応させて下記式(4)
【化2】
(式中、MはLi、MgQ、ZnQ、Cu、CuQ及びCuLiQ(Qはハロゲン原子または3−メチル−3−ブテニル基を表す。)からなる群から選ばれるカチオン部であり、Xはハロゲン原子であり、Lは脱離基を表す。)
で表される7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを得る工程と
を少なくとも含む7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの製造方法。
【請求項3】
下記式(3)
【化3】
(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表される7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Quadraspiditus perniciosus(Comstock)(一般名:San Jose Scale、ナシマルカイガラムシ)の性フェロモンの主成分(Major component)等である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンは、発生予察や地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また、害虫防除の手段として広く利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure & killまたはAttract & kill)、誘引感染法(Lure & infectまたはAttract & infect)や交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。性フェロモンの利用にあたっては必要量のフェロモン原体を経済的に製造することが、基礎研究のために、更には、応用のために必要とされる。
【0003】
Quadraspiditus perniciosus(一般名:San Jose Scale、ナシマルカイガラムシ、以下、「SJS」と略する。)は、世界の広い地域に分布し、果樹(fruit trees)や鑑賞用樹木(ornamental trees)、特に落葉性果樹(deciduous fruit trees)に被害を与え、経済的に非常に重要な害虫である。SJSの性フェロモンは、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート、(Z)−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエニル=プロピオネート、(E)−3,7−ジメチル−2,7−オクタジエニル=プロピオネートの3化合物が有効成分であるとGieselら(非特許文献1)によって同定された。
【0004】
これらのSJSの性フェロモンは、互いに異性体の関係にあり、基礎的な生物学的研究や農学的研究のためにはそれぞれの化合物の選択的な製造方法が望まれている。また、応用や実用に供する目的には十分量のフェロモン原体の供給が可能な効率的な製造方法が強く望まれている。
SJSの性フェロモンのうち、主成分である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの合成例としては、下記(a)から(f)が挙げられる。
(a)Andersonら(非特許文献2)の有機銅試薬(Organocuprate reagent)のアルキンへの付加を鍵反応とする合成、
(b)Weilerら(非特許文献3)によるβ−ケトエステル化合物、7−メチル−3−オキソ−7−オクテノエートから一炭素増炭工程を含む合成、
(c)Weedenら(非特許文献4)によるα,β−不飽和エステル(α,β−unsaturated ester)のβ,γ−不飽和エステルへの光化学的二重結合の位置の異性化を鍵反応とした合成、
(d)Zhangら(非特許文献5)による三置換二重結合の異性化を伴う塩素化で得られるアリル=クロリド(Allylic chloride)の還元によるexo−メチレン形成を鍵反応とした合成、
(e)Andersonら(非特許文献2)及びChongら(非特許文献6)による3−メチル−3−ブテン−1−オールのジアニオン(dianion)のアルキル化による合成、
(f)Veselovskiiら(非特許文献7)によるアリル=クロリド混合物を経る非選択的合成
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gieselmannら J.Chem.Ecol.,5,891(1979)
【非特許文献2】Andersonら J.Chem.Ecol.,5,919(1979)
【非特許文献3】Weilerら Can.J.Chem.,71,1955(1993)
【非特許文献4】Weedenら Tet.Lett.,27,5555(1986)
【非特許文献5】Zhangら Chinese Chemical Letters,2,611(1991)、化学通報、40、(1994)
【非特許文献6】Chongら J.Org.Chem.,66,8248(2001)
【非特許文献7】Veselovskiiら Izvestiya Akademii Nauk SSSR,Seriya Khimicheskaya,3,513(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを選択的に収率よく工業的に実施するためには、これらの合成方法では多くの困難を伴う。例えば、n−ブチルリチウムやメチルリチウム等の有機リチウム試薬[合成(b),(e)]、水素化アルミニウムリチウム(LAH,Lithium aluminum hydride)[合成(a),(b),(d)]、化学量論量(Stoichiometric amount)の有機銅試薬[合成(a)]、Tebbe試薬(Tebbe reagent)[合成(b)]、塩化スルフリル[合成(f)]等の、高価であったり、工業的には取り扱いが困難であったりする試薬を使用している点が挙げられる。また、二重結合の異性化を意図的に行う合成経路では、光化学的異性化[合成(c)]であっても、アリル=クロリドを経由する異性化[合成(d)]であっても、比較的高い選択性での異性化が実現されたとしても少量の望まない異性体の副生とその除去が問題となる。合成中間体で意図しない異性体混合物が生じる合成[合成(f)]でも、同様に目的物とその異性体の分離の困難さとともに収率の低下の原因となるため大きな問題である。また、これらの合成(a)〜(f)では中間体や目的物の単離や精製の際に各種クロマトグラフィ−を用いている点も工業的には実施が難しい。このように、これまでの合成例では、十分量の原体を経済的に、工業的に製造するのは非常に困難と考えられた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、例えば、生物学的研究、農学的研究や実際の応用や利用等に必要なSJSの性フェロモンの主成分である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの充分量を供給するために、簡便で選択的で効率の良い製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、工業的に容易に実現可能な試薬や条件を選択することにより、炭素数5の求核試薬と炭素数5のXがハロゲン原子である求電子試薬とのカップリング反応により高い選択性で目的の炭素数10の7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドを得ることができ、この7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドが目的のSJSの性フェロモンの主成分である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートに変換が可能であることを見出し、本発明を完成させたものである。
本発明の一つの態様では、下記式(1)で表される求核試薬と下記式(2)で表される求電子試薬をカップリング反応させて下記式(3)で表される7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドを得る工程を少なくとも含む7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドの製造方法が提供される。
また、本発明の別の態様では、求核試薬(1)と求電子試薬(2)をカップリング反応させて7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)を得る工程と、前記7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)をプロピオニルオキシ化させて下記式(4)で表される7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを得る工程を少なくとも含む7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの製造方法が提供される。
さらに、本発明の他の態様では、下記式(3)で表される7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドが提供される。
式中、MはLi、MgQ、ZnQ、Cu、CuQ及びCuLiQ(Qはハロゲン原子または3−メチル−3−ブテニル基を表す。)からなる群から選ばれるカチオン部であり、Xはハロゲン原子であり、Lは脱離基を表す。
【0009】
【化1】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的容易に合成可能な二つの炭素5の合成単位を原料として用い、有用な中間体7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドを経て、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを選択的、かつ効率的に合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明者らは、目的のSJSの性フェロモンの主成分である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート(A)を合成するために、下記の合成経路を考察した。すなわち、中間体として7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド等の1位に脱離基(Leaving goup)Lを有する化合物(B)を想定し、この(B)が合成可能であれば、この脱離基LのプロピオネートでのS2反応(二分子求核置換反応)により目的物のプロピオネート化合物(A)に変換することは可能と考えられる。また、炭素数10の中間体(B)は、原料の入手しやすさや価格を考慮して、下記の式中の炭素数5の二つの合成単位(Building blocks)を用いた結合形成、すなわち、求核試薬(nucleophilic reagent,nucleophile)(C)と二つの脱離基L、Lを有する炭素数5の求電子試薬(electrophilic reagent,electrophile)(D)とのLが脱離する形式でのカップリング反応(coupling reaction)で合成することができれば、直截的(straightforward)で効率的な合成が可能と考えられる。
下記式中、白抜き矢印は逆合成解析(Retrosynthetic analysis)におけるトランスフォ−ム、L、Lは脱離基、Mはカチオン部、化合物(D)の炭素に付けた小数字は炭素の位置番号を表す。
【0012】
【化2】
【0013】
この逆合成解析において、求核試薬である化合物(C)と炭素−炭素結合の形成(Carbon−Carbon bond formation)が起こる可能性のある求電子試薬である化合物(D)中の反応点としては、1位、1’位、4位の炭素が考えられる。下記に、化合物(D)において、1位の炭素が反応する反応スキーム(i)、1’位の炭素が反応する反応スキーム(ii)、4位の炭素が反応する反応スキーム(iii)、1’又は1’位と4位との両方の炭素が反応する反応スキーム(iv)を示す。
【0014】
【化3】
【0015】
反応スキーム(i)では、1位の炭素に、S2’反応と称されるアリル転位(allylic rearrangement)を伴う形式での置換反応が起こる。反応スキーム(ii)では、1’位の炭素に求核攻撃(nucleophilic attack)が起こり、S2反応が起こりLの脱離により生成物(B)を与える。よって、いずれの場合もLの脱離により同一の目的の生成物(B)を与えることが期待される。
一方、反応スキーム(iii)では、4位の炭素に求核攻撃が起こり、Lの脱離により目的の中間体(B)とは異なる炭素数10の生成物となると考えられる。また、反応スキーム(iv)では、L、Lの両方の脱離を伴う2つのカップリング反応が進行し、目的の中間体(B)とは異なる炭素数15の生成物となると考えられる。
【0016】
以上から、求電子試薬である化合物(D)中の脱離基Lが脱離するカップリング反応(1位の炭素または1’位の炭素での反応)と脱離基Lが脱離するカップリング反応(4位炭素での反応)のうち、前者のみを選択的に進行させればよい。この合成戦略では、化合物(D)中のLとLでこれらの基と二重結合との置換位置関係が異なる、すなわち、Lはアリル(allylic)位にあり、Lはホモアリル(homoallylic)位にあるため、L、L、Mの種類や反応条件の選択によりこの選択性は実現可能であろうと考えられた。
【0017】
以上の考察を元に検討を重ねた結果、目的の高い選択性をもった効率の良い合成が実現されたので、以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)は、下記式で表される求核試薬(1)と求電子試薬(2)のカップリング反応で合成できる。式中、Mはカチオン部であり、Xはハロゲン原子であり、Lは脱離基を表す。なお、ハロゲン原子は、塩素、臭素及びヨウ素を含む。
【0018】
【化4】
【0019】
求核試薬(1)としては、I族若しくはII族の金属元素または遷移金属元素を含む有機金属試薬が例示できる。
I族若しくはII族の金属元素を含む有機金属試薬として、反応性や選択性、調製のし易さ等の観点から、好ましくは、有機リチウム試薬(3−メチル−3−ブテニルリチウム)、有機マグネシウム試薬(Griganrd試薬、3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ハライド)が挙げられる。
遷移金属元素を含む有機金属試薬は、有機リチウム試薬や有機マグネシウム試薬1モルに対して化学量論量(1モル)以上の遷移金属化合物を用いて金属交換(metal exchange)反応により調製して用いてもよいし、有機リチウム試薬や有機マグネシウム試薬と遷移金属化合物触媒から系内で生成させて用いてもよい。遷移金属化合物としては、銅、鉄、ニッケル、パラジウム、亜鉛、銀等を含む遷移金属化合物が例示できるが、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、シアン化銅(I)、酸化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、シアン化銅(II)、酸化銅(II)、ジリチウム=テトラクロロキュープレ−ト(LiCuCl)等の銅化合物が特に好ましい。これらの場合の遷移金属化合物の使用量は、触媒量(0.0001から0.999モル)から化学量論量(1モル)、または過剰量(1を超え100モル)であるが、触媒量の使用が特に好ましい。
【0020】
求核試薬(1)中のカチオン部Mとして、具体的には、Li、MgQ、ZnQ、Cu、CuQ、CuLiQ(Qは、ハロゲン原子または3−メチル−3−ブテニル基を表す)が特に好ましい。
求核試薬(1)として用いられる有機金属化合物は、通常、対応する4−ハロ−2−メチル−1−ブテンから常法によって調製される。4−ハロ−2−メチル−1−ブテンとしては、常温で液体である4−ブロモ−2−メチル−1−ブテンや4−ヨード−2−メチル−1−ブテンが取扱いや価格の点で好ましい。
【0021】
求電子試薬(2)中のXとしては、カップリング反応における選択性(反応しないことが望ましい)や合成のしやすさ、更に次の工程での目的物SJSフェロモン化合物への変換の反応性の点からハロゲン原子が好ましく、臭素原子、塩素原子が特に好ましい。
【0022】
求電子試薬(2)中のLとしては、求核試薬(1)とカップリング反応できる脱離基から適宜選択することができる。脱離基としては、ハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1から5のアルコキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、クロロアセチルオキシ基、ジクロロアセチルオキシ基、トリクロロアセチルオキシ基、トリフルオロアセチルオキシ基等のアシルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トリフルオロブタンスルホニルオキシ基等のアルカンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、ナフタレンスルホニルオキシ基等のアレ−ンスルホニルオキシ基等が挙げられる。これらの脱離基のうち、X’としてはカップリング反応における選択性(反応することが望ましい)や合成のしやすさから、ハロゲン原子、アシルオキシ基が好ましく、塩素原子、臭素原子、アセチルオキシ基が特に好ましい。
【0023】
具体的な求電子試薬(2)としては、上記XとLの組み合わせで種々の化合物が考えられるが、4−クロロ−2−クロロメチル−1−ブテン(X=L=Cl)、2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテン(X=Cl,L=Br)と2−ブロモメチル−4−ブロモ−1−ブテン(X=L=Br)、2−クロロメチル−4−ブロモ−1−ブテン(X=Br,L=Cl)、4−クロロ−2−メチレンブチル=アセテート(X=Cl,L=OCOCH)、4−ブロモ−2−メチレンブチル=アセテート(X=Br,L=OCOCH)は特に好ましい。なお、詳しくは実施例で述べるが、本カップリング反応において、4−クロロ−2−クロロメチル−1−ブテン(X=Cl,L=Cl)及び2−ブロモメチル−4−ブロモ−1−ブテン(X=L=Br)が好ましい基質として用いることができることは、同一の脱離基の場合、アリル位の脱離基がホモアリル位のそれより優先して反応することを示し、更に、2−クロロメチル−4−ブロモ−1−ブテン(X=Br,L=Cl)が好ましい基質として用いることができることは、通常求核剤との置換反応の脱離基としてクロリドよりブロミドの反応性が高いのにもかかわらず、アリル位のクロロ基がホモアリル位のブロモ基より優先して反応することを示しており、本発明の合成戦略の妥当性を裏付けるものとして特記される。
【0024】
これらのうちジハロゲン化物は、1−(2−ハロエチル)シクロプロパノールの水酸基をスルホニル化(sulfonylation)により1−(2−ハロエチル)シクロプロピル=メタンスルホネートや1−(2−ハロエチル)シクロプロピル=p−トルエンスルホネート等のスルホネートとし、更にこれらのスルホネートをLewis酸性を有するハロゲン化物塩で処理することによりシクロプロピル−アリル転位を伴う反応で得られ(Kulinkovichら Synthesis,2005,1713)、また、得られたジハロゲン化物から別なハロゲン原子をもつジハロゲン化物や対応するアセトキシ誘導体に変換できるため工業的な価値が高い。
【0025】
これらの4−ハロ−2−ハロメチル−1−ブテン等の求電子試薬(2)は、単離してから求核試薬(1)とのカップリング反応に用いてもよいが、上記スルホネートをLewis酸性を有するハロゲン化物で処理した反応混合物を、直接求核試薬(1)とのカップリング反応に用いて、ワンポット(one pot)で実施してもよい。
求核試薬(1)と求電子試薬(2)のカップリング反応は、通常溶媒中、必要に応じて冷却または加熱する等して実施する。
【0026】
カップリング反応に用いる求核試薬(1)と求電子試薬(2)の使用量は、基質の種類や条件や反応の収率、中間体の価格等の経済性を考慮して任意に決められるが、求核試薬(1)を求電子試薬(2)1モルに対して、好ましくは0.2から10モル、より好ましくは0.5から2モル、更に好ましくは0.8から1.5モルである。
【0027】
カップリング反応に用いる溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジ−n−ブチル=エーテル、t−ブチル=メチル=エーテル、シクロペンチル=メチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が好ましく、これらにヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類を混合して用いることもできる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、求電子試薬(2)100部に対し、好ましくは0.1部から1,000,000部、より好ましくは1部から100,000部、更に好ましくは10部から10,000部である。
【0028】
カップリング反応に用いる触媒として、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のリチウム塩類を求電子試薬(2)1モルに対して、0.0001から5モル共存させてもよい。
【0029】
カップリング反応における反応温度は、好ましくは−78℃から溶媒の沸点温度、より好ましくは−10℃から100℃である。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィ−(GC)や薄層クロマトグラフィ−(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常5分間から240時間が好ましい。
【0030】
上記のカップリング反応得られた目的の中間体7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)が十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま次の工程に用いてもよいが、蒸留や各種クロマトグラフィ−等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0031】
また、本発明の7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)は、7−メチル−3−メチレン−7−オクテン−1−オールの水酸基をハロゲン原子に変換するハロゲン化反応によっても得られる。この場合、ハロゲン化反応はアルコ−ルのハロゲン化物への変換の種々の既知の方法によることができる。
【0032】
更に、本発明の7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)のうち、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミド(X=Br)は7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリド(X=Cl)から、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージド(X=I)は、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリド(X=Cl)または7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミド(X=Br)からハロゲン交換反応によっても合成できる。この場合、原料となる7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライドを目的物のハライドと同じアニオン部をもつハロゲン化物塩と溶媒中加熱する等の既知の方法によることができる。このハライドから別のハライドへの変換は、予め実施して別のハライドを合成してから次の工程に供してもよいが、後述のように次の工程と同時に系内で(in situ)で実施してもよい。
【0033】
次に、上記の様にして得られた7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)を目的の7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート(4)に変換するエステル形成(ester formation)反応について述べる。式中、Xはハロゲン原子を表す。
【0034】
【化5】
【0035】
エステル形成反応は、通常、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)をプロピオン酸塩類と溶媒中加熱することで行われる。
プロピオン酸塩としては、プロピオン酸リチウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸アンモニウム、プロピオン酸テトラアルキルアンモニウム、プロピオン酸テトラアルキルホスホニウム等が例示できる。プロピオン酸塩の使用量は、種々の条件を考慮して任意に決められるが、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)1モルに対して、好ましくは0.2から100モル、より好ましくは1から20モル、更に好ましくは1から10モルである。
【0036】
エステル形成反応に用いる溶媒としては、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、メチル=プロピオネート、エチル=プロピオネート、n−プロピル=プロピオネート、n−デシル=プロピオネート、ベンジル=プロピオネート等のプロピオン酸エステル類、メチルジエチル=エーテル、ジ−n−ブチル=エーテル、t−ブチル=メチル=エーテル、シクロペンチル=メチル=エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられ、これらを単独または混合して用いる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)100部に対し、好ましくは0.1部から1,000,000部、より好ましくは1部から100,000部、更に好ましくは10部から10,000部である。
【0037】
エステル形成反応において、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)として7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドや7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドを基質とする場合、反応系中にヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化テトラアルキルホスホニウム等のヨウ化物塩類をハライド(3)に対して、好ましくは0.0001から5モル添加して、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージドを系内で生じさせつつ(in situ)反応を行ってもよい。
また、エステル形成反応において、硝酸銀等の銀塩を7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ハライド(3)に対し、好ましくは0.0001から5モル共存させて、生じるハロゲン化物イオン(ハライドイオン)を銀塩(ハロゲン化銀)として結晶化沈殿させて反応を加速してもよい。
【0038】
エステル形成反応における反応温度は、好ましくは0℃から溶媒の沸点温度、より好ましくは20から100℃である。反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィ−(GC)や薄層クロマトグラフィ−(TLC)で反応の進行を追跡して最適化するとよいが、通常5分間から240時間が好ましい。
エステル形成反応における副反応としてハロゲン化水素の脱離反応が競争的に起こり、副生成物として、8−メチル−3−メチレン−1,7−オクタジエンが生成する。この脱離反応の割合が小さく、かつ目的の置換反応(エステル形成反応)の割合が大きくなるように種々の反応条件を選択することが好ましい。
上記のエステル形成反応で得られた目的の7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート(4)は、蒸留や各種クロマトグラフィ−等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して単離できる。工業的経済性の観点から、特に蒸留が好ましい。
【0039】
以上のようにして、応用や利用等に必要な十分量の原体を供給するために、簡便で、かつ効率的なSJSの性フェロモン原体である7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの製造方法が提供される。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、以下において、原料や生成物の純度としてガスクロマトグラフィ−(GC)分析によって得られた値を用い%GCと表記する。
【0041】
実施例1 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドの合成1
下記式に示すように、3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ブロミドと2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテンを反応させて7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドを得る。
【0042】
【化6】
【0043】
窒素雰囲気下、3−メチル−3−ブテニル=ブロミド34.0g(99.3%GC)、1,2−ジブロモエタン(このものはマグネシウムの活性化に使用)8.5g、テトラヒドロフラン300mlの混合物をマグネシウム6.64gとテトラヒドロフラン10mlの混合物に滴下して、Grignard試薬3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ブロミドを調製した。このGrignard試薬を窒素雰囲気下かき混ぜながら、氷冷した2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテン24.8g、ヨウ化銅(I)160mg、亜リン酸トリエチル240mgとテトラヒドロフラン250mlの混合物中に25℃以下に保ちながら30分間で滴下した。反応混合物を室温まで上昇させつつ1時間かき混ぜた後、再び氷冷して混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止した。分離した有機層から通常の洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリド29.3g(78%GC、収率98%)を得た。
【0044】
7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリド
淡黄色油状物(yellowish oil)
IR(D−ATR):ν=3074,2966,2937,1649,1451,889cm−1
1H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.54−1.62(2H,m),1.72(3H,s),1.99−2.05(4H,m),2.49(2H,t,J=7Hz),3.61(2H,t,J=7.5Hz),4.68(1H,s−like),4.72(1H,s−like),4.82(1H,s−like),4.87(1H,s−like)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=22.32,25.49,33.32,37.26,39.06,42.76,110.05,111.63,145.52,145.56ppm。
GC−MS(EI,70eV):68(ベースピーク),81,95,109,119,129,144,157,172(M)。
GC−MS(CI,イソブタン):69,81,95,109,123,137(ベースピーク),145,159,173[(M+H)]。
【0045】
実施例2 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドの合成2
下記式に示すように、3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ブロミドと4−クロロ−2−クロロメチル−1−ブテンを反応させて7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドを得る。
【0046】
【化7】
【0047】
実施例1において2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテンの代わりに4−クロロ−2−クロロメチル−1−ブテン7.30g(94%GC)を用いて、実施例1と同様の反応により、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリド9.71g(88%GC、定量的収率)を得た。この生成物は、実施例1の生成物と同じものであった。こ
【0048】
実施例3 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドの合成1
下記式に示すように、3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ブロミドと4−ブロモ−2−ブロモメチル−1−ブテンを反応させて7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドを得る。
【0049】
【化8】
【0050】
実施例1において2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテンの代わりに4−ブロモ−2−ブロモメチル−1−ブテン7.46gを用いて、実施例1と同様の反応により7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミド10.42g(90.2%GC、定量的収率)を得た。
【0051】
7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミド
淡黄色油状物
IR(D−ATR):ν=3075,2968,2936,1647,1447,889cm−1
1H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.54−1.62(2H,quintet−like m),1.72(3H,s),1.98−2.06(4H,m),2.58(2H,t,J=8Hz),3.46(2H,t,J=7.5Hz),4.68(1H,s−like),4.72(1H,s−like),4.81(1H,s−like),4.87(1H,s−like)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=22.34,25.47,30.92,35.16,37.26,39.33,110.07,111.59,145.51,146.32ppm。
GC−MS(EI,70eV):27,41,53,68,81(ベースピーク),95,109,121,137,160,175,188,201,216(M)。
【0052】
実施例4 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドの合成2
下記式に示すように、3−メチル−3−ブテニルマグネシウム=ブロミドと2−クロロメチル−4−ブロモ−1−ブテンを反応させて7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドを得る。
【0053】
【化9】
【0054】
実施例1において2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテンの代わりに2−クロロメチル−4−ブロモ−1−ブテン2.79gを用いて、実施例1と同様の反応により7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミド3.75g(88%GC、定量的収率)を得た。この生成物は、実施例3の生成物と同じものであった。
【0055】
実施例5 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドと7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドの混合物の合成
下記式に示すように、工程5−1で2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテンから2−メチレン−4−クロロブチル=アセテートを得た後、工程5−2で2−メチレン−4−クロロブチル=アセテートと2−メチレン−4−ブロモブチル=アセテートの混合物から7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドと7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドの混合物を得る。
【0056】
【化10】
【0057】
工程5−1
窒素雰囲気下、2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテン43.2g、酢酸ナトリウム30.0gとN,N−ジメチルアセトアミド100gの混合物を85℃で140分間かき混ぜた。反応混合物を冷却後、水にあけn−ヘキサンで抽出した。ヘキサン溶液を洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物として2−メチレン−4−クロロブチル=アセテートと2−メチレン−4−ブロモブチル=アセテートの57:43の混合物46.85gを得た。次いで、この生成物を減圧蒸留して2−メチレン−4−クロロブチル=アセテートと2−メチレン−4−ブロモブチル=アセテートの混合比87:13から11:89のフラクションを得た。2−メチレン−4−クロロブチル=アセテートとしての収率55.4%、2−メチレン−4−ブロモブチル=アセテートとしての収率33%、2種合計収率88%。
【0058】
2−メチレン−4−クロロブチル=アセテート(74.1%GC)
無色油状物(colorless oil)
IR(D−ATR):ν=1741,1654,1440,1374,1228,1029,915cm−1
1H−NMR(500MHz,CDCl):δ=2.08(3H,s),2.54(2H,t,J=7.3Hz),3.63(2H,t,J=7.3Hz),4.53(2H,s),5.06(1H,s−like),5.18(1H,s−like)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=20.84,36.26,42.22,66.50,115.73,140.00,170.53ppm。
GC−MS(EI,70eV):27,43(ベースピーク),53,71,83,102,120,133,147,162(M)。
【0059】
2−メチレン−4−ブロモブチル=アセテート(81.2%GC)
無色油状物
IR(D−ATR):ν=1741,1655,1437,1374,1228,1030,914cm−1
1H−NMR(500MHz,CDCl):δ=2.08(3H,s),2.64(2H,t,J=7Hz),3.48(2H,t,J=7.3Hz),4.54(2H,s),5.05(1H,s−like),5.18(1H,s−like)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=20.86,30.11,36.48,66.36,115.69,140.69,170.54ppm。
GC−MS(EI,70eV):29,43(ベースピーク),55,72,84,126,144,168。
【0060】
工程5−2
実施例1において2−ブロモメチル−4−クロロ−1−ブテンの代わりに2−メチレン−4−クロロブチル=アセテートと2−メチレン−4−ブロモブチル=アセテートの混合物7.88g(クロリド34.1%GC、ブロミド61.9%GC)を用いて、実施例1と同様の反応により7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドと7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドの混合物8.95g(クロリド28.6%GC、ブロミド51.4%GC、収率95%)を得た。この生成物は、実施例1の生成物と3の生成物の混合物であった。
【0061】
実施例6 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージドの合成
下記式に示すように、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドから7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージドを得る。
【0062】
【化11】
【0063】
窒素雰囲気下、実施例3で得た7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミド9.20g(90.2%GC)、ヨウ化ナトリウム10.0gとアセトン300mlの混合物を還流しながら90分間、更に室温で15.5時間かき混ぜた。反応混合物を水にあけn−ヘキサンで抽出した。ヘキサン溶液を洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージド10.82g(90.1%GC、収率97%)を得た。
【0064】
7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージド
無色油状物
IR(D−ATR):ν=3074,2966,2935,1647,1444,1170,889cm−1
1H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.54−1.62(2H,m),1.72(3H,s),2.01(4H,t−like,J=7.7Hz),2.59(2H,t,J=8Hz),3.24(2H,t,J=7.7Hz),4.68(1H,s−like),4.72(1H,s−like),4.80(1H,s−like),4.87(1H,s−like)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=3.56,22.35,25.48,34.90,37.29,40.36,110.07,111.21,145.52,147.85ppm。
GC−MS(EI,70eV):27,41,67,81(ベースピーク),95,109,137,155,208,264(M)。
GC−MS(CI,イソブタン):69,81,95,109,123,137(ベースピーク),209,223,237,251,265[(M+H)]。
【0065】
実施例7 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの合成1
下記式に示すように、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリドから7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを得る。
【0066】
【化12】
【0067】
窒素雰囲気下、実施例1で得た7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=クロリド28.8g(78%GC)、プロピオン酸ナトリウム19.0g、ヨウ化ナトリウム0.8gとN,N−ジメチルホルムアミド300mlの混合物を80〜110℃で8時間、更に室温で14時間かき混ぜた。反応混合物を水にあけn−ヘキサンで抽出した。ヘキサン溶液を洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物を得た。次いで、この粗生成物を減圧蒸留して、脱離反応による副生生物である8−メチル−3−メチレン−1,7−オクタジエン1.94g(99%GC,収率11%)と目的物7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート20.14g(95%GC、収率74%)を得た。
【0068】
8−メチル−3−メチレン−1,7−オクタジエン
無色油状物
IR(D−ATR):ν=3777,2970,2937,1650,1595,1449,1374,991,889cm−1
1H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.61−1.69(2H,m),1.73(3H,s),2.06(2H,t,J=7.7Hz),2.21(2H,t−like,J=8Hz),4.71(2H,d−like,J=13Hz),5.01(2H,d−like,J=8Hz),5.06(1H,d−like,J=11Hz),5.24(1H,d,J=18Hz),6.38(1H,dd,J=10.7,17.5Hz)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=22.37,26.06,30.90,37.62,109.96,113.10,115.64,138.94,145.72,146.32ppm。
GC−MS(EI,70eV):27,41,68,79(ベースピーク),93,107,121,136(M)。
【0069】
7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート
無色油状物
IR(D−ATR):ν=3075,2981,2938,1739,1645,1462,1375,1349,1182,1084,889cm−1
1H−NMR(500MHz,CDCl):δ=1.12(3H,t,J=7.6Hz),1.53−1.61(2H,m),1.71(3H,s),1.97−2.06(4H,m),2.31(2H,q,J=7.6Hz),2.33(2H,t−like,J=7Hz),4.17(2H,t,J=7.1Hz),4.67(1H,s−like),4.70(1H,s−like),4.77(1H,s−like),4.81(1H,s−like)ppm。
13C−NMR(125MHz,CDCl):δ=9.10,22.32,25.51,27.56,34.95,35.86,37.29,62.73,109.96,111.18,145.44,145.60,174.41ppm。
GC−MS(EI,70eV):29,41,57(ベースピーク),68,79,93,107,121,136,210(M)。
【0070】
実施例8 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの合成2
下記式に示すように、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミドから7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを得る。
【0071】
【化13】
【0072】
窒素雰囲気下、実施例4で得た7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ブロミド3.70g(88%GC)、プロピオン酸ナトリウム2.50g、とN,N−ジメチルアセトアミド30mlの混合物を92℃で2.5時間かき混ぜた。反応混合物を冷却後、水にあけジエチル=エーテルで抽出した。ジエチル=エーテル溶液を洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物を得た。この粗生成物は、8−メチル−3−メチレン−1,7−オクタジエン(14%GC,収率24%)と7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート(85%GC、収率85%)の混合物であった。
【0073】
実施例9 7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートの合成3
下記式に示すように、7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージドから7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネートを得る。
【0074】
【化14】
【0075】
窒素雰囲気下、実施例6で得た7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=ヨージド10.0g(90.1%GC)、プロピオン酸ナトリウム8.00g、とN,N−ジメチルアセトアミド50mlの混合物を90℃で4時間かき混ぜた。反応混合物を冷却後、水にあけジエチル=エーテルで抽出した。ジエチル=エーテル溶液を洗浄、乾燥、濃縮による後処理操作により、粗生成物を得た。この粗生成物は、8−メチル−3−メチレン−1,7−オクタジエン(26%GC,収率44%)と7−メチル−3−メチレン−7−オクテニル=プロピオネート(65%GC、収率70%)の混合物であった。