特許第6255231号(P6255231)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイナックスの特許一覧 ▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧

<>
  • 特許6255231-アキシャルギャップモータ 図000002
  • 特許6255231-アキシャルギャップモータ 図000003
  • 特許6255231-アキシャルギャップモータ 図000004
  • 特許6255231-アキシャルギャップモータ 図000005
  • 特許6255231-アキシャルギャップモータ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6255231
(24)【登録日】2017年12月8日
(45)【発行日】2017年12月27日
(54)【発明の名称】アキシャルギャップモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20171218BHJP
   H02K 21/24 20060101ALI20171218BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20171218BHJP
   H02K 16/02 20060101ALI20171218BHJP
【FI】
   H02K1/27 503
   H02K21/24 M
   H02K1/22 A
   H02K16/02
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-256013(P2013-256013)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-116033(P2015-116033A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204882
【氏名又は名称】株式会社ダイナックス
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】230101177
【弁護士】
【氏名又は名称】木下 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100180079
【弁理士】
【氏名又は名称】亀卦川 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100088100
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 千明
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 謙一
(72)【発明者】
【氏名】日野 弥
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真紹
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 悟司
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−055577(JP,A)
【文献】 特開2009−207293(JP,A)
【文献】 特開2007−043864(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/003990(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0241460(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 1/22
H02K 16/02
H02K 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の支持部材およびこの支持部材のハブ部と外周部との間にて等ピッチ角で円周方向に隔置された状態に前記支持部材に取り付けられた複数の永久磁石セグメントを有し、出力シャフトとともに回転可能にこの出力シャフトに固定された回転子と、前記回転子の少なくとも一方の側で、前記回転子に対し所定ギャップを残して前記回転子に対して対向的に配置された固定子とを備え、前記固定子の外周部には回転磁界を発生するための複数の界磁巻線スロットが円周方向に等ピッチ角で隔置されているアキシャルギャップモータにおいて、
前記複数の永久磁石セグメントの各々が取り付けられた、前記支持部材の取り付け孔と前記支持部材の外周縁部との間に径方向に延びる切り欠き部分が設けられ
前記支持部材の外周部に絶縁性高強度材料から構成されたリム部材が巻かれていることを特徴とする、
アキシャルギャップモータ。
【請求項2】
前記切り欠き部分の各々は、前記支持部材の少なくとも一方の側を厚み方向に薄くした凹部であることを特徴とする請求項1記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項3】
前記切り欠き部分の各々は、前記支持部材の厚み方向および径方向に貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項1記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項4】
前記切り欠き部分の各々は、径方向外側に向かって幅が次第に狭くなっていることを特徴とする請求項1または2記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項5】
前記絶縁性高強度材料は、ガラス繊維またはカーボンファイバーまたは高強度高分子繊維で補強されたプラスチックであることを特徴とする請求項記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項6】
前記切り欠き部分の各々には、非導電性材料が充填されていることを特徴とする請求項1記載のアキシャルギャップモータ。
【請求項7】
前記非導電性材料は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂を含む群から選択された熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項記載のアキシャルギャップモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータに関し、より詳細には、車両のホイール内に設置できる、軸方向の寸法が小さい、アキシャルギャップモータに関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の高騰に伴い、ハイブリッド車および電気自動車が注目されている。特にインホイール型アキシャルギャップモータを車輪内に組み込んだEV車両は、複雑で、大重量の変速機を必要としないことから、スペースの有効活用、コストの低減および軽量化が可能となる。かかるインホイール型アキシャルギャップモータを使用できる車両として、近距離移動を目的とし、1人乗り、または2人乗りの、いわゆるシティーコミュータと称される小型車両が注目されている。これまで、シティーコミュータを含むEV車に使用されるインホイール型駆動モータには、高い性能が要求されるため、高価なレアアースを使用する稀土類磁石が使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、最近レアアースの価格が高騰し、その入手が困難になったため、稀土類磁石のかわりに、安価で、入手の容易なフェライト磁石を用いたEV用インホイールモータを使用することが検討されている。フェライト磁石の残留磁束密度は、稀土類磁石と比較し、30%程度低いことから、トルクの低下が問題となる。このため、(1)トルクの増加と軸方向の薄型化を期待できるアキシャルギャップモータ型構造を採用すると共に、(2)回転子内部に永久磁石を実装した(SPM)型とすることでトルクを最大にすると共に固定子コア内での鉄損を低減し、(3)モータ内部の空間を有効活用するために、固定子内部に減速ギアを組み込んだ、5kWサイズのモータ構造を、試作し、その作動特性について鋭実験研究を重ねた。更に出力を増大すべく、10kWサイズのモータ(16極18スロット)を試作し、作動特性を測定したところ、5kWでは顕在化しなかった、回転子内部での渦電流損失が大きくなるといった問題が生じることが判明した。
【0004】
よって、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、渦電流損の少ない電動モータ、特にアキシャルギャップモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、円盤状の支持部材およびこの支持部材のハブ部と外周部との間にて等ピッチ角で円周方向に隔置された状態に前記支持部材に取り付けられた複数の永久磁石セグメントを有し、出力シャフトとともに回転可能にこの出力シャフトに固定された回転子と、前記回転子の少なくとも一方の側で、前記回転子に対し所定ギャップを残して前記回転子に対して対向的に配置された固定子とを備え、前記固定子の外周部には回転磁界を発生するための複数の界磁巻線スロットが円周方向に等ピッチ角で隔置されているアキシャルギャップモータにおいて、
前記複数の永久磁石セグメントの各々が取り付けられた、前記支持部材の取り付け孔と前記支持体の外周縁部との間に径方向に延びる切り欠き部分が設けられ
前記支持部材の外周部に絶縁性高強度材料から構成されたリム部材が巻かれていることを特徴とするアキシャルギャップモータによって解決される。
【0006】
前記切り欠き部分の各々を、前記支持部材の少なくとも一方の側を厚み方向に薄くした凹部とすることができる。
【0007】
前記切り欠き部分の各々を、前記支持部材の厚み方向および径方向に貫通する貫通孔とすることができる。
【0008】
前記切り欠き部分の各々を、径方向外側に向かって幅が次第に狭くするようにできる。
【0009】
前記支持部材の外周部に絶縁性高強度材料から構成されたリム部材が巻かれている
【0010】
前記絶縁性高強度材料を、ガラス繊維またはカーボンファイバーまたは高強度高分子繊維で補強されたプラスチックとすることができる。
【0011】
前記切り欠き部分の各々には、非導電性材料を充填できる。
【0012】
前記非導電性材料を、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂を含む群から選択された熱可塑性樹脂とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固定子の間に配置された回転子の支持部材で生じる、渦電流損失を低減でき、アキシャルギャップモータの電気的効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の支持部材を具えたアキシャルギャップモータを示す分解斜視略図である。
図2】複数の永久磁石セグメントが取り付けられる、取り付け孔が設けられた支持部材を示す斜視略図である。
図3】支持部材に設けられた切り欠き部分の配置を示す支持部材の部分拡大平面図である。
図4】本発明に係わるアキシャルギャップモータの実施例と支持部材に切り欠き部分を設けない従来のアキシャルギャップモータ(比較例)の性能の差を示す実験結果を示す図である。
図5】回転速度およびトルクを同じ条件にしたときの比較例(切り欠き部分なし)と実施例(切り欠き部分あり)のそれぞれの効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照し、本発明一実施形態について説明するが、この実施例は、単に発明を説明するためのものにすぎず、本発明は、この実施例だけに限定されるものではない。
【0016】
まず、図1を参照する。ここには本発明に係わるアキシャルギャップモータが示されている。このアキシャルギャップモータは、図示していない出力シャフトと共に回転するよう固定された回転子10とこの回転子10の両側にて所定のギャップを残して回転子10に対向的に配置された固定子20、22とから主に構成されている。
【0017】
図1では、図示されていない出力シャフトが接続された減速機30が固定子20の内側空間に配置され、他方の固定子22の内側空間にレゾルバ40が配置され、回転子10の回転位置を検出できるようになっている。固定子20、22は、適当な手段を介し、本アキシャルギャップモータのハウジング(図示せず)に取り付けられている。このような配置により、軸方向の寸法が小さくなり、アキシャルギャップモータをEV用車輪内にインホイールモータとして設置することがより容易となっている。
【0018】
次に図2を参する。図2に示されたアキシャルギャップモータは、下記のように回転子10が従来のアキシャルギャップモータの回転子と異なっている。回転子10は、出力シャフト(図示せず)と共に回転するように固定された円盤状の支持部材12を含み、この支持部材12は、中心のハブ部13と、複数の磁石セグメント11が取り付けられた外周部14とから成る、いわゆるコアレス回転子形状となっており、非磁性体、例えばステンレススチールから構成されている。
【0019】
図1に明瞭に示されるように回転子10の支持部材12の外周部14には複数の永久磁石セグメント11が円周方向に等しい回転角で隔置されている。この永久磁石セグメント11は、高価な稀土類を含まないフェライト磁石から構成されている。これら磁石セグメント11は、磁石セグメント11と同じ形状となるよう支持部材12に形成された取り付け孔16に嵌合され、固定されている。固定方法として、焼き嵌め、接着剤を用いた接着方法、電気スポット溶接などを使用できる。
【0020】
トルクリップルおよびコギングトルク低減のため、磁石セグメント11の側面には、所定のスキュー角(中心軸から延びる放射状軸に対する磁石セグメント11の側面の角度)が付けられ、平面形状が、略台形となっている。これら磁石セグメント11の間には、スポーク状部分15が形成され、これらスポーク状部分15は、ハブ部分13から支持部材12の外周縁部17まで径方向に延びている
【0021】
図1から3に示されるように、磁石セグメント取り付け孔18の外側の中心から支持部材12の外周縁部17まで径方向に切り欠き部分18が延びている。この切り欠き18は、支持部材12の厚み方向に完全に貫通する孔でも良いし、支持部材12で渦電流が生じない程度に材料を除去した非貫通孔でもよい。このため、磁石セグメント11と同じ数の取り付け孔18が支持部材12の外周縁部17に等間隔に位置する。これら、切り欠き部分18を設けたことによる支持部材12の強度低下および支持部材12の周辺における乱流発生を防止するため、これら切り欠き部分18に非導電性および耐熱性を有する樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂を充填し、充填面と支持部材12の表面とを面一にすることが好ましい。
【0022】
図3に誇張した状態に示されるように、取り付け孔16から支持部材11の外周縁部17まで径方向外側に向かって幅が次第に狭くなるように切り欠き部分18を形成してもよい。このような形状にすることにより、支持部材11、すなわち、回転子10が高速回転する際に生じる遠心力による、充填材料の飛び出しを抑制することが可能となる。
【0023】
更に支持部材11の外周縁部17のまわりに絶縁性高強度材料から構成されたリム部材19を巻いてもよい。この絶縁性高強度材料をガラス繊維またはカーボンファイバーで補強されたプラスチックとすることができる。このようなリム部材19を設けることにより、支持部材11の強度低下を補償すると共に、充填材料の飛び出しを抑制できる。このようにリム部材19を設けることにより、実際に高回転(10000rpm)バースト試験(安全率2倍)に耐えることがわかった
【0024】
切り欠き部分18を設けない比較例であるモータと切り欠き部分18を設けた実施例であるアキシャルギャップモータ(10kW)について実施した特性比較試験の結果が図4に示されている。この表から判るように、比較例のモータを1600rpmで回転したときの渦電流損は、169.93wであるのに対し、切り欠き部分を設けた実施例のモータを同じ1600rpmで回転したときの渦電流損は、9.90Wであり、比較例のモータを2800rpmで回転したときの渦電流損は、47.45wであるのに対し、切り欠き部分を設けた実施例のモータを同じ2800rpmで回転したときの渦電流損は、6.06Wであり、更に比較例のモータを5000rpmで回転したときの渦電流損は、778.96wであるのに対し、切り欠き部分を設けた実施例のモータを同じ5000rpmで回転したときの渦電流損は、62.52wとなった。
【0025】
上記のように、本発明により、回転子10を構成する支持部材11の外周縁部17の切り欠き部分18を設けたことにより、切り欠き部分18を設けなかった場合に流れていた渦電流が遮断または低減され、モータで生じていた渦電流損が低下する。
【0026】
また、図5に示されるように、グラフ上のA点、B点、C点の各々において、切り欠き部分を設けた実施例のモータと切り欠き部分を設けない比較例のモータの回転速度とトルクを同一にした状態で、それぞれのモータの効率を測定した。グラフからいずれも切り欠き部分を設けた実施例であるモータのほうが効率が高いことが判る。
【0027】
回転子10の両側に所定のギャップを残して配置される各固定子20,22には、磁石セグメント11と対向するよう複数のスロットおよびそれらの間のスロットが円周方向に等ピッチ角に隔置されているが、アキシャルギャップモータの固定子の構造は、当業者には周知であるので、その説明は省略する。
【符号の説明】
【0028】
10 回転子
11 磁石セグメント
12 支持部材
13 ハブ部
14 外周部
15 スポーク状部分
16 取り付け孔
17 外周縁部
18 切り欠き部分(貫通孔)
19 リム部分
20、22 固定子
図1
図2
図3
図4
図5