特許第6255635号(P6255635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6255635
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子水分散液
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20171227BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20171227BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20171227BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20171227BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20171227BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20171227BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20171227BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20171227BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20171227BHJP
【FI】
   B22F1/02 B
   B22F1/00 K
   B22F9/24 E
   C08F290/06
   C09D1/00
   C09D5/24
   C23C18/30
   H01B1/22 A
   B82Y40/00
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-544976(P2017-544976)
(86)(22)【出願日】2017年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2017015532
【審査請求日】2017年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-86207(P2016-86207)
(32)【優先日】2016年4月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】新林 昭太
(72)【発明者】
【氏名】深澤 憲正
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−197325(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/013393(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/048876(WO,A1)
【文献】 特開2010−209421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−1/02
B22F 9/24
C09D 5/24
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子(X)及び有機化合物(Y)の複合体と、乳酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらのカルボン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種以上の化合物(Z)とを含有する金属ナノ粒子水分散液であって、前記有機化合物(Y)が、アニオン性官能基を有する有機化合物(Y1)であることを特徴とする金属ナノ粒子水分散液。
【請求項2】
前記アニオン性官能基を有する有機化合物(Y1)が、カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基及びスルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する単量体混合物(I)の重合物(Y2)である請求項記載の金属ナノ粒子水分散液。
【請求項3】
前記単量体混合物(I)中に、エチレングリコールの平均ユニット数が20以上のポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する請求項記載の金属ナノ粒子水分散液。
【請求項4】
前記重合物(Y2)の重量平均分子量が、3,000〜20,000の範囲である請求項又は記載の金属ナノ粒子水分散液。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子(X)の金属種が、銀、銅又はパラジウムである請求項1〜のいずれか1項記載の金属ナノ粒子水分散液。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子(X)の透過型電子顕微鏡写真から求められる平均粒子径が0.5〜100nmの範囲である請求項1〜のいずれか1項記載の金属ナノ粒子水分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属皮膜形成や各種触媒として利用でき、安定性に優れ、耐腐食性を有する金属ナノ粒子水分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は、ナノスケールサイズの粒子とすることで、高活性で大きな比表面積を有する材料として注目されており、低温での融着現象を利用した配線、導電層形成、抗菌材料、各種触媒用途への応用が検討されている。特に工業的には、金属ナノ粒子を液中に分散させた状態で提供することにより、印刷、塗布、吸着等の方法で、目的とする各種基材上に金属皮膜や触媒金属を付与できることが大きなメリットである。
【0003】
金属ナノ粒子を分散させる溶媒としては、有機溶媒、水性溶媒の両方が検討されており、金属を基材上に付与するプロセスによって選択が可能であるが、環境への負荷低減の観点から、水性溶媒を用いることが好ましい。
【0004】
印刷、塗布、吸着等の方法で、各種基材上に金属皮膜を形成する、あるいは、触媒金属を付与するために用いる金属ナノ粒子は、水性の分散媒中で、長期間安定に均一な分散状態を保つことが要求され、かつ、基材上に付与された後にも金属ナノ粒子表面が活性であることが、配線、導電層形成、抗菌、触媒のいずれの用途にも要求される。このため、金属ナノ粒子の表面に吸着させる分散剤として、脱離しにくく高い分散安定性を付与できる高分子分散剤を使用し、かつその使用量をできるだけ低減することにより、液中の分散安定性と表面活性の両立が図られている(例えば、特許文献1参照。)。また、この高分子分散剤を使用した金属ナノ粒子は、無電解めっきの触媒としても使用することができる(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、このように分散安定性と高表面活性を確保した金属ナノ粒子の水性分散液も、経時的な保存環境変化や、使用時の少量の不純物混入によって不安定化し、不可逆な懸濁、凝集、沈殿が発生してしまうという問題の起こることがあった。また、金属ナノ粒子を基材上に付与する際、該基材に、金属ナノ粒子を構成する金属よりもイオン化傾向の高い金属が存在した場合、その接触部分において、異種金属接触による腐食が起こり、腐食による性能低下や基材の外観不良を生じるという懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4697356号公報
【特許文献2】特許第5648232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、経時劣化や少量の不純物の混入による懸濁、凝集、沈殿を抑制し、金属ナノ粒子を付与する基材表面に、該金属ナノ粒子を構成する金属よりもイオン化傾向の高い金属が存在した場合でも、腐食による特性低下や着色による基材の外観不良を生じない、安定化された金属ナノ粒子水分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、金属ナノ粒子の水性分散液に、特定のカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を添加した金属ナノ粒子水分散液を用いることで上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、金属ナノ粒子(X)及び有機化合物(Y)の複合体と、乳酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらのカルボン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種以上の化合物(Z)とを含有する金属ナノ粒子水分散液であって、前記有機化合物(Y)が、アニオン性官能基を有する有機化合物(Y1)であることを特徴とする金属ナノ粒子水分散液を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属ナノ粒子水分散液は、経時的な保存環境変化や少量不純物の混入による懸濁、凝集、沈殿を抑制し、金属ナノ粒子を付与する基材表面に、該金属ナノ粒子を構成する金属よりもイオン化傾向の高い金属が存在した場合でも、腐食による特性低下や、着色による外観不良を生じないため、配線、導電材料、抗菌材料、各種触媒として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の斑点状腐食が生じていないことを示す目視観察時の写真である。
図2】実施例1の平坦な銅表面に銀粒子が離散的に付着していることを示す走査型電子顕微鏡(SEM)での観察写真である。
図3】比較例2の多数の斑点状着色部が生じていることを示す目視観察時の写真である。
図4】比較例2の斑点状着色部の、実施例1と異なり銅表面が侵食されて微細な凹凸が形成されていることを示す走査型電子顕微鏡(SEM)での観察写真である。
図5】実施例4の斑点状腐食が生じていないことを示す目視観察時の写真である。
図6】実施例4の鋼板表面にはその製造過程で生じた物理的な凹凸以外は無いことを示す走査型電子顕微鏡(SEM)での観察写真である。
図7】比較例4の多数の斑点状着色部が生じていることを示す目視観察時の写真である。
図8】比較例4の斑点状着色部の、実施例4と異なり鋼板表面が侵食されて微細な凹凸が形成されていることを示す走査型電子顕微鏡(SEM)での観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の金属ナノ粒子水分散液は、金属ナノ粒子(X)及び有機化合物(Y)の複合体と、乳酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらのカルボン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種以上の化合物(Z)とを含有するものである。
【0013】
前記金属ナノ粒子(X)を構成する金属としては、例えば、銀、銅、パラジウムの単体、もしくはこれらの合金等が挙げられる。また、前記金属ナノ粒子(X)としては、銀コア銅シェル粒子、銅シェル銀コア粒子、銀を一部パラジウムで置換した粒子、銅を一部パラジウムで置換した粒子等も挙げられる。これらの金属又は合金は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。これらの金属又は合金は、目的に応じて、適宜選択すればよいが、配線、導電性層を形成する目的で用いる場合には、銀、銅が好ましく、触媒機能の観点からは、銀、銅、パラジウムが好ましい。また、コストの観点からは、銀、銅、これらの合金、一部置換体、又はこれらの混合物が好ましい。
【0014】
前記金属ナノ粒子(X)の形状は、水性媒体中での分散安定性を阻害しない限り、特に限定はなく、種々の形状のナノ粒子を目的に応じて、適宜選択できる。具体的には、球状、多面体状、板状、棒状、及び、これらの組み合わせた形状の粒子が挙げられる。前記金属ナノ粒子(X)としては、単一の形状のもの、もしくは複数の形状のものを混合して用いることができる。また、これらの形状の中でも、分散安定性の観点から、球状又は多面体状の粒子が好ましい。
【0015】
前記金属ナノ粒子(X)を構成する金属は、水性の分散媒中で、長期間安定に均一な分散状態を保つために、金属ナノ粒子(X)の表面に、分散剤として有機化合物(Y)が吸着した金属ナノ粒子(X)及び有機化合物(Y)の複合体として用いる。前記有機化合物(Y)は、目的に応じて、適宜選択して用いればよいが、保存安定性の観点から、アニオン性官能基を有する化合物(Y1)が好ましい。
【0016】
前記アニオン性官能基を有する化合物(Y1)は、分子中にアニオン性官能基を1種以上有する化合物である。また、分散安定性を阻害しない限り、分子中にアニオン性官能基の他にカチオン性官能基を有する化合物を用いてもよい。前記アニオン性官能基を有する化合物(Y1)は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0017】
前記、アニオン性官能基を有する化合物(Y1)としては、水性分散媒中での長期安定性と、基材上に付与された後の金属ナノ粒子表面の活性保持を両立する観点から、カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基及びスルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有する(メタ)アクリル酸系単量体を含有する単量体混合物(I)の重合物(Y2)が、特に好ましい。
【0018】
前記重合物(Y2)は、単独重合物であっても、共重合物であってもよい。また、共重合物である場合、ランダム重合であっても、ブロック重合であってもよい。
【0019】
前記重合物(Y2)は、カルボキシ基、リン酸基、亜リン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基からなる群から選ばれる1種以上のアニオン性官能基を有するため、ヘテロ原子が有する非共有電子対を介して金属ナノ粒子(X)に吸着する機能を有すると同時に、金属ナノ粒子(X)表面に負の電荷を付与するので、粒子間の電荷反発によりコロイド粒子の凝集を防ぐことができ、水中で重合物(Y2)及び金属ナノ粒子(X)の複合体を安定的に分散できる。
【0020】
前記重合物(Y2)は、金属ナノ粒子(X)への吸着と水分散液での分散安定性がより向上できることから、1分子中にアニオン性官能基を3つ以上有するものが好ましい。
【0021】
また、前記重合物(Y2)の重量平均分子量は、金属ナノ粒子(X)への吸着と水分散液での分散安定性がより向上できることから、3,000〜20,000の範囲が好ましく、4,000〜8,000の範囲がより好ましい。
【0022】
また、前記重合物(Y2)中に、ポリエチレングリコール鎖等のポリオキシアルキレン鎖を導入すると、電荷による斥力発現と同時に、立体反発効果によるコロイド保護作用を利用することができ、より分散安定性が向上するため好ましい。
【0023】
例えば、前記単量体混合物(I)にポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体と、前記アニオン性基を有する(メタ)アクリル酸系単量体等とを共重合させることで、ポリエチレングリコール鎖を有する前記重合物(Y2)を容易に得ることができる。
【0024】
特にエチレングリコールの平均ユニット数が20以上のポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体を用いて重合した前記重合物(Y2)は、貴金属、特に銀、銅のナノ粒子を安定化する能力が高く、好適な保護剤となり好ましい。このようなアニオン性官能基とポリエチレングリコール鎖とを有する重合物の合成は、例えば、特許第4697356号公報、特開2010−209421号公報等に記載の方法により、容易に行うことができる。
【0025】
前記のエチレングリコールの平均ユニット数が20以上のポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体の重量平均分子量としては、1,000〜2,000の範囲が好ましい。重量平均分子量がこの範囲であると、金属ナノ粒子(X)との複合体の水分散性がより良好となる。
【0026】
リン酸基とポリエチレングリコール鎖とを有する重合物(Y2)のより具体的な合成方法としては、例えば、市販されている2−メタクリロイルオキシホスフェート(例えば、共栄社化学株式会社製「ライトエステルP−1M」)と、市販のポリエチレングリコール鎖を有するメタクリル酸エステルモノマー(例えば、日油株式会社製「ブレンマーPME−1000」)を重合開始剤(例えば、油溶性アゾ重合開始剤「V−59」)を用いて共重合する方法が挙げられる。
【0027】
この際、リン酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーの比率を、単量体混合物(I)中の30質量%未満とすると、金属ナノ粒子(X)の保護に関与しないポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体の単独重合体等の副生成物の発生を抑制し、得られる重合物(Y2)による分散安定性が向上する。
【0028】
前記単量体混合物(I)は、アニオン性基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体以外の第3の重合性モノマーを含んでいてもよい。この際、第3の重合性モノマーが疎水性モノマーである場合、その使用量は、良好な水分散性を維持できることから、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。なお、第3の重合性モノマーが疎水性モノマーでない場合はこの範囲に限定されない。
【0029】
前述のように、重合物(Y2)の重量平均分子量は3,000〜20,000の範囲であることが好ましいが、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体を併用した場合、重合反応により得られる重合物(Y2)は、分子量分布を有することになる。重量平均分子量の小さいもの程、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸系単量体由来構造を含まないものであることから、金属ナノ粒子(X)との複合体を水性媒体に分散する場合の分散安定性には寄与しないことになるので、この観点からは、重合物(Y2)の重量平均分子量は4,000以上であることがより好ましくなる。逆に重量平均分子量が大きくなると、金属ナノ粒子(X)との複合体の粗大化が起こりやすく、触媒液中に沈殿を生じやすくなる観点から、重合物(Y2)の重量平均分子量は8,000以下であることがより好ましい。
【0030】
前記重合物(Y2)の重量平均分子量を上記の範囲内に調整するためには、公知文献、例えば、特開2010−209421号公報等に記載の連鎖移動剤を用いてもよく、連鎖移動剤を使用せずに重合条件によって制御してもよい。
【0031】
本発明の金属ナノ粒子水分散液に用いる複合体としては、前記の重合物(Y2)をコロイド保護剤として製造した、銀、銅、パラジウム等の金属ナノ粒子(X)との複合体を用いることができる。
【0032】
また、本発明の金属ナノ粒子水分散液に用いる複合体の調製方法としては、例えば、前記重合物(Y2)を水性媒体に溶解又は分散させた後、ここに、硝酸銀、酢酸銅、硝酸パラジウム等の金属化合物を添加し、必要に応じて錯化剤を添加し均一な分散体とした後、還元剤を混合することによって、前記金属化合物を還元し、還元された金属がナノサイズ粒子(ナノメートルオーダーの大きさを有する微粒子)となると同時に前記重合物(Y2)と複合した金属ナノ粒子(X)の水性分散体として得る方法が挙げられる。なお、錯化剤を用いる場合、還元剤と同時に混合してもよい。
【0033】
本発明の金属ナノ粒子水分散液は、配線、導電層形成に有利な、低温での融着性、及び、触媒活性の観点から、前記金属ナノ粒子(X)の平均粒子径が0.5〜100nmの範囲にある金属ナノ粒子(X)及び前記有機化合物(Y)の複合体が水性分散媒に分散されたものが好ましい。
【0034】
なお、金属ナノ粒子(X)の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真によって見積もることが可能で、その100個の平均値が0.5〜100nmの範囲であるものは、例えば、前述の特許第4697356号公報、特開2010−209421号公報等に記載の方法によって容易に得ることができる。このようにして得られる金属ナノ粒子(X)は、前記重合物(Y2)で保護されて1個ずつが独立して存在し、水性分散媒中で安定に分散させることができる。
【0035】
前記金属ナノ粒子(X)の平均粒子径は、金属化合物の種類、コロイド保護剤となる前記有機化合物(Y)の分子量、化学構造及び使用量、錯化剤や還元剤の種類及び使用量、還元反応時における温度等によって容易に制御可能であり、これらについては、上記の特許文献等に記載の実施例を参照すればよい。
【0036】
また、前記有機化合物(Y)と金属ナノ粒子(X)との複合体中の前記有機化合物(Y)の含有比率としては、1〜30質量%の範囲が好ましく、2〜20質量%の範囲がより好ましい。すなわち、前記複合体は、その質量の大部分を金属ナノ粒子(X)が占めるものが、配線、導線層形成、各種触媒用途で使用する上で適している。
【0037】
特に、前記金属ナノ粒子(X)が前記重合体(X−2)で保護された複合体は、水性媒体、即ち水や水と相溶可能な有機溶剤との混合溶剤中において、0.01〜70質量%程度の範囲で分散することが可能であり、不純物の混入が無い条件下で、室温(〜25℃)において、数ヶ月程度は凝集することが無く、安定に保存できる。
【0038】
本発明の金属ナノ粒子水分散液は、前記金属ナノ粒子(X)及び前記有機化合物(Y)の複合体の他に、乳酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらのカルボン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種以上の化合物(Z)を必須成分とする。
【0039】
前記化合物(Z)を、本発明の金属ナノ粒子水分散液に添加することにより、経時的な保存環境変化や少量の不純物の混入による不可逆な懸濁、凝集、沈殿を抑制し、前記金属ナノ粒子(X)を付着させた基材表面に、前記金属ナノ粒子を構成する金属よりもイオン化傾向の高い金属が存在した場合でも、腐食による特性低下や着色による外観不良を生じないという効果を発揮する。
【0040】
前記化合物(Z)の使用量としては、前記複合体1質量部に対して、1〜100質量部の範囲が好ましく、5〜30質量部の範囲がより好ましい。なお、前記化合物(Z)は、前記金属ナノ粒子(X)及び前記有機化合物(Y)との複合体の水分散液に、予め加えておいてもよく、前記複合体の水分散液を使用する前に加えてもよい。
【0041】
本発明の金属ナノ粒子水分散液は、そのまま、配線、導電層形成用のインク又は塗工液として、また無電解めっきの触媒液として使用できるが、余剰の錯化剤、還元剤、又は原料として用いた金属化合物に含まれた対イオン等を限外ろ過法、沈殿法、遠心分離、減圧蒸留、減圧乾燥等の各種精製法を単独又は2種以上を組み合わせた精製工程を経たものや、さらに精製工程後に濃度(不揮発分)や水性媒体を変更して新たに分散体として調製し直したものを使用してもよい。電子回路形成など、実装用途の目的で用いる場合には、前記の精製工程を経た水性媒体を用いることが好ましい。なお、前記精製工程は、前記複合体の水分散液を調製した後に行い、その後に前記化合物(Z)を添加することが好ましい。
【0042】
本発明の金属ナノ粒子水分散液をインク、塗工液として、配線、導電層形成用に用いる場合には、水性分散体中の前記複合体の濃度(不揮発分濃度)は、0.5〜40質量%の範囲が好ましく、1〜30質量%の範囲がより好ましい。
【0043】
本発明の金属ナノ粒子水分散液をインク、塗工液として、配線、導電層形成を行う場合、前記金属ナノ粒子(X)及び有機化合物(Y)の複合体を基材上に付与する方法としては、特に制限は無く、公知慣用の種々の印刷・塗工手法を、使用する基材の形状、サイズ、剛柔の度合いなどによって適宜選択すればよい。具体的には、グラビア法、オフセット法、グラビアオフセット法、凸版法、凸版反転法、フレキソ法、パッド法、スクリーン法、マイクロコンタクト法、リバース法、エアドクターコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、スクイズコーター法、含浸コーター法、トランスファーロールコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレイコーター法、インクジェット法、ダイ法、スピンコーター法、バーコーター法等が挙げられる。
【0044】
前記複合体を基材上に印刷、もしくは塗工して、基材上に前記複合体を付与して配線、導電層形成を行う場合、印刷、もしくは塗工した基材を乾燥、焼成することによって、直接、配線、導電層形成を行ってもよいし、さらに無電解、もしくは電解めっき処理を行ってもよい。
【0045】
また、本発明の金属ナノ粒子水分散液は、浸漬処理による通常のめっき処理工程で用いる無電解めっき用触媒液としても使用可能である。本発明の金属ナノ粒子水分散液を無電解めっき用触媒として用いる場合には、被めっき物への吸着量を確保し、かつ、めっき皮膜の被めっき物との密着性を良好にできることから、金属ナノ粒子水分散液中の前記複合体の濃度(不揮発分濃度)は、0.05〜5g/Lの範囲が好ましく、経済性を考慮すると、0.1〜2g/Lの範囲がより好ましい。
【0046】
上記の方法により、その表面に本発明の金属ナノ粒子水分散液中の前記複合体を付着させた被めっき物は、公知の無電解めっき処理を施すことにより、その表面に金属皮膜を形成することができる。
【0047】
本発明の金属ナノ粒子水分散液に用いられる水性媒体としては、水単独、水と相溶可能な有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。前記有機溶媒としては、複合体の分散安定性を損なわず、被めっき物が不要な損傷を受けないものであれば、特に制限無く選択することができる。前記有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0048】
前記水性媒体において、前記有機溶媒の混合割合は、前記複合体の分散安定性の観点から、50質量%以下が好ましく、めっき工程での利便性の観点から、30質量%以下がより好ましい。
【0049】
本発明の金属ナノ粒子水分散液を用いて、前記金属ナノ粒子(X)及び前記有機化合物(Y)の複合体を付与する基材としては、特に限定されず、例えば、素材としては、ガラス繊維強化エポキシ、エポキシ系絶縁材、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、液晶ポリマー(LCP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のプラスチック、ガラス、セラミック、金属酸化物、金属、紙、合成又は天然繊維などの材質を1種又は複数種を組み合わせてなるものであり、その形状としては、板状、フィルム状、布状、繊維状、チューブ状等のいずれであってもよい。
【0050】
本発明の金属ナノ粒子水分散液は、印刷、塗工、浸漬等の簡便な方法で、基材上に、金属ナノ粒子と有機化合物の複合体を付与することで、配線、導電層等を形成でき、また、無電解めっき用の触媒液として、好適に使用可能である。
【0051】
また、本発明の金属ナノ粒子水分散液は、前記金属ナノ粒子(X)及び前記有機化合物(Y)の複合体を基材に付与する際、金属基材表面の腐食による性能低下、外見不良を抑制できる。したがって、金属基板、もしくは、基材上に配線、導電層等の金属を有する基材を用いる場合に、特に優れた効果を発揮する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[試料の分析]
試料の分析は以下の装置を用いて実施した。透過型電子顕微鏡(TEM)観察は、日本電子株式会社製「JEM−1400」で行った(調製例1)。走査型電子顕微鏡(SEM)観察は、日本電子株式会社製「JSM−7800F」(実施例1の図2及び比較例2の図4)及び株式会社キーエンス製「VE9800」(実施例4の図6及び比較例4の図8)で行った。動的光散乱法による平均粒子径測定は、大塚電子株式会社製「FPAR−1000」で行った(調製例1)。
【0054】
(合成例1:アニオン性官能基を有する重合物(Y2−1)の合成)
温度計、攪拌機及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と略記する。)32質量部及びエタノール32質量部を仕込んで、窒素気流下で攪拌しながら80℃に昇温した。次に、ホスホオキシエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製「ライトエステル P−1M」)20質量部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(日油株式会社製「ブレンマー PME−1000」、分子量1,000)80質量部、3−メルカプトプロピオン酸メチル4.1質量部及びMEK80質量部の混合物と、重合開始剤(和光純薬株式会社「V−65」、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))0.5質量部及びMEK5質量部の混合物とをそれぞれ2時間かけて滴下した。滴下終了後、4時間ごとに重合開始剤(日油株式会社製「パーブチルO」)0.3質量部を2回添加し、80℃で12時間攪拌した。得られた樹脂溶液に水を加え転相乳化し、減圧脱溶剤した後、水を加えて濃度を調整することで、不揮発分76.8質量%の重合物(Y2−1)の水溶液が得られた。この重合物(Y2−1)は、メトキシカルボニルエチルチオ基、リン酸基及びポリエチレングリコール鎖を有するものであり、その重量平均分子量(ゲルパーミエーション・クロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算値)は4,300、酸価は97.5mgKOH/gであった。
【0055】
(調製例1:銀ナノ粒子水分散液の調製)
N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの85質量%水溶液463g(4.41mol)、合成例1で得られた重合物(Y2−1)の水溶液30g((Y2−1)として23g)及び水1,250gを混合し還元剤溶液を調製した。
【0056】
また、合成例1で得られた重合物(Y2−1)の水溶液15g(重合物(Y2−1)として11.5g)を水333gに溶解し、これに硝酸銀500g(2.94mol)を水833gに溶解した溶液を加えて、よく攪拌した。この混合物に上記で得られた還元剤溶液を室温(25℃)で2時間かけて滴下した。得られた反応混合物をメンブレンフィルター(細孔径0.45マイクロメートル)で濾過し、濾液を中空糸型限外濾過モジュール(ダイセンメンブレンシステムズ社製「MOLSEPモジュールFB−02型」、分画分子量15万)中を循環させ、流出する濾液の量に対応する量の水を随時添加して精製した。濾液の電導度が100μS/cm以下になったことを確認した後、注水を中止して濃縮した。濃縮物を回収することで、不揮発分36.7質量%の銀ナノ粒子含有複合体の水分散液が得られた。動的光散乱法による複合体の平均粒子径は39nmであり、透過型電子顕微鏡(TEM)像からは10〜40nmと見積もられた。
【0057】
次いで、上記で得られた不揮発分36.7質量%の銀ナノ粒子含有複合体の水分散液にイオン交換水を加え、水分散液中の銀ナノ粒子含有複合体の含有量が0.5g/Lになるように調整し、銀ナノ粒子水分散液を得た。
【0058】
[銅基材の前処理]
銅張エポキシ板をペルオキソ2硫酸ナトリウム水溶液(濃度100g/L)に2分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄した。次いで、硫酸水溶液(濃硫酸100mL/L)に2分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄することで、銅基材表面の前処理を行った。
【0059】
[鋼基材の前処理]
冷間圧延鋼板(SPCC−SD)の表面を2−プロパノールで清拭し、表面のオイルを十分に除去した。次いで、硫酸水溶液(濃硫酸100mL/L)に10秒間浸漬して取り出し、流水で1分間洗浄することで、鋼基材表面の前処理を行った。
【0060】
(実施例1)
調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)に、クエン酸3ナトリウム(10g/L)を混合して銀ナノ粒子の水分散液を調製し、擬似的な不純物として、硫酸銅5水和物を、さらに加えた(0.01g/L)。この水分散体中に、上記の前処理を行った銅基材を、室温(25℃)で10分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄した後、乾燥した。処理した銅張エポキシ基材表面を目視で観察したところ、基材の銅箔表面に、腐食による黒斑は認められなかった(図1参照)。また、銅箔表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、基材の銅表面に銀ナノ粒子が付着している様子が観察された(図2参照、スケールバーは100nm)。
【0061】
(実施例2)
調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)に、酒石酸ナトリウムカリウム(5g/L)を混合して銀ナノ粒子の水分散液を調製し、擬似的な保存環境変化として、この水分散液を50℃で3日間加温した後、室温(25℃)まで放冷した。次いで、加温処理した水分散液中に、上記の前処理で得られた銅基材を、室温(25℃)で10分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄した後、乾燥した。浸漬処理した基材表面を目視で観察したところ、基材銅箔表面に、腐食による黒斑は認められなかった。
【0062】
(実施例3)
調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)を、擬似的な保存環境変化として、50℃で3日間加温した後、コハク酸2ナトリウム(10g/L)を加えて銀ナノ粒子の水分散液を得た。次いで、この分散液中に、上記の前処理を行った銅基材を、室温(25℃)で10分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄した後、乾燥した。浸漬処理した基材表面を目視で観察したところ、基材の銅表面には、腐食による黒斑は認められなかった。
【0063】
(実施例4)
調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)に、酒石酸ナトリウムカリウム(5g/L)を混合して銀ナノ粒子の水分散液を調製し、擬似的な保存環境変化として、50℃で3日間加温した後、室温(25℃)まで放冷した。次いで、加温処理した分散液中に、上記の前処理を行った鋼基材を、室温(25℃)で10分間浸漬して、取り出し、流水で1分間洗浄した後、乾燥した。浸漬処理した鋼材表面を目視で観察したところ、基材の鋼表面に目視で変化は確認されなかった(図5参照)。また、鋼材表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、鋼板製造時に発生したと考えられる物理的なキズ・ヒビ以外の凹凸は認められなかった(図6参照、スケールバーは500nm)。
【0064】
(比較例1)
上記の前処理を行った銅基材を、調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)に10分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄した後、乾燥した。浸漬処理した基材表面を目視で観察したところ、基材の銅表面に腐食による黒斑は認められなかった。
【0065】
(比較例2)
上記の前処理を行った銅基材を、調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)に硫酸銅5水和物(0.01g/L)を添加した浴に室温(25℃)で10分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄した後、乾燥した。浸漬処理した基材表面を目視で観察したところ、基板の銅表面には、多数の黒斑が確認された(図2参照)。黒斑部分をSEM観察すると、基材の銅にナノスケールの溝や孔が発生している様子が観察された(図4参照、スケールバーは100nm)。擬似的な不純物である硫酸銅を添加することで、銅表面に、腐食による黒斑が生じることが確認された。
【0066】
(比較例3)
調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)を50℃で3日間加温してから室温(25℃)に冷却した。
【0067】
次いで、上記の前処理を行った銅基材を、加温処理した銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)に室温(25℃)で10分間浸漬して取り出し、流水で2分間洗浄した後、乾燥した。浸漬処理した基材表面を目視で観察したところ、基板の銅表面には、腐食による多数の黒斑が確認された。
【0068】
(比較例4)
予め、調製例1で得られた銀ナノ粒子水分散液(0.5g/L)を50℃で3日間加温してから室温(25℃)に冷却した。次いで、上記の前処理を行った鋼基材を、加温処理した液の浴に室温(25℃)で10分間浸漬して取り出し、流水で1分間洗浄した後、乾燥した。浸漬処理した基材表面を目視で観察したところ、基材の鋼表面には、腐食による多数の茶斑が確認された(図7参照)。茶斑部分を走査型電子顕微鏡(SEM)観察すると、基材の鋼にナノスケールの微細な凹凸が発生している様子が観察された(図8参照、スケールバーは500nm)。
【0069】
上記の実施例1〜4及び比較例1〜4の結果を表1にまとめた。また、この結果から、次のことが確認できた。
【0070】
【表1】
【0071】
擬似的な不純物である硫酸銅は、腐食による黒斑の生成を促進するものであるが(比較例1と比較例2との対比)、クエン酸3ナトリウムを加えた本発明の金属ナノ粒子水分散液(実施例1)は、硫酸銅を加えたにもかかわらず、分散液中に浸漬した金属基板表面に黒斑の生成がなく、腐食や着色による外観不良を生じなかった。
【0072】
また、実施例2、3及び4の本発明の金属ナノ粒子水分散液は、保存環境の経時的な変化を擬似的に再現するために、銀ナノ粒子水分散液を加熱処理したにもかかわらず、分散液中に浸漬した金属基板表面に黒斑の生成がなく、腐食や着色による外観不良を生じなかった。
【0073】
一方、比較例3及び4は、本発明で用いる化合物(Z)を用いなかった例であるが、分散液中に浸漬した金属基板表面に、腐食による斑点状着色が発生して外観不良を生じた。
【要約】
本発明は、金属ナノ粒子(X)及び有機化合物(Y)の複合体と、乳酸、グリコール酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸及びこれらのカルボン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種以上の化合物(Z)とを含有することを特徴とする金属ナノ粒子水分散液を提供する。この金属ナノ粒子水分散液は、経時劣化や少量の不純物の混入による懸濁、凝集、沈殿を抑制できる。また、この金属ナノ粒子水分散液は、金属ナノ粒子を付与する基材表面に、該金属ナノ粒子を構成する金属よりもイオン化傾向の高い金属が存在した場合でも、腐食による特性低下や着色による基材の外観不良を生じず、安定化できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8