(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸5〜45mol%とを含む単量体成分を重合して得られる、重量平均分子量1000〜50000の水溶性共重合体を、水酸化マグネシウムが生成され得る逆浸透膜処理水系にpH10.5以上の状況下で用い、逆浸透膜処理において水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制するスケール防止方法。
前記水溶性共重合体は、リン非含有の(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体である請求項1記載のスケール防止方法。
(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸5〜45mol%とを含む単量体成分を重合して得られる、重量平均分子量1000〜50000の水溶性共重合体であり、
水酸化マグネシウムが生成され得る逆浸透膜処理水系にpH10.5以上の状況下で用いられる、逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤>
まず、本開示に係る逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤(以下、単に「スケール防止剤」ということがある。)について説明する。
【0015】
本開示に係るスケール防止剤は、逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane:RO膜)処理において、水酸化マグネシウムの析出を抑制し、RO膜にスケールが付着することを防止するものである。そして、このスケール防止剤の主成分は、(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを含む単量体成分を重合して得られるものであり、かつ重量平均分子量が1000〜50000の水溶性の共重合体である。
【0016】
本開示のスケール防止剤が適用される対象水系としては、水酸化マグネシウムが生成され得る逆浸透膜処理水系であれば、特に限定されない。ここで、「水酸化マグネシウムが生成され得る逆浸透膜処理水系」には、例えば、RO膜の被処理水中に水酸化マグネシウムが存在している場合や、RO膜の被処理水中にマグネシウム塩と、水酸化ナトリウム等の塩基物とが水溶液の状態で存在し、それらが反応することで水酸化マグネシウムが生成する場合等が含まれる。本開示のスケール防止剤は、RO膜を用いて、水酸化マグネシウムが生成される被処理水を回収する場合に、好適に用いられる。
【0017】
一方、海水淡水化向けのRO膜処理においては、ホウ素の除去率を高めるためにRO膜装置を高いpH(例えばpH8以上)でRO膜装置を運転する場合や、シリカスケールの生成を防止する目的でシリカの溶解度を高めるために高いpH(例えばpH8以上)でRO膜装置を運転する場合がある。このようにRO膜処理を高いpHで行う場合、水酸化マグネシウムスケールが生成し易い状態となる。
そのため、本開示のスケール防止剤は、pH8以上(pH8〜14)の状況下でのRO膜処理でより好適に用いられ、また、海水淡水化向けRO膜処理でより好適に用いられる。具体的には、本開示のスケール防止剤は、海水淡水化用RO膜でホウ素の除去率を高めるために、2段目のRO膜装置を高pHで運転する場合や、シリカスケールの生成を防止する目的でシリカの溶解度を高めるために、高pHで運転する場合に、好適に用いられる。
【0018】
本開示のスケール防止剤の主成分である水溶性共重合体は、重量平均分子量が1000〜50000である。なお、本開示において規定する重量平均分子量は、ポリアクリル酸ナトリウムを標準物質として用い、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定した値であり、以下の説明においても同様である。
水溶性共重合体は、重量平均分子量が1000〜50000であることにより、ゲル化し難く、かつ水酸化マグネシウムを吸着し易くなる。そのため、本開示のスケール防止剤をRO膜等の膜処理に用いる場合、膜面に水酸化マグネシウムスケールが生成し難く、膜面の閉塞を防止することが可能となる。
【0019】
水溶性共重合体の重量平均分子量が1000未満の場合、水溶性共重合体が水酸化マグネシウムに対して吸着し難く、水酸化マグネシウムスケールの析出抑制効果が十分に得られない可能性がある。
水溶性共重合体の重量平均分子量が50000を超える場合、水溶性共重合体とカチオンとの結合によりゲル化が生じ易く、カチオンの濃度が低い環境下でも、ゲル化して微小な析出物が生じ、RO膜のフラックス(透過流速)低下を招く可能性がある。
水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制する観点からは、水溶性共重合体の重量平均分子量は1000〜40000であることが好ましく、1000〜30000であることがより好ましく、1000〜20000であることがさらに好ましい。
【0020】
本開示のスケール防止剤の主成分である上記水溶性共重合体は、(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを含む単量体成分を重合して得られる。そのため、上記水溶性共重合体は、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に由来する構成単位とを有するといえる。
【0021】
本開示において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらの塩を意味し、これらのモノマーは、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本開示において、「2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸」とは、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又は2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を意味し、その一方又は両方を使用することができる
【0022】
上記水溶性共重合体を構成する単量体成分である2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の使用量(全単量体成分中の含有量)は、全単量体成分中、5〜45mol%である。この範囲内で2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が使用されれば、本開示のスケール防止剤はゲル化し難く、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制することができる。2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の全単量体成分中の含有量は、10〜40mol%であるのが好ましい。
【0023】
2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の全単量体成分中の使用量が5mol%未満であると、強電解質(スルホン酸基)が少なくなるため、ゲル化し易くなり、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制する効果も生じ難くなる可能性がある。また、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の全単量体成分中の使用量が45mol%を超えると、水溶性共重合体の分子構造の変化により、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制する効果が生じ難くなる可能性がある。
【0024】
上記水溶性共重合体を構成する単量体成分である(メタ)アクリル酸の使用量(全単量体成分中の含有量)は、全単量体成分中、55〜95mol%であるのが好ましい。この範囲内で(メタ)アクリル酸が使用されれば、ゲル化し難く、水酸化マグネシウムスケールに対して吸着し易いスケール防止剤が得易くなる。(メタ)アクリル酸の全単量体成分中の含有量は、60〜95mol%であるのがより好ましい。
【0025】
なお、(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸がより好ましく、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸がより好ましい。
【0026】
上記水溶性共重合体としては、リン非含有の(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体(二元共重合体)が好適に用いられる。ここで、「リン非含有」とは、リンを実質的に含有していないことであり、水溶性共重合体を構成する共重合可能な単量体成分として、リンを含むモノマーを用いていないことをいう。この水溶性共重合体としては、リン非含有のアクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体(二元共重合体)がより好適に用いられる。
【0027】
水溶性共重合体として、リン非含有の(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸コポリマーが用いられる場合、そのコポリマーの重量平均分子量は1000〜40000が好ましく、5000〜30000がより好ましく、10000〜20000がさらに好ましい。
【0028】
また、水溶性共重合体の単量体成分には、RO膜処理水系における排水のリン濃度をほとんど増加させない程度の少量のリンが含まれているモノマーを用いることもできる。ここで、「少量のリン」としては、当該少量のリンを含む水溶性共重合体をRO膜処理水系に添加した場合に、RO膜処理の被処理水中のリン酸イオン濃度が、好ましくは0.5mg/L(1mg
solid/L中)以下となり、より好ましくは0.2mg/L(1mg
solid/L中)以下となるような量をいう。
【0029】
少量のリンを含む水溶性共重合体としては、下記式(I)で表される、ホスフィン酸(次亜リン酸)に由来する構成単位(ホスフィン酸基)を有する水溶性共重合体を用いることができる。
【0031】
上記式(I)中、Aは(メタ)アクリル酸を表し、Sは2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を表し、XはH、Na、K、又はNH
4を表す。
【0032】
この水溶性共重合体は、(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と、ホスフィン酸(次亜リン酸)とを含む単量体成分を重合して得ることができる。このような付加重合物は、ホスフィノポリカルボン酸と称される。
ホスフィン酸が用いられる場合、ホスフィン酸の全単量体成分中の含有量は、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制する観点、及び排水のリン濃度の増加を抑える観点から、5〜25mol%が好ましく、10〜20mol%がより好ましく、10〜15mol%がさらに好ましい。
【0033】
(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と、ホスフィン酸とを含む単量体成分を重合して得られる水溶性共重合体は、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制する効果を高められることから好適である。
【0034】
水溶性共重合体として、ホスフィン酸に由来する構成単位を有する水溶性共重合体が用いられる場合、その共重合体の重量平均分子量は、1000〜10000が好ましく、1000〜5000がより好ましく、1000〜3000がさらに好ましい。
【0035】
上記水溶性共重合体を構成する単量体成分には、前述のホスフィン酸以外にも、(メタ)アクリル酸及び2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸に共重合可能な他のモノマーが含まれていてもよい。
【0036】
(メタ)アクリル酸と2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とに共重合可能な他のモノマーは、特に限定されないが、環境負荷を低減する観点から、リンを含有しないものが好ましい。
上記共重合可能な他のモノマーとしては、具体的には、カルボン酸、モノエチレン性不飽和炭化水素、モノエチレン性不飽和酸のアルキルエステル、モノエチレン性不飽和酸のビニルエステル、及び置換アクリルアミド等が挙げられる。
【0037】
上記他のモノマーとしてカルボン酸を用いる場合、そのカルボン酸には、マレイン酸及びエポキシコハク酸等を使用することができる。
上記他のモノマーとしてモノエチレン性不飽和炭化水素を用いる場合、そのモノエチレン性不飽和炭化水素としては、特に限定されず、直鎖、分岐、又は環状の何れの構造のものを用いてもよいが、炭素数3〜8のものが好ましく、例えば、イソブチレン及びスチレンを使用することができる。
上記他のモノマーとしてモノエチレン性不飽和酸のアルキルエステルを用いる場合、そのアルキルエステルとしては、炭素数1〜8のものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピルアクリレート、N−ブチルアクリレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートを使用することができる。
上記他のモノマーとしてモノエチレン性不飽和酸のビニルエステルを用いる場合、そのビニルエステルとしては、炭素数1〜8のものが好ましく、例えば、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等を使用することができる。
上記他のモノマーとして置換アクリルアミドを用いる場合、その置換アクリルアミドは、アクリルアミドが、水素及び/又は炭素数1〜4のアルキル基で置換されたものが好ましく、例えば、アクリルアミド、プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、及びジエチルアクリルアミド等を使用することができる。
なお、これらの他のモノマー成分は、上記水溶性共重合体の単量体成分として含まれる場合、単独で使用しても、複数組み合わせて使用してもよいが、1〜2種を用いるのが好ましい。
【0038】
上記他のモノマーが用いられる場合、(メタ)アクリル酸及び2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(並びに他のモノマーとしてカルボン酸が用いられる場合は当該カルボン酸も含む)等のアニオン性単量体の使用量は、全単量体成分中、95mol%以上(95mol%以上100mol%以下)であることが好ましい。
また、この場合、(メタ)アクリル酸と2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのモル比は、95:5〜55:45が好ましく、90:10〜60:40がより好ましい。
【0039】
上記水溶性共重合体の製造方法及び重合方法は特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル酸及び2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸をそれぞれ所定量用いて、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、及び塊状重合等の重合方法により、上記水溶性共重合体を合成することができる。
この水溶性共重合体の重合に用いる開始剤としては、公知の過酸化物開始剤を適宜選択して使用することができる。具体的には、ジベンゾイルペルオキシド、第三ブチルペルペンゾエート、ジクミルペルオキシド、第三ブチルヒドロペルオキシド、及び第三ブチルペルオキシド等を使用することができる。この場合の重合形式は、回分式及び連続式の何れかでもよく、重合時間は、例えば2〜5時間の範囲で行うことが可能であり、重合温度は例えば40〜100℃の範囲で行うことが可能である。
【0040】
また、上記水溶性共重合体は水性媒体中で合成する水性重合によって得ることも可能である。水性重合においては、例えば、水溶性共重合体を構成する各単量体成分を含む、水溶液又は水分散液を調整し、必要に応じてpHの調整を行い、不活性ガスにより雰囲気を置換した後、50〜100℃に加熱し、水溶性重合開始剤を添加すればよい。その際使用する水溶性重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、アゾビス−N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン二塩酸塩及び4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)−2−ナトリウム等のアゾ化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウム等の過硫酸塩、並びに過酸化水素及び過ヨウ素酸ナトリウム等の過酸化物を使用することができる。
【0041】
また、水性重合の場合の重合条件は、特に限定されるものではないが、例えば、2〜6時間重合した後、放冷することにより、重合体水溶液又は水分散液を得ることができる。なお、上記水溶性共重合体の重合は、水性媒体中に限らず、一般的な有機溶媒中での溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等によっても行うことができる。
【0042】
本開示のスケール防止剤には、前述した(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを含む単量体成分を重合して得られる共重合体に加えて、本開示の目的を阻害しない範囲において、他の添加剤を含んでいてもよい。当該他の添加剤としては、例えば、スライムコントロール剤、酵素、殺菌剤、着色剤、香料、水溶性有機溶媒及び消泡剤等が挙げられる。
スライムコントロール剤としては、例えば、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩、クロルメチルトリチアゾリン、クロルメチルイソチアゾリン、メチルイソチアゾリン、エチルアミノイソプロピルアミノメチルチオトリアジン、次亜塩素酸、次亜臭素酸、及び次亜塩素酸とスルファミン酸の混合物等を使用することができる。
【0043】
以上詳述したように、本開示のスケール防止剤は、(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを含む単量体成分を重合して得られる水溶性共重合体を主成分としている。そのため、本開示のスケール防止剤は、RO膜処理において、排水中のリン濃度を著しく増加させるようなことがなく、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制することが可能である。また、本開示のスケール防止剤は、それ自体がRO膜に吸着し難いため、RO膜のフラックス(透過流束)の低下を防止することが可能である。
【0044】
さらに、上記水溶性共重合体は、その重量平均分子量が1000〜50000であるため、ゲル化し難く、かつ水酸化マグネシウムを吸着し易い。これにより、この水溶性共重合体をRO膜等の膜処理に用いる場合、膜面に水酸化マグネシウムスケールが生成し難く、膜面の閉塞を防止することが可能となる。そのため、この水溶性共重合体は、逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤として好適である。
【0045】
<スケール防止方法>
次に、本開示に係るスケール防止方法について説明する。なお、本開示に係るスケール防止方法の説明では、その方法の要素を主に説明し、上記スケール防止剤の説明で述べた事項については重複説明を省略することがある。
【0046】
本開示のスケール防止方法は、上述の本開示に係る水溶性共重合体を主成分とするスケール防止剤を、水酸化マグネシウムが生成され得るRO膜処理水系(前述の対象水系)に添加することである。このスケール防止剤をRO膜処理水系に添加することで、RO膜処理において生成するおそれのある水酸化マグネシウムスケールの発生を抑制することが可能となる。
【0047】
本開示のスケール防止方法において、スケール防止剤の添加方法は、特に限定されるものではなく、スケールの付着を防止したい場所やその直前等で添加すればよい。また、スケール防止剤の添加量も、特に限定されるものではなく、RO膜処理水系の被処理水の水質等に応じて適宜選択することができる。
例えば、本開示のスケール防止剤を、上記水溶性共重合体の濃度が0.01〜100mg/Lとなるように添加することが好ましく、上記水溶性共重合体の濃度が0.1〜10mg/Lとなるように添加することがより好ましい。スケール防止剤のRO膜処理水系に対する添加量を、上記水溶共重合体の濃度範囲とすることで、水酸化マグネシウムスケールの生成の抑制効果を高めることが可能となる。
【0048】
本開示のスケール防止方法では、RO膜処理水系に対して、上記水溶性共重合体を添加することに加えて、必要に応じて、他のスケール防止剤を添加してもよい。他のスケール防止剤の添加方法としては、上記水溶性共重合体を主成分とする本開示に係るスケール防止剤に混合して添加してもよく、別々に添加してもよい。
【0049】
本開示に係るスケール防止剤と併用する他のスケール防止剤としては、例えば、ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル酸、マレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体、マレイン酸/イソブチレン共重合体、マレイン酸/スルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/スルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/ノニオン基含有モノマー共重合体、及びアクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマー三元共重合体等が挙げられる。
【0050】
上記他のスケール防止剤として用い得る共重合体における「スルホン酸」としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2―メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸4−スルホブチル、アリルオキシベンゼンスルホン酸、及びメタリルオキシベンゼンスルホン酸、並びにそれらの金属塩等が挙げられる。
【0051】
また、上記他のスケール防止剤として用い得る共重合体における「ノニオン基含有モノマー」としては、例えば、炭素数1〜5のアルキルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、付加モル数が1〜30の(ポリ)エチレン/プロピレンオキサイドのモノ(メタ)アクリレート、及び付加モル数が1〜30のモノビニルエーテルエチレン/プロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0052】
以上のとおり、本開示に係るスケール防止方法では、上述の水溶性共重合体を主成分とするスケール防止剤をRO膜処理水系に添加するため、RO膜処理において、排水中のリン濃度をほとんど増加させるようなことなく、水酸化マグネシウムスケールの析出を抑制することが可能である。また、本開示のスケール防止方法では、上述の本開示に係るスケール防止剤自体がRO膜に吸着し難いことから、RO膜のフラックス(透過流束)の低下を防止することが可能である。
【0053】
ところで、上記特許文献3には、水酸化マグネシウム用スケール防止剤として、マレイン酸を主成分として含むスケール防止剤の使用が提案されている。水酸化マグネシウム用スケール防止剤として、マレイン酸が用いられているのは、マレイン酸のマグネシウムに対する親和性が高いことによるものと考えられる。そして、スケール防止剤の技術分野においては、マグネシウムへの親和性という観点では、アクリル酸系のポリマーの使用は向いていないと考えられていた。
しかしながら、本開示のスケール防止剤をRO膜処理水系に用いることで、意外にも、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制することができることが見出されたのである(後記実施例参照)。このように、本開示のスケール方法では、使用するスケール防止剤の単量体成分として、マレイン酸を含有せずとも(マレイン酸非含有でも)、RO膜処理水系において効果的に水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制することができる。
【0054】
以上詳述した、本開示のスケール防止方法を、RO膜処理水系のRO膜処理等を管理するための装置(例えば、パーソナルコンピュータ等)及び/又はRO膜処理装置のCPU等を含む制御部及び記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ等)、HDD、CD等)等を備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、制御部によって実現させることも可能である。
【0055】
なお、本開示の逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤及びスケール防止方法が適用されるRO膜処理水系の水質条件及び運転条件は特に限定されない。
【0056】
本開示に係るスケール防止方法及び逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤は、以下のような構成をとることもできる。
[1] (メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸5〜45mol%とを含む単量体成分を重合して得られる、重量平均分子量1000〜50000の水溶性共重合体を、水酸化マグネシウムが生成され得る逆浸透膜処理水系に添加し、逆浸透膜処理において水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制するスケール防止方法。
[2] 前記水溶性共重合体は、(メタ)アクリル酸を55〜95mol%含む前記単量体成分を重合して得られるものである上記[1]に記載のスケール防止方法。
[3] 前記水溶性共重合体は、リン非含有の(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体である上記[1]又は[2]に記載のスケール防止方法。
[4] 前記水溶性共重合体は、さらにホスフィン酸を含む前記単量体成分を重合して得られるものである上記[1]〜[3]の何れか1つに記載のスケール防止方法。
[5] (メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とを含む単量体成分を重合して得られる、重量平均分子量1000〜50000の水溶性共重合体であり、水酸化マグネシウムが生成され得る逆浸透膜処理水系に添加される、逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤。
[6] 前記水溶性共重合体は、(メタ)アクリル酸を55〜95mol%含む前記単量体成分を重合して得られるものである上記[5]に記載の逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤。
[7] 前記水溶性共重合体は、リン非含有の(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体である上記[5]又は[6]に記載の逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤。
[8] 前記水溶性共重合体は、さらにホスフィン酸を含む前記単量体成分を重合して得られるものである上記[5]〜[7]の何れか1つに記載の逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤。
[9] 水酸化マグネシウムが生成され得る逆浸透膜処理水系に、(メタ)アクリル酸と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸5〜45mol%とを含む単量体成分を重合して得られる、重量平均分子量1000〜50000の水溶性共重合体を所定量添加するように前記逆浸透膜処理水系を制御する、逆浸透膜処理用水酸化マグネシウムスケール防止システム。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本開示に係るスケール防止方法及び逆浸透膜用水酸化マグネシウムスケール防止剤の効果について具体的に説明する。
【0058】
本実施例においては、後述する「フラックスの測定」に示す方法で、実施例1〜4のスケール防止剤、及び比較例1〜5のスケール防止剤について、その性能を評価した。
実施例1〜3及び比較例1〜3では、表1及び表2に記載のモノマー成分(組成)を当該表に記載のモル比にて重合して得た重合物をスケール防止剤として用いた。また、実施例4では、ホスフィノポリカルボン酸(BWA社 Belclene400)をスケール防止剤として用い、比較例4及び5では、表2に記載のモノマーをスケール防止剤として用いた。
【0059】
実施例1〜4及び比較例1〜5で用いたスケール防止剤を添加したときの試験溶液中のリン酸イオン濃度を表1及び表2に示す。リン酸イオン濃度の測定は、全リンを測定する手法であるペルオキソ二硫酸カリウム分解法により行った。具体的には、各試験溶液にペルオキソ二硫酸カリウムを添加し、120℃で30分間加熱した後、モリブデン酸及びL−アスコルビン酸を添加し、比色法により全リンを測定した。
【0060】
また、重合物をスケール防止剤として用いた実施例1〜4及び比較例1〜3については、その重量平均分子量M
wを表1及び表2に示す。
なお、表1及び表2において、AAはアクリル酸、AMPSは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、SHMPはヘキサメタリン酸、HEDPはヒドロキシエチリデンホスホン酸を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
<フラックスの測定>
先ず、膜の初期性能を測定するため、500mg/LのNaCl水溶液を、ポリアミド系の逆浸透膜(日東電工株式会社製 ES20)に、操作圧を0.75MPa、回収率を50%、水温(操作温度)を25℃として通水し、フラックス(Flux)を所定時間測定した。
【0064】
次に、塩化マグネシウム:10mg
CaCO3/L、実施例1〜4及び比較例1〜5のスケール防止剤(重合物):1mg/L、重炭酸ナトリウム:10mg
CaCO3/Lを加えた後、水酸化ナトリウム水溶液と硫酸水溶液でpHを10.5に調製した水溶液を、ポリアミド系の逆浸透膜(日東電工株式会社製 ES20)に、操作圧を0.75MPa、回収率を50%、水温(操作温度)を25℃として通水し、フラックス(Flux)を所定時間測定した。
【0065】
その結果を、
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2は、500mg/LのNaCl水溶液におけるフラックスを1とし、試験溶液で測定したフラックスとの比(フラックス比:縦軸)の経時変化(RO膜への通水時間:横軸)を示す図である。また、
図1及び
図2に示すブランク(Blank)は、スケール防止剤を添加していないときのフラックス比である。
【0066】
図1及び
図2に示すように、Blankでは、フラックスの低下が見られたが、実施例1〜4のスケール防止剤を添加したものでは、いずれもフラックスの低下が抑制されていた。これにより、実施例1〜4のスケール防止剤を添加したRO膜処理水系では、水酸化マグネシウムスケールの析出が抑制され、安定したRO膜処理が可能であることがわかった。
【0067】
また、フラックスの低下速度を比較すると、実施例1〜4<比較例2及び4<比較例5<比較例1<比較例3<Blankの順であることがわかる。
実施例と比較例1を比較すると、AA/AMPS共重合体は、その重量平均分子量が1000〜50000の範囲にあることで、フラックスの低下を抑制できることが確認された。
実施例と比較例2及び3とを比較すると、AA/AMPS共重合体は、AMPSの使用量(単量体成分中の含有量)が5〜45mol%であることで、フラックスの低下を抑制できることが確認された。
実施例と比較例4及び5とを比較すると、実施例は、低いリン酸イオン濃度で(実施例1〜3ではリン酸イオンを含まずに)、フラックスの低下を抑制できることが確認された。よって、実施例では、排水中のリン酸濃度をほとんど増加させることなく、RO膜処理において、水酸化マグネシウムスケールの生成を抑制できることがわかった。
以上の結果より、実施例のスケール防止剤は、水酸化マグネシウムスケールの生成を効果的に抑制することができ、RO膜を安全に運転できることがわかった。