(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
織布や不織布、編布などの布帛に、文字、絵、図柄などの画像を印捺する捺染方法として、水性の顔料インクを使用した顔料捺染法が知られている。顔料捺染法は、着色顔料及びバインダー樹脂からなる顔料組成物である捺染剤を印刷した後、必要に応じ乾燥硬化工程を経て基材に固着させる方法である。この印刷方法としては、スクリーン紗の図柄を布帛に連続的に印刷するシルクスクリーン法(例えば特許文献1参照)、あるいはノズルよりインクを噴射し布帛に付着せしめるインクジェット記録法等(例えば特許文献2参照)が知られている。
【0003】
顔料捺染法は染料を使用した捺染法に比べ、繊維種による着色剤の選定を必要とせず、加工方法も単純であり、また蒸し工程や水洗・ソーピング工程も必要としないため、エネルギーコストがかからない。しかも廃液が発生しないため、環境面において安全な加工方法である。しかしながら顔料捺染法は、洗濯堅牢度などの堅牢性を得るために、十分量の顔料固着用バインダー樹脂を必要とし、時としてこのバインダー樹脂による不具合が生じる場合があった。
【0004】
堅牢性を付与するための顔料固着用バインダー樹脂としては、通常、高分子量のアクリルやウレタンなどの水分散型樹脂が使用される。
スクリーン紗による捺染加工では、これら高分子量のバインダー樹脂を十分量添加していても、問題なく印刷は可能である。しかしバインダー樹脂は皮膜化しやすいために、時として、該バインダー樹脂が乾燥固着して、水に不溶性の樹脂膜が張り、スクリーン紗の目詰まりなどの問題を引き起こすことがあった。特に、細かい絵柄(網点又は線)のある写真調の図柄に適用すると、乾燥が早いためハイライト部が目詰りし易い。また、版上にインクが残っている状態で印刷作業を停止した時には、版上でインクが乾燥し、印刷作業を再開した際、乾燥固着したインクが容易に再溶解せず(これを、以後再溶解性と称す)にインク転移がしづらく、印刷ができない問題があった。
【0005】
一方、インクジェット記録法では、数十μmの非常に細いノズルからインク滴を吐出して画像を記録する印刷方法であるため、ノズル先端でのインクの乾燥固着は、吐出安定性に直接悪影響を与える。
汎用の紙用印刷に使用されるインクジェット記録用水性インクは、この影響を考慮した設計が既に行われており、例えば、乾燥固着によりノズルを詰まらせないことに配慮したインクや、印字の長期休止後にノズル詰まりが発生しても、クリーニング操作で吐出可能となるインクの開発が進んでいる。(例えば特許文献3〜5参照)
しかしながら、これらの紙への印字を主目的として開発されたインクは、布への適用を考慮したものではないため、該インクを捺染用のインクジェット記録用インクとして布帛への印捺に適用した場合、堅牢性を得ることが困難であった。
堅牢性を得るために、スクリーン記録法と同等にバインダー樹脂を配合したインクは、インク粘度が高くなりすぎて吐出自体が困難であったり保存安定性が悪化する、という問題や、また前記特許文献3〜5に記載の方法であってもノズル詰まりが解消できないという場合が生じてしまう。
【0006】
インクジェット記録法による顔料捺染法に関し、特許文献6には、顔料を水に分散可能とした分散体と、水と、ポリウレタン樹脂とを少なくとも含んでなるインクジェット記録用インク組成物であって、記分散体が樹脂微粒子を含むポリマー層で被覆することによって水に分散可能とした顔料を含み、前記分散体の平均粒径が20〜300nmであり、かつ前記ポリウレタン樹脂が、構成成分として、下記式(I)または/および式(II)で表される化合物を含んでなる、堅牢性と吐出安定性に優れたインクジェット記録用インク組成物が開示されている。
特許文献6に開示されたインクは、連続吐出試験法による吐出安定性に優れる旨が開示されている(例えば段落0087参照)。しかしながら、印字の長期休止後のノズル詰まりに対する知見については、なんら開示されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(顔料)
本発明で使用する顔料は特に限定はなく、通常、スクリーン記録用インクや水性インクジェット記録用インクの顔料として使用されているものを着色剤として使用できる。具体的には、水や水溶性有機溶剤に分散可能な公知の無機顔料や有機顔料が使用できる。無機顔料としては例えば、酸化チタン、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等がある。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0016】
顔料の具体例としては、カーボンブラックとして、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、等が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、 15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0017】
本発明においては、顔料表面に水分散性付与基を有し、分散剤が無くとも安定に分散状態が維持できる、いわゆる自己分散型顔料(表面処理顔料)でも良いし、顔料表面の全体をポリマーで被覆し、これにより分散剤が無くとも安定に分散状態が維持できる、いわゆるカプセル顔料(水分散性ポリマー包含顔料)でも良いし、分散剤により分散された顔料を使用してもよい。
【0018】
(水溶性溶媒及び/または水)
本発明で使用する水溶性溶媒及び/または水は、従来よりインクジェット記録用水性インクの調製に用いられているものをいずれも使用できる。
水溶性溶媒としては、例えば、1価又は多価のアルコール類、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、環状エーテル類、グリコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ポリアルキレングリコール類、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類,エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類および多価アルコールアラルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類、1,3−ジメチルイミダゾリジノンアセトン、N−メチルー2−ピロリドン、m−ブチロラクトン、グリセリンのポリオキシアルキレン付加物、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルスルホキシド、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどである。これらは、単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
また水としては、水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、インク組成物を長期保存する場合にカビまたはバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0020】
(ウレタン樹脂)
本発明で使用するウレタン樹脂は、特に制限はなく、ジイソシアネート化合物とジオール化合物とを反応して得られる水溶性または水分散性のポリウレタン樹脂を使用することができる。
【0021】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらジイソシアネートの変性物(カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン含有変性物など)等が挙げられる。
【0022】
ジオール化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドやテトラヒドロフラン等の複素環式エーテルを(共)重合させて得られるジオール化合物が挙げられる。ジオール化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルジオール、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペート等のポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。これらの中では、ポリエーテル系、ポリエステル系及びポリカーボネート系のうち1種以上が好ましい。
【0023】
また、上記の他、カルボン酸基、スルホン酸基などの酸性基を有するジオール化合物も使用でき、その具体例としては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸などが挙げられる。これらの中では、ジメチロールプロピオン酸が好ましい。これらのジオール化合物は、2種以上を併用してもよい。
ポリウレタン樹脂としては、望ましくは、ジオール化合物としてポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のジオールを用いて得られるポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0024】
ポリウレタン樹脂の形態も特に限定されない。代表的には、エマルジョンタイプ、例えば、自己乳化エマルジョンや、自己安定化タイプが挙げられる。特に、上記の化合物のうちカルボン酸基、スルホン酸基などの酸性基を有するジオールを用いたり、低分子量のポリヒドロキシ化合物を添加したり、酸性基を導入したウレタン樹脂、中でもカルボキシル基を有するものが望ましい。
【0025】
ポリウレタン樹脂はプレポリマー法によって合成してもよく、その際、低分子量のポリヒドロキシ化合物を使用してもよい。低分子量のポリヒドロキシ化合物としては、上記のポリエステルジオールの原料として挙げたグリコール及びアルキレンオキシド低モル付加物、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール、そのアルキレンオキシド低モル付加物などが挙げられる。
ウレタンプレポリマーは、ジメチロールアルカン酸に由来する酸基を中和した後または中和しながら水延長またはジ若しくはトリアミン延長することが出来る。アミン延長の際に使用するポリアミンとしては、通常ジアミン又はトリアミンが挙げられる。また、その具体例としてはヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン等が挙げられる。上記の中和の際に使用する塩基としては、例えば、ブチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、モルホリン、アンモニア、水酸化ナトリウム等の無機塩基が挙げられる。
【0026】
また、本発明に用いるポリウレタン樹脂は、直鎖状(リニアー)であることが皮膜物性の観点からは好ましいが、直鎖状ポリウレタン樹脂であることの特徴を損なわない範囲において、必要に応じて、前記した原料に加えて、3官能以上の活性水素化合物や3官能以上の有機ポリイソシアネート化合物を適宜併用して、3次元網目構造を有するポリウレタン樹脂を、直鎖状のポリウレタン樹脂に極少量含有させても良い。
【0027】
ポリウレタン樹脂は、中和したものを使用することもできる。中和に使用する塩基としては、例えば、ブチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、モルホリン、アンモニア、水酸化ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。ポリウレタン樹脂の酸価は特に限定されないが、好ましくは、5〜100mgKOH/gの範囲が好ましく、特に好ましくは、10〜80mgKOH/gである。なお発明において酸価は、JIS試験方法K 0070−1992に準拠して測定した酸価とした。
【0028】
更に、本発明において使用するバインダー樹脂は、顔料を繊維上に固着するためのものであるが、配合量が多いと堅牢性は向上する一方、繊維の風合いが硬くなる。従ってインクに対し20質量%以下が好ましく、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下とするのが良い。また、繊維の風合いを柔軟なものとするため、バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−60〜50℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは−40〜20℃、更に好ましくは、−30〜0℃の範囲のものである。
【0029】
前記ウレタン樹脂の重量平均分子量(GPC−Mw)は特に限定はないが、重量平均分子量(GPC−Mw)が80,000〜220,000の範囲、さらには100,000〜200,000の範囲であることが、水性インクジェット記録用インクとの保存安定性や粘度などの物性バランスを確保しやすいので好ましい。
なお、ここでいう重量平均分子量(GPC−Mw)は、下記の条件でGPC測定により求めたものとする。
【0030】
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製「HLC−8220 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「SuperHZ−L」(内径4.6mm×2cm)
+東ソー株式会社製「TSKgel SuperHZ4000」(内径4.6mm×15cm)
+東ソー株式会社製「TSKgel SuperHZ3000」(内径4.6mm×15cm)
+東ソー株式会社製「TSKgel SuperHZ2000」(内径4.6mm×15cm)
+東ソー株式会社製「TSKgel SuperHZ1000」(内径4.6mm×15cm)
測定条件:カラム温度 40℃
流速 0.35ml/分
試料:樹脂水溶液を乾燥固化し、樹脂固形分換算で0.5質量%のテトラヒドロフラン(THF)溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(10μl)。
校正曲線:単分散標準ポリスチレンSTK standardポリスチレン(東ソー株式会社製)分子量4000000〜250までのサンプルによる校正曲線を使用した。
【0031】
前記ウレタン樹脂が水分散体であるとき、該粒径は、インクジェットインクの吐出性の観点から5nm〜1000nmの範囲であることが好ましく、10nm〜400nmの範囲であることがなお好ましい。
【0032】
前記ウレタン樹脂は、市販品を使用してももちろん構わない。
市販品としては、DIC社製のハイドランシリーズ、三洋化成工業社製のパーマリンシリーズ、三洋化成工業社製のユーコートシリーズ、アデカ社製のアデカボンタイターHUXシリーズ、バイエル社製のインプラニールシリーズ等を使用できる。
【0033】
前記ウレタン樹脂は、インクに対して0.3質量%〜12質量%の範囲で使用することが一般的である。0.6質量%〜9質量%が好ましく、さらには、1.0質量%〜6質量%が最も好ましい。
【0034】
前記ウレタン樹脂と顔料との比率は、通常スクリーン記録用インクやインクジェット記録用インクに使用する範囲の比率でよく、例えばウレタン樹脂と顔料との比率=1:3〜8:1の範囲が好ましい。
堅牢性は前述の通り使用するウレタン樹脂の分子量が寄与し、高い分子量であるほど高い堅牢性を与えるが、この他に、バインダーの使用量も堅牢性に寄与する。従って、より高い堅牢性を得るためには、バインダーの使用量は多いほうが好ましく、本発明のウレタン樹脂においては、例えば1:1〜8:1であると、より高い堅牢性を与える。但し高分子量のバインダー樹脂の過剰な使用は、高粘度化につながるため、インクジェット記録用インクに適用する場合は、粘度とのバランスを考慮してバインダーの使用量を決定することが好ましい。
【0035】
(1,2-アルカンジオールとグリコールエーテル)
本発明で使用する1,2−アルカンジオールやグリコールエーテルは、いずれも、浸透剤としてインクジェットインク用の添加剤としては公知の化合物である。
【0036】
前記1,2−アルカンジオールは、水と相溶性を有し、かつインク組成物に含まれる顔料、上記のポリマー、さらにはpH調整剤や後記する種々の成分を安定に溶解または分散させて保持する目的に使用される。
具体的には、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のように、炭素数が5または6の1,2−アルカンジオールが好ましい。これらの中でも、炭素数が6の1,2−ヘキサンジオールおよび4−メチル−1,2−ペンタンジオールがより好ましい。1,2−アルキレングリコールの添加量は、インク全体に対し0.3〜30質量%が好ましく、より好ましくは10〜20質量%である。
【0037】
また、前記グリコールエーテルは水との溶解性が低く他の成分の溶解性を向上させ、さらに記録媒体(例えば紙)に対する浸透性を向上させ、またノズルの目詰まりを防止する機能が期待できる。例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテルなどのグリコールエーテル類を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし各種併用して使用してもよい。
【0038】
また、同様の機能を有するホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホランやエタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類と併用してもよい。
【0039】
中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、またはトリエチレングリコールモノヘキシルエーテルが、にじみがより低減でき、印刷品質向上が期待でき好ましい。
【0040】
本発明においては、前記1,2-アルカンジオールを組成物全量に対し10〜20質量%の範囲で含有することが必須であり、インクにおける高分子量のバインダー樹脂の再溶解性の向上が期待でき好ましい。更に本発明においては、グリコールエーテルを、組成物全量に対し7質量%を超えない量で含有することがなお好ましい。
【0041】
(インクの製造方法)
本発明のインクは、前記顔料の分散液(顔料ペースト)を作成し、それを水溶性溶媒及び/または水で希釈し、前記ウレタン樹脂、グリコールエーテルと、1,2−アルカンジオール、必要に応じてその他の添加剤を添加して、インクを調製することができる。
【0042】
前記顔料を前記水溶性溶媒及び/または水に分散させて顔料ペーストを得る方法は特に限定はなく、公知の分散方法を使用することが好ましい。この時使用する分散剤も、公知の顔料分散剤やバインダーを使用して水に分散してもよいし、界面活性剤を使用してもよい。
前記顔料分散剤としては水性樹脂がよく、好ましい例としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、及び該水性樹脂の塩が挙げられる。
前記共重合体の塩を形成するための化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化アルカリ金属類、およびジエチルアミン、アンモニア、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンなどが挙げられる。これらの塩を形成するための化合物の使用量は、前記共重合体の中和当量以上であることが好ましい。
また市販品を使用することも勿論可能である。市販品としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BYK−シリーズ、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製のEFKAシリーズ等を使用できる。
【0043】
また、分散方法としては、例えば以下(1)〜(3)を示すことができる。
(1)顔料分散剤及び水を含有する水性媒体に、顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を該水性媒体中に分散させることにより、顔料ペーストを調製する方法。
(2)顔料、及び顔料分散剤を2本ロール、ミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を、水を含む水性媒体中に添加し、攪拌・分散装置を用いて顔料ペーストを調製する方法。
(3)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等のような水と相溶性を有する有機溶剤中に顔料分散剤を溶解して得られた溶液に顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、前記有機溶剤を留去し顔料ペーストを調製する方法。
【0044】
混練機としては、特に限定されることなく、例えば、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどがあげられる。
また、攪拌・分散装置としても特に限定されることなく、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を挙げられる。
これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記顔料ペーストに占める顔料量は5〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。顔料量が5質量%より少ない場合は、前記顔料ペーストから調製した水性インクの着色が不充分であり、充分な画像濃度が得られない傾向にある。また、逆に60質量%よりも多い場合は、顔料ペーストにおいて顔料の分散安定性が低下する傾向がある。
【0046】
また、粗大粒子が、ノズル詰まり、その他の画像特性を劣化させる原因になるため、インク調製前後に、遠心分離、あるいは濾過処理等により粗大粒子を除去することが好ましい。
【0047】
前記顔料ペーストを作成した後、適宜希釈し添加剤を添加して、目的に応じた水性顔料組成物を得る。前記水性顔料組成物の形態は着色したい繊維に応じて浸染、捺染など好ましい処理方法に合わせて任意に選択される。例えば用途が、捺染用に適したスクリーン記録用インクでは、添加剤として、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、架橋剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を使用し、最終的な顔料濃度は1〜10質量%の範囲が好ましい。このような場合、前記添加剤は、前記のバインダー樹脂と一緒に添加することが好ましい。
【0048】
また、例えば用途が浸染用の水性顔料組成物の場合は、添加剤として、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、架橋剤等とバインダー樹脂を使用し、最終的な顔料濃度は1〜10質量%の範囲が好ましい。また粘度は1mPa・s〜100mPa・sの範囲で装置に合わせて任意に設定される。また、例えば、用途が、スプレー捺染用の水性顔料組成物では添加剤として、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等とバインダー樹脂を使用し、最終的な顔料濃度は1〜10質量%の範囲が好ましい。また粘度は1mPa・s〜100mPa・sの範囲で装置に合わせて任意に設定される。
【0049】
また、例えば用途が、捺染用に適したインクジェット記録用インクでは、添加剤として、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を使用し、最終的な顔料濃度は、充分な画像濃度を得る必要性と、インク中での顔料の分散安定性を確保するために、1〜20質量%であることが好ましい。このような場合、前記添加剤は、前記バインダー樹脂と一緒に添加することが好ましい。また希釈率は、前記界面活性剤水溶液の濃度を鑑みた上で、必要濃度に希釈し、その後超音波処理を行うことで、インクジェット記録用インクを調整することができる。
【0050】
前記インクジェット記録用インクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、20mN/m以上40mN/m以下である。表面張力が20mN/m未満となるとノズル面に液体が溢れ出し、正常に印字できない場合がある。一方、60mN/mを超えると非吸収基材でのはじきが発生し易い傾向がある。 また粘度は、1.2mPa・s以上20.0 mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2.0 mPa・s以上 15.0mPa・s未満、更に好ましくは3.0mPa・s以上 12.0 mPa・s未満である。粘度がこの範囲において、優れた吐出性と、長期間にわたる良好な噴射性の維持が達成できる。
【0051】
前記希釈、添加剤添加方法は、特に限定なく従来一般的に用いられる方法により行うことができる。例えば、前記顔料ペーストと、バインダー樹脂、添加剤として界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、酸化防止剤または紫外線吸収剤、防腐剤等、希釈率に応じた溶媒を混合した後、各種分散機や攪拌機、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、パールミル等を利用して分散・混合する方法が挙げられる。必要に応じてこの後に更に各種添加剤を添加してもよい。
【0052】
(被着体)
本発明の製造方法で得た水性顔料組成物を各種インクとして使用する際は、紙等の汎用の被着体はもちろん、布帛、人工皮革、天然皮革等に対しても印字することができる。特に布帛に対しての印捺に特に優れる。
本発明で使用する布帛は、繊維で構成される媒体であることが好ましく、織物の他不織布でもよい。素材は綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、レーヨン等の任意の天然・合成繊維からなる布帛を用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の記載において部および%は質量部を示す。
【0054】
<顔料ペーストの作成>
スチレン−マレイン酸ハーフエステル((株)岐阜セラック製造所製の製品名「DSS−25」、酸価:116mgKOH/g、重量平均分子量:42,000、SP:11.0)15部、水酸化カリウム1.57部(スチレン−マレイン酸ハーフエステル中の酸性基の総量に対して0.90当量に相当する量)及び水83.43部を、撹拌機を用いて、70℃で混合撹拌することにより、半透明の樹脂分散液を得た。前記樹脂分散液85部及び銅フタロシアニン顔料(PB15:3、DIC社製の製品名FASTOGEN BLUE 5327 WET)15部(固形分換算)を混合撹拌し、この混合物に0.3mmφセラミックビーズ500部を加えた後、6筒式サンドグラインダーで6時間摩砕した。摩砕終了後、セラミックビーズを分離して、ミルベースを得た。上記で得たミルベース70部、水30部を混合撹拌し、出力600Wで超音波ホモジナイザーを用いて、3時間細分化処理して、顔料ペーストを得た。
【0055】
<実施例 水性顔料組成物の調製>
前記顔料ペースト17.14部と、溶媒(水、水溶性溶媒、油溶性溶媒等)、バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂(DIC(株)製 ハイドランWLS−213 重量平均分子量150,000)8.57部を添加して、実施例の水性顔料組成物を得た。各水性顔料組成物の組成は別表に示した。各例の添加時に分散攪拌機(特殊機化工業(株)製のTKホモディスパー L)にて十分攪拌した。その後、再溶解性の評価を実施した。
【0056】
<比較例 水性顔料組成物の調製>
前記顔料ペースト17.14部と、溶媒(水、水溶性溶媒、油溶性溶媒等)、バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂(DIC(株)製 ハイドランWLS−213 重量平均分子量150,000)8.57部を添加して、比較例の水性顔料組成物を得た。各水性顔料組成物の組成は別表に示した。各例の添加時に分散攪拌機(特殊機化工業(株)製のTKホモディスパー L)にて十分攪拌した。その後、実施例と同様の方法で、再溶解性の評価を実施した。
【0057】
<再溶解性の評価>
得られた実施例及び比較例の水性顔料組成物30μLをスライドガラス上に塗布し、実験室温で24時間および50℃にて7分間放置し、試験板を作成した。その後、室温の水に30秒間浸漬し、再び溶解するかを目視で確認した。30秒間浸漬し、取り出した後にスライドガラス上に着色成分が確認されず、かつ浸漬液に粒状の未溶解分が確認されなかったものを「良好」、スライドガラスもしくは浸漬液に若干の溶け残りが確認されたものを「やや良好」、スライドガラスもしくは浸漬液に著しく未溶解物があるものを「不良」と判定した。表中では、この判定基準を基に、下記の表1のように評価した。
なお、本実験において「良好」と判定のでる水性顔料組成物は、スクリーン記録法で再溶解性を示し、あるいはインクジェット記録法において、印字の長期休止後のクリーニング操作で、容易に吐出可能となる。
【0058】
実施例及び比較例の水性顔料組成物の組成、再溶解性の評価結果を、表1〜5に示す。表中の配合の単位は部である。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
実施例1〜9の結果から、本願の水性顔料組成物は、いずれも良好な再溶解性を示すことが分かる。一方、比較例1〜5及び8〜15は、1,2−アルカンジオールが組成物全量に対し10質量%に満たない例であるが、いずれも再溶解性が低かった。また比較例6、7はグリコールエーテルを、組成物全量に対し7質量%を超えない量で含有する例であるが、いずれも再溶解性が低かった。