【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔調製例1〕
(ポリ(ニッケル 1,1,2,2−エテンテトラチオラート)(可溶化PETT)の調製)
1,3,4,6−テトラチアペンタレン−2,5−ジオン(TPD、試薬、東京化成工業株式会社製)1g、ナトリウムメトキシド(試薬、和光純薬工業株式会社製)1.2g、及びドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(DTAB、試薬、和光純薬工業株式会社)6.8gを、メタノール200mL中に溶解させた。得られた溶液を、12時間加熱還流させた。次いで、溶液中に塩化ニッケル(II)無水(試薬、和光純薬工業株式会社製)0.63gを加えた。塩化ニッケル(II)無水の添加後、さらに、溶液を12時間加熱還流させた。12時間還流後、溶液を室温下に12時間静置し、沈殿を生成させた。生成した黒色の沈殿物を吸引ろ過により回収した。回収された沈殿物を、メタノール2L、水2L、及びジエチルエーテル50mLを順に用いて洗浄した後、乾燥させて、可溶化PETTを得た。
【0046】
得られた可溶化PETTの元素組成を分析したところ、その元素組成は、Ni:15.25質量%、Na:0.48質量%、S:38.56質量%、C:30.76質量%、N:1.49質量%、H:4.38質量%であった。この結果から、得られた可溶化PETTが、ナトリウムメトキシドに由来するナトリウムイオンと、DTABに由来するドデシルトリメチルアンモニウムイオンとを含んでいることが分かる。
【0047】
また、得られた可溶化PETTのジメチルスルホキシドやN−メチル−2−ピロリドン等の極性有機溶剤に対する溶解性を確認したところ、得られた可溶化PETTとこれらの極性有機溶剤を用いて、濃度約3質量%の溶液を調製可能であることが分かった。
【0048】
〔調製例2〕
(電荷移動錯体(TTF−TCNQ)の調製)
7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ、試薬、東京化成工業株式会社製)1020.87mgを、アセトニトリル250mLに加え、室温下で12時間撹拌してTCNQのアセトニトリル溶液を得た。次いで、テトラチアフルバレン(TTF、試薬、東京化成工業株式会社製)1021.88mgをアセトニトリル60mgに加えた後、室温で10分間超音波を照射して、TTFのアセトニトリル溶液を得た。
得られたTCNQのアセトニトリル溶液と、TTFのアセトニトリル溶液と混合した後、室温で30分間撹拌した。撹拌により、アセトニトリル中に黒色の沈殿が生成した。沈殿をろ過により回収した後、乾燥させた。乾燥させた沈殿をアセトニトリルで洗浄した後、80℃で15時間真空下に乾燥させて、電荷移動錯体(TTF−TCNQ)1905.50mg(収率93.3%)を得た。
【0049】
以下、実施例及び比較例において、(A)成分である絶縁性樹脂として、下記のPVC及びPIを用いた。
PVC:ポリ塩化ビニル(試薬、和光純薬工業株式会社製)
PI:ポリイミド(Solpit A、ソルピー工業株式会社製)
【0050】
以下、実施例及び比較例において、(B)成分である無機熱電変換材料として、B1及びB2を用いた。
B1:単層カーボンナノチューブ(Pure Tubes(商品名)、Aldrich社製、平均長1μm、平均径1.4nm)を用いた。
B2:単層カーボンナノチューブ(Single−Walled Carbon Nanotubes、平均径0.8nm、Aldrich社製)
【0051】
以下、実施例及び比較例において、(C)成分である電荷輸送材料として、以下のC1〜C3を用いた。
C1:調製例1で得られたPETT
C2:調製例2で得られた電荷移動錯体(TTF−TCNQ)
C3:テトラチアフルバレン(TTF、試薬、東京化成工業株式会社製)
【0052】
各実施例及び比較例について、得られたフィルム、又はシートをメタノール処理(MeOH処理)する場合、メタノール処理は以下の方法に従って行った。
【0053】
<メタノール処理方法>
まず、フィルム、又はシートをメタノール中に30分間浸漬させた。次いで、フィルム、又はシートをメタノール中から引き揚げ、70℃のホットプレート上で15分間加熱して、フィルム又はシート乾燥させた。
【0054】
各実施例及び比較例で得られた、フィルム、シート、又はブロックについて、それぞれ340Kでの、ゼーベック係数(S)、導電率(σ)、及びパワーファクター(PF)を、熱電特性評価装置ZEM−3を用いて測定した。これらの測定結果を表1に記す。
【0055】
また、各実施例及び比較例で得られた、フィルム、又はシートを手で触れ、崩壊、破れ、裂け等が容易に生じるか否かを確認した。製膜性について、フィルム、又はシートを手で触れた場合に、崩壊、破れ、裂け等が容易に生じる場合を「×」と評価し、崩壊、破れ、裂け等が容易に生じない場合を「○」と評価した。これらの評価結果を表1に記す。
【0056】
〔比較例1及び2〕
試薬として購入したシート状のB1を、4mm×16mmの大きさに切り取り、石英基板に張り付けて、ZEM−3で熱電特性を測定した。膜の厚さは18μmであった。
比較例1で得たシートについてはメタノール処理を施さず、比較例2で得たシートについてはメタノール処理を施した。
【0057】
〔比較例3及び4〕
(A)成分の含有量と、(C)成分の含有量との比率が、表1に記載の比率であり、分散液中の(A)成分の含有量と、(C)成分の含有量との合計が0.5質量%となるように、(A)成分及び(C)成分を、N−メチル−2−ピロリドンと均一に混合して、分散液を得た。(A)成分及び(C)成分としては、表1に記載の種類のものを用いた。得られた分散液を石英基板上にキャストした後、石英基板を60℃で10時間加熱して、膜厚8μmのフィルムを得た。
比較例3で得たシートについてはメタノール処理を施さず、比較例4で得たシートについてはメタノール処理を施した。
【0058】
〔比較例5〜7〕
(A)成分の含有量と、(B)成分の含有量との比率が、表1に記載の比率であり、分散液中の(A)成分の含有量と、(B)成分の含有量の合計が0.5質量%となるように、(A)成分及び(B)成分を、N−メチル−2−ピロリドンと均一に混合して、分散液を得た。(A)成分及び(B)成分としては、表1に記載の種類のものを用いた。得られた分散液を石英基板上にキャストした後、石英基板を60℃で10時間加熱して、膜厚7μmのフィルムを得た。
比較例5及び6で得たシートについてはメタノール処理を施さず、比較例7で得たシートについてはメタノール処理を施した。
【0059】
比較例5で得られたフィルムについては、熱伝導率κ(W/mk)を測定し、無次元性能指数(ZT)を求めた。
熱伝導率κを測定する際、フィルムの比熱Cp(J/gK、25℃)は、示差走査熱量計(DSC 204 F1 Phoenix、ネッチジャパン社製)を用いて測定した。フィルムの熱拡散率α(mm
2/S、25℃)は、ナノフラッシュアナライザ−(LFA 447/2−4/InSb NanoFlash Xe、ネッチジャパン社製)を用いて測定した。フィルムの密度ρ(g/cm
3)は、アルキメデス法で測定した。測定された各値は、以下の通りである。
Cp:0.88(J/gK、25℃)
α:0.079(mm
2/S、25℃)
ρ:0.83(g/cm
3)
【0060】
上記の測定値から、下式に従って求めたκの値は、0.058(W/mK)であった。
(熱伝導率算出式)
κ=α×Cp×ρ
【0061】
上記のκの値と、表1に記載される、ゼーベック係数(S)、及び導電率(σ)の値から、下式に従って、無次元性能指数(ZT)を算出した。算出されたZTの値は、70℃において0.02であった。
(無次元性能指数算出式)
ZT=(S
2×σ×T)÷κ(Tは絶対温度)
【0062】
〔比較例8〕
調製例2で得られた電荷移動錯体(TTF−TCNQ、C2)をめのう乳鉢で粉砕した。電荷移動錯体(C2)110.34mgを、ペレット作成用の金型に充填した後、電荷移動錯体(C2)の粉末をプレス機でプレスして、10mm×3.0mm×2.3mmのブロック状のペレットを得た。比較例8ではペレットを作成委したため、製膜性の評価を行わなかった。
比較例8で得たペレットについてはメタノール処理を施さなかった。
【0063】
〔比較例9〕
(B)成分(単層カーボンナノチューブ、B1)4.22mg、及び(C)成分(TTF、C3)5.27mgを、N,N−ジメチルホルムアミド2mLと均一に混合して分散液を得た。得られた分散液を石英基板上にキャストした後、石英基板を80℃で2時間加熱した。次いで、石英基板を110℃で30分間加熱して、膜厚6.3μmのフィルムを得た。
比較例9で得たペレットについてはメタノール処理を施さなかった。
【0064】
〔実施例1〜3〕
(A)成分の含有量と、(B)成分の含有量と、(C)成分の含有量との比率が、表1に記載の比率であり、分散液中の(A)成分の含有量と、(B)成分の含有量と、(C)成分の含有量との合計が0.5質量%となるように、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を、N−メチル−2−ピロリドンと均一に混合して、分散液を得た。(A)成分、(B)成分、及び(C)成分としては、表1に記載の種類のものを用いた。得られた分散液を石英基板上にキャストした後、石英基板を60℃で10時間加熱して、膜厚6.8μmのフィルムを得た。
実施例1で得たシートについてはメタノール処理を施さず、実施例2及び3で得たシートについてはメタノール処理を施した。
【0065】
実施例1で得たフィルムについて、比較例5と同様に熱伝導率κ(W/mk)を測定し、無次元性能指数(ZT)の値を算出した。その結果、実施例1で得たフィルムのZTの値は、343Kで0.31であった。
【0066】
〔実施例3〕
PVCを、PIに変えることの他は、実施例2と同様にして、CNTと、PETTと、樹脂とを、実施例2と同濃度でNMP中に含む塗布液を得た。得られた塗布液を用いて、実施例2と同様にして、フィルム形成と、フィルムのメタノール処理とを行った。
【0067】
〔実施例4〕
(A)成分(PVC)1.36mgと、(B)成分(単層カーボンナノチューブ、B2)3.61mg、及び(C)成分(TTF、C3)4.52mgを、N,N−ジメチルホルムアミド2mLと均一に混合して分散液を得た。得られた分散液を石英基板上にキャストした後、石英基板を80℃で2時間加熱した。次いで、石英基板を110℃で30分間加熱して、膜厚4.8μmのフィルムを得た。
実施例4で得たフィルムについてはメタノール処理を施さなかった。
【0068】
〔実施例5〕
(A)成分(PVC)1.36mgと、(B)成分(単層カーボンナノチューブ、B1)3.61mg、及び(C)成分(TTF−TCNQ、C2)4.52mgを、N,N−ジメチルホルムアミド2mLと均一に混合して分散液を得た。得られた分散液を石英基板上にキャストした後、石英基板を80℃で2時間加熱した。次いで、石英基板を110℃で30分間加熱して、膜厚6.7μmのフィルムを得た。
実施例5で得たフィルムについてはメタノール処理を施さなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
比較例1及び2によれば、(B)無機熱電変換材料として単層カーボンナノチューブのみを用いる場合、可撓性に優れるフィルムを形成できないことが分かる。
【0071】
比較例3及び4によれば、(A)絶縁性樹脂と、(C)電荷輸送材料とからなる樹脂組成物を用いる場合、(C)電荷輸送材料が熱電変換能を有する材料であっても、熱電変換特性に優れるフィルムを形成できないことが分かる。
【0072】
比較例5〜7によれば、(A)絶縁性樹脂と、(B)無機熱電変換材料とからなる樹脂組成物を用いる場合、熱電変換特性に優れるフィルムを形成できないことが分かる。また、比較例1及び2と、比較例5〜7との比較によれば、(B)無機熱電変換材料自体が優れた熱電変換特性を備えていても、(B)無機熱電変換材料が(A)絶縁性樹脂からなるマトリックス中に分散されることによって、フィルムの熱電変換特性が大きく損なわれることが分かる。
【0073】
比較例8によれば、(C)無機熱電変換材料のみを用いる場合、可撓性に優れるフィルムを形成できないことが分かる。
【0074】
比較例9によれば、(B)無機熱電変換材料と、(C)電荷輸送材料とからなる樹脂組成物を用いる場合、熱電変換特性にやや劣るフィルムしか形成できないことが分かる。
【0075】
実施例1〜5によれば、(A)絶縁性樹脂と、(B)無機熱電変換材料と、(C)電荷輸送材料とを含む樹脂組成物を用いてフィルムを形成する場合、熱電変換特性及び可撓性に優れるフィルムを形成できることが分かる。
【0076】
実施例1と実施例2との比較によれば、メタノール等の有機溶剤で樹脂組成物からなるフィルムを処理する場合、フィルムの導電性が高まることと、それにともないフィルムのパワーファクター(PF)が高まることとが分かる。つまり、実施例1及び実施例2から、所定の成分を含む樹脂組成物からなるフィルムを、特定の種類の処理液で処理する場合に、フィルムの熱電変換特性を高められることが分かる。