(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フィルタープレスは、固液分離操作に使用され、例えば、数μm程度から数mm程度の粒子を含むスラリーを固液分離する際などに使用される。フィルタープレスの種類としては、重圧ろ過、真空ろ過、加圧ろ過等がある。
【0003】
フィルタープレスでは、高い圧力をかけてスラリーをろ布に圧し当てて、固体と液体を分離する。フィルタープレスの構造上、プレス板に挟まれたろ布の厚さ方向は外面に直接接する状態となり、ここから液が漏れる場合がある。このため、ろ布の周縁部には、樹脂を塗布し、ろ布の厚さ方向から液が外に漏れないような加工処理が行われる。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のろ布10は、
図3に示すように、ろ布10の周縁部及びろ布10の組織内部に合成樹脂を含浸固化し、空隙などに合成樹脂を完全に充填した樹脂層11が形成されている。特許文献1には、ろ布10に合成樹脂を含浸させることで、濾液などの漏れを防止する技術が記載されている。合成樹脂の例としては、シリコン系ゴム、ポリウレタン樹脂などが好適に使用可能であり、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ゴムなどを使用することができる旨が記載されている。
【0005】
また、特許文献1の実施例1には、0.9mmの厚さのろ布に対して1.5mmの厚みとなるようにシリコンゴムの樹脂層を形成することが記載されている。さらに、特許文献1の実施例2には、0.89mmの厚さのろ布に対して1.5mmの厚みとなるようにポリウレタン樹脂層を形成することが記載されている。即ち、特許文献1では、樹脂層をろ布の厚みの2倍近い厚さとすることで、液漏れを防止している。
【0006】
このように、特許文献1では、ろ液の漏れ防止には顕著な効果があることが示されており、ろ液の収率低下や設備周辺の汚損を防止するために有効な技術と考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に記載のろ布は、
図3に示すように、ろ布周縁部からのろ液漏れを防ぐために、密封性を重視し、樹脂のみからなる樹脂層11aの表面がろ布10を構成する糸の表面より高い位置にある。即ち、同一の裁断面で見た場合、ろ布10を構成する糸が含まれない樹脂だけで形成された層11aが厚付けとなっている。
【0009】
このため、フィルタープレスに装着した場合には、樹脂同士が対面して接触する際に密閉構造を形成することができ、液の漏洩を防ぐには有効とされてきたが、フィルタープレスによるろ過を繰り返して行うと、短期間で漏れが発生するという不具合が生じる。
【0010】
これは、
図3に示すようなろ布10を同一の裁断面で考えた場合、ろ布10自身を構成する糸を含まず塗布された樹脂だけで形成された層11aにより、フィルタープレスで濾過を行う際に、対面したろ布10が強い圧力で密着し、樹脂同士が強固に張り付いてしまう。そのため、その後で、ケーキを排出する際には、樹脂同士が強固に張り付く力が、樹脂の構造的な強度を超えてしまう部分が出てきて、いずれかの樹脂に張り付いたままで剥離してしまう。よって、この操作を繰り返すことにより、剥離部分は次第に大きくなり、最終的に剥離部分が連結して、ろ液などが漏れ出す通路を形成することが原因であると考えられる。
【0011】
また、特許文献1に記載されているようなろ布10は、例えばろ過原液として、固形分が平均粒径D50で1μm程度の粒子で、固形分重量比が10重量%であり、液体成分中に後工程で不純物となる成分が含まれるスラリーをフィルタープレスでろ過すると液漏れが発生する場合がある。
【0012】
この液漏れは、例えば0.3MPaの送液圧力で固形分のケーキを形成するステップの後、更に液体成分中の不純物成分を洗浄するために、例えば、時間短縮のために、0.5MPaの送液圧力で洗浄液を送液する、いわゆる貫通洗浄のステップを10バッチ〜15バッチ程度繰り返した際に、貫通洗浄ステップにおいて発生する。
【0013】
このような操業をそれ以上のバッチ回数繰り返すと、ケーキを形成するためのステップでも液漏れが発生するので、ろ布の交換を余儀なくされる。このため、操業効率が低下してしまう。
【0014】
このため、ろ布の周縁部及びろ布の組織内部に合成樹脂を含浸固化したフィルタープレス用ろ布において、耐久性を向上させる必要がある。
【0015】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、高い耐久性を有し、破損が抑制され、液漏れを防いで、操業効率を向上させることが可能なフィルタープレス用ろ布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成する本発明に係るフィルタープレス用ろ布は、シリコン樹脂又はポリウレタン樹脂を含浸させたフィルタープレス用ろ布において、周縁部に形成されるシリコン樹脂又はポリウレタン樹脂
のみからなる層の厚さが、ろ布を構成する糸の直径の0%を超えて25%以下の厚さであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、高い耐久性を有し、繰り返しプレスされても破損が抑えられ、破損による液漏れ、及び高い圧力の送液よる液漏れも防止でき、操業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を適用したフィルタープレス用ろ布について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0020】
フィルタープレス用ろ布1(以下、単にろ布1という。)は、
図1に示すように、糸2を平織、綾織や朱子織、2重織等の一般的な織り方で織った織布3の周縁部及び内部に合成樹脂を含浸させて樹脂層4が形成されたものである。
【0021】
糸2は、特に限定されず、マルチフィラメント糸等の原糸、単一又は複数種類の複数本の原糸を撚った撚糸等であり、一般的なフィルタープレス用ろ布に使用されている糸であればよく、高い強度が得られるため撚糸が好ましい、糸2の太さ(直径)は、特に限定されないが、例えば0.2mm〜0.8mmである。なお、糸2の太さとは、原糸の直径又は撚糸の場合は撚糸の直径である。
【0022】
ろ布1は、
図1及び
図2に示すような同一の裁断面で見た場合、糸2を含まず合成樹脂のみからなる樹脂層4aの厚さtが限定された範囲である。
図2に示すように、合成樹脂のみからなる樹脂層4aの断面形状は、糸2の太さの25%以下の厚さだけ盛り上がっている。
【0023】
合成樹脂のみからなる樹脂層4aの厚さtとは、
図2に示すように、ろ布1を構成する糸2の最大の高さから樹脂層4aの表面までの距離をいう。
【0024】
ろ布1は、例えば、裁断形状において、ろ布1を構成する糸2の最大の高さとなる点をつなぎ合わせて形成される面Sを織布3の表面とし、織布3の片側面に形成される樹脂のみからなる樹脂層4aの表面位置が、織布3の表面と同一の位置より高く(0%を越えた位置)、糸2の直径の25%以下の位置までの高さで織布3の両面側に樹脂のみからなる樹脂層4aが形成されている。即ち、糸2の直径の0%を超えて25%以下の厚さとは、周縁部に形成される樹脂層4aの表面が糸2で織られた織布3の表面と実質的に同一平面上に形成されており、糸2と樹脂とからなる複合材料となり、複合材料的な効果を得ることができる。
【0025】
ろ布1では、樹脂のみからなる樹脂層4aの厚みが厚すぎないため、樹脂層4が形成された表面、特に糸2の最大の高さあたりの表面において、糸2と樹脂とが混合して存在する状態となっている。これにより、ろ布1の表面では、糸2と樹脂とで構成された複合材料の構成となる。このため、ろ布1では、フィルタープレスで濾過を行う際に、対面したろ布1同士が強い圧力で密着しても、樹脂同士が強固に張り付かないため、樹脂同士が張り付いたまま強制的に剥離するような状況とならない。即ち、ろ布1では、樹脂を剥離させる力に対して周縁部の樹脂層4が形成された部分の強度が高くなり、樹脂同士が張り付いたまま強制的に剥離するようにならないため、樹脂層4の破損を防止でき、ひいては液漏れの防止とろ布寿命の延長の効果が得られる。
【0026】
なお、樹脂のみからなる樹脂層4aの厚さtは、ろ布1を製造する際のコスト削減となるため、できるだけ小さい方が好ましい。
【0027】
このような樹脂層4aを形成するには、織布3に樹脂を塗布すればよく、塗布の方法は特に限定されない。例えば、塗布する樹脂の粘度や固形率にもよるが、織布3の周縁部に樹脂を複数回ハケ塗りし、1回のハケ塗りと溶剤揮発のための乾燥を行う毎に、ハケ塗りした部分に斜め上方から光をあてて、表面を観察すれば、糸2が樹脂層4から露出している間は陰影ができる。したがって、この陰影が無くなった時をハケ塗り回数の最後とすれば容易に製造することができる。
【0028】
また、例えば、織布3の周縁部に樹脂を含浸させる際に、スクリーン印刷の技術を応用してスキージ(ゴム製のヘラ状治具)で塗り込む方法、塗布面をローラで圧接しながら塗布する方法、又はスプレーによる塗工方法があり、塗布後は上述のように表面状態を陰影で確認すればよい。
【0029】
樹脂を塗布する際には、塗布しやすいように粘度に調整する必要がある。例えば、1液性のウレタン樹脂やシリコン樹脂をハケで塗布する場合には、希釈剤として専用のシンナーを用いて樹脂を塗布しやすい程度に希釈し粘度を調整する。
【0030】
希釈する場合には、希釈割合が高いと樹脂濃度が下がり、1回あたりの塗布厚が薄くなり、所望の厚みにする為には多回数塗布する必要があり、また、乾燥時間も長くなることから製作時間がかかる問題が生ずる。一方、希釈割合が低い場合には、製作時間の問題は改善されるが、塗りによる厚みムラが生じ、樹脂表面の凹凸によるろ液漏れが生じやすくなる。そのため、樹脂の調合には、樹脂濃度が適切となるようにする必要があり、例えば10%程度に希釈することが好ましい。
【0031】
樹脂は、シリコン樹脂又はポリウレタン樹脂であり、これらの樹脂は樹脂同士が密着しても粘着力が弱いため張り付きが弱くなることから好ましい。
【0032】
以上のようなフィルタープレス用ろ布1は、樹脂のみからなる樹脂層4aの厚みが厚すぎず、樹脂層4aの厚みを糸2の直径の0%を超えて25%以下の厚みとすることで、ろ布1の表面が糸2と樹脂の複合材料となり、樹脂を剥離させる力に対して樹脂層4が形成された全体の強度が高くなるため、高い耐久性が得られ、樹脂層4の破損を防止でき、ひいては液漏れの防止とろ布寿命の延長の効果が得られる。
【0033】
また、フィルタープレス用ろ布1は、フィルタープレス操業のステップとして、貫通洗浄のステップを必要とするろ過原液のろ過に適用した場合には、ケーキ形成のステップよりも高い圧力でろ布1を密着させる貫通洗浄のステップを繰り返し行っても、破損を防止できるため、液漏れを防止でき、ろ布1の交換回数を低減することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(ろ布)
ろ布としては、次のようなものを用いた。
ろ布を構成する糸:複数本のマルチフィラメント糸を撚った撚糸、撚糸の直径は、0.4mm
織布の厚み:1.0mm(納入された新品の状態)
【0036】
(塗布した樹脂)
樹脂1:ウレタン樹脂を塗料用シンナーで濃度10%に希釈したもの
(関西ペイント社製、製品名:カンペ1液MレタンHG、ウレタン樹脂系塗料)
樹脂2:シリコン樹脂を塗料用シンナーで濃度10%希釈させたもの
(関西ペイント社製、製品名:カンペ1液Mシリコン、シリコン樹脂系塗料)
【0037】
(塗布方法)
塗布する箇所(ろ布の周縁部)以外の部分をマスキングし、樹脂をハケ塗りにより塗布し、乾燥した。
【0038】
(樹脂の表面状況)
状況1:樹脂のみの層の厚さ(
図1中厚さtに相当)が、0.08mmのもの
樹脂の塗布及び乾燥毎に、斜めから光を当てて、陰影がなくなってから、更に1度塗りを施した。
状況2:樹脂のみの層の厚さ(
図1中厚さtに相当)が、0.2mmのもの
状況2は、状況1から、更に3回のハケ塗りを施した。
なお、いずれの状況においても、裁断面を観察すると、ろ布厚さの範囲以内では、樹脂が充分に含浸され空隙にも充填されていた。
【0039】
(フィルタープレス装置)
ろ室を1〜30室備えた、一般的な加圧式のフィルタープレス装置(株式会社栗田機械製作所、クリタ式MFT−A−VW−N1型全自動フィルタープレス)を用いた。
【0040】
(ろ過原液)
固形分が平均粒径D50で1μmの粒子で、固形分重量比が10重量%であり、液体成分中に後工程で不純物となる成分が含まれるスラリーを用いた。
【0041】
[実施例1]
実施例1では、ろ過原液をフィルタープレス装置でろ過する際に、ろ布に、樹脂としては樹脂1を使用し、状況としては状況1のものを使用し、ろ過圧力としては0.3MPaのケーキ形成ステップだけの操業を実施した。その結果、100バッチ以上の操業をしても、ろ液などの漏れは発生しなかった。
【0042】
[実施例2]
実施例2では、ろ過原液をフィルタープレス装置でろ過する際に、ろ布として、樹脂2及び状況1のものを使用し、ろ過圧力としては0.3MPaのケーキ形成ステップだけの操業を実施した。その結果、80バッチの操業をしても、ろ液などの漏れは発生しなかった。
【0043】
[実施例3]
実施例3では、ろ過原液をフィルタープレス装置でろ過する際に、ろ布として、樹脂1及び状況1のものを使用し、ろ過圧力としては0.3MPaのケーキ形成ステップと、0.5MPaの貫通洗浄ステップを交互に繰り返す操業を実施した。その結果、100バッチの操業をしても、ろ液などの漏れは発生しなかった。
【0044】
[実施例4]
実施例4は、ろ過原液をフィルタープレス装置でろ過する際に、ろ布として、樹脂2及び状況1のものを使用し、ろ過圧力としては0.3MPaのケーキ形成ステップと0.5MPaの貫通洗浄ステップを交互に繰り返す操業を実施した。その結果、60バッチの操業をしても、ろ液などの漏れは発生しなかった。
【0045】
[比較例1]
比較例1では、ろ過原液をフィルタープレス装置でろ過する際に、ろ布として、樹脂1及び状況2のものを使用し、ろ過圧力としては0.3MPaのケーキ形成ステップだけの操業を実施した。その結果、20バッチ以降の操業で、ろ液などの漏れが確認され、30バッチ以降の操業では大量に漏れが発生したため、ろ布の交換を余儀なくされた。
【0046】
[比較例2]
比較例2では、ろ過原液をフィルタープレス装置でろ過する際に、ろ布として、樹脂1及び状況2のものを使用し、ろ過圧力としては0.3MPaのケーキ形成ステップと0.5MPaの貫通洗浄ステップを交互に繰り返す操業を実施した。その結果、10バッチ以降の操業で、ろ液などの漏れが確認され、15バッチ以降の操業ではケーキ形成のステップでも大量の漏れが発生したため、ろ布の交換を余儀なくされた。
【0047】
以上のように、本発明を適用したフィルタープレス用ろ布では、比較例と比べてろ布の寿命は少なくとも2倍となり、好適な条件で比較すれば、最大で、ろ布の寿命が6倍以上となることがわかる。したがって、本発明を適用したフィルタープレス用ろ布では、繰り返しプレスされても破損が抑えられ、破損による液漏れ、及び高い圧力による送液においても液漏れを防止でき、操業効率を向上させることができる。