(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス板と、前記ガラス板の端面に形成された炭素数が8以上の疎水基を有するアンモニウム塩若しくはピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が200〜100万のカチオンポリマーからなる円滑性改善膜と、を有し、
前記円滑性改善膜の、ポリエチレン系樹脂、エラストマゴム又は発泡性樹脂に対する動摩擦係数が1.0以下であることを特徴とする円滑性改善膜付きガラス板。
ガラス板の端面に、炭素数が8以上の疎水性基を有する4級アンモニウム塩若しくはピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が200〜100万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、前記陽イオン界面活性剤又は前記カチオンポリマーからなり、ポリエチレン系樹脂、エラストマゴム又は発泡性樹脂に対する動摩擦係数が1.0以下である円滑性改善膜を形成する工程を有することを特徴とする円滑性改善膜付きガラス板の製造方法。
炭素数が8以上の疎水性基を有する4級アンモニウム塩若しくはピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が200〜100万のカチオンポリマーからなり、ポリエチレン系樹脂、エラストマゴム又は発泡性樹脂に対する動摩擦係数が1.0以下である円滑性改善膜を端面に有するガラス板の複数枚が介在シートを介して積層されたガラス板積層体とする積層工程と、前記端面がガラス板梱包容器のガラス板の底受け板に接触するように収容、固定し、梱包する梱包工程と、を有することを特徴とする円滑性改善膜付きガラス板の梱包方法。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板等のフラットパネルディスプレイ、有機EL照明、及び太陽電池等の電子デバイスに用いられるガラス板の大型化のニーズが高まっている。従来、このような大型のガラス板を移送するガラス板梱包体として、特許文献1、2に開示された縦置きのガラス板梱包体が知られている。
【0003】
このガラス板梱包体は、台座、底板、及び背板等から構成されており、台座の上面には搭載面が形成され、この搭載面は、機械加工により所定の平坦度に仕上げられている。この搭載面上に上記底板が所定の傾斜角度で設置され、この底板上にガラス板の下端面が載置される。背板も同様に上記搭載面上に所定の角度で立設され、この背板にガラス板の主面が受けられる。また、ガラス板梱包体には、背板に受けられたガラス板の側方部に当接されてガラス板の側方移動を規制する側方押さえ部材が設けられているものもある。したがって、ガラス板は、背板の傾斜角度をもって底板上に積載されるとともに側方押さえ部材によって側方の位置ずれが規制された状態で、ガラス板梱包体に梱包される。
【0004】
ところで、特許文献1、2に開示された縦置きのガラス板梱包体に積層したガラス板においては、厚さが薄くなると(例えば、厚さ0.1mm〜0.7mm)、移送等の振動で、底板と接触しているガラス板の下端から割れ易くなるという傾向がある。この原因は、ガラス板の厚さが薄いことでガラスの端面に残る切断時の応力が影響していると考えられている。
【0005】
そこで、ガラス板梱包体の底板上には、ガラス板の端面の割れを防止するために、クッション機能を備えたシート材が貼着されている。特許文献1に開示されたシート材は、弾性率が高く、弾性回復率の高い素材でかつ、ガラス板下端面との摩擦によっても埃が出にくく、脱ガスの少ない材料であるポリエチレン系又はエラストマが使用されている。また、特許文献2に開示されたシート材は、ゴムや発泡性樹脂等のクッション材が使用されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2のシート材は、その素材の性質によりガラス板に対するクッション性は備えているものの、クッション性が良好であるが故に、例えば底板の表面に凹凸があった場合、その凸部にガラス板の下端面がシート材を介して点支持されてしまうことから、その点支持部に応力が集中してガラス板の下端が割れ易くなるという問題があった。また、シート材の軟質な表面が、振動するガラス板の下端面で削られていき、クッション性が早期に悪化するという問題もあった。
【0007】
一方、ガラス板をガラス板梱包容器に積層していく際に、ガラス板の下端側のガラス板同士の間隔がどうしても広がっていく傾向にある。この場合には、背板と対向する側である最も表面側に位置するガラス板を背板側に押し込んでガラス板積層体の下端側のガラス板同士の隙間を詰めていく作業を行う。その際、詰められていくガラス板の下端は、クッション性を備えたシート材にある程度めり込んでいるため滑り性が悪く、過度の力をガラス板に加えるとガラス板の下端が損傷するという問題があった。このような問題は、移送時の振動でも発生していた。
【0008】
特許文献3は、このような問題を改善するものとして、ガラス板にとって良好なクッション性を備えるとともに適度な硬さと良好な滑り性を有する表面性状を備えたガラス板梱包容器のシート材が開示されている。このシート材によれば、良好なクッション性によりガラス板の下端面を受けとめ、ガラス板の下端面によって容易に削られない表面硬さと、ガラス板の下端を円滑に滑らせる滑り性表面とを両立した性能を備えている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の円滑性改善膜付きガラス板、その製造方法及び梱包方法について、以下、図面を参照しながら説明する。
【0020】
[円滑性改善膜付きガラス板]
図1Aは、本発明の円滑性改善膜付きガラス板の一実施形態であり、その概略構成を示す平面図であり、
図1Bは
図1Aにおけるガラス板のA−A断面図である。この円滑性改善膜付きガラス板1は、ガラス板2と、その端面に形成された円滑性改善膜3で構成されている。
【0021】
ここで用いられるガラス板2は、多角形状、好ましくは矩形状のガラスであれば特に限定されずに挙げられる。なお、特に、半導体製品の製造に関連して使用されるガラス板、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板、光学多層膜基板等が好ましい。
【0022】
本発明に用いられる円滑性改善膜3は、ガラス板2の端面に設けられた単層構造の膜である。ここで、円滑性改善膜3は、炭素数が8以上の疎水性基を有するピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が200〜100万のカチオンポリマーから構成される膜である。
【0023】
ここで使用する陽イオン界面活性剤としては、炭素数が8以上の疎水性基を有する4級アンモニウム塩又はピリジニウム塩であれば特に限定されずに使用でき、その疎水性基の炭素数が大きくなるとガラス表面の被覆性が高くなり、滑り性の改善度合いが向上するため、疎水性基の炭素数が12以上であることが好ましい。このような疎水性基としては、典型的には炭素数が8〜18のアルキル基が挙げられ、特に、炭素数が16〜18のアルキル基が好ましい。
【0024】
4級アンモニウム塩としては、例えば、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンジルトリアルキルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム塩としては、例えば、塩化オクチルピリジニウム、塩化デシルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩等が挙げられる。このようなピリジニウム塩は、ガラス板の撥水性を向上させることができ、特に塩化ヘキサデシルピリジニウム(別名:塩化セチルピリジニウム)は大量生産され安く入手しやすい点で好ましい。
【0025】
また、ここで使用されるカチオンポリマーとしては、平均分子量が200〜100万であって分子内に複数のカチオン性基を有し実質的にアニオン性基を有しないポリマーであればよい。なお、本明細書において平均分子量は、特に断りのない限りゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)を意味する。
【0026】
ここで、カチオン性基は、水等の溶媒に溶解させたときにカチオンとなる基であり、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。また、カチオンポリマーは実質的にアニオン性を有しないが、ここで「実質的にアニオン性基を有しない」とは、例えば、原料化合物や重合開始剤等に含まれるアニオン性基が若干残留している程度の量を除いて、アニオン性基を含有しないことをいう。
【0027】
ここで使用するカチオンポリマーとしては、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC)、ポリアリルアミン(PAA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、トリメチルアンモニウムアルキルアクリルアミド重合体塩、ジメチルアミンエピクロルヒドリン縮合体塩等が挙げられる。
【0028】
カチオンポリマーとしては、カチオン性基の個数が分子量1000当たり3〜25個を持つことが好ましい。以下、カチオンポリマーが分子量1000あたりに有する平均のカチオン性基の個数を「カチオン性基密度」ともいい、単位を[eq/MW1000]で示す。カチオンポリマーにおけるカチオン性基密度は、具体的には、3〜25[eq/MW1000]が好ましい。
【0029】
上記の円滑性改善膜3は単層構造の塗膜であり、その製造操作が簡便でありながら、その保管時等における梱包体のシート材との滑り性を改善できる。また、ここで形成される円滑性改善膜3は界面活性剤からなり、ガラス板の端面とは静電結合により結合されており、陰イオン性洗剤を使用した洗浄で容易に除去できる。
【0030】
この円滑性改善膜3は、
図1Aでは矩形状のガラス板2の4辺の端面全てに設けられているが、少なくとも、ガラス板1の後述する梱包の際に、ガラス板梱包容器のガラス板の底受け板と接し、ガラス板の荷重を受け止める下端面に設けられていれば、一部の端面に設けるようにしてもよい。さらに、下端面においても、その全面に設けてもよいし、円滑性を改善できる限りにおいて、その一部に設けられていてもよい。
【0031】
なお、ここで形成する円滑性改善膜3の厚さは、上記の通り円滑性を改善でき、また、保管及び移送時における擦れる等の外力によって容易に除去されないような厚さであればよく、単分子膜のような薄いものであってもよい。
【0032】
さらに、この円滑性改善膜3は、その保管時におけるガラス板梱包容器のガラス板の底受け板に対する動摩擦係数が1.0以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましい。なお、該底受け板には通常クッション性を有するシート材が設けられており、このシート材としては、ポリエチレン系樹脂、エラストマゴム、発泡性樹脂等が挙げられ、超高分子量ポリエチレンシートが好ましいものとして挙げられる。なお、本明細書において動摩擦係数は、JIS K 7125(1999年)に準拠したものである。
【0033】
[ガラス板の製造方法]
次に、円滑性改善膜付きガラス板の製造方法について説明する。
【0034】
本発明における円滑性改善膜3を形成する方法としては、ガラス板の端面に、炭素数が8以上の疎水性基を有するアンモニウム塩若しくはピリジニウム塩を含む陽イオン界面活性剤又は平均分子量が200〜100万のカチオンポリマーを含有する溶液を接触、乾燥させて、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーからなる塗膜を形成すればよい。
【0035】
このとき、陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーは、溶媒として純水又はエタノール等の水溶性有機溶剤を用いて、これに溶解して溶液とする。このとき、陽イオン界面活性剤の溶液濃度は0.01mmol/L〜100mmol/Lが好ましく、ガラス板端面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.1〜10mmol/Lがより好ましい。また、カチオンポリマーを使用する場合には、その溶液中におけるカチオン性基の濃度(当量)が0.01meq/L〜100meq/Lの範囲となるようにすることが好ましく、ガラス板の端面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため0.1〜10meq/Lがより好ましい。ちなみに、溶液1L中にカチオン性基を1mol有する場合に、その濃度を1当量とし、1eq/Lと表す。また、溶液のpHは酸性〜アルカリ性で使用が可能であるが、ガラス板表面のシラノール基の電離を促進しマイナス帯電させることで静電的な結合力をより強固にしつつ付着量を増加できる点で、溶液のpHは8〜12が好ましく、10〜11がより好ましい。
【0036】
このようにして得られた溶液を、円滑性改善膜を形成するガラス板の端面に接触させて塗布する。このとき、塗布方法は、ディップコート、スプレーコート、スポンジ等による塗布等の公知の膜形成方法に使用される塗布方法が挙げられる。また、この工程では、溶液中に含まれる陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーが、ガラス板の端面に存在するシラノール基(−Si−OH)が−電荷に帯電しやすいため、接触させるだけで+電荷を帯びている陽イオン界面活性剤の親水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分がガラス板の端面側に、陽イオン界面活性剤の疎水性基又はカチオンポリマーのカチオン部分を繋ぐポリマーの主鎖部分がその反対側である雰囲気中に向かって、整列する。
【0037】
このように陽イオン界面活性剤又はカチオンポリマーを整列させた状態で、加熱やエアブロー等により溶媒を除去すると、均質な第1の膜を容易に形成できる。このとき、加熱乾燥では、50〜80℃に加熱することが好ましく、エアブローでは15〜30℃のエアーを吹き付ければよい。
【0038】
また、この円滑性改善膜を形成する場合、溶液を室温で塗布する簡便な操作で達成でき、さらに、排水規制に抵触することもなく、環境負荷を増大させることのないガラス板の端面保護を達成できる。
【0039】
[ガラス板梱包体、ガラス板の梱包方法]
図2は、縦積み型のガラス板梱包容器12に円滑性改善膜付きガラス板1(以下、ガラス板1と略称することもある)を複数枚積層させたガラス板積層体10が梱包されたガラス板梱包体14の全体斜視図である。
【0040】
同図に示すガラス板梱包容器12は、基台となる台座16の上面に備えられた板状の搭載面18上に、ガラス板積層体10のガラス板1の下端面を接触させて載置する底受け板20が搭載面18に対して傾斜して固定されている。ガラス板梱包容器12の支柱22は底受け板20の主面(ガラス板1の下縁を載置する面)に対して90°〜100°、好ましくは約95°となるように搭載面18上に立設され、この支柱22にガラス板1の主面を受ける不図示の背受け板が立て掛けられて固定される。底受け板20及び上記背受け板には、ガラス板1を載置した際のガラス板1との接触による損傷を防止するため、ゴムや硬質の発泡性樹脂等のクッション性を有するシート材(不図示)が設けられている。
【0041】
台座16の搭載面18の後部にはフレーム24が立設され、このフレーム24に支柱22が支持されている。また、台座16の前面にはフォークリフトの爪(不図示)が挿抜される開口部26が備えられている。
【0042】
底受け板20は、搭載面18と底受け板20との間に配置された三角形状の底片28を介して搭載面18上に傾斜して載置される。また、底受け板20の主面は、ガラス板1を差込むための溝等が形成されない実質的に平坦なもので、表面にはシート材(不図示)が設けられている。底受け板20は、その主面が台座16の搭載面18に対して好ましくは5°〜25°、より好ましくは10°〜20°、特に好ましくは約18°に傾斜して配置される。これにより、ガラス板積載装置(不図示)によるガラス板梱包容器12へのガラス板1の積載時に、ガラス板1の位置決め作業が容易になる。また、各ガラス板1の主面は自重によって上記背受け板側の他のガラス板1の主面に接するので、各ガラス板1の主面間に無駄な隙間が生じることはない。さらに、載置するガラス板1の安定化を図ることができ、ガラス板1の前方(
図2の矢印Xの方向)へのずれや崩壊を防止し、併せて傷や割れの防止も図ることができる。
【0043】
ガラス板積層体10は、複数枚の矩形状のガラス板1と、複数枚の矩形状の合紙30とから構成され、ガラス板1と合紙30とが交互に積層されることにより構成される。
【0044】
ガラス板1は、液晶ディスプレイ用等のFPD用ガラス板に使用されるものである場合、その厚さは0.7mm以下であることが好ましい。ガラス板1の厚さの下限値は特に限定されないが、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。ガラス板1の厚さが0.1mm以上であれば、ガラス板1を縦置きの梱包容器に載置したとき、ガラス板1が撓みにくくなり、ガラス板1の損傷または後述するガラス板積層体の板厚偏差が大きくならない(例えば10mm未満)。なお、実施の形態では、ガラス板1とガラス板1との間に介在される介在シートとして合紙30を例示したが、この介在シートは合紙30に限定されるものではない。例えば、樹脂フィルム、樹脂シート、及び発泡樹脂シートであっても合紙30に代えて適用できる。また、介在シートとして合紙30を使用する場合には、合紙30の原料はバージンパルプが好ましいが、セルロース等を含有している原料を用いてもよい。
【0045】
さらに、ガラス板梱包容器12に搭載されるガラス板1及び合紙30の枚数は、例えば、第6世代(縦1500mm×横1800mm〜縦1500mm×横1850mm)のガラス板の場合は300枚以上、第7世代(縦1870mm×横2200mm〜縦1950mm×横2250mm)のガラス板の場合は250枚以上であることが好ましい。
【0046】
なお、ガラス板梱包容器12において、ガラス板1の下端面と接触するシート材としては、公知のシート材であれば特に限定されずに適用可能である。すなわち、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エラストマゴム、発泡性樹脂や、これらを組み合わせたシート材等が挙げられる。
【0047】
このとき、シート材のクッション性が高いと、ガラス板にかかる応力を効果的に低減できない場合があるため、上記ガラス板1を梱包する際に用いられるシート材は、クッション性を有していながら、適度な硬さと良好な滑り性を有する表面性状を備えた、高分子量ポリエチレンシート、発泡ポリエチレンシート、発泡ポリウレタンシート、等を用いたシート材が好ましい。
【0048】
本実施形態のガラス板積層体10によれば、上記のように従来と同様にガラス板梱包容器12の底受け板20上にガラス板1を積層して収容されたとき、その端面に円滑性改善膜が形成されているため、ガラス板積層体10の上端側の厚さと下端側の厚さとの差を小さいものとできる。
【0049】
さらに、ガラス板積層体10としたときに、その上端側の厚さと下端側の厚さとの差を小さくするために、ガラス板梱包容器12を支柱22側に傾斜させて板厚をより圧縮させた状態とする場合があるが、その場合にも本発明の円滑性を改善させたガラス板1によれば、板厚の改善性が良好となり、簡便に梱包性も改善できる。
【0050】
そして、このようにガラス板積層体10をガラス板梱包容器12に収容して一体的になるよう固定し、梱包することで得られるガラス板梱包体14は、通常通り、この梱包体を輸送手段に積載して輸送したり、保管場所に載置して保管したりして、ガラス板の保管及び輸送を行うことができる。その際、本発明のガラス板1は円滑性改善膜が形成されており、保管時及び輸送時において、ガラス板の下端とシート材との間の滑り性を改善しているため、点支持等のように応力が集中するような事態を回避して、ガラス板の破損の割合を低減できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。
【0052】
[各種溶液の調製]
<円滑性改善膜形成用の溶液1>
陽イオン性界面活性剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)が1mmol/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、円滑性改善膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0053】
<円滑性改善膜形成用の溶液2>
カチオンポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC;センカ株式会社製、商品名:ユニセンスFPA100L、分子量約2万)が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、円滑性改善膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0054】
<円滑性改善膜形成用の溶液3>
カチオンポリマーであるポリアリルアミン(PAA;ニットーボーメディカル株式会社製、分子量約1万5000)が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、円滑性改善膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0055】
<円滑性改善膜形成用の溶液4>
カチオンポリマーであるポリエチレンイミン 300(PEI 300;株式会社日本触媒製、分子量約300)が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、円滑性改善膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0056】
<円滑性改善膜形成用の溶液5>
カチオンポリマーであるポリエチレンイミン 10000(PEI 10000;株式会社日本触媒製、分子量約10000)が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、円滑性改善膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0057】
(実施例1)
表面研磨をした、縦1300mm×横1500mm×厚さ0.3mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板の端面に、上記円滑性改善膜形成用の溶液1をスプレー法により塗布し、端面の溶液をエアブローで乾燥して、ガラス板の端面に円滑性改善膜を形成し、円滑性改善膜付きのガラス板1とした。
【0058】
(実施例2)
表面研磨をした、縦1300mm×横1500mm×厚さ0.3mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板の端面に、上記円滑性改善膜形成用の溶液2をスプレー法により塗布し、端面の溶液をエアブローで乾燥して、ガラス板の端面に円滑性改善膜を形成し、円滑性改善膜付きのガラス板2とした。
【0059】
(実施例3)
表面研磨をした、縦1300mm×横1500mm×厚さ0.3mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板の端面に、上記円滑性改善膜形成用の溶液3をスプレー法により塗布し、端面の溶液をエアブローで乾燥して、ガラス板の端面に円滑性改善膜を形成し、円滑性改善膜付きのガラス板3とした。
【0060】
(実施例4)
表面研磨をした、縦1300mm×横1500mm×厚さ0.3mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板の端面に、上記円滑性改善膜形成用の溶液4をスプレー法により塗布し、端面の溶液をエアブローで乾燥して、ガラス板の端面に円滑性改善膜を形成し、円滑性改善膜付きのガラス板4とした。
【0061】
(実施例5)
表面研磨をした、縦1300mm×横1500mm×厚さ0.3mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板の端面に、上記円滑性改善膜形成用の溶液5をスプレー法により塗布し、端面の溶液をエアブローで乾燥して、ガラス板の端面に円滑性改善膜を形成し、円滑性改善膜付きのガラス板5とした。
【0062】
(比較例1)
表面研磨をした、縦50mm×横50mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス板を、純水で洗浄した。このガラス板は、表面が研磨後の状態で、端面は切断面となっており、塗膜等は設けられていない。
【0063】
(試験例1)
実施例2および比較例1で得られたガラス板をそれぞれ560枚用意し、
図2に示したガラス板梱包容器12に積載して、その左端側の上部及び下部、右端側の上部及び下部の4隅のガラス板積層体10の厚さを定規で測定した。測定した4隅の厚さの最大値を求め、該最大値から理想厚さを減算し、減算して求めた厚さを板厚偏差とした。
なお、ここで用いたガラス板梱包容器12のガラス板の底受け板上には、発泡ポリエチレンシート(株式会社イノアックコーポレーション製、商品名:PEライト A−061F;厚さ27mm)、ポリプロピレンシート(住化プラステック株式会社製、商品名:スミセラー 3030 90;厚さ3mm)、発泡ポリウレタンシート(日本発条株式会社製、商品名:ニッパレイEXG;厚さ1mm)を順番に積層したシート材を設けた。
【0064】
得られた板厚偏差は、実施例2が9mm、比較例1が11mmであった。一般に、板厚偏差が10mm以上のとき、アンパッキング不良となる。また、それぞれシート材との動摩擦係数を測定したところ、実施例2の円滑性改善膜が設けられたガラス板2は0.96、比較例1の円滑性改善膜が設けられていないガラス板は1.02であった。
【0065】
(試験例2)
次に、試験例1と同様に、ガラス板梱包容器12にガラス板積層体10を積載し、次いで、背板側に、ガラス板積層体10が鉛直方向に対して30度傾くように傾斜させ、60秒間保持してから元の位置に戻した。同様に板厚偏差を測定したところ、実施例2が6mm、比較例1が10mmであった。
【0066】
(試験例3)
さらに、実施例2および比較例1で得られたガラス板を、
図2に示したガラス板梱包容器12に積載したガラス板梱包体を各々500台用意し、これらのガラス板梱包体を詰めたコンテナを、韓国(亀尾)から台湾(斗六)までトラックおよび船で輸送した。
【0067】
ガラス板の割れの発生を確認したところ、実施例2のガラス板では割れの発生がなく(割れ発生率が0%)、比較例1では割れ発生率が3%であった。
【0068】
実施例1、3〜5で得られた円滑性改善膜付きガラス板1、3〜5も、上記円滑性改善膜付きガラス板2と同様に、板厚偏差が10mm未満で、輸送中の割れが発生しなかったことを確認した。
【0069】
これらの結果から、本発明の端面に円滑性改善膜を設けたガラス板は、ガラス板梱包体への積層時において、良好にパッキングできると共に、輸送時の割れを防止できることが確認できた。