(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
脂肪族共役ジエン系単量体単位20〜60重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1〜10重量%、及びこれらと共重合可能な他の単量体単位30〜79重量%からなるバインダーと、該バインダー100重量部に対し、1.0〜40ppmの遊離したアルキルメルカプタンとを含有し、
α−メチルスチレンダイマーを含有しない、銅集電体を含むリチウムイオン二次電池負極用途のバインダー組成物。
前記他の単量体単位が芳香族ビニル系単量体単位であり、前記脂肪族共役ジエン系単量体を50ppm以下、及び前記芳香族ビニル系単量体を1000ppm以下含む請求項1に記載のバインダー組成物。
脂肪族共役ジエン系単量体20〜60重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1〜10重量%、及びこれらと共重合可能な他の単量体30〜79重量%からなる単量体組成物を、該単量体組成物100重量部に対し0.1〜5.0重量部のアルキルメルカプタンの存在下、水系溶媒中で重合し、得られた重合体からなるバインダーを含む水系分散液を得る工程と、該水系分散液をストリッピングし、遊離したアルキルメルカプタンの含有量を、該バインダー100重量部に対し1.0〜40ppmにするストリッピング工程とを含み、
前記バインダーを含む水系分散液を得る工程において、α−メチルスチレンダイマーを配合しない、銅集電体を含むリチウムイオン二次電池負極用途のバインダー組成物の製造方法。
前記他の単量体が芳香族ビニル系単量体であり、ストリッピング工程が、脂肪族共役ジエン系単量体を50ppm以下、及び前記芳香族ビニル単量体を1000ppm以下にする工程である請求項7に記載のバインダー組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、(1)二次電池負極用バインダー組成物、(2)二次電池負極用スラリー組成物、(3)二次電池負極および(4)二次電池について順次説明する。
【0021】
(1)二次電池負極用バインダー組成物
本発明の二次電池負極用バインダー組成物は、バインダーと特定量の遊離したアルキルメルカプタンとを含有する。バインダーは、脂肪族共役ジエン系単量体単位、エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位、及びこれらと共重合可能な他の単量体単位からなり、各単量体単位を特定比率で含む。前記の脂肪族共役ジエン系単量体単位は、脂肪族共役ジエン系単量体を重合して得られる重合体繰り返し単位であり、エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して得られる重合体繰り返し単位であり、これらと共重合可能な他の単量体単位は、共重合可能な他の単量体を重合して得られる重合体繰り返し単位である。
【0022】
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0023】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸(無水物)等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0024】
これらと共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられ、これらは、1種または2種以上用いることができる。
【0025】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にスチレンが好ましい。
【0026】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましい。
【0027】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメチルメタクリレートが好ましい。
【0028】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
【0029】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリルアミド、メタクリルアミドが好ましい。
【0030】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0031】
本発明におけるバインダーの各単量体単位の比率は、脂肪族共役ジエン系単量体単位が20〜60重量%、好ましくは30〜55重量%であり、エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位が1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%、より好ましくは3〜7重量%であり、これらと共重合可能な他の単量体単位が30〜79重量%、好ましくは40〜69重量%である。
【0032】
脂肪族共役ジエン系単量体単位が20重量%未満では、本発明の二次電池負極用バインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体に塗布した際に、該スラリー組成物中に含まれる電極活物質と集電体との十分な密着性が得られない。また、60重量%を超えると、該スラリー組成物を集電体に塗布して負極を製造した際に、耐電解液性が低下する。
【0033】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位が1重量%未満では、バインダー組成物及びスラリー組成物の安定性が低下する。また10重量%を超えると、バインダー組成物の粘度が高くなり、取扱いが困難になる。
【0034】
共重合可能な他の単量体単位が30重量%未満では、本発明のバインダー組成物を含むスラリー組成物を集電体に塗布して負極を製造した際に耐電解液性が低下する。また、79重量%を超えると、該スラリー組成物を集電体に塗布した際に、該スラリー組成物中に含まれる電極活物質と集電体との十分な密着性が得られない。
【0035】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物に含まれる遊離したアルキルメルカプタンの含有量は、上述したバインダー100重量部に対し0.5〜50ppm、好ましくは1.0〜30ppmである。本発明において、遊離したアルキルメルカプタンとは、アルキルメルカプタンと後述する水系溶媒との混合により、アルキルメルカプタンがイオンとして水系溶媒に溶解した状態をいう。遊離したアルキルメルカプタンの含有量が0.5ppm未満の場合、該バインダー組成物を含む負極活物質層の耐電解液性が低下し、二次電池の寿命が低下する。50ppmを超えると、該バインダー組成物を用いた二次電池のサイクル特性が悪化し、電池寿命が低下する。
【0036】
本発明におけるアルキルメルカプタンは、連鎖移動剤としてバインダー組成物中に混合され、具体的には、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンが挙げられる。中でも、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが、重合安定性が良好であるという観点から好ましい。
【0037】
本発明において、上述したアルキルメルカプタンと共に併用可能な連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、アリルアルコール、アリルアミン、アリルスルフォン酸ソーダ(カリウム)、メタアリルスルフォン酸ソーダ(カリウム)等が挙げられる。上記の連載移動剤の使用量は、本願発明の効果を妨げない範囲で特に限定されない。
【0038】
また、上述した他の単量体として芳香族ビニル系単量体を用いた場合、本発明の二次電池負極用バインダー組成物には、未反応の脂肪族共役ジエン系単量体が好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下含まれ、かつ、未反応の芳香族ビニル系単量体が好ましくは1000ppm以下、より好ましくは200ppm以下含まれる。該バインダー組成物中に含まれる脂肪族共役ジエン系単量体の含有量が50ppmを超えると、負極スラリーの塗工、乾燥による極板作製時に極板表面に発泡による荒れが生じる場合や臭気による環境負荷となる場合がある。また、芳香族ビニル系単量体の含有量が1000ppmを超えると、乾燥条件によっては、環境負荷、極板表面の荒れが生じうる懸念とともに、該バインダー組成物の耐電解液性が低下する場合がある。
【0039】
本発明の二次電池負極用バインダー組成物は、後述する電極活物質や必要に応じて添加される導電剤を相互に結着させることができる化合物であり、結着力を有する重合体粒子であるバインダーが水系溶媒に溶解又は分散された溶液又は分散液(以下、これらを総称して「バインダーを含む水系分散液」と記載することがある)を濾過したものである。
【0040】
(バインダーを含む水系分散液の製造)
重合体からなるバインダーを含む水系分散液は、例えば、上記単量体を含む単量体組成物をアルキルメルカプタンの存在下、水系溶媒中で重合することにより製造される。本発明においては、重合反応後の該水系分散液中に、上記単量体の残留モノマーや上記アルキルメルカプタンの遊離した成分が存在している。
【0041】
重合体からなるバインダーを含む水系分散液を得る工程における単量体組成物中の各単量体の比率は、脂肪族共役ジエン系単量体が20〜60重量%、好ましくは30〜55重量%であり、エチレン系不飽和カルボン酸単量体が1〜10重量%、好ましくは1.5〜8重量%、より好ましくは2〜7重量%であり、これらと共重合可能な他の単量体が30〜79重量%、好ましくは40〜69重量%である。
【0042】
バインダーを含む水系分散液を得る工程におけるアルキルメルカプタンの含有量は、上記単量体組成物100重量部に対し、0.1〜5.0重量部、好ましくは0.2〜3重量部である。アルキルメルカプタンの含有量が0.1重量部未満では、重合の際に多量の凝集物やスケールが発生すると共に、後述する電極活物質との十分な密着性が得られない。また、5.0重量部を超えると、重合の際に多量の凝集物やスケールが発生すると共に、後述する二次電池負極用スラリー組成物を集電体に塗布、乾燥して製造した二次電池負極の耐電解液性が低下する。
【0043】
水系溶媒としては、バインダーの分散が可能なものであれば格別限定されることはなく、通常、常圧における沸点が80〜350℃、好ましくは100〜300℃の分散媒から選ばれる。なお、分散媒名の後の( )内の数字は常圧での沸点(単位℃)であり、小数点以下は四捨五入または切り捨てられた値である。例えば、ケトン類としては、ダイアセトンアルコール(169)、γ−ブチロラクトン(204)、アルコール類としては、エチルアルコール(78)、イソプロピルアルコール(82)、ノルマルプロピルアルコール(97)、グリコールエーテル類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(120)、メチルセロソルブ(124)、エチルセロソルブ(136)、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル(152)、ブチルセロソルブ(171)、3−メトキシー3メチル−1−ブタノール(174)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(150)、ジエチレングリコールモノブチルピルエーテル(230)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(271)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188)、エーテル類としては、1,3−ジオキソラン(75)、1,4−ジオキソラン(101)、テトラヒドロフラン(66)が挙げられる。中でも、水は可燃性がなく、バインダーの分散体が容易に得られやすいという観点から最も好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、バインダーの分散状態が確保可能な範囲において上記記載の水以外の水系溶媒を混合して用いて良い。
【0044】
重合方法は、特に限定されず、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。高分子量体が得やすい事、重合物がそのまま水に分散した状態で得られ、再分散化の処理が不要であり、そのまま二次電池負極用スラリー作製に供することができるなど、製造効率の観点から、中でも乳化重合法が最も好ましい。
【0045】
乳化重合法は、常法、例えば「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法、すなわち、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に水、分散剤や乳化剤、架橋剤などの添加剤、開始剤およびモノマーを所定の組成になるように加え、攪拌してモノマーなどを水に乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法である。或いは、上記組成物を乳化させた後に密閉容器に入れ同様に反応を開始させる方法である。
【0046】
乳化剤や分散剤、重合開始剤などは、これらの重合法において一般的に用いられるものであり、その使用量も一般に使用される量でよい。また重合に際しては、シード粒子を採用すること(シード重合)もできる。
【0047】
重合温度および重合時間は、重合法や使用する重合開始剤の種類などにより任意に選択できるが、通常、重合温度は約30℃以上、重合時間は0.5〜30時間程度である。アミン類などの添加剤を重合助剤として用いることもできる。さらにこれらの方法によって得られる重合体粒子の水系分散液に、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(NH
4Clなど)、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミンなど)などが溶解している塩基性水溶液を加えてpH5〜10、好ましくは5〜9の範囲になるように調整することができる。なかでも、アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、集電体と活物質との結着性(ピール強度)を向上させるため好ましい。
【0048】
上述したバインダーは、2種以上の重合体からなる複合重合体粒子であってもよい。複合重合体粒子は、少なくとも1種のモノマー成分を常法により重合し、引き続き、他の少なくとも1種のモノマー成分を添加し、常法により重合させる方法(二段重合法)などによっても得ることができる。
【0049】
重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0050】
水系分散液中のバインダーの個数平均粒径は、50〜500nmが好ましく、70〜400nmがさらに好ましい。バインダーの個数平均粒径が上記範囲にあることで、得られる負極の強度および柔軟性が良好となる。重合体粒子の存在は、透過型電子顕微鏡法やコールターカウンター、レーザー回折散乱法などによって容易に測定することができる。
【0051】
バインダーのガラス転移温度は、40℃以下であることが好ましく、より好ましくは、−75〜+30℃、更に好ましくは−55〜+20℃、最も好ましくは−35〜15℃である。バインダーのガラス転移温度が、上記範囲であることにより、負極の柔軟性、結着性及び捲回性、負極活物質と集電体との密着性などの特性が高度にバランスされ好適である。
【0052】
また、バインダーは、上記単量体を段階的に重合することにより得られるコアシェル構造を有する重合体粒子からなるバインダーであってもよい。
【0053】
(二次電池負極用バインダー組成物の製造)
二次電池負極用バインダー組成物は、上記の水系分散液のストリッピングを行い、遊離したアルキルメルカプタンの含有量を、バインダー100重量部に対し0.5〜50ppm、好ましくは1.0〜30ppmにすることにより製造される。
【0054】
上記のバインダーを含む水系分散液は、ストリッピング法等により、該水系分散液中の残留モノマーやアルキルメルカプタンの遊離した成分が除去され、その含有量を特定範囲とする二次電池負極用バインダー組成物が製造される。
【0055】
ストリッピング法とは、例えば水系分散液の温度を、60〜140℃程度の温度に保ち、100〜160℃のスチームを吹き込みながら、水蒸気蒸留を行い、該水系分散液中の揮発性残留モノマー(未反応単量体)やアルキルメルカプタンの遊離した成分を除去する方法である。
【0056】
重合後のバインダーを含む水系分散液(以下「重合体水系分散液」と記載することもある)は、通常、未反応単量体等の揮発性物質を除去するためにストリッピング工程に付される。また重合体水系分散液は、取り扱い操作や輸送上の問題から、ストリッピング工程後に、濃縮工程によって水分を蒸発除去して濃縮し所定の固形分濃度に調製を行う。
【0057】
重合終了後の重合体水系分散液中に残留している未反応単量体等を除去する方法としては、タンク内の重合体水系分散液にスチームを通気させる方法(スチーム通気法)、あるいは多段塔内で重合体水系分散液とスチームを向流接触させるいわゆるスチームストリッピング法がある。特に多段塔の塔頂から該水系分散液を流下させ、塔底から水蒸気を吹き込む多段塔ストリッパー方式は効率的に揮発性物質を除去できる。
【0058】
一方、重合体水系分散液の濃縮方法としては、蒸発法、限外濾過膜法等が知られているが、通常、蒸発法が用いられることが多い。蒸発法は、重合体水系分散液を加熱し、減圧雰囲気下で、水分を蒸発させる方法であり、装置としては薄膜式蒸発器またはタンク式蒸発器が用いられる。
【0059】
タンク式蒸発器では、重合体水系分散液をタンクと加熱のための外部熱交換器との間を強制的に循環させながら加熱し、かつ、タンク内を減圧に保持して、タンク内で水分を蒸発させる。これらの蒸発法による濃縮においては、水分とともに残留単量体も水蒸気蒸留の原理によって除去されるが、ストリッピングに必要な水蒸気量と、蒸発により発生する水蒸気量が一致しないことから、蒸発法のみでは残留単量体等を充分に除去しきれない場合もある。したがって、一般的には、スチームストリッピング法によるストリッピング工程と、外部加熱強制循環型の蒸発器による濃縮工程を直列に組み合わせて用いている。
【0060】
スチームストリッピングと濃縮を同時に行なう方法として、外部熱交換器を用いたタンク式蒸発器に、ストリッピング用スチームを吹き込むフラッシュ蒸発法もある〔Ind.Eng.Chem.,Vol.43,No.1,p,215(1951)〕。ただし、この方法は外部熱交換器で加熱された該水系分散液をタンクの上部から戻し、そこでフラッシュ蒸発させるため、フラッシュ蒸発によって発生する水蒸気は、該重合体水系分散液との接触がなく、未反応単量体等の揮発性物質のストリッピングに対しては殆ど寄与していない。さらに、この方法では、スチームストリッピングしている間に該水系分散液中の固型分濃度が上昇し、凝集物が急激に増えることがある。
【0061】
一般的に、少量多品種の重合体水系分散液を生産する場合、重合方式は、バッチ方式であり、その後の残留単量体等のストリッピングおよび濃縮といった後処理工程もバッチ方式となる。これらの後処理工程のみを連続方式にすると、重合サイクルと後処理サイクルとを一致させることが困難であり、しかも後処理工程での装置の大きさがバッチ式に必要とされるよりも相対的に大きいものとなり設備効率が悪くなる。さらに、後処理工程における品種切換操作も煩雑となる可能性がある。
【0062】
バッチ方式で重合体水系分散液のストリッピングと濃縮を同時に行なう方法であって、熱効率および設備効率が高く、かつ、凝固物の発生の抑制を可能にする方法としては、撹拌機を設けた円筒縦型蒸発タンクを用い、複数本のスチームノズル先端開口部を被処理液の液面下となる位置に配置させて、各スチームノズルから100〜140℃程度のスチーム吹き込みながら、タンク内を減圧に保持して濃縮する方法がある。また、外部熱交換器で加熱した重合体水系分散液を強制循環させ、かつ、加熱した重合体水系分散液を蒸発タンク内の撹拌機の撹拌翼の位置より下部の位置に戻すように強制循環し、減圧下で撹拌しながら、タンク内で蒸発した水蒸気を用いて重合体水系分散液から揮発性物質をストリッピングすれば、更に効率も良い。上記方法によれば、凝固物の発生を大幅に抑制しながらバッチ式で重合体水系分散液のストリッピングと濃縮を同時に行なうことができ、より好ましい。中でも、バッチ方式でスチーム110〜140℃(飽和温度)を容器タンク内に、1000〜1500kg/Hrで吹き込みながら、容器タンク付属の攪拌翼で水系分散液の攪拌を行い、かつ水系分散液の温度を80〜100℃の温度に保ちながら行うことが、凝集物の発生も少ないこと、またストリッピング工程後の濃縮工程同時にあわせて実施することができ、生産性・装置の設備効率の観点から最も好ましい。また蒸発タンク内圧力は、760〜10torrが好ましく、600〜100torrが更に好ましい。缶内温度、容器内充填体積量から、突沸等の発生がなく、安定して処理できる範囲で適時選択すればよい。また、前記方法において、ストリッピングに必要な水蒸気量が充分でない場合には、蒸発タンクと外部熱交換機との間の強制循環ラインに水蒸気を補給しても良い。
【0063】
また、上述した他の単量体として芳香族ビニル系単量体を用いた場合、本発明の二次電池負極用バインダー組成物の製造方法においては、二次電池負極用バインダー組成物中に脂肪族共役ジエン系単量体が好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下含まれ、かつ、芳香族ビニル系単量体が好ましくは1000ppm以下、より好ましくは200ppm以下含まれる。該バインダー組成物中に含まれる脂肪族共役ジエン系単量体の含有量が50ppmを超えると、負極スラリーの塗工、乾燥による極板作製時に極板表面に発泡による荒れが生じる場合や臭気による環境負荷となる場合がある。また、芳香族ビニル系単量体の含有量が1000ppmを超えると、乾燥条件によっては、環境負荷、極板表面の荒れが生じうる懸念とともに、該バインダー組成物の耐電解液性が低下する場合がある。
【0064】
また、本発明のバインダー組成物には、塗布性を向上させたり、充放電特性を向上させるために添加剤を加えることができる。これらの添加剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸−ビニルアルコール共重合体、メタクリル酸−ビニルアルコール共重合体、マレイン酸−ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ酢酸ビニル部分ケン化物などが挙げられる。これらの添加剤の使用割合は、バインダー組成物の固形分合計重量に対して、好ましくは300重量%未満、より好ましくは30重量%以上250重量%以下、特に好ましくは40重量%以上200重量%以下である。この範囲であれば、平滑性が優れた二次電池負極を得ることができる。これらの添加剤は、バインダー組成物に添加する方法以外に、後述する本発明の二次電池電極用スラリー組成物に添加することもできる。
【0065】
(2)二次電池負極用スラリー組成物
本発明の二次電池負極用スラリー組成物は、上記二次電池負極用バインダー組成物及び負極活物質を含有する。以下においては、本発明の二次電池負極用スラリー組成物を、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物として用いる態様について説明する。
【0066】
(負極活物質)
本発明に用いる負極活物質は、二次電池負極内で電子の受け渡しをする物質である。
【0067】
リチウムイオン二次電池用負極活物質としては、具体的には、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。好ましくは、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの結晶性炭素質材料である。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属やこれらの合金、前記金属又は合金の酸化物や硫酸塩を使用できる。加えて、金属リチウム、Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコン等も使用できる。上記負極活物質は、単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
負極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0069】
負極活物質の体積平均粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。また、負極活物質の50%体積累積径は、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmである。
【0070】
負極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、0.6g/cm
3以上のものが好適に用いられる。
【0071】
本発明の二次電池負極用スラリー組成物における、負極活物質及びバインダー組成物の合計含有量は、スラリー組成物100質量部に対して、好ましくは10〜90質量部であり、さらに好ましくは30〜80質量部である。また負極活物質の総量に対するバインダー組成物の含有量(固形分相当量)は、負極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部であり、さらに好ましくは0.5〜2質量部である。スラリー組成物における負極活物質及びバインダー組成物の合計含有量とバインダー組成物の含有量が、上記範囲であると得られる二次電池負極用スラリー組成物の粘度が適正化され、塗工を円滑に行えるようになり、また得られた負極に関して抵抗が高くなることなく、十分な密着強度が得られる。その結果、極板プレス工程における負極活物質からのバインダー組成物の剥がれを抑制することができる。
【0072】
(分散媒)
本発明では、分散媒として水を用いる。本発明においては、バインダー組成物の分散安定性を損なわない範囲であれば、分散媒として水に親水性の溶媒を混ぜたものを使用してもよい。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール、N−メチルピロリドンなどがあげられ、水に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0073】
(導電剤)
本発明の二次電池負極用スラリー組成物においては、導電剤を含有することが好ましい。導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電剤を含有することにより、負極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。スラリー組成物における導電剤の含有量は、負極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0074】
(増粘剤)
本発明の二次電池負極用スラリー組成物においては、増粘剤を含有することが好ましい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。
【0075】
増粘剤の配合量は、負極活物質100質量部に対して、0.5〜1.5質量部が好ましい。増粘剤の配合量が上記範囲であると、塗工性、集電体との密着性が良好である。本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。
【0076】
二次電池負極用スラリー組成物には、上記成分のほかに、さらに補強材、レベリング剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよく、後述の二次電池負極中に含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0077】
補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な負極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。スラリー組成物における補強材の含有量は、負極活物質の総量100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。上記範囲に含まれることにより、高い容量と高い負荷特性を示すことができる。
【0078】
レベリング剤としては、アルキル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。レベリング剤を混合することにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、負極の平滑性を向上させることができる。スラリー組成物中のレベリング剤の含有量は、負極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。レベリング剤が上記範囲であることにより負極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。界面活性剤を含有させることによりスラリー組成物中の負極活物質等の分散性を向上することができ、さらにそれにより得られる負極の平滑性を向上させることができる。
【0079】
電解液添加剤としては、スラリー組成物中及び電解液中に使用されるビニレンカーボネートなどを用いることができる。スラリー組成物中の電解液添加剤の含有量は、負極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。電解液添加剤が、上記範囲であることによりサイクル特性及び高温特性に優れる。その他には、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子が挙げられる。ナノ微粒子を混合することによりスラリー組成物のチキソ性をコントロールすることができ、さらにそれにより得られる負極のレベリング性を向上させることができる。スラリー組成物中のナノ微粒子の含有量は、負極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。ナノ微粒子が上記範囲であることによりスラリー安定性、生産性に優れ、高い電池特性を示す。
【0080】
(二次電池負極用スラリー組成物の製造)
二次電池負極用スラリー組成物は、上記バインダー組成物、負極活物質および必要に応じ用いられる導電剤等を混合して得られる。
【0081】
混合法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、プラネタリーミキサーおよび遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0082】
(3)二次電池負極
本発明の二次電池負極は、本発明の二次電池負極用スラリー組成物を集電体上に塗布、乾燥してなる。
【0083】
(二次電池負極の製造方法)
本発明の二次電池負極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記スラリー組成物を集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布、乾燥し、負極活物質層を形成する方法が挙げられる。
【0084】
スラリー組成物を集電体上に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0085】
乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜30分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。
【0086】
本発明の二次電池負極を製造するに際して、集電体上に上記スラリー組成物を塗布乾燥後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により負極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5〜30%、より好ましくは7〜20%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難く、負極活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。さらに、バインダー組成物に硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0087】
本発明の二次電池負極における負極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは30〜250μmである。負極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びサイクル特性共に高い特性を示す。
【0088】
本発明において、負極活物質層における負極活物質の含有割合は、好ましくは85〜99質量%、より好ましくは88〜97質量%である。負極活物質の含有割合を、上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0089】
本発明において、二次電池負極の負極活物質層の密度は、好ましくは1.6〜1.9g/cm
3であり、より好ましくは1.65〜1.85g/cm
3である。負極活物質層の密度が上記範囲にあることにより、高容量の電池を得ることができる。
【0090】
(集電体)
本発明で用いる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、二次電池負極に用いる集電体としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、負極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、合剤の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0091】
(4)二次電池
本発明の二次電池は、正極、負極、セパレーター及び電解液を備えてなる二次電池であって、負極が、上記二次電池負極である。
【0092】
(正極)
正極は、正極活物質及び二次電池正極用バインダー組成物を含む正極活物質層が、集電体上に積層されてなる。
【0093】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムイオンをドープ及び脱ドープ可能な活物質が用いられ、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0094】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
【0095】
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等が挙げられ、中でもサイクル安定性と容量からMnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2が好ましい。遷移金属硫化物としては、TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2、FeS等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0096】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn
3/2M
1/2]O
4(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLi
XMPO
4(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0097】
有機化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。二次電池用の正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0098】
正極活物質の平均粒子径は、通常1〜50μm、好ましくは2〜30μmである。粒子径が上記範囲にあることにより、後述する正極用スラリー組成物を調製する際の正極用バインダー組成物の量を少なくすることができ、電池の容量の低下を抑制できると共に、正極用スラリー組成物を、塗布するのに適正な粘度に調製することが容易になり、均一な電極を得ることができる。
【0099】
正極活物質層における正極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9質量%、より好ましくは95〜99質量%である。正極中の正極活物質の含有量を、上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0100】
(二次電池正極用バインダー組成物)
二次電池正極用バインダー組成物としては、特に制限されず公知のものを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂や、アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体を用いることができる。これらは単独で使用しても、これらを2種以上併用してもよい。
【0101】
正極には、上記成分のほかに、さらに前述の電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0102】
集電体は、前述の二次電池負極に使用される集電体を用いることができ、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、二次電池正極用としてはアルミニウムが特に好ましい。
【0103】
正極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。正極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0104】
正極は、前述の二次電池負極と同様に製造することができる。
【0105】
(セパレーター)
セパレーターは気孔部を有する多孔性基材であって、使用可能なセパレーターとしては、(a)気孔部を有する多孔性セパレーター、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレーター、または(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレーターが挙げられる。これらの非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレーター、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム、ゲル化高分子コート層がコートされたセパレーター、または無機フィラー、無機フィラー用分散剤からなる多孔膜層がコートされたセパレーターなどがある。
【0106】
(電解液)
本発明に用いられる電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0107】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。また、電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0108】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、硫化リチウム、LiI、Li
3Nなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0109】
(二次電池の製造方法)
本発明の二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述した負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0110】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価した。
【0111】
(バインダー組成物中の遊離したアルキルメルカプタンの測定)
蓋付サンプル容器(300mL)にMEK/IPA混合溶液(容積比=75/25)200mLを入れスターラーで攪拌しながら、バインダーサンプルを約10g電子天秤で精秤しながら加え分散させた後、更に28%アンモニア溶液を2mL加え30分間攪拌を行った。本調製液を1/1000N−硝酸銀規定溶液により、電位差滴定(COM−1750 平沼産業株式会社製)を行い滴定量より、残留アルキルメルカプタン量を求めた。
【0112】
(バインダー組成物中の残留モノマーの測定)
(a)残留ブタジエンの定量
キャピラリーFID型ガスクロマトグラフィーを用い、トルエンを内部標準とした内部標準法により、ブタジエンとトルエンのピーク面積を求め含有量を算出した。
(1)内部標準液調製と補正係数の測定
予め調製しておいた3%ポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液(花王(株)製エマルゲン1150S−60 使用)を耐圧製アンプル容器に30mL採取し、トルエン(和光純薬(株)試薬特級)を25μLのマイクロシリンジで20μL、感度0.1mgの精密電子天秤で精秤する。
耐圧製アンプル容器にゴム栓をつけ王冠で打栓する。ブタジエンを十分冷却した注射器で約20μL加える。試料測定ガスクロマトグラフィーの条件でピーク積算値を求める。
補正係数=(ブタジエン重量/トルエン重量)/(ブタジエンの積算値/トルエンの積算値)
(2)測定用試料の調製
共栓付三角フラスコ(50mL)に、3%ポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液(例えば、花王(株)製エマルゲン1135S−70より調製)を30mL採取し、更に内部標準(トルエン)溶液を25μLマイクロシリンジで20μLはかりとり、感度0.1mgの精密電子天秤で精秤して加える。ここに測定用該水系分散液を約5g、精密電子天秤で加える。更に共栓付三角フラスコに攪拌子を入れ栓をした後、20分マグネチックスターラーで攪拌を行い、測定用試料とした。
(3)定量 ガスクロマトグラフの測定
装置の安定性を確認した後、マイクロシリンジで測定用試料を2μL取り、GC注入口より注入し測定を行った。なお測定に用いた装置、条件は以下で実施した。
ガスクロマトグラフィー装置:ジーエルサイエンス製 GC353
カラム(Inevt Cap 1 内径:0.25mm、膜厚:1.5μm、長さ:30m)
オーブン温度:40℃
カラム温度:Initial Temp:40℃、Initial Time:1min.、Rate:10℃/min.、Final Temp:220℃、Final Time:2min.
キャリアガス:He 1mL/min.
スプリット比:25/100
メークアップガス:N
2 35mL/min.、Air270mL/min.、He 36mL/min.
残留ブタジエン量(ppm)= 10
6・(A・D・E)/(C・B)
A:ブタジエン積算値、B:内標準(トルエン)積算値、C:サンプル重量(g)、D:内部標準(トルエン)の重量(g)、E:補正係数
【0113】
(b)残留スチレンの定量
キャピラリーFID型ガスクロマトグラフィーを用い、トルエンを内部標準とした内部標準法により、スチレンとトルエンのピーク面積を求め含有量を算出した。
(1)内標準液調製と補正係数の測定
予め調製しておいた3%ポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液(花王(株)製エマルゲン1150S−60 使用)を共栓付三角フラスコ(50mL)に30mL採取し、トルエン(和光純薬(株)試薬特級)を25μLのマイクロシリンジで20μL、感度0.1mgの精密電子天秤で精秤する。試料測定ガスクロマトグラフィーの条件でピーク積算値を求める。
補正係数=(スチレン重量/トルエン重量)/(スチレンの積算値/トルエンの積算値)
(2)測定用試料の調製
共栓付三角フラスコに、3%ポリオキシエチレンアルキルエーテル水溶液(例えば、花王(株)製エマルゲン1135S−70より調製)を30mL採取し、更に内標準・トルエン溶液を25μLマイクロシリンジで、20μLはかりとり、感度0.1mgの精密電子天秤で精秤して加える。ここに該水系分散液を約3g、精密電子天秤で精秤しながら加える。更に共栓付三角フラスコに攪拌子を入れ栓をした後、20分マグネチックスターラーで攪拌を行い残留スチレンの抽出を行う。ここで得た抽出液を測定用試料とした。
(3)定量測定 ガスクロマトグラフの測定
装置の安定性を確認した後、マイクロシリンジで、測定用試料を2μL取り、GC注入口より注入し測定を行った。なお測定に用いた装置、条件は以下で実施した。
ガスクロマトグラフィー装置:ジーエルサイエンス製 GC353
カラム(Inevt Cap 1 内径:0.25mm、膜厚:1.5μm、長さ:30m)
尚、不揮発分補集用カラム接続 0.53mm×1m
オーブン温度:70℃ 、 2min後10℃/minで昇温
カラム温度:Initial Temp:40℃、Initial Time:1min.、Rate:10℃/min.、Final Temp:220℃、Final Time:2min.、Injection Temp: 220℃、Detectot Temp:200℃
キャリアガス:He 1mL/min.
スプリット比:1/100
メークアップガス:N
2 35mL/min.、Air270mL/min.、He 36mL/min.
残留スチレン量(ppm)= 10
6 ・(A・D・E)/(C・B)
A:スチレン積算値、B:内標準(トルエン)積算値、C:サンプル重量(g)、D:内部標準(トルエン)の重量(g)、E:補正係数
【0114】
(ピール強度)
負極をそれぞれ、幅1cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とし、負極活物質層面を上にして固定する。試験片の負極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定する。測定を10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、下記基準にて判定を行う。この値が大きいほど、負極の密着強度が大きいことを示す。
A:6N/m以上
B:5N/m以上〜6N/m未満
C:4N/m以上〜5N/m未満
D:3N/m以上〜4N/m未満
E:3N/m未満
【0115】
(耐電解液性)
負極をそれぞれ、幅2cm×長さ2cmの矩形に切って試験片とし、混合溶媒(エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:2(20℃での容積比))にLiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解させた電解液に、各試験片を浸漬(60℃、72時間)し、集電体からの負極活物質層の剥離の状態を目視で観察し、下記基準にて判定を行った。測定は各試験片を3枚準備し、そのうち良好な2枚の結果の平均で判断した。剥がれ無の面積が大きいほど、耐電解液性に優れることを示す。
A:剥がれ無の面積 100%
B:剥がれ無の面積 95%以上100%未満
C:剥がれ無の面積 90%以上95%未満
D:剥がれ無の面積 80%以上90%未満
E:剥がれ無の面積 80%未満
【0116】
(充放電サイクル特性)
得られた二次電池を用いて、それぞれ25℃で0.1Cの定電流定電圧充電法方式で、4.2Vになるまで定電流で充電、その後定電圧で充電し、また0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは100サイクルまで行い、初期放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、この容量維持率が80%以下となる電池の発生個数で判定した。なお、50サイクル目の放電容量を電池容量とし、試験は各20個の電池を作製して行った。この個数が少ないほど、充放電サイクル特性に優れることを示す。
【0117】
(実施例1)
(バインダー組成物の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器(A)に、イオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム0.5部を3%過硫酸カリウム水溶液で添加した。また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器(B)にイオン交換水55部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、炭酸ナトリウム0.2部、t−ドデシルメルカプタン1.5部、1,3−ブタジエン45部、スチレン30部、メチルメタクリレート15部、アクリロニトリル6部、アクリルアミド1.5部、イタコン酸2.5部を仕込み、十分攪拌し調製して得たエマルジョン水溶液を、容器(A)に4時間に渡って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に3時間反応を実施した後、冷却して反応を停止し、バインダーを含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は96.5%であった。
【0118】
(スチームストリッピング A法)
次いで、該水系分散液に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH8に調整後、適量の消泡剤を添加した。次に蒸発タンク(缶)の内容積の半分となるよう、該水系分散液を仕込み、攪拌混合し、
図1に示すフローにしたがって、外部熱交換器により蒸発タンク内の水系分散液を80℃まで加熱した。そして、蒸発タンク内を150torrまで減圧にしながら、110℃(飽和温度)のスチームを1200kg/Hrで吹き込み、スチームストリッピングを行いながら濃縮を行ない、該水系分散液中の未反応単量体および遊離したt−ドデシルメルカプタンを除去した。その後、イオン交換水で固形分濃度調整を行いながら、200メッシュ(目開 約77μm)のステンレス製金網で該水系分散液をろ過し、固形分濃度40%のバインダー組成物を得た。バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し10ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は0ppm、スチレンの含有量は150ppmであった。なお、ストリッピングの際の処理時間は、10時間であった。
【0119】
(二次電池負極用スラリー組成物の製造)
増粘剤として、カルボキシメチルセルロース(CMC、第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を用いた。増粘剤の重合度は、1700、エーテル化度は0.65であった。
【0120】
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm、黒鉛層間距離(X線回折法による(002)面の面間隔(d値)):0.354nm)を100部、上記増粘剤の1%水溶液1部をそれぞれ加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分混合し混合液を得た。
【0121】
上記混合液に、上記バインダー組成物を1部(固形分基準)、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度42%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い二次電池負極用スラリー組成物を得た。
【0122】
(電池の製造)
上記二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布し、2分間乾燥(0.5m/分の速度、60℃)し、2分間加熱処理(120℃)して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して負極活物質層の厚みが80μmの二次電池負極を得た。負極のピール強度の評価結果を表1に示す。
【0123】
上記負極を直径15mmの円盤状に切り抜き、この負極の負極活物質層面側に直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター、正極として用いる金属リチウム、エキスパンドメタルを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのハーフセル(二次電池)を作製した。
【0124】
なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。このハーフセルの性能の評価結果を表1に示す。
【0125】
(実施例2)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、スチレン47部、1,3−ブタジエン50部、メタクリル酸1.5部、アクリル酸1.5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン0.4部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、バインダーを含む水系分散液を得た。
【0126】
上記バインダーを含む水系分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、バインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し8ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は1ppm、スチレンの含有量は210ppmであった。なお、ストリッピングの際の処理時間は、10時間であった。
【0127】
(実施例3)
バインダーを含む水系分散液のスチームストリッピングについて、以下の方法でスチームストリッピング(スチームストリッピング B法)を行ったこと以外は、実施例2と同様の操作を行って、バインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
(スチームストリッピング B法)
該水系分散液に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH8に調整後、適量の消泡剤を添加した。次に蒸発タンク(缶)の内容積の半分となるよう、該水系分散液を仕込み、攪拌混合し、
図1に示すフローにしたがって、外部熱交換器により蒸発タンク内の水系分散液を90℃まで加熱した。そして、蒸発タンク内を150torrまで減圧にしながら、130℃(飽和温度)のスチームを1500kg/Hrで吹き込み、スチームストリッピングを行いながら濃縮を行ない、該水系分散液中の未反応単量体および遊離したt−ドデシルメルカプタンを除去した。その後、イオン交換水で固形分濃度調整を行いながら、200メッシュ(目開 約77μm)のステンレス製金網で該水系分散液をろ過して、固形分濃度40%のバインダー組成物を得た。バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し3ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は0ppm、スチレンの含有量は50ppmであった。なお、ストリッピングの際の処理時間は、8時間であった。
【0129】
(実施例4)
攪拌機付き5MPa耐圧容器(A)に、イオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム0.5部分を3%過硫酸カリウム水溶液で添加した。また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器(B)にイオン交換水55部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、炭酸ナトリウム0.2部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、α−メチルスチレンダイマー1.5部、1,3−ブタジエン55部、スチレン20部、メチルメタクリレート6部、メタクリロニトリル15部、アクリルアミド2部、イタコン酸1.0部、β−ヒドロキシエチルアクリレート1.0部を仕込み、十分攪拌し調製して得たエマルジョン水溶液を、容器(A)に4時間に渡って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に3時間反応を実施した後、冷却して反応を停止し、バインダーを含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は97.4%であった。
【0130】
上記バインダーを含む水系分散液を用いたこと以外は、実施例3と同様にスチームストリッピング(B法)を行って、バインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し8ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は3ppm、スチレンの含有量は30ppmであった。なお、ストリッピングの処理時間は、8時間であった。
【0131】
(実施例5)
攪拌機付き5MPa耐圧容器(A)に、イオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム0.5部分を3%過硫酸カリウム水溶液で添加した。また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器(B)にイオン交換水55部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、炭酸ナトリウム0.2部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、α−メチルスチレンダイマー0.5部、1,3−ブタジエン45部、スチレン18部、メチルメタクリレート8部、アクリロニトリル25部、アクリルアミド1.0部、イタコン酸1.5部、アクリル酸1.5部を仕込み、十分攪拌し調製して得たエマルジョン水溶液を、容器(A)に4時間に渡って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に3時間反応を実施した後、冷却して反応を停止し、バインダーを含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は96.8%であった。
【0132】
上記バインダーを含む水系分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、バインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し3ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は2ppm、スチレンの含有量は120ppmであった。なお、ストリッピングの際の処理時間は、6時間であった。
【0133】
(実施例6)
攪拌機付き5MPa耐圧容器(A)に、イオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム0.5部分を3%過硫酸カリウム水溶液で添加した。また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器(B)にイオン交換水55部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、炭酸ナトリウム0.2部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、1,3−ブタジエン30部、スチレン60部、メチルメタクリレート4部、メタクリロニトリル1.0部、メタクリルアミド1.0部、フマル酸1.0部、メタクリル酸1.0部、アクリル酸1.0部、β−ヒドロキシエチルメタクリレート1.0部を仕込み、十分攪拌し調製して得たエマルジョン水溶液を、容器(A)に4時間に渡って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に3時間反応を実施した後、冷却して反応を停止し、バインダーを含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は96.2%であった。
【0134】
上記バインダーを含む水系分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、バインダー組成物、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し5ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は0ppm、スチレンの含有量は330ppmであった。なお、ストリッピングの際の処理時間は、10時間であった。
【0135】
(実施例7)
スチームストリッピングA法において、処理時間を6時間とした以外は、実施例1と同様の操作を行ってバインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し32ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は4ppmであり、スチレンの含有量は280ppmであった。
【0136】
(実施例8)
スチームストリッピングA法において、処理時間を5時間とした以外は、実施例2と同様の操作を行ってバインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し8ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は3ppmであり、スチレンの含有量は800ppmであった。
【0137】
(実施例9)
バインダーを含む水系分散液のスチームストリピングについて、以下の方法でスチームストリッピング(スチームストリッピング C法)を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、バインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し40ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は3ppmであり、スチレンの含有量は950ppmであった。
【0138】
(スチームストリッピング C法)
実施例1で得た該水系分散液に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pH8に調整後、適量の消泡剤を添加した。次に蒸発タンク(缶)の内容積の半分となるよう、該水系分散液を仕込み、攪拌混合し、
図1に示すフローにしたがって、外部熱交換器により蒸発タンク内の水系分散液を95℃まで加熱した。そして蒸発タンク(缶)を減圧とせず、110℃(飽和温度)のスチームを1000kg/Hrで吹き込みながら、タンク内を通気させながら、スチームストリッピングを行い、該水系分散液中の未反応単量体および遊離したt−ドデシルメルカプタンを除去した。その後、200メッシュ(目開 約77μm)のステンレス製金網で該水系分散液をろ過し、固形分濃度25%のバインダー組成物を得た。なおストリッピングの際の処理時間は、10時間とした。
【0139】
(比較例1)
バインダー組成物の製造の際のt−ドデシルメルカプタンの含有量を1.2部とし、スチームストリッピング処理を行わずバインダー組成物を得たこと以外は、実施例1と同様の操作を行ってバインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し60ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は70ppmであり、スチレンの含有量は7800ppmであった。
【0140】
(比較例2)
攪拌機付き5MPa耐圧容器(A)に、イオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム0.5部分を3%過硫酸カリウム水溶液で添加した。また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器(B)にイオン交換水55部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、炭酸ナトリウム0.2部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、α−メチルスチレンダイマー1.5部、1,3−ブタジエン65部、スチレン20部、メチルメタクリレート6部、メタクリロニトリル5.0部、アクリルアミド1.0部、β−ヒドロキシエチルアクリレート1.0部、イタコン酸1.0部、アクリル酸1.0部を仕込み、十分攪拌し調製して得たエマルジョン水溶液を、容器(A)に4時間に渡って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に3時間反応を実施した後、冷却して反応を停止し、バインダーを含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は97.5%であった。
【0141】
上記バインダーを含む水系分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行ってバインダー組成物を得、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、バインダー組成物中の遊離したt−ドデシルメルカプタンの含有量は、バインダー100重量部に対し15ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は8ppm、スチレンの含有量は250ppmであった。なお、ストリッピングの際の処理時間は、10時間であった。
【0142】
(比較例3)
攪拌機付き5MPa耐圧容器(A)に、イオン交換水50部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を仕込み十分攪拌した後、70℃とし、過硫酸カリウム0.5部分を3%過硫酸カリウム水溶液で添加した。また別の攪拌機付き5MPa耐圧容器(B)にイオン交換水55部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、炭酸ナトリウム0.2部、α−メチルスチレンダイマー2.0部、1,3−ブタジエン55部、スチレン42部、メタクリル酸1.5部、アクリル酸1.5部を仕込み、十分攪拌し調製して得たエマルジョン水溶液を、容器(A)に4時間に渡って連続的に滴下した。重合転化率が90%に達したところで反応温度を80℃とし更に3時間反応を実施した後、冷却して反応を停止し、バインダーを含む水系分散液を得た。なお、重合転化率は92.1%であり、反応容器内壁、攪拌翼に凝集物付着(スケール)が見られた。
【0143】
上記バインダーを含む水系分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、バインダー組成物、スラリー組成物、負極及びハーフセルを作製し、評価を行った。結果を表1に示す。なお、バインダー組成物中に、遊離したt−ドデシルメルカプタンは検出されず、バインダー100重量部に対し0ppmであった。また、バインダー組成物中のブタジエンの含有量は2ppm、スチレンの含有量は40ppmであった。なお、ストリッピングの際の処理時間は、10時間であった。
【0144】
【表1】
【0145】
表1の結果から、以下のことがいえる。
脂肪族共役ジエン系単量体単位20〜60重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体単位1〜10重量%、及びこれらと共重合可能な他の単量体単位30〜79重量%からなるバインダーと、該バインダー100重量部に対し、0.5〜50ppmの遊離したアルキルメルカプタンとを含有する二次電池負極用バインダー組成物を用いることで、耐電解液性が良好な負極を得ることができ、充放電サイクル特性の良好な二次電池を得ることができる。