(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
テトラフルオロエチレンを99.8質量%以上含む単量体を水性媒体中で懸濁重合し、顆粒状重合体粒子を製造する工程と、前記顆粒状重合体粒子を粉砕する工程とを有し、
前記水性媒体は、下記式(1)で表される化合物を100〜2000ppmの濃度で含むことを特徴とする、ポリテトラフルオロエチレンモールディングパウダーの製造方法。
RF(OCF(X1)CF2)k−1OCF(X2)COO−M+ …(1)
(式中、RFは炭素数1〜10のペルフルオロ化された1価の有機基であり、X1およびX2は、それぞれ独立に、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、kは1以上の整数であり、M+は水素イオン、アンモニウムイオン、アルキル置換アンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンである。)
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔PTFEモールディングパウダーの製造方法〕
本発明のPTFEモールディングパウダーの製造方法は、TFEを99.8質量%以上含む単量体を水性媒体中で懸濁重合し、顆粒状重合体粒子を製造する工程(以下、「懸濁重合工程」ともいう。)と、該工程で得られた顆粒状重合体粒子を粉砕する工程(以下、「粉砕工程」ともいう。)とを有する。
ここで、本発明で製造される「PTFEモールディングパウダー」とは、懸濁重合工程よりも後に、その融点以上に加熱されていないものをいう。
【0016】
(懸濁重合工程)
本発明における懸濁重合工程では、TFEを99.8質量%以上含む単量体を重合する。TFEの含有量が99.8質量%以上である単量体から製造されたPTFEは、溶融粘度が極めて高く、例えば押出成形、射出成形のような一般的な熱可塑性樹脂の成形方法では成形できない非溶融成形性を呈する。そのため、本発明の製造方法で得られたPTFEモールディングパウダーを成形する場合には、詳しくは後述するが、必要に応じて該PTFEモールディングパウダーを造粒して造粒物とした後、金型に充填して圧縮成形し、ついで、PTFEの融点以上の温度に加熱して焼結させる方法等が採用される。
【0017】
単量体の100質量%中には、0.2質量%以下の範囲で、TFE以外の単量体(コモノマー)が含まれてもよい。TFE以外の単量体としては、例えば、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PFAVE)、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(4−メトキシ−1,3−ジオキソール)、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルエチレン等が挙げられる。TFE以外の単量体は、1種以上を使用できる。TFE以外の単量体を0.2質量%以下の範囲で使用することにより、PTFEの結晶化がある程度抑制され、該PTFEの引張強度、引張伸度、耐絶縁破壊性、耐クリープ性等が向上する。
【0018】
懸濁重合工程では、下記式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)を乳化剤として0.5〜2000ppmの濃度で含む水性媒体中で、上述の単量体を懸濁重合する。
R
F(OCF(X
1)CF
2)
k−1OCF(X
2)COO
−M
+ …(1)
【0019】
式中、R
Fは炭素数1〜10のペルフルオロ化された1価の有機基であり、X
1およびX
2は、それぞれ独立に、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、kは1以上の整数である。M
+は水素イオン、アンモニウムイオン、アルキル置換アンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンである。
上記式(1)で表される化合物は、生物蓄積性、毒性などに問題を有しない。
【0020】
炭素数1〜10のペルフルオロ化された1価の有機基としては、炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有する炭素数2〜10のペルフルオロアルキル基等が挙げられる。
R
Fの炭素数は、1〜5が好ましく、2〜4がより好ましく、2または3がさらに好ましい。
R
Fは、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。表面張力低下能に優れることから、直鎖状がより好ましい。
R
Fとして、具体的には、−CF
3、−CF
2CF
3、−CF
2CF
2CF
3、−CF
2CF
2CF
2CF
3、−CF(CF
3)
2、−CF
2CF(CF
3)
2、−CF(CF
3)CF
2CF
3、−C(CF
3)
3等のペルフルオロアルキル基;−CF(CF
3)[OCF
2CF(CF
3)]
bOCF
2CF
2CF
3(bは1以上の整数であり、1〜5の整数が好ましい。)、−(CF
2)
dOCF
3(dは1以上の整数であり、1〜8の整数が好ましい。)等のエーテル性酸素原子含有ペルフルオロアルキル基等が挙げられる。R
Fとしては、−CF
2CF
3または−CF
2CF
2CF
3が特に好ましい。
【0021】
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。本発明においては、X
1およびX
2が同じであることが好ましく、特に、X
1およびX
2がともにフッ素原子であることが好ましい。
kは1以上の整数であり、1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、2または3がさらに好ましい。
M
+は、水素イオン、アンモニウムイオン、アルキル置換アンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンであり、具体的には、H
+、Li
+、Na
+、K
+、NH
4+等が挙げられる。なかでもM
+がNH
4+であると、化合物(1)の水中への溶解性が優れるとともに、化合物(1)が金属イオンを含有しないため、金属イオンがPTFEモールディングパウダー中に不純物として残留することがなく好ましい。
【0022】
化合物(1)は、総炭素数が5〜10であることが好ましく、5〜8であることがより好ましく、5〜6であることがさらに好ましい。
化合物(1)の好ましい具体例として、下記化合物(1−1)〜(1−7)が挙げられる。
【0023】
CF
3OCF
2CF
2OCF
2COO
−(NH
4)
+…(1−1)
CF
3(OCF
2CF
2)
2OCF
2COO
−(NH
4)
+…(1−2)
CF
3CF
2OCF
2CF
2OCF
2COO
−(NH
4)
+…(1−3)
CF
3CF
2(OCF
2CF
2)
2OCF
2COO
−(NH
4)
+…(1−4)
CF
3CF
2CF
2(OCF
2CF
2)
2OCF
2COO
−(NH
4)
+…(1−5)
CF
3CF
2CF
2OCF
2CF
2OCF
2COO
−(NH
4)
+…(1−6)
CF
3(CF
2)
3OCF
2CF
2OCF
2COO
−(NH
4)
+…(1−7)
【0024】
なかでも、PTFEの重合安定化作用が良好であることから、化合物(1−3)が好ましい。
【0025】
化合物(1−3)は、対応する非含フッ素化合物または部分フッ素化合物のエステルを、液相中でフッ素と反応させる液相フッ素化法、フッ化コバルトを用いるフッ素化法、または電気化学的フッ素化法等の公知のフッ素化法によりフッ素化し、得られたフッ素化エステル結合を加水分解し、精製後にアンモニアで中和して得ることができる。
【0026】
懸濁重合工程における化合物(1)の水性媒体中の濃度は、0.5〜2000ppmであり、0.5〜1500ppmが好ましく、0.5〜1200ppmがより好ましい。
化合物(1)の濃度が上記範囲の下限値以上であると、懸濁重合工程で得られる顆粒状重合体粒子を粉砕することにより、嵩密度の高いPTFEモールディングパウダーを製造できる。嵩密度の高いPTFEモールディングパウダーは、該モールディングパウダーを金型に充填して圧縮する際の圧縮比を小さくでき、成形体の生産性の向上や金型の小型化など、成形の効率性に優れる。また、嵩密度の高いPTFEモールディングパウダーは、圧縮成形時の持ち込みエアーが少なく脱気性に優れ、粒子間の融着性が良好である。そのため、PTFEモールディングパウダーを圧縮成形して焼結し、スカイブフィルム用成形体を得て、これをかつら剥きして得られる絶縁性フィルム(スカイブフィルム)は均質で、絶縁性が良好で、絶縁破壊電圧が優れる。また、嵩密度の高い造粒物を作り易い。
一方、化合物(1)の濃度が上記範囲の上限値以下であると、懸濁重合工程で得られる顆粒状重合体粒子中への化合物(1)の残存量を抑制でき、PTFEの色相を良好に維持できるとともに、化合物(1)自体のコストや化合物(1)の回収コストも低減できる。
【0027】
水性媒体中における化合物(1)の濃度は、PTFEの用途に応じて、上記範囲において調整することが好ましい。
例えば、本発明の製造方法で得られたPTFEモールディングパウダーを好ましくは造粒後、圧縮成形して焼結し、ガスケット、ライニング等の工業用部材;半導体産業で強酸、強アルカリを受けるための角槽;ウェハーキャリアなどの主に立体形状の製品を切り出すための切削加工用成形体を製造する場合には、水性媒体中における化合物(1)の濃度は、0.5〜50ppmであることが好ましく、0.5〜30ppmがさらに好ましく、0.5〜10ppmであることがより好ましい。化合物(1)の濃度が上記範囲の上限値以下であると、造粒による嵩密度の向上効果がより優れ、得られたモールディングパウダーを金型に充填して圧縮する際の圧縮比をより小さくできる。また、金型の小型化も図れる。化合物(1)の濃度が上記範囲の下限値以上であると、化合物(1)の添加効果が得られる。
一方、本発明の製造方法で得られたPTFEモールディングパウダーを圧縮成形して焼結し、スカイブフィルム用成形体を製造する場合には、水性媒体中における化合物(1)の濃度は、100〜2000ppmが好ましく、100〜1200ppmがより好ましく、100〜1000ppmが最も好ましい。化合物(1)の濃度が上記範囲の下限値以上であると、より嵩密度が高く加工性に優れたモールディングパウダーが得られ、均質な絶縁性フィルムが得られやすい。また、上記範囲の上限値以下であると、懸濁重合工程で得られる顆粒状重合体粒子中への化合物(1)の残存量を抑制でき、PTFEの色相を良好に維持できるとともに、化合物(1)自体のコストや化合物(1)の回収コストも低減できる。
【0028】
懸濁重合工程では、化合物(1)とラジカル重合開始剤の存在下、不活性ガス雰囲気下において、単量体を水性媒体中で懸濁重合する。具体的には、例えば、化合物(1)と水とをオートクレーブなどの重合槽に仕込み、重合槽を脱気した後、不活性ガスを重合槽に導入する。ついで、重合槽に、ガス状の単量体混合物を導入するとともにラジカル重合開始剤の水溶液を注入し、反応を開始する。反応は撹拌下で行う。反応の進行に伴って単量体が消費され、系内の圧力が低下するため、系内の圧力を一定に維持するように単量体を連続的に導入しながら、重合反応を進行させる。所定量の単量体の導入後、反応を終了させ、単量体を重合槽内から重合槽外へ放出する。
【0029】
懸濁重合工程の重合温度は10〜90℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。
懸濁重合工程の重合圧力は、単量体と不活性ガスにより、0.5〜2.0MPaに維持されることが好ましく、0.5〜1.5MPaがより好ましい。この範囲にあると重合速度と徐熱とのバランスが良く、生産性に優れる。重合開始初期においては、単量体の分圧は40〜90体積%が好ましく、50〜80体積%がより好ましい。なお、不活性ガスとは、単量体や反応系内に存在する物質に対して不活性なガス状物質である。不活性ガス雰囲気下で懸濁重合を行うことにより、反応速度を良好に制御しつつ反応を進行させることができる。この範囲にあると安全性と生産性のバランスに優れる。不活性ガスとしては、ヘリウム、二酸化炭素、窒素が挙げられ、工業的な入手しやすさを考慮すると、窒素が好ましい。
懸濁重合工程の重合時間は40〜200分間が好ましく、60〜180分間がより好ましい。この範囲にあると生産性に優れる。
【0030】
ラジカル重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、アルカリ金属過硫酸塩などの過硫酸塩、過マンガン酸塩類等のイオン性ラジカル開始剤が挙げられる。また、これらのラジカル重合開始剤を酸化性成分とし、例えばヒドラジン、ジイミン、硫酸鉄(II)塩類、シュウ酸塩類等を還元性成分として組み合わせて酸化還元系開始剤としてもよい。このような酸化還元系開始剤の組み合わせの場合、いずれか一方をあらかじめ重合槽へ仕込み、ついで重合を行いながら、他方を間欠的または連続的に添加することが好ましい。
【0031】
ラジカル重合開始剤の使用量は、反応速度を良好に制御できるように調整される。例えば、過硫酸アンモニウムの場合、水性媒体に対して1〜100ppmが好ましく、1〜50ppmがより好ましく、1〜10ppmが最も好ましい。過硫酸アンモニウムの使用量が上記範囲の上限値以下であると、懸濁重合工程で得られる顆粒状重合体粒子中への過硫酸アンモニウムの残存量を抑制でき、PTFEの色相を良好に維持できる。一方、過硫酸アンモニウムの使用量が上記範囲の下限値以上であると、充分な反応速度が得られ、生産性を良好に維持できるとともに、反応時間が長くなりすぎることによる、顆粒状重合体粒子の重合槽内への付着も防止できる。
【0032】
懸濁重合工程中の水性媒体のpHは、7超のアルカリ性側であることが好ましい。7未満の酸性側であると、重合槽の金属イオンの溶出、フッ酸の生成等に起因して、PTFEが着色する可能性がある。また、アルカリ性側であると、反応速度が制御でき、重合反応中の除熱を良好に行える。
pHをアルカリ性側に維持するためには、緩衝剤を使用できる。緩衝剤としては、例えば重ホウ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化アンモニウムが挙げられ、pHは、重合中8〜10の間に制御することが好ましく、8.5〜9.5がより好ましい。
【0033】
化合物(1)を使用せずに行われる従来の一般的な懸濁重合では、得られる顆粒状重合体粒子は剛直な髭状であるのに対して、本発明における懸濁重合工程で得られる顆粒状重合体粒子は、化合物(1)の使用を増加すると、角が少なく球に近い粒子となる。これは、化合物(1)を使用することにより、懸濁重合工程での重合開始初期において、乳化重合で認められるようなサブミクロンオーダーの細かい分散粒子(重合体粒子)が生成し、該分散粒子が重合の進行とともに凝集することにより、上述の球に近い形状の粒子となることによるものと考えられる。
【0034】
(粉砕工程)
粉砕工程では、懸濁重合工程で製造された顆粒状重合体粒子を洗浄後、例えば、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の粉砕装置で粉砕する。これにより、PTFEモールディングパウダーが得られる。
粉砕工程では、複数の粉砕装置を組み合わせて用いてもよい。例えば、鋭利な回転刃と固定刃により連続的に剪断粉砕を行う粗粉砕機であって、繊維質原料や延性原料等の粉砕に多用されるカッターミルと、粉砕による温度上昇が比較的少なく、また、異物の混入が少ない点において優れるジェットミルとを組み合わせることができる。その場合、まず、カッターミルを用い、水等を媒体として、懸濁重合工程で得られた顆粒状重合体粒子を例えば平均粒子径100〜1000μmに粉砕する。ついで、このように粗粉砕された粒子をメッシュスクリーンを介して排出し、50〜150℃に加熱する方法か、または、エアージェットを用いた方法により乾燥後、分級機を備えたジェットミルへ供給する。ジェットミル内においては、ノズルから高圧の空気を噴射し、超高速ジェットとして高圧空気をポリマーに衝突させ、ポリマー同士の衝撃によって、例えば平均粒子径1〜100μmに微粉砕する。
【0035】
このようにして得られたPTFEモールディングパウダーは、TFEを99.8質量%以上含む単量体の重合により得られた重合体であり、熱可塑性樹脂や熱溶融性樹脂のように溶融成形できない。そのため、PTFEモールディングパウダーを成形する場合には、必要に応じて該PTFEモールディングパウダーを後述の方法で造粒した後、金型に充填して圧縮成形し、ついで、PTFEの融点以上の温度に加熱して焼結させ、成形体とする方法が採用される。したがって、PTFEモールディングパウダーには、成形体の生産性、金型の小型化などの成形の効率化の観点から、金型への充填密度がより高いこと、すなわち、嵩密度が高いことが要求される。
一般的に、PTFEモールディングパウダーは、粉砕により表面が粗れ、いびつな形状になる。そのため、該PTFEモールディングパウダーは、互いの粒子間で空隙が出来るため、粒子径が小さい程、空隙比率が相対的に大きくなり、密に充填されにくくなり、成形の効率性が低下する傾向となる。一方、PTFEモールディングパウダーの粒子径が大きくなると、該PTFEモールディングパウダーから得られた成形体をかつら剥きした絶縁性フィルムは、絶縁性の指標である絶縁破壊電圧、引張強度および伸度が劣る傾向となる。 よって、これらの点を考慮して、粉砕工程により得られるPTFEモールディングパウダーの平均粒子径は、1〜100μmが好ましく、10〜80μmがより好ましく、20〜60μmがさらに好ましい。
【0036】
PTFEモールディングパウダーの平均粒子径が上記範囲であると、該PTFEモールディングパウダーの嵩密度が、好ましくは0.35〜0.50g/mL、より好ましくは0.35〜0.45g/mLとなり、成形の効率性に優れる。また、成形体のかつら剥きにより得られた絶縁性フィルムの絶縁破壊電圧、引張強度および引張伸度にも優れる。
また、PTFEモールディングパウダーの比表面積は、1.0〜5.0m
2/gが好ましく、1.5〜4.0m
2/gが好ましい。この範囲にあると粉体嵩密度が高く引張強伸度に優れる。
【0037】
このようにして得られたPTFEモールディングパウダーは、そのまま成形体の製造に用いられてもよいし、次に説明するように、流動性を改善するとともに嵩密度をより高める目的で造粒後、成形体の製造に用いられてもよい。
PTFEモールディングパウダーを造粒せずに、そのまま用いて製造されたスカイブフィルム用成形体のかつら剥きにより得られた絶縁性フィルムは、粒子間の融着性が良好であり絶縁性能により優れる。そのため、絶縁性フィルムを製造する場合には、PTFEモールディングパウダーを造粒せずに、スカイブフィルム用成形体を製造することが好ましい。
【0038】
なお、本発明によるPTFEモールディングパウダーは、さらに、電子線照射やγ線照射あるいは高温加熱等により低分子量化させ、そのまま又は必要に応じて平均粒子径1〜20μm程度まで粉砕し、ルブリカントと呼ばれる低分子量PTFE粉末に加工することができる。ルブリカントは、表面の摩擦抵抗の低減や非粘着性向上あるいは撥水性付与を目的として、プラスチック、ゴム、塗料、インク、グリース等への添加物として使用される。
【0039】
〔ポリテトラフルオロエチレン造粒物の製造方法〕
本発明のPTFEモールディングパウダーの製造方法で製造されたPTFEモールディングパウダーは、粉砕工程により粉砕された後、いびつな形状であるため、流動性が不充分である。そこで、流動性の改善と、さらなる嵩密度の向上を目的として、PTFEモールディングパウダーを造粒して、PTFE造粒物とすることが好ましい。造粒対象のPTFEモールディングパウダーの嵩密度が高いほど、造粒して得られたPTFE造粒物の嵩密度も高くなる傾向にある。
【0040】
造粒するPTFEモールディングパウダーの平均粒子径は、20〜60μmが好ましく、20〜50μmがより好ましく、20〜40μmが最も好ましい。平均粒子径が上記範囲であると、得られるPTFEモールディングパウダー造粒物の嵩密度が充分に高くなる。そのため、得られる成形体に空隙が残りにくく、成形体の均一性も向上する。
【0041】
造粒方法としては、PTFEモールディングパウダーを水、有機溶媒などの液で湿潤し、該液を乾燥することにより造粒する湿式造粒が好ましい。湿式造粒としては、具体的には、(i)有機溶媒のみを媒体とする方法;(ii)水中での分散を利用する方法;(iii)水と有機溶媒との2相液体媒体中で行う方法;などがあるが、得られるPTFE造粒物の嵩密度、比重の点から、2相液体媒体中で造粒する上記(iii)の方法が好ましい。
【0042】
有機溶媒としては、水に溶解せず、25℃における表面張力が25ダイン/cm以下であり、沸点が30〜100℃であるフッ素系有機溶媒が好ましい。表面張力が上記範囲であると、PTFEモールディングパウダーを充分に湿らすことができる。沸点が上記範囲であると、有機溶媒を気化させて回収する際の温度を低くでき、軟らかいPTFEモールディングパウダーを得ることができる。
【0043】
有機溶媒の具体例としては、ヒドロフルオロカーボン(以下、「HFC」ともいう。)、(ポリフルオロアルキル)アルキルエーテル(以下、「PFAE」ともいう。)、ヒドロフルオロアルキルエーテル(以下、「HFE」ともいう。)等が挙げられる。
HFCの炭素数は、4〜10である(ただし、1≦水素の数≦フッ素の数である。)。炭素数が上記範囲であると、有機溶媒の沸点が適度であり、適度な軟らかさを有するPTFE造粒物が効率良く得られやすい。HFCの沸点は、40〜130℃が好ましい。
該HFCは、水素原子を有するために地球温暖化係数が小さい。また、該HFCは、水素原子の数がフッ素原子の数より多いために、表面張力が小さく、PTFEモールディングパウダーを充分に湿らせることができる。
【0044】
HFCの具体例としては、C
4H
2F
8(たとえばH(CF
2)
4H。)、C
4H
4F
6(たとえばF(CHF)
4F。)、C
4H
5F
5(たとえばCF
3CH
2CF
2CH
3。)、C
5HF
11(たとえば(CF
3)
2CFCF
2CF
2H。)、C
5H
2F
10(たとえばCF
3CF(CHF
2)CF
2CHF
2。)、C
6HF
13(たとえばH(CF
2)
6F。)、C
6H
5F
9(たとえばF(CF
2)
4CH
2CH
3。)、C
7HF
15、C
8HF
17(たとえばH(CF
2)
8F。)、C
9HF
19および1,1,2,2,3,3,4,4,5,6−デカフルオロシクロヘキサン、1,1,2,2,3,3,4,5,5,6−デカフルオロシクロヘキサンおよび1−トリフルオロメチル−1,2,2,3,3,4,4,5,5,6−デカフルオロシクロヘキサン等が挙げられる。これらからなる群より選ばれる少なくとも1種類のHFCが好ましい。
【0045】
PFAEは、下記式(2)で表される。
R
1−O−R
2・・・(2)
【0046】
式中、R
1は炭素数2〜6のポリフルオロアルキル基であり、R
2は炭素数1または2のアルキル基である。PFAEの沸点範囲は、25〜80℃であることが好ましい。
R
1はペルフルオロアルキル基であることが好ましい。R
1は直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。
PFAEの具体例としては、CF
3CF
2CF
2CF
2OCH
3、CF
3CF
2CF
2CF
2OCH
2CH
3、CF
3CF
2CF
2OCH
3、(CF
3)
2CFOCH
3等が挙げられる。これらからなる群より選ばれる少なくとも1種類のPFAEが好ましい。
【0047】
HFEは、下記式(3)で表される。
Ra−O−Rb(3)
式中、RaおよびRbはポリフルオロアルキル基であり、RaおよびRbの少なくとも一方は水素原子を有し、RaとRbの合計の炭素原子数は3〜8である。
HFEの沸点は、25〜60℃が好ましく、40〜60℃がより好ましく、45〜60℃がさらに好ましい。HFEの沸点が上記範囲の上限値以下であると、PTFE造粒物からHFEを除去する際に温度を過度に高める必要がない。そのため、PTFE造粒物の内部が固くしまることがなく、得られる成形体の引張強度、引張伸度を良好に維持できる。一方、HFEの沸点が上記範囲の下限値以上であると、PTFEモールディングパウダーが充分に凝集し、得られるPTFE造粒物の強度が優れ、外力により破壊されにくくなる。
【0048】
HFEの具体例としては、CF
3CH
2OCF
2CHF
2(沸点56℃)、CF
3CF
2CH
2OCHF
2(沸点46℃)等が挙げられる。これらの少なくとも1種類のHFEが好ましい。
【0049】
上記(iii)の造粒方法において、水/有機溶媒/モールディングパウダーの割合は、質量比で、2〜20/0.2〜2/1の範囲が好ましい。
【0050】
なお、造粒の際には、PTFEモールディングパウダーに、ガラス繊維、カーボン繊維、ブロンズ、グラファイト等の粉末のフィラー;溶融成形可能な他のフッ素樹脂;耐熱性樹脂等の任意成分を配合したPTFE組成物を造粒してもよい。その場合、PTFEモールディングパウダーと、フィラー、フッ素樹脂等の任意成分とを、乾式で均一に混合してPTFE組成物とし、該PTFE組成物を2相液体媒体などの媒体中で撹拌混合すればよい。
【0051】
フィラーを配合する場合には、フィラーの分離防止を目的として、平均粒子径0.1〜0.5μmのPTFE乳化重合で得られたコロイド状分散液を配合できる。該PTFEコロイド状分散液の配合は、特にフィラーの配合割合が多い場合に有用である。
PTFEコロイド状分散液の配合量は、造粒に用いるPTFEモールディングパウダーの100質量部に対して、PTFEの固形分換算値で1〜5質量部が好ましい。
【0052】
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0053】
PTFE造粒物の平均粒子径は、300〜500μmが好ましく、350〜500μmがより好ましい。PTFE造粒物の平均粒子径は、PTFEモールディングパウダーの平均粒子径の5倍以上が好ましい。この範囲にあるとPTFE造粒物の貯蔵時における団塊化防止に優れる。また、PTFE造粒物の嵩密度は、0.80〜1.00g/mLであることが好ましく、0.80〜0.95g/mLがより好ましい。この範囲にあるとPTFE造粒物の金型充填性が優れる。また、後述の「(G)造粒物の粉末流動性」に記載の測定方法で測定された粉末流動性は、5〜15mmが好ましく、5〜10mmがより好ましい。この範囲にあるとPTFE造粒物の自動成型時における生産性が優れる。
該PTFE造粒物は、高嵩密度で流動性に優れるとともに、比較的軟らかく、圧縮成形時の圧力伝達性が良好である。よって、該PTFE造粒物を用いることにより、成形体を製造する場合の成形の効率化が図れる。また、得られた成形体は、引張強度、引張伸度に優れるとともに、蒸気通過度の小さい緻密なものとなる。
【0054】
〔ポリテトラフルオロエチレンの成形体〕
本発明の製造方法で製造されたPTFEモールディングパウダーおよびPTFE造粒物は、380℃でも溶融粘度が10
10〜10
12Pa・sと高粘度であるため、押出成形、射出成形のような一般的な熱可塑性樹脂の成形方法では成形できない。
そこで、PTFEモールディングパウダーまたはPTFE造粒物を用いて成形体を製造する場合には、まず、常温でPTFEモールディングパウダーまたはPTFE造粒物を金型に充填して、10〜35MPaで圧縮成形し、ついで、焼結炉でPTFEの融点以上の360〜390℃に加熱し、焼結させ、成形体とする。なお、成形体を冷却する際、特に成形体が大型である場合には、成形体の歪みや亀裂の発生を防止するために冷却速度を小さくし、充分に時間をかけて慎重に降温することが好ましい。
【0055】
得られた成形体は、その後、切削加工などの機械加工により、所定の形状に加工される。機械加工により得られる物品としては、ガスケット、ライニング等の工業用部材、半導体産業で強酸、強アルカリを受けるための角槽、ウェハーキャリアなどの立体形状の製品;絶縁性フィルムなどのシート状物;が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例における各種測定方法は以下のとおりである。
【0057】
〔測定方法〕
(A)PTFEモールディングパウダーの平均粒子径(単位:μm):レーザー散乱法粒子径分布分析計(堀場製作所社製LA−920)を用い、イソプロピルアルコールを展開溶媒として測定した。
(B)PTFEモールディングパウダーの嵩密度(単位:g/mL):JIS K6891に準拠して測定した。内容積100mLのステンレス鋼製のはかり瓶に、上部に設置された漏斗より試料を落として、はかり瓶から盛り上がった試料を平板で擦り落とした後、はかり瓶内に残った試料の重さをはかり瓶の内容積で割った値を嵩密度とした。
(C)PTFEモールディングパウダーの標準比重(以下、「SSG」ともいう。):ASTM D4894−98aに準拠して測定した。12.0gの試料を計量して内径28.6mmの円筒金型で34.5MPaで2分間保持した。これを290℃のオーブンへ入れて120℃/hrで昇温した。380℃で30分間保持した後、60℃/hrで降温して294℃で24分間保持した。23℃のデシケーター中で12時間保持した後、23℃での成形体の空気中での質量と水中での質量を測定し、23℃における水との比重比を求め、標準比重とした。
なお、SSGは、PTFEモールディングパウダーの分子量の指標となる値であり、SSGが大きいほど分子量が小さいことを意味する。
【0058】
(D)フィルムの絶縁破壊電圧(単位:kV/0.1mm):PTFEモールディングパウダーを金型に充填し、25℃、15.7MPaで圧縮成形後、370℃で4時間加熱して焼結し、成形体(焼成円柱ブロック)を得た。ついで、JIS K6891に準じた絶縁破壊電圧試験を行った。すなわち、成形体から、かつら剥きにより、厚さ0.1mmのスカイブフィルムを得て、これを電極間にはさみ、空気中で電圧をゼロから1kV/秒の割合で一様に上昇させ、破壊電圧(kV/0.1mm)を測定した。
【0059】
(E)造粒物の平均粒子径(単位:μm):JIS K6891に準拠して測定した。上から順に20、30、40、45および60メッシュの標準ふるいを重ね、20メッシュのふるい上に試料を乗せてふるい、各ふるい上に残る試料の質量を求めた。この質量に基づいて対数確率紙で算出した50%粒子径を平均粒子径とした。
(F)造粒物の嵩密度(単位:g/mL):上記(B)と同様の方法で測定した。
(G)造粒物の粉末流動性(単位:mm):25±2℃に調整した測定室で、
図1に示す装置を用いて測定する。まず、9メッシュ(目開き2000μm)のふるいを通した試料100gを第1ホッパ1に入れる。第1ホッパ1の下端扉2を一気に開き、第1ホッパ1下端の開口部からH
1(60mm)の距離を隔てた位置に開口部4を有する第2ホッパ3へ試料を充填する。
第2ホッパ3の高さH
2は92mmである。第2ホッパ3は、垂直方向に対して30゜傾いた第1の板3aと、該第1の板3aとは反対方向に垂直方向に対して30°傾いた第2の板3bとを有し、これら第1の板3aと第2の板3bとが60°の角度を成している。また、第2ホッパ3は、前面板(図示略)と該前面板に対向するように平行配置された背面板(図示略)とを有し、第1の板3aと第2の板3bの図中手前側の端部が前面板により閉塞され、第1の板3aと第2の板3bの図中後方側の端部が背面板により閉塞されている。また、第2の板3bは可動式であり、該第2の板3bに接続された連結棒7を図中矢印方向に動かすことにより動く。具体的には、連結棒7を図中矢印に沿う上方に動かすことにより、第2の板3bも動き、第2ホッパ3の下端のスリット部5が開口するようになっている。
第2ホッパ3へ試料を充填した後、連結棒7を12mm/分で矢印に沿う上方に動かして、第2ホッパ3のスリット部5を開口し、試料を受け器8へ落下させる。そして、試料の50gが受け器8へ落下した時点において、スリット部5の開口幅を示す目盛り6に表示される値(開口部の広がり)を読みとる。この値を粉末流動性の指標とする。
目盛り6に表示される値が小さいほど、粉末流動性が優れる。
なお、第1ホッパ1の下端の開口部は、図中左右方向の長さが58mmで図中奥行方向の長さが22mmである(58mm×22mm)。
また、第2ホッパ3の上端の開口部4は、図中左右方向の長さが104mmで、図中奥行方向の長さが63mmである(104mm×63mm)。
(H)成形体の引張強度(単位:MPa)および引張伸度(単位:%):JIS K6891に準拠して測定した。試料は、つぎのようにして製造した。造粒物1700gを圧力31.4MPaで圧縮成形し、370℃で4時間焼成した後、降温速度70℃/時で冷却して得た厚さ2mmのシートからダンベル3号型で試料を打ち抜いた。
(I)比表面積:BET法により、表面分析計(S−1000、柴田科学社製)を用いて測定した。キャリアガスとして、純窒素ガス(純度99.9995%以上)を用い、冷却は液体窒素を用いて行った。
【0060】
(実施例1)
邪魔板と、シャフトに上下2個のタービン翼を備えた攪拌機とを有する100Lのステンレス鋼製オートクレーブに、上記化合物(1−3)の234mg、および脱イオン水の63.1Lを仕込んだ。オートクレーブを脱気した後、窒素を0.15MPaまで導入し、150rpmで撹拌しながら、内温を75℃まで昇温した。気相部に窒素を連続して20分間程度ブローし、0.44MPaまで加圧した。ついで、TFEを導入して1.10MPaまで昇圧し、500rpmで撹拌しながら、約70℃の温水に溶解した過硫酸アンモニウムの130mgと炭酸アンモニウムの2.23gを注入した。4分ほどで内圧が1.08MPaまで降下した。そして、オートクレーブ内圧を1.13MPaに保つようにTFEを添加しながら重合を進行させた。
TFEの添加量が9.35kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ中のTFEを大気放出した。重合時間は77分間であった。化合物(1−3)は、重合で使用した水(水性媒体)中、3.6ppmであった。
得られた顆粒状PTFE(顆粒状重合体粒子)を篩で脱水し、脱イオン水で洗浄した。
得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量を表1に示す。なお、付着物量は、全ポリマー量を100質量%とした際の付着物の質量割合であり、付着物の質量は、重合槽内から付着物を掻き取り、その質量を実測して求めた。
次に、カッターミルで、顆粒状PTFEを数百μm程度の粒径まで粉砕し、150℃で乾燥後、ジェットミルで平均粒子径41μmまで粉砕を行い、PTFEモールディングパウダーを得た。
得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0061】
(実施例2)
化合物(1−3)の使用量を325mgに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。そして、実施例1と同様に粉砕を行った。
化合物(1−3)の重合で使用した水(水性媒体)中の濃度、TFEの総添加量、重合時間、得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量、得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0062】
(実施例3)
化合物(1−3)の使用量を117mgに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。そして、実施例1と同様に粉砕を行った。
化合物(1−3)の重合で使用した水(水性媒体)中の濃度、TFEの総添加量、重合時間、得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量、得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0063】
(実施例4)
化合物(1−3)の使用量を59mgに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。そして、実施例1と同様に粉砕を行った。
化合物(1−3)の重合で使用した水(水性媒体)中の濃度、TFEの総添加量、重合時間、得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量、得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0064】
(実施例5)
化合物(1−3)の使用量を1.95gに代えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。そして、実施例1と同様に粉砕を行った。
化合物(1−3)の重合で使用した水(水性媒体)中の濃度、TFEの総添加量、重合時間、得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量、得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0065】
(実施例6)
実施例1で用いたオートクレーブを脱気した後、窒素を0.15MPaまで導入し、150rpmで撹拌しながら、内温を65℃まで昇温した。
気相部に窒素を連続して20分程度ブローし、0.44MPaまで加圧した。ついで、TFEを導入して1.10MPaまで昇圧し、500rpmで撹拌しながら、約70℃の温水に、化合物(1−3)の9.79g、過硫酸アンモニウムの132mg、および炭酸アンモニウムの9.77gを溶解して、注入した。7分ほどで内圧が1.08MPaまで降下した。そして、オートクレーブ内圧を1.13MPaに保つようにTFEを添加しながら重合を進行させた。
TFEの添加量が16.18kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ中のTFEを大気放出した。重合時間は169分間であった。化合物(1−3)は、重合で使用した水(水性媒体)中、150ppmであった。
得られた顆粒状PTFE(顆粒状重合体粒子)を篩で脱水し、脱イオン水で洗浄した。
得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量を表1に示す。
次に、実施例1と同様にして粉砕を行い、PTFEモールディングパウダーを得た。
得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0066】
(実施例7)
化合物(1−3)の使用量を14.7gに代えた以外は、実施例6と同様に反応を行った。そして、実施例1と同様に粉砕を行った。
化合物(1−3)の重合で使用した水(水性媒体)中の濃度、TFEの総添加量、重合時間、得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量、得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0067】
(実施例8)
化合物(1−3)の使用量を78.3gに代えた以外は、実施例6と同様に反応を行った。そして、実施例1と同様に粉砕を行った。
化合物(1−3)の重合で使用した水(水性媒体)中の濃度、TFEの総添加量、重合時間、得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量、得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
実施例1のオートクレーブに、脱イオン水63.1Lを仕込んだ。オートクレーブを脱気した後、窒素を0.11MPaまで導入し、150rpmで撹拌しながら、内温を78℃まで昇温した。気相部に窒素を連続して20分程度ブローし、0.13MPaまで加圧した。ついで、TFEで0.85MPaまで昇圧し、500rpmで撹拌しながら、約70℃の温水に溶解した過硫酸アンモニウム51mgとアンモニア水11.6mLを注入した。2分ほどで内圧が0.83MPaまで降下した。そして、オートクレーブ内圧を0.88MPaに保つようにTFEを添加しながら重合を進行させた。内温は、84℃から重合の進行と共に75℃へ下げた。
TFEの添加量が9.35kgになったところで反応を終了させ、オートクレーブ中のTFEを大気放出した。重合時間は54分間であった。
得られた顆粒状PTFE(顆粒状重合体粒子)を篩で脱水し、脱イオン水で洗浄した。
得られた顆粒状PTFEの重合槽内の付着物量を表1に示す。
次に、実施例1と同様にして粉砕を行い、PTFEモールディングパウダーを得た。
得られたPTFEモールディングパウダーの平均粒子径、嵩密度、比表面積、SSG、およびフィルムの絶縁破壊電圧を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、化合物(1−3)を0.5〜2000ppmの範囲で使用した各実施例の懸濁重合により得られた顆粒状PTFEを粉砕することにより、嵩密度の高いPTFEモールディングパウダーが得られた。嵩密度の高いPTFEモールディングパウダーを用いると、該モールディングパウダーを金型に充填して圧縮する際の圧縮比を小さくでき、成形体の生産性の向上や金型の小型化など、成形の効率化が期待できる。また、化合物(1−3)の濃度が比較的高い条件で製造された実施例6〜8のPTFEモールディングパウダーは、嵩密度がより高かった。
また、各実施例で得られたPTFEモールディングパウダーのSSGは大きすぎず、分子量が適度であると認められるため、該PTFEモールディングパウダーを用いて成形された成形体の強度等も問題ないことが示唆された。さらに、各実施例で得られたPTFEモールディングパウダーを用いて製造されたフィルムの絶縁性も良好であった。
【0071】
(実施例9)
平ブレード6枚羽根を上下2段に配した攪拌機を中央に有する邪魔板4枚付きのステンレス製円筒形の造粒槽(容量135L)に、水の79kgと、下記式(4)の有機媒体(沸点55℃)の11.2kgと、実施例1と同様の条件で製造した平均粒子径41μm、嵩密度0.41g/mLのPTFEモールディングパウダーの16.2kgとを加えた。
CF
3CHFCHFCF
2CF
3…(4)
ついで、槽内温度を28℃に調整し、回転数600rpmで45分間攪拌を続けた。ついで、回転数を340rpmとし、槽内温度を有機媒体の沸点まで上昇させながら36分間攪拌を行った。そして、回転数を340rpmとし、槽内温度を有機媒体の沸点に維持し、10分間かけて有機溶媒の蒸気を回収した。これにより使用した有機溶媒の一部を造粒槽から抜き出した。その後、回転数を130rpmとし、槽内温度を有機媒体の沸点に維持した状態で、10分間かけて槽内圧力を0.023MPa(絶対圧)に減圧し、有機媒体を蒸発回収した。
槽内温度を室温まで冷却し、造粒物が水中に分散したスラリーを回収し、造粒物をひらき目200μmのメッシュフィルターで分別した。分別後、300℃で9時間乾燥して、PTFE造粒物を得た。
得られたPTFE造粒物の平均粒子径、嵩密度、粉末流動性、成形体の引張強度および引張伸度を表2に示す。
【0072】
(実施例10)
造粒に用いるPTFEモールディングパウダーを、実施例1の条件で製造したパウダーから実施例7の条件で製造したパウダー(平均粒子径35μm、嵩密度0.45g/mL)に代えた以外は、実施例9と同様にしてPTFE造粒物を製造した。
得られたPTFE造粒物の平均粒子径、嵩密度、粉末流動性、成形体の引張強度および引張伸度を表2に示す。
【0073】
(比較例2)
造粒に用いるPTFEモールディングパウダーを、実施例1の条件で製造したパウダーから比較例1の条件で製造したパウダー(平均粒子径39μm、嵩密度0.34g/mL)に代えた以外は、実施例9と同様にしてPTFE造粒物を製造した。
得られたPTFE造粒物の平均粒子径、嵩密度、粉末流動性、成形体の引張強度および引張伸度を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、実施例1および実施例7の条件で製造された嵩密度の大きなPTFEモールディングパウダーからは、嵩密度の大きなPTFE造粒物が得られた。また、実施例9と実施例10とを比較すると、化合物(1−3)の使用量が少ない条件で製造された実施例1のPTFEモールディングパウダーを用いた実施例9の方が、造粒前後の嵩密度の増加が大きく、嵩密度の向上効果がより優れた。また、実施例9および実施例10で得られたPTFE造粒物は粉末流動性も良好であり、該造粒物から得られた成形体の引張強度および引張伸度も良好であった。