特許第6257129号(P6257129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6257129
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】管理対象物の臨界管理方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/06 20060101AFI20171227BHJP
   G21C 19/40 20060101ALI20171227BHJP
【FI】
   G21C17/06 E
   G21C19/40 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-168709(P2012-168709)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-25894(P2014-25894A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】名内 泰志
【審査官】 西村 直史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−249197(JP,A)
【文献】 特開2001−147289(JP,A)
【文献】 特開平06−214038(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0076839(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00−17/14、
G21C 19/00−19/50、
G21C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核燃料核種および中性子捕獲反応を生じる計測対象核種を含む管理対象物から放出された前記計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および前記核燃料核種の核分裂反応で生じたγ線を計測し、前記中性子捕獲反応で生じたγ線の計測値に基づいて前記計測対象核種の中性子捕獲反応率<Σcφ>speを算出すると共に、前記核分裂反応で生じたγ線の計測値に基づいて前記核燃料核種の核分裂率<Σfφ>speを算出し、前記中性子捕獲反応率と前記核分裂率の比<Σcφ>spe/<Σfφ>speを算出し、前記管理対象物が235U濃縮度5%のUOが水と最適減速条件で混合した条件にあるときの中性子無限増倍率を算出する式に、前記管理対象物内での核分裂数<Σfφ>newと1以下の正数αと前記比<Σcφ>spe/<Σfφ>speとを掛け合わせた項が追加された以下の
k∞,spe
=<νΣfφ>new/{<Σcφ>new+<Σfφ>new×(1+α×<Σcφ>spe/<Σfφ>spe)}
ただし、
<νΣfφ>new:235U濃縮度5%のUOが水と最適減速条件で混合した条件にあるときに前記管理対象物内で生じた核分裂中性子数,
<Σcφ>new:235U濃縮度5%のUOが水と最適減速条件で混合した条件にあるときに前記管理対象物内での中性子捕獲反応数
により、前記管理対象物の前記中性子無限増倍率に対する前記計測対象核種の中性子捕獲反応による前記中性子無限増倍率の低下の影響を含む中性子無限増倍率評価値k∞,speを算出し、前記中性子無限増倍率評価値に基づいて臨界管理を行うことを特徴とする管理対象物の臨界管理方法。
【請求項2】
前記管理対象物に外部から中性子を照射して前記計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および前記核燃料核種の核分裂反応で生じたγ線を計測することを特徴とする請求項1記載の管理対象物の臨界管理方法。
【請求項3】
前記管理対象物は核燃料物質及び構造材料等が破損や熔融して混合した燃料デブリであることを特徴とする請求項1又は2に記載の管理対象物の臨界管理方法。
【請求項4】
前記中性子無限増倍率評価値が予め決定された所定の閾値よりも小さくなるように前記管理対象物を配置して保管することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の管理対象物の臨界管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料物質と非核燃料物質の混合物の臨界管理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、核燃料物質と不明量の物質が混合されている例えば燃料デブリ等の放射性物質の臨界安全設計等に適した核燃料物質と非核燃料物質の混合物(以下管理対象物)の管理方法に関するものである。
【0002】
なお、本明細書において、「中性子捕獲反応クレジット」とは、臨界安全のための中性子無限増倍率の評価に際し、臨界管理対象物質中の核燃料物質以外の物質の中性子捕獲反応を確認し、その捕獲反応を考慮しない仮定による保守的な中性子無限増倍率計算評価値を合理的に減少させることを意味する。
【背景技術】
【0003】
軽水炉に用いる核燃料物質は、物質量と容積が十分にあり、さらに軽水等の減速材とある割合で混合した条件で臨界となる。この核燃料物質の保管箇所の臨界安全設計では、燃料をある体積以下のユニットに区分し、また燃料ユニット間で距離をおく、燃料ユニット間に中性子を吸収する物質をおくような設計をとる。米国スリーマイル島原子力発電所(以下、TMIという)事故時は、燃料棒と制御棒、炉心下部構造物の一部が熔融した燃料デブリが形成された。これを回収する際は、燃料デブリを裁断し、それをキャニスタと呼ばれる容器につめ、キャニスタを中性子吸収材をつめたキャスクに封入して保管している。この際、原子炉で全く使用していない新燃料を最適な水/燃料体積比条件で装荷したキャニスタ(燃料保管のユニット)を複数装荷したキャスクが臨界事故を起こさないようにキャニスタとキャスクを設計している。
【0004】
なお、燃料デブリについてではないが、使用済み核燃料の臨界安全設計についての一般的な技術として、例えば特許文献1,2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−59085号公報
【特許文献2】特開2012−98311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料デブリの回収に関してTMIと一般的な沸騰水型原子炉(以下1Fという)の比較を表1に示す。
1Fでは、燃料濃縮度が大きい。このことは回収容器となるキャニスタをより細身にし、キャニスタ間の距離をより開ける、疎な設計が必要となることを示す。さらにBWR(沸騰水型原子炉)はPWR(加圧水型原子炉)に比べ下部構造が複雑なため、燃料と下部構造の成分の混在した箇所が大体積となっている可能性が高い。さらに、炉心圧力容器下部に熔融燃料が滴下することで鉄筋コンクリートまで含めた燃料デブリが形成されている可能性がある。
【0007】
【表1】
【0008】
つまり、燃料デブリの体積は、1FはTMIの最低でも数倍あり、TMIの保管容器設計で設定した「新燃料仮定」を用いるいとさらに燃料デブリの収容容積が増大することになり、廃炉作業をいたずらに遅延/困難させることになる。
【0009】
これは、燃料デブリには例えばステンレス鋼や核燃料以外の物質が含まれているにもかかわらず、臨界安全設計等の管理を行う際に非核燃料物質の存在を考慮することができないからである。
【0010】
本発明は、含まれている非核燃料物質の存在を考慮して臨界安全管理を行うことが可能な管理対象物の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために請求項1記載の管理対象物の臨界管理方法は、核燃料核種および中性子捕獲反応を生じる計測対象核種を含む管理対象物から放出された計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および核燃料核種の核分裂反応で生じたγ線を計測し、中性子捕獲反応で生じたγ線の計測値に基づいて計測対象核種の中性子捕獲反応率<Σcφ>speを算出すると共に、核分裂反応で生じたγ線の計測値に基づいて核燃料核種の核分裂率<Σfφ>speを算出し、中性子捕獲反応率と核分裂率の比<Σcφ>spe/<Σfφ>speを算出し、管理対象物が235U濃縮度5%のUOが水と最適減速条件で混合した条件にあるときの中性子無限増倍率を算出する式に、管理対象物内での核分裂数<Σfφ>newと1以下の正数αと前記比<Σcφ>spe/<Σfφ>speとを掛け合わせた項が追加された以下の
k∞,spe
=<νΣfφ>new/{<Σcφ>new+<Σfφ>new×(1+α×<Σcφ>spe/<Σfφ>spe)}
ただし、
<νΣfφ>new:235U濃縮度5%のUOが水と最適減速条件で混合した条件にあるときに前記管理対象物内で生じた核分裂中性子数,
<Σcφ>new:235U濃縮度5%のUOが水と最適減速条件で混合した条件にあるときに前記管理対象物内での中性子捕獲反応数
により、管理対象物の中性子無限増倍率に対する計測対象核種の中性子捕獲反応による中性子無限増倍率の低下の影響を含む中性子無限増倍率評価値k∞,speを算出し、中性子無限増倍率評価値に基づいて臨界管理を行うものである。したがって、管理対象物に含まれる非核燃料物質の存在を考慮して管理対象物の臨界管理を行うことが可能になる。
【0012】
また、請求項2記載の管理対象物の臨界管理方法は、管理対象物に外部から中性子を照射して計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および核燃料核種の核分裂反応で生じたγ線計測するものである。したがって、内部中性子に起因した核反応のγ線に加えて外部中性子に起因した核反応のγ線をも生じさせることができ、計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および核燃料物質の核分裂反応で生じたγ線を大幅に増加させることにより、この計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および核燃料物質の核分裂反応で生じたγ線の計測が容易となる。
【0013】
また、請求項3記載の管理対象物の臨界管理方法は、管理対象物が核燃料物質及び構造材料等が破損や熔融して混合した燃料デブリである。したがって、燃料デブリの臨界安全管理等を行うことができる。
【0014】
また、請求項4記載の管理対象物の臨界管理方法は、中性子無限増倍率評価値が予め決定された所定の閾値よりも小さくなるように管理対象物を配置して保管するようにしている。したがって、管理対象物の臨界安全設計を適切に行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の管理対象物の管理方法によれば、管理対象物に含まれる計測対象核種
の中性子捕獲反応による低下を考慮した中性子無限増倍率評価値を求め、この中性子無限増倍率評価値に基づいて管理対象物の臨界管理を行うので、非核燃料核種による影響を過大に評価することなく、実情に即した合理的な臨界安全管理を行うことができる。
【0016】
また、請求項2記載の管理対象物の臨界管理方法によれば、内部中性子に起因した核反応のγ線に加えて外部中性子に起因した核反応のγ線をも計測することができるので、γ線計測が容易になり、管理対象物をより精確に臨界管理することができる。
【0017】
また、請求項3記載の管理対象物の臨界管理方法によれば、燃料デブリを管理対象物としているので、燃料デブリの臨界安全管理を行うことができる。
【0018】
また、請求項4記載の管理対象物の臨界管理方法によれば、中性子無限増倍率評価値が予め決定された所定の閾値よりも小さくなるように管理対象物を配置して保管するようにしているので、放射性物質の臨界安全設計を適切に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の管理対象物の臨界管理方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
図2】同管理対象物の臨界管理方法を示すブロック図である。
図3】管理対象物に中性子を照射してγ線を計測する様子を示す概念図である。
図4235U濃縮度5%の新UO燃料と軽水を均質に混合した体系で、実効増倍率が大きくなるUO/軽水混合比の直径50cm、高さ50cmのタンク体系を考慮し、そこに、やはり均質に鉄を混ぜた体系について実効増倍率を計算した結果を示す図である。
図5図4の計算のタンクの10cm外に252Cf中性子源をおいて、中性子を打ち込んだあとの、56Feの中性子捕獲反応と核分裂反応の反応率比の計算結果を示す図である。
図6】実験の様子を示す概略構成図である。
図7】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1図3に本発明の管理対象物の臨界管理方法の実施形態の一例を示す。先ず最初に本発明の原理を説明する。
【0022】
例えば、核燃料等を含む管理対象物の臨界安全管理で最もよく使う指標は中性子実効増倍率keffである。管理対象物の中性子実効増倍率keffは数式1で求められる。
【0023】
[数1]
keff=PNL×<νΣfφ>/{<Σcφ>+<Σfφ>}
ここで、PNL:中性子が体系から漏れない確率、<Σcφ>:管理対象物内での中性子捕獲反応数、<Σfφ>:管理対象物内での核分裂数、<νΣfφ>:管理対象物内で生じた核分裂中性子数である。
【0024】
臨界でない条件で、燃料の組成や形状も分からずにkeffを実測する手法は現在の技術で無いので、原子力発電所で発生した燃料デブリを回収する場合の最も保守的なキャニスタとキャスクの臨界安全設計は、「235U濃縮度5%のUOが水と最適減速条件で混合しキャニスタに装荷された条件」に対して計算するkeffが1を下回る(国内では0.95以下もしくは0.98以下)ことを必要条件とする。この時のkeffをkeff,newと記述し、数式1は数式2となる。
【0025】
[数2]
keff,new=PNL,new×<νΣfφ>new/{<Σcφ>new+<Σfφ>new}
【0026】
実際の計算の際は、235U、238U、水の反応しか考えない。またより安全な設計を行うには中性子は漏れない、即ちPNL,new=1とする。つまり、中性子無限増倍率k∞とする(数式3)。
【0027】
[数3]
k∞=<νΣfφ>new/{<Σcφ>new+<Σfφ>new}
【0028】
ところで未臨界状態の管理対象物を中性子照射すると、核分裂と捕獲反応で、γ線を生じる。これらのγ線は核種に固有のエネルギースペクトルをもつ。これをγ線スペクトル測定すると、各種のγ線スペクトルの混在した測定波高スペクトルが得られる。測定波高スペクトルにアンフォールディングという数学的操作を行うと、各種のγ線の発生強度比を求めることが出来る。強度比から、特定の中性子捕獲反応率と核分裂の比を推定できる。この比を<Σcφ>spe/<Σfφ>speと記す。この特定の中性子捕獲反応率を考慮すると、数式4で示される新たなk∞,spe評価値(中性子無限増倍率評価値)が得られる。
【0029】
[数4]
k∞,spe
=<νΣfφ>new/{<Σcφ>new+<Σfφ>new×(1+α×<Σcφ>spe/<Σfφ>spe)}
【0030】
ここで、αは1以下の正数で、捕獲反応の寄与を保守的に見積もるための工学的因子である。このk∞,speは捕獲反応の実測量に応じて設計上のk∞を下げることであり、この引き下げによって安全性が損なわれることはない。
【0031】
中性子無限増倍率評価値k∞,speが1(もしくは0.95や0.98)を下回るなら、臨界事故の危険はないことから、より稠密に燃料デブリを収納することが可能となる。
【0032】
捕獲反応の測定対象(計測対象核種)としては、ステンレス鋼に含まれる56Fe等が挙げられる。
【0033】
この手法は、単に例えば鉄/ウラン成分比を測定するよりも、捕獲反応率/核分裂率比を測定するということで、臨界安全の担保にとってより直接的な手法となる。
【0034】
即ち、本実施形態の管理対象物の臨界管理方法は、核燃料核種および中性子捕獲反応率を生じる計測対象核種を含む管理対象物1から放出された計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および核燃料核種の核分裂反応で生じたγ線を計測し、中性子捕獲反応で生じたγ線の計測値に基づいて計測対象核種の中性子捕獲反応率を算出すると共に、核分裂反応で生じたγ線の計測値に基づいて核燃料核種の核分裂率を算出し、中性子捕獲反応率と核分裂率の比を算出し、この比を使用して計測対象核種を考慮した管理対象物1の臨界管理指標値を求めて臨界管理を行うものである。本実施形態では、管理対象物1に外部から中性子を照射してγ線計測を行うものとする(図3)。
【0035】
本実施形態では、管理対象物1として、沸騰水型原子炉(BWR)で発生した燃料デブリを想定し、この燃料デブリを保管する際の臨界安全設計を例に説明する。BWRで発生した燃料デブリには核燃料の235Uと238Uが多く含まれていることから、本実施形態では計測対象の核分裂反応γ線の起因となる核燃料核種として235Uと238Uを選択する。
【0036】
計測対象核種は中性子捕獲反応を生じる核種である。本実施形態では、管理指標値として、計測対象核種の中性子捕獲反応による低下を考慮した中性子無限増倍率評価値k∞,spe(中性子捕獲反応クレジットを考慮した中性子無限増倍率の評価値)を算出するので、計測対象核種は管理対象物1に多く含まれていることが好ましい。BWRでは圧力容器の下に56Feを多く含むステンレス鋼製の構造物が設けられているので、BWRで発生した燃料デブリには56Feが多く含まれる。本実施形態では、この56Feを中性子捕獲反応によるγ線の計測対象の計測対象核種とする。
【0037】
管理対象物1に中性子を照射する中性子線線源2としては、例えば252Cf、Am-Be中性子源、Sb-Be中性子源、加速器中性子源等の使用が可能であるが、これらには限られない。
【0038】
γ線を計測するγ線計測器3としては、計測対象核種の中性子捕獲反応で発生するγ線および放射性核種の核分裂反応で発生するγ線を計測できるものであれば使用可能である。例えば、Nal、BGO、HP−Ge、LaBr3や、分解能は悪いものの信号対雑音比の良いチェレンコフカウンタ等の使用が可能である。
【0039】
また、遮蔽体や散乱体を適宜組み合わせて配置し、γ線計測値3でのγ線計数率が適切な領域で、かつ測定の信号対雑音比の良い条件でγ線計測を行う。
【0040】
管理対象物1は容器に収容される。この管理対象物1に対して外部の中性子線線源2から中性子を照射し、γ線計測器3でγ線を計測する(図1のステップS11、図3)。管理対象物1からは様々なエネルギーのγ線が放射されており、各種のγ線スペクトルの混在した測定波高スペクトルが得られる。
【0041】
次に、計測対象核種の中性子捕獲反応率<Σcφ>speと核燃料の核分裂率
<Σfφ>speとの比(<Σcφ>spe/<Σfφ>spe)を算出する(ステップS12)。そのため、先ず、計測対象核種の中性子捕獲反応で発生するγ線と放射性核種の核分裂反応で発生するγ線の基礎データに基づきγ線輸送とγ線計測器3へのエネルギー付与のシミュレーションを行い、<Σcφ>speと<Σfφ>speの導出に用いる応答関数を算出する。ここで、基礎データとしては、中性子捕獲反応及び核分裂あたりのγ線発生数データ、γ線発生スペクトルデータと、燃料デブリに対するγ線の反応断面積データを用いる。また、シミュレーションは、例えばMCNPコード、EGS−5コード等を使用する。ただし、これらには限られない。
【0042】
そして、測定した測定波高スペクトルに応答関数を使用してアンフォールディングという数学的操作を行うと、計測対象核種の中性子捕獲反応で生じるγ線の強度の評価を通じて測対象核種の中性子捕獲反応率<Σcφ>speが、また核燃料核種の核分裂反応で発生するγ線の強度を通じて核燃料核種の核分裂率<Σfφ>speの相対値が求まり、それにより両者の比(<Σcφ>spe/<Σfφ>spe)を求めることができる。
【0043】
次に、管理指標値を算出する。ここでは、先ず最初に保守的に設定した核燃料(本実施形態では、235Uと238Uからなる新燃料)と水の組成情報に基づき、保守的条件(新燃料仮定等)で管理対象物を装荷したキャニスタ、キャスクの<Σfφ>new、<νΣfφ>new、<Σcφ>newを固有値計算で求める(ステップS13)。この固有値計算は、例えばMCNPコード、TRIPOLIコード、MVPコード等を使用してシミュレーションによって行う。ただし、使用できるコードはこれらには限られない。
【0044】
次に、数式5に基づいて捕獲反応クレジットを考慮した中性子無限増倍率評価値k∞,speを算出する(ステップS14)。
【0045】
[数5]
k∞,spe
=<νΣfφ>new/{<Σcφ>new+<Σfφ>new×(1+α×<Σcφ>spe/<Σfφ>spe)}
【0046】
ここで、αは補正係数であり、1以下の正数である。例えば、α=1−測定の相対誤差−(<Σcφ>new/<Σfφ>newの計算の相対誤差)で求められる値である。誤差の分を見込んで「測定した捕獲反応の効果」を意図的に、即ち「工学的に保守的に」見積もるものであり、これを目的に使う正の係数がαである。
【0047】
そして、中性子無限増倍率評価値k∞,speが予め決定された所定の閾値Lよりも小さく(k∞,spe<L)なるように管理対象物1を配置して保管する(臨界安全管理、ステップS15)。即ち、複数に分割されて配置されている各管理対象物1の間隔を広げるか、あるいは各管理対象物1の間に中性子吸収体を配置してk∞,speを減少させる。あるいは管理対象物1の一塊が大きい場合には複数に分割する。
【0048】
ここで、閾値Lは、中性子無限増倍率評価値k∞,speを臨界未満にする閾値であり、例えば1、好ましくは0.95〜0.98である。L=1(即ち、k∞,spe<1)であれば臨界未満である。また、L=0.95〜0.98とすることで、臨界に対して十分な余裕を持つことができる。
【0049】
なお、ステップS12の操作で管理対象物1から計測対象核種の中性子捕獲反応で生じるγ線が測定できなかった場合は、<Σcφ>spe/<Σfφ>spe=0として数式5により管理対象物1が装荷されたキャニスタ、キャスクの無限増倍率を求めることが好ましい。
【0050】
本発明では、管理対象物1に含まれる中性子吸収体(計測対象核種)の中性子捕獲反応を考慮して管理指標値である中性子無限増倍率評価値k∞,speを算出し、これに基づいて管理対象物1の臨界安全管理を行うので、管理対象物1の中性子無限増倍率を必要以上に過大に評価することがなく、実態に即した合理的な管理を行うことができる。そのため、臨界に対する安全性を損なわずに管理対象物1の保管スペースを節約することができ、管理コストを低減することができる。
【0051】
また、管理対象物1に外部から中性子を照射してγ線計測を行っているので、計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および核燃料物質の核分裂反応で生じたγ線を大幅に増加させることにより、この計測対象核種の中性子捕獲反応で生じたγ線および核燃料物質の核分裂反応で生じたγ線の計測が容易になり、管理指標値をより精確に求めることができる。
【0052】
さらに、中性子無限増倍率評価値k∞,speが予め決定された所定の閾値Lよりも小さくなるように管理対象物1を配置して保管するようにしているので、管理対象物1の臨界安全設計を適切に行うことが可能になる。
【0053】
なお、上述の説明では、補正係数αを使用して精度を向上させていたが、例えばLの値が小さい場合等には補正係数αを使用しなくても良い。
【0054】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0055】
例えば、上述の説明では、管理対象物1としてBWRで発生した燃料デブリを想定していたが、これに限られない。PWRで発生した燃料デブリ、使用済み核燃料、未使用の核燃料、使用済み燃料を再処理のため溶解する溶解槽、ウラン鉱山等でも良く、放射性核種と中性子捕獲反応を生じる核種とを含むものであれば良い。
【0056】
また、上述の説明では、56Feを計測対象核種としていたが、これに限られない。例えば、例えば、58Ni、窒素、制御棒に使われる材料(ホウ素等)等でも良い。また、燃料デブリにはコンクリートが含まれる可能性があるので、コンクリートに含まれるアルミナのAlを計測対象核種としても良い。その他、中性子捕獲反応によりγ線を生じさせるものであれば計測対象核種として使用可能である。また、計測対象核種は1種類でも良いし、複数でも良い。
【0057】
また、上述の説明では、管理対象物1に対して外部から中性子を照射しながらγ線の計測を行っていたが、外部からの中性子照射を行わなくても良い。即ち、γ線の計測に外部中性子を利用した方がより好ましいが、外部中性子を利用しなくてもγ線の計測は可能である。管理対象物1の内部では、放射性核種の放射性崩壊((α,n)反応、自発核分裂反応)に伴いγ線と中性子が発生し、さらにそれを起源とする核分裂連鎖反応でγ線と中性子が生じている。外部からの中性子照射を行わない場合、内部の原子核の放射性崩壊でのγ線(Sin)と、内部の原子核の放射性崩壊に引き続く連鎖反応でのγ線(Cin)が測定される。この{Sin+Cin}の結果から核分裂成分{Sin+Cin}_fis(放射性核種の核分裂反応によって生じるγ線)と{Cin_abs}(計測対象核種の中性子捕獲反応によって生じるγ線)を評価するのは可能である。したがって、上述の比(<Σcφ>spe/<Σfφ>spe)の代わりに、比(Cin_abs/{Sin+Cin}_fis)を使用して中性子無限増倍率評価値k∞,speを保守的に求めることもできる。外部からの中性子照射を行うことで、内部中性子に起因した核反応のγ線に加えて外部中性子に起因した核反応のγ線をも計測することができるので、γ線計測が容易になり、管理指標値をより精確に求めることができる。
【実施例1】
【0058】
235U濃縮度5%の新UO燃料と軽水を均質に混合した体系で、実効増倍率が大きくなるUO/軽水混合比の直径50cm、高さ50cmのタンク体系を考慮し、そこに、やはり均質に鉄を混ぜた体系について実効増倍率を計算した。図4の通り、鉄の体積割合が増えると実効増倍率が減少する。また図5は、上記タンクの10cm外に252Cf中性子源をおいて、中性子を打ち込んだあとの、56Feの中性子捕獲反応と核分裂反応の反応率比の計算値である。固有値計算、というのがkeffの計算での値で、これと中性子を外から打ち込んだケースでの値がほぼ同じということがわかる。したがって、中性子を外から打ち込んだケースで核分裂γ線と中性子捕獲ガンマ線が測定出来れば、反応率比が求まり、keffの計算評価値を合理化出来ることとなる。
【実施例2】
【0059】
京都大学臨界集合体実験装置で主に235U、Al、水、SUS床板からなる未臨界炉心に252Cf(中性子とγ線を放出する)を装荷し、外周部にBGO検出器をおいて、γ線のスペクトル測定を実施した(図6)。図7の測定値に対し、235U核分裂、AlとSUSの中性子捕獲反応で生じるγ線の基礎データを用い、γ線輸送のシミュレーションスペクトルを用い、アンフォールディングで235U核分裂、AlとSUSのγ線発生率を求めた。これは、別途実施した中性子輸送計算によるγ線発生率計算発生率と概略一致し、本発明の有効性が確認された。
【符号の説明】
【0060】
1 管理対象物
2 中性子線源
3 γ線計測器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7