特許第6259207号(P6259207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6259207-エラスチン産生促進剤 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6259207
(24)【登録日】2017年12月15日
(45)【発行日】2018年1月10日
(54)【発明の名称】エラスチン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20171227BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20171227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171227BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20171227BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20171227BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20171227BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20171227BHJP
   A61K 8/64 20060101ALN20171227BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALN20171227BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20171227BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20171227BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20171227BHJP
   A23L 2/38 20060101ALN20171227BHJP
【FI】
   A61K38/17
   A61K38/01
   A61P43/00 105
   A23L33/18
   A23L2/00 F
   A23L2/00 J
   !A61P17/00
   !A61K8/64
   !A61Q19/08
   !A61Q19/00
   !A61P19/02
   !A61P29/00 101
   !A23L2/38 P
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-126286(P2013-126286)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-860(P2015-860A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏也
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/080911(WO,A1)
【文献】 特表2005−516048(JP,A)
【文献】 特表2002−541064(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/144756(WO,A1)
【文献】 特表2003−533205(JP,A)
【文献】 特開2015−000862(JP,A)
【文献】 特開2015−000038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポカリン2及び/又はリポカリン2分解物を有効成分とするエラスチン産生促進剤。
【請求項2】
前記リポカリン2分解物が、分子量300以上、8000以下であることを特徴とする請求項1に記載のエラスチン産生促進剤。
【請求項3】
前記リポカリン2分解物が、リポカリン2をタンパク質分解酵素で分解して得られたものであることを特徴とする請求項2記載のエラスチン産生促進剤。
【請求項4】
前記タンパク質分解酵素が、トリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、カリクレイン、カテプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼから選択されるいずれか1種以上であることを特徴とする請求項3記載のエラスチン産生促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を配合したエラスチン産生促進用サプリメント。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を配合したエラスチン産生促進用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の荒れ、シワ、弾性低下、関節機能低下等を防止するのに有用なエラスチン産生促進剤、エラスチン産生促進用飲サプリメント、食品及びエラスチン産生促進用化粧料に関する。さらに詳しくは、本発明は、リポカリンファミリータンパク質あるいはそのリポカリンファミリータンパク質を分解して得られるリポカリンファミリータンパク質分解物を有効成分とするエラスチン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚のメカニズムに関して、多くの研究が進められている。
皮膚の乾燥感や肌荒れの原因としてマクロ的には、加齢による新陳代謝の減衰によるものがある。その他、太陽光(紫外線)、乾燥、酸化等の作用が皮膚の乾燥肌や肌荒れの原因に、複雑に関与していることが確認されてきた。これらの因子による作用によって、真皮の最も主要なマトリックス成分であるコラーゲン繊維が顕著に減少していることが明らかとなってきた。コラーゲン繊維によって保たれていた皮膚のハリや弾力性といった張力保持機構が、コラーゲン繊維が減少する事により破壊され、皮膚はシワやたるみを増した状態になる。また、コラーゲンは水分を保持する機能を有しており、皮膚をしっとりとした状態に保つことにも役立っている。外的因子により、コラーゲンが破壊されると、肌は乾燥し、荒れた状態になる。エラスチンは、そのコラーゲン線維を支える役割を持ち、弾性線維とも呼ばれている。エラスチンは真皮の構成としては約2%に過ぎないが、エラスチンの形成を制御することが、皮膚の弾力性やたるみ等の改善につながる。以上のことから、真皮層の主要な成分の一つであるエラスチンの生合成を促進させることによって、皮膚のシワやたるみを防止できると思われる。そこで、エラスチン産生促進剤が望まれていた。
エラスチン産生促進剤としては京水菜、京壬生菜、伏見とうがらし、万願寺とうがらし及び九条ねぎ、オウバク、オタネニンジン、アルテア、ヨクイニン及びユリ等植物からの抽出物が開示されている。(特許文献1,2)
一方、関節軟骨中や靭帯中のエラスチンは、関節機能の円滑な作動に役立っている。変形性関節症(OA)の場合、関節周囲の血行が悪くなり酸素の供給が低下することで、軟骨細胞によるコラーゲンやプロテオグリカンなどの産生を低下させ、死滅した軟骨細胞が滑膜を刺激、炎症を起こし、関節に痛みを生じさせることとなる。さらに、炎症時のサイトカインの放出が、軟骨細胞死を誘導し、痛みの症状を激化させる。
OAの対症療法としては、痛み止めや抗炎症製剤の投与、高分子ヒアルロン酸(ヒアルロン酸ナトリウム)の関節腔内への注入等があげられる。近年では、対症療法以外の方法として、軟骨細胞の分化促進または軟骨細胞の肥大化の抑制、軟骨細胞によるコラーゲン、プロテオグリカンの転写、合成促進などのアプローチが取られ始めているが、エラスチンの合成促進などの研究はあまり見られない。
以上のことから、エラスチン産生の促進は、肌荒れ等の皮膚疾患、関節リウマチや外傷性関節症、骨関節炎、変形性関節症といった関節疾患の予防、治療に有効である。したがって、日常の生活の中で手軽に摂取できるエラスチン産生促進剤を含有するサプリメント、クリームあるいは飲食品が望まれていた。
リポカリン2(LCN2)及びβラクトグロブリンは、8本のβ−バレル構造を有するリポカリンファミリーに属するタンパク質である。
リポカリン2(LCN2)は、ヒト好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL))とも呼ばれ、92kDaのヒト好中球タイプIVコラゲナーゼに結合するタンパク質として同定されている。肝臓から分泌されるリポカリン2は、ジデロフォア-Fe3+と選択的に結合することで、バクテリアの鉄利用を阻害し増殖を阻害するといった抗菌作用を持つ。また、血漿、血中のリポカリン2が炎症や感染のマーカーとして、尿中のリポカリン2が乳がんなどの悪性腫瘍のマーカーとして利用できるとの報告がある。リポカリン2は、牛乳中にも含まれることが知られているが、成熟乳に比べて初乳中に多く含まれるとの報告がある。しかしながら牛乳中のリポカリン2の機能についての報告はない。
βラクトグロブリンは牛乳中の主要な乳清タンパク質である。有用生理活性物質であるレチノール等の疎水性物質の結合能を有しており、優れた機能特性(乳化性、ゲル化性、起泡性)を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-162487
【特許文献2】特開2012-56933
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示されている発明では、植物由来の原材料を用いる為、エラスチン産生促成剤の原料の栽培が特定の地域に限られていたり、季節による供給の変動が大きいなど安定供給が出来ないという課題がある。そこで、日常の生活の中で手軽に摂取できる、エラスチン産生促進剤を提供すること、及びそのような物質を配合したエラスチン産生促進用サプリメント、飲食品及びエラスチン産生促進用化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの課題を解決するために、エラスチン産生促進作用を示す物質について、鋭意、探索を進めたところ、リポカリンファミリータンパク質あるいはそのリポカリンファミリータンパク質を分解して得られるリポカリンファミリータンパク質分解物が、皮膚のエラスチン産生量を増加させることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の態様を含むものである。
(1)リポカリンファミリータンパク質及び/又はリポカリンファミリータンパク質分解物を有効成分とするエラスチン産生促進剤。
(2)上記リポカリンファミリー及び/又はリポカリンファミリー分解物が、リポカリン2及び/又はリポカリン2分解物である、(1)記載のエラスチン産生促進剤。
(3)上記リポカリンファミリー及び/又はリポカリンファミリー分解物が、βラクトグロブリン及び/又はβラクトグロブリン分解物である、(1)記載のエラスチン産生促進剤。
(4)前記リポカリン2分解物が、分子量300以上、8000以下であることを特徴とする(2)に記載のエラスチン産生促進剤。
(5)前記リポカリン2分解物が、リポカリン2をタンパク質分解酵素で分解して得られたものであることを特徴とする(2)記載のエラスチン産生促進剤。
(6)前記タンパク質分解酵素が、トリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、カリクレイン、カテプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼから選択されるいずれか1種以上であることを特徴とする(5)記載のエラスチン産生促進剤。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を有効成分とするスキンケア剤。
(8)前記スキンケアが、肌荒れの予防及び/又は改善であることを特徴とする(7)記載のスキンケア剤。
(9)(1)〜(6)のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を配合したサプリメント。
(10)(1)〜(6)のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を配合した飲食品。
(11)(1)〜(6)のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を配合した化粧料。
(12)(1)〜(6)のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を経口摂取又は塗布することによる肌質の改善方法。
(13)(1)〜(6)のいずれかに記載のエラスチン産生促進剤を1日あたり10.0μg以上経口摂取するか、又は0.05〜0.5重量%配合した組成物を塗布することによる肌質の改善方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、リポカリンファミリータンパク質及び/またはリポカリンファミリータンパク質分解物を有効成分とすることでエラスチン産促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】はリポカリン2によるエラスチン産生促進効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のエラスチン産生促進剤の特徴は、リポカリン2及び/またはリポカリン2をタンパク質分解酵素で分解して得られるリポカリン2分解物を有効成分とすることにある。本発明のリポカリン2はどのような由来のものであっても使用可能である。たとえば、ヒト及びウシ由来のリポカリン2はすでにその遺伝子配列が明らかになっており、遺伝子組換えによる生産が可能であるが、本発明では、遺伝子工学的手法により生産されたリポカリン2も使用可能であり、細胞培養の培養液から回収した細胞由来のものも使用可能である。また、リポカリン2はウシ初乳中に含有されており、乳から回収したものであっても良く、生乳や粉乳、脱脂乳、還元乳等から、加熱処理、加塩処理、エタノール処理、イオン交換クロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィー等の各種クロマト処理、限外濾過処理等によって取得することも可能である。
【0009】
リポカリン2分解物は、リポカリン2をトリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、カリクレイン、カテプシン、サーモライシン、V8プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素で分子量が8,000以下となるように限定分解したペプチド混合物を使用することが可能である。但し、分子量の下限は300以上であることが好ましい。
【0010】
本発明のエラスチン産生促進剤は、経口投与あるいは塗布することにより、エラスチン産生促進効果を発揮する。本発明のエラスチン産生促進剤を経口投与するに際しては、有効成分であるリポカリン2あるいはリポカリン2分解物をそのままの状態で用いることもできるが、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることもできる。本発明において、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の経口剤は、例えば、澱粉、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法によって製剤化することが可能である。この種の製剤には、前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、着色料、香料等を適宜使用してもよい。より具体的には、結合剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、アラビアガム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶性セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられ、崩壊剤としては、例えば、澱粉、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶性セルロース等が挙げられる。また、界面活性剤としては、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル等、滑沢剤としては、タルク、ロウ、蔗糖脂肪酸エステル、水素添加植物油等、流動性促進剤としては無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
さらには、これらのリポカリン2やリポカリン2分解物をそのままあるいは製剤化した後、これを栄養剤や飲食品等に配合することも可能である。なお、リポカリン2あるいはリポカリン2分解物は、比較的熱に対して安定であるので、リポカリン2あるいはリポカリン2分解物を含む原料を通常行われるような条件で加熱殺菌することも可能である。
【0011】
本発明のエラスチン産生促進剤を塗布するに際しては、その使用目的に応じて、通常用いられる公知の成分に配合することによって、液剤、固形剤、半固形剤等の各種剤形に調製することが可能で、好ましい組成物として軟膏、ゲル、クリーム、スプレー剤、貼付剤、ローション、粉末等が挙げられる。例えば、本発明のエラスチン産生促進剤をワセリン等の炭化水素、ステアリルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリン等の動物性油脂、グリセリン等の多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸、ポリエチレングリコール等の界面活性剤、無機塩、ロウ、樹脂、水及び、要すればパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の保存料に混合することによって、エラスチン産生促進用化粧料や医薬品を製造することができる。
【0012】
本発明のエラスチン産生促進剤の経口投与による有効量は、その製剤形態、投与方法、使用目的、及びこれを適用される患者の年齢、体重、病状により適宜規定され一定でないが、ラットを用いた動物実験の結果、リポカリン2及び/またはリポカリン2分解物は、ラット体重1kg当たり10μg以上摂取させることでエラスチン産生促進作用を示すことが明らかとなった。したがって、外挿法によると、通常、成人一人当たり一日10μg以上のリポカリン2及び/またはリポカリン2分解物を摂取すればエラスチン産生促進効果が期待できるため、この必要量を確保できるよう飲食品に配合するか、あるいは、医薬として投与すれば良い。なお、投与は必要に応じて一日数回に分けて行うことも可能である。
【0013】
本発明のエラスチン産生促進剤の塗布による有効量は、剤形により異なるが、適用する組成物全量を基準として、好ましくは、0.001〜2重量%となるように、リポカリン2及び/またはリポカリン2分解物を配合すれば良い。ただし、入浴剤のように使用時に希釈されるものは、さらに配合量を増やすことができる。
【実施例1】
【0014】
以下、実施例および試験例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。実施例および試験例における「%」は断らない限り「重量%」を意味するものとする。
以下に、実施例及び試験例を示して本発明を詳細に説明するが、これらは単に本発明の実施態様を例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0015】
Sセファロース 3,000g を充填したカラムを脱イオン水で充分洗浄し、脱脂乳10,000Lを通液して、脱イオン水で充分洗浄した後、0.1〜1.0Mの塩化ナトリウムの直線濃度勾配で溶出した。その後、リポカリン2を含む溶出画分を再度フェニルSセファロース疎水性カラムクロマトグラフィーで分画した。さらに、この画分をHPLCシステムにてC4およびC8逆相クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーで順次処理し、リポカリン2400mg(画分A)を得た。なお、このようにして得られたリポカリン2は、そのままエラスチン産生促進剤として使用可能である。
【実施例2】
【0016】
実施例1で得られた画分A25mgを、水100mlに懸濁し、最終濃度が1%となるようにパンクレアチンを加え、37℃で5分から6時間、酵素処理を行った。そして、90℃で5分間加熱処理して酵素を失活させた後、凍結乾燥して、リポカリン2分解物24mg(画分B、C、D)を得た。なお、このようにして得られたリポカリン2分解物の平均分子量は、Bが約8,000、Cが約500、Dが約300であった。また、実施例1で得られた画分A25mgを、水100mlに懸濁し、最終濃度が0.01%となるようにペプシンを添加し、pHを2〜3に調整した後、37℃で12時間酵素処理を行い、さらにpHを8に調整した後、最終濃度が0.01%となるようにトリプシンを添加し、37℃で12時間酵素処理を行った。そして、90℃で5分間加熱処理して酵素を失活させた後、凍結乾燥し、リポカリン2分解物24mg(画分E)を得た。画分B、C、Dは、そのままエラスチン産生促進剤として使用可能である。
【0017】
[試験例1]
実施例1で得られた試料A及び実施例2で得られた試料B乃至Eについて、ラットを用いた動物実験によりエラスチン産生促進作用を調べた。7週齢のWistar系雄ラットを、生理食塩水投与群(対照群)、実施例1で得られた試料Aをラット体重1kg当たり10μg投与する群(A−1群)、実施例1で得られた試料Aをラット体重1kg当たり100μg投与する群(A−2群)、実施例2で得られた試料B乃至Eをラット体重1kg当たり10μg投与する群(B−1〜E−1群)、実施例2で得られた試料B乃至Eをラット体重1kg当たり100μg投与する群(B−2〜E−2群)の11試験群(n=6)に分け、それぞれを毎日1回ゾンデで経口投与して10週間飼育した。皮膚のエラスチン量については、試験前日に剃毛したラットを屠殺後速やかに回収した皮膚組織(各300mg)を測定に供した。皮膚組織に適量の0.85%生理食塩水を加え、ホモジナイザーにて組織をホモジナイズした。皮膚組織からの抽出液を回収し、SDS−PAGE後、抗エラスチン抗体(abcam社)を用いてウェスタンブロッティングを行い、エラスチン量を定量した。その結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
この結果、10週間後の可溶性画分中エラスチン量は、対照群に比べ、すべての試験群で有意に高い値を示した。このことから、リポカリン2及び/又はリポカリン2分解物には、エラスチン産生促進作用があることが明らかとなり、エラスチン産生促進剤として有用であることが示された。また、このエラスチン産生促進作用はリポカリン2及び/又はリポカリン2分解物をラット体重1kg当たり少なくとも10.0μg投与した場合に認められることが明らかとなった。
【0020】
[試験例2]
実施例1で得られた試料A及び実施例2で得られた試料B、C、Dについて、正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF(NB))を用いた実験によりエラスチン産生促進作用を調べた。NHDF(NB)細胞を12穴プレートに0.6×10cells/wellになる様に播種し、MEDIUM106培地(GIBCO社製)にて37℃、5%CO環境下にて2日間培養した後、無血清MEDIUM106培地に置換し、さらに24時間培養した。そして、実施例1で得られた試料A及び実施例2で得られた試料B、C、Dを、各ウエルに0.1容量%となるように無血清MEDIUM106培地にて調整後、細胞に添加(n=3)し、24時間培養した。培養後の細胞をPBSにて洗浄し、トリプシン処理にて細胞を剥がした後、回収した。細胞中のエラスチン産生量を、比色定量キット(biocolor,フナコシ)にて測定した。なお、対照として、リポカリン2又はリポカリン2分解物を添加しないで同様の試験を行った。その結果を表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
表2の結果、リポカリン2及び/又はリポカリン2分解物を添加した群は、リポカリン2及び/又はリポカリン2分解物を添加していない群(対照)に比べていずれも有エラスチン産生促進量が有意に多かった。このことから、リポカリン2及び/又はリポカリン2分解物には、皮膚線維芽細胞に働きかけ、エラスチン産生を促進する作用があることが明らかとなり、エラスチン産生促進剤として有用であることが示された。
【0023】
[試験例3]
市販のヒトリポカリン2リコンビナントタンパク質(NGAL)(PROSPEC社)、及び正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF(NB))を用いた細胞実験により、NGALがエラスチンのmRNA発現へ及ぼす影響について、リアルタイムPCR法を用いて検討した。
具体的には、NHDF(NB)細胞を24穴プレートに0.5×10cells/wellになる様に播種し、MEDIUM106培地(GIBCO社製)にて37℃、5%CO環境下にて3日間培養した。3日間の培養期間のうち、NGALを10nMになるようにMEDIUM106培地に溶解したものを、それぞれ2時間、4時間、6時間、9時間、12時間、24時間細胞に添加・保持した後、以下の手順でtotal RNAを回収しcDNAを合成した。
培養した細胞液にRNA抽出剤であるISOGEN(ニッポンジーン社製)を0.5ml添加し5分間静置した後、ピペッティングにて可溶化させた細胞液を1.5ml容のチューブに回収した。細胞液に0.1mlのクロロホルムを添加し、十分に攪拌した後、二層に分離した上層(水層)を新たな1.5ml容のチューブに回収した。回収液に0.25mlの2−プロピルアルコールを添加し、10分間静置後、15,000rpm、4℃にて15分間遠心分離機にかけ、total RNAの沈殿物を得た。得られた沈殿物を、70%エタノールにて洗浄した後、DEPC水に溶解しRNA液とした。1μg分のRNAからTakara PrimeScriptTM RT reagent Kitを用いてcDNAを合成した。得られたcDNAをテンプレートとして、SYBR Green(Takara SYBR Prime Ex TaqII)を使用したリアルタイムPCRを行った。反応条件は、95℃、30秒の初期変性後、95℃、5秒の変性、57℃、15秒のアニーリング、72℃、20秒の伸張であり、合計40サイクル反応させた。プライマーは表3に記載のELN用プライマーを使用した。結果を図2に示す。
【0024】
【表3】
【0025】
図1により、NGALによるELNのmRNA発現は、2〜24時間のいずれも有意に亢進した。
【実施例3】
【0026】
表4に示す配合のエラスチン産生促進用飲料を常法により製造した。製造した飲料の風
味は良好で、沈殿等の問題もなかった。
【0027】
【表4】
【実施例4】
【0028】
表5に示す配合のドウを常法により作製し、成形した後、焙焼してエラスチン産生促進
用ビスケットを製造した。
【0029】
【表5】
【実施例5】
【0030】
表6に示す配合のエラスチン産生促進剤を常法により製造した。
【0031】
【表6】
【実施例6】
【0032】
表7に示す配合の化粧水を常法により製造した。
【0033】
【表7】
【実施例7】
【0034】
表8に示す配合のクリームを常法により製造した。
【0035】
【表8】
【0036】
[試験例4]
実施例6で得られた化粧水及び実施例7で得られたクリームを用いて、実使用テストを行った。比較品としては、リポカリン2及び/又はリポカリン2分解物を除いた以外は実施例6及び7と同じ配合のものを用いた。顔面のたるみや小ジワが認められる乾燥肌を有する成人女性20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(A、B群)に、また、手に肌荒れが認められる女性20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(C、D群)に分け、A群の顔面には本発明品の化粧水2gを、B群の顔面には比較品の化粧水2gを、C群の手指には本発明品のクリーム2gを、D群の手指には比較品のクリーム2gを、それぞれ1日2回通常の使用状態と同様に10日間塗布した。結果を表8に示す。
【0037】
【表9】
【0038】
表9の結果より、本発明品の化粧水は、比較品の化粧水に比べて、乾燥感の改善、肌荒
れ等の改善が顕著であり、エラスチン産生促進効果に優れていることが実証された。また、本発明品のクリームについても、比較品のクリームに比べて、乾燥感の改善、肌荒れに顕著な改善がみられ、肌荒れ等の自然増悪抑制効果を有することが明らかとなった。
[試験例5]
変形性関節炎による軽度の痛みを有する患者20名を対象に、実施例3に示す飲料を1日1回100g飲用し、1年間の臨床試験を行った。関節の疼痛および機能の評価を、疼痛に対するビジュアルアナログスケール(VAS)、及び、関節炎の関節における疼痛、機能、および硬直に関するWestern Ontario and McMaster Universities(WOMAC)指標にて変形性関節症の評価を行った。結果を表10に示す。
【0039】
【表10】
【0040】
表10の結果より、VASおよびWMACの両指標とも、摂取開始時の値と比較し、摂取6ヶ月後から有意に改善されている事がわかる。従って、本発明品の被験食は、比較品の被験食に比べて、関節の疼痛および機能の改善が顕著であり、エラスチン産生促進効果に優れていることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、皮膚の荒れ、シワ、弾性低下、関節機能低下等を防止するのに有用なエラスチン産生促進剤、エラスチン産生促進用サプリメント、飲食品及びエラスチン産生促進用化粧料に関する。
図1