(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとの間の伝搬路応答を推定し、前記伝搬路応答の行列をQR分解し、前記複数の送信アンテナから送信された送信信号の尤度情報を生成するMIMO受信装置において、
前記伝搬路応答の行列をQR分解し、ユニタリ行列及び上三角行列を生成するQR分解部と、
前記QR分解部により生成されたユニタリ行列に基づいて、前記複数の受信アンテナにて受信した受信信号の行列を変換する受信信号変換部と、
前記受信信号変換部により変換された受信信号の行列が、前記QR分解部により生成された上三角行列に、前記複数の送信アンテナから送信される送信信号の行列を乗算して得られる場合に、QRM−MLD方式を用いて前記尤度情報を生成する際に、
前記変換された受信信号の行列及び前記上三角行列における最下行から最上行までの各行のステージにおいて、前記変換された受信信号の行列における要素、前記上三角行列における要素、及び前記送信信号の行列における要素の変調候補点に基づいて、前記受信信号と前記上三角行列の要素に前記送信信号を乗算した受信レプリカ信号との間の差を求め、乗算を含まない演算によりメトリックを求め、前記メトリックに基づいて所定数の変調候補点を選択し、
前記選択した所定数の変調候補点について、前記受信信号と前記受信レプリカ信号との間の差を二乗して二乗メトリックを求め、
前記二乗メトリックに基づいて前記尤度情報を生成する尤度情報生成部と、を備え、
前記尤度情報生成部は、
第1のステージにおいて、前記変換された受信信号の行列における最下行の要素、前記上三角行列における最下行の要素、及び前記送信信号の行列における最下行の要素についての全ての変調候補点に基づいて、前記全ての変調候補点におけるそれぞれの前記メトリックを演算する第1のメトリック演算部と、
前記第1のメトリック演算部により演算された前記メトリックの値が小さい所定数の変調候補点を選択する第1の候補点選択部と、
前記第1の候補点選択部により選択された前記所定数の変調候補点について前記二乗メトリックを演算する第1の二乗メトリック演算部と、
第2から最終までのステージにおいて、前記変換された受信信号の行列における前記ステージに対応する行の要素、前記上三角行列における前記ステージに対応する行の要素、及び前記送信信号の行列における前記ステージに対応する要素についての全ての変調候補点、並びに前ステージにおいて選択された前記送信信号の行列における要素の変調候補点に基づいて、前記全ての変調候補点及び前記選択された変調候補点におけるそれぞれの前記メトリックを演算する第2のメトリック演算部と、
前記第2のメトリック演算部により演算された前記メトリックの値が小さい所定数の変調候補点を選択する第2の候補点選択部と、
前記第2の候補点選択部により選択された前記所定数の変調候補点について前記二乗メトリックを演算する第2の二乗メトリック演算部と、を備え、
前記第2の二乗メトリック演算部は、
前記最終のステージにて演算した前記二乗メトリックを、前記尤度情報として生成する、ことを特徴とするMIMO受信装置。
【背景技術】
【0002】
取材現場等から放送スタジオまたは中継局へ、ニュース映像、イベントの実況映像等の番組素材を伝送する場合、無線により映像信号を伝送する映像無線伝送システムの利用が有効である。この映像無線伝送システムに用いる代表的な装置として、FPU(Field Pick-up Unit)装置及びワイヤレスカメラ等が挙げられる。
【0003】
従来、ハイビジョン(登録商標)のテレビ信号を低遅延かつ高い回線信頼性で無線伝送するワイヤレスカメラの実現を目的とした新しい映像無線伝送システムの開発が注目されている。この新しい映像無線伝送システムでは、複数の送受信アンテナを用いて同一周波数上で複数のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)信号の伝送を行うMIMO−OFDM伝送方式を用いることが検討されている。
【0004】
このMIMO−OFDM伝送方式は、同一周波数上で複数のOFDM信号を送信することにより空間分割多重伝送を実現する。これにより、伝送速度を送信アンテナ数倍(受信アンテナは送信アンテナ数以上必要である。)に拡大することができると共に、伝送品質の向上及びダイバーシィティ効果による所要C/Nの低下を実現することができる。
【0005】
前述のワイヤレスカメラの開発においては、高画質な撮影映像を視聴者へ届けるために大容量伝送が求められる一方、放送という性質上、特に、途切れない映像伝送が重要となる。このため、複数の送信信号を同一周波数上で同時に伝送可能なMIMO多重伝送方式の復調技術において、最も優れた伝送特性を有するMLD(Maximum Likelihood Detection)方式の適用が検討されてきた。
【0006】
しかし、MLD方式では、多重する送信信号の数及び変調多値数の増加に伴い、復調に必要な演算規模が指数関数的に増大する。このようなMIMO多重伝送方式を用いた送受信装置においては、ある一定以上の送信信号数及び変調多値数の情報を伝送するための仕組みを実装することが困難であった。
【0007】
そこで、演算量規模を削減しながらも伝送特性を劣化させない演算量削減型のMLD方式が数多く検討されてきた。その中でも、QRM−MLD方式は、有効に演算量を削減することができる方式として広く知られている。QRM−MLD方式は、送受信アンテナ間の伝搬路応答の行列に対してQR分解を行い、求めた上三角行列Rに基づいて、送信アンテナ数分のステージに分けて各送信信号の変調候補点を順番に求めるものである。
【0008】
〔MIMO−OFDM伝送システム〕
まず、MLD方式またはQRM−MLD方式を用いて復調を行うMIMO−OFDM伝送システムの概略について説明する。
図5は、MIMO−OFDM伝送システムの全体構成を示す概略図である。このMIMO−OFDM伝送システム10は、4本の送信アンテナ#1〜#4を備えた1系統の端末側の端末装置(以下、送信装置(MIMO送信装置)という。)100と、4本の受信アンテナ#1〜#4を備えた基地局側の基地局装置(以下、受信装置(MIMO受信装置)という。)200との間でMIMO−OFDM伝送を行うワイヤレスカメラシステムである。送信装置100から受信装置200へ伝送するOFDM信号の形式は、ARIB STD−B43の規定に従うものとする。送信アンテナ#1〜#4と受信アンテナ#1〜#4との間にはMIMO伝搬路(伝搬路応答h
11,h
21,h
31,h
41,h
12,・・・,h
44)が形成されている。
【0009】
送信装置100は、自由に移動することができる端末装置であり、4本の送信アンテナ#1〜#4から、同一周波数で異なるOFDM信号を送信する。尚、受信装置200の受信部が伝搬路応答を推定できるように、送信装置100は、パイロット信号を周波数軸上に所定間隔で配置すると共に、時間軸上に連続して配置するものとする。
【0010】
〔MIMO送信装置/端末側〕
端末側の送信装置100は、4本の送信アンテナ#1〜#4、S/P(シリアル/パラレル)変換部101及びMIMO−OFDM変調部102等を備えている。送信装置100は、撮影映像をエンコードしたTS信号を入力すると、TS信号に誤り訂正符号等を加える。S/P変換部101は、誤り訂正符号等が加えられたTS信号を入力し、入力したシリアルのTS信号を、4系統のパラレルのTS信号に変換する。MIMO−OFDM変調部102は、S/P変換部101により変換された4系統のTS信号を入力し、4系統のTS信号に所定のMIMO−OFDM変調を施す。MIMO−OFDM変調部102によりMIMO−OFDM変調された4系統のOFDM信号は、各送信アンテナ#1〜#4から送信される。この場合、各OFDM信号のパイロット信号には直交符号等が割り当てられる。これにより、基地局側の受信装置200は、各送受信アンテナ間のMIMO伝搬路毎にパイロット信号を分離し、各伝搬路応答を推定することができる(特許文献1を参照)。
【0011】
〔MIMO受信装置/基地局側〕
基地局側の受信装置200は、4本の受信アンテナ#1〜#4、MIMO−OFDM復調部201及びP/S(パラレル/シリアル)変換部202等を備えている。受信装置200は、送信装置100から送信された4系統のOFDM信号を4本の受信アンテナ#1〜#4にて受信する。MIMO−OFDM復調部201は、受信したOFDM信号に含まれるパイロット信号に基づいて、各送受信アンテナ間の伝搬路応答を推定する。また、MIMO−OFDM復調部201は、受信したOFDM信号に対し、推定した伝搬路応答を用いてMIMO−OFDM復調を施し、元の4系統のTS信号に復元する。P/S変換部202は、MIMO−OFDM復調部201によりMIMO−OFDM復調された4系統のTS信号を入力し、入力した4系統のパラレルのTS信号を、シリアルのTS信号に変換する。そして、P/S変換部202により変換されたTS信号に対し、誤り訂正符号復号及びデコードが行われ、元の撮影映像に復元される。
【0012】
ここで、受信装置200にて受信したOFDM信号と、推定した伝搬路応答と、送信装置100により送信されたOFDM信号との関係は、式(1)にて表される。
【数1】
ここで、A
Tは任意の行列Aに対する転置行列を示す。Y
T=[y
1,y
2,y
3,y
4]は受信信号ベクトル、X
T=[x
1,x
2,x
3,x
4]は送信信号ベクトル、Hは伝搬路応答の行列、N
T=[n
1,n
2,n
3,n
4]は雑音ベクトルを示す。y
1は受信アンテナ#1にて受信したOFDM信号、y
2〜4はそれぞれ受信アンテナ#2〜#4にて受信したOFDM信号である。x
1は送信アンテナ#1から送信されたOFDM信号、x
2〜4はそれぞれ送信アンテナ#2〜#4から送信されたOFDM信号である。また、例えばh
11は送信アンテナ#1と受信アンテナ#1との間の伝搬路応答、h
21は送信アンテナ#1と受信アンテナ#2との間の伝搬路応答を示す。
【0013】
前記(1)式において、受信信号及び伝搬路応答は受信装置200において検出することができるので、未知の値は送信信号ベクトルX及び雑音ベクトルNとなる。雑音ベクトルNは伝送誤りを引き起こす要因となるが、受信信号の電力が雑音電力に比べて十分に大きい場合は、伝送誤りがない状態で所望の信号を伝送することができる。そこで、雑音ベクトルNを無視すると、未知の値が送信信号ベクトルXのみとなる式が得られる。
【0014】
前述のとおり、受信装置200によるMIMO−OFDM復調処理の方式として、MLD方式及びQRM−MLD方式が知られている。QRM−MLD方式は、MLD方式の演算量を削減したものである。以下、MLD方式及びQRM−MLD方式について、それぞれ説明する。
【0015】
〔MLD方式〕
まず、MLD方式について説明する。MLD方式は、最も優れた伝送特性を持つ方式として知られている。MLD方式では、送信信号ベクトルXの各要素(x
1,x
2,x
3,x
4)が取り得る全パターンの変調候補点について、受信信号ベクトルYのレプリカ信号(受信レプリカ信号)を生成する。受信レプリカ信号は、前記式(1)の右辺を用いて式(2)にて表される。
【数2】
【0016】
全ての送信信号ベクトルXの組み合わせから生成した受信レプリカ信号のうち、受信信号ベクトルY
T=[y
1,y
2,y
3,y
4]に最も近い受信レプリカ信号について、当該受信レプリカ信号を生成する送信信号ベクトルXの変調候補点を元の送信信号として選択したものが、MLD方式の硬判定の復調結果となる。このとき、受信レプリカ信号と受信信号ベクトルY
Tとの間の差を決定するメトリックとして、理論的に最も優れた伝送特性を示す式(3)の二乗メトリックが用いられる。
【数3】
【0017】
前記式(3)の二乗メトリックでは、受信信号と受信レプリカ信号との間の差を求め、実数部の二乗と虚数部の二乗の和を求める。
【0018】
MLD方式では、前記式(3)で求められる二乗メトリックEに対し、最も小さい値をとる受信レプリカ信号を生成する送信信号ベクトルXを復調結果として選択する。ただし、復調結果として選択する可能性のある送信信号ベクトルXの組み合わせは、変調多値数に対する多重信号数の階乗通りの組み合わせとなるため、変調多値数または多重信号数である送信信号数が増加した場合には、計算対象である前記式(2)にて求める受信レプリカ信号の数、及び前記式(3)にて求める二乗メトリックの演算回数が増大することとなり、演算量が増加して装置実装化が難しくなる。
【0019】
〔QRM−MLD方式〕
そこで、MLD方式の演算量を削減するために、QRM−MLD方式が知られている(特許文献2を参照)。
図6は、従来の受信装置の構成を示すブロック図である。この受信装置200は、従来のQRM−MLD方式を用いて復調処理を行う装置であり、図示しない4本の受信アンテナ#1〜#4、FFT処理部21、伝搬路推定部22、QR分解部23、受信信号変換部24及び尤度情報/復調結果生成部25を備えている。尚、
図6の受信装置200には、本発明に直接関連する構成部のみが示されており、誤り訂正部等の他の構成部は省略してある。以下、
図6を参照しながらQRM−MLD方式について説明する。
【0020】
受信装置200に備えた図示しない4本の受信アンテナ#1〜#4は、送信装置100に備えた4本の送信アンテナ#1〜#4との間のMIMO伝搬路(伝搬路応答h
11,h
21,h
31,h
41,h
12,・・・,h
44)を経由したOFDM信号を受信する。つまり、4本の送信アンテナ#1〜#4から送信されMIMO伝搬路を経由して混信したOFDM信号を、それぞれの受信アンテナ#1〜#4にて受信する。
【0021】
FFT処理部21は、受信アンテナ#1〜#4にて受信した信号が直交復調されシンボルタイミングが検出されたOFDM信号をそれぞれ入力し、OFDM信号からGI信号を除去してFFTを施し、時間軸データから周波数軸データに変換する。そして、FFT処理部21は、周波数軸データのうちのパイロット信号を伝搬路推定部22に出力し、データ信号を受信信号変換部24に出力する。
【0022】
伝搬路推定部22は、FFT処理部21からパイロット信号を入力し、パイロット信号を用いて送信アンテナ#1〜#4と受信アンテナ#1〜#4との間の伝搬路応答h
11,h
21,h
31,h
41,h
12,・・・,h
44を推定し、伝搬路応答H(伝搬路応答の行列H)を生成してQR分解部23に出力する。
【0023】
QR分解部23は、伝搬路推定部22から伝搬路応答Hを入力し、伝搬路応答HをQR分解し(H=QR)、ユニタリ行列Q及び上三角行列Rを求める。そして、QR分解部23は、ユニタリ行列Qを受信信号変換部24に出力し、上三角行列Rを尤度情報/復調結果生成部25に出力する。
図6において、R(4)は、後述する式(7)に示す上三角行列Rにおける4行目(最下行)の要素r
44であり、R(k)は、上三角行列Rにおけるk行目(k=1,2,3)の要素である。
【0024】
受信信号変換部24は、FFT処理部21からデータ信号を入力すると共に、QR分解部23からユニタリ行列Qを入力し、データ信号である受信信号Yをユニタリ行列Qにて変換し、変換後の受信信号Y’を尤度情報/復調結果生成部25に出力する。
図6において、y’
4は、後述する式(7)に示す受信信号Y’における4行目(最下行)の要素であり、y’
kは、受信信号Y’におけるk行目(k=3,2,1)の要素である。
【0025】
前記式(1)の伝搬路応答Hに対して一般的なQR分解を施すと、伝搬路応答Hは、式(4)のように、ユニタリ行列Qと上三角行列Rに分解することができる。
【数4】
Nは雑音成分である。
【0026】
さらに、ユニタリ行列Qは、Q
HQ=Iを満たすので、式(5)が求められる。行列Iは単位行列を示す。
【数5】
【0027】
ここで、Q
HY=Y’,Q
HN=N’とすると、式(6)が得られる。
【数6】
【0028】
前記式(6)を要素毎に記載すると、式(7)となる。
【数7】
【0029】
ここで、雑音成分N’を無視すると、前記式(7)は式(8)となる。
【数8】
【0030】
尤度情報/復調結果生成部25は、受信信号変換部24から受信信号Y’を入力すると共に、QR分解部23から上三角行列Rを入力し、受信信号Y’及び上三角行列Rの最下行(4行目)から1行目までの各行のステージ毎に(受信信号Y’における最下行から1行目までの各要素のステージ毎に)、とり得る全ての変調候補点を代入した二乗メトリックを求め、二乗メトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、軟判定による尤度情報を求める。
【0031】
尤度情報/復調結果生成部25は、変調点記録メモリ26、メトリック演算部27、候補点選択部28、干渉成分演算部29、減算部30、メトリック演算部31及び候補点選択部32を備えている。
【0032】
QRM−MLD方式では、最も下の行を1番目のステージとし、下から順番に各ステージで演算を行う。まず、メトリック演算部27は、1番目のステージにおいて、最下行について式(9)の二乗メトリックを求める。
【数9】
【0033】
このとき、前記式(9)のx
4に対し、とりうる全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
1を求める。そして、候補点選択部28は、二乗メトリックE
1が最も小さい変調候補点(x
4の変調候補点)を選択するか、または二乗メトリックE
1が小さい順からM
1個の変調候補点(M
1個のx
4の変調候補点)を選択する。
【0034】
次に、メトリック演算部31は、2番目のステージにおいて、最下行から1つ上の行について式(10)の二乗メトリックE
2を求める。
【数10】
【0035】
ここで、E
1(x
4)は、前記式(9)で求めたx
4の値に応じた二乗メトリックである。このとき、前記式(10)のx
4に対し、1番目のステージにおいて選択した変調候補点を代入し、x
3に対し、とり得る全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
2を求める。そして、候補点選択部32は、二乗メトリックE
2が最も小さい変調候補点(x
3,x
4の変調候補点)を選択するか、または二乗メトリックE
2が小さい順からM
2個の変調候補点の組み合わせ(M
2個の(x
3,x
4)の変調候補点)を選択する。
【0036】
尚、変調点記録メモリ26は、送信信号x
4〜x
1の全ての変調候補点を記録しており、送信信号x
4の全ての変調候補点をメトリック演算部27及び候補点選択部28に出力し、送信信号x
3〜x
1の全ての変調候補点をメトリック演算部31及び候補点選択部32に出力する。干渉成分演算部29は、各ステージに対応して、QR分解部23から上三角行列Rにおけるk行目(k=3,2,1)の要素を入力すると共に、候補点選択部28から選択された送信信号x
4の変調候補点C
M、及び候補点選択部32から選択された送信信号x
3,x
2,x
1の変調候補点C
Mを入力する。そして、干渉成分演算部29は、干渉成分を算出して減算部30に出力する。干渉成分とは、前記式(8)においてk=3(3行目)の場合、r
34x
4であり、k=2(2行目)の場合、r
23x
3+r
24x
4であり、k=1(1行目)の場合、r
12x
2+r
13x
3+r
14x
4である。減算部30は、各ステージに対応して、受信信号変換部24からの受信信号y’
kから干渉成分を減算し、減算結果をメトリック演算部31に出力する。
【0037】
次に、メトリック演算部31は、3番目のステージにおいて、最下行から2つ上の行について式(11)の二乗メトリックE
3を求める。
【数11】
【0038】
ここで、E
2(x
3,x
4)は、前記式(10)で求めたx
3及びx
4の値に応じた二乗メトリックである。このとき、前記式(11)のx
3及びx
4に対し、2番目のステージにおいて選択したM
2個の変調候補点を代入し、x
2に対し、とり得る全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
3を求める。そして、候補点選択部32は、二乗メトリックE
3が最も小さい変調候補点(x
2,x
3,x
4の変調候補点)を選択するか、または二乗メトリックE
3が小さい順からM
3個の変調候補点の組み合わせ(M
3個の(x
2,x
3,x
4)の変調候補点)を選択する。
【0039】
次に、メトリック演算部31は、4番目のステージにおいて、最上行について式(12)の二乗メトリックE
4を求める。
【数12】
【0040】
ここで、E
3(x
2,x
3,x
4)は、前記式(11)で求めたx
2、x
3及びx
4の値に応じた二乗メトリックである。このとき、前記式(12)のx
2、x
3及びx
4に対し、3番目のステージにおいて選択したM
3個の変調候補点を代入し、x
1に対し、とり得る全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
4を求める。そして、候補点選択部32は、二乗メトリックE
4が最も小さい変調候補点(x
1,x
2,x
3,x
4の変調候補点)を選択する。
【0041】
硬判定では、候補点選択部32は、4番目のステージにおいて選択した変調候補点(x
1,x
2,x
3,x
4の変調候補点)を、硬判定の復調結果として出力する。一方、軟判定では、メトリック演算部31は、各ステージで計算した二乗メトリックを足し合わせたE
4を、尤度情報として出力する。
【0042】
このように、QRM−MLD方式を用いることにより、MLD方式と比較して、生成する受信レプリカ信号の数及び二乗メトリックの演算回数を大幅に削減することができる。具体的には、二乗メトリックの演算回数は、MLD方式ではC
4回、QRM−MLD方式ではC+CM
1+CM
2+CM
3回である(Cは送信信号の変調多値数を示す)。QRM−MLD方式は、伝送特性の劣化が小さいため、演算量削減型MLD方式として幅広い分野で適用が検討されている。また、各ステージの変調候補点数M
1、M
2及びM
3を変更することにより、復調に必要な演算回数を削減することができ、伝送特性の劣化を小さくする等の調整を行うことができる。
【0043】
このQRM−MLD方式では、送信信号の変調多値数または多重する送信信号の数が増加した場合であっても、前述のとおりMLD方式よりも処理負荷を削減することができる。しかしながら、送信信号の変調多値数または多重する送信信号の数が増加するに伴って、受信レプリカ信号の数及び二乗メトリックの演算回数も増加してしまう。
【0044】
この問題を解決するために、二乗メトリックの代わりに、式(13)に示すマンハッタンメトリックを用いることにより、乗算回数を削減することができる。
【数13】
【0045】
前記式(13)のマンハッタンメトリックでは、受信信号と受信レプリカ信号との間の差を求め、実数部の絶対値と虚数部の絶対値の和を求める。マンハッタンメトリックでは乗算を行う必要がないため、前記式(3)に示した二乗メトリックよりも演算量を削減することができる。特に、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いた演算集積回路では、和算及び減算回路と比較して乗算回路がリソースを大幅に消費するため、マンハッタンメトリックのような乗算回路を用いないメトリックは、非常に有効なメトリック演算手法となる。しかし、マンハッタンメトリックは、理論的に最適なメトリックではないため、伝送特性が劣化する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明は、QRM−MLD方式を用いる復調処理において、理論的に最適基準であると証明されている二乗メトリックによる乗算回数を極力少なくするために、例えばマンハッタンメトリックを用いて変調候補点を選択し、選択した変調候補点についてのみ二乗メトリックを用いて、復調に必要な尤度情報を生成することを特徴とする。つまり、本発明は、変調候補点を選択する処理及び尤度情報を生成する処理を、それぞれ異なるメトリックにて行う。
【0059】
本発明では、二乗メトリックを用いて変調候補点の選択及び尤度情報の生成を行う従来のQRM−MLD方式と比較して、変調候補点の選択の誤差が大きくなることから、同数の変調候補点を選択した場合には伝送特性が劣化する可能性がある。しかし、本発明では、変調候補点の選択のみに例えばマンハッタンメトリックを用いることから乗算回数を削減することができ、従来よりも少ない乗算回数で一層多くの変調候補点を選択することができる。これに伴って、少ない演算量で伝送特性を従来のQRM−MLD方式よりも改善することができる。本発明において、例えばマンハッタンメトリックを用いて変調候補点を選択することによる伝送特性の劣化と、変調候補点数が増加することによる伝送特性の改善とを比較すると、その程度は後者の方が大きくなる(シミュレーション結果については後述する)。このため、本発明による新たなQRM−MLD方式によれば、従来のQRM−MLD方式と比較して、少ない演算量で優れた伝送特性を実現することが可能となる。
【0060】
〔MIMO受信装置〕
本発明の実施形態による受信装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態による受信装置の構成を示すブロック図である。この受信装置(MIMO受信装置)1は、変調候補点を選択する処理にマンハッタンメトリックを適用し、尤度情報を生成する処理に二乗メトリックを適用する新たなQRM−MLD方式を用いて復調処理を行う装置である。受信装置1は、図示しない4本の受信アンテナ#1〜#4、FFT処理部21、伝搬路推定部22、QR分解部23、受信信号変換部24及び尤度情報/復調結果生成部2を備えている。尚、
図1の受信装置1には、本発明に直接関連する構成部のみが示されており、誤り訂正部等の他の構成部は省略してある。また、
図1において、
図6と共通する部分には
図6と同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0061】
図2は、
図1に示した尤度情報/復調結果生成部2の構成を示すブロック図である。この尤度情報/復調結果生成部2は、変調点記録メモリ26、マンハッタンメトリック演算部11、候補点選択部12、二乗メトリック演算部13、マンハッタンメトリック演算部14、候補点選択部15、二乗メトリック演算部16、干渉成分演算部29及び減算部30を備えている。
【0062】
図6に示した尤度情報/復調結果生成部25と
図2に示す尤度情報/復調結果生成部2とを比較すると、両尤度情報/復調結果生成部2,25は、変調点記録メモリ26、干渉成分演算部29及び減算部30を備えている点で同一である。また、尤度情報/復調結果生成部2は、受信信号Y’及び上三角行列Rの最下行(4行目)に対する1番目のステージの処理を行う構成部について、尤度情報/復調結果生成部25のメトリック演算部27及び候補点選択部28の代わりに、マンハッタンメトリック演算部11、候補点選択部12及び二乗メトリック演算部13を備えている点で相違する。また、尤度情報/復調結果生成部2は、受信信号Y’及び上三角行列Rのk行目(k=3,2,1)に対する2〜4番目のステージの処理を行う構成部について、尤度情報/復調結果生成部25のメトリック演算部31及び候補点選択部32の代わりに、マンハッタンメトリック演算部14、候補点選択部15及び二乗メトリック演算部16を備えている点で相違する。
図6に示した尤度情報/復調結果生成部25は、変調候補点を選択する処理及び尤度情報を生成する処理に二乗メトリックを適用するQRM−MLD方式を用いて処理を行うのに対し、
図2に示す尤度情報/復調結果生成部2は、変調候補点を選択する処理にマンハッタンメトリックを適用し、尤度情報を生成する処理に二乗メトリックを適用する新たなQRM−MLD方式を用いて処理を行う点で相違する。
【0063】
変調点記録メモリ26、干渉成分演算部29及び減算部30は、
図6に示したものと同一であるから、ここでは説明を省略する。
【0064】
図3は、
図2に示した尤度情報/復調結果生成部2の処理を示すフローチャートである。新たなQRM−MLD方式においても、従来のQRM−MLD方式と同様に、最も下の行を1番目のステージとし、下から順番に各ステージで演算を行う。
図2及び
図3を参照して、尤度情報/復調結果生成部2は、受信信号変換部24から受信信号Y’を入力すると共に、QR分解部23から上三角行列Rを入力する(ステップS301)。
【0065】
まず、マンハッタンメトリック演算部11、候補点選択部12及び二乗メトリック演算部13は、前記式(6)〜(8)において、受信信号Y’及び上三角行列Rの最下行(4行目)の要素に対する1番目のステージの処理を行う。
【0066】
マンハッタンメトリック演算部11は、受信信号変換部24から受信信号Y’の最下行(4行目)の受信信号y’
4を入力すると共に、QR分解部23から上三角行列Rの最下行(4行目)の要素r
44を入力し、さらに、変調点記録メモリ26から送信信号x
4の全ての変調候補点Cを入力する。そして、マンハッタンメトリック演算部11は、受信信号y’
4と、要素r
44に送信信号x
4の全ての変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)とを用いて、送信信号x
4がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
1を求める(ステップS302)。
【0067】
尚、前述のとおり、マンハッタンメトリックは、受信信号と受信レプリカ信号との間の差において、実数部の絶対値と虚数部の絶対値の和を求めることにより得られる値である。つまり、マンハッタンメトリックE’
1は、前記式(9)の右辺において二乗演算するのではなく、実数部の絶対値と虚数部の絶対値の和を求めることで得られる。
【0068】
候補点選択部12は、マンハッタンメトリック演算部11により求めた送信信号x
4がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
1のうち、マンハッタンメトリックE’
1の値が小さい順から所定数の変調候補点C
M(x
4)を選択する(ステップS303)。つまり、候補点選択部12は、送信信号x
4がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
1のうち、値が小さい方から所定数のマンハッタンメトリックE’
1を選択し、所定数のマンハッタンメトリックE’
1における変調候補点C
M(x
4)を、所定数の変調候補点C
M(x
4)として選択する。
【0069】
二乗メトリック演算部13は、受信信号y’
4と、要素r
44に送信信号x
4の変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)とを用いて、前記式(9)により、候補点選択部12により選択された送信信号x
4がとり得る所定数の変調候補点C
M(x
4)についての二乗メトリックE
1を求める(ステップS304)。
【0070】
尚、前述のとおり、二乗メトリックは、受信信号と受信レプリカ信号との間の差において、実数部の二乗と虚数部の二乗の和を求めることにより得られる値である。
【0071】
次に、マンハッタンメトリック演算部14、候補点選択部15及び二乗メトリック演算部16は、前記式(6)〜(8)において、受信信号Y’及び上三角行列Rの3行目の要素に対する2番目のステージの処理を行う。
【0072】
マンハッタンメトリック演算部14は、減算部30から、受信信号Y’の3行目の受信信号y’
3から干渉成分r
34x
4(上三角行列Rの3行目の要素r
33と、候補点選択部12により選択された送信信号x
4がとり得る所定数の変調候補点C
M(x
4)の乗算結果)を減算した結果を入力すると共に、変調点記録メモリ26から送信信号x
3の全ての変調候補点Cを入力し、さらに、候補点選択部12からマンハッタンメトリックE’
1を(ステップS303にて選択した所定数のマンハッタンメトリックE’
1)を入力する。そして、マンハッタンメトリック演算部14は、受信信号y’
3と、干渉成分r
34x
4と、要素r
33に送信信号x
3の全ての変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)と、所定数のマンハッタンメトリックE’
1とを用いて、送信信号x
4がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4)及び送信信号x
3がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
2を求める(ステップS305)。マンハッタンメトリックE’
2は、前記式(10)の右辺において二乗演算するのではなく、実数部の絶対値と虚数部の絶対値の和を求めることで得られる。
【0073】
候補点選択部15は、マンハッタンメトリック演算部14により求めた、送信信号x
4がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4)及び送信信号x
3がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
2のうち、マンハッタンメトリックE’
2の値が小さい順から所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3)を選択する(ステップS306)。
【0074】
二乗メトリック演算部16は、受信信号y’
3と、干渉成分r
34x
4と、要素r
33に送信信号x
3の変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)と、送信信号x
4がとり得る所定数の変調候補点C
M(x
4)についての二乗メトリックE
1とを用いて、前記式(10)により、送信信号x
4,x
3がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3)についての二乗メトリックE
2を求める(ステップS307)。
【0075】
次に、マンハッタンメトリック演算部14、候補点選択部15及び二乗メトリック演算部16は、前記式(6)〜(8)において、受信信号Y’及び上三角行列Rの2行目の要素に対する3番目のステージの処理を行う。
【0076】
マンハッタンメトリック演算部14は、減算部30から、受信信号Y’の2行目の受信信号y’
2から干渉成分r
23x
3+r
24x
4(上三角行列Rの2行目の要素r
23,r
24と、候補点選択部15により選択された送信信号x
4,x
3がとり得る所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3)とのそれぞれの乗算値を加算した結果)を減算した結果を入力すると共に、変調点記録メモリ26から送信信号x
2の全ての変調候補点Cを入力する。そして、マンハッタンメトリック演算部14は、受信信号y’
2と、干渉成分r
23x
3+r
24x
4、及び要素r
22に送信信号x
2の全ての変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)と、ステップS306にて選択した所定数のマンハッタンメトリックE’
2とを用いて、送信信号x
4,x
3がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3)及び送信信号x
2がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
3を求める(ステップS308)。マンハッタンメトリックE’
3は、前記式(11)の右辺において二乗演算するのではなく、実数部の絶対値と虚数部の絶対値の和を求めることで得られる。
【0077】
候補点選択部15は、マンハッタンメトリック演算部14により求めた、送信信号x
4,x
3がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3)及び送信信号x
2がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
3のうち、マンハッタンメトリックE’
3の値が小さい順から所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2)を選択する(ステップS309)。
【0078】
二乗メトリック演算部16は、受信信号y’
2と、干渉成分r
23x
3+r
24x
4と、要素r
22に送信信号x
2の変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)と、送信信号x
4,x
3がとり得る所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3)についての二乗メトリックE
2とを用いて、前記式(11)により、送信信号x
4,x
3,x
2がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2)についての二乗メトリックE
3を求める(ステップS310)。
【0079】
次に、マンハッタンメトリック演算部14、候補点選択部15及び二乗メトリック演算部16は、前記式(6)〜(8)において、受信信号Y’及び上三角行列Rの1行目の要素に対する4番目のステージの処理を行う。
【0080】
マンハッタンメトリック演算部14は、減算部30から、受信信号Y’の1行目の受信信号y’
1から干渉成分r
12x
2+r
13x
3+r
14x
4(上三角行列Rの1行目の要素r
12,r
13,r
14と、候補点選択部15により選択された送信信号x
4,x
3,x
2がとり得る所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2)とのそれぞれの乗算値を加算した結果)を減算した結果を入力すると共に、変調点記録メモリ26から送信信号x
1の全ての変調候補点Cを入力する。そして、マンハッタンメトリック演算部14は、受信信号y’
1と、干渉成分r
12x
2+r
13x
3+r
14x
4、及び要素r
11に送信信号x
1の全ての変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)と、ステップS309にて選択した所定数のマンハッタンメトリックE’
3とを用いて、送信信号x
4,x
3,x
2がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2)及び送信信号x
1がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
4を求める(ステップS311)。マンハッタンメトリックE’
4は、前記式(12)の右辺において二乗演算するのではなく、実数部の絶対値と虚数部の絶対値の和を求めることで得られる。
【0081】
候補点選択部15は、マンハッタンメトリック演算部14により求めた、送信信号x
4,x
3,x
2がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2)及び送信信号x
1がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE’
4のうち、マンハッタンメトリックE’
4の値が小さい順から所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2,x
1)を選択する(ステップS312)。
【0082】
二乗メトリック演算部16は、受信信号y’
1と、干渉成分r
12x
2+r
13x
3+r
14x
4と、要素r
11に送信信号x
1の変調候補点Cを乗算した結果(受信レプリカ信号)と、送信信号x
4,x
3,x
2がとり得る所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2)についての二乗メトリックE
3とを用いて、前記式(12)により、送信信号x
4,x
3,x
2,x
1がとり得る(選択された)所定数の変調候補点C
M(x
4,x
3,x
2,x
1)についての二乗メトリックE
4を求める(ステップS313)。
【0083】
候補点選択部15は、ステップS312において、マンハッタンメトリックE’
4のうち、マンハッタンメトリックE’
4の値が最も小さい変調候補点(x
4,x
3,x
2,x
1)を選択し、その変調候補点(x
4,x
3,x
2,x
1)を硬判定による復調結果として出力する(ステップS314)。
【0084】
二乗メトリック演算部16は、ステップS313にて求めた二乗メトリックE
4を、軟判定による尤度情報として出力する(ステップS315)。
【0085】
〔乗算回数〕
次に、従来のMLD方式、従来のQRM−MLD方式、及び前述の新たなQRM−MLD方式における乗算回数を比較する。例えば、C=4(QPSK変調における送信信号の変調候補点数)、各ステージにおける変調候補点の選択数を2とした場合を想定する。従来のMLD方式では、乗算回数は4
4=256回となり、従来のQRM−MLD方式では、乗算回数はC+CM
1+CM
2+CM
3=4+8+8+8=28回となり、新たなQRM−MLD方式では、乗算回数は4M=8回となる。尚、新たなQRM−MLD方式では、4番目のステージにおいても二乗メトリックの演算が行われるから、そのときの乗算回数も含めてある。
【0086】
このように、本発明の実施形態による受信装置1が用いる新たなQRM−MLD方式によれば、従来のMLD方式及び従来のQRM−MLD方式に比べて乗算回数は少なくなる。この場合、乗算回数が少なくなった分を、選択する変調候補点の数に反映することで、その変調候補点の数を大幅に増やすことができ、変調候補点の数が増えれば尤度情報の数も増えて伝送特性が改善する。したがって、同程度の演算規模で比較すると、新たなQRM−MLD方式は、従来のQRM−MLD方式よりも伝送特性を改善することが可能となる。
【0087】
〔シミュレーション結果〕
次に、従来のQRM−MLD方式及び本発明の実施形態による新たなQRM−MLD方式におけるシミュレーション結果について説明する。
図4は、そのシミュレーション結果を示す図である。縦軸はビットエラーレートを示し、横軸は受信CNR[dB]を示す。aは、本発明の実施形態による新たなQRM−MLD方式において、変調候補点の選択数M=2のシミュレーション結果を示し、bは、従来のQRM−MLD方式において、変調候補点の選択数M=2のシミュレーション結果を示す。cは、本発明の実施形態による新たなQRM−MLD方式において、変調候補点の選択数M=4のシミュレーション結果を示し、dは、従来のQRM−MLD方式において、変調候補点の選択数M=4のシミュレーション結果を示す。a〜dは、いずれも送信相関及び受信相関が0.8の場合を示している。
【0088】
図4から、同一の選択数Mにおいて、新たなQRM−MLD方式は、従来のQRM−MLD方式と比較して演算量が大幅に削減されているにも関わらず、伝送特性にほとんど差がないことがわかる。特に、選択数M=4の新たなQRM−MLD方式と選択数M=2の従来のQRM−MLD方式とでは、新たなQRM−MLD方式の乗算回数は、従来のQRM−MLD方式よりも半分程度であり、また、
図4から、新たなQRM−MLD方式の伝送特性(シミュレーション結果c)は、従来のQRM−MLD方式(シミュレーション結果a)よりも優れていることがわかる。
【0089】
つまり、演算量を同一にした場合の伝送特性を比較すると、伝送特性は、新たなQRM−MLD方式によって大幅に改善されるものといえる。演算量を同一にした場合を想定すると、例えば、新たなQRM−MLD方式は、QRM−MLD方式よりも変調候補点の選択数を増やすことができ、尤度情報の数が増えることで結果として伝送特性を向上させることができる。
【0090】
以上のように、本発明の実施形態による受信装置1によれば、尤度情報/復調結果生成部2は、QRM−MLD方式を用いて軟判定による尤度情報を生成する際に、受信信号Y’及び上三角行列Rの各行におけるステージの処理を下から上へ向けて行い、マンハッタンメトリックを用いて変調候補点を選択し、選択した変調候補点についてのみ二乗メトリックを用いて尤度情報を生成するようにした。
【0091】
これにより、
図4のシミュレーション結果に示したように、伝送特性の劣化を伴うことなく、少ない演算量で復調を実現することができる。つまり、より少ない演算量で伝送特性の改善を実現することができ、伝送特性の劣化を伴わずに受信装置1の装置規模を従来よりも削減することが可能となる。
【0092】
尚、従来技術として、前記式(8)について、各ステージで二乗メトリックを用いないで、受信ベクトルから干渉成分を減算し簡易的な復調結果を求め、その復調結果から変調候補点を選択する手法も知られている。しかし、復調結果の導出には係数の除算が必要となるため、二乗メトリックを用いる場合よりも乗算回数は減るものの、除算回路が必要となる。本発明の実施形態によれば、除算回路を追加する必要がないことから、演算量の削減効果は一層高くなる。
【0093】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、前記実施形態では、4本の送信アンテナ#1〜#4を備えた端末側の送信装置100と、4本の受信アンテナ#1〜#4を備えた基地局側の受信装置1との間でMIMO−OFDM伝送を行うワイヤレスカメラシステムの例を挙げて説明したが、本発明は、送受信アンテナの数を限定するものではなく、ワイヤレスカメラシステムに限定するものでもない。
【0094】
また、前記実施形態では、受信装置1の尤度情報/復調結果生成部2は、変調候補点を選択するためにマンハッタンメトリックを適用し、尤度情報を生成するために二乗メトリックを適用した。本発明は、変調候補点を選択するためのメトリックをマンハッタンメトリックに限定するものではなく、例えば、マンハッタンシャビチェフを用いるようにしてもよい。要するに、乗算を含まない演算を行うメトリックのように、二乗メトリックよりも演算の処理負荷の低いメトリックであればよい。