(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の送信アンテナから送信された信号を複数の受信アンテナを介して受信し、前記複数の送信アンテナと前記複数の受信アンテナとの間の伝搬路応答を推定し、前記伝搬路応答の行列をQR分解し、MIMO復調を行うMIMO受信装置において、
前記伝搬路応答の行列をブロックQR分解し、ユニタリ行列及びブロック三角行列を求めるQR分解部と、
前記QR分解部により生成されたユニタリ行列に基づいて、前記複数の受信アンテナにて受信した受信信号の行列を変換する受信信号変換部と、
前記受信信号変換部により変換された受信信号の行列が、前記QR分解部により生成されたブロック三角行列に、前記複数の送信アンテナから送信される送信信号の行列を乗算して得られ、前記ブロック三角行列が、当該ブロック三角行列を分解した複数のブロック行列により構成される場合に、
前記変換された受信信号の行列及び前記ブロック三角行列を構成する前記ブロック行列に対応する最下行から最上行までの前記最下行において、
前記ブロック三角行列の前記ブロック行列に対応する最下行の全ての要素、及び前記送信信号の行列の前記ブロック行列に対応する最下行の全ての要素についての全ての変調候補点に基づいて、最下行の全ての要素についての受信レプリカ信号を生成し、前記変換された受信信号の行列の前記ブロック行列に対応する最下行の全ての要素及び前記受信レプリカ信号に基づいて、最下行のメトリックを求め、当該メトリックの値が小さい所定数の変調候補点を選択し、
前記最下行の次の行から最上行までの各行において、
前記ブロック三角行列の前記ブロック行列に対応する行の全ての要素、前記送信信号の行列の前記ブロック行列に対応する全ての要素についての全ての変調候補点、及び前記送信信号の行列における前行の前記ブロック行列に対応して選択された変調候補点に基づいて、当該行の全ての要素についての受信レプリカ信号を生成し、前記変換された受信信号の行列の前記ブロック行列に対応する行の全ての要素及び前記受信レプリカ信号に基づいて、メトリックを求め、当該メトリックに前行のメトリックを加算して当該行のメトリックを求め、当該メトリックの値が小さい所定数の変調候補点を選択し、
前記最上行のメトリックに基づいて、前記送信信号の復調を行う復調部と、
を備えたことを特徴とするMIMO受信装置。
【背景技術】
【0002】
取材現場等から放送スタジオまたは中継局へ、ニュース映像、イベントの実況映像等の番組素材を伝送する場合、無線により映像信号を伝送する映像無線伝送システムの利用が有効である。この映像無線伝送システムに用いる代表的な装置として、FPU(Field Pick-up Unit)装置及びワイヤレスカメラ等が挙げられる。
【0003】
従来、ハイビジョン(登録商標)のテレビ信号を低遅延かつ高い回線信頼性で無線伝送するワイヤレスカメラの実現を目的とした新しい映像無線伝送システムの開発が注目されている。この新しい映像無線伝送システムでは、複数の送受信アンテナを用いて同一周波数上で複数のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)信号の伝送を行うMIMO−OFDM伝送方式を用いることが検討されている。
【0004】
このMIMO−OFDM伝送方式は、同一周波数上で複数のOFDM信号を送信することにより空間分割多重伝送を実現する。これにより、伝送速度を送信アンテナ数倍(受信アンテナは送信アンテナ数以上必要である。)に拡大することができると共に、伝送品質の向上及びダイバーシィティ効果による所要C/Nの低下を実現することができる。
【0005】
前述のワイヤレスカメラの開発においては、高画質な撮影映像を視聴者へ届けるために大容量伝送が求められる一方、放送という性質上、特に、途切れない映像伝送が重要となる。このため、複数の送信信号を同一周波数上で同時に伝送可能なMIMO多重伝送方式の復調技術において、最も優れた伝送特性を有するMLD(Maximum Likelihood Detection)方式の適用が検討されてきた。
【0006】
しかし、MLD方式では、多重する送信信号の数及び変調多値数の増加に伴い、復調に必要な演算規模が指数関数的に増大する。このようなMIMO多重伝送方式を用いた送受信装置においては、ある一定以上の送信信号数及び変調多値数の情報を伝送するための仕組みを実装することが困難であった。
【0007】
そこで、演算量規模を削減しながらも伝送特性を劣化させない演算量削減型のMLD方式が数多く検討されてきた。その中でも、QRM−MLD方式は、有効に演算量を削減することができる方式として広く知られている。QRM−MLD方式は、送受信アンテナ間の伝搬路応答の行列に対してQR分解を行い、求めた上三角行列Rに基づいて、送信アンテナ数分のステージに分けて各送信信号の変調候補点を順番に求めるものである。
【0008】
〔MIMO−OFDM伝送システム〕
まず、MLD方式またはQRM−MLD方式を用いて復調を行うMIMO−OFDM伝送システムの概略について説明する。
図9は、MIMO−OFDM伝送システムの全体構成を示す概略図である。このMIMO−OFDM伝送システム300は、4本の送信アンテナ#1〜#4を備えた1系統の端末側の端末装置(以下、送信装置(MIMO送信装置)という。)100と、4本の受信アンテナ#1〜#4を備えた基地局側の基地局装置(以下、受信装置(MIMO受信装置)という。)200との間でMIMO−OFDM伝送を行うワイヤレスカメラシステムである。送信装置100から受信装置200へ伝送するOFDM信号の形式は、ARIB STD−B43の規定に従うものとする。送信アンテナ#1〜#4と受信アンテナ#1〜#4との間にはMIMO伝搬路(伝搬路応答h
11,h
21,h
31,h
41,h
12,・・・,h
44)が形成されている。
【0009】
送信装置100は、自由に移動することができる端末装置であり、4本の送信アンテナ#1〜#4から、同一周波数で異なるOFDM信号を送信する。尚、受信装置200の受信部が伝搬路応答を推定できるように、送信装置100は、パイロット信号を周波数軸上に所定間隔で配置すると共に、時間軸上に連続して配置するものとする。
【0010】
〔MIMO送信装置/端末側〕
端末側の送信装置100は、4本の送信アンテナ#1〜#4、S/P(シリアル/パラレル)変換部101及びMIMO−OFDM変調部102等を備えている。送信装置100は、撮影映像をエンコードしたTS信号を入力すると、TS信号に誤り訂正符号等を加える。S/P変換部101は、誤り訂正符号等が加えられたTS信号を入力し、入力したシリアルのTS信号を、4系統のパラレルのTS信号に変換する。MIMO−OFDM変調部102は、S/P変換部101により変換された4系統のTS信号を入力し、4系統のTS信号に所定のMIMO−OFDM変調を施す。MIMO−OFDM変調部102によりMIMO−OFDM変調された4系統のOFDM信号は、各送信アンテナ#1〜#4から送信される。この場合、各OFDM信号のパイロット信号には直交符号等が割り当てられる。これにより、基地局側の受信装置200は、各送受信アンテナ間のMIMO伝搬路毎にパイロット信号を分離し、各伝搬路応答を推定することができる(特許文献1を参照)。
【0011】
〔MIMO受信装置/基地局側〕
基地局側の受信装置200は、4本の受信アンテナ#1〜#4、MIMO−OFDM復調部201及びP/S(パラレル/シリアル)変換部202等を備えている。受信装置200は、送信装置100から送信された4系統のOFDM信号を4本の受信アンテナ#1〜#4にて受信する。MIMO−OFDM復調部201は、受信したOFDM信号に含まれるパイロット信号に基づいて、各送受信アンテナ間の伝搬路応答を推定する。また、MIMO−OFDM復調部201は、受信したOFDM信号に対し、推定した伝搬路応答を用いてMIMO−OFDM復調を施し、元の4系統のTS信号に復元する。P/S変換部202は、MIMO−OFDM復調部201によりMIMO−OFDM復調された4系統のTS信号を入力し、入力した4系統のパラレルのTS信号を、シリアルのTS信号に変換する。そして、P/S変換部202により変換されたTS信号に対し、誤り訂正符号復号及びデコードが行われ、元の撮影映像に復元される。
【0012】
ここで、受信装置200にて受信したOFDM信号と、推定した伝搬路応答と、送信装置100により送信されたOFDM信号との関係は、式(1)にて表される。
【数1】
ここで、A
Tは任意の行列Aに対する転置行列を示す。Y
T=[y
1,y
2,y
3,y
4]は受信信号ベクトル、X
T=[x
1,x
2,x
3,x
4]は送信信号ベクトル、Hは伝搬路応答の行列、N
T=[n
1,n
2,n
3,n
4]は雑音ベクトルを示す。y
1は受信アンテナ#1にて受信したOFDM信号、y
2〜4はそれぞれ受信アンテナ#2〜#4にて受信したOFDM信号である。x
1は送信アンテナ#1から送信されたOFDM信号、x
2〜4はそれぞれ送信アンテナ#2〜#4から送信されたOFDM信号である。また、例えばh
11は送信アンテナ#1と受信アンテナ#1との間の伝搬路応答、h
21は送信アンテナ#1と受信アンテナ#2との間の伝搬路応答を示す。
【0013】
前記(1)式において、受信信号及び伝搬路応答は受信装置200において検出することができるので、未知の値は送信信号ベクトルX及び雑音ベクトルNとなる。雑音ベクトルNは伝送誤りを引き起こす要因となるが、受信信号の電力が雑音電力に比べて十分に大きい場合は、伝送誤りがない状態で所望の信号を伝送することができる。そこで、雑音ベクトルNを無視すると、未知の値が送信信号ベクトルXのみとなる式が得られる。
【0014】
前述のとおり、受信装置200によるMIMO−OFDM復調処理の方式として、MLD方式及びQRM−MLD方式が知られている。QRM−MLD方式は、MLD方式の演算量を削減したものである。以下、MLD方式及びQRM−MLD方式について、それぞれ説明する。
【0015】
〔MLD方式〕
まず、MLD方式について説明する。MLD方式は、最も優れた伝送特性を持つ方式として知られている。MLD方式では、送信信号ベクトルXの各要素(x
1,x
2,x
3,x
4)が取り得る全パターンの変調候補点について、受信信号ベクトルYのレプリカ信号(受信レプリカ信号)を生成する。受信レプリカ信号は、前記式(1)の右辺を用いて式(2)にて表される。
【数2】
【0016】
全ての送信信号ベクトルXの組み合わせから生成した受信レプリカ信号のうち、受信信号ベクトルY
T=[y
1,y
2,y
3,y
4]に最も近い受信レプリカ信号について、当該受信レプリカ信号を生成する送信信号ベクトルXの変調候補点を元の送信信号として選択したものが、MLD方式の硬判定の復調結果となる。このとき、受信レプリカ信号と受信信号ベクトルY
Tとの間の差を決定するメトリックとして、理論的に最も優れた伝送特性を示す式(3)の二乗メトリックが用いられる。
【数3】
【0017】
前記式(3)の二乗メトリックでは、受信信号と受信レプリカ信号との間の差を求め、実数部の二乗と虚数部の二乗の和を求める。
【0018】
MLD方式では、前記式(3)で求められる二乗メトリックEに対し、最も小さい値をとる受信レプリカ信号を生成する送信信号ベクトルXを復調結果として選択する。ただし、復調結果として選択する可能性のある送信信号ベクトルXの組み合わせは、変調多値数に対する多重信号数の階乗通りの組み合わせとなるため、変調多値数または多重信号数である送信信号数が増加した場合には、計算対象である前記式(2)にて求める受信レプリカ信号の数、及び前記式(3)にて求める二乗メトリックの演算回数が増大することとなり、演算量が増加して装置実装化が難しくなる。
【0019】
〔QRM−MLD方式〕
そこで、MLD方式の演算量を削減するために、QRM−MLD方式が知られている(特許文献2を参照)。
図10は、従来の受信装置の構成を示すブロック図である。この受信装置200は、従来のQRM−MLD方式を用いて復調処理を行う装置であり、図示しない4本の受信アンテナ#1〜#4、FFT処理部21、伝搬路推定部22、QR分解部23、受信信号変換部24及び尤度情報/復調結果生成部25を備えている。尚、
図10の受信装置200には、本発明に直接関連する構成部のみが示されており、誤り訂正部等の他の構成部は省略してある。以下、
図10を参照しながらQRM−MLD方式について説明する。
【0020】
受信装置200に備えた図示しない4本の受信アンテナ#1〜#4は、送信装置100に備えた4本の送信アンテナ#1〜#4との間のMIMO伝搬路(伝搬路応答h
11,h
21,h
31,h
41,h
12,・・・,h
44)を経由したOFDM信号を受信する。つまり、4本の送信アンテナ#1〜#4から送信されMIMO伝搬路を経由して混信したOFDM信号を、それぞれの受信アンテナ#1〜#4にて受信する。
【0021】
FFT処理部21は、受信アンテナ#1〜#4にて受信した信号が直交復調されシンボルタイミングが検出されたOFDM信号をそれぞれ入力し、OFDM信号からGI信号を除去してFFTを施し、時間軸データから周波数軸データに変換する。そして、FFT処理部21は、周波数軸データのうちのパイロット信号を伝搬路推定部22に出力し、データ信号を受信信号変換部24に出力する。
【0022】
伝搬路推定部22は、FFT処理部21からパイロット信号を入力し、パイロット信号を用いて送信アンテナ#1〜#4と受信アンテナ#1〜#4との間の伝搬路応答h
11,h
21,h
31,h
41,h
12,・・・,h
44を推定し、伝搬路応答H(伝搬路応答の行列H)を生成してQR分解部23に出力する。
【0023】
QR分解部23は、伝搬路推定部22から伝搬路応答Hを入力し、伝搬路応答HをQR分解し(H=QR)、ユニタリ行列Q及び上三角行列Rを求める。そして、QR分解部23は、ユニタリ行列Qを受信信号変換部24に出力し、上三角行列Rを尤度情報/復調結果生成部25に出力する。
図10において、R(4)は、後述する式(7)に示す上三角行列Rにおける4行目(最下行)の要素r
44であり、R(k)は、上三角行列Rにおけるk行目(k=1,2,3)の要素である。
【0024】
受信信号変換部24は、FFT処理部21からデータ信号を入力すると共に、QR分解部23からユニタリ行列Qを入力し、データ信号である受信信号Yをユニタリ行列Qにて変換し、変換後の受信信号Y’を尤度情報/復調結果生成部25に出力する。
図10において、y’
4は、後述する式(7)に示す受信信号Y’における4行目(最下行)の要素であり、y’
kは、受信信号Y’におけるk行目(k=3,2,1)の要素である。
【0025】
前記式(1)の伝搬路応答Hに対して一般的なQR分解を施すと、伝搬路応答Hは、式(4)のように、ユニタリ行列Qと上三角行列Rに分解することができる。
【数4】
Nは雑音成分である。
【0026】
さらに、ユニタリ行列Qは、Q
HQ=Iを満たすので、式(5)が求められる。行列Iは単位行列を示す。
【数5】
【0027】
ここで、Q
HY=Y’,Q
HN=N’とすると、式(6)が得られる。
【数6】
【0028】
前記式(6)を要素毎に記載すると、式(7)となる。
【数7】
【0029】
ここで、雑音成分N’を無視すると、前記式(7)は式(8)となる。
【数8】
【0030】
尤度情報/復調結果生成部25は、受信信号変換部24から受信信号Y’を入力すると共に、QR分解部23から上三角行列Rを入力し、受信信号Y’及び上三角行列Rの最下行(4行目)から1行目までの各行のステージ毎に(受信信号Y’における最下行から1行目までの各要素のステージ毎に)、とり得る全ての変調候補点を代入した二乗メトリックを求め、二乗メトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、軟判定による尤度情報を求める。
【0031】
尤度情報/復調結果生成部25は、変調点記録メモリ26、メトリック演算部27、候補点選択部28、干渉成分演算部29、減算部30、メトリック演算部31及び候補点選択部32を備えている。
【0032】
QRM−MLD方式では、最も下の行を1番目のステージとし、下から順番に各ステージで演算を行う。まず、メトリック演算部27は、1番目のステージにおいて、最下行について式(9)の二乗メトリックを求める。
【数9】
【0033】
このとき、前記式(9)のx
4に対し、とりうる全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
1を求める。そして、候補点選択部28は、二乗メトリックE
1が最も小さい変調候補点(x
4の変調候補点)を選択するか、または二乗メトリックE
1が小さい順からM
1個の変調候補点(M
1個のx
4の変調候補点)を選択する。
【0034】
次に、メトリック演算部31は、2番目のステージにおいて、最下行から1つ上の行について式(10)の二乗メトリックE
2を求める。
【数10】
【0035】
ここで、E
1(x
4)は、前記式(9)で求めたx
4の値に応じた二乗メトリックである。このとき、前記式(10)のx
4に対し、1番目のステージにおいて選択した変調候補点を代入し、x
3に対し、とり得る全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
2を求める。そして、候補点選択部32は、二乗メトリックE
2が最も小さい変調候補点(x
3,x
4の変調候補点)を選択するか、または二乗メトリックE
2が小さい順からM
2個の変調候補点の組み合わせ(M
2個の(x
3,x
4)の変調候補点)を選択する。
【0036】
尚、変調点記録メモリ26は、送信信号x
4〜x
1の全ての変調候補点を記録しており、送信信号x
4の全ての変調候補点をメトリック演算部27及び候補点選択部28に出力し、送信信号x
3〜x
1の全ての変調候補点をメトリック演算部31及び候補点選択部32に出力する。干渉成分演算部29は、各ステージに対応して、QR分解部23から上三角行列Rにおけるk行目(k=3,2,1)の要素を入力すると共に、候補点選択部28から選択された送信信号x
4の変調候補点C
M、及び候補点選択部32から選択された送信信号x
3,x
2,x
1の変調候補点C
Mを入力する。そして、干渉成分演算部29は、干渉成分を算出して減算部30に出力する。干渉成分とは、前記式(8)においてk=3(3行目)の場合、r
34x
4であり、k=2(2行目)の場合、r
23x
3+r
24x
4であり、k=1(1行目)の場合、r
12x
2+r
13x
3+r
14x
4である。減算部30は、各ステージに対応して、受信信号変換部24からの受信信号y’
kから干渉成分を減算し、減算結果をメトリック演算部31に出力する。
【0037】
次に、メトリック演算部31は、3番目のステージにおいて、最下行から2つ上の行について式(11)の二乗メトリックE
3を求める。
【数11】
【0038】
ここで、E
2(x
3,x
4)は、前記式(10)で求めたx
3及びx
4の値に応じた二乗メトリックである。このとき、前記式(11)のx
3及びx
4に対し、2番目のステージにおいて選択したM
2個の変調候補点を代入し、x
2に対し、とり得る全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
3を求める。そして、候補点選択部32は、二乗メトリックE
3が最も小さい変調候補点(x
2,x
3,x
4の変調候補点)を選択するか、または二乗メトリックE
3が小さい順からM
3個の変調候補点の組み合わせ(M
3個の(x
2,x
3,x
4)の変調候補点)を選択する。
【0039】
次に、メトリック演算部31は、4番目のステージにおいて、最上行について式(12)の二乗メトリックE
4を求める。
【数12】
【0040】
ここで、E
3(x
2,x
3,x
4)は、前記式(11)で求めたx
2、x
3及びx
4の値に応じた二乗メトリックである。このとき、前記式(12)のx
2、x
3及びx
4に対し、3番目のステージにおいて選択したM
3個の変調候補点を代入し、x
1に対し、とり得る全ての変調候補点を代入し、二乗メトリックE
4を求める。そして、候補点選択部32は、二乗メトリックE
4が最も小さい変調候補点(x
1,x
2,x
3,x
4の変調候補点)を選択する。
【0041】
硬判定では、候補点選択部32は、4番目のステージにおいて選択した変調候補点(x
1,x
2,x
3,x
4の変調候補点)を、硬判定の復調結果として出力する。一方、軟判定では、メトリック演算部31は、各ステージで計算した二乗メトリックを足し合わせたE
4を、尤度情報として出力する。
【0042】
このように、QRM−MLD方式を用いることにより、MLD方式と比較して、生成する受信レプリカ信号の数及び二乗メトリックの演算回数を大幅に削減することができる。QRM−MLD方式は、伝送特性の劣化が小さいため、演算量削減型MLD方式として幅広い分野で適用が検討されている。
【0043】
このQRM−MLD方式では、送信信号の変調多値数または多重する送信信号の数が増加した場合であっても、前述のとおりMLD方式よりも処理負荷を削減することができる。しかしながら、送信信号の変調多値数または多重する送信信号の数が増加するに伴って、受信レプリカ信号の数及び二乗メトリックの演算回数も増加してしまう。
【0044】
この問題を解決するために、二乗メトリックの代わりに、式(13)に示すマンハッタンメトリックを用いることにより、乗算回数を削減することができる。
【数13】
【0045】
前記式(13)のマンハッタンメトリックでは、受信信号と受信レプリカ信号との間の差を求め、実数部の絶対値と虚数部の絶対値の和を求める。マンハッタンメトリックでは乗算を行う必要がないため、前記式(3)に示した二乗メトリックよりも演算量を削減することができる。特に、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いた演算集積回路では、和算及び減算回路と比較して乗算回路がリソースを大幅に消費するため、マンハッタンメトリックのような乗算回路を用いないメトリックは、非常に有効なメトリック演算手法となる。しかし、マンハッタンメトリックは、理論的に最適なメトリックではないため、伝送特性が劣化する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明では、複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナを用いたMIMO−OFDM伝送システムによるMIMO復調処理において、最も伝送特性が優れたMLD方式の演算量を効率的に削減すると共に、伝送特性の劣化が少ない新たな方式を提案する。
【0059】
本発明の実施形態によるMIMO受信装置は、推定した伝搬路応答をブロックハウスホルダー変換によりブロックQR分解することで、伝搬路応答の行列を複数の2×2程度の小規模な伝搬路応答の行列(以下、ブロック行列という。これは、伝搬路応答をブロックQR分解することで生成されるブロック三角行列において、そのブロック三角行列を分解した行列である。)に分離し、分離後のブロック行列に対してMIMO復調方式を適用する。従来のQRM−MLD方式は、推定した伝搬路応答を各行単位のステージとしてQR分解するのに対し、本発明の実施形態では、推定した伝搬路応答をブロックQR分解することでブロック行列に分離し、ブロック行列に対応する行毎に処理を行う。これにより、演算量の削減を図ることができる。また、本発明の実施形態では、各ブロック行列から確率の高い順で変調候補点の組み合わせを選択する。これにより、各ブロック内で最適な組み合わせを選択するから、1行ずつ確率の高い変調候補点を選択する従来のQRM−MLD方式よりも効率的に変調候補点の組み合わせを選択することができ、伝送特性を改善することができる。
【0060】
〔MIMO受信装置〕
まず、本発明の実施形態による受信装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態による受信装置の構成を示すブロック図である。この受信装置(MIMO受信装置)1は、図示しない4本の受信アンテナ#1〜#4、FFT処理部21、伝搬路推定部22、QR分解部2、受信信号変換部3及び尤度情報/復調結果生成部(復調部)4を備えている。尚、
図1の受信装置1には、本発明に直接関連する構成部のみが示されており、誤り訂正部等の他の構成部は省略してある。
【0061】
FFT処理部21及び伝搬路推定部22は、
図10に示した構成部と同じであるから、ここでは説明を省略する。
【0062】
QR分解部2は、伝搬路推定部22から伝搬路応答Hを入力し、伝搬路応答Hをブロックハウスホルダー変換によりブロックQR分解し(H=Q
bR
b)、ユニタリ行列Q
b及びブロック三角行列R
bを求める。そして、QR分解部2は、ユニタリ行列Q
bを受信信号変換部3に出力し、ブロック三角行列R
b(後述する要素R
22、R
12及びR
11)を尤度情報/復調結果生成部4に出力する。
【0063】
受信信号変換部3は、FFT処理部21からデータ信号(受信信号Y)を入力すると共に、QR分解部2からユニタリ行列Q
bを入力し、ユニタリ行列Q
bを用いて受信信号Yを受信信号Y’に変換し(Y’=Q
bHY)、受信信号Y’(後述する要素y’
34及びy’
12)を尤度情報/復調結果生成部4に出力する。
【0064】
ブロックハウスホルダー変換の式は、以下の式で表わすことができる。
【数14】
【0065】
行列I
4は、大きさ4の単位行列を示し、行列Vは、伝搬路行列Hから抽出した行列であって、ブロック三角行列R
bで定義した列と同じ列数の行列を示す。行列H
bは、行列Vを変換した行列であり、行列Vを用いて逆行列演算及び固有値演算等を行うことにより算出される。尚、ブロックハウスホルダー変換は既知であり、その詳細については以下の文献を参照されたい。
「Rotella F, Zambettakis I, “Block Householder Transformation for Parallel QR Factorization”, Applied Mathematics Letters, Volume12, No.4, May.1999, pp.29-34」
【0066】
伝搬路行列Hは、前記式(14)を用いることで、ユニタリ行列Q
b及びブロック三角行列R
bに分解される(H=Q
bR
b)。以下、4送信及び4受信の伝搬路応答Hに対し、複数の行数2及び列数2のブロック行列に分解するブロックQR分解を例にして説明する。
【0067】
前記式(1)の伝搬路応答Hに対して、ブロックQR分解を施すと、伝搬路応答Hは、以下の式のように、ユニタリ行列Q
b及びブロック三角行列R
bに分解することができる。
【数15】
Nは雑音成分である。
【0068】
ユニタリ行列Q
bは、Q
bHQ
b=Iを満たすので、以下の式を求めることができる。行列Iは単位行列を示す。
【数16】
【0069】
ここで、前記式(16)において、Q
bHY=Y’、Q
bHN=N’として、各要素も記載すると、以下の式となる。
【数17】
【0070】
ここで、
とし、雑音成分N’を無視すると以下の式が得られる。
【数18】
【0071】
これにより、行数4及び列数4の伝搬路応答Hは、複数の行数2及び列数2のブロック行列R
11,R
12,R
22に分解されることになる。つまり、行数2及び列数2のブロック行列R
11,R
12,R
22は、行数4及び列数4のブロック三角行列R
bを構成する要素を均等に4つ(このうち1つは零行列である。)に分解した行列である。
【0072】
ここで、行数4及び列数4の伝搬路応答Hに対して一般的なQR分解を行うために必要な乗算回数は、伝搬路応答Hを行数2及び列数2のブロック行列に分解するブロックQR分解を行うために必要な乗算回数と比べ、演算量を約3/4倍に抑えることができる。
【0073】
図1において、尤度情報/復調結果生成部4は、受信信号変換部3から受信信号Y’(受信信号Y’の要素y’
34及びy’
12)を入力すると共に、QR分解部2からブロック三角行列R
b(ブロック三角行列R
bの要素(ブロック行列)R
22、R
12及びR
11)を入力し、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行(2行目)から最上行(1行目)までの各行のブロック毎に(受信信号Y’における最下行から最上行までの各要素のブロック毎に)、MIMO復調を行う。具体的には、尤度情報/復調結果生成部4は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行から最上行まで順番に、ブロック単位に送信信号X(送信信号xの要素x
34及びx
12)に対してとり得る全ての変調候補点を代入したメトリックを求め、メトリックから変調候補点を選択する。そして、尤度情報/復調結果生成部4は、硬判定による復調結果を求めると共に、軟判定による尤度情報を求めて出力する。
【0074】
〔実施例1〕
次に、実施例1による尤度情報/復調結果生成部4について説明する。実施例1は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行から最上行まで順番に、ブロック単位に送信信号Xに対してとり得る全ての変調候補点を代入した二乗メトリックを求め、二乗メトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、軟判定による尤度情報を求める。
【0075】
図2は、実施例1による尤度情報/復調結果生成部4の構成を示すブロック図であり、
図3は、実施例1による尤度情報/復調結果生成部4の処理を示すフローチャートである。この尤度情報/復調結果生成部4−1は、変調点記録メモリ5、MIMO復調部6、候補点選択部7、干渉成分演算部8、減算部9、MIMO復調部10及び候補点選択部11を備えている。
【0076】
尤度情報/復調結果生成部4−1は、受信信号変換部3から受信信号Y’(受信信号Y’の要素y’
34及びy’
12)を入力すると共に、QR分解部2からブロック三角行列R
b(ブロック三角行列R
bの要素R
22、R
12及びR
11)を入力する(ステップS301)。
【0077】
まず、MIMO復調部6及び候補点選択部7は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行である2行目についての第1のブロックの処理として、二乗メトリックによるMLD方式を適用した処理を行う。つまり、第1のブロックの処理は、前記式(18)の受信信号Y’(要素がy’
12及びy’
34の行列)及びブロック三角行列R
b(要素がR
11、R
12及びR
22の行列)において、最下行の要素であるブロック行列R
22に対応する最下行の要素(後述する式(19))による処理である。
【0078】
受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行である2行目のブロックは、以下の式で表される。
【数19】
このように、ブロック行列R
22は行数2及び列数2の行列であるため、行数4及び列数4の行列よりも少ない演算量でMIMO復調を行うことができる。
【0079】
MIMO復調部6は、受信信号変換部3から受信信号Y’の最下行(2行目)の要素である受信信号y’
34を入力すると共に、QR分解部2からブロック三角行列R
bの最下行(2行目)の要素R
22を入力し、さらに、変調点記録メモリ5から送信信号x
34の全ての変調候補点Cを入力する。そして、MIMO復調部6は、ブロック三角行列R
bの要素R
22を構成する要素r
33、r
34、r
43及びr
44と、送信信号x
34を構成する送信信号x
3及びx
4とを用いて、送信信号x
3及びx
4がとり得る全ての変調候補点Cについて、前記式(19)の右辺を算出し、r
33x
3、r
34x
4、r
43x
3及びr
44x
4を求める。そして、MIMO復調部6は、以下の式により、r
33x
3、r
34x
4、r
43x
3及びr
44x
4について、送信信号x
3及びx
4がとり得る全ての変調候補点Cの組み合わせ通りに足し合わせて受信レプリカ信号を生成し、受信信号y’
34を構成する受信信号y’
3及びy’
4並びに受信レプリカ信号を用いて、送信信号x
3及びx
4がとり得る全ての変調候補点Cについて二乗メトリックE
34を求める(ステップS302)。
【数20】
【0080】
二乗メトリックは、受信信号Y’と受信レプリカ信号との間の差において、実数部の二乗と虚数部の二乗の和を求めることにより得られる値である。
【0081】
候補点選択部7は、MIMO復調部6により求めた送信信号x
3及びx
4がとり得る全ての変調候補点Cについての二乗メトリックE
34のうち、二乗メトリックE
34の小さい順からM
34個を選択し、M
34個の二乗メトリックE
34における送信信号(x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
3及びx
4の変調候補点)を選択する(ステップS303)。M
34は、予め設定された値である。
【0082】
従来のQRM−MLD方式では、送信信号(x
3,x
4)の変調候補点に対して、M
3個の送信信号x
3及びM
4個の送信信号x
4をそれぞれ選択するから、選択する変調候補点数を個別に設定する必要がある。これに対し、本実施例1では、送信信号(x
3,x
4)に対してまとめてM
34個の変調候補点を選択するから、送信信号x
3及び送信信号x
4それぞれに対して固定数の変調候補点を選択する必要がない。つまり、合計M
34個になるように、MIMO伝搬路に応じて送信信号x
3の変調候補点及び送信信号x
4の変調候補点を選択することができ、効率的な変調候補点の選択が可能となる。
【0083】
次に、干渉成分演算部8、減算部9、MIMO復調部10及び候補点選択部11は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最上行である1行目についての第2のブロックの処理として、二乗メトリックによるMLD方式を適用した処理を行う。つまり、第2のブロックの処理は、前記式(18)の受信信号Y’(要素がy’
12及びy’
34の行列)及びブロック三角行列R
b(要素がR
11、R
12及びR
22の行列)において、最上行の要素であるブロック行列R
11,R
12に対応する最上行の要素(後述する式(21))による処理である。
【0084】
受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最上行である1行目のブロックは、以下の式で表される。二乗メトリックの小さい順に選択したM
34個の送信信号(x
3,x
4)の組み合わせを用いて、以下の式の演算が行われる。
【数21】
【0085】
干渉成分演算部8は、QR分解部2からブロック三角行列R
bの最上行(1行目)の要素R
12を入力すると共に、候補点選択部7からM
34個の送信信号(x
3,x
4)の組み合わせを入力し、要素R
12にM
34個の送信信号(x
3,x
4)の組み合わせを乗算して干渉成分を求める。
【0086】
減算部9は、受信信号変換部3から受信信号Y’の最上行(1行目)の要素である受信信号y’
12を入力すると共に、干渉成分演算部8から干渉成分を入力し、受信信号y’
12から干渉成分を減算し、減算結果y’’をMIMO復調部10に出力する。減算結果y’’(要素がy
’’1及びy
’’2の行列)は、以下の式で表される。
【数22】
【0087】
MIMO復調部10は、QR分解部2からブロック三角行列R
bの最上行(1行目)の要素R
11を入力すると共に、減算部9から減算結果y’’を入力し、さらに、変調点記録メモリ5から送信信号x
12の全ての変調候補点Cを入力し、候補点選択部7から、選択したM
34個の送信信号x
34の選択候補点における二乗メトリックE
34を入力する。そして、MIMO復調部10は、ブロック三角行列R
bの要素R
11を構成する要素r
11、r
12、r
21及びr
22と、送信信号x
12を構成する送信信号x
1及びx
2とを用いて、送信信号x
1及びx
2がとり得る全ての変調候補点Cについて、前記式(22)の右辺を算出し、r
11x
1、r
12x
2、r
21x
1及びr
22x
2を求める。そして、MIMO復調部10は、以下の式により、r
11x
1、r
12x
2、r
21x
1及びr
22x
2について、送信信号x
1及びx
2がとり得る全ての変調候補点Cの組み合わせ通りに足し合わせて受信レプリカ信号を生成し、減算結果y’’を構成する受信信号y
’’1及びy
’’2並びに受信レプリカ信号を用いて、送信信号x
1及びx
2がとり得る全ての変調候補点Cについて二乗メトリックを求め、受信信号y
’’1及びy
’’2に対応する送信信号x
3及びx
4における二乗メトリックE
34(M
34個の送信信号x
34の選択候補点に対応しているM
34個の二乗メトリックE
34のうちの1個)を足し合わせて、二乗メトリックE
12を得る(ステップS304)。
【数23】
【0088】
候補点選択部11は、MIMO復調部10により求めた二乗メトリックE
12のうち、最も小さい二乗メトリックE
12を選択し、その二乗メトリックE
12に対応する送信信号(x
1,x
2)の組み合わせ(送信信号x
1及びx
2の変調候補点)を選択する。候補点選択部11は、さらに、この処理を、M
34個の送信信号(x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
3及びx
4の変調候補点)に対して求めた受信信号y
’’1及びy
’’2について行う。
【0089】
候補点選択部11は、MIMO復調部10により求めた二乗メトリックE
12のうち最も小さい二乗メトリックEを特定し、最も小さいEにおける送信信号(x
1,x
2,x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
1、x
2、x
3及びx
4の変調候補点)を求め、これを硬判定の復調結果として出力する(ステップS305)。
【0090】
候補点選択部11は、ステップS304にて求めた二乗メトリックE
12を、軟判定の尤度情報として出力する(ステップS306)。尤度情報として例えばビット尤度または対数尤度比(LLR:Log Likelihood Ratio)が求められる。尤度情報を誤り訂正復号に用いることにより、軟判定による復調結果を得ることができる。
【0091】
(演算量の比較結果)
次に、実施例1による新たな方式においてブロック行列にQRM−MLD方式を適用した演算量と、従来のMLD方式において伝搬路応答Hに対してMLD方式を適用した演算量とを比較する。例えば、従来の4送信及び4受信のMLD方式では、QPSK変調の場合の乗算回数は18,432回となるが、実施例1では、変調候補点の選択数M(M
34=M
12)=2のときに乗算回数は891回、M=4のときに乗算回数は1,051回となる。このように、実施例1は、従来のMLD方式に比べ、演算量を大幅に削減することができる。
【0092】
(シミュレーション結果)
次に、従来のMLD方式及びQRM−MLD方式、並びに実施例1による新たな方式におけるシミュレーション結果について説明する。
図4は、実施例1のシミュレーション結果を示す図である。縦軸はビットエラーレートを示し、横軸は受信CNR[dB]を示す。aは、実施例1における変調候補点の選択数M=2のシミュレーション結果を示し、bは、実施例1における変調候補点の選択数M=4のシミュレーション結果を示す。cは、従来のQRM−MLD方式における変調候補点の選択数M=2のシミュレーション結果を示し、dは、従来のQRM−MLD方式における変調候補点の選択数M=4のシミュレーション結果を示し、eは、従来のMLD方式のシミュレーション結果を示す。a〜eは、いずれもMIMO伝搬路の送信相関及び受信相関が0.8の場合を示している。
【0093】
図4から、選択数M=2において、実施例1による新たな方式のシミュレーション結果(a)と従来のQRM−MLD方式のシミュレーション結果(c)とを比較すると、実施例1による新たな方式の伝送特性は、従来のQRM−MLD方式よりも優れていることがわかる。選択数M=4においても同様である。
【0094】
以上のように、実施例1の尤度情報/復調結果生成部4−1を備えた受信装置1によれば、QR分解部2は、伝搬路応答Hをブロックハウスホルダー変換によりブロックQR分解し、ユニタリ行列Q
b及びブロック三角行列R
bを求め、受信信号変換部3は、ユニタリ行列Q
bを用いて受信信号Yを受信信号Y’に変換するようにした。そして、尤度情報/復調結果生成部4−1は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行から最上行まで順番に、ブロック単位に送信信号Xに対してとり得る全ての変調候補点Cを代入した二乗メトリックを求め、二乗メトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、軟判定による尤度情報を求めるようにした。
【0095】
これにより、演算量の比較結果及び
図4のシミュレーション結果に示したように、伝送特性の劣化を伴うことなく、少ない演算量で復調を実現することができる。つまり、より少ない演算量で伝送特性の改善を実現することができ、伝送特性の劣化を伴わずに受信装置1の装置規模を従来よりも削減することが可能となる。
【0096】
〔実施例2〕
次に、実施例2による尤度情報/復調結果生成部4について説明する。実施例2は、実施例1の二乗メトリックの代わりにマンハッタンメトリックを用いるものである。すなわち、実施例2は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行から最上行まで順番に、ブロック単位に送信信号Xに対してとり得る全ての変調候補点を代入したマンハッタンメトリックを求め、マンハッタンメトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、軟判定による尤度情報を求める。
【0097】
実施例2による尤度情報/復調結果生成部4−2の構成は、
図2に示した実施例1の構成と同じである。また、実施例2の処理は、全体の流れとして
図3に示した実施例1のフローチャートと同じであるが、ステップS302及びステップS304において、二乗メトリックE
34,E
12の代わりにマンハッタンメトリックE
34,E
12を求める点で実施例1と異なる。
【0098】
実施例2による尤度情報/復調結果生成部4−2のMIMO復調部6は、実施例1における前記式(20)にて二乗メトリックE
34を求める代わりに、以下の式により、マンハッタンメトリックE
34を求める。
【数24】
【0099】
また、MIMO復調部10は、実施例1における前記式(23)にて二乗メトリックE
12を求める代わりに、以下の式により、マンハッタンメトリックE
12を求める。
【数25】
【0100】
前記式(24)及び前記式(25)において、real(X)は複素数Xの実数部、imag(X)は複素数Xの虚数部を示す。
【0101】
(演算量の比較結果)
一般に、マンハッタンメトリックは、乗算の代わりに各実数部及び虚数部の絶対値を足し合わせて求めるメトリックである。乗算を必要としないため、特に加算よりも乗算でリソースを必要とするFPGA回路を用いた実装化には有効である。また、理論的に二乗メトリックが最適なメトリックであると証明されており、マンハッタンメトリックを用いた場合は、二乗メトリックよりも1dB程度劣化することが知られている。
【0102】
このようなマンハッタンメトリックを用いることにより、乗算回数を大幅に削減することができるが、メトリック演算の回数は削減できないため、変調多値数または多重する送信信号数が増加すると、メトリック演算の回数は指数関数的に増加する。例えば、4送信及び4受信及び16QAM変調のMIMO多重伝送の場合、演算回数は16
4=65,536回となり、加算回数が増大する。そのため、FPGA回路では、乗算と比較して加算によるリソースの消費が少ないとはいえ、装置実装化は難しい。
【0103】
そこで、本実施例2は、送信2及び受信2のブロック単位でマンハッタンメトリックによる演算を行うようにしたから、16QAM変調の場合であってもメトリックの演算回数を2×16
2=512回に抑えることが可能となる。
【0104】
(シミュレーション結果)
次に、従来のMLD方式及び実施例2による新たな方式におけるシミュレーション結果について説明する。
図5は、実施例2のシミュレーション結果を示す図である。縦軸はビットエラーレートを示し、横軸は受信CNR[dB]を示す。aは、実施例2における変調候補点の選択数M=2のシミュレーション結果を示し、bは、実施例2における変調候補点の選択数M=4のシミュレーション結果を示し、cは、実施例2における変調候補点の選択数M=6のシミュレーション結果を示す。dは、従来のMLD方式(二乗メトリックを使用)のシミュレーション結果を示す。a〜dは、いずれもMIMO伝搬路の送信相関及び受信相関が0.8の場合を示している。
【0105】
図5から、実施例2による新たな方式は、選択数Mの数を増やすことにより、従来のMLD方式のシミュレーション結果(d)に近づいており、選択数M=6において、実施例2による新たな方式のシミュレーション結果(c)が従来のMLD方式のシミュレーション結果(d)とほぼ同じになっていることがわかる。つまり、実施例2による新たな方式の伝送特性は、選択数M=6において、従来のMLD方式の伝送特性とほぼ同じになる。
【0106】
尚、
図5には、従来のQRM−MLD方式のシミュレーション結果を示していないが、実施例2による新たな方式及び従来のQRM−MLD方式のシミュレーション結果は、
図4に示した実施例1のシミュレーション結果と同じような結果となる。したがって、実施例2による新たな方式の伝送特性は、従来のQRM−MLD方式よりも優れており、さらに、選択数Mの数を増やすことで、従来のMLD方式の伝送特性に近づくことになる。
【0107】
以上のように、実施例2の尤度情報/復調結果生成部4−2を備えた受信装置1によれば、QR分解部2は、伝搬路応答Hをブロックハウスホルダー変換によりブロックQR分解し、ユニタリ行列Q
b及びブロック三角行列R
bを求め、受信信号変換部3は、ユニタリ行列Q
bを用いて受信信号Yを受信信号Y’に変換するようにした。そして、尤度情報/復調結果生成部4−2は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行から最上行まで順番に、ブロック単位に送信信号Xに対してとり得る全ての変調候補点Cを代入したマンハッタンメトリックを求め、マンハッタンメトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、軟判定による尤度情報を求めるようにした。
【0108】
実施例2による新たな方式では、メトリック演算に乗算を全く用いていないため、従来の二乗メトリックを用いたQRM−MLD方式、実施例1及び後述する実施例3による新たな方式と比較して、大幅に乗算回数は削減される。
【0109】
これにより、演算量の比較結果及び
図5のシミュレーション結果に示したように、伝送特性の劣化を伴うことなく、少ない演算量で復調を実現することができる。つまり、より少ない演算量で伝送特性の改善を実現することができ、伝送特性の劣化を伴わずに受信装置1の装置規模を従来よりも削減することが可能となる。
【0110】
〔実施例3〕
次に、実施例3による尤度情報/復調結果生成部4について説明する。実施例2のメトリック演算回数すなわち加算の演算回数は、従来のマンハッタンメトリックを用いたQRM−MLD方式と比較して大幅に削減することができる。しかし、実施例2の伝送特性は、マンハッタンメトリックを使用したために、従来の二乗メトリックを用いたQRM−MLD方式と比較して1dB程度劣化する。そこで、実施例3は、マンハッタンメトリックを用いたQRM−MLD方式を適用して変調候補点を選択し、その後に、二乗メトリックを用いて復調に必要な尤度情報を求める。すなわち、実施例3は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行から最上行まで順番に、ブロック単位に送信信号Xに対してとり得る全ての変調候補点を代入したマンハッタンメトリックを求め、マンハッタンメトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、選択した変調候補点についてのみ二乗メトリックを用いて、軟判定による尤度情報を求める。これにより、従来の二乗メトリックを用いたQRM−MLD方式と比較して演算量を削減することができると共に、従来の二乗メトリックを用いたQRM−MLD方式とほぼ同等の伝送特性を実現することができる。
【0111】
図6は、実施例3による尤度情報/復調結果生成部4の構成を示すブロック図であり、
図7は、実施例3による尤度情報/復調結果生成部4の処理を示すフローチャートである。この尤度情報/復調結果生成部4−3は、変調点記録メモリ5、MIMO復調部6、候補点選択部7、干渉成分演算部8、減算部9、MIMO復調部10、候補点選択部11及び二乗メトリック演算部13,14を備えている。
【0112】
尤度情報/復調結果生成部4−3は、
図3に示したステップS301と同様に、受信信号変換部3から受信信号Y’(受信信号Y’の要素y’
34及びy’
12)を入力すると共に、QR分解部2からブロック三角行列R
b(ブロック三角行列R
bの要素R
22、R
12及びR
11)を入力する(ステップS701)。
【0113】
まず、MIMO復調部6、候補点選択部7及び二乗メトリック演算部13は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行である2行目について、第1のブロックの処理を行う。
【0114】
MIMO復調部6は、
図3に示した実施例2のステップS302と同様に、実施例2におけるマンハッタンメトリックの前記式(24)により、受信信号y’
34について、送信信号x
3及びx
4がとり得る全ての変調候補点CについてマンハッタンメトリックE
34を求める(ステップS702)。
【0115】
候補点選択部7は、
図3に示したステップS303と同様に、送信信号x
3及びx
4がとり得る全ての変調候補点CについてのマンハッタンメトリックE
34のうち、マンハッタンメトリックE
34の小さい順からM
34個を選択し、M
34個のマンハッタンメトリックE
34における送信信号(x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
3及びx
4の変調候補点)を選択する(ステップS703)。
【0116】
二乗メトリック演算部13は、選択したM
34個のマンハッタンメトリックE
34における送信信号(x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
3及びx
4の変調候補点)について、実施例1における二乗メトリックの前記式(20)により、その二乗メトリックE’
34を求める(ステップS704)。
【0117】
次に、干渉成分演算部8、減算部9、MIMO復調部10、候補点選択部11及び二乗メトリック演算部14は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最上行である1行目について、第2のブロックの処理を行う。
【0118】
MIMO復調部10は、
図3に示した実施例2のステップS304と同様に、実施例2におけるマンハッタンメトリックの前記式(25)により、受信信号y’
12について、送信信号x
3及びx
4がとり得るM
34個の選択候補点、並びに送信信号x
1及びx
2がとり得る全ての変調候補点CについてマンハッタンメトリックE
12を求める(ステップS705)。
【0119】
候補点選択部11は、ステップS705にて求めたマンハッタンメトリックE
12のうち、マンハッタンメトリックE
12の小さい順からM
12個を選択し、M
12個のマンハッタンメトリックE
12における送信信号(x
1,x
2)の組み合わせ(送信信号x
1及びx
2の変調候補点)を選択する。候補点選択部11は、さらに、この処理を、M
34個の送信信号(x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
3及びx
4の変調候補点)に対して求めた受信信号y
’’1及びy
’’2について行う。つまり、候補点選択部11は、M
12個のマンハッタンメトリックE
12における送信信号(x
1,x
2)の組み合わせ(送信信号x
1及びx
2の変調候補点)及び送信信号(x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
3及びx
4の変調候補点)を選択する(ステップS706)。
【0120】
二乗メトリック演算部14は、選択したM
12個のマンハッタンメトリックE
12における送信信号(x
1,x
2)の組み合わせ(送信信号x
1及びx
2の変調候補点)及び送信信号(x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
3及びx
4の変調候補点)について、実施例1における二乗メトリックの前記式(23)により、その二乗メトリックE’
12を求める(ステップS707)。
【0121】
候補点選択部11は、
図3に示した実施例2のステップS305と同様に、MIMO復調部10により求めたマンハッタンメトリックE
12のうち最も小さいマンハッタンメトリックEを特定し、最も小さいEにおける送信信号(x
1,x
2,x
3,x
4)の組み合わせ(送信信号x
1、x
2、x
3及びx
4の変調候補点)を求め、これを硬判定の復調結果として出力する(ステップS708)。
【0122】
二乗メトリック演算部14は、ステップS707にて求めたM
12個の二乗メトリックE’
12を、軟判定の尤度情報として出力する(ステップS709)。
【0123】
(演算量の比較結果)
次に、実施例3による新たな方式においてブロック行列にQRM−MLD方式を適用した演算量と、従来のMLD方式において伝搬路応答Hに対してMLD方式及びQRM−MLD方式を適用した演算量とを比較する。例えば、一般的な4送信及び4受信の場合の従来のMLD方式では、QPSK変調の場合の乗算回数は18,432回となり、従来のQRM−MLD方式では、変調候補点の選択数M=2のときに乗算回数は862回、選択数M=4のときに乗算回数は958回となるが、実施例3では、変調候補点の選択数M=2のときに乗算回数は723回、選択数M=4のときに乗算回数は811回となる。このように、実施例3は、従来のMLD方式及びQRM−MLD方式に比べ、演算量を大幅に削減することができる。
【0124】
(シミュレーション結果)
次に、従来のMLD方式及びQRM−MLD方式、並びに実施例3による新たな方式におけるシミュレーション結果について説明する。
図8は、実施例3のシミュレーション結果を示す図である。縦軸はビットエラーレートを示し、横軸は受信CNR[dB]を示す。aは、実施例3における変調候補点の選択数M=2のシミュレーション結果を示し、bは、実施例3における変調候補点の選択数M=4のシミュレーション結果を示し、cは、実施例3における変調候補点の選択数M=6のシミュレーション結果を示す。dは、従来のQRM−MLD方式(二乗メトリックを使用)における変調候補点の選択数M=2のシミュレーション結果を示し、eは、従来のQRM−MLD方式における変調候補点の選択数M=4のシミュレーション結果を示し、fは、従来のMLD方式(二乗メトリックを使用)のシミュレーション結果を示す。a〜fは、いずれもMIMO伝搬路の送信相関及び受信相関が0.8の場合を示している。
【0125】
図8から、実施例3による新たな方式と従来のQRM−MLD方式とを、同じ選択数Mとした場合について比較してみると、実施例3による新たな方式の伝送特性は従来のQRM−MLD方式よりも若干優れているものの、両方式はほぼ同じ伝送特性であることがわかる。しかし、従来のQRM−MLD方式における選択数M=4のシミュレーション結果(e)と実施例3による新たな方式における選択数M=6のシミュレーション結果(c)とを比較すると、実施例3による新たな方式の方が優れている上、この場合の乗算回数は実施例3による新たな方式の方が少ない。したがって、同じ演算規模で比較すると、実施例3による新たな方式の伝送特性は、従来のQRM−MLD方式よりも大幅に改善されることがわかる。
【0126】
以上のように、実施例3の尤度情報/復調結果生成部4−3を備えた受信装置1によれば、QR分解部2は、伝搬路応答Hをブロックハウスホルダー変換によりブロックQR分解し、ユニタリ行列Q
b及びブロック三角行列R
bを求め、受信信号変換部3は、ユニタリ行列Q
bを用いて受信信号Yを受信信号Y’に変換するようにした。そして、尤度情報/復調結果生成部4−3は、受信信号Y’及びブロック三角行列R
bの最下行から最上行まで順番に、ブロック単位に送信信号Xに対してとり得る全ての変調候補点Cを代入したマンハッタンメトリックを求め、マンハッタンメトリックから変調候補点を選択し、硬判定による復調結果を求めると共に、選択した変調候補点についてのみ二乗メトリックを用いて、軟判定による尤度情報を求めるようにした。
【0127】
実施例3による新たな方式では、変調候補点を選択するのにマンハッタンメトリックを用いるようにしたから、二乗メトリックを用いる場合よりも乗算回数を大幅に削減することができる。また、選択した変調候補点に対してのみ二乗メトリックを用いるようにしたから、精度の高い尤度情報を求めることができ、精度の高い尤度情報を用いて誤り訂正復号を行うことができる。
【0128】
また、演算量の比較結果及び
図8のシミュレーション結果に示したように、伝送特性の劣化を伴うことなく、少ない演算量で復調を実現することができる。つまり、より少ない演算量で伝送特性の改善を実現することができ、伝送特性の劣化を伴わずに受信装置1の装置規模を従来よりも削減することが可能となる。
【0129】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。例えば、実施例1,2,3では、送信4及び受信4のMIMO−OFDM伝送システムにおいて、行数2及び列数2のブロック行列に分解するブロックQR分解を用いた復調処理の例を挙げて説明したが、本発明は、多重する送信信号数及び受信アンテナの数、並びにブロック行列の大きさを変更した場合についても適用がある。
【0130】
また、実施例2では、マンハッタンメトリックを用いるようにしたが、例えばマンハッタン−シェビチェフメトリックのように、二乗メトリックよりも演算の処理負荷の低い他のメトリックを用いるようにしてもよい。要するに、乗算を含まない演算を行うメトリックのように、二乗メトリックよりも演算の処理負荷の低いメトリックであればよい。実施例3についても同様である。