【実施例】
【0062】
[実施例1]
実施例1では、本発明の波長選択光学フィルタに相当するショートパスフィルタについて、その光学特性を確認するため電子計算機によるシミュレーションを実施した。このショートパスフィルタは、
図1及び
図2に示す波長選択光学フィルタと同様に、透明基板の一方の表面に積層体を配置した構成を有している。
【0063】
上記ショートパスフィルタは、透明基板の表面に、低屈折率層と高屈折率層を、高屈折率層から交互に合計で78層積層した積層体(以下「積層体A」という)を配置した構成を有している。
【0064】
透明基板の屈折率は1.46に設定した。このような屈折率を有する基板としては、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板の厚みは、1mmに設定した。
【0065】
高屈折率層の屈折率は2.25に設定した。このような屈折率を有する高屈折率層は酸化タンタル(Ta
2O
5)から形成することができる。そして低屈折率層の屈折率は1.46に設定した。このような屈折率を有する低屈折率層は酸化珪素(SiO
2)から形成することができる。
【0066】
このショートパスフィルタが備える積層体Aの構成を下記の表1に示す。表1において、「層数」の欄には、透明基板の側から数えた積層体の各層の層数を記入した。「蒸着材の種類」の欄には、各層が高屈折率層である場合には「H」を、そして低屈折率層である場合には「L」を記入した。「光学膜厚」の欄には、各層の厚みに各層の屈折率を乗じて得られる光学膜厚を記入した。そして「積層構造の種類」の欄には、互いに隣接する2層の高屈折率層と低屈折率層との組み合わせが、第1の積層構造を構成するものである場合には「1」を、そして第2の積層構造を構成するものである場合には「2」を記入した。
【0067】
【表1】
【0068】
積層体Aは、下記a
H1)〜a
H7)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。なお、下記「t
H/t
L」は、高屈折率層の光学膜厚(t
H)の低屈折率層の光学膜厚(t
L)に対する比を意味する。
a
H1)第3層目及び第4層目の積層構造(t
H/t
L=4.4)
a
H2)第7層目及び第8層目の積層構造(t
H/t
L=9.8)
a
H3)第11層目〜第40層目の積層構造(t
H/t
L=2.5〜9.2)
a
H4)第49層目及び第50層目の積層構造(t
H/t
L=5.3)
a
H5)第53層目〜第58層目の積層構造(t
H/t
L=3.6〜4.8)
a
H6)第67層目及び第68層目の積層構造(t
H/t
L=4.0)
a
H7)第71層目〜第74層目の積層構造(t
H/t
L=4.0〜7.7)
【0069】
積層体Aはまた、下記a
L1)〜a
L6)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。なお、下記「t
L/t
H」は、低屈折率層の光学膜厚(t
L)の高屈折率層の光学膜厚(t
H)に対する比を意味する。
a
L1)第5層目及び第6層目の積層構造(t
L/t
H=4.8)
a
L2)第9層目及び第10層目の積層構造(t
L/t
H=2.8)
a
L3)第45層目〜第48層目の積層構造(t
L/t
H=4.3〜4.7)
a
L4)第51層目及び第52層目の積層構造(t
L/t
H=3.1)
a
L5)第61層目〜第66層目の積層構造(t
L/t
H=4.2〜7.5)
a
L6)第69層目及び第70層目の積層構造(t
L/t
H=2.0)
【0070】
図4は、実施例1のショートパスフィルタについて、電子計算機シミュレーションによって計算した分光透過率特性を示す図である。横軸は、フィルタに入射する光の波長(nm)を、そして縦軸は光の透過率(%)を表す。
【0071】
また、
図4に実線にて記入した曲線は、フィルタの表面に対して垂直に光が入射したとき(光の入射角が0度のとき)の分光透過率特性を表している。そして、破線にて記入した曲線は、フィルタの表面の法線に対して30度の角度にて光が入射したとき(光の入射角が30度のとき)の分光透過率特性を表している。
【0072】
このショートパスフィルタの入射角依存性を、下記のように、光の入射角に対する分光透過率特性の横軸(入射光の波長を表す軸)に沿う方向への移動量として評価した。
【0073】
図4に示すように、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値(分光透過率特性の移動量)は7nmであった。
【0074】
このように、実施例1のショートパスフィルタにおいては、光の入射角依存性が小さいことを確認した。
【0075】
実施例1のショートパスフィルタは、g線(波長:436nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、90%以上の高い透過率を示す。また、h線(波長:405nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、i線(波長:365nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。なお、例えば、F’線(波長:478nm)の光については、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、5%以下の低い透過率を示す。
【0076】
従って、実施例1のショートパスフィルタを、各種の装置、例えば、露光装置に組み込む場合、光源の光がフィルタの表面の法線に対して30度以内の角度にて入射するのであれば、その前後に光学レンズ(光源の光をフィルタの表面に垂直に入射させるために用いる光学レンズ)を配置する必要はない。従って、露光装置(組み込み対象の各種装置)の構成が簡単なものになる。
【0077】
[実施例2]
実施例2では、本発明の波長選択光学フィルタに相当するバンドパスフィルタについて、その光学特性を確認するため電子計算機によるシミュレーションを実施した。このバンドパスフィルタは、
図3に示す波長選択光学フィルタと同様に、透明基板の各々の表面に積層体を配置した構成を有している。
【0078】
バンドパスフィルタは、透明基板の一方の面に、低屈折率層と高屈折率層とを、高屈折率層から交互に合計で65層積層した積層体(以下「積層体B」という)を配置し、そして他方の表面に、低屈折率層と高屈折率層とを、高屈折率層から交互に合計で80層積層した積層体(以下「積層体C」という)を配置した構成を有している。
【0079】
基板、高屈折率層、および低屈折率層の各々の屈折率、そして基板の厚みの条件は、実施例1で設定した条件と同じである。
【0080】
このバンドパスフィルタが備える積層体Bの構成を下記の表2に、そして積層体Cの構成を下記の表3にそれぞれ示す。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
積層体Bは、下記b
H1)〜b
H6)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。
b
H1)第1層目及び第2層目の積層構造(t
H/t
L=4.0)
b
H2)第7層目〜第10層目の積層構造(t
H/t
L=2.5〜4.8)
b
H3)第19層目〜第24層目の積層構造(t
H/t
L=2.1〜4.1)
b
H4)第29層目〜第34層目の積層構造(t
H/t
L=2.3〜11.1)
b
H5)第45層目〜第56層目の積層構造(t
H/t
L=2.4〜5.8)
b
H6)第59層目及び60層目の積層構造(t
H/t
L=2.5)
【0084】
積層体Bはまた、下記b
L1)〜b
L4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。
b
L1)第3層目及び第4層目の積層構造(t
L/t
H=4.0)
b
L2)第11層目〜第16層目の積層構造(t
L/t
H=2.0〜2.5)
b
L3)第25層目〜第28層目の積層構造(t
L/t
H=4.1〜4.9)
b
L4)第37層目〜第42層目の積層構造(t
L/t
H=3.4〜16.2)
【0085】
積層体Cは、下記c
H1)〜c
H4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。
c
H1)第1層目及び第2層目の積層構造(t
H/t
L=4.0)
c
H2)第5層目〜第48層目の積層構造(t
H/t
L=2.1〜9.4)
c
H3)第59層目〜第68層目の積層構造(t
H/t
L=3.9〜7.9)
c
H4)第77層目及び第78層目の積層構造(t
H/t
L=4.1)
【0086】
積層体Cはまた、下記c
L1)〜c
L3)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。
c
L1)第51層目〜第58層目の積層構造(t
L/t
H=4.4〜8.9)
c
L2)第71層目〜第76層目の積層構造(t
L/t
H=5.2〜6.4)
c
L3)第79層目及び第80層目の積層構造(t
L/t
H=3.6)
【0087】
図5は、実施例2のバンドパスフィルタについて、電子計算機シミュレーションによって計算した分光透過率特性を示す図である。横軸は、フィルタに入射する光の波長(nm)を、そして縦軸は光の透過率(%)を表す。
【0088】
また、
図5に実線にて記入した曲線は、フィルタの表面に対して垂直に光が入射したとき(光の入射角が0度のとき)の分光透過率特性を表している。そして、破線にて記入した曲線は、フィルタの表面の法線に対して30度の角度にて光が入射したとき(光の入射角が30度のとき)の分光透過率特性を表している。
【0089】
このバンドパスフィルタの光の入射角依存性を、実施例1の場合と同様にして評価した。
【0090】
図5に示すように、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値は6nmであった。
【0091】
同様にして、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値は6nmであった。
【0092】
このように、実施例2のバンドパスフィルタにおいても、光の入射角依存性が小さいことを確認した。
【0093】
実施例2のバンドパスフィルタもまた、g線(波長:436nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、90%以上の高い透過率を示す。また、h線(波長:405nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、i線(波長:365nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。なお、例えば、F’線(波長:478nm)の光については、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、5%以下の低い透過率を示す。
【0094】
実施例2のバンドパスフィルタを用いると、実施例1のショートパスフィルタを用いる場合と同様に、組み込み対象の装置(例、露光装置や欠陥検査装置)の構成が簡単なものになる。
【0095】
[実施例3]
実施例3では、本発明の波長選択光学フィルタに相当するロングパスフィルタについて、その光学特性を確認するため電子計算機によるシミュレーションを実施した。このロングパスフィルタは、
図1及び
図2に示す波長選択光学フィルタと同様に、透明基板の一方の表面に積層体を配置した構成を有している。
【0096】
ロングパスフィルタは、透明基板の表面に、低屈折率層と高屈折率層を、高屈折率層から交互に合計で70層積層した積層体(以下「積層体D」という)を配置した構成を有している。
【0097】
基板、高屈折率層、および低屈折率層の各々の屈折率、そして基板の厚みの条件は、実施例1で設定した条件と同じである。
【0098】
このロングパスフィルタが備える積層体Dの構成を下記の表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
積層体Dは、下記d
H1)〜d
H4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。
d
H1)第9層目〜第34層目の積層構造(t
H/t
L=2.8〜7.3)
d
H2)第45層目〜第52層目の積層構造(t
H/t
L=3.8〜7.4)
d
H3)第57層目〜第60層目の積層構造(t
H/t
L=2.0〜4.5)
d
H4)第65層目〜第70層目の積層構造(t
H/t
L=2.5〜3.5)
【0101】
積層体Dはまた、下記d
L1)〜d
L4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。
d
L1)第1層目及び第2層目の積層構造(t
L/t
H=2.5)
d
L2)第37層目〜第42層目の積層構造(t
L/t
H=6.5〜77.4)
d
L3)第53層目及び第54層目の積層構造(t
L/t
H=3.0)
d
L4)第61層目〜第64層目の積層構造(t
L/t
H=5.3〜10.0)
【0102】
図6は、実施例3のロングパスフィルタについて、電子計算機シミュレーションによって計算した分光透過率特性を示す図である。横軸は、フィルタに入射する光の波長(nm)を、そして縦軸は光の透過率(%)を表す。
【0103】
また、
図6に実線にて記入した曲線は、フィルタの表面に対して垂直に光が入射したとき(光の入射角が0度のとき)の分光透過率特性を表している。そして、破線にて記入した曲線は、フィルタの表面の法線に対して30度の角度にて光が入射したとき(光の入射角が30度のとき)の分光透過率特性を表している。
【0104】
このロングパスフィルタの光の入射角依存性を、実施例1の場合と同様にして評価した。
【0105】
図6に示すように、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値は7nmであった。
【0106】
このように、実施例3のロングパスフィルタにおいても、光の入射角依存性が小さいことを確認した。
【0107】
実施例3のロングパスフィルタもまた、g線(波長:436nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、h線(波長:405nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、i線(波長:365nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、90%以上の高い透過率を示す。なお、例えば、波長が340nm以下の光については、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、10%以下の低い透過率を示す。
【0108】
実施例3のロングパスフィルタを用いると、実施例1のショートパスフィルタを用いる場合と同様に、組み込み対象の装置(例、露光装置や欠陥検査装置)の構成が簡単なものになる。