特許第6260051号(P6260051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6260051-波長選択光学フィルタ 図000006
  • 特許6260051-波長選択光学フィルタ 図000007
  • 特許6260051-波長選択光学フィルタ 図000008
  • 特許6260051-波長選択光学フィルタ 図000009
  • 特許6260051-波長選択光学フィルタ 図000010
  • 特許6260051-波長選択光学フィルタ 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260051
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】波長選択光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20180104BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20180104BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   G02B5/28
   H01L21/30 515D
   G03F7/20 501
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-178250(P2013-178250)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-45821(P2015-45821A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】大澤 光生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 景之
【審査官】 辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−043528(JP,A)
【文献】 特開2009−205070(JP,A)
【文献】 特開2004−094175(JP,A)
【文献】 特開2007−134464(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/015303(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/068566(WO,A1)
【文献】 特開2004−177658(JP,A)
【文献】 特開2011−242437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G03F 7/20
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の少なくとも一方の表面に、相対的に低い屈折率を示す複数の低屈折率層と相対的に高い屈折率を示す複数の高屈折率層とを交互に積層した構成の積層体を配置してなる光学フィルタであって、
上記の積層体が、低屈折率層と該低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを交互に合計で6層以上積層した第1の積層構造、および高屈折率層と該高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを交互に積層した第2の積層構造を含むことを特徴とする波長選択光学フィルタ、但し近赤外線カットフィルタは除く
【請求項2】
第2の積層構造が、高屈折率層と該高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを交互に合計で4層以上積層した構成にある請求項1に記載の波長選択光学フィルタ。
【請求項3】
透明基板の側から第1の積層構造と第2の積層構造とがこの順に配置されている請求項1もしくは2に記載の波長選択光学フィルタ。
【請求項4】
透明基板の側から第2の積層構造と第1の積層構造とがこの順に配置されている請求項1もしくは2に記載の波長選択光学フィルタ。
【請求項5】
第1の積層構造の高屈折率層が低屈折率層の光学膜厚の50倍以下の光学膜厚を有する請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の波長選択光学フィルタ。
【請求項6】
第2の積層構造の低屈折率層が高屈折率層の光学膜厚の100倍以下の光学膜厚を有する請求項1乃至5のうちのいずれかの項に記載の波長選択光学フィルタ。
【請求項7】
透明基板の両表面の各々に、上記積層体が配置されている請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載の波長選択光学フィルタ。
【請求項8】
露光装置用である請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載の波長選択光学フィルタ。
【請求項9】
光源とマスク保持手段との間に請求項1乃至8うちのいずれかの項に記載の波長選択光学フィルタを配置してなる露光装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した積層体を透明基板の表面に配置した構成の波長選択光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体素子や液晶表示素子を、フォトリソグラフィー法を利用して製造することは知られている。
【0003】
例えば、液晶表示素子が備える微細な幅の電極線は、フォトリソグラフィー法を利用して、次のようにして所定の形状(例、幅や長さ)にて形成される。
【0004】
先ず、水銀ランプを光源とする露光装置を用意する。露光装置は光源とマスク保持手段を含み、光源の光から所定の波長の光(通常は短波長の光)を取り出す波長選択光学フィルタを備えている。波長選択光学フィルタで取り出した短波長の光を、マスクを介して所定のパターン状としてフォトレジスト膜に照射することにより、目的の電極線を形成する。
【0005】
露光操作の実施に際しては、上記の露光装置の光を上記電極線と対応する形状にて透過させるスペース部(あるいは透明部)を有するマスク、そして例えば光硬化性樹脂を含むフォトレジスト(ネガ型)を用意する。フォトレジストとしては、光照射した部分が(例えば、上記光硬化性樹脂の硬化により)溶媒に溶解し難くなるネガ型のものと、光照射した部分が溶媒に溶解し易くなるポジ型のものとが知られているが、以下の記載では、ネガ型のフォトレジストを用いる場合の露光を例にして説明する。
【0006】
ガラス基板の表面に、電極線を形成する導電性材料の薄膜(導電膜)を形成し、その表面にフォトレジスト膜を形成する。このフォトレジスト膜の上に、上記のマスクを配置し、露光装置の水銀ランプが発生する光から、波長選択光学フィルタを用いてフォトレジスト膜の硬化に適した所定の波長の光を取り出し、この光を上記マスクを介してフォトレジスト膜に照射(フォトレジスト膜を露光)する。これにより、フォトレジスト膜の露光部分が、上記電極の形状に対応する形状にて硬化する。次いで、上記のマスクを取り除き、フォトレジスト膜の未硬化部分を溶解除去することにより、導電膜の表面が部分的に露出する。次いで、この導電膜の表面が露出した部分をエッチングにより除去し、更にフォトレジスト膜の残りの部分(硬化部分)を除去することにより、電極線が所定の形状にて形成される。
【0007】
特許文献1には、光源として用いる水銀ランプの光から所定波長の光を取り出す波長選択フィルタ(波長選択光学フィルタ)を備える露光装置が開示されている(第1図参照)。この波長選択フィルタでは、水銀ランプが発生する光のうち、例えば、g線(436nm)の光とh線(405nm)とi線(365nm)の光とが露光用の光として同時に選択される(段落[0015]参照)。
【0008】
特許文献2には、例えば、水銀ランプが発生した光を検査光として照射することにより、フォトマスクや半導体ウエハに形成された欠陥を検出する欠陥検査装置と、この検査装置に用いる照明装置が開示されている。この欠陥検査装置が備える照明装置には、水銀ランプの光から、例えば、g線、h線、又はi線の光を検査光として取り出す波長選択フィルタ(波長選択光学フィルタ)が備えられている(段落[0002]参照)。
【0009】
上記特許文献2には、上記のような波長選択フィルタは、入射角依存性を有するため、入射光の入射角が垂直から変化するにしたがって透過光の波長が所定の波長域から変位する特性があり、このため従来の照明装置では、光源から出射した光ビームを一旦平行ビームに変換し、そのように変換された平行ビームを波長選択フィルタに入射している旨記載されている(段落[0003]参照)。
【0010】
なお、同文献に記載の装置では、波長選択フィルタについての光の入射角と透過特性の変位量との関係を予め測定し、所望の波長帯域の透過光が得られるように設定する方法が採用されている。そして、このように波長選択フィルタに対する入射角の変位量を考慮して波長選択フィルタの許容光透過帯域幅を設定することにより、コンパクトな集光レンズ系(照明装置)を実現している(段落[0007]参照)。
【0011】
特許文献3には、入射角依存性を小さくした誘電体多層膜フィルタ(波長選択光学フィルタ)が開示されている。この誘電体多層膜フィルタは、透明基板の一方の面に誘電体多層膜を備えていて、この誘電体多層膜が、屈折率が1.52より大で2.1以下である中間屈折率材料で構成された膜と、屈折率が2.0以上でかつ前記中間屈折率材料で構成された膜の屈折率より大である高屈折率材料で構成された膜を交互に繰り返し積層した構成を有し、そして「高屈折率材料で構成された膜の光学膜厚/中間屈折率材料で構成された膜の光学膜厚」の値が1より大で4以下、好ましくは2より大で4以下であることを特徴とする多層膜フィルタである(請求項1参照)。
【0012】
上記の特許文献3には、上記誘電体多層膜フィルタでは、中間屈折率材料で構成された膜と高屈折率材料で構成された膜で多層膜を構成し、また「高屈折率材料で構成された膜の光学膜厚/中間屈折率材料で構成された膜の光学膜厚」の比の値を1より大としたので、平均屈折率が高くなり、入射角依存性が小さくなると記載されている(段落[0014])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−66429号公報
【特許文献2】特開2009−181109号公報
【特許文献3】特開2008−20563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1の露光装置が備える波長選択フィルタにより、水銀ランプの発生する光から、露光に必要とされる所定波長の光を取り出すことができる。しかしながら、この文献に記載の露光装置では、波長選択フィルタの入射角依存性が大きいことから、波長選択フィルタの表面に対して垂直に光が入射するように、前後に光学レンズ系(リレーレンズ系)を配置する必要がある。このため、この波長選択フィルタの使用は、これを組み込む装置の構成を複雑なものとする。
【0015】
特許文献2の波長選択フィルタの使用の際には、波長選択フィルタについての光の入射角と透過特性の変位量との関係を予め測定し、その測定結果に基づき波長選択フィルタを所望の波長帯域の透過光が得られるように設定する必要がある。従って、この文献の波長選択フィルタは、その前後にリレーレンズ系を配置する必要はないものの、光の入射角に対する光学特性の変動を改良したものではない。従って、この波長選択フィルタは、これを組み込む各種の装置(装置の光学系が異なる装置)毎に、波長選択フィルタの光の入射角と透過特性の変位量との関係を測定して波長帯域を設定する必要がある。
【0016】
特許文献3の誘電体多層膜フィルタでは、多層膜の平均屈折率を高くすることにより、入射角依存性が小さくされている。すなわち、光の入射角が変動したときの分光透過率特性の横軸(入射光の波長を表す軸)に沿う移動が抑制されている。このような光の入射角が変動したときの分光透過率特性の移動量は、なるべく小さいことが望ましい。
【0017】
本発明の課題は、入射角依存性が十分に小さくなるように改良され、このため組み込み対象の各種装置の構成を簡単なものとすることができる波長選択光学フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者の研究により、低屈折率層とこれに対して光学膜厚を十分に厚くした高屈折率層とを交互に積層して構成した積層構造と、これとは逆に、高屈折率層とこれに対して光学膜厚を十分に厚くした低屈折率層とを交互に積層して構成した積層構造との組み合わせを含む積層体を用いると、波長選択光学フィルタの入射角依存性が改良される(小さくなる)ことが判明した。従って、この波長選択光学フィルタは、その表面に垂直に光を入射するため、前後に光学レンズ系を配置する必要がないことから、組み込み対象の各種装置の構成を複雑なものとする必要がなくなる。
【0019】
本発明は、透明基板の少なくとも一方の表面に、相対的に低い屈折率を示す複数の低屈折率層と相対的に高い屈折率を示す複数の高屈折率層とを交互に積層した構成の積層体を配置してなる光学フィルタであって、上記の積層体が、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを交互に積層した第1の積層構造、および高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを交互に積層した第2の積層構造を含むことを特徴とする波長選択光学フィルタにある。
【0020】
本発明の波長選択光学フィルタの好ましい態様は、次の通りである。
(1)第1の積層構造が、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを交互に合計で6層以上積層した構成にある。
(2)第2の積層構造が、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを交互に合計で4層以上積層した構成にある。
【0021】
(3)透明基板の側から第1の積層構造と第2の積層構造とがこの順に配置されている。
(4)透明基板の側から第2の積層構造と第1の積層構造とがこの順に配置されている。
【0022】
(5)第1の積層構造の高屈折率層が低屈折率層の光学膜厚の50倍以下の光学膜厚を有する。
(6)第2の積層構造の低屈折率層が高屈折率層の光学膜厚の100倍以下の光学膜厚を有する。
【0023】
(7)近赤外線カットフィルタを除く。
(8)透明基板の両表面の各々に、上記積層体が配置されている。
(9)露光装置用である。
【0024】
本発明はまた、光源とマスク保持手段との間に上記の波長選択光学フィルタを配置してなる露光装置にもある。
【0025】
本明細書において、「透明基板」とは、可視光の透過率が70%以上である基板を意味する。「可視光」とは、波長が380〜780nmの範囲内にある光を意味する。また、「屈折率」とは、波長が500nmの光に対する屈折率を意味する。
【0026】
また、「波長選択光学フィルタ」には、所定波長の光を選択的に透過するフィルタが含まれ、更に所定波長の光を選択的に反射するフィルタ(ミラー)も含まれる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の波長選択光学フィルタでは、光の入射角に対する光学特性の変動が小さくなる。このため、本発明の波長選択光学フィルタを、例えば、露光装置に組み込む場合、その表面に光源の光を垂直に入射させるために、前後に光学レンズ系を配置する必要はない。従って、本発明の波長選択光学フィルタは、組み込み対象の各種の装置の構成を簡単なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の波長選択光学フィルタの構成例を示す断面図である。
図2】本発明の波長選択光学フィルタの別の構成例を示す断面図である。
図3】本発明の波長選択光学フィルタの更に別の構成例を示す断面図である。
図4】実施例1の波長選択光学フィルタ(ショートパスフィルタ)の分光透過率特性を示す図である。
図5】実施例2の波長選択光学フィルタ(バンドパスフィルタ)の分光透過率特性を示す図である。
図6】実施例3の波長選択光学フィルタ(ロングパスフィルタ)の分光透過率特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
先ず、本発明の波長選択光学フィルタの代表的な実施態様について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の波長選択光学フィルタの構成例を示す断面図である。図1の波長選択光学フィルタ10は、透明基板11の一方の表面に、相対的に低い屈折率を示す複数の低屈折率層Lと相対的に高い屈折率を示す複数の高屈折率層Hとを交互に積層した構成の積層体12aを配置した構成を有している。
【0031】
そして、この波長選択光学フィルタ10は、積層体12aが、低屈折率層Lと低屈折率層Lの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層Hとを交互に積層した第1の積層構造21、および高屈折率層Hと高屈折率層Hの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層Lとを交互に積層した第2の積層構造22を含むことに特徴がある。
【0032】
透明基板11としては通常、石英ガラスや硼珪酸ガラスなどから形成したガラス基板が用いられる。透明基板としては、樹脂材料から形成した基板(あるいはフィルム)を用いることもできる。
【0033】
低屈折率層Lは、高屈折率層Hの屈折率よりも低い屈折率を示す。低屈折率層Lの屈折率は通常、1.1以上、2.0未満の範囲内にある。
【0034】
低屈折率層Lの材料の例としては、酸化珪素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、およびフッ化マグネシウム(MgF2)が挙げられる。
【0035】
高屈折率層Hは、低屈折率層Lの屈折率よりも高い屈折率を示す。高屈折率層Hの屈折率は通常、2.0以上、3.0未満の範囲内にある。
【0036】
高屈折率層Hの材料の例としては、酸化タンタル(Ta25)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、および酸化ハフニウム(HfO2)が挙げられる。
【0037】
低屈折率層L及び高屈折率層Hの各層は、例えば、真空蒸着法やスパッタ法により形成することができる。
【0038】
高屈折率層Hの屈折率nHの低屈折率層Lの屈折率nLに対する比(nH/nL)の値は、通常は1.1以上であり、1.3以上であることが好ましく、1.4以上であることが更に好ましい。前記の屈折率の比(nH/nL)の値は、なるべく大きいほうが望ましいが、通常は1.1〜3.0の範囲内にあり、1.3〜3.0の範囲内にあることが好ましく、1.4〜3.0の範囲内にあることが更に好ましい。
【0039】
積層体12aは、上記の低屈折率層Lと高屈折率層Hとを交互に積層した構成を有している。積層体12aの第1層目(透明基板11の表面に最も近い層)は、低屈折率層Lであってもよいし、高屈折率層Hであってもよい。
【0040】
積層体12aの層数(低屈折率層Lの層数と高屈折率層Hの層数とを合計した層数)は通常、10〜200層の範囲内に設定される。積層体12aの層数は、10〜150層の範囲内にあることが好ましく、20〜100層の範囲内にあることが更に好ましい。
【0041】
積層体12aは、低屈折率層Lと低屈折率層Lの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層Hとを交互に積層した第1の積層構造21、および高屈折率層Hと高屈折率層Hの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層Lとを交互に積層した第2の積層構造22を含んでいる。
【0042】
このように低屈折率層Lとこれに対して光学膜厚を十分に厚くした高屈折率層Hとを交互に積層して構成した第1の積層構造21と、これとは逆に、高屈折率層Hとこれに対して光学膜厚を十分に厚くした低屈折率層Lとを交互に積層して構成した第2の積層構造22との組み合わせを含む積層体12aを用いることにより、波長選択光学フィルタ10の入射角依存性を小さくすること、すなわち光の入射角が変動したとのき分光透過率特性の横軸(入射光の波長を表す軸)に沿う移動を抑制することができる。従って、波長選択光学フィルタ10は、光学フィルタ10の表面に垂直に光を入射させるために、その前後に光学レンズ系を配置する必要がないことから、組み込み対象の各種装置の構成を簡単なものにすることができる。
【0043】
なお、上記の低屈折率層L及び高屈折率層Hの各層の光学膜厚nd(nm)は、各層の厚みd(nm)と各層の屈折率nとの積に等しい。
【0044】
第1の積層構造21の高屈折率層Hの光学膜厚は、積層構造21の低屈折率層Lの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚である限り特に制限はない。第1の積層構造21の高屈折率層Hの光学膜厚は通常、積層構造21の低屈折率層Lの光学膜厚の50倍以下の光学膜厚に設定される。
【0045】
第1の積層構造21の高屈折率層Hの光学膜厚は、積層構造21の低屈折率層Lの光学膜厚の2〜50倍、好ましくは2〜30倍、更に好ましくは2〜20倍、特に好ましくは2〜10倍の範囲内の光学膜厚に設定される。
【0046】
第2の積層構造22の低屈折率層Lの光学膜厚は、積層構造22の高屈折率層Hの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚である限り特に制限はない。第2の積層構造22の低屈折率層Lの光学膜厚は通常、積層構造22の高屈折率層Hの光学膜厚の100倍以下の光学膜厚に設定される。
【0047】
第2の積層構造22の低屈折率層Lの光学膜厚は、積層構造22の高屈折率層Hの光学膜厚の2〜100倍、好ましくは2〜70倍、更に好ましくは2〜50倍、特に好ましくは2〜20倍の範囲内の光学膜厚に設定される。
【0048】
第1の積層構造21は、低屈折率層Lと低屈折率層Lの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層Hとを交互に合計で6層以上積層した構成を有していることが好ましい。
【0049】
第2の積層構造22が、高屈折率層Hと高屈折率層Hの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層Lとを交互に合計で4層以上積層した構成を有していることが好ましい。
【0050】
第1の積層構造21に含まれる複数層の低屈折率層Lを、互いに異なる材料から形成することもでき、同様に複数層の高屈折率層Hを、互いに異なる材料から形成することもできる。
【0051】
また、第2の積層構造22に含まれる複数層の低屈折率層Lを、互いに異なる材料から形成することもでき、同様に複数層の高屈折率層Hを、互いに異なる材料から形成することもできる。
【0052】
そして、第1の積層構造21の低屈折率層Lと第2の積層構造22の低屈折率層Lとを、互いに異なる材料から形成することもでき、同様に第1の積層構造21の高屈折率層Hと第2の積層構造22の高屈折率層Hとを、互いに異なる材料から形成することもできる。
【0053】
波長選択光学フィルタ10では、透明基板11の側から第1の積層構造21と第2の積層構造22とがこの順に配置されている。
【0054】
第1の積層構造21と第2の積層構造22との間には、第1の積層構造21及び第2の積層構造22の何れの積層構造も構成しない層、例えば、上記低屈折率層Lと高屈折率層Hとの間の屈折率を示す層、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍未満の光学膜厚を有する高屈折率層とを交互に積層した積層構造、あるいは高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍未満の光学膜厚を有する低屈折率層とを交互に積層した積層構造が備えられていてもよい。
【0055】
図2は、本発明の波長選択光学フィルタの別の構成例を示す断面図である。図2の波長選択光学フィルタ20の構成は、積層体12bの第1の積層構造21と第2の積層構造22の配置が異なること以外は図1の波長選択光学フィルタ10の構成と同様である。
【0056】
このように、透明基板11の側から第2の積層構造22と第1の積層構造21とをこの順に配置することもできる。
【0057】
図3は、本発明の波長選択光学フィルタの更に別の構成例を示す断面図である。図3の波長選択光学フィルタ30の構成は、透明基板11の両表面の各々に、上記積層体12aが配置されていること以外は図1の波長選択光学フィルタ10の構成と同様である。
【0058】
波長選択光学フィルタ30においては、透明基板11の各表面に配置された積層体12aが、低屈折率層Lと低屈折率層Lの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層Hとを交互に積層した第1の積層構造21、および高屈折率層Hと高屈折率層Hの光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層Lとを交互に積層した第2の積層構造22を含んでいる。
【0059】
本発明の波長選択光学フィルタは、特に露光装置の光源の光から所定波長の光を取り出す波長選択光学フィルタとして用いること(露光装置用であること)が好ましい。
【0060】
本発明の波長選択光学フィルタを光源とマスク保持手段との間に配置することにより、簡単な装置構成の露光装置が得られる。
【0061】
なお、本発明の波長選択光学フィルタは、近赤外線カットフィルタを除く波長選択光学フィルタであることが好ましい。ここで近赤外線カットフィルタとは、本願出願人の先の特許出願(平成24年2月28日提出の特許願、発明の名称:近赤外線カットフィルター)の特許請求の範囲に記載された近赤外線カットフィルタを意味する。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
実施例1では、本発明の波長選択光学フィルタに相当するショートパスフィルタについて、その光学特性を確認するため電子計算機によるシミュレーションを実施した。このショートパスフィルタは、図1及び図2に示す波長選択光学フィルタと同様に、透明基板の一方の表面に積層体を配置した構成を有している。
【0063】
上記ショートパスフィルタは、透明基板の表面に、低屈折率層と高屈折率層を、高屈折率層から交互に合計で78層積層した積層体(以下「積層体A」という)を配置した構成を有している。
【0064】
透明基板の屈折率は1.46に設定した。このような屈折率を有する基板としては、石英ガラス基板を用いることができる。透明基板の厚みは、1mmに設定した。
【0065】
高屈折率層の屈折率は2.25に設定した。このような屈折率を有する高屈折率層は酸化タンタル(Ta25)から形成することができる。そして低屈折率層の屈折率は1.46に設定した。このような屈折率を有する低屈折率層は酸化珪素(SiO2)から形成することができる。
【0066】
このショートパスフィルタが備える積層体Aの構成を下記の表1に示す。表1において、「層数」の欄には、透明基板の側から数えた積層体の各層の層数を記入した。「蒸着材の種類」の欄には、各層が高屈折率層である場合には「H」を、そして低屈折率層である場合には「L」を記入した。「光学膜厚」の欄には、各層の厚みに各層の屈折率を乗じて得られる光学膜厚を記入した。そして「積層構造の種類」の欄には、互いに隣接する2層の高屈折率層と低屈折率層との組み合わせが、第1の積層構造を構成するものである場合には「1」を、そして第2の積層構造を構成するものである場合には「2」を記入した。
【0067】
【表1】
【0068】
積層体Aは、下記aH1)〜aH7)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。なお、下記「tH/tL」は、高屈折率層の光学膜厚(tH)の低屈折率層の光学膜厚(tL)に対する比を意味する。
H1)第3層目及び第4層目の積層構造(tH/tL=4.4)
H2)第7層目及び第8層目の積層構造(tH/tL=9.8)
H3)第11層目〜第40層目の積層構造(tH/tL=2.5〜9.2)
H4)第49層目及び第50層目の積層構造(tH/tL=5.3)
H5)第53層目〜第58層目の積層構造(tH/tL=3.6〜4.8)
H6)第67層目及び第68層目の積層構造(tH/tL=4.0)
H7)第71層目〜第74層目の積層構造(tH/tL=4.0〜7.7)
【0069】
積層体Aはまた、下記aL1)〜aL6)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。なお、下記「tL/tH」は、低屈折率層の光学膜厚(tL)の高屈折率層の光学膜厚(tH)に対する比を意味する。
L1)第5層目及び第6層目の積層構造(tL/tH=4.8)
L2)第9層目及び第10層目の積層構造(tL/tH=2.8)
L3)第45層目〜第48層目の積層構造(tL/tH=4.3〜4.7)
L4)第51層目及び第52層目の積層構造(tL/tH=3.1)
L5)第61層目〜第66層目の積層構造(tL/tH=4.2〜7.5)
L6)第69層目及び第70層目の積層構造(tL/tH=2.0)
【0070】
図4は、実施例1のショートパスフィルタについて、電子計算機シミュレーションによって計算した分光透過率特性を示す図である。横軸は、フィルタに入射する光の波長(nm)を、そして縦軸は光の透過率(%)を表す。
【0071】
また、図4に実線にて記入した曲線は、フィルタの表面に対して垂直に光が入射したとき(光の入射角が0度のとき)の分光透過率特性を表している。そして、破線にて記入した曲線は、フィルタの表面の法線に対して30度の角度にて光が入射したとき(光の入射角が30度のとき)の分光透過率特性を表している。
【0072】
このショートパスフィルタの入射角依存性を、下記のように、光の入射角に対する分光透過率特性の横軸(入射光の波長を表す軸)に沿う方向への移動量として評価した。
【0073】
図4に示すように、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値(分光透過率特性の移動量)は7nmであった。
【0074】
このように、実施例1のショートパスフィルタにおいては、光の入射角依存性が小さいことを確認した。
【0075】
実施例1のショートパスフィルタは、g線(波長:436nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、90%以上の高い透過率を示す。また、h線(波長:405nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、i線(波長:365nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。なお、例えば、F’線(波長:478nm)の光については、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、5%以下の低い透過率を示す。
【0076】
従って、実施例1のショートパスフィルタを、各種の装置、例えば、露光装置に組み込む場合、光源の光がフィルタの表面の法線に対して30度以内の角度にて入射するのであれば、その前後に光学レンズ(光源の光をフィルタの表面に垂直に入射させるために用いる光学レンズ)を配置する必要はない。従って、露光装置(組み込み対象の各種装置)の構成が簡単なものになる。
【0077】
[実施例2]
実施例2では、本発明の波長選択光学フィルタに相当するバンドパスフィルタについて、その光学特性を確認するため電子計算機によるシミュレーションを実施した。このバンドパスフィルタは、図3に示す波長選択光学フィルタと同様に、透明基板の各々の表面に積層体を配置した構成を有している。
【0078】
バンドパスフィルタは、透明基板の一方の面に、低屈折率層と高屈折率層とを、高屈折率層から交互に合計で65層積層した積層体(以下「積層体B」という)を配置し、そして他方の表面に、低屈折率層と高屈折率層とを、高屈折率層から交互に合計で80層積層した積層体(以下「積層体C」という)を配置した構成を有している。
【0079】
基板、高屈折率層、および低屈折率層の各々の屈折率、そして基板の厚みの条件は、実施例1で設定した条件と同じである。
【0080】
このバンドパスフィルタが備える積層体Bの構成を下記の表2に、そして積層体Cの構成を下記の表3にそれぞれ示す。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
積層体Bは、下記bH1)〜bH6)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。
H1)第1層目及び第2層目の積層構造(tH/tL=4.0)
H2)第7層目〜第10層目の積層構造(tH/tL=2.5〜4.8)
H3)第19層目〜第24層目の積層構造(tH/tL=2.1〜4.1)
H4)第29層目〜第34層目の積層構造(tH/tL=2.3〜11.1)
H5)第45層目〜第56層目の積層構造(tH/tL=2.4〜5.8)
H6)第59層目及び60層目の積層構造(tH/tL=2.5)
【0084】
積層体Bはまた、下記bL1)〜bL4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。
L1)第3層目及び第4層目の積層構造(tL/tH=4.0)
L2)第11層目〜第16層目の積層構造(tL/tH=2.0〜2.5)
L3)第25層目〜第28層目の積層構造(tL/tH=4.1〜4.9)
L4)第37層目〜第42層目の積層構造(tL/tH=3.4〜16.2)
【0085】
積層体Cは、下記cH1)〜cH4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。
H1)第1層目及び第2層目の積層構造(tH/tL=4.0)
H2)第5層目〜第48層目の積層構造(tH/tL=2.1〜9.4)
H3)第59層目〜第68層目の積層構造(tH/tL=3.9〜7.9)
H4)第77層目及び第78層目の積層構造(tH/tL=4.1)
【0086】
積層体Cはまた、下記cL1)〜cL3)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。
L1)第51層目〜第58層目の積層構造(tL/tH=4.4〜8.9)
L2)第71層目〜第76層目の積層構造(tL/tH=5.2〜6.4)
L3)第79層目及び第80層目の積層構造(tL/tH=3.6)
【0087】
図5は、実施例2のバンドパスフィルタについて、電子計算機シミュレーションによって計算した分光透過率特性を示す図である。横軸は、フィルタに入射する光の波長(nm)を、そして縦軸は光の透過率(%)を表す。
【0088】
また、図5に実線にて記入した曲線は、フィルタの表面に対して垂直に光が入射したとき(光の入射角が0度のとき)の分光透過率特性を表している。そして、破線にて記入した曲線は、フィルタの表面の法線に対して30度の角度にて光が入射したとき(光の入射角が30度のとき)の分光透過率特性を表している。
【0089】
このバンドパスフィルタの光の入射角依存性を、実施例1の場合と同様にして評価した。
【0090】
図5に示すように、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の長波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値は6nmであった。
【0091】
同様にして、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値は6nmであった。
【0092】
このように、実施例2のバンドパスフィルタにおいても、光の入射角依存性が小さいことを確認した。
【0093】
実施例2のバンドパスフィルタもまた、g線(波長:436nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、90%以上の高い透過率を示す。また、h線(波長:405nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、i線(波長:365nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。なお、例えば、F’線(波長:478nm)の光については、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、5%以下の低い透過率を示す。
【0094】
実施例2のバンドパスフィルタを用いると、実施例1のショートパスフィルタを用いる場合と同様に、組み込み対象の装置(例、露光装置や欠陥検査装置)の構成が簡単なものになる。
【0095】
[実施例3]
実施例3では、本発明の波長選択光学フィルタに相当するロングパスフィルタについて、その光学特性を確認するため電子計算機によるシミュレーションを実施した。このロングパスフィルタは、図1及び図2に示す波長選択光学フィルタと同様に、透明基板の一方の表面に積層体を配置した構成を有している。
【0096】
ロングパスフィルタは、透明基板の表面に、低屈折率層と高屈折率層を、高屈折率層から交互に合計で70層積層した積層体(以下「積層体D」という)を配置した構成を有している。
【0097】
基板、高屈折率層、および低屈折率層の各々の屈折率、そして基板の厚みの条件は、実施例1で設定した条件と同じである。
【0098】
このロングパスフィルタが備える積層体Dの構成を下記の表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
積層体Dは、下記dH1)〜dH4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、低屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する高屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第1の積層構造に相当する。
H1)第9層目〜第34層目の積層構造(tH/tL=2.8〜7.3)
H2)第45層目〜第52層目の積層構造(tH/tL=3.8〜7.4)
H3)第57層目〜第60層目の積層構造(tH/tL=2.0〜4.5)
H4)第65層目〜第70層目の積層構造(tH/tL=2.5〜3.5)
【0101】
積層体Dはまた、下記dL1)〜dL4)の積層構造を含んでいる。各々の積層構造は、高屈折率層と高屈折率層の光学膜厚の2倍以上の光学膜厚を有する低屈折率層とを、高屈折率層から交互に積層した構成を有していて、第2の積層構造に相当する。
L1)第1層目及び第2層目の積層構造(tL/tH=2.5)
L2)第37層目〜第42層目の積層構造(tL/tH=6.5〜77.4)
L3)第53層目及び第54層目の積層構造(tL/tH=3.0)
L4)第61層目〜第64層目の積層構造(tL/tH=5.3〜10.0)
【0102】
図6は、実施例3のロングパスフィルタについて、電子計算機シミュレーションによって計算した分光透過率特性を示す図である。横軸は、フィルタに入射する光の波長(nm)を、そして縦軸は光の透過率(%)を表す。
【0103】
また、図6に実線にて記入した曲線は、フィルタの表面に対して垂直に光が入射したとき(光の入射角が0度のとき)の分光透過率特性を表している。そして、破線にて記入した曲線は、フィルタの表面の法線に対して30度の角度にて光が入射したとき(光の入射角が30度のとき)の分光透過率特性を表している。
【0104】
このロングパスフィルタの光の入射角依存性を、実施例1の場合と同様にして評価した。
【0105】
図6に示すように、光の入射角が0度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長と、光の入射角が30度のときの分光透過率特性の透過帯の短波長側のエッジにおいて透過率が50%の値を示す波長との差の値は7nmであった。
【0106】
このように、実施例3のロングパスフィルタにおいても、光の入射角依存性が小さいことを確認した。
【0107】
実施例3のロングパスフィルタもまた、g線(波長:436nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、h線(波長:405nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、95%以上の高い透過率を示す。また、i線(波長:365nm)の光について、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、90%以上の高い透過率を示す。なお、例えば、波長が340nm以下の光については、光の入射角が0度の場合であっても、30度の場合であっても、10%以下の低い透過率を示す。
【0108】
実施例3のロングパスフィルタを用いると、実施例1のショートパスフィルタを用いる場合と同様に、組み込み対象の装置(例、露光装置や欠陥検査装置)の構成が簡単なものになる。
【符号の説明】
【0109】
10、20、30 波長選択光学フィルタ
11 透明基板
12a、12b 積層体
21 第1の積層構造
22 第2の積層構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6