特許第6260441号(P6260441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6260441
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】樹脂層の除去方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20180104BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20180104BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20180104BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20180104BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20180104BHJP
   C11D 7/06 20060101ALI20180104BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C03C23/00 A
   B08B3/08 ZZAB
   G02F1/1333 500
   B09B3/00 304J
   C11D7/26
   C11D7/06
   C11D17/08
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-93947(P2014-93947)
(22)【出願日】2014年4月30日
(65)【公開番号】特開2015-209371(P2015-209371A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】照井 弘敏
(72)【発明者】
【氏名】石川 智章
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲史
(72)【発明者】
【氏名】山内 優
【審査官】 山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−179438(JP,A)
【文献】 特開2007−277303(JP,A)
【文献】 特開平09−263792(JP,A)
【文献】 特開2012−193287(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111611(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 23/00
G02F 1/1333
B08B 3/08
C11D 1/00−19/00
B09B 1/00− 5/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に配置された樹脂層を除去する樹脂層の除去方法であって、
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および、水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも1つを含み、アルカリ濃度が15質量%以上で、式(1)で表される化合物を3質量%以上含有するアルカリ水溶液と、前記樹脂層とを接触させ、前記樹脂層を除去する工程を有する、樹脂層の除去方法。
式(1) RO−(LO)−H
(式(1)中、Rはアルキル基を表す。Lは、トリメチレン基、又はプロピレン基を表す。nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記樹脂層が、シリコーン樹脂層である、請求項1に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項3】
が1〜3の整数である、請求項1または2に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、プロピレングリコールモノエチルエーテル、または、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項5】
前記アルカリ濃度が18質量%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項6】
前記樹脂層の厚みが0.1〜100μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項7】
前記アルカリ水溶液の温度が5〜50℃である、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項8】
前記アルカリ水溶液と前記樹脂層との接触時間が0.1〜24時間である、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項9】
ガラス基板と、樹脂層と、薄板ガラス基板と、電子デバイス用部品とをこの順で有する積層体から、前記樹脂層と前記薄板ガラス基板との界面を剥離面として分離して得た前記ガラス基板と前記樹脂層とを有する複合体中の前記樹脂層を除去するために使用される、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂層の除去方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の除去方法を実施してガラス基板を製造する、ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の上に樹脂層を付着してなる複合体から樹脂層を除去する、樹脂層の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池(PV)、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)などの電子デバイス(電子機器)の薄型化、軽量化が進行している。この電子デバイスの薄型化や軽量化を図る方法の1つとして、電子デバイスに用いるガラス基板の薄板化が進行している。
ところが、薄板化によりガラス基板の強度が不足すると、デバイスの製造工程において、ガラス基板のハンドリング性が低下する。
【0003】
このような問題を解決するために、最近では、薄板ガラス基板と補強板となる複合体とを積層したガラス積層体を作製し、ガラス積層体の薄板ガラス基板上に表示装置などの電子デバイス用部品を形成した後、薄板ガラス基板と複合体とを分離する方法が提案されている(特許文献1参照)。
複合体は、支持基板となるガラス基板と、この支持基板の上に形成される樹脂層(例えば、シリコーン樹脂層)とを有する。電子デバイス用部品がその表面に形成される薄板ガラス基板は、この複合体の樹脂層に剥離可能に積層・貼着される。
【0004】
ガラス積層体から薄板ガラス基板を剥離して得られる複合体は、再度、新規な薄板ガラス基板を積層・貼着されて、再利用することが可能である。
ここで、複合体は、電子デバイス用部品の製造に伴う加熱や液体処理、薄板ガラス基板との剥離/貼着等に起因して、再利用の回数に応じて、次第に、樹脂層が劣化する。樹脂層が劣化すると、薄板ガラス基板との必要な接着力が得られない、劣化した樹脂が薄板ガラス基板に付着してしまう等の不都合が生じる。
【0005】
複合体の樹脂層が劣化した場合には、支持基板から樹脂層を剥離して、再度、樹脂層を形成する必要がある。
また、樹脂層の劣化の進行に関わらず、支持基板から樹脂層を剥離して、複合体以外の、別のガラス板製品として利用することも考えられる。
【0006】
支持基板から樹脂層を剥離する方法としては、特許文献2に記載される方法が挙げられる。
この方法は、まず、樹脂層を300〜450℃の大気、または、350〜600℃の不活性雰囲気、または、150〜350℃の水蒸気に曝す熱処理工程を行う。次いで、熱処理後の樹脂層を薬液や研磨剤による研磨によって樹脂層を除去する洗浄工程を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/018028号
【特許文献2】国際公開第2011/111611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献2に記載される樹脂層の除去方法によれば、熱処理工程によって樹脂層を分解させた後、樹脂層の除去を行う。そのため、薬液を用いて樹脂層を溶解または膨潤させながらブラシで洗い落とす方法や、研磨剤を分散させた分散液を用いて、樹脂層を削りながらブラシで洗い落とす方法などで、支持基板を破損することなく、容易に支持基板から樹脂層を除去できる。
【0009】
その反面、この方法では、300〜450℃の大気中、350〜600℃の不活性雰囲気、または、150〜350℃の水蒸気中での熱処理工程が必要である。
そのため、樹脂層の除去に手間がかかる、熱処理のために設備が大掛かりになる、生産性が良くない、コストが高い等の難点がある。
【0010】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、ガラス基板に樹脂層を形成してなる複合体から樹脂層を除去するに際し、高温での熱処理を行うことなくガラス基板から樹脂層を除去することができ、これにより、設備の大きな変更を図ることなく、処理を簡便化して、ガラス基板の再利用における生産性の向上や処理コストの低減等を図ることができる樹脂層の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第1の態様は、ガラス基板上に配置された樹脂層を除去する樹脂層の除去方法であって、アルカリ濃度が15質量%以上で、後述する式(1)で表される化合物を3質量%以上含有するアルカリ水溶液と、樹脂層とを接触させ、樹脂層を除去する工程を有する、樹脂層の除去方法である。
第1の態様において、樹脂層が、シリコーン樹脂層であることが好ましい。
第1の態様において、Lがトリメチレン基、プロピレン基、または、エチレン基であり、nが1〜3の整数であることが好ましい。
第1の態様において、式(1)で表される化合物が、プロピレングリコールモノエチルエーテル、または、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルであることが好ましい。
第1の態様において、アルカリ濃度が18質量%以上であることが好ましい。
第1の態様において、樹脂層の厚みが0.1〜100μmであることが好ましい。
第1の態様において、アルカリ水溶液に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および、水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも1つが含まれることが好ましい。
第1の態様において、アルカリ水溶液の温度が5〜50℃であることが好ましい。
第1の態様において、アルカリ水溶液と樹脂層との接触時間が0.1〜24時間であることが好ましい。
第1の態様において、ガラス基板と、樹脂層と、薄板ガラス基板と、電子デバイス用部品とをこの順で有する積層体から、樹脂層と薄板ガラス基板との界面を剥離面として分離して得たガラス基板と樹脂層とを有する複合体中の樹脂層を除去するために使用されることが好ましい。
本発明の第2の態様は、第1の態様を実施してガラス基板を製造する、ガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、支持基板としてのガラス基板に樹脂層を形成してなる複合体において、高温での熱処理を行うことなく、ガラス基板から樹脂層を除去できる。
そのため、本発明によれば、設備の大きな変更を図ることなく、処理を簡便化して、複合体の支持基板の再利用における生産性の向上や処理コストの低減等を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の樹脂層の除去方法(ガラス基板の製造方法)について詳述する。
本発明においては、所定の成分を含むアルカリ水溶液と樹脂層とを接触させることにより、特許文献2と異なり、事前の加熱処理を実施しなくても、樹脂層を容易に除去できる方法を見出している。
【0014】
洗浄の対象としては、ガラス基板と、ガラス基板上に配置された樹脂層とを備える複合体が挙げられる。上述したように、該複合体は、その樹脂層上に薄板ガラス基板が剥離可能に積層され、ガラス積層体が形成される。このガラス積層体は、液晶パネルや有機ELパネル等の表示装置、太陽電池などの電子デバイス(電子機器)の製造に利用されるものであり、薄板ガラス基板の表面に、電子デバイスを構成する電子デバイス用部品が形成される。電子デバイス用部品が形成された後、ガラス基板と樹脂層と薄板ガラス基板と電子デバイス用部品とを備える積層体から、樹脂層と薄板ガラス基板との界面を剥離面として、複合体と、薄板ガラス基板および電子デバイス用部品を含む電子デバイスとに分離される。上述したように、この分離された複合体中の樹脂層が、洗浄対象となることが好ましい。なお、薄板ガラス基板とは、ガラス基板よりも薄い板を意図する。
なお、このガラス積層体に用いられる薄板ガラス基板は、電子デバイスの製造において、薄膜トランジスタ等の電子デバイス用部品が形成されるガラス基板として利用される、一般的なものである。
以下では、まず、洗浄の対象となる複合体中の各部材(ガラス基板、樹脂層)について詳述し、その後、本製造方法の手順について詳述する。
【0015】
<ガラス基板>
ガラス基板は、後述する樹脂層を支持する部材である。ガラス基板の組成としては特に制限されないが、その組成は、例えば、アルカリ金属酸化物を含有すガラス(ソーダライムガラスなど)、無アルカリガラスなどの種々の組成のガラスを使用できる。中でも、熱収縮率が小さいことから無アルカリガラスであることが好ましい。樹脂層と密着するまえに、汚れや異物などを除去するために、その表面を予め洗浄することが好ましい。
【0016】
ガラス基板の厚みは特に限定されないが、上述したガラス積層体を現行の電子デバイス用パネルの製造ラインで処理できる厚さであることが好ましい。例えば、現在LCDに使用されているガラス基板の厚さは主に0.4〜1.2mmの範囲にあり、特に0.7mmが多い。
なかでも、ガラス基板の厚さは、扱いやすく、割れにくいなどの理由から、0.08mm以上であることが好ましい。また、ガラス基板の厚さは、電子デバイス用部品形成後に剥離する際に、割れずに適度に撓むような剛性が望まれる理由から、1.2mm以下であることが好ましい。
【0017】
ガラス基板の表面は、機械的研磨または化学的研磨の処理がなされた研磨面でもよく、または研磨処理がされていない非エッチング面(生地面)であってもよい。生産性およびコストの点からは、非エッチング面(生地面)であることが好ましい。
【0018】
ガラス基板は第1主面および第2主面を有しており、その形状は限定されないが、矩形であることが好ましい。ここで、矩形とは、実質的に略矩形であり、周辺部の角を切り落とした(コーナーカットした)形状をも含む。ガラス基板の大きさは限定されないが、例えば、矩形の場合100〜2000mm×100〜2000mmであってよく、500〜1000mm×500〜1000mmであることが好ましい。
【0019】
<樹脂層>
樹脂層は、上記ガラス基板上に配置(固定)された層であり、上述したガラス積層体を製造する際には、その表面上に薄板ガラス基板が配置される。
樹脂層は、接着力や粘着力などの強い結合力でガラス基板表面に結合されていることが好ましい。例えば、後述するように、架橋性オルガノポリシロキサンをガラス基板表面で架橋硬化させることにより、架橋物であるシリコーン樹脂がガラス基板表面に接着して、高い結合力を得ることができる。また、ガラス基板表面と樹脂層との間に強い結合力を生じさせる処理(例えば、カップリング剤を使用した処理)を施してガラス基板表面と樹脂層と間の結合力を高めることもできる。
【0020】
樹脂層の厚さは特に限定されないが、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜50μmであることがより好ましく、1〜20μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚さがこのような範囲であると、樹脂層とガラス基板との間に気泡や異物が介在することがあっても、樹脂層上に配置される薄板ガラス基板のゆがみ欠陥の発生を抑制することができる。また、樹脂層の厚さが厚すぎると、形成するのに時間および材料を要するため経済的ではなく、耐熱性が低下する場合がある。
【0021】
樹脂層を構成する樹脂の種類は特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂およびシリコーン樹脂が挙げられる。なかでも、耐熱性および剥離性の点から、シリコーン樹脂が好ましい。つまり、樹脂層がシリコーン樹脂層(シリコーン樹脂を含む層)であることが好ましい。
【0022】
シリコーン樹脂層に含まれるシリコーン樹脂は架橋性オルガノポリシロキサン(硬化性シリコーン)の架橋物であることが好ましく、該シリコーン樹脂は3次元網目構造を形成していることが好ましい。
架橋性オルガノポリシロキサンの種類は特に制限されず、所定の架橋反応を介して、架橋硬化し、シリコーン樹脂を構成する架橋物(硬化物)となれば特にその構造は限定されず、所定の架橋性を有していればよい。架橋の形式は特に制限されず、架橋性オルガノポリシロキサン中に含まれる架橋性基の種類に応じて適宜公知の形式を採用できる。例えば、ヒドロシリル化反応、縮合反応、または、加熱処理、高エネルギー線処理若しくはラジカル重合開始剤によるラジカル反応などが挙げられる。
より具体的には、架橋性オルガノポリシロキサンがアルケニル基またはアルキニル基などのラジカル反応性基を有する場合、上記ラジカル反応を介したラジカル反応性基同士の反応により架橋して硬化物(架橋シリコーン樹脂)となる。
また、架橋性オルガノポリシロキサンがシラノール基を有する場合、シラノール基同士の縮合反応により架橋して硬化物となる。
さらに、架橋性オルガノポリシロキサンが、ケイ素原子に結合したアルケニル基(ビニル基など)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノアルケニルポリシロキサン)、および、ケイ素原子に結合した水素原子(ハイドロシリル基)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を含む場合、ヒドロシリル化触媒(例えば、白金系触媒)の存在下、ヒドロシリル化反応により架橋して硬化物となる。
【0023】
なかでも、シリコーン樹脂層の形成が容易で、剥離性により優れる点で、架橋性オルガノポリシロキサンが、両末端および/または側鎖にアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(以後、適宜オルガノポリシロキサンAとも称する)と、両末端および/または側鎖にハイドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(以後、適宜オルガノポリシロキサンBとも称する)とを含む態様が好ましい。
なお、アルケニル基としては特に限定されないが、例えば、ビニル基(エテニル基)、アリル基(2−プロペニル基)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキシニル基などが挙げられ、なかでも耐熱性に優れる点から、ビニル基が好ましい。
また、オルガノポリシロキサンAに含まれるアルケニル基以外の基、および、オルガノポリシロキサンBに含まれるハイドロシリル基以外の基としては、アルキル基(特に、炭素数4以下のアルキル基)が挙げられる。
【0024】
オルガノポリシロキサンA中におけるアルケニル基の位置は特に制限されないが、オルガノポリシロキサンAが直鎖状の場合、アルケニル基は下記に示すM単位およびD単位のいずれかに存在してもよく、M単位とD単位の両方に存在していてもよい。硬化速度の点から、少なくともM単位に存在していることが好ましく、2個のM単位の両方に存在していることが好ましい。
なお、M単位およびD単位とは、オルガノポリシロキサンの基本構成単位の例であり、M単位とは有機基が3つ結合した1官能性のシロキサン単位、D単位とは有機基が2つ結合した2官能性のシロキサン単位である。シロキサン単位において、シロキサン結合は2個のケイ素原子が1個の酸素原子を介して結合した結合であることより、シロキサン結合におけるケイ素原子1個当たりの酸素原子は1/2個とみなし、式中O1/2と表現される。
【0025】
【化1】
【0026】
オルガノポリシロキサンA中におけるアルケニル基の数は特に制限されないが、1分子中に1〜3個が好ましく、2個がより好ましい。
オルガノポリシロキサンB中におけるハイドロシリル基の位置は特に制限されないが、オルガノポリシロキサンAが直鎖状の場合、ハイドロシリル基はM単位およびD単位のいずれかに存在してもよく、M単位とD単位の両方に存在していてもよい。硬化速度の点から、少なくともD単位に存在していることが好ましい。
オルガノポリシロキサンB中におけるハイドロシリル基の数は特に制限されないが、1分子中に少なくとも2個有することが好ましく、3個がより好ましい。
【0027】
オルガノポリシロキサンAとオルガノポリシロキサンBとの混合比率は特に制限されないが、オルガノポリシロキサンB中のケイ素原子に結合した水素原子と、オルガノポリシロキサンA中の全アルケニル基のモル比(水素原子/アルケニル基)が0.7〜1.05となるように調整することが好ましい。なかでも、0.8〜1.0となるように混合比率を調整することが好ましい。
【0028】
ヒドロシリル化触媒としては、白金族金属系触媒を用いることが好ましい。白金族金属系触媒としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系などの触媒が挙げられ、特に白金系触媒として用いることが経済性、反応性の点から好ましい。白金族金属系触媒としては、公知のものを用いることができる。具体的には、白金微粉末、白金黒、塩化第一白金酸、塩化第二白金酸などの塩化白金酸、四塩化白金、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物、あるいは白金のオレフィン錯体、アルケニルシロキサン錯体、カルボニル錯体などがあげられる。
ヒドロシリル化触媒の使用量としては、オルガノポリシロキサンAとオルガノポリシロキサンBとの合計質量100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0029】
架橋性オルガノポリシロキサンの数平均分子量は特に制限されないが、取扱い性に優れると共に、成膜性にも優れ、高温処理条件下におけるシリコーン樹脂の分解がより抑制される点で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定による、ポリスチレン換算の重量平均分子量は1,000〜5,000,000が好ましく、2,000〜3,000,000がより好ましい。
架橋性オルガノポリシロキサンの粘度は10〜5000mPa・sが好ましく、15〜3000mPa・sがより好ましい。
【0030】
また、架橋性オルガノポリシロキサンの具体的に市販されている商品名または型番としては、芳香族基を有さない架橋性オルガノポリシロキサンとして、KNS−320A、KS−847(いずれも信越シリコーン社製)、TPR6700(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、ビニルシリコーン「8500」(荒川化学工業社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11364」(荒川化学工業社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11365」(荒川化学工業社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業社製)との組み合わせなどが挙げられる。
【0031】
樹脂層の形成方法は特に制限されず、公知の方法が採用される。
例えば、シリコーン樹脂層を形成する場合は、架橋性オルガノポリシロキサンを含む層をガラス基板の表面に形成し、ガラス基板表面上で架橋性オルガノポリシロキサンを架橋させてシリコーン樹脂層を形成する。
ガラス基板上に架橋性オルガノポリシロキサンを含む層を形成するためには、架橋性オルガノポリシロキサンを溶媒に溶解させた樹脂組成物を使用し、この組成物をガラス基板上に塗布して溶液の層を形成し、次いで溶媒を除去して架橋性オルガノポリシロキサンを含む層とすることが好ましい。組成物中における架橋性オルガノポリシロキサンの濃度の調整などにより、架橋性オルガノポリシロキサンを含む層の厚さを制御することができる。
溶媒としては、作業環境下で架橋性オルガノポリシロキサンを容易に溶解でき、かつ、容易に揮発除去させることのできる溶媒であれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、酢酸ブチル、ヘプタン、2−ヘプタノン、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート、トルエン、キシレン、THF、クロロホルム等を例示することができる。
【0032】
ガラス基板表面上に架橋性オルガノポリシロキサンを含む組成物を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。例えば、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法などが挙げられる。
その後、必要に応じて、溶媒を除去するための乾燥処理が実施されてもよい。乾燥処理の方法は特に制限されないが、例えば、減圧条件下で溶媒を除去する方法や、架橋性オルガノポリシロキサンの硬化が進行しないような温度で加熱する方法などが挙げられる。
【0033】
次いで、ガラス基板上の架橋性オルガノポリシロキサンを架橋させて、シリコーン樹脂層を形成する。硬化(架橋)の方法は、上述したように、架橋性オルガノポリシロキサンの架橋形式に応じて適宜最適な方法が選択され、例えば、加熱処理や露光処理が挙げられる。なかでも、架橋性オルガノポリシロキサンがヒドロシリル化反応、縮合反応、ラジカル反応により架橋する場合、熱硬化によりシリコーン樹脂層を製造することが好ましい。
以下、熱硬化の態様について詳述する。
【0034】
架橋性オルガノポリシロキサンを熱硬化させる温度条件は、シリコーン樹脂層の耐熱性を向上し、150〜300℃が好ましく、180〜250℃がより好ましい。また、加熱時間は、通常、10〜120分が好ましく、30〜60分がより好ましい。
【0035】
なお、架橋性オルガノポリシロキサンはプレキュア(予備硬化)を行った後、後硬化(本硬化)を行って硬化させてもよい。プレキュアを行うことにより、耐熱性により優れたシリコーン樹脂層を得ることができる。プレキュアは溶媒の除去に引き続き行うことが好ましく、その場合、層から溶媒を除去して架橋性オルガノポリシロキサンを含む層を形成する工程とプレキュアを行う工程とは特に区別されない。
【0036】
<除去工程>
本発明の樹脂層の除去方法は、アルカリ濃度が15質量%以上で、後述する式(1)で表される化合物を3質量%以上含有するアルカリ水溶液と、上記樹脂層とを接触させ、樹脂層を除去する工程を有する。本工程を実施することにより、樹脂層を加熱することなく、容易に除去することができる。
以下では、まず、本工程で使用されるアルカリ水溶液について詳述する。
【0037】
(アルカリ水溶液)
アルカリ水溶液のアルカリ濃度は15質量%以上であり、樹脂層の除去性がより優れる点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)で、18質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、効果が飽和する点で、40質量%以下が好ましい。
アルカリ濃度が15質量%未満の場合、樹脂層の除去性に劣る。
なお、アルカリ濃度は、アルカリ成分のアルカリ水溶液全質量に対する質量割合(質量%)を意図する。
アルカリ成分としては、公知のアルカリ成分を使用することができ、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸3カリウム、リン酸2カリウム、硼酸ナトリウム、硼酸カリウム、4硼酸ナトリウム(硼酸)、4硼酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属化合物が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましい。
【0038】
アルカリ水溶液には、以下の式(1)で表される化合物(グリコールエーテル)が含まれる。
式(1) RO−(LO)−H
式(1)中、Rはアルキル基を表す。アルキル基中の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。アルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。
Lは、アルキレン基を表す。アルキレン基中の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。より具体的には、エチレン基(−CH−CH−)、トリメチレン基(−CH−CH−CH−)、プロピレン基(−CH(CH)−CH−)が好ましい。
nは1以上の整数を表す。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
【0039】
式(1)で表される化合物のアルカリ水溶液全質量に対する含有量は3質量%以上であり、本発明の効果がより優れる点で、4質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、効果が飽和する点で、20質量%以下が好ましい。
上記含有量が3質量%未満の場合、樹脂層の除去性に劣る。
【0040】
アルカリ水溶液には、通常、水が溶媒として含まれる。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、有機溶媒やその他添加剤がアルカリ水溶液に含まれていてもよい。
【0041】
(工程の手順)
本工程では、アルカリ水溶液と上記樹脂層とを接触させ、樹脂層を除去する。
アルカリ水溶液と樹脂層との接触方法は特に制限されず、例えば、樹脂層を含む複合体をアルカリ水溶液に浸漬する方法や、樹脂層上にアルカリ水溶液を塗布する方法が挙げられる。
アルカリ水溶液と樹脂層との接触時間は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、0.6時間以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、生産性の点で、30時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。
樹脂層と接触時のアルカリ水溶液の温度は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点と、水溶液の安定性の点から、5〜50℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。
なお、アルカリ水溶液と樹脂層とを接触後、必要に応じて、樹脂層を水で洗浄除去してもよい。
【0042】
また、必要に応じて、樹脂層を除去したガラス基板の表面には、研磨処理を施してもよい。研磨処理の方法としては、公知の方法を実施できる。
【0043】
上記工程を実施することにより、ガラス基板上に配置された樹脂層を除去することができ、ガラス基板を製造することができる。
得られたガラス基板上には、再度樹脂層を形成してもよいし、ガラス基板として使用してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明を、より詳細に説明する。
【0045】
<複合体の製造>
両末端にビニル基を有する直鎖状オルガノアルケニルポリシロキサン(ビニルシリコーン、荒川化学工業社製、ASA−V01)と、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(荒川化学工業社製、ASA−X01)と、白金系触媒(荒川化学工業社製、ASA−C01)と、IPソルベント2028(出光興産社製)の混合液を、ガラス基板(縦240mm、横240mm、板厚0.5mm、線膨張係数38×10-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)上にダイコートにて塗工し、未硬化の硬化性シリコーンを含む層をガラス基板上に設けた。ここで、直鎖状オルガノアルケニルポリシロキサンと、メチルハイドロジェンポリシロキサンとの混合比は、ビニル基とハイドロシリル基とのモル比が1:1になるように調節した。また、白金系触媒は、直鎖状オルガノアルケニルポリシロキサンと、メチルハイドロジェンポリシロキサンとの合計100質量部に対して、4質量部とした。また、IPソルベント2028は溶液固形分濃度が40重量%となるように調節した。
次に、これを250℃にて20分間大気中で加熱乾燥硬化して、厚さ8μmのシリコーン樹脂層をガラス基板上に得た。
【0046】
<実施例1>
水酸化カリウム(KOH)およびプロピレングリコールモノエチルエーテルを含み、KOH濃度(アルカリ水溶液全質量に対するKOHの濃度)が20質量%で、プロピレングリコールモノエチルエーテル濃度(アルカリ水溶液全質量に対するプロピレングリコールモノエチルエーテルの濃度)が5質量%であるアルカリ水溶液を調製した。
得られたアルカリ水溶液(25℃)中に上記シリコーン樹脂層が配置されたガラス基板を40分浸漬した。浸漬後、ガラス基板を取り出すと、シリコーン樹脂層が除去された。
【0047】
<実施例2>
浸漬時間を40分から60分に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従ったところ、シリコーン樹脂層がガラス基板から除去された。
【0048】
<実施例3>
浸漬時間を40分から17時間に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従ったところ、シリコーン樹脂層がガラス基板から除去された。
【0049】
<実施例4>
水酸化カリウム(KOH)およびジプロピレングリコールモノメチルエーテルを含み、KOH濃度(アルカリ水溶液全質量に対するKOHの濃度)が20質量%で、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル濃度(アルカリ水溶液全質量に対するジプロピレングリコールモノメチルエーテルの濃度)が5質量%であるアルカリ水溶液を調製した。
得られたアルカリ水溶液(25℃)中に上記シリコーン樹脂層が配置されたガラス基板を80分浸漬した。浸漬後、ガラス基板を取り出すと、シリコーン樹脂層が除去されていた。
【0050】
<実施例5>
浸漬時間を80分から4時間に変更した以外は、実施例4と同様の手順に従ったところ、シリコーン樹脂層がガラス基板から除去された。
【0051】
<比較例1>
アルカリ水溶液においてプロピレングリコールモノエチルエーテルを使用しなかった以外は、実施例1と同様の手順に従ったところ、シリコーン樹脂層を除去できなかった。
【0052】
<比較例2>
KOH濃度を20質量%から10質量%に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従ったところ、シリコーン樹脂層を除去できなかった。