(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス基板と、前記ガラス基板の表面に形成された1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する両性イオン化合物または平均分子量が200〜100万の分子内に複数のカチオン性基を有し実質的にアニオン性基を有しないカチオンポリマーからなる帯電防止膜と、を有することを特徴とする帯電防止膜付きガラス基板。
前記カチオンポリマーは、前記カチオン性基を主鎖に有する、平均分子量が1000〜100万の鎖状ポリマーである請求項1、4または5に記載の帯電防止膜付きガラス基板。
ガラス基板の表面に、1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する両性イオン化合物または平均分子量が200〜100万の分子内に複数のカチオン性基を有し実質的にアニオン性基を有しないカチオンポリマーを含有する溶液を接触させて塗膜を得、前記塗膜を乾燥させて、前記両性イオン化合物または前記カチオンポリマーからなる帯電防止膜を形成する工程を有することを特徴とする帯電防止膜付きガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、以下、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0014】
[帯電防止膜付きガラス基板]
図1は、本発明の実施形態の帯電防止膜付きガラス基板の一例の概略構成を示す断面図である。
図1に示される帯電防止膜付きガラス基板1は、ガラス基板2と、その表面に形成された帯電防止膜3で構成される。
【0015】
ここで用いられるガラス基板2は、その表面にガラスが露出したガラス基板であれば特に限定されずに挙げられる。特に、ガラス基板の表面が帯電していない状態に保たれることが求められる半導体製品の製造に関連して使用されるガラス基板、例えば、TFT回路基板用のガラス基板、光学多層膜基板等に適用されるのが好ましい。
【0016】
本実施形態に用いられるガラス基板は、その用途に応じて、材質および形状等が適宜選択される。ガラス基板の材質としては、通常のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリボロシリケートガラス、石英ガラス等が挙げられる。ガラス基板としては、紫外線や赤外線を吸収するガラスや強化ガラスからなるガラス基板を用いることも可能である。
【0017】
ガラス基板の形状としては平板であってもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。ガラス基板の厚さは、得られる帯電防止膜付きガラス基板の用途により適宜選択できる。一般的には、0.3〜3.0mmであることが好ましい。また、ガラス基板は、複数枚のガラス板が中間膜を挟んで接着された合わせガラスであってもよい。
【0018】
図1に示される帯電防止膜付きガラス基板1において、帯電防止膜3はガラス基板1の一方の主面の全領域に形成されている。本実施形態の帯電防止膜付きガラス基板においては、帯電防止膜は、ガラス基板の一方または両方の主面の全領域に配設されてもよい。必要に応じて、端面を含むガラス基板の表面が全て覆われるように帯電防止膜が形成されていてもよい。
【0019】
本実施形態に用いられる帯電防止膜3は、ガラス基板2の表面に設けられた単層構造の膜である。ここで、帯電防止膜3は、1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する両性イオン化合物(以下、両性イオン化合物(A)ともいう)または平均分子量が200〜100万の分子内に複数のカチオン性基を有し実質的にアニオン性基を有しないカチオンポリマー(以下、カチオンポリマー(B)ともいう)から構成される膜である。
【0020】
ガラス基板の表面には負電荷に帯電しやすいシラノール基(−Si−OH)が存在する。ガラス基板に上記両性イオン化合物(A)やカチオンポリマー(B)を接触させると、ガラス基板のシラノール基と両性イオン化合物(A)やカチオンポリマー(B)が有するカチオン性基が結合する。この際、両性イオン化合物(A)においてはアニオン性基がガラス基板の表面とは反対側である雰囲気中に向かって整列して単分子膜として帯電防止膜が形成される。また、カチオンポリマー(B)においては、シラノール基との結合に供さないカチオン性基がガラス基板の表面とは反対側である雰囲気中に向かって整列して帯電防止膜が形成される。
【0021】
図1に示す帯電防止膜3においては、帯電防止膜3が両性イオン化合物(A)からなる場合には、ガラス基板2と接する面である界面3aに上記シラノール基と結合したカチオン性基が存在しその反対側の面である帯電防止膜3の表面3bにアニオン性基が存在する。また、帯電防止膜3がカチオンポリマー(B)からなる場合には、ガラス基板2との界面3aに上記シラノール基と結合したカチオン性基が存在しその反対側である帯電防止膜3の表面3bにもカチオン性基が存在する。
【0022】
帯電防止膜3は、上記構造を有することで、その表面3bにおいて空気中の水分を強く吸着することが可能であり、該吸着された水の作用により静電気を逃がしやすい性質を有する。これにより、本発明の帯電防止膜付きガラス基板においては、たとえガラス基板が帯電しても速やかに減衰して、その表面の静電気量を低く保つことが可能となる。
【0023】
(両性イオン化合物(A))
帯電防止膜を構成する両性イオン化合物(A)は、1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する化合物であれば特に制限されない。また、帯電防止膜を構成する両性イオン化合物(A)は、1種または2種以上であってよい。
【0024】
カチオン性基は、水等の溶媒に溶解させたときにカチオンとなる基であり、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。このとき、アミノ基はアンモニア、1級アミン、2級アミンから水素を除去した1価の官能基であり、それぞれ1級アミン、2級アミン、3級アミンを形成する。また、4級アンモニウム基は4級アンモニウムカチオンを形成する。これらのなかでも、電離度、帯電防止性能の観点から1級アミン、4級アンモニウム基が好ましく、4級アンモニウム基が特に好ましい。
【0025】
アニオン性基は、水等の溶媒に溶解させたときにアニオンとなる基であり、例えば、カルボキシ基(−COOH)、スルホ基(−SO
3H)等が挙げられる。上記のとおり、両性イオン化合物(A)からなる帯電防止膜においては、その表面にアニオン性基が位置し、アニオン性基に水が吸着することで帯電防止性能を得ている。したがって、アニオン性基としては、水を吸着する能力の高い、すなわち電離度が大きい(pKaが小さい)基が好ましい。例示したアニオン性基のなかではスルホ基(−SO
3H)が好ましい。
【0026】
両性イオン化合物(A)が有するカチオン性基およびアニオン性基の数は、それぞれ1または2が好ましく、合計で3以下が好ましい。より好ましくは、両性イオン化合物(A)が1分子内に有するカチオン性基およびアニオン性基の数は各1個である。
【0027】
さらに、両性イオン化合物(A)は、直鎖状の分子構造を有し、分子鎖の両末端にそれぞれカチオン性基とアニオン性基を有する化合物が好ましい。両性イオン化合物(A)がこのような分子構造を有することで、該化合物により形成される帯電防止膜は、分子が同一方向に規則正しく緻密に整列した単分子膜となり得る。これにより帯電防止性能の高い膜が得られる。
【0028】
両性イオン化合物(A)の分子量は特に制限されない。帯電防止膜形成時における溶媒への溶解性が良好である、分子が同一方向に規則正しく整列しやすい等の観点から、分子量は概ね70〜200の範囲にあることが好ましい。また、上記分子量の範囲とすることで、必要に応じて、帯電防止膜付きガラス基板から帯電防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の方法として、具体的には、pH4以下の酸性溶液等に浸漬して洗浄する、洗剤でスクラブ洗浄する等の方法が挙げられる。
【0029】
両性イオン化合物(A)として具体的には、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、リシン、クレアチン、カルニチン、ベタイン(トリメチルグリシン)、タウリン、β−アラニン等が挙げられる。これらの両性イオン化合物(A)の構造式を表1に示す。
【0031】
これらのなかでも、直鎖状であり、カチオン性基とアニオン性基を各1個ずつ有し、分子鎖の両末端にそれぞれカチオン性基とアニオン性基を有する化合物として、カルニチン、ベタイン、タウリン、β−アラニン等が好ましい化合物として挙げられる。
【0032】
帯電防止膜が両性イオン化合物(A)で構成される場合、その膜厚は単分子膜の膜厚であり、両末端にカチオン性基とアニオン性基を有する直鎖状化合物の場合には、分子長が膜厚と略等しくなる。具体的には、両性イオン化合物(A)からなる帯電防止膜の膜厚は、概ね0.6〜1.0nmである。
【0033】
(カチオンポリマー(B))
帯電防止膜を構成するカチオンポリマー(B)は、平均分子量が200〜100万の分子内に複数のカチオン性基を有し実質的にアニオン性基を有しないカチオンポリマーである。なお、本明細書において平均分子量は、特に断りのない限りゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)を意味する。
【0034】
カチオンポリマー(B)におけるカチオン性基として、具体的には、アミノ基、4級アンモニウム基等が挙げられる。カチオンポリマー(B)は、実質的にアニオン性基を有しない。カチオンポリマー(B)が、実質的にアニオン性基を有しないとは、例えば、原料化合物や重合開始剤等に含まれるアニオン性基が若干残留している程度の量を除いて、アニオン性基を含有しないことをいう。
【0035】
カチオンポリマー(B)が有するカチオン性基の数は、例えば、
図1に示す帯電防止膜3において、ガラス基板2との界面3aに上記シラノール基と結合したカチオン性基が存在しその反対側である帯電防止膜3の表面3bにもカチオン性基が存在する構造が取れる数であればよい。カチオンポリマー(B)が有するカチオン性基の数は通常、分子量1000あたりの平均のカチオン性基の個数で示される。
【0036】
以下、カチオンポリマー(B)が分子量1000あたりに有する平均のカチオン性基の個数を「カチオン性基密度」といい、単位を[eq/MW1000]で示す。カチオンポリマー(B)におけるカチオン性基密度は、具体的には、3〜25[eq/MW1000]が好ましい。
【0037】
カチオンポリマー(B)としては、三次元ネットワーク構造を有する網状ポリマー(B1)であってもよく、鎖状ポリマー(B2)であってもよい。なお、鎖状ポリマー(B2)は側鎖を有してもよい。カチオンポリマー(B)の好ましい平均分子量およびカチオン性基の数については、カチオンポリマー(B)の分子構造によるところが大きい。以下、網状ポリマー(B1)および鎖状ポリマー(B2)の分類にしたがって、カチオンポリマー(B)を説明する。
【0038】
カチオンポリマー(B)が網状ポリマー(B1)である場合、通常、カチオン性基は網状ポリマー(B1)の表面および内部に存在する。ここで、例えば、
図1に示す帯電防止膜3においてガラス基板2との界面3aおよびその反対側の面である表面3bに存在するカチオン性基はいずれも、網状ポリマー(B1)が表面に有するカチオン性基と考えられる。したがって、網状ポリマー(B1)を用いる場合には、カチオン性基密度が比較的大きい、具体的には、10〜25[eq/MW1000]の網状ポリマー(B1)が好ましく、15〜25[eq/MW1000]がより好ましい。なお、カチオンポリマー(B)が網状ポリマー(B1)である場合、帯電防止膜を構成する網状ポリマー(B1)は、その1種または2種以上であってよい。
【0039】
また、網状ポリマー(B1)の平均分子量は、200〜10万が好ましく、300〜1万がより好ましい。網状ポリマー(B1)においては、カチオン性基密度が同じ場合、平均分子量が小さい方が、1分子あたりの比表面積が大きくなり、内部に存在するカチオン性基の数に対する表面に存在するカチオン性基の数の割合が高くなることから、平均分子量は上記範囲が好ましい。すなわち、網状ポリマー(B1)においては、カチオン性基密度が同じ場合、平均分子量が小さい方が、得られる帯電防止膜は帯電防止性能に優れるといえる。なお、網状ポリマー(B1)においては、平均分子量を5万以下とすることで、必要に応じて、帯電防止膜付きガラス基板から帯電防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の具体的な方法は、上記両性イオン化合物(A)の場合と同様にできる。
【0040】
なお、網状ポリマー(B1)においては、平均分子量を上記範囲とすることで、必要に応じて、帯電防止膜付きガラス基板から帯電防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の具体的な方法は、上記両性イオン化合物(A)の場合と同様にできる。
【0041】
網状ポリマー(B1)として、具体的には、1,2,3級アミンを含むポリエチレンイミン等が挙げられる。ポリエチレンイミンとしては、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、いずれも日本触媒社製の商品名として、エポミンSP−003(平均分子量;約300、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000])、エポミンSP−006(平均分子量;約600、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000])等が挙げられる。
【0042】
帯電防止膜が網状ポリマー(B1)で構成される場合、その膜厚は分子径と略同等と考えられる。具体的には、網状ポリマー(B1)からなる帯電防止膜の膜厚は、概ね0.5〜2.5nmである。
【0043】
カチオンポリマー(B)が鎖状ポリマー(B2)である場合、カチオン性基は主鎖に存在する場合と側鎖に存在する場合がある。いずれの場合も、鎖状ポリマー(B2)は、カチオン性基の一部が帯電防止膜3のガラス基板2との界面3aに存在し、カチオン性基の別の一部が帯電防止膜3の表面3bに存在するように主鎖が折りたたまって帯電防止膜3を構成する。
【0044】
鎖状ポリマー(B2)において側鎖にカチオン性基を有する場合、カチオン性基が存在する位置について主鎖にカチオン性基を有する場合に比べて自由度が高く、帯電防止膜3の表面3bにあるカチオン性基が内部に隠れてしまう場合がある。側鎖のカチオン性基の位置を制御することは困難であることから、鎖状ポリマー(B2)はカチオン性基を主鎖に有することが好ましい。カチオン性基を主鎖に有する鎖状ポリマー(B2)は、カチオン性基を有しない側鎖を有してもよい。なお、カチオンポリマー(B)が鎖状ポリマー(B2)である場合、帯電防止膜を構成する鎖状ポリマー(B2)は、その1種または2種以上であってよい。さらに、鎖状ポリマー(B2)の1種以上と網状ポリマー(B1)の1種以上を組み合せて帯電防止膜を構成してもよい。
【0045】
鎖状ポリマー(B2)を用いる場合、その平均分子量は1000〜100万が好ましく、1万〜10万がより好ましい。また、鎖状ポリマー(B2)を用いる場合、カチオン性基密度は、3〜25[eq/MW1000]が好ましく、5〜20[eq/MW1000]がより好ましい。なお、鎖状ポリマー(B2)においても、上記網状ポリマー(B1)と同様、平均分子量を5万以下とすることで、必要に応じて、帯電防止膜付きガラス基板から帯電防止膜を除去して使用する場合には、除去も容易に行える。除去の具体的な方法は、上記両性イオン化合物(A)の場合と同様にできる。
【0046】
鎖状ポリマー(B2)として具体的には、主鎖にカチオン性基を有する鎖状ポリマー(B2)については、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルアミン、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体塩、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン縮合体塩、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合体塩、ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン縮合体塩等が挙げられる。
【0047】
また、側鎖にカチオン性基を有する鎖状ポリマー(B2)として具体的には、ポリ(ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、トリメチルアンモニウムアルキルアクリルアミド重合体塩、ポリアリルアミン、ポリビニルアミジン等が挙げられる。
【0048】
これら鎖状ポリマー(B2)としては市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、PDAC(商品名FPA100L、センカ社製、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、平均分子量;2万、カチオン性基密度;6.2[eq/MW1000])、DE(商品名KHE104L、センカ社製、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体塩、平均分子量;10万、カチオン性基密度;7.3[eq/MW1000])、DNE(商品名KHE100L、センカ社製、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン縮合体塩、平均分子量;10万、カチオン性基密度;8.1[eq/MW1000])、PQEM((商品名FPV1000L、センカ社製、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)、平均分子量;不明、カチオン性基密度;3.7[eq/MW1000])等が挙げられる。
【0049】
帯電防止膜が鎖状ポリマー(B2)で構成される場合、上記のとおりカチオン性基の一部がガラス基板との界面に存在し、カチオン性基の別の一部が帯電防止膜の表面に存在するように分子の主鎖が折りたたまって帯電防止膜を構成することから、その膜厚は、分子鎖長とカチオン性基密度等に分子設計により適宜調整できる。
【0050】
このような本発明の実施形態の帯電防止膜付きガラス基板は、例えば、以下に示す本発明の製造方法のように、ガラス基板上への帯電防止膜の形成を簡易な装置により簡便な操作で行うことが可能である。また、本発明の実施形態の帯電防止膜付きガラス基板においては、帯電防止膜が比較的安定でありかつ十分な帯電防止機能を有する。また、必要に応じて、帯電防止膜の除去が求められる用途においては、そのような設計変更が容易にできる。
【0051】
[帯電防止膜付きガラス基板の製造方法]
本発明の帯電防止膜付きガラス基板の製造方法について、以下に説明する。
本発明の実施形態において帯電防止膜付きガラス基板の製造方法は、ガラス基板の表面に、1分子内にカチオン性基およびアニオン性基を有する両性イオン化合物(両性イオン化合物(A))または平均分子量が200〜100万の分子内に複数のカチオン性基を有し実質的にアニオン性基を有しないカチオンポリマー(カチオンポリマー(B))を含有する溶液を接触させて塗膜を得、前記塗膜を乾燥させて、前記両性イオン化合物または前記カチオンポリマーからなる帯電防止膜を形成する工程を有する。
【0052】
上記製造方法において、両性イオン化合物(A)またはカチオンポリマー(B)の溶液は、両性イオン化合物(A)またはカチオンポリマー(B)を溶質として、これらを溶解可能な溶媒を用いて作製される。該溶媒としては、両性イオン化合物(A)またはカチオンポリマー(B)を溶解しこれらおよびガラス基板と反応しないものであれば特に制限されない。上記溶媒として、具体的には、水、エタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶剤の1種または2種以上が挙げられる。これらのなかでも、水またはエタノール等の水溶性有機溶剤と水との混合物が好ましい。
【0053】
上記溶液における、両性イオン化合物(A)の含有量は、溶液1L中のモル濃度として、0.01mmol/L〜100mmol/Lの範囲となるように調整することが好ましい。ガラス基板表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするため、上記両性イオン化合物(A)の含有量は、0.1〜10mmol/Lがより好ましい。
【0054】
上記溶液における、カチオンポリマー(B)の含有量は、カチオン性基の濃度(当量)として、0.01meq/L〜100meq/Lの範囲となるように調整することが好ましい。ガラス基板の表面を適度に覆いながら過剰とならないようにするために、上記カチオンポリマー(B)のカチオン性基の濃度(当量)は、0.1meq/L〜10meq/Lがより好ましい。なお、溶液1L中にカチオン性基を1mol有する場合に、その濃度を1当量とし、1eq/Lと表す。
【0055】
上記溶液のpHについては、酸性〜アルカリ性、例えば、pH3〜12程度の範囲で適宜調整が可能である。ガラス基板表面のシラノール基の電離を促進しマイナス帯電させることで静電的な結合力をより強固にしつつ、両性イオン化合物(A)またはカチオンポリマー(B)の付着量を増加できる点で、溶液のpHは6〜12が好ましく、10〜11がより好ましい。
【0056】
溶液のpH調整は、酸またはアルカリを用いて行う。設備の腐食がされにくい、洗浄後の残留が少ない等の点からアンモニア、硫酸等が好ましい。
【0057】
次いで、上記のようにして調製された溶液を、帯電防止膜を形成するガラス基板の表面に接触させて塗布する。塗布方法としては、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、スキージコート、スポンジ等による塗布等の公知の膜形成方法に使用される塗布方法が挙げられる。
【0058】
上記塗布の操作において、上記調製された溶液をガラス基板の表面に接触させるだけで、該溶液中に含まれる両性イオン化合物(A)のカチオン性基またはカチオンポリマー(B)のカチオン性基の一部がガラス基板の表面側に、両性イオン化合物(A)のアニオン性基またはカチオンポリマーのガラス基板側に向いていないカチオン性基がその反対側である雰囲気中に向かって整列して、溶媒を含む塗膜となる。これは、ガラス基板の表面に存在するシラノール基(−Si−OH)が負電荷に帯電しやすいため、接触させるだけで正電荷を帯びている両性イオン化合物(A)のカチオン性基またはカチオンポリマー(B)のカチオン性基の一部がガラス基板の表面側に静電的にひきつけられるためである。
【0059】
上記塗布操作により得られる塗膜は、溶媒を含む上記溶液の層である。上記塗布操作の後、上記のようにガラス基板の表面に両性イオン化合物(A)またはカチオンポリマー(B)を整列させた状態で、乾燥により塗膜中の溶媒を除去することで、均質な帯電防止膜を容易に形成できる。
【0060】
乾燥の方法としては、溶媒除去に通常用いられる、加熱やエアブロー等の乾燥方法が特に制限なく適用できる。加熱乾燥を行う場合には、50〜80℃に加熱することが好ましく、エアブローでは15〜30℃のエアーを吹き付けることが好ましい。
【0061】
なお、上記溶液を用いたガラス基板上への塗膜の形成と、乾燥の間に、塗膜を水洗する操作を加えることが好ましい。水洗の方法としては、水浴に浸漬する、シャワーにより水洗する等、通常、ガラス基板を水洗する方法が特に制限なく適用可能である。水洗により余分な薬剤が除去され、乾燥後に得られる帯電防止膜が透明になり欠点検査機で異常が出なくなる。
【0062】
一般に、ガラス基板の製造においては、最終工程として水洗および必要に応じて乾燥する操作を数回繰り返すことがよく行われる。このようなガラス基板の製造において、上記水洗と任意の乾燥の工程の1回、好ましくは最後の水洗工程以外の1回を、上記両性イオン化合物(A)またはカチオンポリマー(B)の溶液の塗布、乾燥に置き換えることで、帯電防止膜付きガラス基板の製造が可能である。この方法によれば、通常の製造ラインを用いて帯電防止膜付きガラス基板の製造が可能であり、経済的に非常に有利である。なお、本発明の帯電防止膜付きガラス基板においては、水洗により除去されることはない。
【0063】
このように本発明の製造方法によれば、ガラス基板の表面に帯電防止膜を形成する際の、溶液の塗布、乾燥は、簡易な装置により簡便な操作で達成でき、さらに、排水規制に抵触することもなく、環境負荷を増大させることのなく行うことができる。
【0064】
以上、本発明の帯電防止膜付きガラス基板および帯電防止膜付きガラス基板の製造方法の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、その構成を適宜変更できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。
[各種溶液の調製]
<帯電防止膜形成用の溶液1〜3>
両性イオン化合物(A)であるタウリンが1mmol/Lおよびアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、帯電防止膜形成用の溶液1を調製した。この溶液1のpHは約10.5である。
同様にして、溶液1におけるタウリンを共に両性イオン化合物(A)であるベタインおよびカルニチンにそれぞれ変更した以外は上記同様にして帯電防止膜形成用の溶液2および溶液3を調製した。この溶液2および溶液3のpHは約10.5である。
【0066】
<帯電防止膜形成用の溶液4>
カチオンポリマー(B)として網状ポリマー(B1)であるポリエチレンイミン(日本触媒社製エポミンSP−003(平均分子量約300、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000])、以下「PEI−300」と示す。)が1meq/Lの濃度になるように純水に溶解して、帯電防止膜形成用の溶液を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0067】
<帯電防止膜形成用の溶液5>
カチオンポリマー(B)として網状ポリマー(B1)であるポリエチレンイミン(PEI;日本触媒社製エポミンSP−006(平均分子量約600)、カチオン性基密度;23.2[eq/MW1000]、以下「PEI−600」と示す。)が1meq/Lの濃度になるように純水に溶解して、帯電防止膜形成用の溶液5を調製した。この溶液のpHは約10.5である。
【0068】
<帯電防止膜形成用の溶液6>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B2)であるジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合体塩(DE;商品名KHE104L、センカ社製、平均分子量;10万、カチオン性基密度;7.3[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、密着防止膜形成用の溶液6を調製した。この溶液6のpHは約10.5である。
【0069】
<帯電防止膜形成用の溶液7>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B2)であるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDACまたはPDADMAC;商品名FPA100L、センカ社製、平均分子量2万、カチオン性基密度;6.2[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、帯電防止膜形成用の溶液7を調製した。この溶液7のpHは約10.5である。
【0070】
<帯電防止膜形成用の溶液8>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B2)であるポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩)(PQEM;商品名FPV1000L、センカ社製、平均分子量;不明、、カチオン性基密度;3.7[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、帯電防止膜形成用の溶液を8調製した。この溶液8のpHは約10.5である。
【0071】
<帯電防止膜形成用の溶液9>
カチオンポリマー(B)として鎖状ポリマー(B2)であるジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン縮合体塩(DNE;商品名KHE100L、センカ社製、平均分子量;10万以下、カチオン性基密度;8.1[eq/MW1000])が1meq/L及びアンモニアが10mmol/Lの濃度となるように、各成分を純水に溶解して、帯電防止膜形成用の溶液を9調製した。この溶液9のpHは約10.5である。
【0072】
(実施例1)
表面研磨をした、470mm×370mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス基板の一方の主面の全領域に、上記で得られた帯電防止膜形成用の溶液1の100mLをスポンジにより塗布し塗膜を形成した。該塗布後、20〜30秒放置した塗膜付きガラス基板をシャワーすることで水洗した後、塗膜をエアブロー(室温)で水滴を吹き飛ばすことで乾燥させて、ガラス基板の一方の主面上に帯電防止膜を形成し、帯電防止膜付きガラス基板1とした。
【0073】
(実施例2〜9)
帯電防止膜形成用の溶液1に代えて上記で得られた帯電防止膜形成用の溶液2〜9を用いた以外は、上記と同様にして、ガラス基板の一方の主面上に帯電防止膜を有する帯電防止膜付きガラス基板2〜9を作製した。
【0074】
(比較例1)
表面研磨をした、470mm×370mm×厚さ0.7mmの無アルカリボロシリケートガラス製のガラス基板を、純水で洗浄した。このガラス基板は、表面が研磨後の状態であり、帯電防止膜等は設けられていない。
【0075】
[剥離帯電試験]
上記実施例で得られた帯電防止膜付きガラス基板1〜9および比較例1の帯電防止膜を有しないガラス基板について、以下のようにして剥離帯電試験を行い、帯電防止性能を評価した。
【0076】
(試験方法)
ステージ上に載置された検体を吸引可能な、ステージ中に均等に配置された16個の真空吸着孔と、上記検体をステージから水平に持ち上げ可能な、ステージ中に均等に配置された9個のリフトピン(PEEK材)を有するアルミアルマイト製のステージ(1050mm×850mm)および、ステージ上に載置された検体のステージと反対側の表面の表面電位を測定可能な表面電位計を備えた帯電量測定試験機を用いて試験を行った。試験環境は、22℃、49RH%とした。
【0077】
まず、帯電量測定試験機のステージ上に、帯電防止膜付きガラス基板の帯電防止膜が接触するように、帯電防止膜付きガラス基板を載置する。
次に、真空吸着孔から帯電防止膜付きガラス基板を、吸着圧32〜44kPa(約0.3〜0.4気圧)で吸引する吸着を5秒間行い、その後3秒間解放する、吸着、解放操作を1サイクルとして、これを110サイクル行う。
【0078】
110サイクルが終了した直後に、リフトピンによりピン上昇速度83mm/秒で、帯電防止膜付きガラス基板をステージ上から5cmの位置まで持ち上げる。この帯電防止膜付きガラス基板を持ち上げる際の、帯電防止膜付きガラス基板のステージと反対側の表面、すなわちガラスが表出した側の表面の表面電位の変化を表面電位計により非接触で経時的に測定する。なお、表面電位測定中は測定面と表面電位計の距離は3cmに保持される。
【0079】
上記測定される表面電位の変化においてピークの帯電電圧[V]の絶対値を評価に用いた。この際の、帯電電圧[V]が正、負にかかわらず小さい値をとる帯電防止膜付きガラス基板が帯電防止性能に優れると評価できる。
【0080】
結果を、帯電防止膜を構成する化合物の特性と共に表2に示す。なお、化合物の分類における(A)は両性イオン化合物(A)を、(B1)はカチオンポリマー(B)のうち網状ポリマー(B1)を、(B2)はカチオンポリマー(B)のうち鎖状ポリマー(B2)をそれぞれ示す。また、結果を併せて
図2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
この結果から、実施例で得られた帯電防止膜付きガラス基板はいずれも、帯電防止機能を有することが分かる。なお、実施例のうちでは、実施例1〜3の両性イオン化合物(A)および実施例4、5の官能基密度の高い網状構造のカチオンポリマー(B
1)により形成された帯電防止膜による帯電防止効果が高いことが分かる。