(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
主軸方向に変化する第1濃淡パターンを有する第1光学式スケールと、前記第1光学式スケールの第1照明光を出力する第1光源と、前記第1照明光で前記第1光学式スケールを照明することにより生成された前記第1濃淡パターンの像を検出するように配置された第1受光センサと、を備え、前記第1受光センサは、前記主軸方向に順にセンサピッチで配列された第1から第4の主センサ部からなる第1センサ組を、前記主軸方向に所定組数繰り返し配列した第1センサ配列を有する第1光学系と、
前記主軸方向に変化する第2濃淡パターンを有する第2光学式スケールと、前記第2光学式スケールの第2照明光を出力する第2光源と、前記第2照明光で前記第2光学式スケールを照明することにより生成された前記第2濃淡パターンの像を検出するように配置された第2受光センサと、を備え、前記第2受光センサは、前記主軸方向に順に前記センサピッチで配列された第1から第4の副センサ部からなる第2センサ組を、前記主軸方向に所定組数繰り返し配列した第2センサ配列を有する第2光学系と、
前記第1光学系の前記第1受光センサの検出信号および前記第2光学系の前記第2受光センサの検出信号を演算処理する信号処理部と、を備え、
前記第1光学式スケールおよび前記第2光学式スケールは、前記第1光源、前記第1受光センサ、前記第2光源および前記第2受光センサに対して相対移動し、
前記第1光学式スケールの前記第1濃淡パターンは、濃い部分と淡い部分の幅が同じで、スケールピッチで濃淡を繰り返し、
前記第2光学式スケールの前記第2濃淡パターンは、濃い部分と淡い部分の幅が同じで、前記スケールピッチで濃淡を繰り返し、所定位置において、濃い部分または淡い部分の幅が前記スケールピッチの1/2を超えない範囲で広くなっており、
前記信号処理部は、
前記第1から第4の主センサ部の出力の少なくとも1つをデジタル信号に変換し、主位置データを出力する主位置データ生成部と、
前記第1から第4の副センサ部の出力の少なくとも1つをデジタル信号に変換し、副位置データを出力する副位置データ生成部と、
前記主位置データと前記副位置データの差データを演算する差演算部と、
前記差データの絶対値が所定値以上であるか判定し、判定値の変化から原点を検出する原点判定部と、を備えることを特徴とする光学式エンコーダ。
前記第1光学式スケールおよび前記第2光学式スケールは、共通のスケール基板上に隣接して、前記第1濃淡パターンおよび前記第2濃淡パターンが平行に、前記所定位置の一方の側では濃い部分と淡い部分の位置が一致し、他方の側では濃い部分と淡い部分がずれているように形成され、
前記第1光源、前記第1受光センサ、前記第2光源および前記第2受光センサは、共通のセンサ基板上に形成され、前記第1光源および前記第2光源は共通光源として形成され、前記第1受光センサおよび前記第2受光センサは、共通光源の両側に、前記第1センサ配列および前記第2センサ配列が平行に、前記第1から第4の主センサ部および前記第1から第4の副主センサ部の位置が一致するように形成され、
前記センサ基板は、前記スケール基板に対して、前記第1濃淡パターンで反射された前記共通光源からの照明光が前記第1受光センサに投影され、前記第2濃淡パターンで反射された前記共通光源からの照明光が前記第2受光センサに投影されるように配置される請求項1に記載の光学式エンコーダ。
【背景技術】
【0002】
被測定物の長さ、厚さ、内外径などの形状や、回転角度または移動量などの変位量を測定するのに、光学式エンコーダが広く使用され、その構成も広く知られている。光学式エンコーダには、光学式スケールを透過した光を検出する透過式と、光学式スケールで反射した光を検出する反射式と、があり、小型化のため反射式が多く使用される。以下、反射式のリニア光学式エンコーダを例として説明を行うが、本発明はこれに限定されるものではなく、光学式エンコーダであれば適用可能である。
【0003】
特許文献1および2に記載されるように、近年の反射式のリニア光学式エンコーダは、高精度化、小型化・薄型化および組立の容易化のために、半導体製造技術を適用して光源と受光センサを一体に形成したセンサ基板を使用する。センサ基板は、反射式の光学スケールに対して、光源からの照明光が光学スケールで反射し、光学スケールのパターンに応じた光パターンが受光センサ上に形成されるように配置される。反射式のリニア光学式エンコーダは、光学スケールとセンサ基板の相対的な移動量を測定する。
【0004】
各部の製造バラつきの影響を低減するため、受光センサは、第1から第4のセンサ部を有する。第1から第4のセンサ部は、同じ幅で、光学スケールの濃淡パターンの配列方向と同じ方向(以下、主軸方向)に順にセンサピッチで配列され、第1から第4のセンサ部を1セットとするセンサ組を、主軸方向に所定組(セット)数繰り返し配列される。したがって、第1のセンサ部は、4センサピッチで配列されることになり、他の第2から第4のセンサ部も、4センサピッチでそれぞれ配列される。セット数は、例えば13である。複数(例えば13)の第1のセンサ部の検出信号は加算されて+A信号とされる。同様に、複数の第2から第4のセンサ部の検出信号もそれぞれ加算されて+B、−A、−B信号とされる。複数のセンサ部の信号を加算することにより、センサ部の感度のバラツキ、照明光のムラ、組立誤差などの影響を低減できる。
【0005】
光学式エンコーダは、光学スケール上に周期的に形成した濃淡(反射強度が異なる)パターンを読み取ることで、光学スケールとセンサ基板の相対的な移動量を測定する。しかし、測定できるのは相対的な移動量のみであり、絶対位置を測定することはできない。
【0006】
光学式エンコーダで絶対位置を測定可能であると、相対位置のみの測定と比較して以下の点で有利である。
まず、何らかの外因によりミスカウントが発生した場合を考える。この場合、原点が存在しない、すなわち測定の基準点が存在しないため、ミスカウントを検出することが、機構上行えないことになる。そのため、ミスカウントが発生した以降の測定値すべてが誤った値となる危険性がある。
これに対して、原点を有する場合、原点を基準にすることでミスカウントを検出できるため、誤った値をその都度訂正することが可能になる。
【0007】
また、電源喪失などの外因により、測定途中でカウント値を失った場合を考える。原点が存在しない場合、光学式エンコーダのみで元の状態に復帰することは不可能である。これに対して、原点が存在する場合、原点位置の値をあらかじめ定めておき、原点まで退避することで、元の状態に復帰することができる。
以上のことは、実際の機械加工時の測定に光学式エンコーダを使用する場合に、非常に重要である。
【0008】
そこで、光学式エンコーダでは、相対位置検出のための光学スケールとは別に、原点検出機構を設けるのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、同一のスケール基板上に平行に形成した2つの光学スケールを有する原点検出機構を提案しているが、記載されている原点検出機構は、以下の点で十分とは言えない。
原点検出に用いる信号の振幅変化の勾配が小さいため、閾値との比較による原点検出を高精度で行うことが難しかった。また、光源の光量変動の影響を受け、原点位置をずれて検出する可能性があった。
【0011】
そのため、高精度で原点検出を行うには、相対位置検出のための光学スケールの信号処理部に加えて、原点検出機構の補正用の回路を設ける必要があり、サイズ・コストを増加させる。
さらに、4つのセンサ部の出力を合計したZ相信号を生成し、A相信号との組み合わせで原点信号を生成しており、往復の相対移動に伴ってずれが発生する。
【0012】
本発明は、2つの光学スケールを利用し、簡単な演算回路で高精度の原点検出が可能な光学式エンコーダの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光学式エンコーダは、平行に形成した2つの光学スケールの一方は、濃い部分と淡い部分の幅が同じで、スケールピッチで濃淡を繰り返した通常の濃淡パターンであるが、他方の光学スケールは、同様にスケールピッチで濃淡を繰り返すが、所定位置において、濃い部分または淡い部分の幅がスケールピッチの1/2を超えない範囲で広くなっている。言い換えれば、所定位置で、位相がシフトすることを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明の光学式エンコーダは、第1光学系と、第2光学系と、信号処理部と、を有する。第1光学系は、主軸方向に変化する第1濃淡パターンを有する第1光学式スケールと、第1光学式スケールの第1照明光を出力する第1光源と、第1照明光で第1光学式スケールを照明することにより生成された第1濃淡パターンの像を検出するように配置された第1受光センサと、を有し、第1受光センサは、主軸方向に順にセンサピッチで配列された第1から第4の主センサ部からなる第1センサ組を、主軸方向に所定組数繰り返し配列した第1センサ配列を有する。第2光学系は、主軸方向に変化する第2濃淡パターンを有する第2光学式スケールと、第2光学式スケールの第2照明光を出力する第2光源と、第2照明光で第2光学式スケールを照明することにより生成された第2濃淡パターンの像を検出するように配置された第2受光センサと、を有し、第2受光センサは、主軸方向に順にセンサピッチで配列された第1から第4の副センサ部からなる第2センサ組を、主軸方向に所定組数繰り返し配列した第2センサ配列を有する。信号処理部は、第1光学系の第1受光センサの検出信号および第2光学系の第2受光センサの検出信号を演算処理する。第1光学式スケールおよび第2光学式スケールは、第1光源、第1受光センサ、第2光源および第2受光センサに対して相対移動する。第1光学式スケールの第1濃淡パターンは、濃い部分と淡い部分の幅が同じで、スケールピッチで濃淡を繰り返す。第2光学式スケールの第2濃淡パターンは、濃い部分と淡い部分の幅が同じで、スケールピッチで濃淡を繰り返し、所定位置において、濃い部分または淡い部分の幅がスケールピッチの1/2を超えない範囲で広くなっている。信号処理部は、第1から第4の主センサ部の出力の少なくとも1つをデジタル信号に変換し、主位置データを出力する主位置データ生成部と、第1から第4の副センサ部の出力の少なくとも1つをデジタル信号に変換し、副位置データを出力する副位置データ生成部と、主位置データと副位置データの差データを演算する差演算部と、差データの絶対値が所定値以上であるか判定し、判定値の変化から原点を検出する原点判定部と、を有する。
【0015】
本発明の光学式エンコーダでは、第2光学式スケールの第2濃淡パターンが、所定位置において、濃い部分または淡い部分の幅がスケールピッチの1/2を超えない範囲で広くなっており、位相がシフトする。そのため、第2受光センサが所定位置の一方の側の第2濃淡パターンを検出している場合、主位置データと副位置データは同相の信号であるが、所定位置の他方の側の第2濃淡パターンを検出している場合、位相シフトした信号である。そのため、第1受光センサの検出信号から演算した移動位置と第2受光センサの検出信号から演算した位相差(移動位置差)は、所定位置の一方の側では同じであり、他方の側では位相シフトした信号であり、移動に伴い第1から第4の副センサ部が所定位置の部分を検出しはじめてから検出しなくなるまで位相差が徐々に変化する。したがって、位相差が所定値を超えているか否かを判定することにより、一方の側であるか他方の側であるかが判定でき、位相差が所定値を超えた時に、所定位置、すなわち原点を検出できる。第1から第4の主センサ部の検出信号により、位置は正確に検出できるので、原点検出は、いずれのスケールピッチであるかを判定できればよい。
【0016】
第1光学式スケールおよび第2光学式スケールは、共通のスケール基板上に隣接して、第1濃淡パターンおよび第2濃淡パターンが平行に、所定位置の一方の側では濃い部分と淡い部分の位置が一致するように形成されることが望ましい。また、第1光源、第1受光センサ、第2光源および第2受光センサは、共通のセンサ基板上に形成され、第1光源および第2光源は共通光源として形成され、第1受光センサおよび第2受光センサは、共通光源の両側に、第1センサ配列および第2センサ配列が平行に、第1から第4の主センサ部および第1から第4の副センサ部の位置が一致するように形成されることが望ましい。さらに、センサ基板は、スケール基板に対して、第1濃淡パターンで反射された共通光源からの照明光が第1受光センサに投影され、第2濃淡パターンで反射された共通光源からの照明光が第2受光センサに投影されるように配置されることが望ましい。
【0017】
これにより、センサ基板とスケール基板の位置調整が容易になり、小型化および薄型化が可能である。
【0018】
スケールピッチは、センサピッチの2倍であり、センサ基板は、スケール基板に対して、第1濃淡パターンおよび第2濃淡パターンが、センサピッチの4倍の濃淡パターンとして投影されるように配置される。
これにより、簡単な構成で、検出信号の振幅の増加および分解能の向上が図れる。
【0019】
一般的な光学式エンコーダと同様に、信号処理部は、第1主差演算回路および第2主差演算回路の出力から、センサピッチの4倍の長さを1周期とする周期長内の位相を算出する。したがって、原点検出は、いずれの周期長に原点があるか判定できればよい。そこで、信号処理部は、原点判定回路の比較回路の出力変化がいずれの周期長内で発生したかを検出し、移動方向を考慮して原点がいずれの周期長内にあるか判定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光学式エンコーダは、2つの光学スケールの一方を移動量検出に、他方を原点検出に利用し、移動量検出に使用される一般的な回路に、簡単な演算回路を付加するだけで、高精度に原点検出を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダの主要部を示す図である。
実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダは、2つの反射パターン2−1および2−2が形成されたスケール基板1と、光源11、格子12が形成された光透過部材13、および2個の受光素子14−1および14−2が形成され、透明な樹脂材16で被覆されたセンサ基板10と、を有する。一軸方向に相対的に移動する2つの部材の一方にスケール基板1を、他方にセンサ基板10を固定し、2つの部材の相対的な移動距離を測定する。ここでは、移動方向を主軸方向と称する。
【0023】
反射パターン2−1および2−2は、透明なガラス基板で形成され、センサ基板10に対向する面に形成されている。反射パターン2−1は、主軸方向にスケールピッチp2で形成された反射パターンであり、反射部分にはクロムが蒸着され、反射部分の間は光を透過するため、ピッチp2の反射パターンが形成される。反射パターン2−2については後述する。反射パターン2−1が主光学式スケールとして、反射パターン2−2が副光学式スケールとして機能する。
【0024】
光源11はLEDであり、格子12は格子ピッチp1を有する光学パターンである。受光素子14−1および14−2の表面には、
図2に示すようなパターンの受光部15−1および15−2がそれぞれ形成される。
光源11、反射パターン2−1および受光素子14−1が第1光学系を、光源11、反射パターン2−2および受光素子14−2が第2光学系を、それぞれ形成する。
【0025】
図2は、受光部15−1および15−2のパターンを示す図である。図示のように、同じ幅のセンサ部PS1〜PS4が、センサピッチspで主軸方向に順に形成され、繰り返し形成される。言い換えれば、センサ部PS1〜PS4を1組(セット)として、このセットが繰り返しピッチp3=4spで複数セット形成される。実施形態では、例えば13セット形成されるので、センサ部は合計52個である。センサ部PS1〜PS4は、例えばフォトダイオードで形成され、独立した受光素子として動作する。複数(ここでは13個)のセンサ部PS1の出力は共通に接続されて検出信号+Aとなる。以下同様に、複数のセンサ部PS2〜PS4の出力はそれぞれ共通に接続されて検出信号+B、−A、−Bとなる。
【0026】
パターンの受光部15−1および15−2は、光源11の中心を通る主軸方向の面に対して対称に形成される。
【0027】
図3は、スケール基板1とセンサ基板10の配置関係を示す図である。
図3に示すように、光源11からの光は、格子12を通過し、図において左側方向の光は、反射パターン2−1で反射され、受光部15−1に投影され、右側方向の光は、反射パターン2−2で反射され、受光部15−2に投影される。
【0028】
図1から
図3の構成、配置および投影されるパターンの詳細については、特許文献1に記載されているので、これ以上の説明は省略する。
【0029】
図4は、光源11からの光が反射パターン2で反射され受光部15に投影される経路を模式的に示す図である。
図4に示すように、反射パターン2は、スケールピッチp2(=20μm)の反射パターンであり、デューティは50%であるため、反射部分2Rの幅はp2/2(=10μm)である。実施形態では、反射部分2Rが幅p2(=20μm)のパターンとして受光部15に投影される。したがって、受光部15に投影されるパターンのピッチは2p2(=40μm)である。
【0030】
図5は、受光部15に投影される反射パターンを示す図である。
図5に示すように、受光部15では、4つのセンサ部PS1〜PS4がピッチp2/2(=10μm)で配列されている。この上に、投影される濃淡パターンは、ピッチ2p2(=40μm)の濃淡パターンであり、デューティは50%であるため、濃い部分4Aおよび淡い部分4Bの幅はp2(=20μm)である。
【0031】
図2に示したように、複数のセンサ部PS1〜PS4の出力はそれぞれ共通に接続されて、検出信号+A、+B、−A、−Bとなる。
【0032】
図6は、スケール基板1とセンサ基板10の相対的な位置関係(長さ)の変化に伴う検出信号+A、+B、−A、−Bの変化を示す図である。
図6に示すように、検出信号+A、+B、−A、−Bは、20μmを周期とする正弦波状の信号で、1/4位相(90°)ずつずれた信号である。言い換えれば、検出信号+Aと−Aは、1/2位相(180°)ずれた信号であり、検出信号+Bと−Bは、1/2位相(180°)ずれた信号である。
【0033】
図7は、光学式エンコーダで使用される検出信号の演算回路を示す図である。
演算回路は、検出信号+A、−A、+B、−Bをそれぞれ増幅する増幅回路31〜34と、増幅回路31と32の出力の差を演算してA相信号PHASEAを出力する第1差演算回路35と、増幅回路33と34の出力の差を演算してB相信号PHASEBを出力する第2差演算回路36と、を有する。
【0034】
図8は、スケール基板1とセンサ基板10の相対的な位置関係(長さ)の変化に伴うA相信号PHASEAとB相信号PHASEBの変化を示す図である。上記のように、検出信号+Aと−Aは、1/2位相(180°)ずれた信号であり、検出信号+Bと−Bは、1/2位相(180°)ずれた信号であるため、増幅率が1であっても、A相信号PHASEAおよびB相信号PHASEBは、検出信号+A、−A、+B、−Bの2倍の振幅の信号となる。また。A相信号PHASEAおよびB相信号PHASEBは、1/4位相(90°)ずれた信号である。
【0035】
したがって、A相信号PHASEAおよびB相信号PHASEBの値の比率を検出することにより、90°未満の位相も検出することができ、実際に使用されている光学式エンコーダでも、スケールピッチまたはセンサピッチの数十分の1の分解能で位置(長さ)を検出している。これは、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダでも同じである。
【0036】
以上説明した実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダの構成は、特許文献1に記載されており、広く知られている。
以下に説明する実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダは、反射パターン2−2および演算回路が、これまでと異なる。
【0037】
図9は、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダにおける反射パターン2−1および2−2を示す図である。
前述のように、反射パターン2−1は、主軸方向にスケールピッチp2=20μmで形成された反射パターンであり、反射部分Rと透過部分Tは同じ10μmの幅である。
【0038】
反射パターン2−2は、所定位置5の透過部分Tの幅が14μmに広がっており、所定位置5の左側の部分においては、反射パターン2−1と同じパターンを有し、右側の部分においては、反射パターン2−1の反射部分Rと透過部分Tを4μmシフトした反射パターンを有する。ここでは、所定位置5を原点とする。なお、ここでは所定位置5の透過部分Tの幅が14μmとしたが、20μmより小さければよく、反射部分Rの幅を変えてもよい。
【0039】
図10は、
図9に示す反射パターン2−1および2−2を有するスケール基板1に対して、センサ基板10を、主軸方向が一致するように
図3に示すように配置した場合の、受光部15−2に投影される反射パターンを示す図である。
【0040】
図10に示すように、受光部15−2では、4つのセンサ部PS1〜PS4がピッチp2/2(=10μm)で配列されている。この上に、投影される濃淡パターンは、所定位置以外では、ピッチ2p2(=40μm)の濃淡パターンであり、デューティは50%であるため、濃い部分(透過部分が投影された部分)4Aおよび淡い部分(反射部分が投影された部分)4Bの幅はp2(=20μm)である。所定位置の濃い部分(透過部分が投影された部分)4A’の幅は28μmである。
【0041】
前述のように、主および副センサ部は、10μmピッチで配列された+A、+B、−A、−Bを1セットとし、13セットが連続して配列されており、投影されるパターンは20μmピッチであり、センサの配列ピッチの2倍である。したがって、移動量をxμmとすると、n番目の1個の+Aセルの出力信号の強度は、+A
n=sin(2π(x/40))となる。13個の+Aのセルの出力信号を合わせて、+A信号としているが、13個のセルに投影される濃淡パターンは同じであり、13個の+Aのセルの出力信号を合わせた信号の強度は、
図6に示すように、+A=13sin(2π(x/40))となる。これは、他のセル+B、−A、−Bについても同様である。前述のように、これらの信号のすべてまたは一部から移動位置を演算する。
【0042】
図10に示す投影状況では、受光部15−2の左側の+A
1、+B
1、−A
1、−B
1から+A
7、+B
7、−A
7、−B
7には、主受光部15−1と同じパターンが投影されるが、右側の+A
8、+B
8、−A
8には28μm幅の広い濃い部分が投影され、−B
8、+A
9、+B
9、−A
9、−B
9から+A
13、+B
13、−A
13、−B
13には、8μmシフトしたパターンが投影されることになる。
【0043】
したがって、所定位置の左側の1個の+Aセルの出力信号の強度は、+A
n=sin(2π(x/40))に対して、右側の1個の+Aセルの出力信号の強度は、+A
n=sin(2π(x/40)−2π×8/40)=sin(2π(x/40−1/5))になる。受光部15−2の13セット分の信号は、これらの信号を合わせた信号である。例えば、8セット目に4μm幅だけの広い透過部が存在する場合には、+A=8sin(2π(x/40))+5sin(2π(x/40−1/5))になる。これを、13セット中のn番目に幅広パターン(シフトパターン)があるとして一般化すると、+A=nsin(2π(x/40))+(13−n)sin(2π(x/40−1/5))になる。
【0044】
図11は、ピッチ一定の反射パターン2−1が投影される受光部15−1と、ピッチがシフトする反射パターン2−2が投影される受光部15−2の13セットのセルの信号を合わせた信号+Aの、所定位置を超えて移動した場合の変化を示す図である。実線が受光部15−1の+Aを、破線が受光部15−2の+Aを、それぞれ示す。
【0045】
図11に示すように、左側では、受光部15−1および15−2の信号+Aは同じであるが、13セットの端のセルが所定位置に移動すると、受光部15−2の信号+Aの振幅が低下すると共に、位相がずれ始める。7セット目のセルが所定位置に移動すると、受光部15−2の信号+Aの振幅はもっとも低下し、その後元の振幅に徐々に戻るが、位相差はさらに増加し、13セットの反対側の端のセルが所定位置を通過すると、振幅は受光部15−1の信号+Aと同じで、位相が8μmシフトした信号となる。
【0046】
図12は、実施形態において、移動位置の応じた、受光部15−1および15−2の信号+Aの位相差を示す図である。
図12に示すように、左側では位相座はゼロであり、右側では位相差が8μmであり、所定位置(幅の異なるシフトパターンを有する部分)を含む前後520μmの幅で、位相差ゼロと位相差8μmの間で変化する。この部分の変化は直線状に変化するとみなせる。
【0047】
なお、
図12に示した位相差の変化は、受光部15−1および15−2の信号−A、+Bおよび−Bの間でも同様であり、+Aと−Aの差を演算した位相信号PHASEAおよび+Bと−Bの差を演算した位相信号PHASEBについても同様である。したがって、受光部15−1から演算される主移動位置と、受光部15−2から演算される副移動位置との差、
図12に示すように変化する。
【0048】
図13は、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダにおける信号処理部の構成を示す図である。
なお、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダでは、一般的な反射式のリニア光学式エンコーダと同様に、反射パターン2−1の反射パターンを受光する受光部15−1の信号を演算する演算回路が、反射パターン2−1のスケールピッチの周期より高分解能で移動位置を演算するが、これについては広く知られているので説明を省略する。実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダは、上記の位置演算機能に、これまでと異なる原点検出機能を付加したものであり、原点検出に関係する演算処理についてのみ説明する。
【0049】
信号処理部は、第1リーディングヘッド41と、第2リーディングヘッド42と、第1インターポレータ43と、第2インターポレータ44と、第1カウンタ45と、第2カウンタ46と、共通クロック源47と、差演算回路48と、絶対値化回路49と、和演算回路50と、定数倍化回路51と、コンパレータ52と、遅延回路53と、排他的論理和(XOR)ゲート54と、を有する。
【0050】
第1リーディングヘッド41および第2リーディングヘッド42は、受光部15−1および15−2に対応し、アナログ信号+A、+B、−A、−Bを出力する。第1インターポレータ43および第2インターポレータ44は、アナログ信号+A、+B、−A、−Bをデジタルデータに変換して出力する。ここで、原点検出処理のみであれば、受光部15−1および15−2の出力する+A(または+B、−A、−Bのいずれか)をデジタル信号として出力すればよいが、反射パターン2−1のスケールピッチの周期より高分解能で移動位置を演算するので、+Aと−Aの差および+Bと−Bの差をデジタル演算して出力しても、
図7に示すアナログ回路で導出した+Aと−Aの差および+Bと−Bの差をデジタルデータに変換してもよい。さらに、これらのデータから演算した移動位置の変化を出力してもよい。
【0051】
したがって、第1インターポレータ43および第2インターポレータ44以降の処理は、すべてデジタル信号処理により行われるが、
図13では、処理内容を分かり易くするために、アナログ回路の形で表している。以下の説明では、第1インターポレータ43および第2インターポレータ44は、移動位置の変化データを出力するものとし、40μmを2
m分割(例えば、m=6なら64等分、m=8なら256等分)したデータを出力する。また、第1インターポレータ43および第2インターポレータ44は、正方向の移動の場合には正の値を、負方向の移動の場合には負の値を出力する。
【0052】
第1カウンタ45は、共通クロック源47からの共通クロックに同期して、第1インターポレータ43の出力する主位置データをカウントする。第2カウンタ46は、共通クロック源47からの共通クロックに同期して、第2インターポレータ44の出力する副位置データをカウントする。第1カウンタ45および第2カウンタ46は、共通クロックに同期してカウント動作を行うため、両者に時間的なずれは生じない。第1カウンタ45および第2カウンタ46は、移動位置の変化データをカウントするので、第1カウンタ45および第2カウンタ46のカウント値が移動位置を示す。
【0053】
差演算回路48は、第1カウンタ45と第2カウンタ46のカウント値の差、すなわち移動位置の差を演算する。絶対値回路49は、カウント値の差絶対値を演算する。
和演算回路50および定数倍化回路51は、頻繁な判定値変動を防止するため、絶対値回路49の出力する差絶対値にヒステリシス特性を持たせる処理を行う。具体的には、定数倍化回路51は、コンパレータ52の出力する2値データ(ゼロまたは1)に係数(分解能の10倍程度)を乗じて出力し、和演算回路50は、絶対値回路49の出力する差絶対値に定数倍化回路51の出力を加算し、判定結果を正帰還する。ヒステリシスの範囲は、定数倍化回路51の係数により決定される。スケールの移動方向によりヒステリシス分異なる位置で原点信号が発生するが、前述のように、受光部15−1の信号を演算する演算回路により、反射パターン2−1のスケールピッチの周期より高分解能で移動位置を演算しており、位置差が1スケールピッチ内であれば問題はない。
【0054】
コンパレータ52は、和演算回路50の出力を閾値Vthと比較し、和演算回路50の出力が閾値Vthを超えて変化した時に、出力を変化させる。具体的には、コンパレータ52の出力は、和演算回路50の出力が閾値Vthより小さい状態から大きい状態に変化すると、「1(H:High)」から「0(L:Low)」に変化し、和演算回路50の出力が閾値Vthより大きい状態から小さい状態に変化すると、LからHに変化する。例えば、
図12に示すように8μmの差が生じる場合には、和演算回路50の出力が4μmに対応する値の時に、コンパレータ52の出力が変化するようにVthを設定する。
【0055】
遅延回路53は、コンパレータ52の出力を短い時間遅延させる。排他的論理和(XOR)ゲート54は、コンパレータ52の出力と遅延回路53の出力の排他的論理和を演算する。これにより、コンパレータ52の出力が変化すると、XORゲート54は、短いパルスを発生する。これが原点検出信号である。
【0056】
以上のようにして発生された原点検出信号に基づいて、第1インターポレータ43の出力する主位置データにおいて、第1所定位置である原点が含まれるスケールピッチを判定し、主位置データから原点を判定する。
【0057】
図14は、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダにおける信号処理部の処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS11では、ループ数パラメータNおよび原点信号(原点に対して一方の場合がゼロ、他方の場合が1になる)Sをゼロに初期化する。
【0058】
ステップS12では、第1カウンタ45および第2カウンタ46用のレジスタに記憶されたカウント値count1およびcount2を読み出す。
ステップS13では、count1とcount2の差Δを演算する。
ステップS14では、差Δを絶対値化する。
【0059】
ステップS15では、パラメータSに定数倍化回路51の係数を乗じてXを算出する。
ステップS16では、絶対値化したΔにXを加算し、新たなΔを演算する。
ステップS17では、新たなΔが閾値より大きいかを判定し、大きくなければステップS18に進み、大きければステップS19に進む。
【0060】
ステップS18では、S=0とする。
ステップS19では、S=1とする。したがって、ヒステリシス分があるが、Δが大きければS=1になり、小さければS=0になる。
ステップS20では、パラメータNがゼロでないか判定し、ゼロであればステップS21に進み、ゼロでなければ(1であれば)ステップS23に進む。
【0061】
ステップS21では、N=N+1にする。すなわち、Nを1増加する。
ステップS22では、変数Y=Sにする。
ステップS23では、N=0にする。
【0062】
以上のルーチンで、1回目にS20に到達した時にはN=0であるからS21およびS22に進み、S12に戻った後、次に2回目にS20に到達した時にはN=1であるからS23に進むことになる。
ステップS24では、SとYの排他的論理和を演算し、演算結果を新たなSとする。
【0063】
以上のルーチンで、Δが2回連続で閾値より小さいか、または閾値より大きければ、新たなSはゼロとなり、原点信号は発生しない。これに対して、2回のループでΔが異なると、新たなSはゼロとなり、原点信号は発生する。言い換えれば、方向にかかわらず、Δが閾値を超えて変化すると、原点信号が発生する。
【0064】
前述のように、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダでは、一般的な反射式のリニア光学式エンコーダと同様に、反射パターン2−1の反射パターンを受光する受光部15−1の信号を演算する演算回路が、反射パターン2−1のスケールピッチの周期より高分解能で移動位置を演算する。
【0065】
図15は、受光部15−1の信号を演算する演算回路により算出された相対位置信号と、これまで説明した原点の検出により発生される原点信号と、の関係を説明する図である。
【0066】
受光部15−1の信号を演算する演算回路は、主A相信号がsin成分を、主B相信号が−cos成分を示すことを利用して、センサピッチを1周期とした場合の1周期内の位相を算出する。
図15では、1周期の位相ゼロは、主A相信号がゼロで、主B相信号が負のピーク値の時である。差信号が、移動方向にかかわらず原点である所定位置を含む1周期の中央付近(180度)付近で発生するようにすれば、原点に対応するスケールのピッチ(サイクル)を判定でき、原点位置を特定できる。
【0067】
以上説明した実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダは、デジタル処理後のカウント値を用いるため、回路上に実装せず、ソフトウエアのみで実現できる。カウント値をリアルタイムで検出することで原点信号を発生するため、処理はソフトウエア上で完結させるようにすることが望ましい。ソフトウエア処理は、専用チップを設けて実行するようにしても、例えば、外部の演算ユニットのようなデバイス上で実行するようにしてもよい。
【0068】
例えば、アナログ回路で、コンパレータで信号電圧を比較する場合、信号電圧自体の絶対値の変動が判定結果に影響する。特に、光源光量が変動すると、信号電圧の最大値が変動するため、正規化を行うなどの余分な回路が必要となる。これに対して、実施形態の反射式のリニア光学式エンコーダは、第1および第2リーディングヘッドが投影されるパターンの信号を正しく出力すれば、後の処理はデジタル処理で行うため、光量変動等の影響を受けない。
【0069】
また、異常説明した実施形態では、反射型のスケールを使用したが、透過型のスケールを使用することも可能である。
さらに、演算処理手順は一例であり、位置ずれの変化を検出できれば、どのような処理手順を用いてもよい。