(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
演算増幅器の入力オフセット電圧は低いことが理想とされる。しかし特許文献1の
図16に記載されている従来の一般的な演算増幅器では、システマチックに入力オフセット電圧が発生する。
図5にこの特許文献1の
図16の演算増幅器を簡略化して掲載し、システマチックに発生する入力オフセット電圧を説明する。
【0003】
図5の演算増幅器は、正電源電圧端子Vcc、負電源電圧端子Vee、反転入力端子IN−、非反転入力端子IN+、出力端子OUTを備える。この演算増幅器は後述する差動増幅器からの出力信号を電圧増幅器Gmで増幅し、増幅された信号を出力バッファBFで低出力インピーダンスの信号に変換して出力する。差動増幅器の回路構成を以下に説明する。
【0004】
第1のトランジスタQ1と第2のトランジスタQ2のエミッタが第1の電流源CS1を介して正電源電圧端子Vccに接続され、トランジスタQ1のベースは非反転入力端子IN+に、トランジスタQ2のベースは反転入力端子IN−に接続される。第3のトランジスタQ3と第4のトランジスタQ4は能動負荷となるカレントミラー構成で、トランジスタQ4のコレクタとベースがトランジスタQ3のベースに接続され、それぞれのエミッタは負電源電圧端子Veeに接続される。また、トランジスタQ3のコレクタはトランジスタQ1のコレクタおよび第5のトランジスタQ5のベースに接続される。トランジスタQ4のコレクタとベースにはトランジスタQ2のコレクタおよび第6のトランジスタQ6のベースが接続される。トランジスタQ5のエミッタは第3の電流源CS3および電圧増幅器Gmの入力端子に、コレクタは負電源電圧端子Veeに接続される。トランジスタQ6のエミッタは第2の電流源CS2に、コレクタは負電源電圧端子Veeに接続される。位相補償用コンデンサCcはトランジスタQ5のベースと電圧増幅器Gmの出力端子に接続される。
【0005】
この演算増幅器でシステマチックに発生する入力オフセット電圧を説明する。ただし、システマチックに発生する入力オフセット電圧であるため、トランジスタQ1,Q2は同一の特性、トランジスタQ3,Q4も同一の特性、トランジスタQ5,Q6も同一の特性、電流源CS2,CS3から流れる電流I
CS2,I
CS3は同じ大きさ、電圧増幅器Gmの入力インピーダンスは限りなく大きい、と仮定する。
【0006】
トランジスタQ1のコレクタに流れる電流Ic
Q1は次式で表される。
ここで、Ic
Q3はトランジスタQ3のコレクタ電流、Ib
Q5はトランジスタQ5のベース電流、Hfe
Q3はトランジスタQ3の電流増幅率、Ib
Q3はトランジスタQ3のベース電流、I
CS3は電流源CS3の電流、Hfe
Q5はトランジスタQ5の電流増幅率である。
【0007】
一方、トランジスタQ2のコレクタに流れる電流Ic
Q2は次式で表される。
ここで、Ic
Q4はトランジスタQ4のコレクタ電流、Ib
Q4はトランジスタQ4のベース電流、Ib
Q6はトランジスタQ6のベース電流、Hfe
Q4はトランジスタQ4の電流増幅率、I
CS2は電流源CS2の電流、Hfe
Q6はトランジスタQ6の電流増幅率である。
【0008】
よって、トランジスタQ1、Q2のベースとエミッタ間の電位差Vbe
Q1,Vbe
Q2はそれぞれ次式で表される。
ただし、Isはバイポーラトランジスタの逆方向飽和電流である。
【0009】
ここで、Hfe
Q3=Hfe
Q4=100、Hfe
Q5=Hfe
Q6=100、Ib
Q3=Ib
Q4=0.1μA、I
CS2=1
CS3=10μAとすると、式(3),(4)のVbe
Q1,Vbe
Q2はそれぞれ以下の式となる。Vtは熱電圧である。
【0010】
Vbe
Q1とVbe
Q2の差が入力オフセット電圧Vioであり、次式で表される。
なお、Vt=26mVと仮定した。
【0011】
式(7)より明らかなように、この演算増幅器は能動負荷のカレントミラーのトランジスタQ3,Q4のベース電流に起因した入力オフセット電圧を生じる。
【0012】
このシステマチックに発生する入力オフセット電圧を低減するために、例えば、特許文献2の
図1に記載された回路が考えられている。この回路は能動負荷のカレントミラーで必要な電流を低電圧動作可能なFETを用いて供給することで、システマチックに発生する入力オフセット電圧を抑制している。またこの回路は、入力オフセット電圧を低減するための追加素子によって、演算増幅器の入力電圧範囲が狭くならない特徴を持つ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、
図5で示した従来の演算増幅器では、式(7)で表されるシステマチックな入力オフセット電圧が発生する問題がある。その間題を解決した回路が特許文献2の
図1に記載されている。特許文献2の
図1の回路の特徴は、入力オフセット電圧を低減するための追加素子によって、演算増幅器の入力電圧範囲が狭くならないことである。
【0015】
しかし、この回路は低電圧動作可能なFETを必要としているので、バイポーラプロセスにおいて低電圧FETプロセスを実現しようとすると、新規プロセスの開発やプロセスコストの増加を招く問題がある。
【0016】
本発明の目的は、既存のプロセスを用いるバイポーラトランジスタのみを使用でき、入力電圧範国を狭くすることなく、システマチックに発生する入力オフセット電圧を低減することができるようにした演算増幅器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明は、エミッタが第1の電流源を介して第1の電源端子に接続された第1および第2のトランジスタと、コレクタが前記第1のトランジスタのコレクタに接続されエミッタが第2の電源端子に接続された第3のトランジスタと、コレクタとベースが前記第2のトランジスタのコレクタと前記第3のトランジスタのベースに接続されエミッタが前記第2の電源端子に接続された第4のトランジスタと、ベースが前記第2のトランジスタのコレクタに接続されコレクタが前記第2の電源端子に接続されエミッタがダイオードの一端に接続された第6のトランジスタと、ベースが前記第2のトランジスタのコレクタに接続されエミッタが前記第2の電源端子に接続された第7のトランジスタと、エミッタが前記第7のトランジスタのコレクタに接続された第8のトランジスタと、コレクタとベースが前記第8のトランジスタのベースに接続されエミッタが前記ダイオードの他端に接続された第9のトランジスタと、コレクタが前記第2のトランジスタのコレクタに接続されベースが前記第9のトランジスタのベースに接続されエミッタが前記ダイオードの他端に接続された第10のトランジスタと、エミッタが前記第8のトランジスタのコレクタに接続されコレクタが前記第1の電源端子に接続されベースが前記ダイオードの他端に接続された第11のトランジスタと、前記ダイオードの他端と前記第1の電源端子との間に接続された第2の電流源と、を備えることを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、エミッタが第1の電流源を介して第1の電源端子に接続された第1および第2のトランジスタと、コレクタが前記第1のトランジスタのコレクタに接続されエミッタが第2の電源端子に接続された第3のトランジスタと、コレクタとベースが前記第2のトランジスタのコレクタと前記第3のトランジスタのベースに接続されエミッタが前記第2の電源端子に接続された第4のトランジスタと、ベースが前記第2のトランジスタのコレクタに接続されコレクタが前記第2の電源端子に接続されエミッタが
第2の電流源を介して前記第1の電源端子に接続された第6のトランジスタと、ベースが前記第2のトランジスタのコレクタに接続されエミッタが前記第2の電源端子に接続された第7のトランジスタと、エミッタが前記第7のトランジスタのコレクタに接続された第8のトランジスタと、コレクタとベースが前記第8のトランジスタのベースに接続された第9のトランジスタと、コレクタが前記第2のトランジスタのコレクタに接続されベースが前記第9のトランジスタのベースに接続されエミッタが
前記第9のトランジスタのエミッタに接続された第10のトランジスタと
、エミッタが前記第8のトランジスタのコレクタに接続されコレクタが前記第1の電源端子に接続されベースが
前記第9のトランジスタのエミッタに接続された第11のトランジスタと、
前記第11のトランジスタのベースと前記第1の電源端子との間に接続された第4の電流源と、前記第11のトランジスタのベースと前記第2の電源端子との間に直列接続された3個のダイオードと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バイポーラトランジスタのみで入力電圧範囲を狭くすることなく、システマチックに発生する入力オフセット電圧を低減することができる。また、これによって電源電圧依存性や同相入力依存性を小さくできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施例1>
図1に本発明の実施例1の演算増幅器を示す。
図5で説明したものと同じものについては同じ符号を付け、その詳しい説明は省略する。
【0021】
図1のトランジスタQ1〜Q5、電圧増幅器Gm、出力バッファBF、電流源CS1,CS3は
図5での接続と同じである。第6のトランジスタQ6のベースはトランジスタQ2,Q4のコレクタに、コレクタは負電源電圧端子Veeに、エミッタはダイオードD1Aのカソードに接続される。第7のトランジスタQ7AのベースはトランジスタQ2,Q4のコレクタに、エミッタは負電源電圧端子Veeに、コレクタは第8のトランジスタQ8Aのエミッタに接続される。トランジスタQ8Aのベースは第9のトランジスタQ9Aのベースおよびコレクタと第10のトランジスタQ10Aのベースに接続され、コレクタは第11のトランジスタQ11Aのエミッタに接続される。トランジスタQ9AとQ10Aはカレントミラー構成であり、トランジスタQ9AとQ10AのエミッタはトランジスタQ11AのベースとダイオードD1Aのアノードと電流源CS2に接続される。トランジスタQ10AのコレクタはトランジスタQ2,Q4のコレクタに接続される。トランジスタQ11Aのコレクタは正電源電圧端子Vccに接続される。以上が
図1の回路構成である。
【0022】
図1の回路でシステマチックに発生する入力オフセット電圧を説明する。ただし、システマチックに発生する入力オフセット電圧であるため、トランジスタQ1,Q2は同一の特性、トランジスタQ3,Q4,Q7A,Q8Aも同一の特性、トランジスタQ5,Q6も同一の特性、電流源CS2,CS3から流れる電流I
CS2,I
CS3は同じ大きさ、電圧増幅器Gmの入力インピーダンスは限りなく大きいと仮定する。また、説明を簡単にするためにトランジスタQ10Aのエミッタ面積はトランジスタQ9Aの3倍とする。
【0023】
トランジスタQ1のコレクタに流れる電流Ic
Q1は次式で表される。
一方、トランジスタQ2のコレクタ電流Ic
Q2は次式で表される。
ただし、Ib
Q7AはトランジスタQ7Aのベース電流、Ic
Q10AはトランジスタQ10Aのコレクタ電流である。ここで、Hfe
Q3=Hfe
Q4=100、Hfe
Q5=Hfe
Q6=100、Ib
Q3=Ib
Q4=Ib
Q7A=0.1μA、I
CS2=I
CS3=10μAとすると、トランジスタQ1,Q2のそれぞれのベースとエミッタ問の電位差Vbe
Q1,Vbe
Q2は以下の式となる。
【0024】
次に、Ic
Q10Aを導出するために、トランジスタQ8Aのベース電流Ib
Q8Aを求める。
なお、Hfe
Q7A,Hfe
Q8AはトランジスタQ7A,Q8Aの電流増幅率であり、それぞれの大きさを、Hfe
Q7A=Hfe
Q8A=100とした。
【0025】
また、Ic
Q10Aはべ一ス電流Ib
Q8Aを用いて次式で表される。
ここで、Hfe
Q9A,Hfe
Q10AはトランジスタQ9A,Q10Aの電流増幅率であり、それぞれの大きさを、Hfe
Q9A=Hfe
Q10A=100とした。
【0026】
次にIb
Q6を求める。Ib
Q6はトランジスタQ9A,とQ10Aのエミッタ電流Ie
Q9A,Ie
Q10AおよびトランジスタQ11Aのベース電流Ib
Q11Aを用いて次式で表される。
【0027】
ベース電流Ib
Q11AはトランジスタQ11Aの電流増幅率Hfe
Q11Aを用いて次式で与えられる。
ただし、Hfe
Q11A=100とした。
【0028】
一方、エミッタ電流Ie
Q9A,Ie
Q10Aは式(12)、(13)を用いて次式で表される。
したがって、ベース電流Ib
Q6は次式で表される。
ただし、I
CS2=10μA、Hfe
Q6=100とした。
【0029】
よって、トランジスタQ2のベースとエミッタ間の電位差Vbe
Q2は、式(11)に式(13)、(17)を代入し、次式で与えられる。
【0030】
式(10)のVbe
Q1と式(18)のVbe
Q2の差が入力オフセット電圧Vioであり、次式で表される。
【0031】
このように、入力オフセット電圧は、従来では式(7)で示したように1.025mVだったが、本実施例を用いることで、式(19)のように0.050mVに低減することができる。
【0032】
また、本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、電流源CS1から流れる電流の電源電圧依存性が低いという効果をもたらす。本実施例ではトランジスタQ3,Q4で構成される能動負荷のベース電流を補償しているため、電流源CS1の電流が変化しても、このベース電流補償能力に影響しないためである。同様に本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、トランジスタQ1,Q2で構成される差動対の入力電圧が変化することによる電流源CS1から流れる電流の変化の影響が低いという効果をもたらす。
【0033】
<実施例2>
図2を用いて実施例2を説明する。ただし、
図1で説明したものについては同じ符号を付け、その詳しい説明は省略する。
【0034】
本実施例は
図2に示すように、
図1の回路に抵抗R1Aを追加している。トランジスタQ1〜Q6,Q7A,Q8A、電圧増幅器Gm、出力バッファBF、電流源CS1、CS3は
図1での接続と同じである。トランジスタQ9AとQ10Aはカレントミラー構成であり、トランジスタQ9AとQ10AのエミッタはダイオードD1Aのアノードと抵抗R1Aの一端に接続される。トランジスタQ10AのコレクタはトランジスタQ2のコレクタに接続される。トランジスタQ11Aのベースは抵抗R1Aの他方の一端と電流源CS2に接続され、エミッタはトランジスタQ8Aのコレクタに、コレクタは正電源電圧端子Vccに接続される。以上が
図2の回路構成である。
【0035】
本実施例での入力オフセット電圧の大きさは実施例1で求めた結果と同等であり、従来例の入力オフセット電圧は式(7)で示したように1.025mVだったため、本実施例を用いることで、式(19)のように入力オフセット電圧を低減することができる。
【0036】
さらに本実施例では、抵抗R1Aを追加することでトランジスタQ8Aを確実に活性領域で動作させるように調整可能である。もしトランジスタQ8Aが活性領域で動作しなければ、トランジスタQ8Aのベース電流Ib
Q8Aが増加し、式(13)で示されるように、トランジスタQ10Aのコレクタ電流Ic
Q10Aが増加する。コレクタ電流Ic
Q10Aが増加すると、式(11),(19)に従って入力オフセット電圧が増加する。よってトランジスタQ8Aを確実に活性領域で動作させることは重要である。
【0037】
抵抗R1Aを追加することで、トランジスタQ8Aを活性領域で動作させることができる理由を以下に説明する。トランジスタQ8Aが活性領域で動作するためには、トランジスタQ8Aのエミッタとコレクタ間の電位差Vce
Q8AをトランジスタQ8Aのベースとエミッタ問の電位差Vbe
Q8Aより大きくする必要がある。Vce
Q8Aを求めるために、トランジスタQ8Aのコレクタ電位Vc
Q8Aとエミッタ電位Ve
Q8Aを求める。
【0038】
トランジスタQ8Aのエミッタとコレクタ間の電位差Vce
Q8Aは式(20)から式(21)を差し引くことで導かれる。
ここで、トランジスタQ8Aが活性領域で動作するためには、Vce
Q8Aの大きさがVbe
Q8A以上となる必要がある。
【0039】
したがって、次式の条件を満たさなければならない。
もし、Vbe
Q9A<Vbe
Q11Aとなった場合でも、抵抗R1Aを追加することでトランジスタQ8Aを確実に活性領域で動作させるように調整可能である。
【0040】
また、本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、電流源CS1から流れる電流の電源電圧依存性が低いという効果をもたらす。本実施例ではトランジスタQ3,Q4で構成される能動負荷のベース電流を補償しているため、電流源CS1の電流が変化しても、このベース電流補償能力に影響しないためである。同様に本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、トランジスタQ1,Q2で構成される差動対の入力電圧が変化することによる電流源CS1から流れる電流の変化の影響が低いという効果をもたらす。
【0041】
<実施例3>
図3を用いて実施例3を説明する。ただし、
図5で説明したものについては同じ符号を付け、その詳しい説明は省略する。
【0042】
図1のトランジスタQ1〜Q6、電圧増幅器Gm、出力バッファBF、電流源CS1,CS2,CS3は
図5での接続と同じである。第7のトランジスタQ7AのベースはトランジスタQ2のコレクタに、エミッタは負電源電圧端子Veeに、コレクタは第8のトランジスタQ8Aのエミッタに接続される。トランジスタQ8Aのベースは第9のトランジスタQ9Aのベースおよびコレクタと第10のトランジスタQ10Aのベースに接続され、コレクタは第11のトランジスタQ11Aのエミッタに接続される。トランジスタQ9AとQ10Aはカレントミラー構成であり、トランジスタQ9AとQ10AのエミッタはトランジスタQ11AのベースとダイオードD3Aのアノードと第4の電流源CS4に接続される。トランジスタQ10AのコレクタはトランジスタQ2のコレクタに接続される。トランジスタQ11Aのコレクタは正電源電圧端子Vccに接続される。ダイオードD3Aのカソードは第2のダイオードD2Aのアノードに、ダイオードD2AのカソードはダイオードD1Aのアノードに、ダイオードD1Aのカソードは負電源電圧端子Veeに接続される。以上が
図3の回路構成である。
【0043】
図3の回路でシステマチックに発生する入力オフセット電圧を説明する。ただし、システマチックに発生する入力オフセット電圧であるため、トランジスタQ1,Q2は同一の特性、トランジスタQ3,Q4,Q7A,Q8Aも同一の特性、トランジスタQ5,Q6も同一の特性、電流源CS2,CS3から流れる電流は同じ大きさ、電圧増幅器Gmの入力インピーダンスは限りなく大きいと仮定する。また、説明を簡単にするためにトランジスタQ10Aのエミッタ面積はトランジスタQ9Aの3倍とする。
【0044】
トランジスタQ1のコレクタに流れる電流Ic
Q1は次式で表される。
一方、トランジスタQ2のコレクタ電流Ic
Q2は次式で表される。
ただし、Ib
Q7AはトランジスタQ7Aのベース電流、Ic
Q10AはトランジスタQ10Aのコレクタ電流である。
【0045】
ここで、Hfe
Q3=Hfe
Q4=100、Hfe
Q5=Hfe
Q6=100、Ib
Q3=Ib
Q4=Ib
Q7A=0.1μA、I
CS2=I
CS3=10μAとすると、トランジスタQ1,Q2のそれぞれのベースとエミッタ間の電位差Vbe
Q1,Vbe
Q2は以下の式となる。
【0046】
ここで、Ic
Q10Aは実施例1と同じ大きさであり、次式で表される。
ここで、Hfe
Q9A,Hfe
Q10AはトランジスタQ9A,Q10Aの電流増幅率であり、それぞれの大きさを、Hfe
Q9A=Hfe
Q10A=100とした。
【0047】
よって、トランジスタQ2のベースとエミッタ間の電位差Vbe
Q2は次式で与えられる。
式(26)のVbe
Q1と式(29)のVbe
Q2の差が入力オフセット電圧Vioであり、次式で表される。
【0048】
従来例の入力オフセット電圧は式(7)で示したように1.025mV、第1および実施例2では0.050mVだったため、本実施例を用いることで、実施例1および実施例2よりさらに入力オフセット電圧を低減することができる。
【0049】
また、本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、電流源CS1から流れる電流の電源電圧依存性が低いという効果をもたらす。本実施例ではトランジスタQ3,Q4で構成される能動負荷のベース電流を補償しているため、電流源CS1の電流が変化しても、このベース電流補償能力に影響しないためである。同様に本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、トランジスタQ1,Q2で構成される差動対の入力電圧が変化することによる電流源CS1から流れる電流の変化の影響が低いという効果をもたらす。
【0050】
<実施例4>
図4を用いて実施例4を説明する。ただし、
図3で説明したものについては同じ符号を付け、その詳しい説明は省略する。
【0051】
本実施例は
図4に示すように、
図3の回路に抵抗R1Aを追加している。トランジスタQ1〜Q6,Q7A,Q8A、電圧増幅器Gm、出力バッファBF、電流源CS1,CS3は
図3での接続と同じである。トランジスタQ9AとQ10Aはカレントミラー構成であり、トランジスタQ9AとQ10AのエミッタはトランジスタQ11AのベースとダイオードD3Aのアノードと抵抗R1Aの一端に接続される。トランジスタQ10AのコレクタはトランジスタQ2のコレクタに接続される。トランジスタQ11Aのベースは抵抗R1Aの他方の一端と第4の電流源CS4に接続され、エミッタはトランジスタQ8Aのコレクタに、コレクタは正電源電圧端子Vccに接続される。ダイオードD3Aのカソードは第2のダイオードD2Aのアノードに、ダイオードD2AのカソードはダイオードD1Aのアノードに、ダイオードD1Aのカソードは負電源電圧端子Veeに接続される。以上が
図4の回路構成である。
【0052】
本実施例での入力オフセット電圧の大きさは実施例3で求めた結果と同等であり、従来例の入力オフセット電圧は式(7)で示したように1.025mVだったため、本実施例を用いることで、式(30)のように入力オフセット電圧を低減することができる。
【0053】
さらに本実施例では、抵抗R1Aを追加することでトランジスタQ8Aを確実に活性領域で動作させるように調整可能である。抵抗R1Aを追加することで、トランジスタQ8Aを活性領域で動作させることができる理由を以下に説明する。
【0054】
トランジスタQ8Aが活性領域で動作するためには、トランジスタQ8Aのエミッタとコレクタ問の電位差Vce
Q8AをトランジスタQ8Aのベースとエミッタ間の電位差Vbe
Q8Aより大きくする必要がある。Vce
Q8Aを求めるために、トランジスタQ8Aのコレクタ電位Vc
Q8Aとエミッタ電位Ve
Q8Aを求める。
ただし、I
CS4は第4の電流源CS4に流れる電流である。
【0055】
トランジスタQ8Aのエミッタとコレクタ間の電位差Vce
Q8Aは、式(31)から式(32)を差し引くことで導かれる。
ここで、トランジスタQ8Aが活性領域で動作するためには、Vce
Q8Aの大きさがVbe
Q8A以上となる必要がある。
【0056】
したがって、次式の条件を満たさなければならない。
もし、Vbe
Q9A<Vbe
Q11Aとなった場合でも、抵抗R1Aを追加することでトランジスタQ8Aを確実に活性領域で動作させるように調整可能である。
【0057】
また、本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、電流源CS1から流れる電流の電源電圧依存性が低いという効果をもたらす。本実施例ではトランジスタQ3,Q4で構成される能動負荷のベース電流を補償しているため、電流源CS1の電流が変化しても、このベース電流補償能力に影響しないためである。同様に本実施例での入力オフセット電圧低減効果は、トランジスタQ1,Q2で構成される差動対の入力電圧が変化することによる電流源CS1から流れる電流の変化の影響が低いという効果をもたらす。
【0058】
<他の実施例>
なお、以上説明した実施例1〜4において、npnトランジスタQ3,Q4,Q7A,Q8A,Q11Aをpnpトランジスタに、pnpトランジスタQ1,Q2,Q5,Q6,Q9A,A10Aをnpnトランジスタに、それぞれ置き換えることができる。この場合、電源端子Vccは電源端子Veeに、電源端子VeeはVccに置き換え、電流源CS1〜CS4Aは電流の流れる向きを反対にし、ダイオードD1A〜D3Aは、アノードとカソードを入れ替えればよい。