(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項5〜7のいずれかに記載の樹脂組成物を基材上に塗布、乾燥して樹脂膜を形成する工程と、前記乾燥後の樹脂膜を加熱処理する工程とを含むポリイミド成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のポリイミド前駆体、樹脂組成物、及びポリイミド成形体とその製造方法及び電子部品の実施の形態を詳細に説明する。尚、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0016】
[(a)ポリイミド前駆体]
本発明のポリイミド前駆体は、下記式(I)及び(II)で示される構造単位を有する共重合体である。
【化2】
構造単位(I)及び(II)の比は、得られる硬化物のCTE、弾性率及び複屈折の観点から(I):(II)=5:95〜95:5が好ましい。また、複屈折の観点から(I):(II)=30:70〜95:5がより好ましく、CTEの観点から(I):(II)=50:50〜70:30がさらに好ましい。
また、合成中の塩形成をより抑制し、より反応を制御しやすくする観点からは、(I):(II)=30:70〜95:5が好ましく、(I):(II)=50:50〜95:5がより好ましい。
【0017】
上記式(I)及び(II)の比は、例えば、
1HNMRスペクトルを測定することで求めることができる。また、共重合体は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
【0018】
本発明のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、及び1,4−ジアミノシクロヘキサンを重合させることにより得ることができる。
【0019】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を加熱し、脱水閉環して得られる酸二無水物)を用いることで、得られる硬化物が良好な耐熱性を発現し、かつCTEを小さくすることができると考えられる。
【0020】
4,4’−オキシジフタル酸二無水物(3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテルを加熱し、脱水閉環して得られる酸二無水物)を用いることで、得られる硬化物が良好な耐熱性及び透明性を発現し、かつ複屈折を小さくすることができると考えられる。
尚、上記原料テトラカルボン酸(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−オキシジフタル酸)としては、通常これらの酸無水物を用いるが、これら酸又はこれらの他の誘導体を用いることもできる。
【0021】
また、1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いることで、得られる硬化物が良好な透明性、耐薬品性を発現することができると考えられる。
良好な透明性及び耐熱性を発現し、CTEを小さくするという観点から、1,4−ジアミノシクロヘキサンは、トランス1,4−ジアミノシクロヘキサンが好ましい。トランス1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いた場合、シクロヘキサン環に結合している2つのアミノ基の立体構造は、共にエクアトリアル配置であることが好ましい。
【0022】
上記構造単位(I)及び(II)の比は、テトラカルボン酸類(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物)とジアミン(1,4−ジアミノシクロヘキサン)の比率を変えることで、調整することができる。
【0023】
本発明のポリアミド酸(ポリイミド前駆体)の分子量は、重量平均分子量で10000〜500000が好ましく、10000〜300000がより好ましく、20000〜200000が特に好ましい。
重量平均分子量が10000より小さいと、塗布した樹脂組成物を加熱する工程において、樹脂膜を形成することが難しくなり、また、形成することができても機械特性に乏しくなるおそれがある。重量平均分子量が500000よりも大きいと、ポリアミド酸の合成時に重量平均分子量をコントロールするのが難しく、また適度な粘度の樹脂組成物を得ることが難しくなるおそれがある。
【0024】
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)(例えば、装置は(株)日立製作所製L4000 UV、カラムは日立化成工業(株)製ゲルパック)を用いて、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0025】
本発明のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、従来公知の合成方法で合成することができる。例えば、溶媒に所定量の1,4−ジアミノシクロヘキサンを溶解させた後、得られたジアミン溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、及び4,4’−オキシジフタル酸それぞれを乾燥機で160℃、24時間加熱し脱水閉環させることで得られるテトラカルボン酸二無水物を所定量添加し、撹拌する。
【0026】
各モノマー成分を溶解させるときには、必要に応じて加熱してもよい。
反応温度は−30〜200℃が好ましく、20〜180℃がより好ましく、30〜100℃が特に好ましい。そのまま室温(20〜25℃)、又は適当な反応温度で撹拌を続け、ポリアミド酸の粘度が一定になった時点を反応の終点とする。粘度はE型粘度計(東機産業株式会社製)を用い、25℃にて測定できる。
上記反応は、通常3〜100時間で完了できる。
【0027】
上記反応の溶媒としては、ジアミン、テトラカルボン酸類及び生じたポリアミド酸を溶解することのできる溶剤であれば特に制限はされない。
このような溶剤の具体例としては、非プロトン性溶媒、フェノール系溶媒、エーテル及びグリコール系溶媒等が挙げられる。具体的には、非プロトン性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含りん系アミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ピコリン、ピリジン等の3級アミン系溶媒;酢酸(2−メトキシ−1−メチルエチル)等のエステル系溶媒等が挙げられる。フェノール系溶媒としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等が挙げられる。エーテル及びグリコール系溶媒としては、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。中でも、溶解性や塗膜形成性の観点からN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの反応溶媒は単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0028】
本発明のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)は、通常、上記反応溶媒を溶媒とする溶液(以下、ポリアミド酸溶液という)として得られる。
得られたポリアミド酸溶液の全量に対するポリアミド酸成分(樹脂不揮発分:以下、溶質という)の割合は、塗膜形成性の観点から5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がさらに好ましく、10〜40質量%が特に好ましい。
【0029】
溶質の割合は、予め質量の分かっている金属シャーレに(1g程度を目安に)ポリアミド酸溶液をとり、質量(金属シャーレ及びポリアミド酸の質量、以下、加熱前の質量という)を測定し、その後ホットプレート上で2時間加熱して溶媒が十分に揮発した後の質量(金属シャーレ及び溶質の質量、以下、加熱後の質量という)を測定し、(加熱後の質量−金属シャーレの質量)÷(加熱前の質量−金属シャーレの質量)×100から求められる。
【0030】
上記ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、25℃で500〜200000mPa・sが好ましく、2000〜100000mPa・sがより好ましく、5000〜30000mPa・sが特に好ましい。溶液粘度は、E型粘度計(東機産業株式会社製VISCONICEHD)を用いて測定できる。
【0031】
溶液粘度が500mPa・sより低いと膜形成の際の塗布がしにくく、200000mPa・sより高いと合成の際の撹拌が困難になるという問題が生じる恐れがある。しかしながら、ポリアミド酸合成の際に溶液が高粘度になったとしても、反応終了後に溶媒を添加して撹拌することで、取扱い性のよい粘度のポリアミド酸溶液を得ることも可能である。
【0032】
本発明のポリイミドは、上記ポリイミド前駆体を加熱し、脱水閉環することにより得られる。
【0033】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は上記の(a)ポリイミド前駆体を含み、好ましくは有機溶剤を含む。
[(b)有機溶剤]
(b)有機溶剤は、本発明のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を溶解できるものであれば特に制限はなく、このような(b)有機溶剤としては上記(a)ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の合成時に用いることのできる溶媒を用いることができる。(b)有機溶剤は(a)ポリアミド酸の合成時に用いられる溶媒と同一でも異なってもよい。
(b)成分は、樹脂組成物の25℃における粘度が0.5Pa・s〜100Pa・sとなるように調整して加えることが好ましい。
【0034】
また、(b)有機溶剤の常圧における沸点は、60〜210℃が好ましく、100〜205℃がより好ましく、140〜180℃が特に好ましい。
沸点が210℃より高いと乾燥工程が長時間必要となり、60℃より低いと、乾燥工程において樹脂膜の表面に荒れが発生したり、樹脂膜中に気泡が混入したりし、均一な膜が得られない可能性がある。
【0035】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、上記(a)、(b)成分の他に(1)接着性付与剤、(2)界面活性剤又はレベリング剤等を含有してもよい。
尚、本発明の組成物は、上記(a)及び(b)成分、及び任意に接着性付与剤、界面活性剤、レベリング剤等の添加剤から実質的になっていてもよく、また、これらの成分のみからなっていてもよい。「実質的になる」とは、上記組成物が、主に上記(a)及び(b)成分からなること(例えば、組成物全体の90重量%以上)であり、これらの成分の他に上記の添加剤を含み得ることである。
【0036】
[その他の成分:(1)接着性付与剤]
本発明の樹脂組成物は、硬化膜の基板との接着性を高めるために、有機シラン化合物、アルミキレート化合物等の(1)接着性付与剤を含有してもよい。
【0037】
有機シラン化合物としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、尿素プロピルトリエトキシシラン、メチルフェニルシランジオール、エチルフェニルシランジオール、n−プロピルフェニルシランジオール、イソプロピルフェニルシランジオール、n−ブチルフェニルシランジオール、イソブチルフェニルシランジオール、tert−ブチルフェニルシランジオール、ジフェニルシランジオール、エチルメチルフェニルシラノール、n−プロピルメチルフェニルシラノール、イソプロピルメチルフェニルシラノール、n−ブチルメチルフェニルシラノール、イソブチルメチルフェニルシラノール、tert−ブチルメチルフェニルシラノール、エチルn−プロピルフェニルシラノール、エチルイソプロピルフェニルシラノール、n−ブチルエチルフェニルシラノール、イソブチルエチルフェニルシラノール、tert−ブチルエチルフェニルシラノール、メチルジフェニルシラノール、エチルジフェニルシラノール、n−プロピルジフェニルシラノール、イソプロピルジフェニルシラノール、n−ブチルジフェニルシラノール、イソブチルジフェニルシラノール、tert−ブチルジフェニルシラノール、フェニルシラントリオール、1,4−ビス(トリヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(メチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(エチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(プロピルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ブチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジメチルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジエチルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジプロピルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジブチルヒドロキシシリル)ベンゼン等が挙げられる。
【0038】
アルミキレート化合物としては、例えば、トリス(アセチルアセトネート)アルミニウム、アセチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0039】
これらの(1)接着性付与剤を用いる場合は、(a)成分100質量部に対して、0.1〜20質量部含有させるのが好ましく、0.5〜10質量部含有させるのがより好ましい。
【0040】
[その他の成分:(2)界面活性剤又はレベリング剤]
また、本発明の樹脂組成物は、塗布性の観点、例えば、ストリエーション(膜厚のムラ)を防ぐ観点から、(2)界面活性剤又はレベリング剤を含有してもよい。
【0041】
界面活性剤又はレベリング剤としては、例えば、ポリオキシエチレンウラリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル等が挙げられる。
【0042】
市販品としては、メガファックスF171、F173、R−08(大日本インキ化学工業株式会社(DIC株式会社)製、商品名)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム株式会社製、商品名)、オルガノシロキサンポリマーKP341、KBM303、KBM403、KBM803(信越化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0043】
本発明の樹脂組成物の25℃における粘度は、使用用途・目的にもよるが、塗布工程における作業性の観点から、0.5〜100Pa・sが好ましく、1〜30Pa・sがより好ましく、5〜20Pa.sが特に好ましい。ここで、粘度はE型粘度計(東機産業株式会社製VISCONICEHD)を用い、測定できる。
【0044】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、(a)ポリアミド酸を合成した際に用いた溶媒と(b)有機溶剤が同一の場合には、合成したポリアミド酸溶液を樹脂組成物とすることができる。また、必要に応じて、室温(25℃)〜80℃の温度範囲で、(b)成分及び他の添加剤を添加して、攪拌混合してもよい。
この攪拌混合は撹拌翼を備えたスリーワンモータ(新東化学株式会社製)、自転公転ミキサー等の装置を用いることができる。また必要に応じて40〜100℃の熱を加えてもよい。
【0045】
また、(a)ポリアミド酸を合成した際に用いた溶媒と(b)有機溶剤が異なる場合には、合成したポリアミド酸溶液中の溶媒を、再沈殿や溶媒留去の方法により除去し、(a)ポリアミド酸を得た後に、室温〜80℃の温度範囲で、(b)有機溶剤及び必要に応じて他の添加剤を添加して、攪拌混合してもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置の透明基板を形成するために用いることができる。
具体的には、薄膜トランジスタ(TFT)の基板、カラーフィルタの基板、透明導電膜(ITO、IndiumThinOxide)の基板等を形成するために用いることができる。
【0047】
[ポリイミド成形体]
本発明のポリイミド成形体は、本発明の樹脂組成物を基材に塗布、乾燥して得られた樹脂膜を形成し、これを加熱処理(イミド化)することにより得ることができる。また、該ポリイミド成形体は、使用用途・目的により、膜状、フィルム状、シート状等の形態として用いることができる。
【0048】
上記ポリイミド成形体の製造方法は、好ましくは(1)本発明の樹脂組成物を基材上に塗布し、樹脂膜を形成する工程、(2)塗布した樹脂膜を80〜200℃の熱で乾燥し、樹脂膜を形成する工程、(3)乾燥後の樹脂膜を加熱処理する工程として、300℃以上の加熱により樹脂組成物中のポリイミド前駆体をイミド化する工程からなる。
【0049】
(1)塗布工程
塗布工程で使用される塗布方法は、特に制限はなく、所望の塗布厚や樹脂組成物の粘度等に応じて、公知の塗布方法を適宜選択して使用できる。具体的には、ドクターブレードナイフコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、フローコーター、ダイコーター、バーコーター等の塗布方法、スピンコート、スプレイコート、ディップコート等の塗布方法、スクリーン印刷やグラビア印刷等に代表される印刷技術を応用することもできる。
【0050】
樹脂組成物を塗布する基材としては、その後の工程の乾燥温度における耐熱性を有し、剥離性が良好であれば特に限定されない。例えば、ガラス、シリコンウエハ等からなる基材、PET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP(延伸ポリプロピレン)等からなる支持体が挙げられる。また、膜状のポリイミド成形体ではガラスやシリコンウエハ等からなる被コーティング物が挙げられ、フィルム状及びシート状のポリイミド成形体ではPET(ポリエチレンテレフタラート)、OPP(延伸ポリプロピレン)等からなる支持体が挙げられる。基板としては他に、ガラス基板、ステンレス、アルミナ、銅、ニッケル等の金属基板、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂基板等が用いられる。
【0051】
本発明の樹脂組成物の塗布厚は、目的とする成形体の厚さと樹脂組成物中の樹脂不揮発成分の割合により適宜調整されるものであるが、通常1〜1000μm程度である。樹脂不揮発成分は上述の測定方法により求められる。塗布工程は、通常室温で実施されるが、粘度を下げて作業性をよくする目的で樹脂組成物を40〜80℃の範囲で加温して実施してもよい。
【0052】
塗布工程に続き、(2)乾燥工程を行う。乾燥工程は、有機溶剤除去の目的で行われる。乾燥工程はホットプレート、箱型乾燥機やコンベヤー型乾燥機等の装置を利用することができき、80〜200℃で行うことが好ましく、100〜150℃で行うことがより好ましい。
【0053】
続いて(3)加熱工程を行う。加熱工程は(2)乾燥工程で樹脂膜中に残留した有機溶剤の除去を行うとともに、樹脂組成物中のポリアミド酸のイミド化反応を進行させ、硬化膜を得る工程である。
加熱工程は、イナートガスオーブンやホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の装置を用いて行う。この工程は前記(2)乾燥工程と同時に行っても、逐次的に行ってもよい。
【0054】
加熱工程は、空気雰囲気下でもよいが、安全性及び酸化防止の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が挙げられる。加熱温度は(b)有機溶剤の種類にもよるが、250℃〜400℃が好ましく、300〜350℃がより好ましい。250℃より低いとイミド化が不十分となり、400℃より高いとポリイミド成形体の透明性が低下したり、耐熱性が悪化する恐れがある。加熱時間は、通常0.5〜3時間程度である。
【0055】
また、ポリイミド成形体の使用用途・目的によっては、(3)加熱工程の後、(4)基材から硬化膜を剥離する剥離工程が必要となる。この剥離工程は、基材上の成形体を室温〜50℃程度まで冷却後、実施される。剥離作業を容易に実施するため、本発明の樹脂組成物を塗布する前に、必要に応じて基材へ離型剤を塗布しておいてもよい。
離型剤としては、植物油系、シリコン系、フッ素系、アルキッド系等の離型剤が挙げられる。
【0056】
得られたポリイミド成形体は、用途に応じて、レジストプロセスによりパターンを形成することもできる。レジストプロセスは例えば、(3)加熱工程又は(4)剥離工程の後、レジストを塗布し、露光及び現像等によりパターンを形成する。
レジスト材料及びエッチングに用いられる材料は、通常のレジストプロセスで用いられるものであれば、特に制限はない。例えば、一般によく知られたエッチング溶液としては、ヒドラジン水和物、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等がある。
【0057】
また、これらの湿式エッチングの他に、酸素プラズマエッチング、酸素スパッタエッチング等の乾式方法も可能である。パターン形成後、有機溶剤を用いてレジストをポリイミド成形体から剥離する。有機溶剤としては、エタノールアミン、NMP、DMSO等が挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0058】
本発明のポリイミド成形体の製造方法は、膜厚1〜500μmのポリイミド成形体を製造する場合に有用である。特に膜厚1〜100μmのポリイミド成形体を製造することが、本発明の効果をより向上させるため好ましい。
【0059】
本発明の(3)加熱工程後のポリイミド成形体中の残存有機溶剤量は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。ポリイミド成形体中の残存有機溶剤量は、示差熱重量同時測定(TG−DTA)及びガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)して測定できる。
【0060】
上記の製造方法により得られた本発明のポリイミド成形体の透明性は、波長400nm以上における光透過率が、膜厚10μmで70%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。
また、本発明のポリイミド成形体の複屈折は0.12以下が好ましく、0.08以下がより好ましい。光通信分野、表示装置分野に利用されるポリイミド成形体として十分な透明性、低複屈折率を有すると評される値である。
【0061】
本発明のポリイミド成形体のCTE(熱膨張係数)は幅方向及び操作方向共に、1〜45ppmが好ましく、5〜45ppmがより好ましく、5〜30ppmがさらに好ましい。ポリイミド成形体が基板(被コーティング物)と一体とする状態で使用される場合、該ポリイミド成形体の線熱膨張係数はその被コーティング物と同程度となるように調整することが好ましい。
【0062】
本発明のポリイミド成形体のガラス転移温度(Tg)は、250〜400℃が好ましく、300〜400℃がより好ましい。光通信分野、表示装置分野に利用されるポリイミド成形体として十分な耐熱性を有すると評される値である。
ガラス転移温度は、実施例に記載した方法で測定できる。
また、CTE及びガラス転移温度(Tg)はセイコーインスツル株式会社製TMA/SS6000によってTMA測定を行い求められる。
【0063】
本発明のポリイミド成形体の機械的物性は、弾性率(引張弾性率)が幅方向及び操作方向共に1.5GPa〜6.0GPaが好ましく、1.7〜6.0GPaがより好ましく、1.7〜5.5GPaがさらに好ましい。弾性率が6.0GPaより大きいと、硬化後に基材が反る傾向がある。
【0064】
引張強さ(破断強度)は150〜300MPaが好ましく、150〜200MPaがより好ましい。引張強さが150MPaより小さいと膜が脆く、基材として用いた場合に取り扱いが難しくなる恐れがある。
破断伸びは5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。破断伸びが5%より小さいと、ポリイミド成形体を基材として用いた場合の曲げ応力が弱く、基材の信頼性が低下する。
【0065】
これらの機械特性は、全て引張試験装置の引張試験により求めることができる。ポリイミド成形体がこれらの機械的物性を有していれば、光通信分野、表示装置分野に利用されるポリイミド成形体としては十分な靭性を有するとされ、実用的に用いることができる。
【0066】
[透明基板・保護膜/電子部品]
本発明の透明基板及び保護膜は、上記ポリイミド成形体からなることを特徴とする。その製造方法は、従来公知の製造方法を用いることができる。例えば、本発明の樹脂組成物を仮固定基材に塗布し、乾燥及び加熱を行い、次いで用途に応じて上記レジストプロセスを行い、透明基板として使用することができる。
また、本発明の樹脂組成物を仮固定基材に塗布し、乾燥及び加熱を行い、仮固定基材から剥離して保護膜として用いることができる。
【0067】
本発明の透明基板及び保護膜は、十分な透明性を有し、CTEが小さく、弾性率が小さく、かつ複屈折が小さいため、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置に使用することができる。
【0068】
具体的には、本発明の透明基板は、薄膜トランジスタ(TFT)を形成するための基板、カラーフィルタを形成するための基板、透明導電膜(ITO、IndiumThinOxide)を形成するための基板等、として用いることができる。本発明の透明基板を用いた場合、従来のガラス基板の課題であった、耐破損性を向上することができ、また、基板の軽量化、薄型化を実現できると考えられる。
【0069】
さらに、本発明の透明基板は、CTEが小さいため、TFT形成時の加熱工程における位置あわせ精度の悪化を防ぐことができ、また、透明性が高く、複屈折が小さいため、視認性に優れる。
また、本発明の透明基板は、弾性率が小さいため、フレキシブルディスプレイの基板としても用いることができる。
【0070】
本発明の保護膜は、フレキシブルディスプレイ基板、カラーフィルタ用保護膜等として用いることもできる。また本発明の保護膜は、太陽電池の表面保護膜等としても用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
実施例1
攪拌機、温度計を備えた0.2リットルのフラスコ中に、N−メチルピロリドン(NMP)56g(564mmol)と1,4−ジアミノシクロヘキサン3.43g(30mmol)を仕込み、撹拌した後、乾燥機で(160℃、24時間)加熱し脱水閉環させた3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物8.39g(28.5mmol)、及び4,4’−オキシジフタル酸二無水物0.47g(1.5mmol)を、添加し、70℃のウォーターバスで10分間、加熱攪拌し完全に溶解させた。その後、分子量が一定となるまで約70時間撹拌してポリアミド酸溶液を得た。
【0073】
得られたポリアミド酸の重量平均分子量及び分散度を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法標準ポリスチレン換算により求めた。重量平均分子量は31,000、分散度は2.4であった。
【0074】
重量平均分子量及び分散度の測定条件は以下の通りである。
測定装置:検出器 株式会社日立製作所社製L4000UV
ポンプ:株式会社日立製作所社製L6000
株式会社島津製作所社製C−R4AChromatopac
測定条件:カラム 日立化成工業株式会社製GelpackGL−S300MDT−5×2本
溶離液:THF/DMF=1/1(容積比)
LiBr(0.03mol/l)、H
3PO
4(0.06mol/l)
流速:1.0ml/分、検出器:UV270nm
ポリマー0.5mgに対して溶媒[THF/DMF=1/1(容積比)]1mlの溶液を用いて測定した。
【0075】
得られたポリアミド酸溶液(樹脂組成物)を塗布しやすい粘度までNMPで希釈した。この樹脂組成物の残存固形分(NV)を測定したところ14%であった。ここで、残存固形分は樹脂組成物中の樹脂不揮発分の割合であり、上述の樹脂不揮発分を測定する方法で求めた。
【0076】
この希釈液を5μmのフィルター(Millipore社製、SLLS025NS)を用いてろ過し、得られた樹脂組成物をシリコンウエハ上にスピンコートして、120℃で3分間乾燥し、膜厚14〜18μmの樹脂膜を形成した。これをさらにイナートガスオーブンを用いて窒素雰囲気下で加熱し、膜厚10μmの硬化膜を得た。
また合成反応中の塩形成を評価した。塩が生じなかった場合又は塩の形成を確認できるが樹脂組成物中の溶媒に容易に溶解する場合をA、塩が形成し、容易に溶媒に溶解しない場合をBとして評価を行なったところ、実施例1の樹脂組成物はBであった。
【0077】
イナートガスオーブンによる加熱条件は以下の通りである。
装置:光洋サーモシステム株式会社製イナートガスオーブン
条件:昇温 室温〜200℃(5℃/分)
ホールド 200℃(20分)
昇温 200℃〜300℃(5℃/分)
ホールド 300℃(60分)
冷却 300℃〜室温(60分)
【0078】
得られた硬化膜について以下の評価を行った。
(複屈折の評価)
セキテクノトロン株式会社製メトリコン2010型を用い、1300nmの波長におけるY偏波での屈折率(TE)と、X偏波での屈折率(TM)の値を測定し、(式1)によって複屈折を求めた。
複屈折=TE−TM (式1)
複屈折が0.08以下のものをA(特に良好)、0.08よりも大きく0.12以下のものをB(良好)、0.12よりも大きいものをC(良くない)とした。
【0079】
(透過率、熱膨張係数(CTE)、ガラス転移温度、及び機械強度の評価)
4.9質量%フッ酸水溶液を用いて、得られた硬化膜をシリコンウエハより剥離し、水洗、乾燥した後、透過率、CTE、ガラス転移温度(Tg)、機械強度の評価を行なった。
【0080】
光透過率は、U−3310(株式会社日立製作所製スペクトロフォトメーター)を用いて波長400nm以上の光透過率を測定し、Lambert−Beerの法則を用いて10μm換算した値を求めた。
【0081】
CTEは、セイコー社製TMA/SS6000の熱機械測定装置を用いて測定した。具体的には、硬化膜を2mm×3cmに切り取り、セイコー社製TMA/SS6000の熱機械測定装置を用いて、10g/分の加重をかけながら30〜420℃まで(昇温速度5℃/分)加熱した。その際の100〜200℃間の硬化膜の伸び率の傾きを測定してCTEとした。
CTEが30ppm/K以下の場合をA(特に良好)、30ppm/Kより大きく45ppm/K以下の場合をB(良好)、45ppm/Kより大きい場合をC(良くない)とした。
【0082】
ガラス転移温度は、セイコーインスツル株式会社製TMA/SS6000を用い、昇温速度5℃/分にて熱膨張係数の変曲点より求めた。
【0083】
機械強度(弾性率、破断伸び及び破断強度)は、島津製作所社製オートグラフAGS−100NHを用いて引張試験より求めた。
弾性率は5.5GPa以下のものをA(特に良好)、5.5GPaより大きく6.0GPa以下のものをB、6.0GPaより大きいものをC(良くない)とした。
【0084】
(薬液耐性の評価)
得られた硬化膜を、ジメチルスルホキシド:モノエタノールアミン=30:70の溶液に80℃で10分間浸漬し、硬化膜の薬液耐性を評価した。硬化膜にクラックが無いものをA、クラックが入ったものをBと評価した。
また、薬液耐性の評価試験前後の膜厚の変化が±0.3μm未満のものをA、±0.3以上±0.5μm以下のものをB、±0.5μmより大きいものをCとした。
【0085】
実施例2〜8、比較例1〜5
アミン、酸及びこれらの量を表1のように変更した他は、実施例1と同様にしてポリアミド酸を合成し、樹脂組成物及び硬化膜を作製し、これらの評価を行った。
アミン1〜3、酸1〜4は下記の通りである。
アミン1:1,4−ジアミノシクロヘキサン
アミン2:3,3’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
アミン3:p−フェニレンジアミン
酸1:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸
酸2:3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテル
酸3:シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1〜8で得られた硬化膜は、300℃以上の高温での加熱処理を経ても良好な透過率を示し、CTEが小さく、複屈折も小さく、かつ弾性率も小さかった。本発明のポリイミド前駆体は、透明性、CTE及び機械強度を全て満足させる硬化膜を与えることが分かった。
さらに、実施例1〜8で得られた硬化膜は、いずれも薬液耐性に優れることが分かった。
【0088】
一方、比較例1のように、3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテルを含まない場合、弾性率及び複屈折が大きくなってしまった。
また、比較例2のように、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を使用しない場合、CTEが大きくなってしまった。
【0089】
また、比較例3〜5のように、1,4−ジアミノシクロヘキサン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸及び3,3’,4,4’−テトラカルボキシジフェニルエーテルの組み合わせから得られるポリイミド前駆体を用いない場合、得られる硬化膜は透明性、CTE、機械特性及び複屈折の全てを満足させることはできなかった。