特許第6262024号(P6262024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262024
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20180104BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20180104BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   H01L21/30 541D
   H01L21/30 541W
   H01L21/30 541B
   G03F7/20 504
   H01J37/305 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-41814(P2014-41814)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-167212(P2015-167212A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100088487
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 允之
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 宗博
【審査官】 今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−243803(JP,A)
【文献】 特開2013−197289(JP,A)
【文献】 特開2007−287495(JP,A)
【文献】 特開2006−216396(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0295203(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0240750(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/30−37/36
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部が形成され、前記複数の開口部全体が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の開口部を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
前記アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数のブランカーが配置されたブランキングプレートと、
前記複数のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
前記アパーチャ部材を格子として用いた、荷電粒子ビームの球面収差を補正する格子レンズと、
前記格子レンズによって生じた高次の球面収差を補正する補正レンズと、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記補正レンズとして、静電レンズを用いることを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記補正レンズは、前記ブランキングプレートを格子として用いて、前記格子レンズとは異なる別の格子レンズを構成し、
前記補正レンズは、前記アパーチャ部材或いは前記ブランキングプレートに対して、前記格子レンズとは反対側に配置されることを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記アパーチャ部材の前記領域に前記荷電粒子ビームを照明する照明レンズをさらに備え、
前記補正レンズとして、コイルレンズを前記照明レンズの磁場内に配置することを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部が形成され、前記複数の開口部全体が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の開口部を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
前記アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数のブランカーが配置されたブランキングプレートと、
前記アパーチャ部材の前記領域に前記荷電粒子ビームを照明する照明レンズと、
前記複数のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
前記照明レンズと前記アパーチャ部材の間に配置された、荷電粒子ビームの球面収差を補正するフォイルレンズと、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置に係り、例えば、ステージ上の試料にマルチビームを照射する際の収差を補正する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、ウェハ等へ電子線を使って描画することが行われている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。かかるマルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったマスクに通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが試料上の所望の位置へと照射される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
マルチビーム描画では、マルチビーム全体でのビームサイズが大きくなるので、クロスオーバ結像系の光軸上の収差が大きくなってしまう。そのため、クロスオーバ付近に配置するブランキング用のアパーチャ(コントラストアパーチャ)の開口部径を大きくする必要が生じる。しかし、アパーチャの開口部径を大きくすると、ブランキング制御するためのブランキング電圧を高める必要があるという新たな問題が生じてしまう。そのため、マルチビームの幾何学収差自体を小さくすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−261342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、マルチビームの幾何学収差を補正することが可能な描画装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部が形成され、複数の開口部全体が含まれる領域に荷電粒子ビームの照射を受け、複数の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数のブランカーが配置されたブランキングプレートと、
複数のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
アパーチャ部材を格子として用いた、荷電粒子ビームの球面収差を補正する格子レンズと、
格子レンズによって生じた高次の球面収差を補正する補正レンズと、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、補正レンズとして、静電レンズを用いると好適である。
【0009】
また、補正レンズは、ブランキングプレートを格子として用いて、格子レンズとは異なる別の格子レンズを構成し、
補正レンズは、アパーチャ部材或いはブランキングプレートに対して、格子レンズとは反対側に配置されると好適である。
【0010】
また、アパーチャ部材の上述した領域に荷電粒子ビームを照明する照明レンズをさらに備え、
補正レンズとして、コイルレンズを照明レンズの磁場内に配置すると好適である。
【0011】
本発明の他の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部が形成され、複数の開口部全体が含まれる領域に荷電粒子ビームの照射を受け、複数の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数のブランカーが配置されたブランキングプレートと、
アパーチャ部材の領域に荷電粒子ビームを照明する照明レンズと、
複数のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
照明レンズとアパーチャ部材の間に配置された、荷電粒子ビームの球面収差を補正するフォイルレンズと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、マルチビームの幾何学収差を補正できる。これにより、ブランキング用のアパーチャの開口径を小さくできると共に、ブランキング電圧を小さくできる。また、本発明の一態様によれば、特に、マルチビームの高次の幾何学収差を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図2】実施の形態1におけるアパーチャ部材の構成を示す概念図である。
図3】実施の形態1におけるブランキングプレートの構成を示す概念図である。
図4】実施の形態1における描画動作を説明するための概念図である。
図5】実施の形態1における比較例1の描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。
図6】実施の形態1における比較例2の描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。
図7】実施の形態1における描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。
図8】実施の形態1におけるマルチビームの軌道ずれ量とレンズ印加電圧との関係の一例を示す図である。
図9】実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
図10】実施の形態2における描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。
図11】実施の形態3における描画装置の構成を示す概念図である。
図12】実施の形態4における描画装置の構成を示す概念図である。
図13】実施の形態4における描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0015】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキングアパーチャアレイ212、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ)、対物レンズ207、及び、電極組214,静電レンズ218が配置されている。ブランキングアパーチャアレイ212内には、電子銃201側(上流側)からアパーチャ部材203と、ブランキングプレート204とが配置される。
【0016】
また、電極組214は、照明レンズ202とブランキングアパーチャアレイ212との間に配置され、少なくとも2段の中央が開口した電極から構成され、照明レンズ202側に接地電極と、ブランキングアパーチャアレイ212にもっとも近い位置に配置される、電圧が印加される電極とを有する。電極組214によって静電レンズを構成する。電極組214とアパーチャ部材203とによって格子レンズ216を構成する。また、静電レンズ218(補正レンズ)は、少なくとも3段の中央が開口した電極から構成され、接地された少なくとも2段の電極の間に配置された、少なくとも1段の、電圧が印加される、電極を有するアインツェルレンズであって、照明レンズ202と電極組214との間に配置される。
【0017】
描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。
【0018】
また、縮小レンズ205と対物レンズ207は、共に、電磁レンズで構成され、磁場が逆方向で励磁の大きさが等しくなるように配置される。
【0019】
制御部160は、制御計算機110、制御回路112、レンズ制御回路120,122、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。制御計算機110、制御回路112、レンズ制御回路120,122、及び記憶装置140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0020】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0021】
図2は、実施の形態1におけるアパーチャ部材の構成を示す概念図である。図2(a)において、アパーチャ部材203には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。図2(a)では、例えば、512×8列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。ここでは、y方向の各列について、x方向にAからHまでの8つの穴22がそれぞれ形成される例が示されている。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、図2(a)にように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。図2(b)に示すように、例えば、縦方向(y方向)1段目の列と、2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)2段目の列と、3段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0022】
図3は、実施の形態1におけるブランキングプレートの構成を示す概念図である。ブランキングプレート204には、アパーチャ部材203の各穴22の配置位置に合わせて通過孔が形成され、各通過孔には、対となる2つの電極24,26の組(ブランカー:第1の偏向器)が、それぞれ配置される。各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立にかかる対となる2つの電極24,26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。このように、複数のブランカーが、アパーチャ部材203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0023】
制御計算機110は、記憶装置140から描画データを読み出し、複数段のデータ変換をおこなって、ショットデータを生成する。ショットデータには、例えば、試料101の描画面を例えばビームサイズで格子状の複数の照射領域に分割した各照射領域への照射有無、及び照射時間等が定義される。制御計算機110は、ショットデータに基づいて、制御回路112に制御信号を出力し、制御回路112は、かかる制御信号に沿って描画部150を制御する。描画部150は、制御回路112による制御のもと、マルチビーム20を用いて試料101にパターンを描画する。その際、レンズ制御回路120は、電極組214を制御して、電極組214に電圧を印加する。レンズ制御回路122は、静電レンズ218を制御して、静電レンズ218に電圧を印加する。描画部150の動作は以下のようになる。
【0024】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直にアパーチャ部材203全体を照明する。アパーチャ部材203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかるアパーチャ部材203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングプレート204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する(ブランキング偏向を行う)。そして、ブランキングプレート204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかるブランカーのON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、複数のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20のパターン像は、対物レンズ207により焦点が合わされ、試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。
【0025】
描画装置100は、XYステージ105が移動しながらショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0026】
図4は、実施の形態1における描画動作を説明するための概念図である。図4(a)に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。かかる各ストライプ領域32は、描画単位領域となる。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は所定の速度で例えば連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、図4(b)に示すように、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向にむかって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、図4(c)に示すように、アパーチャ部材203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、各穴22と同数の複数のショットパターン36が一度に形成される。例えば、アパーチャ部材203の1つの穴Aを通過したビームは、図4(c)で示す「A」の位置に照射され、その位置にショットパターン36を形成する。同様に、例えば、アパーチャ部材203の1つの穴Bを通過したビームは、図4(c)で示す「B」の位置に照射され、その位置にショットパターン36を形成する。以下、C〜Hについても同様である。そして、各ストライプ32を描画する際、x方向に向かってXYステージ105が移動する中、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画する。
【0027】
図5は、実施の形態1における比較例1の描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。図5に示す比較例1では、電極組214,静電レンズ218が無い点以外は、図1の描画部150と同様である。上述したように、マルチビーム描画では、マルチビーム全体でのビームサイズが大きくなるので、クロスオーバ結像系の光軸上の収差(特に球面収差)が大きくなってしまう。そのため、クロスオーバ付近に配置するブランキング用の制限アパーチャ206(コントラストアパーチャ)の開口部径を大きくする必要が生じる(A部参照)。しかし、アパーチャの開口部径を大きくすると、ブランキング制御するためのブランキング電圧を高める必要があるという新たな問題が生じてしまう。
【0028】
図6は、実施の形態1における比較例2の描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。図6に示す比較例2では、静電レンズ218が無い点以外は、図1の描画部150と同様である。言い換えれば、図6の比較例2では、電極組214が照明レンズ202とブランキングアパーチャアレイ212との間に配置され、電極組214とアパーチャ部材203とによって格子レンズ216を構成する。格子レンズは、球面収差の補正に有効である。かかる格子レンズによって、3次項までの球面収差は補正が可能となる。しかしながら、図6の比較例2の格子レンズ216だけでは、5次項の球面収差が残ってしまう。言い換えれば、格子レンズ216によって3次項までの球面収差を小さくする代わりに、5次項(高次)の球面収差が大きくなってしまう。
【0029】
元々、図5の比較例1の状態では、3次の球面収差は大きく、5次の球面収差は小さい。そこへ、図6の比較例2では、負の球面収差を持つ格子レンズを働かせるので、両方合わせると、3次の球面収差は小さくなるが、5次の球面収差が大きくなってしまう。例えば、試料面における電子軌道の座標x、y、およびその軌道中心軸座標zに関する微分x’、y’に対して、wをw=x+iy(iは虚数単位)、w’をw’=x’+iy’(’は軌道中心軸座標zに関する微分)とあらわした際に、z軸に関して回転対称な系では、2個のw'と1個のwb'との積wb’w’w’に比例する収差(wb’はw’の複素共役)が3次の球面収差となる。また、3個のw'と2個のwb'との積wb’wb’w’w’w’に比例する収差が5次の球面収差となる(bは複素共役)。従来のシステムでは、5次の収差は問題にならなかったが、3次の収差を補正した場合、5次の収差を考える必要がある。実施の形態1では、かかる5次項の球面収差についても補正する。
【0030】
図7は、実施の形態1における描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。図7に示すように、実施の形態1における描画装置100では、照明レンズ202と電極組214との間に静電レンズ218(補正レンズ)を配置する。静電レンズ218は、格子レンズ216によって生じた高次(例えば5次項)の球面収差を補正する。
【0031】
図8は、実施の形態1におけるマルチビームの軌道ずれ量とレンズ印加電圧との関係の一例を示す図である。図8において、縦軸にマルチビームの軌道ずれ量を示し、横軸にレンズ印加電圧を示している。図8(a)では、格子レンズ216によって3次項までの球面収差を小さくしている状態を示す。しかし、図8(a)に示すように、3次項までの球面収差を小さくする代わりに、5次項の球面収差が大きくなってしまう。そこで、実施の形態1では、図8(b)に示すように、静電レンズ218によって、3次項球面収差と5次項球面収差をあえて発生させるように電圧を設定する。その際、図8(c)に示すように、格子レンズ216による3次項の球面収差と5次項球面収差をできるだけ相殺するように、静電レンズ218によって、3次項球面収差と5次項球面収差をあえて発生させるように電圧を設定する。言い換えれば、格子レンズ216と静電レンズ218による3次項の球面収差と5次項球面収差とを互いに打ち消すように電極組214,218のレンズ値(電圧)をそれぞれ印加する。かかる制御によって、結果的に、図8(c)に示すようにマルチビームの軌道ずれ量を小さくできる。
【0032】
格子レンズ216と静電レンズ218(補正レンズ)とに印加する電圧は、格子レンズ216と静電レンズ218(補正レンズ)とによって、3次項の球面収差と5次項球面収差ができるだけ小さくなるような電圧の組(或いは電圧比)の関係を予め実験等により求めておけばよい。得られた電圧の組(或いは電圧比)の相関データは相関テーブルとして記憶装置142に格納しておく。そして、描画装置100の立ち上げ調整の際、制御計算機110は、記憶装置142から相関テーブルを読み出し、軌道ずれ量がより小さくなる電圧の組(或いは電圧比)を読み出し、レンズ制御回路120,122にそれぞれ対応する電圧を示す制御信号を出力する。そして、レンズ制御回路120は、電極組214に電圧の組(或いは電圧比)の関係になる一方の電圧を印加する。同様に、レンズ制御回路122は、静電レンズ218に電圧の組(或いは電圧比)の関係になる他方の電圧を印加する。
【0033】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチビームの幾何学収差を補正できる。よって、ブランキング用のアパーチャの開口径を小さくできると共に、ブランキング電圧を小さくできる。また、実施の形態1によれば、特に、マルチビームの高次の幾何学収差を補正できる。
【0034】
実施の形態2.
実施の形態1では、高次の収差を補正する補正レンズを、照明レンズ202と電極組214との間に配置する例を示したが、これに限るものではない。実施の形態2では、異なる位置に補正レンズを配置する場合について説明する。
【0035】
図9は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。図9において、静電レンズ218の代わりに、静電レンズ220(補正レンズ)をブランキングアパーチャアレイ212と縮小レンズ205の間に配置した点、レンズ制御回路122の代わりに、静電レンズ220を制御するレンズ制御回路124を配置した点以外は、図1と同様である。静電レンズ220は、ブランキングアパーチャアレイ212の直下に配置されると好適である。静電レンズ220(補正レンズ)は、ブランキングプレート204を格子として用いて、格子レンズ216とは異なる別の格子レンズ222を構成する。なお、そのために、静電レンズ220(補正レンズ)は、アパーチャ部材203或いはブランキングプレート204に対して、格子レンズ216とは反対側に配置される。また、以下、特に説明しない内容は、実施の形態1と同様である。
【0036】
図10は、実施の形態2における描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。図10に示すように、実施の形態2における描画装置100では、アパーチャ部材203或いはブランキングプレート204に対して、格子レンズ216とは反対側に静電レンズ220(補正レンズ)を配置する。静電レンズ220は、格子レンズ222を構成し、格子レンズ216によって生じた高次(例えば5次項)の球面収差を補正する。格子レンズ216によって3次項までの収差が補正されたマルチビームは、アパーチャ部材203を通過するまでは5次項の球面収差が大きく生じた状態で進むことになる。ブランキングプレート204と静電レンズ220とよって構成される格子レンズ222によって、3次項の球面収差と5次項の球面収差を抑制し、結果として、マルチビームの軌道ずれがより小さくなるようにマルチビームに生じた球面収差が補正される。
【0037】
格子レンズ216(電極組214)と格子レンズ222(静電レンズ220:補正レンズ)とに印加する電圧は、格子レンズ216と格子レンズ222(静電レンズ220:補正レンズ)とによって、3次項の球面収差と5次項球面収差ができるだけ小さくなるような電圧の組(或いは電圧比)の関係を予め実験等により求めておけばよい。得られた電圧の組(或いは電圧比)の相関データは相関テーブルとして記憶装置142に格納しておく。そして、描画装置100の立ち上げ調整の際、制御計算機110は、記憶装置142から相関テーブルを読み出し、軌道ずれ量がより小さくなる電圧の組(或いは電圧比)を読み出し、レンズ制御回路120,124にそれぞれ対応する電圧を示す制御信号を出力する。そして、レンズ制御回路120は、電極組214に電圧の組(或いは電圧比)の関係になる一方の電圧を印加する。同様に、レンズ制御回路124は、静電レンズ220に電圧の組(或いは電圧比)の関係になる他方の電圧を印加する。
【0038】
以上のように、実施の形態2によれば、ブランキングプレート204を利用した補正レンズとの組み合わせによる格子レンズにより、実施の形態1と同様、マルチビームの高次の幾何学収差を補正できる。
【0039】
実施の形態3.
実施の形態1,2では、高次の収差を補正する補正レンズを、照明レンズ202や縮小レンズ205といった電磁レンズの磁場とは関係ない位置に配置したが、これに限るものではない。
【0040】
図11は、実施の形態3における描画装置の構成を示す概念図である。図11において、静電レンズ218の代わりに、コイルレンズ(電磁レンズ)224(補正レンズ)を照明レンズ202の磁場内に配置する点、レンズ制御回路122の代わりに、コイルレンズ224を制御するレンズ制御回路126を配置した点以外は、図1と同様である。コイルレンズ224は、自身に印加された電圧により生じる磁場の影響が照明レンズ202の磁場に効率よく作用させるため、コイルレンズ224は、照明レンズ202の磁場中に完全に含まれる位置に配置されると好適である。また、以下、特に説明しない内容は、実施の形態1と同様である。
【0041】
格子レンズ216(電極組214)とコイルレンズ224(補正レンズ)とに印加する電圧は、格子レンズ216とコイルレンズ224とによって、3次項の球面収差と5次項球面収差ができるだけ小さくなるような電圧の組(或いは電圧比)の関係を予め実験等により求めておけばよい。得られた電圧の組(或いは電圧比)の相関データは相関テーブルとして記憶装置142に格納しておく。そして、描画装置100の立ち上げ調整の際、制御計算機110は、記憶装置142から相関テーブルを読み出し、軌道ずれ量がより小さくなる電圧の組(或いは電圧比)を読み出し、レンズ制御回路120,126にそれぞれ対応する電圧を示す制御信号を出力する。そして、レンズ制御回路120は、電極組214に電圧の組(或いは電圧比)の関係になる一方の電圧を印加する。同様に、レンズ制御回路126は、コイルレンズ224に電圧の組(或いは電圧比)の関係になる他方の電圧を印加する。
【0042】
以上のように、実施の形態3によれば、照明系の電磁レンズの磁場内に補正レンズを配置することにより、実施の形態1と同様、マルチビームの高次の幾何学収差を補正できる。
【0043】
実施の形態4.
上述した各実施の形態では、アパーチャ部材203を利用した格子レンズ216を前提とした構成を説明したが、実施の形態4では、アパーチャ部材203を利用した格子レンズ216を用いない場合について説明する。
【0044】
図12は、実施の形態4における描画装置の構成を示す概念図である。図12において、電極組214,静電レンズ218の代わりに、フォイルレンズ230を照明レンズ202とブランキングアパーチャアレイ212との間に配置する点、レンズ制御回路120,122の代わりに、フォイルレンズ230(静電レンズ226)を制御するレンズ制御回路128を配置した点以外は、図1と同様である。フォイルレンズ230は、静電レンズ226とフォイル228とを有している。また、以下、特に説明しない内容は、実施の形態1と同様である。
【0045】
上述した各実施の形態では、アパーチャ部材203を利用して格子レンズ216を構成するため、アパーチャ部材203の近くに電極組214を配置する必要があった。これに対して、実施の形態4では、フォイル228を有するフォイルレンズ230を用いているので、配置位置がアパーチャ部材203の近くに限定されることを防ぐことができる。
【0046】
ここで、フォイル228は、電子(荷電粒子)を透過することが可能な材料によって構成される。例えば、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜或いはグラフェン等を用いると好適である。原子番号の小さい炭素からなるDLC或いはグラフェン等を用いることで電子の散乱を抑制できる。また、フォイル228は、マルチビーム全体のサイズよりも大きいサイズで作成され、マルチビーム全体或いはアパーチャ部材203の複数の開口部全体と重なるように配置される。
【0047】
また、図12の例では、フォイルレンズ230として、上流側に静電レンズ226が、下流側にフォイル228が配置されているが、配置位置は逆であってもよい。
【0048】
かかるフォイルレンズ230により電子ビーム(マルチビーム)の球面収差を補正する。
【0049】
図13は、実施の形態4における描画装置の構成と収差との関係を説明するための概念図である。図13に示すように、実施の形態4における描画装置100では、照明レンズ202とアパーチャ部材203の間にフォイルレンズ230を配置する。フォイルレンズ230によって、電子ビーム(マルチビーム)の3次項までの球面収差を補正できる。図13の例では、5次項の球面収差が残ることになるが、アパーチャ部材203による配置位置の制限を受けない分、設計の自由度を向上できる。
【0050】
レンズ制御回路128は、静電レンズ226にかかる電圧を印加する。
【0051】
実施の形態4の構成に、実施の形態1〜3の補正レンズを組み合わせることで、高次の球面収差を補正する。
【0052】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述したラスタースキャン動作は一例であって、マルチビームを用いたラスタースキャン動作その他の動作方法であってもよい。
【0053】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0054】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画方法及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
20 マルチビーム
22 穴
24,26 電極
30 描画領域
32 ストライプ領域
34 照射領域
36 ショットパターン
100 描画装置
101,340 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 制御回路
120,122,124,126,128 レンズ制御回路
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 アパーチャ部材
204 ブランキングプレート
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ部材
207 対物レンズ
212 ブランキングアパーチャアレイ
214 静電レンズを構成する電極組
218,220,226 静電レンズ
216,222 格子レンズ
224 コイルレンズ
228 フォイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13