(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前面側に吸気面、背面側に排気面を有し、かつ標準温度域で動作保証された標準情報通信機器と、前面側に吸気面、背面側に排気面を有し、かつ前記標準温度域よりも高い温度域まで動作保証された高温耐用情報通信機器と、を収容した室の空調システムであって、
前記標準情報通信機器の前面側が同一面側となるように列状に配置された標準機器列と、前記高温耐用情報通信機器の前面側が同一面側となるように列状に配置された高温耐用機器列とが、同列上に配置され、かつ前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間に、前記高温耐用機器列の前面側が対面するように前記高温耐用機器列が配置され、
前記高温耐用機器列からの排気を還気として取り入れ、これを給気として前記室における標準機器列の前面側空間に供給する空調機とを有することを特徴とする、情報通信機器を収容した室の空調システム。
前記空調機からの給気が供給される空間と、前記高温耐用機器列の背面側空間とは仕切り材によって仕切られていることを特徴とする、請求項1に記載の情報通信機器を収容した室の空調システム。
前記空調機からの給気が供給される空間と、前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間とは、仕切り材によって仕切られていることを特徴とする、請求項2に記載の情報通信機器を収容した室の空調システム。
前記標準機器列の前面側空間から前記標準機器列を通過せずに、前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間に、前記給気を導入するバイパス部を有することを特徴とする、請求項3に記載の情報通信機器を収容した室の空調システム。
前記高温耐用機器列の前面側空間から、前記高温耐用機器列を通過せずに、前記高温耐用機器列の前面側空間の空気を、前記高温耐用機器列の背面側空間に対して導入する他のバイパス部を有していることを特徴とする、請求項4に記載の情報通信機器を収容した室の空調システム。
前記バイパス部または前記各バイパス部には、風量調整機構または逆流防止機構が設けられていることを特徴とする、請求項4または5に記載の情報通信機器を収容した室の空調システム。
前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間の空気の一部が、直接前記空調機に取り入れられるように構成されたことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の情報通信機器を収容した室の空調システム。
前記高温耐用機器列からの排気は、廃熱利用のための機器を介して降温された後、還気として前記空調機に取り入れられるように構成されたことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の情報通信機器を収容した室の空調システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近の情報通信機器には、15℃〜27℃程度の標準温度域で動作保証された標準情報通信機器と、それより高温の35℃以上の温度域でも動作保証された高温耐用情報通信機器がある。高温耐用情報通信機器は、従来よりも高い温度環境下であっても問題なく稼働させることができるので、これを採用することによって空調機器の吹出し空気温度を高く設定することができ、したがってその分空調エネルギーの省力化が図れるため、今後は、高温耐用情報通信機器の採用が増加することが見込まれている。
【0006】
しかしながら現状では、大半のサーバールームにおいては標準情報通信機器が設置されており、すぐにこれらすべてを高温耐用情報通信機器に入れ替えることは現実的ではない。そのため、既設の標準情報通信機器の一部が徐々に高温耐用情報通信機器に入れ替えられ、実際にはサーバールーム内に標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器とが共存する状況となっていくことが考えられる。
【0007】
かかる点に徴すれば、特許文献1の技術では、標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器とが共存する室の空調を行うに際し、標準情報通信機器に合わせた温度の空調空気を供給すると、高温耐用情報通信機器にとっては、過剰に低い温度の空気を供給することになって、エネルギーに無駄がある。逆に、高温耐用情報通信機器に合わせた温度の空調空気を供給すると、標準情報通信機器に動作に支障をきたす。これらを防止するため、室内を標準情報通信機器区域と高温耐用情報通信機器区域とに仕切り、各々個別にそれぞれに適した温度の空調空気を供給するシステムを構築しなければならないという問題がある。またその際には、レイアウトの変更を最小限に抑えることが好ましい。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、前記したような標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器が共存する室において、各情報通信機器をより効率よく冷却することを目的とし、また既存の稼働している標準情報通信機器が収容された室を、標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器を共存させる場合に、レイアウトの変更を最小限にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、前面側に吸気面、背面側に排気面を有し、かつ標準温度域で動作保証された標準情報通信機器と、前面側に吸気面、背面側に排気面を有し、かつ前記標準温度域よりも高い温度域まで動作保証された高温耐用情報通信機器と、を収容した室の空調システムであって、
前記標準情報通信機器の前面側が同一面側となるように列状に配置された標準機器列と、前記高温耐用情報通信機器の前面側が同一面側となるように列状に配置された高温耐用機器列とが、同列上に配置され、かつ前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間に、前記高温耐用機器列の前面側が対面するように前記高温耐用機器列が配置され、
前記高温耐用機器列からの排気を還気として取り入れ、これを給気として前記室における標準機器列の前面側空間に供給する空調機とを有することを特徴としている。
なおここで、標準機器列、高温耐用機器列とは、標準機器、高温耐用機器自体が多段に積層されたり、あるいは高さのある標準情報通信機器、高温耐用情報通信機器が横方向に並べられて、列を構成している場合のみならず、ラックに搭載されて標準機器のラック列、高温耐用機器のラック列を構成している場合であってもよく、またその混在形態であってもよい。また空調機からの給気が供給される標準機器列の前面側空間とは、当該前面側空間のみならず当該前面側空間と連通する空間、たとえば標準機器列の側方の空間をも含むものである。
【0010】
本発明によれば、標準機器列の前面側空間に供給された空調機からの給気は、標準機器列の標準情報通信機器が備えている小型ファンによって、その吸気面から吸い込まれ、機器を冷却した後、昇温して背面側空間に排気される。そしてこの背面側空間に対しては、高温耐用機器列の前面側、すなわち吸気面側が面しているので、当該背面側空間の空気は、高温耐用機器列の高温耐用情報通信機器が備えている小型ファンによって吸気面から吸い込まれ、機器を冷却した後、さらに昇温して背面側空間に排気される。高温耐用情報通信機器は、標準温度域よりも高い温度域で動作保証されているので、高温耐用情報通信機器が取り入れた空気が、標準情報通信機器が取り入れた空気よりも高い温度の空気、すなわち標準情報通信機器が背面側に排気する標準機器列通過後の空気であっても、高温耐用情報通信機器の冷却に使用でき、高温耐用情報通信機器の動作に支障はない。したがって、空調機からの給気を、効率よく標準情報通信機器及び高温耐用情報通信機器の冷却に使用できる。また標準機器列と高温耐用機器列とが、同列上に配置されているので、レイアウトの自由度が高く、標準機器列のみが収容されている既存の室に対して、高温耐用機器列を導入したり、一部置き換える際も、基本的なレイアウトを変更することなくこれをなし得る。
【0011】
前記空調機からの給気が供給される空間と、前記高温耐用機器列の背面側空間とは仕切り材によって仕切られていてもよい。
【0012】
また前記空調機からの給気が供給される空間と、前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間とは、仕切り材によって仕切られていてもよい。
【0013】
前記標準機器列の前面側空間から前記標準機器列を通過せずに、前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間に、前記給気を導入するバイパス部を有するようにしてもよい。
【0014】
前記高温耐用機器列の前面側空間から、前記高温耐用機器列を通過せずに、前記高温耐用機器列の前面側空間の空気を、前記高温耐用機器列の背面側空間に対して導入する他のバイパス部を有していてもよい。バイパス部は、前記各空間同士をダクト等で連通した閉鎖系流路のみならず、例えば各空間同士が隣接しそれらの間に仕切りがないか、あるいは仕切る部材に開口を設けてあるなどした、開放系の空気流路であってもよい。
【0015】
これらバイパス部には、風量調整機構または逆流防止機構が設けられていてもよい。こうすることで、高温領域側からの高温空気が、低温領域側に流れることを防止することができる。風量調整機構としては風量調整用ダンパVDやモータダンパMDなどが例示でき、これらの機構の開度の調整は手動、自動のいずれであってもよい。逆流防止機構として、例えば、微差圧ダンパーや逆流防止ダンパーなどが挙げられる。また、簡易的に実現するために、例えばビニールに開口し、その開口に被るようにもう一枚のビニールを設けることで、逆流防止の機能を得ることができる。なお開放系のバイパス流路については、仕切り材の部分に、開口を形成し、当該開口部分にそのような逆流防止機構を設ければよい。さらにまた前記バイパス部には、前記標準機器列の前面側空間、前記高温耐用機器列の前面側空間、前記高温耐用機器列の背面側空間、の各空間相互間の差圧に応じて開度を調整する流量調整機構が設けられていてもよい。ダクトなどの閉鎖系流路の場合には、ダクトに可変ダンパーを設けるとよい。開放系のバイパス流路については、仕切り材の部分に開口を形成し、たとえば当該開口部分に開閉度が可変なシャッター、扉体などを設ければよい。
【0016】
前記標準機器列の背面側からの排気が排気される空間の空気の一部が、直接前記空調機に取り入れられるように構成されていてもよい。
【0017】
前記高温耐用機器列からの排気は、廃熱利用のための機器を介して降温された後、還気として前記空調機に取り入れられるように構成されていてもよい。
【0018】
なお前記空調機の給気の供給風量は、標準機器列に搭載されているすべての標準情報通信機器の合計吸気風量、及び前記高温耐用機器列に搭載されているすべての高温耐用情報通信機器の合計吸気風量よりも多くなるように制御されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器が共存する室において、各情報通信機器に対して、従来よりも無駄がなく、効率のよい情報通信機器の冷却を行うことが可能であり、また既存の稼働している標準情報通信機器が収容された室を、標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器を共存させる場合に、レイアウトの変更を最小限にすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態にかかる情報通信機器を収容した室の空調システムについて説明する、
図1は、実施の形態にかかる空調システム1の平面を模式的に示しており、室R内には、標準温度域、たとえば15℃〜27℃で動作保証された、サーバ等の標準情報通信機器を多段に搭載したラック10が長手方向に配置されてなる標準機器列SL1、SL2とが、空間をおいて平行に配置されている。各標準機器列SL1、SL2は、ラック10に搭載されている標準情報通信機器の背面側(排気側)同士が対向するように配置されている。なお
図1に示した例では、説明の都合上、室R内には2列の標準機器列SL1、SL2が配置された様子を示しているが、本発明は、もちろんそのように2列配置に限られず、ラック10に搭載された標準情報通信機器が、背面(排気側)同士、前面(吸引側)同士を対向させるように配置することで、2列以上の標準機器列SLを配置した例(例えば空調システム1の態様を複数、各標準機器列SL同士を平行にして、
図1における上下方向に並べた配置)でも適用があるものである。
【0022】
標準情報通信機器は、具備している小型ファン(図示せず)によって前面側の空気を吸気し、これを各標準情報通信機器の冷却に使用した後、昇温した空気を背面側に排気するようになっている。
【0023】
標準機器列SL1、SL2の一端部(
図1中の右側端部)には、バイパス部30、31、及び空間をおいて、標準温度域より高い温度域、たとえば35℃以上の温度雰囲気でも動作保証された高温耐用情報通信機器を多段に搭載したラック20が長手方向に配置されてなる高温耐用機器列HL1、HL2とが、各々空間をおいて平行に、かつ標準機器列SL1と高温耐用機器列HL1、標準機器列SL2と高温耐用機器列HL2とが同列上に位置するように設置されている。そして、各高温耐用機器列HL1、HL2の一端部(図中の右側端部)には、それぞれバイパス部40、41が配置されている。
【0024】
対向するラックを隔てる機器列長手方向の通路(ここではホットアイルH)からみて各高温耐用機器列HL1、HL2には、ラック20に搭載されている高温耐用情報信機器の前面側(吸気側)同士が対向するように配置されている。すなわち、標準機器列SL1と高温耐用機器列HL1、標準機器列SL2と高温耐用機器列HL2とは、同じ列に配置されているが、搭載されている通信機器については、標準機器列SL1、SL2のラック10に搭載されている標準情報通信機器は、背面(排気側)同士が対向するように配置されているのに対し、高温耐用機器列HL1、HL2のラック20に搭載されている高温耐用情報通信機器は、前面(吸気側)同士が対向するように配置されている。
【0025】
なお
図1に示した例では、説明の都合上、室R内には2列の高温耐用機器列HL1、HL2が配置された様子を示しているが、この場合も、そのように2列配置に限られず、例えば高温耐用機器列HL1と高温耐用機器列HL2の背後にさらに高温耐用機器列を設けてもよい。ラック20に搭載された高温耐用情報通信機器が、前面(吸引側)同士、背面(排気側)同士を対向させるように配置することで、2列以上の高温耐用機器列HLを配置した例でも適用があるものである。
また、説明の都合上、スーパーホットアイルSHとして高温の排熱が集まる部分を「アイル」として表現しているが、高温耐用情報通信機器を収めたラック内またはラック上部に同様の空間(エリア)を設け、当該空間を高温の排熱が集まる部分としてRAや熱交換器に戻してもよい。
【0026】
室Rの一端壁には、空調機械室Mが設けられており、この空調機械室Mには、例えばパッケージエアコンなどの空調機2、3が設置されており、室Rからの還気を取り入れて、冷媒の直膨コイル等で降温させた後、給気SAとして室R内へと供給する。この例では、給気SAは、標準機器列SL1、SL2の他端側空間に供給される。したがって、標準機器列SL1、SL2の前面側空間や、標準機器列SL1、SL2と機械室Mとの間の空間は、給気SAによって形成された、例えば25℃程度の、平面視でカタカナの「コ」の字状のコールドアイルCを形成している。なお空調機2、3からの給気SAの供給ルートは、この種のいわゆるサーバ室などに対して適用されている公知の技術が適用できる。たとえば、床下空間を経た床面からの供給、天井裏空間を経た天井面からの供給、室Rの壁面に形成した供給口からの供給等が採用できる。かかる点は、後述の実施の形態でも同様である。
【0027】
コールドアイルCの空気は、標準機器列SL1、SL2のラック10に搭載されている標準情報通信機器の小型ファン(図示せず)によって前背面側から吸引され、標準情報通信機器の冷却に使用されて昇温した後、背面(排気側)、すなわち標準機器列SL1、SL2間の空間に排気される。したがって、標準機器列SL1、SL2間の空間は、たとえば35℃程度のホットアイルHが形成される。そしてこのホットアイルHは、高温耐用機器列HL1、HL2間の空間と連通しているので、このホットアイルHの空気は、高温耐用機器列HL1、HL2のラック20に搭載されている高温耐用情報通信機器が備えている小型ファン(図示せず)によって、その前面(吸気側)から吸い込まれ、高温耐用情報通信機器の冷却に使用された後、背面(排気側)へと排気される。このときの排気は、例えば35℃〜50℃の高温となっている。したがって、高温耐用機器列HL1、HL2の背面側空間は、ホットアイルHよりもさらに高温のスーパーホットアイルSHを形成している。
【0028】
スーパーホットアイルSH、ホットアイルH、コールドアイルCの空気は、混合しないことがよいので、この空調システム1においては、コールドアイルC、ホットアイルH、スーパーホットアイルSHの空気の混入を避けるため、標準機器列SL1、SL2各背面側端部(周縁部)と、高温耐用機器列HL1、HL2の各前面側端部(周縁部)と、天井、天井付近、床面との間に、適宜仕切り材4、5、6、7、8を設置して、各空間の気密性、独立性を高めるようにするのがよい。この種の仕切り材には、断熱性のある材質を使用することが好ましく、部位によってパネル状のもの、シート状のものを適宜選択して設置するのがよい。
【0029】
そしてスーパーホットアイルSHの高温空気は、還気RA1として空調機械室Mの空調機2、3に導入される。空調機2、3への導入ルートは、この種のいわゆるサーバ室などに対して適用されている公知の技術が適用できる。たとえば、床面に形成した還気口から床下空間を経るルート、天井面に形成した還気口から、天井裏空間を経たルート、室Rの壁面に形成した還気口からのルート等を採用でき、必要に応じてダクトが使用されてもよい。かかる点は、後述の実施の形態でも同様である。
【0030】
またホットアイルHの空気の一部は、必要に応じて還気RA2として、ホットアイルHから直接空調機械室Mの空調機2、3の還気口に導入されるようにしてもよい。なおホットアイルHからの還気RA2の温度は、スーパーホットアイルSHからの還気RA1の温度よりは低い。また還気RA2の空調機2、3への導入ルートも、前記した還気RA2と同様、この種の公知の技術を採用することができる。
【0031】
前記したバイパス部30、31、40、41は、たとえば、仕切り材5、6に形成されたバイパス開口として構成されてもよく、その場合、当該バイパス開口に、流量調整用の開度可変のシャッターや逆流防止機構が設けられる。
【0032】
以上の構成にかかる空調システムによれば、コールドアイルCの空気は、標準機器列SL1、SL2のラック10に搭載されている標準情報通信機器の冷却に使用され、その後昇温してホットアイルHに排気される。そしてホットアイルH空気は、高温耐用機器列HL1、HL2に搭載されている高温耐用情報通信機器の冷却に使用される。そしてそのようにして高温耐用情報通信機器の冷却に使用されてさらに昇温した高温の空気は、高温耐用機器列HL1、HL2の背面側のスーパーホットアイルSHから、還気RA1として空調機2、3に戻される
【0033】
したがって、実施の形態にかかる空調システム1によれば、標準温度域で動作保証された標準情報通信機器と、標準温度域より高い温度域でも動作保証された高温耐用情報通信機器との双方が収容された室Rであっても、これらの各情報通信機器を効率よく冷却することができる。
【0034】
また従来のワンパスタイプの空調システムにおいて使用されている空調機器では、情報通信機器の吸排気温度差(10〜15℃)と同等の温度差で運転するようになっている。これに対し、実施の形態にかかる空調システム1では、情報通信機器の吸排気温度差が、標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器の2段階とするため、通常の2倍の温度差を取り得る。例えば、標準情報通信機器の吸排気温度差(10〜15℃)として、高温耐用情報通信機器の吸排気温度差も通常と同様の(10〜15℃)とすると、結局、上記空調システム1においては、空調機2、3の吸排気温度差が20〜30℃を確保することが可能となる。このため、情報通信機器の発熱負荷を処理するのに、空調機の給気風量が少なくなる。すなわち、処理熱量は、熱量[kW]=空気比熱[kJ/(kg・K)]×風量[m
3/s]×空気密度(例えば1.2)[kg/m
3]×温度差[K]で表されるところ、同じ熱量の場合は空調機2、3の給還気温度差を大きく取ると風量が少なくなる。したがって、上記の例のように、ホットアイルHの高温空気をもう一度、高温耐用情報通信機器の吸気とすることで、空調機2、3の給還気温度差は大きくなり、それに伴って空気の給気風量が低減できる。またそのように給還気温度差が大きいので、空調機は効率が向上、つまり熱源側を含む運転効率が向上し、システムの運転の効率化につながる。
【0035】
また従来の空調機の給還気温度差に比べ、前記したようにより大きい温度差での空調となることから、例えば空調機の熱媒を冷水とした場合の熱源機器の温度スパンも大温度差に移行することが可能となり、熱源機器の高効率化運用、すなわち冷水を生成する冷凍機の入口と出口の温度差を大きく取れることが見込まれる。しかも標準情報通信機器と高温耐用情報通信機器とを別のラック列に搭載し、これらの排気を分離して、標準機器列SL1、2に搭載されている標準情報通信機器の冷却に使用された後の高温の排気を、高温耐用情報通信機器の冷却に使用しているので、標準情報通信機器使用後の排気の有効利用が図られている。しかもそのようにして高温耐用情報通信機器を冷却した後の排気は、たとえば35℃〜50℃の高温になっているので、廃熱の利用価値が高まっている。
【0036】
このような高温の空気は、たとえばサーバ室の空調機の熱源の運転効率向上に使用できる。例えば、ボイラーや工場廃熱等で作った蒸気で吸収冷凍機を稼働させて冷房するデータセンターであれば、高温空気の熱で当該ボイラーの補給水を予熱して蒸気製造の補助とすることで、結果として冷却の補助にすることができる。もちろん、前記した通信情報機器の冷却以外の、他の異なった用途として、たとえば他の場所、室での空調の熱源に使用、すなわち温水製造やその補助としたり、暖房に用いたり、データセンター以外の空調用の熱源の高効率化のために使用することも可能である。
【0037】
図2に示した例では、スーパーホットアイルSHからの高温の還気RA1の排熱を利用すべく、還気RA1の空調機2、3への導入ルートの途中に、廃熱利用のための機器、たとえば熱交換器51、52を設けたものである。熱交換器51、52には例えば別系統の温熱需要機器との間を流通する熱媒が導かれる。これによって上記したように、廃熱の有効利用が図れるとともに、空調機2、3に導入される還気RA1の温度を降温させることができ、これによって空調機2、3の負荷を軽減させることが可能である。また熱交換器51、52によって、還気RA1の温度が、ホットアイルHなみの温度、例えば30℃程度にまで降温すれば、空調機2、3に導入することなく、一部または全部をホットアイルHに戻すようにしてもよい。なお、熱交換器51、52は廃熱を生成する装置ではなく、冷却塔が配管を介して接続されていてもよい。
【0038】
ところで、既述したように情報通信機器はその内部に冷却用にサーバーファンを有し、通常、情報通信機器の稼働による発熱量に応じてファンの回転数が制御されるように構成されている。したがって情報通信機器の稼働状況によってラック列毎の風量が変動する。例えば、標準機器列SL1、SL2が搭載している標準情報通信機器が有するファン全体の風量が、高温耐用機器列HL1、HL2が搭載している高温耐用情報通信機器が有するファン全体の風量よりも大きい場合、高温耐用機器列HL1、HL2に過大な風量が供給されることによって、サーバーファンの背圧が高くなってサーバーファンが故障する問題が生じる。
【0039】
また逆に、標準機器列SL1、SL2が搭載している標準情報通信機器が有するファン全体の風量が、高温耐用機器列HL1、HL2が搭載している高温耐用情報通信機器が有するファン全体の風量よりも小さい場合、高温耐用機器列HL1、HL2に対する風量が不足して、高温耐用情報通信機器の過熱による故障や自己保護のためのシャットダウンや、高温耐用情報通信機器内でも熱い排気の逆流が生じて高温耐用情報通信機器自体が熱暴走するなど、問題が生じる。
【0040】
この点、実施の形態にかかる空調システム1では、バイパス部30、31が設けられているので、コールドアイルCとホットアイルHとの間を、気流が標準機器列SL1、SL2を通らずにこれを迂回させて通過させることができる。またバイパス部40、41が設けられているので、ホットアイルHとスーパーホットアイルSHとの間を、気流が高温耐用機器列HL1、HL2を通らずに通過することが可能になっている。したがって、前記したような情報通信機器の稼働状況によるラック列毎の風量変動に起因する、サーバーファンの故障や、風量不足が原因の過熱による故障、シャットダウン、熱暴走を防止することができる。
【0041】
なおバイパス部30、31、40、41には、バイパス風量を調整する機器(流量調整機構)として、たとえばダンパやMD(モータダンパ)、VD(風量調整ダンパ)、バランスダンパや差圧ダンパを用いることができる。また制御手法については、例えば、コールドアイルCとホットアイルH、スーパーホットアイルSHの各空間相互間の差圧に応じてバイパスダンパの開度を調整したり、自動制御を用いない場合では、例えば差圧がかかると差圧方向に応じて開口するチャッキダンパなどを設置することでもバイパス量の調整が可能である。その他、ラックの吸気温度を計測して、一部でも所定温度を超えたら、バイパスダンパを閉鎖して空調機の風量を多くして、ラックに冷風がいきわたるようにすることも提案できる。各ラックで使用される電力を測定しておき、当該電力の大小に応じてバイパスダンパ開度を制御することも可能である。
【0042】
なお標準機器列SL1、SL2が搭載している標準情報通信機器が有するファン全体の風量が、高温耐用機器列HL1、HL2が搭載している高温耐用情報通信機器が有するファン全体の風量よりも大きい場合には、ホットアイルHの空気の一部を直接、空調機2、3に戻すようにしてもよい。
【0043】
バイパス部を設ける位置については特に限定されないが、スーパーホットアイルSHの高温空気がコールドアイルCへ逆流することを防止(軽減)するために、コールドアイルC側のバイパス部30、31とスーパーホットアイルSH側のバイパス部40、41とは、離間して設けることが望ましい。
【0044】
また
図1、
図2に示した空調システム1では、標準機器列SL1、SL2と高温耐用機器列HL1、HL2とは、レイアウト的にはカスケードに配置されておらず、同列に配置されているので、既存のサーバールーム等において、一部の標準情報通信機器搭載のラック列を高温耐用情報通信機器搭載のラック列と交換する場合、高温耐用情報通信機器の向きを、標準情報通信機器とは逆の向きに搭載して配置するだけでよいので、これら情報通信機器列を共存させる場合、そのレイアウトの変更を最小限に抑えることができる。
【0045】
図3に示した空調システム61では、室Rと別の室RSに、高温耐用機器列HL1、HL2を対向配置すると共に、標準機器列SL1、SL2と同列に、各々空調機2、3を配置したレイアウトを示している。すなわち、標準機器列SL1、SL2の排気側空間に形成されるホットアイルHを、高温耐用機器列HL1、HL2の吸気側空間と空調機2、3の入口(導入)側空間としている。空調機2、3は背面に還気口、正面に給気口を備えるもので、標準機器列SL1、SL2とは反対の送気方向となるよう給気口をコールドアイルCに向けており、高温耐用機器列HL1、HL2からの高温の還気RA1を、廃熱利用のための熱交換器51、52を介して降温させた後、ホットアイルHに導入するようにしたものである。なお、室Rと室RS間のスペース領域を通路とし、仕切り材5、6をメンテナンス用の出入り口としてもよい。また、室Rと室RSは別室とはせずに同室内に設けた領域R、RSとして、両領域間のスペースを設けずに、断熱材などで断熱性を高めた断熱壁によって隔てるようにしてもよい。
【0046】
かかる空調システム61によれば、空調機2、3からの給気は、標準機器列SL1、SL2の吸気側空間に供給され、当該吸気側空間にコールドアイルCが形成される。そしてコールドアイルCの空気は、標準機器列SL1、SL2のラック10に搭載されている標準情報通信機器の小型ファンによって吸引され、当該標準情報通信機器の冷却に使用されて昇温した後、排気側にあるホットアイルHに排気される。そしてホットアイルHの空気は、ホットアイルHを吸気側として配置されている高温耐用情報通信機器を搭載したラック20によって構成される高温耐用機器列HL1、HL2の高温耐用情報通信機器の冷却用に使用される。それによってさらに昇温した高温の空気は、スーパーホットアイルSHに排気される。スーパーホットアイルSHの空気は、還気RA1として、ホットアイルHに戻される途中で、熱交換器51、52によって降温され、その後にホットアイルHへと戻される。
【0047】
かかる空調システム61によれば、空調機械室Mを設ける余裕がない場合に有用であり、室Rにおけるラック設置可能スペース割合(レンタブル比)を向上でき、データセンター事業者にはメリットとなり得る。高温耐用機器列HL1、HL2とスーパーホットアイルSHは、室Rとは別の室RSに設定されるので、コールドアイルCとスーパーホットアイルSHとの離隔による温度遮断性が良好である。
【0048】
図4に示した空調システム71では、室R内の標準機器列SL1、SL2と同列、かつ空調機械室M側に、ホットアイルHを挟んで高温耐用機器列HL1、HL2を対向配置すると共に、高温耐用機器列HL1、HL2の背面側であって、かつ仕切り材72、73、標準機器列SL1、SL2のラック10、空調機械室Mによって区画された空間に、スーパーホットアイルSHを設定したものである。
なお、スーパーホットアイルSHは高温耐用機器背面側に小さく形成しており、ラック20背面側半分程度の領域の上方空間に高温の排気が流れるように区画しており、図ではこのラック20の背面側の上方空間の区画領域もスーパーホットアイルSHとして表わしている。このようにすることで、コールドアイルCの面積を広く確保することができる。そしてスーパーホットアイルSHからの還気RA1は、空調機2、3が設置されている空調機械室Mに導入するように構成されている。そしてホットアイルHからの還気RA2も空調機械室Mに導入するように構成されている。なおスーパーホットアイルSHのバイパス部40、41は必要に応じて高温耐用機器列HL1、HL2の一端部に設定してもよい。
【0049】
かかる空調システム71では、標準機器列SL1、SL2と同列の領域に、高温耐用機器列HL1、HL2及びスーパーホットアイルSHが設定することが可能であり、高温耐用機器列HL1、HL2のラック20の台数が少ない場合に有用である。また
図4の空調システム71のレイアウトでは、空調機械室M側にスーパーホットアイルSHを設けており、スーパーホットアイルSHから空調機械室Mまでのダクト経路を短くでき低コスト化が図れる特長がある。
【0050】
このレイアウトの変形例としては、例えば
図5に示した空調システム81、
図6に示した空調システム91を提案できる。
【0051】
図5に示した空調システム81は、
図4の空調システム71における空調機械室Mを廃止して、室R内の一端部、すなわち、標準機器列SL1、SL2の同列の各一端部に空調機2、3を配置したものである。そして高温耐用機器列HL1、HL2の背面側(排気側)に形成されるスーパーホットアイルSHからの還気RA1は、ダクト等の流路を介してホットアイルH側に導出し、熱交換器51、52を経由させることで降温させ、より温度が低下した還気RA2として、たとえば空調機2、3の還気口付近に導くようにしている。また
図6に示した空調システム91は、
図5の空調システム81にみられたレイアウトを、片側の一列配置としたものである。
【0052】
このような
図5に示した空調システム81、
図6に示した空調システム91によれば、
図4に示した空調システム71と同様、高温耐用機器列HL1、HL2のラック20の台数が少ない場合に有用であり、しかもレンタブル比を高めることができる。このようなレイアウト形態は、例えばコンテナ型のデータセンターへの応用が可能であり、またレイアウトの自由度も高いものである。
なお、前述の
図2や
図3における熱交換器51、52、
図5、
図6における熱交換器51、52は、室内に設置するだけでなく、同室の天井裏や床下、また同室の室外(別室や屋外、屋内を問わない)のいずれに設置してもよい。