特許第6262615号(P6262615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262615
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】電磁波シールドシート及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20180104BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20180104BHJP
   C08J 5/08 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   H05K9/00 W
   B32B15/08 E
   B32B15/08 105
   C08J5/08CFH
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-159278(P2014-159278)
(22)【出願日】2014年8月5日
(65)【公開番号】特開2016-39160(P2016-39160A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 紗以子
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−342445(JP,A)
【文献】 特開2007−149761(JP,A)
【文献】 特開2006−117748(JP,A)
【文献】 特開2011−181714(JP,A)
【文献】 特開2007−180308(JP,A)
【文献】 特開平06−216556(JP,A)
【文献】 特開2010−270317(JP,A)
【文献】 特開平09−290482(JP,A)
【文献】 特開平09−040443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 1/00−43/00
C08J 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理繊維フィルムと導電層を含む電磁波シールドシートであって、
JIS R 3420記載の方法で測定した前記表面処理繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値が、未処理の繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値に対して3倍から100倍であり、前記導電層が金属製の網目状物からなるものであり、
前記表面処理繊維フィルムが、ガラス繊維を含むものであり、該ガラス繊維の一部又は全部が有機ケイ素化合物の硬化物で結束及び表面処理されたものであり、
前記繊維フィルムへの前記有機ケイ素化合物の付着量は、表面処理後の繊維フィルム100質量%に対して、2質量%以上90質量%以下であることを特徴とする電磁波シールドシート。
【請求項2】
前記金属製の網目状物の開口率が10%以上90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項3】
前記金属製の網目状物の厚みが0.05μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波シールドシート。
【請求項4】
前記電磁波シールドシートは、90°以上に折り曲げ可能なものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電磁波シールドシート。
【請求項5】
前記有機ケイ素化合物がアルコキシシラン、ポリシラザン、及びこれらの部分加水分解縮合物、シリコーン変性ワニス、あるいは付加硬化型シリコーン樹脂からなる群から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電磁波シールドシート。
【請求項6】
前記表面処理繊維フィルムが、充填材を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電磁波シールドシート。
【請求項7】
前記表面処理繊維フィルムを1枚又は2枚以上積層した層と前記導電層を交互に積層し、該交互積層を1回以上繰り返したものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電磁波シールドシート。
【請求項8】
前記金属製の網目状物が2つ以上の領域に分断されたものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電磁波シールドシート。
【請求項9】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の電磁波シールドシートを用いて作製されるものであることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理繊維フィルムと導電層を含む電磁波シールドシート、及びそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子電気機器においては、その内部に組み込まれている半導体素子などの電子部品や電源などから電磁波ノイズが発生する。発生した電磁波ノイズは、同じく内蔵されている無線システム等の他の電子部品に干渉、もしくは外部に漏洩し他の機器(例えば、遠隔制御機器、情報処理装置等)に影響を与えるおそれがある。近年、電子電気機器は高機能化や高速化などが進み、電子部品や電源から発生する電磁波ノイズが増加しており、これが電子電気機器の故障や誤作動の要因となるため、電磁波ノイズ対策が非常に重要になってきている。
【0003】
その対策の部品の一つに電磁波シールドシートがある。電磁波シールドシートは、例えば半導体素子を覆うことによって、放出される電磁波ノイズを減衰し、また外部からの電磁波ノイズを減衰して電子機器の誤動作を防ぐことができる。
【0004】
電磁波シールドシートとして最も効果が高いのは銅やアルミニウムなどの金属板である。しかし、金属板は重く剛性が高いため、半導体素子などを搭載した基板やケーブルなどを覆う際にフレキシブル性を発揮できないという欠点がある。
【0005】
そこで、銅やアルミニウムなどの金属の箔またはメッシュが電磁波シールドシートとして用いられている。しかし、これらの材料においても、依然密度が高いため質量増大の問題も残り、電磁波シールドシートのフレキシブル性も満足できるものではない。一方で、質量とフレキシブル性の観点から、金属の箔やメッシュを薄くすればするほど、それ自体の自立性が無くなり、単体で扱うには作業性が低く、量産には向いていないという欠点もある。
【0006】
近年は、金属の箔またはメッシュの作業性を向上するために、金属の箔またはメッシュとそれを支持する支持体を組み合わせた電磁波シールドシートが盛んに開発されている。支持体としては、ガラスや樹脂板、または樹脂フィルムが主に用いられている。フレキシブル性に関しては樹脂フィルムが有用ではあるが、ポリエチレンテレフタレートやポリウレタン樹脂などが主に用いられており(特許文献1、特許文献2)、樹脂の検討が十分であるとは言えない。また、薄い樹脂フィルムではフレキシブル性は有しているが、強度が弱く、耐熱性、作業性には問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許公報第4887442号
【特許文献2】特開平10−163675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、十分な電磁波シールド性を有し、高強度でフレキシブル性があり、寸法安定性に優れ、且つ、高温加熱時のふくれおよび反りが抑制された耐熱性の高い電磁波シールドシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明は、
表面処理繊維フィルムと導電層を含む電磁波シールドシートであって、
JIS R 3420記載の方法で測定した前記表面処理繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値が、未処理の繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値に対して3倍から100倍であり、前記導電層が金属製の網目状物からなる電磁波シールドシートを提供する。
【0010】
このような電磁波シールドシートであれば、十分な電磁波シールド性を有し、表面処理繊維フィルムによって高強度で尚且つフレキシブル性の両特性が維持されるため、寸法安定性が高く、更に、導電層である金属が網目状物であることによって、高温加熱時のふくれや反りを抑制した耐熱性の高い高信頼性の電磁波シールドシートが得られる。
【0011】
特に、前記金属製の網目状物の開口率が10%以上90%以下であることが好ましい。
【0012】
このような導電層を用いたものであれば、支持体である表面処理繊維フィルム全体が覆われていないため、高温加熱時に支持体からガスが発生した場合でも、網目からガスが揮発することでふくれが抑制され、同時に十分な電磁波シールド性を有した電磁波シールドシートを得ることができる。
【0013】
また、前記金属製の網目状物の厚みが0.05μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0014】
このような導電層を用いたものであれば、加工性が良好で、また、フレキシブル性を有する電磁波シールドシートを得ることができる。
【0015】
また、前記電磁波シールドシートが90°以上に折り曲げ可能なものであることが好ましい。
【0016】
このような電磁波シールドシートであれば、フレキシブル電磁波シールドシートとして好適に用いることができる。
【0017】
また、前記表面処理繊維フィルムが、ガラス繊維を含むものであり、該ガラス繊維の一部又は全部が有機ケイ素化合物の硬化物で結束及び表面処理されたものであることが好ましい。
【0018】
このような表面処理繊維フィルムを用いたものであれば、より高強度で繊維が固定化され、尚且つフレキシブル性を有した電磁波シールドシートを得ることができる。
【0019】
加えて、前記有機ケイ素含有化合物がアルコキシシラン、ポリシラザン、及びこれらの部分加水分解縮合物、シリコーン変性ワニス、あるいは付加硬化型シリコーン樹脂からなる群から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0020】
さらに、前記表面処理繊維フィルムが、充填材を含むものであることが好ましい。
【0021】
このような表面処理繊維フィルムを用いたものであれば、より優れた寸法安定性や機械的強度を有した電磁波シールドシートを得ることができる。
【0022】
また、前記表面処理繊維フィルムを1枚又は2枚以上積層した層と前記導電層を交互に積層し、該交互積層を1回以上繰り返したものであることが好ましい。
【0023】
このような電磁波シールドシートであれば、フレキシブル性と電磁波シールド性を両方有した電磁波シールドシートを得ることができる。
【0024】
加えて、前記金属製の網目状物が2つ以上の領域に分断されたものであることが好ましい。
【0025】
金属製の網目状物が2つ以上の領域に分断されていれば、電磁波シールドシートの反りを更に抑えることができる。
【0026】
さらに、本発明は、前記電磁波シールドシートを用いて作製される半導体装置を提供する。
【0027】
このように本発明の電磁波シールドシートであれば、フレキシブルで高強度な特性を有するため、フレキシブル性と高耐熱性が要求される半導体装置や十分な電磁波シールド性が要求される高性能半導体装置に適用可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る電磁波シールドシートであれば、十分な電磁波シールド性を有し、フレキシブル性があり、寸法安定性に優れ、且つ、高温加熱時のふくれおよび反りが抑制された耐熱性の高い高信頼性の電磁波シールドシートが得られる。加えて、本発明では、支持体として表面処理繊維フィルムを用いることでフレキシブル性と同時に機械的強度も付与することができる。また、表面処理に有機ケイ素化合物を用いた表面処理繊維フィルムを用いることで、耐熱性にも優れたものが得られる。したがって、本発明の電磁波シールドシートは、フレキシブル性、作業性、信頼性が要求される分野に好適に用いることができる。
また、本発明の電磁波シールドシートであれば、フレキシブルで高強度な特性を有するため、フレキシブル性と高耐熱性が要求される半導体装置や十分な電磁波シールド性が要求される高性能半導体装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の電磁波シールドシートの一例を示す斜視図である。
図2】実施例1、2及び比較例4において作製した電磁波シールドシートの導電層を示す平面概略図である。
図3】実施例3において作製した電磁波シールドシートの導電層を示す平面概略図である。
図4】実施例において作製した電磁波シールドシートの導電層を拡大した平面概略図である。
図5】実施例において柔軟性試験の際に用いた半円筒状の筐体と電磁波シールドシートの断面図である。
図6】製造例において柔軟性試験の際に用いた半円筒状の筐体と表面処理繊維フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述のように、十分な電磁波シールド性を有し、高強度でフレキシブル性があり、寸法安定性に優れ、且つ、高温加熱時のふくれおよび反りが抑制された耐熱性の高い電磁波シールドシートが求められていた。
【0031】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を重ねた結果、高強度でフレキシブル性が良好な表面処理繊維フィルムと、金属製の網目状物からなる導電層を用いた電磁波シールドシートを提供することによって、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0032】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明は、表面処理繊維フィルムと導電層を含む電磁波シールドシートであって、
JIS R 3420記載の方法で測定した前記表面処理繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値が、未処理の繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値に対して3倍から100倍であり、前記導電層が金属製の網目状物からなる電磁波シールドシートである。
【0033】
<電磁波シールドシート>
本発明の電磁波シールドシートの一例を図1に示す。
本発明の電磁波シールドシート1は、表面処理繊維フィルム2と、表面処理繊維フィルム2上に形成された金属製の網目状物からなる導電層3を含むものである。
以下、本発明の電磁波シールドシートについてより詳しく説明する。
【0034】
[導電層]
本発明において、上記金属製の網目状物からなる導電層を構成する材料としては、通常は、各種の金属を使用することができ、更には、電磁波シールドの条件を満足し得るものであれば、金属、金属酸化物、その他の化合物材料も使用することができる。特に、金属が、安価であり、尚且つ加工も容易であることから好ましい材料であり、具体的に使用される金属種としては、例えば、Au、Ag、Cu、Ni、Cr、Fe、Al、Zn、Ti、Ta、Mo、Co、その他の各種の単体金属、あるいは、各種の合金類を使用することができる。
【0035】
本発明で用いる金属製の網目状物としては、上記のような導電性の良好な物質によって構成された、例えば精細な線状、円形、多角形からなる網目状のものであり、その表面に開口部を有するパターンであれば、いかなるものでもよい。導電層全体の形状は特に限定されないが、例えば、正方形、長方形、ランダムな短冊などの任意の形状に設計されているものでよい。
【0036】
また、本発明において、前記金属製の網目状物の開口率が10%以上90%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以上80%以下、さらに好ましくは30%以上75%以下である。ここで、開口率とは、導電層の全面積中における開口部の合計面積が占める比率のことを示す。
【0037】
10%以上の開口率であれば、高温加熱時に支持体からガスが発生した場合でも、開口部からガスが揮発することによるふくれが抑制され、その結果、耐熱性が良好となるため好ましい。また、90%以下の開口率であれば、電磁波シールド性を十分に発揮することができる。
【0038】
本発明において、前記金属製の網目状物の厚みは0.05μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上150μm以下、さらに好ましくは0.3μm以上100μm以下である。
【0039】
0.05μm以上の厚みであれば加工性が良好であるので好ましく、また、200μm以下の厚みであれば、電磁波シールドシートがフレキシブル性を有するため好ましい。
【0040】
また、導電層を形成する金属製の網目状物は2つ以上の領域に分断されたものであることが好ましい。
【0041】
前記金属製の網目状物が2つ以上の領域に分断されていれば、電磁波シールドシートの反りを更に抑えることができる。一般的には、線膨張係数および弾性率の値が異なる2種類の材質を組み合わせると、反りが発生しやすいが、金属製の網目状物を2つ以上の領域に分断することで、線膨張係数および弾性率の異なる支持体である表面処理繊維フィルムと積層しても反りを抑制することができる。
【0042】
[表面処理繊維フィルム]
本発明の電磁波シールドシートにおいて、表面を処理された繊維フィルム(以下、表面処理繊維フィルム)は主に支持体としての役割を担う。加えて、本発明に用いる表面処理繊維フィルムとしては、ガラス繊維からなるガラスクロスに対して表面処理し、フィルム化したものが好ましい。具体的には、ガラスクロス中のガラス繊維の一部又は全部がケイ素原子を含む有機化合物(以下、有機ケイ素化合物)の硬化物により結束され表面処理されたものが好ましい。
【0043】
本発明で用いる表面処理繊維フィルムは、JIS R 3420で規定された方法で測定したクロスの慣用曲げ剛性の値が、未処理の繊維フィルムの慣用曲げ剛性の値に対して、3倍から100倍である。この倍数は、1枚の繊維フィルムを表面処理することによって、いわゆる「織布」状態から「フィルム」状態に変化する程度を示す指標として用いるものであり、好ましくは5倍から60倍であり、更に好ましくは10倍から40倍である。
【0044】
前記慣用曲げ剛性の値が、3倍未満では本発明が目的とする寸法安定性や繊維の固定化が不足し、高強度の電磁波シールドシートが得られない。また、100倍を超えると上記表面処理繊維フィルムが固くなりすぎて、電磁波シールドシートのフレキシブル性が損なわれ、クラック等が発生する。
【0045】
表面処理繊維フィルムとしてガラス繊維を含むものを、表面処理に有機ケイ素化合物を用いた場合、上記特性を満たすためには、繊維フィルムへの有機ケイ素化合物の付着量は、表面処理後の繊維フィルム100質量%に対して、2質量%以上90質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上60質量%以下である。
【0046】
2質量%以上の付着量であれば、上記特性を満たすことができ、その結果、耐熱性、寸法安定性、自立性などの特性が良好となるため好ましい。また、90質量%以下の付着量であれば、耐熱性が低下したり、フレキシブル性が損なわれたりすることを防止できる。
【0047】
本発明においてガラス繊維フィルムを用いる場合、柱状流或いは高周波振動法による水流で開繊加工することも可能である。さらに、本発明において適応するガラス繊維としては、Eガラス、Aガラス、Dガラス、Sガラス等のいずれのガラス繊維でも使用できる。コスト及び入手のしやすさから一般用のEガラスが好ましいが、より高度な特性を要求される場合(例えば、高耐熱性、低不純物など)には石英ガラスが好ましい。
【0048】
このようなガラスクロスとしては、繊維の織り密度は10〜200本/25mmが好ましく、より好ましくは15〜100本/25mmであり、質量は5〜400g/mが好ましく、より好ましくは10〜300g/mである。この範囲であれば、表面処理による結束が効果的に行われ、耐熱性、寸法安定性、自立性などの特性を容易に得ることができる。
【0049】
このようなガラスクロスの織り方としては、平織り、朱子織り、ななこ織り等が使用できる。また、双方又は一方がテクスチャード加工を施されたガラス繊維で製織されたガラス繊維であっても良い。さらに三軸組布されたガラス繊維はより強度が強く、信頼性の高い表面処理繊維フィルムとなる。また、不織布や長繊維を一定方向に配列された織物も使用可能である。
【0050】
加えて、ガラスクロスに集束剤が塗布されている場合、有機ケイ素化合物による処理が阻害される場合があるので、予め除去しておくことが望ましい。
【0051】
上述のガラスクロスに表面処理をする際に用いる有機ケイ素化合物としては、アルコキシシラン、ポリシラザン、及びこれらの部分加水分解縮合物、シリコーン変性ワニス、あるいは付加硬化型シリコーン樹脂からなる群から選ばれる1種以上の化合物を挙げることができる。
【0052】
例えば、アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンなどのアルキルアルコキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシランなどのアリールアルコキシシラン、ヒドロキシトリメトキシシラン、ヒドロキシトリエトキシシランなどのヒドロキシアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのアルケニルアルコキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アリルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(N−ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N−(N−ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩などのアミノ基含有アルコキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアネートアルコキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリスエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のアルコキシシラン化合物が挙げられ、これらのアルコキシシランは1種あるいは2種以上混合して使用しても良い。好ましくは、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0053】
また、上記アルコキシシランの1種又は2種以上の部分加水分解縮合物を用いてもよい。この部分加水分解縮合物は、公知の縮合触媒を添加して任意に調製してもよく、市販されているものを用いてもよい。市販されているものの例としては、エポキシ基含有アルコキシシランオリゴマーX−41−1059A(信越化学工業(株)製)、アミノ基含有アルコキシシランオリゴマーX−40−2651(信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0054】
ポリシラザンとしては、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルシクロトリシラザンなどの化合物が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0055】
シリコーン変性ワニスとしては、アルキッド変性ワニスやポリエステル変性ワニス、エポキシ変性ワニス、アクリル変性ワニスなど多様なシリコーン変性ワニスが使用されるが、最終用途、目的により選択すればよい。
【0056】
付加硬化型シリコーン樹脂としては、SiO4/2単位、RSiO3/2単位、R(2−n)SiO2/2(0≦n≦2)単位、及びR(3−m)SiO1/2(0≦m≦3)単位からなる不飽和基含有オルガノポリシロキサンと少なくとも一つのヒドロシリル基を含有したオルガノポリシロキサンと硬化有効量の白金触媒からなる組成物が使用されるが、最終用途、目的により適宜選択すればよい。
尚、上述のRは炭素数1〜10の1価飽和炭化水素基、又は1価芳香族炭化水素基であり、Rは炭素数2〜8の1価不飽和炭化水素基であり、少なくとも一つはRを含み、かつ飽和基含有オルガノポリシロキサンにおいて、SiO4/2単位若しくはRSiO3/2単位を有する。特に、Rが、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基又はフェニル基であり、Rが、ビニル基又はアリル基であることが好ましい。SiO4/2単位若しくはRSiO3/2単位を用いることで、脆さを抑制しなおかつ、繊維を強固に固定化することが可能になる。
【0057】
本発明では、ガラス繊維の代わりに、炭素繊維、セラミック系などの無機繊維、アラミド、フェノール系などの新耐熱繊維などの繊維も適応可能である。
【0058】
前記表面処理繊維フィルムは、必要に応じて充填材を含有することができる。充填材は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。充填材は、線膨張率を下げ、熱伝導率や強度を向上させることを目的として、添加することができる。充填材としては、公知の充填材であればいずれのものであってもよく、例えば、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、溶融球状シリカ、結晶性シリカ等のシリカ類、ヒュームド二酸化チタン、酸化亜鉛、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、三酸化アンチモン、アルミナ、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、酸化マグネシウム、硫酸バリウム等が挙げられ、特に、溶融シリカ、溶融球状シリカ、酸化チタン、アルミナが好ましい。
【0059】
表面処理に有機ケイ素化合物を用いる場合における充填材の添加量は、得られる表面処理繊維フィルムの線膨張率及び強度の観点から、有機ケイ素化合物100質量部当り900質量部以下(0〜900質量部)の範囲であることが好ましく、600質量部以下(0〜600質量部)の範囲であることがより好ましく、10〜600質量部の範囲であることがさらに好ましく、特には50〜500質量部の範囲であることが好ましい。
【0060】
充填材の成分の平均粒径及び形状は特に限定されない。充填材の成分の平均粒径は、通常0.5〜50μmであるが、表面処理に用いる有機ケイ素化合物の成型性及び流動性からみて、好ましくは1〜10μm、更に好ましくは1〜5μmである。尚、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めることができる。
【0061】
表面処理繊維フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、一般的なガラス繊維の処理方法を適用できる。例えば、ガラス繊維としては、集束剤が付着しているタイプの場合、公知の手法により除去して使用、或いは予め集束剤を除去したガラス繊維を入手して使用する。
【0062】
表面処理に用いる塗布液の好適な例としては、一般にアルコキシシランに水或いはアルコール類、ケトン類、グリコールエーテル類、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系非極性溶剤、エーテル類などの有機溶剤を添加したものを挙げることができ、さらにギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、アンモニア水などのpH調整剤、顔料、染料、充填材、界面活性剤、増粘剤などを添加することもできる。また、硬化を促進するために、アルコキシ基の縮合触媒、例えば各種有機金属系、アミン系化合物などを添加しても良い。さらに、必要に応じて前述の充填材を添加したものを、溶液又は分散液として調製しても良い。
【0063】
この場合、塗布環境を考慮して、水系での塗布液が好ましい。シランカップリング剤のKBM−903(信越化学工業(株)製)などは水系での安定性に優れ、溶解性も良いことから好ましい有機ケイ素化合物である。
【0064】
本発明における繊維フィルムに対する塗布液の塗布方法としては、一般的なガラス繊維の塗布方法を適用できる。代表的なコーティング方式としては、ダイレクトグラビアコーター、チャンバードクターコーター、オフセットグラビアコーター、ロールキスコーター、リバースキスコーター、バーコーター、リバースロールコーター、スロットダイ、エアードクターコーター、正回転ロールコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、含浸コーター、MBコーター、MBリバースコーターなどがある。中でもダイレクトグラビアコーター、オフセットコーター、含浸コーター塗布方式が表面処理繊維フィルムの製造には好ましい。
【0065】
また、使用する有機ケイ素化合物により条件は異なるが、塗布後に乾燥させ、硬化目的で室温から300℃で1分から24時間加熱する工程を例示できる。生産性やコスト、作業性などを考慮して、好ましくは室温から250℃で3分から4時間、より好ましくは室温から230℃で5分から1時間の加熱処理で表面処理繊維フィルムを製造する。
【0066】
塗布液は、例えば、上記有機ケイ素化合物を溶媒で希釈したものである。溶媒の例としては、水あるいは有機溶剤をそれぞれ単独あるいは2種以上混合して用いることができる。有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールエーテル類、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジn−ブチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。この希釈液に、更にギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、などの有機酸やアンモニア水などのpH調整剤、顔料、充填剤、界面活性剤、増粘剤などを添加することもできる。
【0067】
また、アルコキシ基の縮合触媒を添加してもよく、例えば有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機ビスマス化合物のような有機金属化合物系、アミン系化合物などが挙げられる。
【0068】
有機金属化合物系の縮合触媒としては、具体的には、ジブチルスズジメトキサイド、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス(アセチルアセトナート)、ジブチルスズビス(ベンジルマレート)、ジメチルスズジメトキサイド、ジメチルスズジアセテート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジラウレート、スズジオクテート、及びスズジラウレート等の有機スズ化合物、並びに、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラノルマルプロピルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、ジイソプロピルジターシャリーブチルチタネート、ジメトキシチタンビスアセチルアセトナート、ジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテート、ジターシャーリーブトキシチタンビスエチルアセトアセテート、及びジターシャリーブトキシチタンビスメチルアセトアセテート等の有機チタン化合物、ビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)又はビスマストリス(ネオデカノエート)等の有機ビスマス化合物などの金属ルイス酸等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
アミン系化合物の例としては、ヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ヘキサメトキシメチルメラミン等が挙げられる。
これら縮合触媒の中では、有機チタン化合物が特に好ましい。
【0070】
[他の成分からなる層]
本発明の電磁波シールドシートは、必要に応じて他の成分からなる層を含んでもよい。
【0071】
特に、本発明では、表面処理繊維フィルムと導電層との間、表面処理繊維フィルム同士の間、もしくはその両方に接着性樹脂組成物からなる接着層を有してもよく、この接着性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。このような電磁波シールドシートを用いれば、接着層として熱硬化性樹脂を用いるため、耐熱性、耐変色性に優れ、機械的強度の高い電磁波シールドシートが得られる。
【0072】
接着層として用いる熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂であり、接着性を有するものであればいずれのものであってもよく、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、特にシリコーン樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0073】
上記接着性樹脂組成物は、必要に応じて充填材を含んでもよい。充填材は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。充填材は、線膨張率を下げ且つ電磁波シールドシートの熱伝導率や強度を向上させることを目的として、添加することができる。充填材としては、公知の充填材であればいずれのものであってもよく、表面処理繊維フィルムで記載した充填材が好ましい。
【0074】
また本発明では、表面処理繊維フィルムと接着層との接着性をさらに向上させるために、表面処理繊維フィルム、接着層のいずれか一方もしくは両方に、接着改良処理が施されていることが好ましい。接着改良処理としては、常圧プラズマ処理、コロナ放電処理、低温プラズマ処理などの放電処理や、アルカリによる表面膨潤処理、過マンガン酸によるデスミア処理、シランカップリング剤によるプライマー処理を挙げることができる。
【0075】
[電磁波シールドシートの作製方法]
本発明の電磁波シールドシート1において、導電層3を表面処理繊維フィルム2上に形成する方法としては、サブトラクティブ法、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着やスパッタリング法などの物理的蒸着法、金属フィラーを含有する塗料組成物を塗布あるいは浸漬して製造する方法、または、導電性繊維基材のメッシュを貼り合わせる方法などが採用できるが、これらに制限されない。
これらの方法を用いると、金属製の網目状物からなる導電層3を容易に形成することができる。
【0076】
また、本発明の電磁波シールドシートに用いる表面処理繊維フィルムは、前述の方法で加熱処理した表面処理繊維フィルムを1枚のみで使用することもできるが、必要に応じて2枚以上重ね、貼り合わせることで表面処理繊維フィルム層を形成することもできる。表面処理繊維フィルムを貼り合わせる方法としては、プレス法、ラミネート法等が挙げられる。プレス法及びラミネート法の条件は表面処理繊維フィルムの特性に応じて適宜選択することができる。また、導電層と一度に表面処理繊維フィルムを貼り合わせることもできる。
【0077】
更に、本発明では接着層を表面処理繊維フィルム上に形成する方法としては、例えば、ラミネート法、含浸法、スプレーコート法、及びバーコート法のいずれか少なくとも1つを用いることができ、特に、ラミネート法及び含浸法が好ましい。
【0078】
本発明では、前記表面処理繊維フィルムを1枚又は2枚以上積層した層と前記導電層を交互に積層し、該交互積層を1回以上繰り返して電磁波シールドシートとすることもできる。該交互積層を繰り返して積層する方法としては、表面処理繊維フィルムにおいてはプレス法やラミネート法などが、導電層においてはサブトラクティブ法、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着やスパッタリング法などの物理蒸着法、金属フィラーを含有する塗布組成物を塗布あるいは浸漬して製造する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。また、フレキシブル性の観点から、積層回数は少ない方が好ましい。
【0079】
また、得られた電磁波シールドシートの最外層には、必要に応じて金属メッキ工程を施しても良い。金属メッキを行う場合には、常法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、表面処理繊維フィルムに無電解メッキ法により金属被膜層を形成する方法を挙げることができる。形成する金属膜層は、Ni、Pd、Au、Ag、Snあるいはこれらの金属のうち2種類以上からなる合金、例えばNi−Au合金、Ni−Ag合金、Ni−Pd−Au合金、などから選ばれるのが好ましい。また、無電解メッキの後に電解メッキによる増膜形成を施しても良い。
【0080】
前述のような方法によって製造された電磁波シールドシートは、フレキシブル性に優れたものとすることができる。具体的には図5に示すような半径75mmの筐体4に電磁波シールドシート1を沿わせて屈曲した場合、好ましくは90°以上、より好ましくは120°以上180°以下、さらに好ましくは150°以上180°以下に屈曲することができることが望ましい。
【0081】
また、本発明の電磁波シールドシートにおける電磁波シールド性は、例えば下記のような測定方法で試験した場合、100MHz〜1000MHzの範囲において30dB以上であることが好ましい。
測定方法:KEC法(KEC:関西電子工業振興センターの略称)
測定条件:測定周波数 ;100MHz〜1000MHz
発信部と受信部の距離;10mm
試験室の温湿度 ;20℃/65%RH
【0082】
本発明の電磁波シールドシートにおける電磁波シールド性が30dB以上であれば、十分な電磁波シールド性を有する電磁波シールドシートを得ることができる。
【0083】
本発明に係る電磁波シールドシートであれば、十分な電磁波シールド性を有し、フレキシブル性があり、寸法安定性に優れ、且つ、高温加熱時のふくれおよび反りが抑制された耐熱性の高い高信頼性の電磁波シールドシートが得られる。加えて、本発明では、支持体として表面処理繊維フィルムを用いることでフレキシブル性と同時に機械的強度も付与することができる。また、表面処理に有機ケイ素化合物を用いた表面処理繊維フィルムを用いることで、耐熱性にも優れたものが得られる。したがって、本発明の電磁波シールドシートは、フレキシブル性、作業性、信頼性が要求される分野に好適に用いることができる。
【0084】
<半導体装置>
前記電磁波シールドシートは、例えば、半導体素子を搭載する電子部品と組み合わせることで半導体装置とすることができる。前述のように本発明の電磁波シールドシートは、フレキシブルで高強度な特性を有するため、フレキシブル性と高耐熱性が要求される半導体装置や十分な電磁波シールド性が要求される高性能半導体装置に適用可能である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0086】
(製造例1)
有機ケイ素化合物として、メチルトリメトキシシラン(商品名:KBM−13 信越化学工業製)の部分加水分解縮合物50gを、トルエン100gに加えた塗布液にガラスクロス(使用糸:E250、密度:タテ糸59本/25mm、ヨコ糸57本/25mm、厚さ:87μm、質量:95g/m)を含浸させ、100℃10分で加熱乾燥させた。その後100℃×1時間及び200℃×1時間加熱処理して表面処理繊維フィルム(A1)を作製した。得られた表面処理繊維フィルムに対し、以下の測定を行なった。
【0087】
1.外観
得られた表面処理繊維フィルムの表面の均一性、即ち、該表面が平滑でクラックがないかを目視により確認した。
【0088】
2.慣用曲げ剛性
得られた表面処理繊維フィルムについて、JIS R 3420に記載の方法で慣用曲げ剛性を測定し、下記に示す式から、慣用曲げ剛性倍率を測定した。
慣用曲げ剛性倍率 = 表面処理繊維フィルムの慣用曲げ剛性/
未処理の繊維フィルムの慣用曲げ剛性
【0089】
また、得られた表面処理繊維フィルムから、幅25mm、長さ250mmの長方形試験片を試験する繊維から縦糸方向を各6つ切り取り、以下の測定を行った。
【0090】
3.線膨張係数
得られた表面処理繊維フィルムについて、幅3mm、長さ25mm、厚み50〜300mmにサンプルを切り出し、熱機械的分析(TMA)装置(装置名:TMA/SS6000、(株)セイコーインスツルメンツ)にて100mNの荷重を加えながら5℃/minの昇温速度で−60℃から200℃の温度範囲で引張り試験を行った。温度に対する表面処理繊維フィルムの伸び量から熱膨張係数を測定した。
【0091】
4.フィルムの柔軟性試験
得られた表面処理繊維フィルムを、図6に示すような幅100mm、半径75mmの半円筒状の筐体4の外周部にはめ込み、表面処理繊維フィルム2のわれ、くずれなどを確認した。
【0092】
これらの各測定結果を表1に示す。
【0093】
(製造例2)
有機ケイ素化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403 信越化学工業製)を10質量部、界面活性剤0.02質量部、酢酸0.05質量部を水100質量部に加え、塗布液を調製した。この塗布液を用いて製造例1と同様の方法で表面処理繊維フィルム(A2)を得た。得られた表面処理繊維フィルムを用いて、製造例1と同様にして、外観、機械的特性、線膨張係数を評価した。
【0094】
(製造例3)
SiO3/2単位含有不飽和基含有オルガノポリシロキサンと、ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンをH/Vi=1.1になるように配合した付加硬化型樹脂100gに、塩化白金酸の1質量%オクチルアルコール溶液を白金10ppmになるように添加し、トルエン100gを加えた塗布液を調製した。この塗布液を用いて製造例1と同様の方法で表面処理繊維フィルム(A3)を得た。得られた表面処理繊維フィルムを用いて、製造例1と同様にして、外観、機械的特性、線膨張係数を評価した。なお、Rはフェニル基を示す。また、Viは(−C=C)で示されるビニル基を示す。
【0095】
(製造例4)
製造例3と同様に、RSiO3/2単位含有不飽和基含有オルガノポリシロキサンと、ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンをH/Vi=1.1になるように配合した付加硬化型樹脂100gに、塩化白金酸の1質量%オクチルアルコール溶液を白金10ppmになるように添加し、トルエン130gを加え、さらにアルミナ(商品名:アドマファインAO−502、平均粒子径:約0.7μm、(株)アドマテックス製)を185g添加した塗布液を調製した。この塗布液を用いて製造例1と同様の方法で表面処理繊維フィルム(A4)を得た。得られた表面処理繊維フィルムを用いて、製造例1と同様にして、外観、機械的特性、線膨張係数を評価した。なお、Rはフェニル基を示す。また、Viは(−C=C)で示されるビニル基を示す。
【0096】
(比較製造例1)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403 信越化学工業製)5gをトルエン95gに加えて塗布液を調製した。この塗布液を用いて製造例1と同様の方法で表面処理繊維フィルム(B1)を得た。得られた表面処理繊維フィルムを用いて、製造例1と同様にして、外観、機械的特性、線膨張係数を評価した。
【0097】
(比較製造例2)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403 信越化学工業製)を200mm×240mm×3mmのテフロン(登録商標)加工された型枠内に入れ、その中にガラスクロス(使用糸:E250、密度:タテ糸59本/25mm、ヨコ糸57本/25mm、厚さ:87μm、質量:95g/m)を入れ、100℃10分で加熱乾燥させ、表面処理繊維フィルム(B2)を得た。有機ケイ素化合物の付着量は92質量%であったが、表面処理繊維フィルムに大きなクラックが発生し、以後の測定ができなかった。
【0098】
(比較製造例3)
表面処理されていないガラスクロス(使用糸:D450、密度:タテ糸53本/25mm、ヨコ糸53本/25mm、厚さ:42μm、質量:47g/m)(B3)を用いて、製造例1と同様にして、外観、機械的特性、線膨張係数を評価した。
【0099】
【表1】
*1 フィルムの柔軟性
○:良好(割れ、剥離なし) ×:不良(割れ又は剥離あり)
【0100】
表1が示すように、比較製造例3のようにガラス繊維を表面処理しない場合や、比較製造例1のように有機ケイ素化合物の付着量が少なすぎる場合、慣用曲げ剛性倍率が低くなり、繊維フィルムは自立性が無く繊維も固定化されていなかった。一方、比較製造例2のように有機ケイ素化合物の付着量が多すぎると表面にクラックが発生した。本発明では、製造例1〜4のように、付着量を調整することで慣用曲げ剛性倍率が3〜100倍になり、高強度でフレキシブル性が良好な表面処理繊維フィルムであるA1〜4を得た。表面処理繊維フィルムA1〜4を用いて以下に記載する方法で電磁波シールドシートを製造し、評価を行った。
【0101】
(実施例1)
製造例1で得られた表面処理繊維フィルム(A1)1枚と、導電層として銅箔(福田金属製、厚さ:18μm)を配置し、表面処理繊維フィルムと銅箔の間にシリコーン樹脂製接着層(製品名:KE−109、信越化学工業(株)製)を塗布し、熱プレス機にて150℃で30分間加圧成型し、更にこれを150℃で1時間二次硬化させた。次に、導電層としての銅箔に、図2で示され、尚且つ図4で示す開口部半径Rが0.5mm、中心間距離Lが1.8mmである網目状のパターンを形成することで、電磁波シールドシート(縦50mm×横200mm)(C1)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は28%であり、図5に示すような幅100mm、半径75mmの半円筒状の筐体4の外周部にはめ込んだところ、表面処理繊維フィルムのわれ、くずれは確認できなかった。
【0102】
5.電磁波シールド性
得られた電磁波シールドシートに対して、KEC法(KEC:関西電子工業振興センターの略称)を用いて、周波数が100MHz〜1000MHz、発信部と受信部の距離が10mm、試験室の温湿度が20℃/65%RHにおけるシールド効果(デシベル、単位dB)を測定した。測定周波数において電磁波シールド効果が30dB以上であれば、電磁波シールド性があると認められる。
【0103】
6.耐熱性
得られた電磁波シールドシートに対して上記IRリフロー装置により260℃、60秒間のIRリフロー処理を行った後、表面のフクレを目視で観察した。
【0104】
7.IRリフロー試験前後の反り
得られた電磁波シールドシートの長手方向の反り(単位mm)と、IRリフロー装置(装置名:TNR15−225LH、(株)田村製作所製)により260℃、60秒間のIRリフロー処置を行った後の電磁波シールドシートの長手方向の反り(単位mm)を測定した。
【0105】
これらの各測定結果を表2に示す。
【0106】
(実施例2)
製造例1で得られた表面処理繊維フィルム(A1)1枚を、熱プレス機にて150℃で30分間加圧成型し、更にこれを150℃で1時間二次硬化させた。次に、無電解銅メッキおよび電解銅メッキによって、図2で示され、尚且つ図4で示す開口部半径Rが0.8mm、中心間距離Lが1.8mmである網目状のパターンを形成し、電磁波シールドシート(縦50mm×横200mm)(C2)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は72%であり、図5に示すような幅100mm、半径75mmの半円筒状の筐体4の外周部にはめ込んだところ、表面処理繊維フィルムのわれ、くずれは確認できなかった。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0107】
(実施例3)
製造例1で得られた表面処理繊維フィルム(A1)1枚と、導電層として銅箔(福田金属製、厚さ:18μm)を配置し、表面処理繊維フィルムと銅箔の間にシリコーン樹脂製接着層製品名:KE−109、信越化学工業(株)製)を塗布し、実施例1と同様の方法で加熱成形した。次に、導電層としての銅箔に、図3で示され、尚且つ図4で示す開口部半径Rが0.5mm、中心間距離Lが1.8mmである、網目状でかつ0.1mmのスペースで4つの同じ領域(縦50mm×横49.9mm)に分断されたパターンを形成することで、電磁波シールドシート(縦50mm×横200mm)(C3)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は28%であり、図5に示すような幅100mm、半径75mmの半円筒状の筐体4の外周部にはめ込んだところ、表面処理繊維フィルムのわれ、くずれは確認できなかった。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0108】
(実施例4)
製造例2で得られた表面処理繊維フィルム(A2)を1枚と300メッシュSus金網(メッシュ/2.54cm;300、目開き;55μm、開口率;42%、線径;30μm、厚さ;70μm)を1枚用いて、熱プレス機にて150℃で30分間加圧成型し、更にこれを150℃で1時間二次硬化させて電磁波シールドシート(C4)を得た。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0109】
(実施例5)
製造例3で得られた表面処理繊維フィルム(A3)を2枚と300メッシュSus金網(メッシュ/2.54cm;300、目開き;55μm、開口率;42%、線径;30μm、厚さ;70μm)を1枚用いて、実施例4と同様の方法で加熱成形した。更に、金網上に、同じく製造例3で得られた表面処理繊維フィルム(A3)を2枚と、上記と同じ300メッシュSus金網を配置し、同様の方法で加熱成形し、積層した電磁波シールドシート(C5)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は30%であり、図5に示すような幅100mm、半径75mmの半円筒状の筐体4の外周部にはめ込んだところ、表面処理繊維フィルムのわれ、くずれは確認できなかった。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0110】
(実施例6)
製造例4で得られた表面処理繊維フィルム(A4)を1枚と300メッシュSus金網(メッシュ/2.54cm;300、目開き;55μm、開口率;42%、線径;30μm、厚さ;70μm)を1枚用いて、熱プレス機にて150℃で30分間加圧成型し、更にこれを150℃で1時間二次硬化させて電磁波シールドシート(C6)を得た。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0111】
(比較例1)
製造例1で得られた表面処理繊維フィルム(A1)1枚とその片側に導電層として銅箔(福田金属製、厚さ:18μm)を配置し、表面処理繊維フィルムと銅箔の間にシリコーン樹脂製接着層(製品名:KE−109、信越化学工業(株)製)を塗布し、熱プレス機にて150℃で30分間加圧成型し、更にこれを150℃で1時間二次硬化し、電磁波シールドシート(縦50mm×横200mm)(D1)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は0%である。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0112】
(比較例2)
市販の付加反応硬化型シリコーンワニス(商品名:KJR−632 信越化学工業製)180gを用い、溶剤としてトルエンを200g加え、更にシリカ(商品名:アドマファインE5/24C、平均粒子径:約3μm、アドマテックス製)を189g加えてトルエン分散液を得た。トルエン分散液に比較製造例1で得られた表面処理繊維フィルム(B1)を浸漬し、100℃10分間乾燥し、未硬化状態の支持体を得た。得られた支持体を1枚と導電層としての銅箔(福田金属製、厚さ:18μm)を用い、比較例1と同様の方法で、加熱成形し、電磁波シールドシート(縦50mm×横200mm)(D2)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は0%である。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0113】
(比較例3)
製造例3で得られた表面処理繊維フィルム(A3)2枚を用いて、比較例1と同様の方法で導電層と加熱成形した。更に、導電層上に、同じく製造例3で得られた表面処理繊維フィルム(A3)を2枚と、上記と同じ銅箔(福田金属製、厚さ:18μm)を配置し、同様の方法で加熱成形し、積層した電磁波シールドシート(D3)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は0%である。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0114】
(比較例4)
厚さ100μmの長尺ロール巻ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、無電解銅メッキおよび電解銅メッキによって、図2で示され、尚且つ図4で示す開口部半径Rが0.8mm、中心間距離Lが1.8mmである網目状のパターンを形成し、電磁波シールドシート(縦50mm×横200mm)(D4)を得た。得られた電磁波シールドシートの導電層の開口率は72%である。得られた電磁波シールドシートを用いて、実施例1と同様にして、電磁波シールド性、耐熱性、IRリフロー試験を評価した。
【0115】
【表2】
*2 電磁波シールド性
○:測定周波数において電磁波シールド効果が30dB以上
×:測定周波数において電磁波シールド効果が30dB以下
【0116】
表2が示すように、実施例1〜6のように高強度でフレキシブル性が良好な表面処理繊維フィルムと、金属製の網目状物からなる導電層を用いることで、ふくれおよび反りが抑制された耐熱性の高い高信頼性電磁波シールドシートを得ることができる。また、高強度でフレキシブル性を有した表面処理繊維フィルムを用いることで、得られる電磁波シールドシートにも同様の特性を付与することが可能になるため、フレキシブル性と高耐熱性が要求される半導体装置や十分な電磁波シールド性が要求される高性能半導体装置に適用可能である。
一方、比較例1〜3のように導電層として金属製の網目状物を用いていない場合、及び比較例4のように表面処理繊維フィルムを用いていない場合では、耐熱性に劣るものとなる。
【0117】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0118】
1…電磁波シールドシート、 2…表面処理繊維フィルム、 3…導電層、
4…半円筒状筐体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6