特許第6262635号(P6262635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6262635非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法並びに非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262635
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法並びに非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20180104BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180104BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20180104BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20180104BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180104BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/36 B
   H01M4/36 E
   H01M4/38 Z
   H01M10/0569
   H01M10/052
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-227804(P2014-227804)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-91915(P2016-91915A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】古屋 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩一朗
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博樹
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/026067(WO,A1)
【文献】 特開2013−258032(JP,A)
【文献】 特開2012−089521(JP,A)
【文献】 特開2011−192453(JP,A)
【文献】 特開2011−090869(JP,A)
【文献】 特開2010−245020(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0052536(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 10/052
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素系活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材であって、
前記珪素系活物質粒子が一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子であり、その表面が導電性炭素膜にて被覆されており、
該導電性炭素膜は、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物でありかつ該炭素系化合物を炭化水素溶媒で抽出採取した時のポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下である炭素系化合物を含んでいることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項2】
前記炭素系化合物が、H−NMRスペクトルにおいて、テトラメチルシランを0ppmとした時のケミカルシフトが0.6〜1.6ppmと7.3〜9.2ppmの範囲にピークを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項3】
前記炭素系化合物の含有量が、前記珪素系活物質粒子に対して2質量ppm以上、6000質量ppm以下の割合であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項4】
前記珪素系活物質粒子が、珪素の微結晶が珪素酸化物に分散した構造を有するものであり、その微結晶の結晶子の結晶子径が1〜10nmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項5】
前記導電性炭素膜は、前記珪素系活物質粒子に対し0.1質量%以上30質量%以下の割合で含まれることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項6】
前記導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値が、0.9以上1.6以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項7】
前記珪素系活物質粒子の1.5g/cmに圧縮した時の抵抗率である圧縮体積抵抗率が、0.01Ωcm以上1000Ωcm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項8】
前記炭素系化合物は、前記導電性炭素膜を形成する際に副生したものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項9】
正極活物質を含有する正極と、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材を含有する負極と、前記正極及び前記負極間に介在するセパレータと、非水溶媒と電解質塩とを有する非水電解質とを備え、かつ、前記非水溶媒として環状カーボネートと鎖状カーボネート化合物を含有することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項10】
負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材の製造方法であって、
一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子を作製する工程と、
前記酸化珪素粒子の表面を、導電性炭素膜で被覆する工程と、
前記導電性炭素膜が被覆された酸化珪素粒子として、前記導電性炭素膜が、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物でありかつ該炭素系化合物を炭化水素溶媒で抽出採取した時のポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下である炭素系化合物を含んでいるものが得られる製造条件を見出して選択し、該選択された製造条件で前記導電性炭素膜が被覆された酸化珪素粒子を製造する工程を有し、
該選択された製造条件で前記導電性炭素膜が被覆された酸化珪素粒子を珪素系活物質粒子として、非水電解質二次電池用負極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【請求項11】
前記導電性炭素膜で被覆する工程において、前記炭素系化合物が副生されることを特徴とする請求項10に記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【請求項12】
前記導電性炭素膜で被覆する工程において、温度880℃以上1150℃以下の条件で、炭素源として炭素数3以下の炭化水素を80%以上含有する炭化水素ガスを供給し、該炭化水素ガスを熱分解させることにより行うことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【請求項13】
前記導電性炭素膜を、前記酸化珪素粒子を連続的に供給、排出する連続炉を用いて形成することを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【請求項14】
前記連続炉としてロータリーキルンを使用することを特徴とする請求項13に記載の非水電解質二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極材及び非水電解質二次電池並びに非水電解質二次電池用負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Sn等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(例えば、特許文献3参照)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(例えば、特許文献4参照)、負極材料にSiO及びGeOを用いる方法(例えば、特許文献5参照)等が知られている。
【0003】
また、負極材に導電性を付与する目的として、SiOを黒鉛とメカニカルアロイング後、炭化処理する方法(例えば、特許文献6参照)、珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(例えば、特許文献7参照)、酸化珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素を層被覆する方法(例えば、特許文献8参照)がある。
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなく、さらなるエネルギー密度及びサイクル性の向上が望まれていた。
【0005】
特に、特許文献4では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池用負極材として用い、高容量の電極を得ているが、本発明者らが見る限りにおいては、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったりし、改良する余地がある。また、負極材に導電性を付与する技術についても、特許文献6では、固体と固体の融着であるため、均一な炭素皮膜が形成されず、導電性が不十分であるといった問題がある。特許文献7に記載の方法においては、均一な炭素皮膜の形成が可能となるものの、Siを負極材として用いているため、リチウムイオンの吸脱着時の膨張・収縮があまりにも大きすぎて、結果として実用に耐えられず、サイクル性が低下するためにこれを防止するべく充電量の制限を設けなくてはならない。特許文献8に記載の方法においては、微細な珪素結晶の析出、炭素被覆の構造及び基材との融合が不十分であることにより、サイクル性の向上は確認されるも、充放電のサイクル数を重ねると徐々に容量が低下し、一定回数後に急激に低下するという現象があり、二次電池用としてはまだ不十分であるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−174818号公報
【特許文献2】特開平6−60867号公報
【特許文献3】特開平10−294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11−102705号公報
【特許文献6】特開2000−243396号公報
【特許文献7】特開2000−215887号公報
【特許文献8】特開2002−42806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、より高い充放電容量でサイクル性が高い、非水電解質二次電池用、特にリチウムイオン二次電池用として有効な非水電解質二次電池用負極材及びその負極材を用いた非水電解質二次電池、並びに、そのような負極材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、珪素系活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材であって、前記珪素系活物質粒子が一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子であり、その表面が導電性炭素膜にて被覆されており、該導電性炭素膜は、ポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下であり、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含んでいることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材を提供する。
【0009】
このような炭素系化合物を含む導電性炭素膜により被覆された珪素系活物質粒子を含む負極材は、非水電解質二次電池の負極に使用した際に、導電性を損なうことなく電解液の分解を抑制することができるため、高い充放電容量及び良好なサイクル性を発揮できる。
【0010】
このとき、前記炭素系化合物が、H−NMRスペクトルにおいて、テトラメチルシランを0ppmとした時のケミカルシフトが0.6〜1.6ppmと7.3〜9.2ppmの範囲にピークを有するものであることが好ましい。
【0011】
炭素化合物として上記のようなH−NMRスペクトルのピークが検出される構造の炭素系化合物が含まれていることが、上記効果を得るために好適である。
【0012】
またこのとき、前記炭素系化合物の含有量が、前記珪素系活物質粒子に対して2質量ppm以上、6000質量ppm以下の割合であることが好ましい。
【0013】
珪素系活物質における炭素系化合物の含有量が上記範囲であれば、導電性を確保しつつ、上記効果を得ることができる。
【0014】
このとき、前記珪素系活物質粒子が、珪素の微結晶が珪素酸化物に分散した構造を有するものであり、その微結晶の結晶子が1〜10nmであることが好ましい。
【0015】
珪素系活物質粒子がこのような構造であれば、高い充放電容量を得ることができる。また、珪素の微結晶の結晶子が上記のサイズであれば、充放電において高いクーロン効率が得られる。
【0016】
またこのとき、前記導電性炭素膜は、前記珪素系活物質粒子に対し0.1質量%以上30質量%以下の割合で含まれることが好ましい。
【0017】
導電性炭素膜が上記範囲内であれば、負極において炭素材が適切な量となり、珪素材の割合が十分高くなるため、確実に高い充放電容量を維持しつつ、サイクル特性をより向上させられる。
【0018】
このとき、前記導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値が、0.9以上1.6以下であることが好ましい。
【0019】
導電性炭素膜におけるピーク強度の比(I/I)が上記範囲であれば、導電性に富み、かつ、異方性の少ない導電性炭素膜となるため、より良好なサイクル特性が得られる。
【0020】
またこのとき、前記珪素系活物質粒子の1.5g/cmに圧縮した時の抵抗率である圧縮体積抵抗率が、0.01Ωcm以上1000Ωcm以下であることが好ましい。
【0021】
珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率が0.01Ωcm以上であれば、導電性炭素被膜が適量となり珪素材による容量を十分に得られる。また、圧縮体積抵抗率が1000Ωcm以下であれば、負極とした時に十分な電気伝導性を得ることができ、良好な電池特性が得られる。
【0022】
このとき、前記炭素系化合物は、前記導電性炭素膜を形成する際に副生したものであることが好ましい。
【0023】
炭素系化合物が導電性炭素膜の形成時に副生されたものであれば、より簡便に得られ、低コストで得られる負極材となる。
【0024】
またこのとき、前記導電性炭素膜は、温度880℃以上1150℃以下の条件で、炭素源として炭素数3以下の炭化水素を80%以上含有する炭化水素ガスを供給し、該炭化水素ガスを熱分解させることにより形成されたものであることが好ましい。
【0025】
このような導電性炭素膜は、より確実に上記炭素系化合物を含むものとなる。
【0026】
このとき、前記導電性炭素膜は、前記酸化珪素粒子を連続的に供給、排出する連続炉を用いて、形成されたものであることが好ましい。
【0027】
導電性炭素膜が連続炉を用いて形成されたものであれば、生産性が向上し、より低コストで得られる負極材となる。
【0028】
またこのとき、前記連続炉がロータリーキルンであることが好ましい。
【0029】
本発明において、連続炉としてはロータリーキルンが好適である。
【0030】
また、本発明は、正極活物質を含有する正極と、上記のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材を含有する負極と、前記正極及び前記負極間に介在するセパレータと、非水溶媒と電解質塩とを有する非水電解質とを備え、かつ、前記非水溶媒として環状カーボネートと鎖状カーボネート化合物を含有することを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0031】
このような非水電解質二次電池であれば、高い充放電容量及び良好なサイクル性を有するものとなる。
【0032】
また、本発明は、負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池用負極材の製造方法であって、一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子を作製する工程と、前記酸化珪素粒子の表面を、導電性炭素膜で被覆する工程と、前記導電性炭素膜が被覆された酸化珪素粒子から、前記導電性炭素膜が、ポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下で、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含んでいるものを選別する工程を有し、該選別した前記炭素被膜が被覆された酸化珪素粒子を珪素系活物質粒子として、非水電解質二次電池用負極材を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材の製造方法を提供する。
【0033】
このような製造方法であれば、上記のように選別した酸化珪素粒子を負極活物質粒子として使用することで、高容量であるとともに優れたサイクル特性を発揮する非水電解質二次電池用負極材を確実に製造することができる。
【0034】
このとき、前記導電性炭素膜で被覆する工程において、前記炭素系化合物が副生されることが好ましい。
【0035】
このように、導電性炭素膜の被覆と同工程で炭素系化合物が副生されることで、負極材の製造方法としても簡便であり、コスト的にも有利となる。
【0036】
またこのとき、前記導電性炭素膜で被覆する工程において、温度880℃以上1150℃以下の条件で、炭素源として炭素数3以下の炭化水素を80%以上含有する炭化水素ガスを供給し、該炭化水素ガスを熱分解させることにより行うことが好ましい。
【0037】
このような条件で導電性炭素膜を被覆すれば、上記の炭素系化合物を含む導電性炭素膜を確実に被覆することができるため、高い電池容量及び良好なサイクル特性を得られる負極材を製造できる。
【0038】
このとき、前記導電性炭素膜を、前記酸化珪素粒子を連続的に供給、排出する連続炉を用いて形成することが好ましい。
【0039】
連続炉を使用して、負極材を製造すれば効率が良く、より低コストに負極材を製造できる。
【0040】
またこのとき、前記連続炉としてロータリーキルンを使用することが好ましい。
【0041】
本発明において、連続炉としてはロータリーキルンを使用することが好適である。
【発明の効果】
【0042】
本発明の非水電解質二次電池用負極材を負極として用いることで、高い充放電容量で、かつ、サイクル性に優れた非水電解質二次電池を得ることができる。また、本発明の非水電解質二次電池用負極材の製造方法であれば、本発明の非水電解質二次電池用負極材を簡便、かつ、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】実施例1におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定におけるGPCチャートである。
図2】実施例1において測定されたH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明者らは、上記目的を達成するため種々検討を行った結果、酸化珪素粒子の表面を導電性炭素膜で被覆することにより、著しい電池特性の向上が見られることを確認した。さらに、単なる導電性炭素膜では、要求される高い充放電容量及び良好なサイクル性が得られないことがわかった。そこで、本発明者らはさらなる特性向上を目指し、詳細な検討を行った。その結果、酸化珪素粒子表面に、ポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下の範囲内であり、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含有した導電性炭素膜を被覆した珪素系活物質粒子を、非水電解質二次電池用負極材として用いることで、要求される電池特性レベルに到達し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0045】
すなわち、本発明の非水電解質二次電池用負極材は、表面が導電性炭素膜にて被覆されている一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子を珪素系活物質粒子として含む。さらに、その導電性炭素膜は、ポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下であり、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含んでいる。
【0046】
一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子は、高い充放電容量を有する。また、特にこのような酸化ケイ素粒子は製造コストが低いため、負極材の製造コストも低く抑えることができる。また、導電性炭素膜において、上記の炭化水素溶媒にかような炭素系化合物が存在することで、導電性を損なうことなく電解液の分解の抑制効果が得られる。炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物の重量平均分子量が400未満であると電極とした時に電解液に溶出し、充放電挙動に悪影響を及ぼす。従って、上記重量平均分子量は400以上とする。また、炭素系化合物の重量平均分子量が5000を超える場合、導電性炭素膜の導電性を低下させる要因となるため、本発明では上記重量平均分子量を5000以下とする。このようなものであれば、より高い充放電容量でサイクル性が良好な高非水電解質二次電池用負極材となる。
【0047】
[酸化珪素粒子]
本発明における酸化珪素粒子とは、酸化珪素からなる粒子である。なお、本発明における酸化珪素とは、特に断りの無い場合、一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される珪素酸化物の総称であり、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した酸化珪素ガスを冷却・析出させることなどで得ることができる。また、得られた酸化珪素粒子を、フッ化水素などを用いてエッチングを行なったものや、二酸化珪素または酸化珪素を還元処理したもの、珪素の微結晶が酸化珪素中に分散した構造を有するものを本発明では酸化珪素と称する。
【0048】
珪素系活物質の粒子の物性は、目的とする珪素系活物質粒子に合わせて適宜選定されるが、平均粒子径は0.1〜50μmが望ましい。下限は0.2μm以上がより望ましく、0.5μm以上がさらに望ましい。上限は30μm以下がより望ましく、20μm以下がさらに望ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積平均粒子径のことである。
【0049】
また、珪素の微結晶が珪素酸化物に分散した構造を有する酸化珪素粒子を使用する場合、そのBET比表面積は0.5〜100m/gが望ましく、1〜20m/gがより望ましい。
【0050】
本発明において、珪素系活物質粒子が、珪素の微結晶が珪素酸化物に分散した構造を有するものであり、その微結晶の結晶子の結晶子径が1〜10nmであることが好ましい。珪素の微結晶の結晶子の結晶子径は、1〜10nmがより好ましく、2〜9nmがより一層好ましく、更に2.5〜8nmが好ましい。珪素の結晶子の粒子径が1nm以上であれば、珪素が完全なアモルファスで渾然一体とした状態のように充放電容量が小さくなることを防止することができ、逆に10nm以下であれば珪素粒子の大部分の領域を充放電に寄与させることができるため、クーロン効率を高く保つことができる。この結晶子径は、銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)において、2θ=47.5°付近を中心としたSi(220)に帰属される回折線の広がりをもとに、シェラーの式によって求めることができる。
【0051】
[導電性炭素膜]
本発明における導電性炭素膜は、粒子に導電性を付与すること、及び分子量400以上、5000以下で、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含有することにより、電池特性を向上させることができることを特徴とする。本発明の導電性炭素膜は、前駆体である炭化水素ガスのCVD(化学蒸着堆積法)、即ち前駆体の熱分解、脱水素反応により形成したものとすることができる。これらは高温にて、炭素−水素結合の連続的な開裂と生成を繰り返すことで形成されるものである。これらの連続反応は、粒子表面で主に発生しており、導電性炭素膜を形成する一方、粒子表面以外、即ち気相でも発生している。これら気相での連続反応生成物の多くはススとなるが、反応条件を制御することにより、一部は溶剤可溶の炭素系化合物となり、粒子表面の炭素膜に吸着される。
【0052】
本発明において、粒子表面の導電性炭素膜に吸着している炭素系化合物は、炭化水素溶媒に可溶である。この炭化水素溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、オクタンが挙げられる。炭素系化合物の分析を行う際は、これら溶媒を用いる。
【0053】
上述のように、炭素系化合物は、ポリスチレン標準にて検量線を作成したGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)にて測定される重量平均分子量が、400以上5000以下である。この重量平均分子量が400より小さいと、電極とした時電解液に溶出し、充放電挙動に悪影響を及ぼすため適さない。5000を超える場合、炭素膜の導電性を低下させる要因となるため好ましくない。また、重量平均分子量1000以上のピーク成分を含むことが好ましい。1000以上の成分を含むと、該炭素系化合物が有する、電池特性、特にサイクル特性への改善効果が十分に得られる。特に、重量平均分子量が600以上3000以下の場合には、導電性炭素膜の導電性を維持しつつ、充放電時の電解液に分解を抑制する効果を特に効果的に発揮するため好ましい。
【0054】
本発明の炭素系化合物は、H−NMRスペクトルにおいて、テトラメチルシランを0ppmとした時のケミカルシフトが0.6〜1.6ppmと7.3〜9.2ppmの範囲にピークを有するものであることが好ましい。上記のケミカルシフトが0.6〜1.6ppmの領域におけるピークは、分岐を含む鎖状、又は環状のアルキル基のプロトンの存在を表している。また、ケミカルシフトが7.3〜9.2ppmの領域におけるピークは、芳香族炭化水素構造のプロトンの存在を表しており、本発明の炭素系化合物は、両方の構造を含むものが適する。
【0055】
本発明の炭素系化合物は、導電性炭素膜を形成する際に副生したものであることが好ましい。炭素系化合物が導電性炭素膜の形成時に副生されたものであれば、より簡便に得られ、低コストで得られる負極材となる。
【0056】
また、本発明では、導電性炭素膜は、温度880℃以上1150℃以下の条件で、炭素源として炭素数3以下の炭化水素を80%以上含有する炭化水素ガスを供給し、該炭化水素ガスを熱分解させることにより形成されたものであることが好ましい。温度が880℃以上で形成されたものであれば、炭素系化合物の重量平均分子量が確実に400以上となる。また、温度が1150℃以下で形成された導電性炭素膜であれば、上記の炭素系化合物の含有量が十分な量となる。
【0057】
導電性炭素膜は特に限定されるものではないが、珪素系活物質粒子に対し0.1質量%以上30質量%以下の割合で含まれることが好ましく、2〜25質量%がより好ましい。被覆量が0.1質量%以上であれば、十分な導電性を維持でき、結果として非水電解質二次電池用負極材とした場合にサイクル性が向上する。上記割合が30質量%以下であれば、負極材に占める炭素の割合が適切な範囲となるため、珪素材を十分に使用できるため充放電容量を向上させることができる。
【0058】
本発明の炭素系化合物は、炭化水素溶媒にて抽出し、溶媒を揮発させることによって固体として得ることができ、その量を測定できる。このとき、抽出採取された炭素系化合物の含有量、すなわち、炭素系化合物の含有量が、珪素系活物質粒子に対して2質量ppm以上、6000質量ppm以下の割合であることが好ましい。上記炭素系化合物の含有量が、2質量ppm以上の場合は、炭素系化合物による電池特性の向上効果が十分に得られる。上記炭素系化合物の含有量が、6000質量ppm以下であれば、導電性炭素膜による導電性を十分に得られる。また、より好ましい含有量は、10質量ppm以上、5000質量ppm以下である。
【0059】
本発明では、導電性炭素膜の構造を表す指標として、一般にラマンスペクトルで観測されるdバンド、gバンドのピークの半値幅、及び強度比を用いることができる。dバンドのピークは、炭素のsp3構造に起因すると推定され、ラマンスペクトルでは、1330〜1350cm−1付近に観測される。またgバンドは、sp2混成による環状平面構造に由来すると推定され、1580〜1590cm−1付近に観測される。これらのdバンドとgバンドのピーク強度比(I/I)は、膜質を表す値として用いることができる。炭素前駆体の熱分解にて生成する炭素膜は、一般的にアモルファスカーボンであり、炭素膜におけるピーク強度比(I/I)が小さいほど、sp2構造のカーボン存在比が高いことが示されている(例えば、A.C.Ferrari et al., Phys.Rev.B vol.61, No.20, 14095 (2000)参照)。
【0060】
ここで、本発明の導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値が、0.9以上1.6以下であることが好ましい。(I/I)が1.6以下であれば、導電性に寄与すると推定されるsp2構造の存在率が高く、導電性に富み、良好なサイクル特性が得られる。(I/I)が0.9以上であれば、結晶性の高い構造の存在比率が低くなり、異方性が発現し難くなるため、負極材として使い易いため好ましい。尚、ラマンスペクトルの測定数値は、堀場製作所製ラマン顕微鏡XploRaを用いて測定し、半値幅、強度比等の数値は解析ソフトLabSpecを用いて算出することができる。
【0061】
本発明において、記珪素系活物質粒子の1.5g/cmに圧縮した時の抵抗率である圧縮体積抵抗率が、0.01Ωcm以上1000Ωcm以下であることが好ましい。これは導電性炭素の量等を調整することで制御可能である。圧縮体積抵抗率が0.01Ωcm以上であれば、導電性炭素膜の量を適切な範囲に抑えることができ、負極材としての容量が十分に取れる。圧縮体積抵抗率が1000Ωcm以下であれば、電極とした時の抵抗が高くなり過ぎず、電池特性が低下することがない。尚、体積抵抗率は、三菱化学アナリティック製粉体抵抗測定システムMCP−PD51型を用いて測定できる。
【0062】
本発明において、導電性炭素膜は、酸化珪素粒子を連続的に供給、排出する連続炉を用いて、形成されたものであることが好ましい。特に、上述の加熱温度に設定した加熱炉を、上述のプロセス雰囲気とし、酸化珪素粒子を投入し、一定時間加熱炉内に保持する間に導電性炭素膜を形成し、その後排出するシステムがよく、具体的な製造装置としては、ローラーハースキルン、ロータリーキルンが適用でき、特に高い生産性の観点からロータリーキルンが適している。
【0063】
[非水電解質二次電池用負極材の製造方法]
本発明の非水電解質二次電池用負極材の製造方法は、一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子を作製する工程と、酸化珪素粒子の表面を、導電性炭素膜で被覆する工程と、導電性炭素膜が被覆された酸化珪素粒子から、導電性炭素膜が、ポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下であり、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含んでいるものを選別する工程を有する。そして、該選別した導電性炭素膜が被覆された酸化珪素粒子を珪素系活物質粒子とする。
【0064】
酸化珪素粒子を作製する工程では、まず、酸化珪素ガスを発生する原料を加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合物とすることができる。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生した酸化珪素ガスは吸着板に堆積される。そして、堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。このようにして、一般式SiO(0.5≦x<1.6)で表される酸化珪素粒子を作製する。
【0065】
得られた酸化珪素粒子の表面を導電性炭素膜で被覆する工程では、導電性炭素膜の被覆方法として熱分解CVDを選択できる。例えば、導電性炭素膜をCVDにて形成する場合、そのプロセスは、導電性炭素膜を形成させたい酸化珪素粒子をチャンバーに設置し、炭素前駆体となる気体、或いは液体を、それら前駆体が分解する温度まで加熱したチャンバー内に導入するものである。導電性炭素膜に含まれる炭素系化合物の種類、量は、上記プロセスの条件によって影響を受ける。本発明者らは、電池特性上、良好となるような炭素系化合物を複製する条件を見出した。本発明では、CVDのチャンバー加熱温度は、880℃以上1150℃以下が好ましい。880℃以上であれば、副生する炭素系化合物の重量平均分子量をより確実に400以上としやすいため好ましい。また、温度が1150℃以下であれば、本発明の炭素系化合物の発生が増加し、ススの発生量を少量に抑えられるため好ましい。
【0066】
また、炉内圧は大気圧(101kPa)に対する差圧で−3000Pa以上、3000Pa以下が好ましい。−3kPa以上の圧力では、炭素膜の形成速度を十分なものとすることができる。3kPa以下の圧力では、高温高圧に耐えうる特殊な加熱炉が特に必要ではなく、低コストで処理できる。好ましくは、大気圧との差圧が±1000Pa以内が好ましい。
【0067】
原料となる炭化水素ガスは、炭素源として炭素数3以下の炭化水素を80%以上含有する炭化水素ガスが適する。炭素数3以下の炭素化合物としては、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレンが挙げられるが、コストの観点から、メタン、エタン、及びこれらの混合ガスが好ましい。これらガス以外に炭素数4以上の炭素化合物、例えばブタン、ペンタン、ヘキサン、トルエン、キシレン等を上記比率以内で含んでも構わない。
【0068】
また、導電性炭素膜を、酸化珪素粒子を連続的に供給、排出する連続炉を用いて形成することが好ましい。特に、上述の加熱温度に設定した加熱炉を、上述のプロセス雰囲気とし、酸化珪素粒子を投入し、一定時間加熱炉内に保持する間に導電性炭素膜を形成し、その後排出するシステムがよく、具体的な製造装置としては、ローラーハースキルン、ロータリーキルンが適用でき、特に高い生産性の観点からロータリーキルンが適している。
【0069】
次に、導電性炭素膜が被覆された酸化珪素粒子から、導電性炭素膜が、ポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下で、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含んでいるものを選別する。このような条件を満たすものを選別して珪素系活物質粒子として、非水電解質二次電池用負極材を製造する。
【0070】
尚、上記酸化珪素粒子の選別は、必ずしも負極材の製造の都度行う必要はなく、一度、ポリスチレン標準によるゲルパーミエーションクロマトグラフィにて測定した重量平均分子量が400以上5000以下で、かつ、炭化水素溶媒に可溶な炭素系化合物を含む導電性炭素膜が得られる製造条件を見出して選択すれば、その後は、その選択された条件と同じ条件で負極材を製造することができる。
【0071】
[非水電解質二次電池用負極材]
本発明は、上記炭素系化合物を含む導電性炭素膜にて被覆された、珪素系活物質粒子からなる非水電解質二次電池用負極材である。この本発明の非水電解質二次電池用負極材を用いて、負極を作製し、リチウムイオン二次電池を製造することができる。なお、上記非水電解質二次電池用負極材を用いて負極を作製する場合、主の活物質として本発明の珪素系活物質を用いた珪素系活物質電極でもよく、また主活物質として、公知の黒鉛系活物質である天然黒鉛、人造黒鉛を用い、さらに本発明の珪素系活物質を添加した混合系電極でもよい。
【0072】
さらに、黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粉末や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0073】
負極(成型体)の調製方法としては下記の方法が挙げられる。上記導電性粉末と、必要に応じて導電剤、結着剤等の他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0074】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、上記負極材を用いる点に特徴を有し、正極、負極、電解液、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。
【0075】
[正極]
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式は、例えば、LiあるいはLiPOで表される。式中、M、Mは少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x,yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0076】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO),リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1−uMnPO(u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0077】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又はセパレータには液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。溶媒は、例えば非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン、或いはテトラヒドロフランが挙げられる。
【0078】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上が電解液に含まれることが望ましい。これは、より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせるとより優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0079】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどがあげられる。また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0080】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、次の材料があげられる。六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0081】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどが挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
導電性炭素膜の被覆に使用するCVD装置として、反応ガス導入口、キャリアガス導入口を備え、内径200mm、長さ3mの回転式円筒炉を備えたロータリーキルンを準備した。原料粒子として平均粒子径8μmの一般式SiO(x=0.98)で表される酸化珪素粒子20kgをタンクに仕込み、窒素雰囲気下、炉内を1050℃まで昇温、保持した。
【0084】
その後、原料粒子を1.0Kg/hの速度で炉に投入し、さらに反応ガスとしてメタン12L/min、キャリアガスとして窒素15L/minを導入した。この時、炉内圧は20Pa陽圧になるように調整した。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をA1とする。実施例及び後述する比較例の導電性炭素膜の形成条件を、下記の表1にまとめる。
【0085】
得られた珪素系活物質粒子(A1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し4.6質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定(装置 堀場製作所製ラマン顕微鏡 XploRa、解析ソフトLabSpecを用いて測定)される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値が1.43であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率0.6Ωcmであった。また、X線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が4.5nmであった。
【0086】
また、珪素系活物質粒子の導電性炭素膜に含まれている炭素系化合物を抽出するため、上記粒子(A1)100gを1Lセパラフラスコに仕込み、トルエン500gを加え、攪拌機にて撹拌した。トルエン還流下、3時間抽出を行った後、粒子をろ別し、トルエン層を濃縮することにより、炭素系化合物(A2)を33mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、330質量ppmと算出できた。
【0087】
続いて、炭素系化合物(A2)をテトラヒドロフランに溶解させ、GPC測定を行い、その分子量をポリスチレン標準より作成した検量線から算出した。その結果を図1に示す。GPCチャートが、いくつかのピークを示していることから、分子量の異なる成分の混合物であることがわかる。最も分子量の大きいピークは重量平均分子量で1378に相当した。全ピークから得られる重量平均分子量は840であった。
【0088】
また、この炭素系化合物(A2)をTMS(テトラメチルシラン)含有重クロロホルムに溶解させ、核磁気共鳴スペクトル測定装置(ブルカーバイオスピン社製 AVANCEIII400MHz)にてH−NMRスペクトルを測定した。その結果を図2に示す。図2に示す、0.6〜1.6ppmに観測されているピークは、脂肪族炭化水素基に由来するものと帰属でき、また、7.3〜9.2ppmに観測されているピークは、芳香族炭化水素基に由来するものである。0ppmのピークはTMS、7.2ppm付近のピークは、クロロホルムの残留ピークである。
【0089】
次に、炭素系化合物(A2)を含む珪素系活物質粒子(A1)を負極活物質として用い、以下のような電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。
【0090】
<電極作製>
上記で作製した珪素系活物質粒子(A1)を90質量%とポリイミド(新日本理化製リカコートEN−20)を10質量%(固形分換算)で混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ11μmの銅箔の片面に塗布し、100℃で30分乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を300℃で2時間真空乾燥した。その後、面積が2cmとなるように円形カットし、負極とした。
【0091】
さらに、コバルト酸リチウム94質量%とアセチレンブラック3質量%、ポリフッ化ビニリデン3質量%を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとし、このスラリーを厚さ16μmのアルミ箔に塗布した。このアルミ箔に塗布したスラリーを、100℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を120℃で5時間真空乾燥した後、面積が2cmとなるように円形カットし、正極とした。
【0092】
<コイン型電池作製>
作製した負極及び正極、LiPFをエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶液に1mol/Lの濃度となるよう溶解させた非水電解液、厚さ20μmのポリプロピレン製微多孔質フィルムのセパレータを用いて評価用コイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
<電池評価>
作製したコイン型リチウムイオン二次電池を一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて充放電を行った。まずテストセルの電圧が4.2Vに達するまで0.5CmAの定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2Vに保つように電流を減少させて充電を行い、電流値が0.1CmA相当まで充電を行った。放電は0.5CmA相当の定電流で行い、セル電圧が2.5Vに達した時点で放電を終了し、以上の操作によって初回充放電容量及び初回充放電効率を求めた。さらに、以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の100サイクル後の充放電試験を行った。評価結果は、初期からの放電維持率が85%以上をA、75〜85%未満をB、65〜75%未満をCと表記した。評価結果は表1に記載した。
【0094】
<ガス発生試験>
珪素系活物質粒子(A1)を1.0gと、1M LiPFのEC:DEC=1:1電解液1.0gとを、露点−50℃以下のドライルーム内にて、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(GC:アジレント製6890N、ヘッドスペース:アジレント製7697Aを使用)の専用バイアルに仕込み、封止した。このバイアルを60℃にて1週間保管後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにセットし、打ち込み量1mLにて測定を行った。標準サンプルにて検量線を引き、換算した発生ガス体積が2.0μL未満をA、2.0〜3.5μLをB、3.5〜5.0μLをC、5.0μLより多いものをDとした。試験結果は表1に記載した。
【0095】
(実施例2)
ロータリーキルン、酸化珪素粒子は実施例1で使用したものと同じものを用い、炉内温度970℃、反応ガスとしてメタン21L/min、キャリアガスとして窒素14L/minを炉内に導入しながら、1.5kg/hの速度で粉体粒子を炉内に投入した。この間、炉内圧力は6Pa陽圧を保った。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をB1とする。
【0096】
得られた珪素系活物質粒子(B1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し3.2質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値は1.03であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率0.9Ωcmであった。またX線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が3.1nmであった。また、H−NMRスペクトルにおいて、0.6〜1.6ppm及び、7.3〜9.2ppmの両方の範囲にピークを有していた。
【0097】
また、実施例1と同様の手順で珪素系活物質粒子(B1)100gから、炭素系化合物(B2)を抽出した。その結果、炭素系化合物(B2)は51mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、510質量ppmと算出できた。
【0098】
続いて、炭素系化合物(B2)を、実施例1と同様の手順で、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は1030であった。このような珪素系活物質粒子(B1)を負極材として使用して、実施例1と同様、電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。その結果を表1に示す。
【0099】
(実施例3)
原料粒子として使用する酸化珪素粒子と、CVDプロセス条件の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に、コインセル作製を作製し、電池評価、ガス発生評価を行った。
【0100】
原料粒子としては、平均粒子径4μmの一般式SiO(x=1.03)で表される酸化珪素粒子を使用した。また、ロータリーキルンの炉内温度1140℃、反応ガスとしてメタン11L/min及びエタン2L/min、キャリアガスとして窒素10L/minを炉内に導入しながら、1.8kg/hの速度で粉体粒子を炉内に投入した。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をC1とする。
【0101】
得られた珪素系活物質粒子(C1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し7.2質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値は1.35であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率0.3Ωcmであった。またX線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が9.8nmであった。また、H−NMRスペクトルにおいて、0.6〜1.6ppm及び、7.3〜9.2ppmの両方の範囲にピークを有していた。
【0102】
また、実施例1と同様の手順で珪素系活物質粒子(C1)100gから、炭素系化合物(C2)を抽出した。その結果、炭素系化合物(C2)は23mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、230質量ppmと算出できた。
【0103】
続いて、炭素系化合物(C2)を、実施例1と同様の手順で、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は920であった。このような珪素系活物質粒子(C1)を負極材として使用して、実施例1と同様、電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。その結果を表1に示す。
【0104】
(実施例4)
原料粒子として使用する酸化珪素粒子と、CVDプロセス条件の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に、コインセル作製を作製し、電池評価、ガス発生評価を行った。
【0105】
実施例4では、原料粒子としては、平均粒子径4μmの一般式SiO(x=0.99)で表される酸化珪素粒子を使用した。また、ロータリーキルンの炉内温度1080℃、反応ガスとしてエタンを10L/min、キャリアガスとして窒素14L/minを炉内に導入しながら、1.2kg/hの速度で粉体粒子を炉内に投入した。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をD1とする。
【0106】
得られた珪素系活物質粒子(D1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し6.2質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値は1.01であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率2.8Ωcmであった。またX線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が5.3nmであった。また、H−NMRスペクトルにおいて、0.6〜1.6ppm及び、7.3〜9.2ppmの両方の範囲にピークを有していた。
【0107】
また、実施例1と同様の手順で珪素系活物質粒子(D1)100gから、炭素系化合物(D2)を抽出した。その結果、炭素系化合物(D2)は36mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、360質量ppmと算出できた。
【0108】
続いて、炭素系化合物(D2)を、実施例1と同様の手順で、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は400であった。このような珪素系活物質粒子(D1)を負極材として使用して、実施例1と同様、電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。その結果を表1に示す。
【0109】
(実施例5)
原料粒子として使用する酸化珪素粒子と、CVDプロセス条件の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に、コインセル作製を作製し、電池評価、ガス発生評価を行った。
【0110】
原料粒子としては、平均粒子径6μmの一般式SiO(x=0.97)で表される酸化珪素粒子を使用した。また、ロータリーキルンの炉内温度920℃、反応ガスとしてメタンを16L/min、キャリアガスとして窒素8L/minを炉内に導入しながら、1.2kg/hの速度で粉体粒子を炉内に投入した。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をE1とする。
【0111】
得られた珪素系活物質粒子(E1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し4.2質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値は1.16であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率0.8Ωcmであった。またX線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が2.2nmであった。また、H−NMRスペクトルにおいて、0.6〜1.6ppm及び、7.3〜9.2ppmの両方の範囲にピークを有していた。
【0112】
また、実施例1と同様の手順で珪素系活物質粒子(E1)100gから、炭素系化合物(E2)を抽出した。その結果、炭素系化合物(E2)は26mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、260質量ppmと算出できた。
【0113】
続いて、炭素系化合物(E2)を、実施例1と同様の手順で、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は5000であった。このような珪素系活物質粒子(E1)を負極材として使用して、実施例1と同様、電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。その結果を表1に示す。
【0114】
(比較例1)
CVDプロセス条件の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に、コインセル作製を作製し、電池評価、ガス発生評価を行った。
【0115】
比較例1では、ロータリーキルンの炉内温度1180℃、反応ガスとしてメタン12L/min、キャリアガスとして窒素15L/minを炉内に導入しながら、1.0kg/hの速度で粉体粒子を炉内に投入した。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をF1とする。
【0116】
得られた珪素系活物質粒子(F1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し5.6質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値は1.51であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率0.5Ωcmであった。またX線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が12.0nmであった。また、H−NMRスペクトルにおいて、0.6〜1.6ppm及び、7.3〜9.2ppmの両方の範囲にピークを有していた。
【0117】
また、実施例1と同様の手順で珪素系活物質粒子(F1)100gから、炭素系化合物(F2)を抽出した。その結果、炭素系化合物(F2)は15mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、150質量ppmと算出できた。
【0118】
続いて、炭素系化合物(F2)を、実施例1と同様の手順で、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は320であり400未満であった。このような珪素系活物質粒子(F1)を負極材として使用して、実施例1と同様、電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。その結果を表1に示す。
【0119】
(比較例2)
原料粒子として使用する酸化珪素粒子と、CVDプロセス条件の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に、コインセル作製を作製し、電池評価、ガス発生評価を行った。
【0120】
原料粒子としては、平均粒子径4μmの一般式SiO(x=1.03)で表される酸化珪素粒子を使用した。また、ロータリーキルンの炉内温度850℃、反応ガスとしてプロパン9L/min、キャリアガスとして窒素15L/minを炉内に導入しながら、1.2kg/hの速度で粉体粒子を炉内に投入した。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をG1とする。
【0121】
得られた珪素系活物質粒子(G1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し4.8質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値は0.88であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率2.5Ωcmであった。またX線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が1.8nmであった。また、H−NMRスペクトルにおいて、0.6〜1.6ppm及び、7.3〜9.2ppmの両方の範囲にピークを有していた。
【0122】
また、実施例1と同様の手順で珪素系活物質粒子(G1)100gから、炭素系化合物(G2)を抽出した。その結果、炭素系化合物(G2)は62mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、620質量ppmと算出できた。
【0123】
続いて、炭素系化合物(G2)を、実施例1と同様の手順で、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は220であり400未満であった。このような珪素系活物質粒子(G1)を負極材として使用して、実施例1と同様、電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。その結果を表1に示す。
【0124】
(比較例3)
原料粒子として使用する酸化珪素粒子と、CVDプロセス条件の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様に、コインセル作製を作製し、電池評価、ガス発生評価を行った。
【0125】
原料粒子としては、平均粒子径6μmの一般式SiO(x=1.01)で表される酸化珪素粒子を使用した。また、ロータリーキルンの炉内温度1000℃、反応ガスとしてメタンを8L/min、キャリアガスとして窒素4L/minを炉内に導入しながら、1.5kg/hの速度で粉体粒子を炉内に投入した。このCVDプロセスにより、酸化珪素粒子表面に導電性炭素膜を形成し、珪素系活物質粒子を製造した。この珪素系活物質粒子をH1とする。
【0126】
得られた珪素系活物質粒子(H1)において、導電性炭素膜は、珪素系活物質粒子に対し3.1質量%含まれていた。また、導電性炭素膜は、ラマンスペクトルから測定される、カーボンのdバンドのピーク強度Iと、gバンドのピーク強度Iの比(I/I)の値は1.23であった。また、珪素系活物質粒子の圧縮体積抵抗率2.1Ωcmであった。またX線回折(Cu−Kα)の回折線の広がりを元に算出した珪素微結晶の結晶子の結晶子径が4.1nmであった。また、H−NMRスペクトルにおいて、0.6〜1.6ppm及び、7.3〜9.2ppmの両方の範囲にピークを有していた。
【0127】
また、実施例1と同様の手順で珪素系活物質粒子(H1)100gから、炭素系化合物(H2)を抽出した。その結果、炭素系化合物(H2)は16mg得られた。これにより、珪素系活物質粒子に対する炭素系化合物の含有量は、160質量ppmと算出できた。
【0128】
続いて、炭素系化合物(H2)を、実施例1と同様の手順で、GPC測定を行ったところ、重量平均分子量は5100であり5000より大きかった。このような珪素系活物質粒子(H1)を負極材として使用して、実施例1と同様、電極作製、コインセル作製、電池評価、ガス発生評価を行った。その結果を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
表1から分かるように、実施例1〜5では、電池評価において、充放電試験及びガス発生試験のいずれの評価もAとなった。充放電試験の評価結果から、本発明の負極材は、従来より良好なサイクル特性を有することが分かった。また、ガス発生試験の評価結果より、電池内部で発生するガスが、従来よりも少量となることが確認され、電解質の分解等がより少なくなり、良好なサイクル特性を有することが分かった。一方で、比較例1〜3では、充放電試験及びガス発生試験のいずれの評価も実施例1〜5に劣る結果となった。比較例1、2では、炭素系化合物の重量平均分子量が400未満であるため、電極とした時に電解液に溶出し、充放電挙動に悪影響を及ぼしたと考えられる。また、比較例3では、炭素系化合物の重量平均分子量が5000より大きいため、導電性を低下させる要因となりサイクル特性が悪化したと考えられる。
【0131】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2