(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6262716
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】溶射用粉末、及び溶射皮膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/10 20160101AFI20180104BHJP
C23C 4/129 20160101ALI20180104BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20180104BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20180104BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
C23C4/10
C23C4/129
C23C4/134
H01L21/302 101G
C04B41/87 K
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-505438(P2015-505438)
(86)(22)【出願日】2014年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2014055936
(87)【国際公開番号】WO2014142019
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2016年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-50863(P2013-50863)
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】北村 順也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和人
(72)【発明者】
【氏名】都築 一志
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−131997(JP,A)
【文献】
特開2012−188677(JP,A)
【文献】
特開2010−133021(JP,A)
【文献】
特開平08−290977(JP,A)
【文献】
特表2011−524944(JP,A)
【文献】
特開平10−298732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件を満たすセラミック粒子から構成される溶射用粉末であって、
前記セラミック粒子の平均粒子径は、1μm以上20μm以下であって、
パウダーレオメータを用いて測定される前記セラミック粒子の流動性指標値FFが3以上であり、ここで、前記流動性指標値FFは、常温常湿下でセラミック粒子に9kPaの剪断力を与えたときのセラミック粒子の最大主応力及び単軸崩壊応力を測定し、最大主応力の測定値を単軸崩壊応力の測定値で除することにより求められ、
前記セラミック粒子の平均フラクタル次元値が1.2以上1.7以下である溶射用粉末。
【請求項2】
前記セラミック粒子が高分子により被覆されている請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
前記セラミック粒子の表面にナノ粒子が付着している請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
前記セラミック粒子は、粒子径20μm以上50μm以下の粒子を40質量%以下含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項5】
前記セラミック粒子は酸化物セラミック粒子である請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶射用粉末を高速フレーム溶射又はプラズマ溶射することを含む、溶射皮膜の形成方法。
【請求項7】
前記溶射用粉末をアクシャルフィード方式で溶射装置に供給することをさらに含む請求項6に記載の溶射皮膜の形成方法。
【請求項8】
前記溶射用粉末を、2つのフィーダーを用いて、両フィーダーからの溶射用粉末の供給量の変動周期が互いに逆位相となるようにして溶射装置に供給することをさらに含む請求項6に記載の溶射皮膜の形成方法。
【請求項9】
前記溶射用粉末をフィーダーから送り出して溶射装置の直前でタンクにいったん貯留し、自然落下を利用してそのタンク内の溶射用粉末を溶射装置に供給することをさらに含む請求項6に記載の溶射皮膜の形成方法。
【請求項10】
導電性チューブを介して溶射装置へ溶射用粉末を供給することをさらに含む請求項6に記載の溶射皮膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック粒子を含んだ溶射用粉末
、及びその溶射皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック溶射皮膜は、構成セラミックスの特性に応じて種々の用途で使用されている。例えば、酸化アルミニウム溶射皮膜は、酸化アルミニウムが高い電気絶縁性、耐摩耗性及び耐食性を示すことから、各種部材の保護皮膜として使用されている。酸化イットリウム溶射皮膜は、酸化イットリウムが高い耐プラズマエロージョン性を示すことから、半導体デバイス製造装置中の部材の保護皮膜として使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
しかしながら、溶射皮膜が本質的に多孔質であることが原因で、セラミック溶射皮膜はセラミック焼結バルク体と比較して機械的、電気的又は化学的特性に劣ることがある。例えば、酸化アルミニウム溶射皮膜は酸化アルミニウム焼結バルク体と比較して電気絶縁性、耐摩耗性又は耐食性に劣る。また、酸化イットリウム溶射皮膜は酸化イットリウム焼結バルク体と比較して耐プラズマエロージョン性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−80954号公報
【特許文献2】特開2006−144094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミック焼結バルク体に近い特性を有するセラミック溶射皮膜を形成するためには、粒子径の小さいセラミック粒子を使用することが効果的である。例えば平均粒子径が10μm以下のセラミック粒子を溶射することにより、気孔率の小さい緻密なセラミック溶射皮膜が得られることがある。ただし、粒子径の小さいセラミック粒子は流動性に劣る傾向がある。従来、所要の流動性を有する溶射用粉末を設計するために、例えばCarrの流動性指数が利用されている。Carrの流動性指数は、安息角、圧縮度、スパチュラ角、及び凝集度(又は均一度)から求められる。しかしながら、平均粒子径が10μm以下のセラミック粒子の場合、Carrの流動性指数と実際の流動性との間の相関が乏しく、所要の流動性を有するように設計するのが困難であることを本発明の発明者らは見出した。
【0006】
そこで本発明の目的は、所要の流動性を有するように設計されたセラミック粒子を含んだ溶射用粉末を提供することにある。また、本発明の別の目的は
、その溶射皮膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様では、
下記の要件を満たすセラミック粒子から構成される溶射用粉末であって、前記セラミック粒子の平均粒子径は、1μm以上20μm以
下であって、パウダーレオメータを用いて測定される前記セラミック粒子の流動性指標値FFが3以上であり、ここで、前記流動性指標値FFは、常温常湿下でセラミック粒子に9kPaの剪断力を与えたときのセラミック粒子の最大主応力及び単軸崩壊応力を測定し、最大主応力の測定値を単軸崩壊応力の測定値で除することにより求められ
、前記セラミック粒子の平均フラクタル次元値が1.2以上1.7以下である溶射用粉末が提供される。
【0008】
セラミック粒子は高分子により被覆されていてもよい。あるいは、セラミック粒子の表面にはナノ粒子が付着していてもよい。
【0009】
セラミック粒子は、粒子径20μm以上50μm以下の粒子を40質量%以下含有してもよい。
【0010】
セラミック粒子は酸化物セラミック粒子であってもよい。
【0011】
本発明
の別の態様では、上記態様に係る溶射用粉末を高速フレーム溶射又はプラズマ溶射して溶射皮膜を形成する
ことを含む、溶射皮膜の形成方法が提供される。
【0012】
上記態様の方法において、溶射用粉末をアクシャルフィード方式で溶射装置に供給
することをさらに含んでもよい。あるいは、溶射用粉末を、2つのフィーダーを用いて、両フィーダーからの溶射用粉末の供給量の変動周期が互いに逆位相となるようにして溶射装置に供給
することをさらに含んでもよい。あるいは、溶射用粉末をフィーダーから送り出して溶射装置の直前でタンクにいったん貯留し、自然落下を利用してそのタンク内の溶射用粉末を溶射装置に供給
することをさらに含んでもよい。あるいは、導電性チューブを介して溶射装置へ溶射用粉末を供給
することをさらに含んでもよい
。
【発明を実施するための形態】
【0014】
溶射用粉末は、溶射皮膜を形成する用途で例えば使用される。溶射用粉末を基材に向けて溶射した場合には、基材上に溶射皮膜が形成される。基材の種類は、金属製やセラミックス製など特に問わない。
【0015】
溶射用粉末は、セラミック粒子を含有している。溶射用粉末中のセラミック粒子は、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、イットリア安定化酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、ムライト、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)、コージェライト、ジルコンなどの酸化物セラミックスからなるものでもよい。あるいは、スピネルセラミックスや、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウニム(Gd)、テルビウム(Tb)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などの希土類元素を含んだ酸化物セラミックス、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)などを含んだ複酸化物セラミックスからなる粒子であってもよい。あるいは、炭化ホウ素などの炭化物セラミックスからなる粒子であってもよい。
【0016】
溶射用粉末は、セラミック粒子以外の成分を含んでもよいが、セラミック粒子以外の成分の含有量はできるだけ少ないことが好ましい。好ましくは、溶射用粉末の100%がセラミック粒子によって構成される。
【0017】
溶射用粉末中のセラミック粒子の平均粒子径は1μm以上であることが好ましく、より好ましくは2μm以上である。この場合、溶射用粉末の流動性が向上する。
【0018】
溶射用粉末中のセラミック粒子の平均粒子径は20μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、最も好ましくは8μm以下である。この場合、緻密なセラミック溶射皮膜を得ることが容易となる。
【0019】
溶射用粉末中のセラミック粒子は、例えばマルバーン社製のFT4のようなパウダーレオメータを用いて測定される流動性指標値FFが3以上であることが好ましい。流動性指標値FFは、例えば50mmの直径を有する容器内に所定の量のセラミック粒子を入れ、常温常湿下、容器内のセラミック粒子に9kPaの剪断力を与えたときのセラミック粒子の最大主応力及び単軸崩壊応力を測定し、最大主応力の測定値を単軸崩壊応力の測定値で除することにより求められる。流動性指標値FFは、セラミック粒子を入れる容器の大きさや容器に入れられるセラミック粒子の量には依存しない。温湿度の影響を小さくするため、測定前にセラミック粒子は、温度20℃、湿度50%RHの状態で0.5時間以上放置することが好ましい。流動性指標値FFが3以上のセラミック粒子を含む溶射用粉末を用いて溶射皮膜を作製した場合、緻密な溶射皮膜を得ることが容易となる。
【0020】
流動性指標値FFが3以上のセラミック粒子を得るための手段としては、セラミック粒子を高分子又は有機化合物により被覆するか、あるいは、セラミック粒子の表面にナノ粒子を付着させるか、あるいは、シランカップリング剤などを用いてセラミック粒子の表面にカルボニル基などの官能基を付与することが有効である。
【0021】
高分子又は有機化合物によるセラミック粒子の被覆は、例えば、高分子又は有機化合物及びセラミック粒子を水又は有機溶剤と混合し、その混合物を分散させながら乾燥することにより行うことができる。あるいは、セラミック粒子と高分子の微粉末を大気中で混合することによりセラミック粒子を高分子で被覆してもよい。ここで使用される高分子の例としては、非イオン性ポリマー、例えばポリエチレングリコールなどのポリエーテルが挙げられる。また、有機化合物の例としてはセルロースが挙げられる。
【0022】
セラミック粒子の表面へのナノ粒子の付着は、例えば、セラミック粒子とナノ粒子を混合することにより行うことができる。ここで使用されるナノ粒子の例としては、セラミック微粒子、カーボン微粒子などが挙げられる。ナノ粒子は、溶射用粉末中のセラミック粒子と同じ組成を有することが好ましい。ナノ粒子は、200nm以下の平均粒子径を有するものであることが好ましい。
【0023】
セラミック粒子の平均フラクタル次元値は、1.05以上であることが好ましく、より好ましくは1.2以上である。この場合、高分子やナノ粒子がセラミック粒子の表面に付着しやすくなるために、高分子によるセラミック粒子の被覆やセラミック粒子の表面へのナノ粒子の付着を行ったときに、より高い流動性を実現することが容易となる。なお、平均フラクタル次元値とは、セラミック粒子表面の凹凸度を定量化した値で、1以上2未満の値をとる。セラミック粒子表面の凹凸度が高いほど、セラミック粒子の平均フラクタル次元値は大きくなる。
【0024】
セラミック粒子の平均フラクタル次元値はまた、1.7以下であることが好ましく、より好ましくは1.6以下である。この場合、セラミック粒子表面の凹凸がセラミック粒子の流動性に与える悪影響を低減させることが容易となる。
【0025】
セラミック粒子の平均粒子径が1μm以上20μm以下の範囲内であれば、セラミック粒子は粒子径20μm以上50μm以下の粒子を含んでもよい。この場合、セラミック粒子の流動性を向上させることが容易である。セラミック粒子中に含まれる粒子径20μm以上50μm以上の粒子の割合は40質量%以下であることが好ましい。
【0026】
セラミック粒子は、例えば、ベルヌーイ法又は溶融−粉砕法で製造することができる。あるいは、焼結−粉砕法及び造粒−焼結法などの固相焼結法により製造してもよい。ベルヌーイ法では、原料粉末を酸水素炎中に落としながら溶融し、結晶成長させることによりセラミック粒子が製造される。溶融−粉砕法では、原料粉末を溶融して冷却凝固させた後に粉砕し、必要に応じてその後分級することによりセラミック粒子が製造される。焼結−粉砕法では、原料粉末を焼結及び粉砕し、必要に応じてその後分級することによりセラミック粒子が製造される。造粒−焼結法では、原料粉末を造粒及び焼結した後に解砕し、必要に応じてその後分級することによりセラミック粒子が製造される。あるいは、セラミック粒子は、気相合成法により製造することもできる。あるいは、フラックス法によれば単結晶粒子を製造することもできる。
【0027】
溶射用粉末を溶射する方法は、高圧の酸素(又は空気)と燃料によって発生した高速の燃焼炎ジェット流の中心に溶射用粉末を供給して高速で連続噴射する高速フレーム溶射、例えば高速酸素燃料溶射(HVOF)であってもよいし、あるいはプラズマ状になったガスによって発生するプラズマジェット流の中心に溶射用粉末を供給して噴射するプラズマ溶射、例えば大気圧プラズマ溶射(APS)であってもよい。高速フレーム溶射で使用される燃料は、アセチレン、エチレン、プロパン、プロピレンなどの炭化水素のガス燃料であってもよいし、灯油やエタノールなどの液体燃料であってもよい。本発明の溶射用粉末を高速フレーム溶射又はプラズマ溶射で溶射すると、粒子径の小さい溶射用粉末を流動性良く溶射することができ、緻密な溶射皮膜を効率よく形成することができる。
【0028】
溶射用粉末は溶射時にセラミック粒子の融点の110%以上の温度にまで加熱されることが好ましい。この場合、溶射時にセラミック粒子が十分に加熱されることにより、緻密な溶射皮膜を得ることが容易となる。
【0029】
溶射距離、すなわち溶射装置のノズル先端から基材までの距離は30mm以上であることが好ましい。この場合、基材の熱変質や熱変形を抑えることが容易となる。
【0030】
溶射距離はまた、200mm以下であることが好ましい。この場合、溶射時にセラミック粒子が十分に加熱されることにより、緻密な溶射皮膜を得ることが容易となる。
【0031】
溶射装置への溶射用粉末の供給はアクシャルフィード方式で行われること、すなわち溶射装置で生じるジェット流の軸と同じ方向に向けて溶射用粉末の供給が行われることが好ましい。本発明の溶射用粉末をアクシャルフィード方式で溶射装置に供給した場合、溶射用粉末の流動性が良いために溶射用粉末中のセラミック粒子が溶射装置内で付着しにくく、緻密な溶射皮膜を効率よく形成することができる。
【0032】
一般的なフィーダーを用いて溶射用粉末を溶射装置に供給した場合、周期的に供給量の変動が起こるために安定供給が難しい。この周期的な供給量の変動は脈動とも呼ばれる。脈動により、溶射用粉末の供給量が増加すると、溶射装置内でセラミック粒子が均一に加熱されにくくなり、不均一な溶射皮膜が形成される場合がある。そのため、溶射用粉末を溶射装置に安定して供給するために、2ストローク方式、すなわち2つのフィーダーを用いて、両フィーダーからの溶射用粉末の供給量の変動周期が互いに逆位相となるようにしてもよい。すなわち、一方のフィーダーからの供給量が増加するときに、他方のフィーダーからの供給量が減少するような周期になるように供給方式を調整してもよい。本発明の溶射用粉末を2ストローク方式で溶射装置に供給した場合、溶射用粉末の流動性が良いため、緻密な溶射皮膜を効率よく形成することができる。
【0033】
あるいは、溶射用粉末を溶射装置に安定して供給するための手段としては、フィーダーから送り出された溶射用粉末を溶射装置の直前でいったん貯留するタンクを設け、自然落下を利用してそのタンク内の溶射用粉末を溶射装置に供給するようにしてもよい。
【0034】
溶射装置への溶射用粉末の供給は、例えば金属製の導電性チューブを介して行われることが好ましい。導電性チューブを使用した場合、静電気の発生が抑えられることにより、溶射用スラリーの供給量に変動が起こりにくくなる。導電性チューブの内面は、0.2μm以下の表面粗さRaを有していることが好ましい。
【0035】
(作用)
パウダーレオメータを用いて測定される溶射用粉末中のセラミック粒子の流動性指標値FFが3以上である場合、溶射用粉末は、溶射装置への良好な供給に適した所要の流動性を有しうる。すなわち、溶射皮膜の形成に十分な所要の流動性を有しうる。
【0036】
(効果)
したがって、本実施形態によれば、セラミック溶射皮膜を良好に形成することの可能な溶射用粉末が提供される。
【0037】
(変形例)
溶射用粉末は、二種類以上のセラミック粒子を含有するものであってもよい。
【0038】
(実施例)
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0039】
セラミック粒子からなる実施例1〜10及び比較例1〜4の溶射用粉末を調製した。各溶射用粉末の詳細を表1に示す。
【0041】
表1中の“セラミック粒子の種類”欄には、各溶射用粉末で使用したセラミック粒子の種類を示す。同欄中、“Al
2O
3”は酸化アルミニウムを表し、“Y
2O
3”は酸化イットリウムを表し、“YSZ”はイットリア安定化酸化ジルコニウムを表し、“(La−Yb−Al−Si−Zn)O”はランタン、イッテルビウム、アルミニウム、シリコン及び亜鉛を含んだ複酸化物セラミックスを表し、“(La−Al−Si−Ca−Na−P−F−B)O”は、ランタン、アルミニウム、シリコン、カルシウム、ナトリウム、リン、フッ素及びホウ素を含んだ複酸化物セラミックスを表す。
【0042】
表1中の“セラミック粒子の平均粒子径”欄には、各溶射用粉末で使用したセラミック粒子の平均粒子径を示す。平均粒子径は、マイクロメリティックス社製の比表面積測定装置“Flow SorbII 2300”を用いて測定されるセラミック粒子の比表面積から算出した。
【0043】
表1中の“セラミック粒子の平均フラクタル次元値”欄には、各溶射用粉末で使用したセラミック粒子の平均フラクタル次元値を測定した結果を示す。平均フラクタル次元値の測定は、具体的には、各溶射用粉末中のセラミック粒子のうち平均粒子径±3μm以内の大きさの粒子径を有する5つの粒子についての走査型電子顕微鏡による二次電子像(倍率1000〜2000倍)に基づいて、株式会社日本ローパーの画像解析ソフトImage-Pro Plusを用いてディバイダー法により行った。
【0044】
表1中の“特記事項”欄中、“Al
2O
3ナノ粒子が付着”は、平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウムナノ粒子がセラミック粒子の表面に付着しており、溶射用粉末中の酸化アルミニウムナノ粒子の含有量が0.5質量%であることを表す。“Y
2O
3ナノ粒子が付着”は、平均粒子径が0.1μmの酸化イットリウムナノ粒子がセラミック粒子の表面に付着しており、溶射用粉末中の酸化イットリウムナノ粒子の含有量が0.5質量%であることを表す。“YSZナノ粒子が付着”は、平均粒子径が0.1μmのイットリア安定化酸化ジルコニウムナノ粒子がセラミック粒子の表面に付着しており、溶射用粉末中のイットリア安定化酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が0.5質量%であることを表す。“造粒−焼結”は、セラミック粒子が造粒−焼結法で製造されたものであることを表す。“PEGによる被覆”は、ポリエチレングリコールによってセラミック粒子が被覆されていることを表す。“Al
2O
3粗大粒子を含有”は、粒子径が30μmの酸化アルミニウム粗大粒子がセラミック粒子と混合されており、溶射用粉末中の酸化アルミニウム粗大粒子の含有量が20質量%であることを表す。
【0045】
表1中の“流動性指標値FF”欄には、各溶射用粉末で使用したセラミック粒子の流動性指標値FFを、パウダーレオメータを用いて測定した結果を示す。
【0046】
表1中の“成膜性その1”欄には、表2に記載の条件で各溶射用粉末を大気圧プラズマ溶射したときに溶射皮膜を得ることができたか否かを評価した結果を示す。同欄中の“○(良好)”は、1パスあたりに形成される溶射皮膜の厚さが3μm以上であったことを表し、“×(不良)”はそれが3μm未満であったことを表す。なお、1パスとは、溶射装置(溶射ガン)が、溶射装置又は溶射対象(基材)の運行方向に沿って行う1回の溶射操作のことをいう。
【0047】
表1中の“成膜性その2”欄には、表3に記載の条件で各溶射用粉末をHVOF溶射したときに溶射皮膜を得ることができたか否かを評価した結果を示す。同欄中の“○(良好)”は、1パスあたりに形成される溶射皮膜の厚さが3μm以上であったことを表し、“×(不良)”はそれが3μm未満であったことを表す。
【0048】
表1中の“皮膜特性その1”欄には、表2に記載の条件で各溶射用粉末を大気圧プラズマ溶射して得られた溶射皮膜の気孔率を評価した結果を示す。気孔率の測定は次のようにして行った。すなわち、溶射皮膜の断面を樹脂埋め研磨した後、オムロン株式会社製のデジタルマイクロスコープVC-7700を用いてその断面画像を撮影した。そして、株式会社日本ローパー製の画像解析ソフトImageProを用いた画像解析により断面画像中の気孔部分を特定し、それが断面画像中に占める面積の比率を求めた。“皮膜特性その1”欄中の“○(良好)”は、測定された溶射皮膜の気孔率が10%以下であったことを表し、“×(不良)”はそれが10%超であったことを表し、“−”は未試験を表す。
【0049】
表1中の“皮膜特性その2”欄には、表3に記載の条件で各溶射用粉末をHVOF溶射して得られた溶射皮膜の気孔率を評価した結果を示す。同欄中の“○(良好)”は、上記と同じ方法で測定された溶射皮膜の気孔率が10%以下であったことを表し、“×(不良)”はそれが10%超であったことを表し、“−”は未試験を表す。
【0052】
表1に示すように、実施例1〜10の溶射用粉末の場合、成膜性の評価が良好であった。また、実施例1〜10の溶射用粉末から得られた溶射皮膜はいずれも、気孔率が10%以下と高い緻密度であった。