特許第6263358号(P6263358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニューフレアテクノロジーの特許一覧

<>
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000002
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000003
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000004
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000005
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000006
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000007
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000008
  • 特許6263358-検査方法および検査装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263358
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】検査方法および検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/956 20060101AFI20180104BHJP
【FI】
   G01N21/956 A
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-193517(P2013-193517)
(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公開番号】特開2015-59826(P2015-59826A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100120569
【弁理士】
【氏名又は名称】大阿久 敦子
(72)【発明者】
【氏名】保井 良隆
(72)【発明者】
【氏名】磯村 育直
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−287419(JP,A)
【文献】 特開2003−214820(JP,A)
【文献】 特開2007−081293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/956
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の第1試料に形成されたパターンの光学画像を取得する工程と、
前記光学画像に対応する参照画像を前記第1試料の設計データに基づいて生成する工程と、
前記第1試料とは異なる第2試料の面内に形成されたパターンの寸法のばらつきを示す寸法分布を生成する工程と、
この寸法分布で示された前記第2試料の面内におけるパターンの寸法のばらつきを反映させた前記参照画像を再生成する工程と、
前記第1試料の前記光学画像と前記再生成された参照画像とをダイ−トゥ−データベース方式によって比較し、欠陥が検出された光学画像について該欠陥に関する情報を保存する工程と
を有することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記第1試料および前記第2試料はそれぞれ、多層のパターン構造を有する半導体素子の複数のパターンのいずれかを形成するためのものであることを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記第2試料は複数あり、該複数の第2試料のそれぞれに形成されたパターンの寸法分布を反映させて前記参照画像を再生成することを特徴とする請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記欠陥の検出は、所定の値を中心値として上限側の許容幅と下限側の許容幅とを決めて上限閾値と下限閾値とを設定することにより行われるものであり、
前記参照画像に含まれるパターンの線幅がより太くなるように前記参照画像の再生成がなされた場合には、該参照画像より太い線幅を有する前記光学画像のパターンに対して、前記上限側の許容幅が下限側の許容幅より小さな絶対値となるように前記上限閾値が設定され、
前記参照画像に含まれるパターンの線幅がより細くなるように前記参照画像の再生成がなされた場合には、該参照画像より細い線幅を有する前記光学画像のパターンに対して、前記下限側の許容幅が上限側の許容幅より小さな絶対値となるように前記下限閾値が設定されて、前記欠陥の検出が行われ
とを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
検査対象の第1試料に形成されたパターンの光学画像を取得する光学画像取得部と、
前記光学画像に対応する参照画像を前記第1試料の設計データに基づいて生成するとともに、前記第1試料とは異なる第2試料の面内に形成されたパターンの寸法分布で示された前記第2試料の面内のパターンの寸法のばらつきを反映させて前記参照画像を再生成する参照画像生成部と、
前記光学画像と前記再生成された参照画像とをダイ−トゥ−データベース方式によって比較する比較部と、
前記比較部で欠陥が検出された光学画像について該欠陥に関する情報を保存する保存部
有することを特徴とする検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大規模集積回路(Large Scale Integration;LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路寸法は狭小化の一途を辿っている。例えば、最近の代表的なロジックデバイスでは、数十nmの線幅のパターン形成が要求される状況となってきている。
【0003】
多大な製造コストのかかるLSIにとって、製造工程における歩留まりの向上は欠かせない。ここで、半導体素子は、その製造工程において、ステッパまたはスキャナと呼ばれる縮小投影露光装置により、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)がウェハ上に露光転写される。そして、半導体素子の歩留まりを低下させる大きな要因として、マスクパターンの形状欠陥が挙げられる。近年、ウェハ上に形成されるLSIパターンの寸法が微細化していることに伴って、マスクパターンの形状欠陥も微細化している。そこで、例えば、特許文献1には、マスク上における微細な欠陥を検出できる検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−214820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来のマスク検査では、もっぱらパターンの形状欠陥を検出することが目的とされ、それに適した欠陥判定のアルゴリズムが工夫されてきた。そして、近年のマスク検査においては、さらに、他の欠陥であるパターンの線幅変動に起因するLSIの製造マージン不足が課題とされていることに対応し、線幅異常に対する検出感度の向上が求められている。例えば、所定の値を中心値(例えば、A値)として許容幅(a値)を決め、上限となる閾値((A+a)値)および下限となる閾値((A−a)値)を設定し、パターンの線幅が許容範囲である上限閾値((A+a)値)および下限閾値((A−a)値)の間の範囲の外にある場合に線幅異常として検出する。
【0006】
一方で、LSI等の半導体素子では、配線等のパターンが多層化する傾向がある。多層のパターン構造を有する半導体素子の場合、各層のパターンが所定の形状と線幅で形成されてなるが、そのような半導体素子であっても不良とされ、歩留まりの低下を招くことがある。
【0007】
すなわち、多層から構成されるパターン構造を有する半導体素子のある1つの層において、パターンの線幅が所定の許容範囲内にあったとしても、他の層のパターンとの関係において不良となる場合がある。
【0008】
例えば、1つの層のパターンの線幅が許容範囲内である上述の上限閾値近傍にあり、関連する別の層のパターンの線幅が許容範囲内である上述の下限閾値近傍にある場合、各層のパターンは、従来の検査方法では、線幅の異常とは見なされないが、それらが2層からなるパターン構造を形成する場合、2層間でのパターンの線幅差が大きくなって許容できないものとなることがある。その2層のパターン構造を含む半導体素子全体としては、不良となり、歩留まりの低下を招くことになる。
【0009】
このような多層からなるパターン構造を有する半導体素子において、ある層のパターンと関連する他の層のパターンとの関係で発生する不良を低減するためには、各層のパターンの線幅の許容範囲を狭くする方法が考えられる。そうした方法を実現するためには、その半導体素子の製造工程で使用されるマスクにおいて、マスクパターンの線幅の許容範囲、すなわち、上述のa値を小さく設定することが有効となる。
【0010】
しかしながら、このように線幅の許容範囲をより低く設定すれば、所謂厳しい線幅異常の検出が可能となるものの、本来検出されるべきではない疑似的な不良も検出され、マスクの検査工程において検出される欠陥の数が膨大になるという問題があった。
【0011】
例えば、各マスクの欠陥検出をする手法の1つとして、ダイ−トゥ−データベース(Die to Database)方式がある。この方式は、マスク製造に使用された設計パターンデータから生成される参照画像と、マスク上の実際のパターンの光学画像とを比較する検査方法である。具体的には、両者の画像信号の差分信号を求め、その差分信号が大きい部位に欠陥があると判定する。このとき、差分信号には、パターンの形成誤差や画像取得時の検出誤差に伴うノイズが含まれる。このため、欠陥判定においては、パターン欠陥によって生じる差分信号をノイズと如何にして分離するかが重要となるが、これは欠陥検出の感度とトレードオフの関係にある。
【0012】
そのため、各マスクが、多層からなるパターン構造を有する半導体素子の製造に使用されることを考慮して、欠陥判定のための許容範囲をより小さく設定すると、ノイズによる疑似欠陥を多く検出する結果となる。そして、検出する必要のない形状や線幅を欠陥として検出してしまうおそれがあった。
【0013】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、疑似欠陥を低減しつつ高精度な欠陥検出を行うことができる検査方法および検査装置を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、検査対象の第1試料に形成されたパターンの光学画像を取得する工程と、
光学画像に対応する参照画像を第1試料の設計データに基づいて生成する工程と、
第2試料に形成されたパターンの寸法分布を生成する工程と、
この寸法分布を反映させた参照画像を再生成する工程と、
第1の試料の光学画像と再生成された参照画像とをダイ−トゥ−データベース方式によって比較し、欠陥が検出された光学画像についてその欠陥に関する情報を保存する工程と
を有することを特徴とする検査方法に関する。
【0016】
本発明の第1の態様において、第1の試料および第2の試料はそれぞれ、多層のパターン構造を有する半導体素子の複数のパターンのいずれかを形成するためのものであることが好ましい。
【0017】
本発明の第1の態様において、第1の試料および第2の試料は、多層のパターン構造を有する半導体素子の互いに隣接するパターンをそれぞれ形成するためのものであることが好ましい。
【0018】
本発明の第1の態様において、第2試料は複数あり、その複数の第2試料のそれぞれに形成されたパターンの寸法分布を反映させて参照画像を再生成することが好ましい。
【0019】
本発明の第1の態様において、欠陥の検出は、所定の値を中心値として上限側の許容幅と下限側の許容幅とを決めて上限閾値と下限閾値とを設定することにより行われるものであり、
参照画像に含まれるパターンの線幅がより太くなるように参照画像の再生成がなされた場合には、その参照画像より太い線幅を有する光学画像のパターンに対して、上限側の許容幅が下限側の許容幅より小さな絶対値となるように上限閾値が設定され、
参照画像に含まれるパターンの線幅がより細くなるように参照画像の再生成がなされた場合には、その参照画像より細い線幅を有する光学画像のパターンに対して、下限側の許容幅が上限側の許容幅より小さな絶対値となるように下限閾値が設定されて、欠陥の検出が行われることが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様は、検査対象の第1試料に形成されたパターンの光学画像を取得する光学画像取得部と、
光学画像に対応する参照画像を第1試料の設計データに基づいて生成するとともに、第2試料に形成されたパターンの寸法分布を反映させて前記参照画像を再生成する参照画像生成部と、
光学画像と再生成された参照画像とをダイ−トゥ−データベース方式によって比較する比較部と、
比較部で欠陥が検出された光学画像についてその欠陥に関する情報を保存する保存部とを有することを特徴とする検査装置に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の態様によれば、疑似欠陥を低減しつつ高精度な欠陥検出を行うことができる検査方法が提供される。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、疑似欠陥を低減しつつ高精度な欠陥検出を行うことができる検査装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態の検査装置の概略構成図である。
図2図1の検査装置におけるデータの流れを示す図である。
図3】マスクに形成されたパターンの欠陥を検出するための光学画像の取得手順を説明する図である。
図4】本発明の実施形態の検査方法の要部を示すフローチャートである。
図5】検査対象であるマスクとは別のマスクの面内におけるパターンのΔCDマップの一例である。
図6図5に示した検査フレームAに対応する、検査対象であるマスクの光学画像の模式図である。
図7図6の光学画像に対応する参照画像の模式図である。
図8】再生成された参照画像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施形態の検査装置の概略構成図である。
【0025】
また、図2は、図1の検査装置におけるデータの流れを示す図である。
【0026】
尚、図1および図2においては、本実施形態で必要な構成部を記載しているが、検査に必要な他の公知の構成部が含まれていてもよい。また、本明細書において、「〜部」または「〜回路」と記載したものは、コンピュータで動作可能なプログラムにより構成することができるが、ソフトウェアとなるプログラムだけではなく、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせやファームウェアとの組み合わせによって実施されるものであってもよい。プログラムにより構成される場合、プログラムは、磁気ディスク装置などの記録装置に記録される。
【0027】
本実施形態においては、フォトリソグラフィ法などで使用されるマスクを検査対象の試料としているが、これに限られるものではなく、例えば、ウェハを検査対象の試料としてもよい。
【0028】
図1に示すように、検査装置100は、光学画像を取得するための光学画像取得部を構成する構成部Aと、構成部Aで取得された光学画像を用いて検査に必要な処理等を行う構成部Bとを有する。
【0029】
構成部Aは、光源103と、水平方向(X方向、Y方向)および回転方向(θ方向)に移動可能なXYθテーブル102と、透過照明系を構成する照明光学系170と、拡大光学系104と、フォトダイオードアレイ105と、センサ回路106と、レーザ測長システム122と、オートローダ130とを有する。
【0030】
構成部Aでは、検査対象となるマスク101の光学画像、すなわち、マスク採取データ204が取得される。マスク採取データ204は、マスク101の設計パターンデータに含まれる図形データに基づく図形が描画されたマスクの画像である。例えば、マスク採取データ204は、8ビットの符号なしデータであって、各画素の明るさの階調を表現する。
【0031】
マスク101は、オートローダ130により、XYθテーブル102上に載置される。尚、オートローダ130はオートローダ制御回路113によって駆動され、オートローダ制御回路113は制御計算機110によって制御される。マスク101がXYθテーブル102の上に載置されると、マスク101に形成されたパターンに対し、XYθテーブル102の上方に配置された光源103から光が照射される。より詳しくは、光源103から照射される光束が、照明光学系170を介してマスク101に照射される。マスク101の下方には、拡大光学系104、フォトダイオードアレイ105およびセンサ回路106が配置されている。マスク101を透過した光は、拡大光学系104を介して、フォトダイオードアレイ105に光学像として結像する。
【0032】
拡大光学系104は、図示しない自動焦点機構によって自動的に焦点調整がなされるように構成されていてもよい。さらに、図示しないが、検査装置100は、マスク101の下方から光を照射し、反射光を、拡大光学系を介してフォトダイオードアレイに導く構成としてもよい。この構成によれば、透過光と反射光による各光学画像を同時に取得することが可能である。
【0033】
フォトダイオードアレイ105上に結像したマスク101のパターン像は、フォトダイオードアレイ105によって光電変換され、さらにセンサ回路106によってA/D(アナログデジタル)変換される。フォトダイオードアレイ105には、センサ(図示せず)が配置されている。このセンサの例としては、TDI(Time Delay Integration)センサなどが挙げられる。この場合、XYθテーブル102が連続的に移動しながら、TDIセンサによってマスク101のパターンが撮像される。ここで、光源103、拡大光学系104、フォトダイオードアレイ105およびセンサ回路106により高倍率の検査光学系が構成される。
【0034】
構成部Bでは、検査装置100全体の制御を司る制御部としての制御計算機110が、データ伝送路となるバス120を介して、位置回路107、比較部の一例である比較回路108、参照画像生成部の一例となる参照回路112、展開回路111、寸法測定回路125、マップ作成回路126、オートローダ制御回路113、テーブル制御回路114、保存部の一例となる磁気ディスク装置109、磁気テープ装置115およびフレキシブルディスク装置116、CRT117、パターンモニタ118並びにプリンタ119に接続されている。XYθテーブル102は、テーブル制御回路114によって制御されたX軸モータ、Y軸モータおよびθ軸モータによって駆動される。これらの駆動機構には、例えば、エアスライダと、リニアモータやステップモータなどとを組み合わせて用いることができる。
【0035】
制御計算機110は、テーブル制御回路114を制御して、XYθテーブル102を駆動する。XYθテーブル102の移動位置は、レーザ測長システム122により測定されて位置回路107に送られる。
【0036】
また、制御計算機110は、オートローダ制御回路113を制御して、オートローダ130を駆動する。オートローダ130は、マスク101を自動的に搬送し、検査終了後には自動的にマスク101を搬出する。
【0037】
データベース方式の基準データとなる設計パターンデータは、磁気ディスク装置109に格納されており、検査の進行に合わせて読み出されて展開回路111に送られる。ここで、設計パターンデータについて、図2を参照しながら説明する。
【0038】
図2に示すように、設計者(ユーザ)が作成したCADデータ201は、OASISなどの階層化されたフォーマットの設計中間データ202に変換される。設計中間データ202には、レイヤ(層)毎に作成されて各マスクに形成される設計パターンデータが格納される。ここで、一般に、検査装置は、OASISデータを直接読み込めるようには構成されていない。すなわち、検査装置の製造メーカ毎に、独自のフォーマットデータが用いられている。このため、OASISデータは、レイヤ毎に各検査装置に固有のフォーマットデータ203に変換された後に検査装置100に入力される。この場合、フォーマットデータ203は、検査装置100に固有のデータとすることができるが、描画装置と互換性のあるデータとすることもできる。
【0039】
フォーマットデータ203は、図1の磁気ディスク装置109に入力される。すなわち、マスク101のパターン形成時に用いた設計パターンデータは、磁気ディスク装置109に記憶される。
【0040】
設計パターンに含まれる図形は、長方形や三角形を基本図形としたものである。磁気ディスク装置109には、例えば、図形の基準位置における座標(x,y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報であって、各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納される。
【0041】
さらに、数百μm程度の範囲に存在する図形の集合を一般にクラスタまたはセルと称するが、これを用いてデータを階層化することが行われている。クラスタまたはセルには、各種図形を単独で配置したり、ある間隔で繰り返し配置したりする場合の配置座標や繰り返し記述も定義される。クラスタまたはセルデータは、さらにストライプと称される、幅が数百μmであって、長さがマスク101のX方向またはY方向の全長に対応する100mm程度の短冊状領域に配置される。
【0042】
入力された設計パターンデータは、磁気ディスク装置109から制御計算機110を通して展開回路111によって読み出される。
【0043】
展開回路111では、設計パターンデータがイメージデータ(ビットパターンデータ)に変換される。すなわち、展開回路111は、設計パターンデータを図形毎のデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして、2値ないしは多値のイメージデータに展開する。さらに、センサ画素に相当する領域(マス目)毎に設計パターンにおける図形が占める占有率が演算され、各画素内の図形占有率が画素値となる。
【0044】
展開回路111で変換されたイメージデータは、参照画像生成部としての参照回路112に送られて、参照画像(参照データとも称する)の生成に用いられる。すなわち、参照回路112では、マスク101の設計データに基づいて参照画像の生成が行われる。尚、参照回路112では、後述する参照画像の再生成も行われる。
【0045】
センサ回路106から出力されたマスク採取データ204は、位置回路107から出力されたXYθテーブル102上でのマスク101の位置を示すデータとともに、比較回路108に送られる。また、上述した参照画像も比較回路108に送られる。
【0046】
比較回路108では、マスク採取データ204と参照データとが、適切な比較判定アルゴリズムを用いて比較される。図1の構成であれば、透過画像同士での比較となるが、反射光学系を用いた構成であれば、反射画像同士での比較、あるいは、透過と反射を組み合わせた比較判定アルゴリズムが用いられる。比較の結果、両者の差異の絶対値が許容範囲を超えて大きくなる場合には、その箇所が欠陥と判定される。
【0047】
ストライプは、適当なサイズに分割されてサブストライプとなる。そして、マスク採取データ204から切り出されたサブストライプと、マスク採取データ204に対応する参照画像から切り出されたサブストライプとが、比較回路108内の比較ユニットに投入される。投入されたサブストライプは、さらに検査フレームと称される矩形の小領域に分割され、比較ユニットにおいてフレーム単位で比較されて欠陥が検出される。比較回路108には、複数の検査フレームが同時に並列して処理されるよう、数十個の比較ユニットが装備されている。各比較ユニットは、1つの検査フレームの処理が終わり次第、未処理のフレーム画像を取り込む。これにより、多数の検査フレームが順次処理されていく。
【0048】
比較ユニットでの処理は、具体的には次のようにして行われる。まず、センサフレーム画像と、参照フレーム画像とを位置合わせする。このとき、パターンのエッジ位置や、輝度のピークの位置が揃うように、センサ画素単位で平行シフトさせる他、近隣の画素の輝度値を比例配分するなどして、センサ画素未満の合わせ込みも行う。位置合わせを終えた後は、センサフレーム画像と参照フレーム画像との画素毎のレベル差を評価したり、パターンエッジ方向の画素の微分値同士を比較したりするなどして、適切な比較アルゴリズムにしたがって欠陥を検出していく。尚、本明細書においては、センサフレーム画像と参照フレーム画像との比較を、単に光学画像と参照画像との比較と称することがある。
【0049】
本実施の形態において、マスク採取データ204は、寸法測定回路125へも送られる。また、位置回路107からは、XYθテーブル102上でのマスク101の位置を示すデータが寸法測定回路125へ送られる。寸法測定回路125では、マスク採取データ204から、マスク101に描画されたパターンの寸法(Critical Dimension;以下、CDと称す)が測定される。例えば、ラインパターンであれば、その線幅が測定される。
【0050】
寸法測定回路125におけるパターンの寸法測定は、マスク101の光学画像を取得するのと並行して行うことができる。但し、これに限られるものではなく、他の適当なタイミングを選択して、実行することができる。
【0051】
寸法測定回路125は、パターンの寸法を測定する寸法取得部の一例であり、本実施形態では、線幅に代えてラインパターン間のスペース幅、すなわち、線間距離を測定してもよく、線幅と線間距離の両方の寸法を求めてもよい。さらに、寸法測定回路125へ参照回路112から参照データを送り、光学画像のラインパターンに対応するパターンの線幅を測定して、光学画像におけるパターン線幅と参照画像におけるパターン線幅との寸法差(ΔCD)または寸法比率を求めてもよく、また、線間距離の寸法差または寸法比率を求めてもよい。あるいは、これらの任意の組み合わせとすることもできる。
【0052】
線幅は、例えば、マスク101のパターンを分割して複数の検査領域を形成し、各検査領域の光学画像について画素毎の線幅を求め、次いで、得られた線幅の度数を集計して、その度数分布の集計結果から線幅の平均値を計算することにより求められる。また、この平均値と参照画像から求めた線幅とから、線幅の寸法差や寸法比率を求めることもできる。
【0053】
寸法測定回路125で得られたCD値は、寸法分布を取得するためのマップ作成回路126へ送られる。マップ作成回路126では、送られたCD値を基に、例えば、マスク101の面内におけるパターン線幅の寸法マップ(CDマップ)が作成される。作成されたCDマップは、磁気ディスク装置109に保存される。
【0054】
そして、本実施形態の検査装置100の磁気ディスク装置109は、図1に示すマスク101のCDマップのほか、別の検査において取得された別の試料であるマスクのCDマップも同様に保存しておくことができる。すなわち、磁気ディスク装置109は、多数のマスクのCDマップを保存しておくことが可能である。例えば、多層のパターン構造を有する半導体素子の各層のパターンを形成するための一連の複数のマスクに対し、それぞれのCDマップを保存しておくことができる。そして、マスク101の検査において、他のマスクのCDマップを利用できるようにする。
【0055】
尚、検査装置100は、必ずしもマップ作成回路126を有している必要はなく、寸法測定回路125がマップ作成機能を有していてもよく、あるいは、外部の計算機などによってマップを作成し、これを検査装置100に入力してもよい。
【0056】
次に、図1の検査装置100を用いてマスク101を検査する方法の一例について説明する。
【0057】
<光学画像取得工程>
図1の構成部Aにおいて、マスク101の光学画像が取得される。
【0058】
図3は、マスクに形成されたパターンの欠陥を検出するための光学画像の取得手順を説明する図である。
【0059】
図3に示すようにして、線幅異常等の、マスク101に形成されたパターンの欠陥を検出するため、光学画像が取得される。尚、既に述べたように、光学画像は、図2のマスク採取データ204に対応する。
【0060】
図3でマスク101は、図1のXYθテーブル102の上に載置されているものとする。また、マスク101上の検査領域は、図3に示すように、短冊状の複数の検査領域、すなわち、ストライプ20,20,20,20,・・・に仮想的に分割されている。各ストライプは、例えば、幅が数百μmであって、長さがマスク101のX方向またはY方向の全長に対応する100mm程度の領域とすることができる。
【0061】
光学画像は、ストライプ毎に取得される。すなわち、図3で光学画像を取得する際には、各ストライプ20,20,20,20,・・・が連続的に走査されるように、XYθテーブル102の動作が制御される。具体的には、XYθテーブル102が図3の−X方向に移動しながら、マスク101の光学画像が取得される。そして、図1のフォトダイオードアレイ105に、図3に示されるような走査幅Wの画像が連続的に入力される。すなわち、第1のストライプ20における画像を取得した後、第2のストライプ20における画像を取得する。この場合、XYθテーブル102が−Y方向にステップ移動した後、第1のストライプ20における画像の取得時の方向(−X方向)とは逆方向(X方向)に移動しながら光学画像を取得して、走査幅Wの画像がフォトダイオードアレイ105に連続的に入力される。第3のストライプ20における画像を取得する場合には、XYθテーブル102が−Y方向にステップ移動した後、第2のストライプ20における画像を取得する方向(X方向)とは逆方向、すなわち、第1のストライプ20における画像を取得した方向(−X方向)に、XYθテーブル102が移動する。尚、図3の矢印は、光学画像が取得される方向と順序を示しており、斜線部分は、光学画像の取得が済んだ領域を表している。
【0062】
図1のフォトダイオードアレイ105上に結像したパターンの像は、フォトダイオードアレイ105によって光電変換され、さらにセンサ回路106によってA/D(アナログデジタル)変換される。その後、光学画像は、センサ回路106から図1の比較回路108へ送られる。
【0063】
尚、A/D変換されたセンサデータは、画素毎にオフセット・ゲイン調整可能なデジタルアンプ(図示せず)に入力される。デジタルアンプの各画素用のゲインは、キャリブレーション工程で決定される。例えば、透過光用のキャリブレーション工程においては、センサが撮像する面積に対して十分に広いマスク101の遮光領域を撮影中に、黒レベルを決定する。次いで、センサが撮像する面積に対して十分に広いマスク101の透過光領域を撮影中に、白レベルを決定する。このとき、検査中の光量変動を見越して、例えば、白レベルと黒レベルの振幅が8ビット階調データの約4%から約94%に相当する10〜240に分布するよう、画素毎にオフセットとゲインを調整する。
【0064】
<参照画像生成工程>
(1)記憶工程
ダイ−トゥ−データベース方式による検査の場合、欠陥判定の基準となるのは、設計パターンデータから生成する参照画像である。検査装置100では、マスク101のパターン形成時に用いた設計パターンデータが磁気ディスク装置109に記憶される。
【0065】
(2)展開工程
展開工程においては、図1の展開回路111が、磁気ディスク装置109から制御計算機110を通して設計パターンデータを読み出し、読み出されたマスク101の設計パターンデータを2値ないしは多値のイメージデータ(設計画像データ)に変換する。このイメージデータは参照回路112に送られる。
【0066】
(3)フィルタ処理工程
フィルタ処理工程では、図1の参照回路112によって、図形のイメージデータである設計パターンデータに適切なフィルタ処理が施される。その理由は、次の通りである。
【0067】
マスク101のパターンは、その製造工程でコーナーの丸まりや線幅の仕上がり寸法などが加減されており、設計パターンと厳密には一致しない。また、図1のセンサ回路106から得られた光学画像としてのマスク採取データ204は、拡大光学系104の解像特性やフォトダイオードアレイ105のアパーチャ効果などによってぼやけた状態、言い換えれば、空間的なローパスフィルタが作用した状態にある。
【0068】
そこで、検査に先だって検査対象となるマスクを観察し、その製造プロセスや検査装置の光学系による変化を模擬したフィルタ係数を学習して、設計パターンデータに2次元のデジタルフィルタをかける。このようにして、参照画像に対し光学画像に似せる処理を行う。こうした処理を行うことで、疑似欠陥の発生を抑制することができる。
【0069】
フィルタ係数の学習は、製造工程で決められた基準となるマスクのパターンを用いて行ってもよく、また、検査対象となるマスク(本実施の形態ではマスク101)のパターンの一部を用いて行ってもよい。後者であれば、学習に用いられた領域のパターン線幅やコーナーの丸まりの仕上がり具合を踏まえたフィルタ係数が取得され、マスク全体の欠陥判定基準に反映されることになる。
【0070】
尚、検査対象となるマスクを使用する場合、製造ロットのばらつきや、検査装置のコンディション変動といった影響を排除したフィルタ係数の学習ができるという利点がある。しかし、マスク面内で寸法変動があると、学習に用いた箇所に対しては最適なフィルタ係数になるが、他の領域に対しては必ずしも最適な係数とはならないため、疑似欠陥を生じる原因になり得る。そこで、面内での寸法変動の影響を受け難いマスクの中央付近で学習することが好ましい。あるいは、マスク面内の複数の箇所で学習を行い、得られた複数のフィルタ係数の平均値を用いてもよい。
【0071】
<参照画像の再生成工程>
上述したように、多層のパターン構造を有する半導体素子の場合、各層のパターンは所定の形状と線幅で形成されるが、そのような半導体素子であっても不良とされ、歩留まりの低下を招くことがある。
【0072】
例えば、多層から構成されるパターン構造を有する半導体素子のある1つの層において、パターンの線幅が、前述の上限閾値((A+a)値)および下限閾値((A−a)値)の間の値であったとしても、半導体素子を形成する上で関連する他の層のパターンとの関係において不良となる場合がある。
【0073】
このような多層のパターン構造を有する半導体素子において、ある層のパターンと他の層のパターンとの関係から発生する不良を低減するためには、多層構造を考慮した各層パターンの形成が必要となる。そのため、各層パターンの形成のためのマスクの検査においても、それが多層のパターン構造中の1つの層のパターンを形成するためのものであることが考慮され、線幅異常の検出が行われることが好ましい。
【0074】
マスクの製造工程では、レジストパターンをマスクとして下層の遮光膜等をエッチングすることで、ウェハに転写するパターンを形成している。この際、マスク面内でのレジスト膜や遮光膜の面積の違いが原因となって、レジストパターンの寸法が設計データの寸法と異なってしまう現象(ローディング効果)が起こる。その結果、マスクの面内でパターン寸法に分布が生じる。
【0075】
また、マスク101へのパターン形成に使用される荷電粒子ビーム描画装置によっては、特定の描画領域で線幅が太くなる(または細くなる)といった現象が見られることがある。
【0076】
そのため、マスク101には、マスクの面内でパターン寸法に分布が生じている場合があるが、各パターンの線幅が、設定された上限閾値と下限閾値の範囲内であれば、従来の検査では、線幅異常として検出されることはない。
【0077】
こうしたマスク101が、多層のパターン構造を有する半導体素子のある1つの層のパターンを形成するものである場合、製造される半導体素子では、上述したように、不良が発生し、歩留まりの低下を引き起こすことがある。
すなわち、多層のパターン構造を有する半導体素子のある1つの層において、パターンの線幅が所定の許容範囲内にあったとしても、他の層のパターンとの関係において不良となる場合がある。
【0078】
より具体的には、上述したように、半導体素子の重畳配置される2つのパターン層において、一方の層がマスク101によって形成されたパターンを含み、ある領域においてパターンの線幅が許容範囲内の上限閾値近傍となっている場合がある。そして、上記2つの層のもう一方の層が、マスク101ではない他のマスクによって形成されたパターンを含み、上記の領域と対向する領域内においてパターンの線幅が許容範囲内の下限閾値近傍となっている場合がある。
【0079】
その場合、一方の層のマスク101により形成されたパターンは、線幅の異常とはならない。しかしながら、もう一方の層のパターンとから2層構造を形成する場合、その2層間でのパターンの線幅差が大きくなって許容できないものとなることがある。そして、その2層のパターン構造を含む半導体素子は、不良となって歩留まりの低下を招くことがある。
【0080】
このような不具合は、ひいては、半導体素子の各層パターンの形成に用いられるマスクの有するパターン寸法の分布に起因する。そして、2層のパターンが重なり合うことで増幅され、半導体素子の不良を発生させることになる。
【0081】
また一方で、多層のパターン構造を有する半導体素子のある1つのパターン層において、パターンの線幅が上限閾値と下限閾値の範囲外にあったとしても、他の層のパターンとの関係において、許容可能である場合がある。
【0082】
例えば、一方の層のパターンの線幅が許容範囲内である上限閾値を超えてその近傍にあり、もう一方の層のパターンの線幅が許容範囲内である上限閾値近傍にある場合がある。その場合、一方の層のパターンは、従来は、線幅の異常となる。しかしながら、それらが2層からなる構造を形成する場合、2層間でのパターンの線幅差は大差なく、それぞれが許容可能となる場合がある。すなわち、その2層構造を含む半導体素子としては、不良とはならず、歩留まりの低下には繋がらないことがある。
【0083】
より具体的には、上述したように、マスク101には、マスク面内でパターン寸法に分布が生じている場合があり、マスク面内のある領域で、パターンの線幅が、設定された上下閾値の範囲の外にある場合がある。この場合、従来の検査では、線幅異常として検出されるべきものとなる。すなわち、半導体素子の重畳配置される2つの層において、一方の層がマスク101によって形成されたパターンを含み、ある領域においてパターンの線幅が許容範囲の上限閾値を超えてその近傍となっている場合がある。そして、その2つの層のもう一方の層が、マスク101ではない他のマスクによって形成されたパターンを含み、上記の領域と対向する領域内においてパターンの線幅が許容範囲内である上限近傍にある場合がある。
【0084】
その場合、一方の層のマスク101により形成されたパターンは、本来、線幅の異常とされるべきであるが、もう一方の層のパターンと重なり合って2層構造を形成する場合、その2層間でのパターンの線幅差が大差なく、他のパターンとの関係において許容できる
ことがある。そして、その2層のパターン構造を含む半導体素子は、実際に不良を生じさせないことがある。
【0085】
このような不良の発生が抑制される現象は、ひいては、半導体素子の各層パターンの形成に用いられるマスクの有するパターン寸法の分布に起因する。すなわち、2層のパターンが重なり合うことでパターンの線幅異常に対する発生条件が緩和されて、半導体素子の不良発生を抑制できることになる。
【0086】
したがって、多層のパターン構造を有する半導体素子において、ある層のパターンにおいて発生する線幅異常を低減するとともに、ある層のパターンと他の層のパターンとの関係において発生する不良を低減するためには、多層構造であることを考慮した各層パターンの形成が必要となる。すなわち、各層パターンの形成に用いられるマスクの検査においても、多層のパターン構造の中の1つの層のパターンを形成するためのものであることが考慮され、線幅の検査を行うことが求められる。
【0087】
その場合に有効となるのは、上述したパターン寸法の分布の影響を抑えることである。具体的には、ある1つの層のパターンを形成するためのマスクの検査において、他の層を形成するためのマスクのパターン寸法の分布を考慮する方法が有効となる。
【0088】
本実施形態においては、マスクの検査において、他のマスクのパターン寸法(CD)の分布、すなわち、他のマスクのCDマップを用い、他のマスクの面内におけるパターンの寸法分布を参照画像に反映させる処理(参照画像の再生成)を行う。
【0089】
より具体的には、製造される半導体素子が多層のパターン構造を有するものであって、検査対象となるマスクが、各層のパターンを形成するための一連の複数のマスクのうちの1つである場合がある。その場合、その1つのマスクの検査においては、上述の一連の複数のマスクのうちの別のマスクのCDマップを用いる。そして、別のマスクの面内におけるパターンの寸法分布を、その1つのマスクの検査のための参照画像に反映させる処理を行う。
【0090】
そして特に、上述の選択される別のマスクについては、上述の一連の複数のマスクのうちの1つであって、検査対象のマスクによって形成されるパターンを有する層と隣接して配置される層に含まれるパターンを形成するためのマスクであることが好ましい。すなわち、上述の別のマスクによって形成されるパターンを有する層は、検査対象のマスクによって形成されるパターンを有する層の上または下に隣接して配置される層であることが好ましい。
【0091】
具体的な方法としては、上述した方法で磁気ディスク装置109に記憶された他のマスクのCDマップのデータを参照回路112へ送る。そして、参照回路112において、他のマスクのCDマップを基に、パターンの寸法調整を行い、参照画像(参照データ)の再生成を行う。
【0092】
尚ここで、本実施形態におけるCDマップの作成について説明すると、下記の寸法測定工程およびマップ作成工程により実施することができる。以下において、図1等を用い、マスク101を例にして、CDマップを作成する方法を説明する。
【0093】
(寸法測定工程)
寸法測定工程では、マスク101の光学画像からパターンの寸法(CD)が測定される。図1の検査装置100では、寸法測定回路125が、センサ回路106から出力されたマスク採取データ204を用いて、この画像におけるパターン線幅の寸法(CD)を測定する。このとき、位置回路107から送られた、XYθテーブル102上でのマスク101の位置情報が加味される。尚、パターンの寸法(CD)は、パターンの線幅でもよく、パターンの線間距離でもよい。
【0094】
検査が行われている間に、寸法測定回路125で寸法(CD)を測定する頻度は、例えば、図3のストライプ(20,20,20,20,・・・)の長さ方向(X方向)に適当数(例えば、1000点程度)のサンプル採取を行う毎とし、ストライプの幅方向(Y方向)にも、X方向と同程度の数のサンプルが採取される毎とすることができる。寸法測定が行われる候補点付近においては、エッジペアの間隔の測定が可能な適当なラインパターンが用いられる。この場合、エッジペアは1つとしてもよいが、複数箇所のエッジペアを用いて寸法(CD)を測定し、得られた値の度数を集計して、その度数分布の集計結果から最も頻度の高い値(最頻値)を代表値として用いることが好ましい。尚、候補点付近にエッジペアが見つからなかったり、エッジペアの数が少なかったりする場合には、寸法(CD)を測定しなくてもよく、あるいは、限られたサンプル数から最頻値を求めてもよい。
【0095】
(マップ作成工程)
寸法測定回路125でパターンの寸法(CD)が求められると、得られたデータはマップ作成回路126へ送られる。マップ作成回路126では、蓄積されたCD値から、マスク面内での寸法分布を表すCDマップが作成される。このマップによれば、マスク101の検査領域において、パターンの線幅が細くなっている領域や太くなっている領域を容易に把握することができる。例えば、パターンの描画に使用される描画装置にマスクの特定部分で線幅が細くなる傾向があれば、そうした傾向の把握が可能である。
【0096】
以上のようにして、本実施形態では、CDマップが作成される。尚、参照画像の再生成のために用いられる、マスク101とは別のマスクのCDマップについても、マスク101と同様、検査の対象となっている場合も多く、マスク101と同様に、その検査の時などにおいて、光学画像が取得され、同様にCDマップを生成することができる。そして、作成されたCDマップは、上述したように、磁気ディスク装置109に保存しておくことが可能である。
【0097】
<ダイ−トゥ−データベース比較工程>
図2に示すように、光学画像取得工程で取得されたマスク採取データ204は、比較回路108へ送られる。また、参照回路112からは、再生成された参照データが比較回路108へ送られる。比較回路108において、マスク採取データ204と再生成された参照データとが、ダイ−トゥ−データベース方式によって比較される。具体的には、撮像されたストライプデータが検査フレーム単位に切り出され、検査フレーム毎に、欠陥判定の基準となるデータと適切な比較判定アルゴリズムを用いて比較される。そして、両者の差が所定の閾値を超える場合に欠陥と判定される。欠陥に関する情報は、マスク検査結果205に保存される。例えば、制御計算機110によって、欠陥の座標、欠陥判定の根拠となった光学画像などが、マスク検査結果205として磁気ディスク装置109に保存される。
【0098】
例えば、マスク101に格子状のチップパターンが形成されているとする。検査対象としてn番目のチップを考えると、ダイ−トゥ−データベース方式においては、n番目のチップの光学画像におけるパターンと、n番目のチップの再生成された参照画像におけるパターンとが比較され、その差が所定の許容幅を超える場合に欠陥と判定される。
【0099】
欠陥判定は、より具体的には、次の2種類の方法により行うことができる。1つは、参照画像における輪郭線の位置と、光学画像における輪郭線の位置との間に、所定の許容幅を超える差が認められる場合に欠陥と判定する方法である。他の1つは、参照画像におけるパターンの線幅と、光学画像におけるパターンの線幅との比率が所定の許容幅を超える場合に欠陥と判定する方法である。この方法では、参照画像におけるパターン間の距離と、光学画像におけるパターン間の距離との比率を対象としてもよい。
【0100】
ここで、再生成された参照画像には、別のマスク面内における寸法のばらつきが反映されているので、別のマスクのパターンの線幅バイアス(偏差)が考慮された状態で、光学画像と参照画像を比較することができる。
【0101】
このように、別のマスクのCDマップを反映させた参照画像と比較することで、別のマスクのマスク面内での寸法分布の影響を考慮したダイ−トゥ−データベース比較が可能になる。これにより、疑似欠陥を低減することができる。また、製造される半導体素子において不良を引き起こす懸念があって、本来検出されるべき欠陥を検出して高精度の検査を行うことができる。
【0102】
次に、本発明の実施形態の検査方法について説明する。
【0103】
図4は、本発明の実施形態の検査方法の要部を示すフローチャートである。
【0104】
S101では、CDマップを用いて、マスクの面内における寸法のばらつき(CDのばらつきを言う。尚、寸法差ΔCDのばらつきでもよい。以下同じ。)を算出する。このとき、本実施形態の検査方法では、検査対象となるマスク101に対して、それとは異なる他のマスクのCDマップを使用し、当該他のマスクについてのCDのばらつきを算出する。他のマスクのCDマップは、上述したように、磁気ディスク装置109に保存されている。そして、後述する工程で、他のマスクの面内におけるCDのばらつきをマスク101の参照画像に反映し、マスク101の参照画像を再生成する。
【0105】
ここで、CDのばらつきの算出に用いられる別のマスクとしては、検査対象となるマスク101が、多層のパターン構造の半導体素子の各層のパターンを形成するための一連の複数のマスクのうちの1つである場合、上述の一連の複数のマスクのうちの別のマスクが選択されることが好ましい。すなわち、マスク101およびCDのばらつきの算出に用いられる別のマスクはそれぞれ、多層のパターン構造を有する1つの半導体素子に含まれる複数のパターンのいずれかを形成するためのマスクであることが好ましい。
【0106】
そして特に、選択される別のマスクについては、上述の一連の複数のマスクのうちの1つであって、検査対象のマスク101によって形成されるパターンを有する層と隣接して配置される層に含まれるパターンを形成するためのマスクであることが好ましい。すなわち、上述の別のマスクによって形成されるパターンを有する層は、検査対象のマスク101によって形成されるパターンを有する層の上または下に隣接して配置される層であることが好ましい。
【0107】
例えば、CDのばらつきの算出の方法としては、上述したCDマップの作成と同様、例えば、図1等を用い、マスク101を例にして説明することができる。
【0108】
すなわち、マスク101において、図3のストライプ(20,20,20,20,・・・)の長さ方向(X方向)に配列するn個の検査フレームと、ストライプの幅方向(Y方向)に配列するn個の検査フレームとによって定義される領域を1ブロック((n×n)個の検査フレーム数の領域)とする。そして、1ブロック内の光学画像について画素毎の線幅を求め、次いで、得られた線幅の度数を集計して、その度数分布の集計結果から線幅の平均値を計算する。この平均値と参照画像から求めた線幅とから、線幅の寸法差(ΔCD)を求めることができる。他のブロックについても同様にしてΔCDを求めることにより、マスク101の面内における寸法のばらつきが求められる。
【0109】
したがって、検査対象となるマスク101とは別のマスクにおいても、CDのばらつきの算出方法は同様となる。すなわち、マスク101の検査領域の検査フレームのようなフレームにより、それら複数からなる領域を1ブロックと定義し、1ブロック内の光学画像について画素毎の線幅を求め、次いで、得られた線幅の度数を集計して、その度数分布の集計結果から線幅の平均値を計算する。この平均値と参照画像から求めた線幅とから、線幅の寸法差(ΔCD)を求めることができる。他のブロックについても同様にしてΔCDを求めることにより、別のマスクの面内における寸法のばらつきが求められる。
【0110】
尚、マスク101とは異なる別のマスクについても、マスク101と同様に検査対象であることがある。したがって、別のマスクも、マスク101と同様の検査領域を有し、その検査領域が、図3に示すように、短冊状の複数の検査領域、すなわち、複数のストライプに仮想的に分割されていることがある。その場合、別のマスクの上述の1ブロックを構成するフレームは、別のマスクにおける検査フレームとすることができ、上述したマスク101の例と同様に、ΔCDを求めることができる。
【0111】
次に、S102では、S101で求められた、別のマスクの面内における寸法のばらつきを用い、検査対象であるマスク101の参照画像へ反映させる。例えば、別のマスクにおいて、線幅が細くなっている領域では、参照画像の線幅が細くなるようにし、逆に、線幅が太くなっている領域では、参照画像の線幅が太くなるようにする。このようにして寸法が調整されて再生成された参照画像を用い、マスク101の光学画像とダイ−トゥ−データベース比較する(S103)。この処理は、図2の比較部108で行われる。
【0112】
尚、参照画像の再生成にあたっては、別のマスクのCDマップ以外の要素を加味することも可能である。例えば、検査対象であるマスク101のCDマップを用い、マスク101自身のCDのばらつきを参照画像に反映させることができる。
【0113】
また、例えば、寸法測定工程で使用される測長機によっては、所定のオフセット量を考慮する必要がある。例えば、測長機Aを用いて測定されたCD値を基準とする場合、測長機Bを用いて測定されたCD値に対しては、測長機Aを用いて測定された寸法と測長機Bを用いて測定された寸法との差から得られるオフセット量を加算する。あるいは、測長機Bを用いて測定されたCD値に基づくCDマップから得られるΔCD値にオフセット量を加算してもよい。こうして得られた値を用いて、参照画像の寸法を調整する。
【0114】
S103での検査の結果、欠陥が検出されれば、S104に進んでマスク検査結果に保存する。例えば、制御計算機110によって、欠陥の座標、欠陥判定の根拠となった光学画像などが、マスク検査結果205として磁気ディスク装置109に保存される。
【0115】
その後、図2に示すように、マスク検査結果205はレビュー装置500に送られる。レビューは、オペレータによって、検出された欠陥が実用上問題となるものであるかどうかを判断する動作である。オペレータは、例えば、欠陥判定の根拠となった基準画像と、欠陥が含まれる光学画像とを見比べて、修正の必要な欠陥であるか否かを判断する。そして、レビュー工程を経て判別された欠陥情報も、図1の磁気ディスク装置109に保存される。レビュー装置500で1つでも修正すべき欠陥が確認されると、マスク101は、欠陥情報リスト207とともに、検査装置100の外部装置である修正装置600に送られる。修正方法は、欠陥のタイプが凸系の欠陥か凹系の欠陥かによって異なるので、欠陥情報リスト207には、凹凸の区別を含む欠陥の種別と欠陥の座標が添付される。
【0116】
一方、S103での比較の結果、欠陥が検出されなかった場合には、検査を終了する。
【0117】
次に、より具体的に、本実施形態の検査方法について説明する。その場合、例えば、マスク101にライン・アンド・スペースパターンが形成されているとする。
【0118】
図5は、検査対象であるマスクとは別のマスクの面内におけるパターンのΔCDマップの一例である。
【0119】
図5に示した別のマスク301は、参照画像の再生成に使用されるものであり、検査対象であるマスク101とは別のマスクとなる。マスク101に対して、このマスク301のΔCDマップを用いて参照画像の再生成がなされ、その検査が行われる。そのため、図5においては、図3に示したマスク101のストライプ20と、検査フレームAと、検査フレームAを含む上述の1ブロックと、光学画像撮像のためのセンサとを併せて模式的に示している。
【0120】
センサは、ストライプ20に沿って、マスク101のパターンを撮像していく。検査装置100の比較回路108では、撮像されたストライプデータが検査フレーム単位に分割され、対応する参照画像と比較される。
【0121】
そして、図6は、検査対象であるマスク101の光学画像の模式図であり、図5に示した検査フレームAに対応するとする。
【0122】
図7は、図6の光学画像に対応する参照画像の模式図である。
【0123】
図7に示された参照画像は、再生成前のものとなる。
【0124】
そして、図6に示すように、所定の光学画像におけるラインパターンの線幅(Wop)が61nmであり、対応する再生成前の参照画像におけるパターンの線幅(Wref)が、図7に示すように、50nmであったとする。
【0125】
再生成前の参照画像におけるパターンの線幅50nmを中心値として、上限側の許容幅を10nmに決めた場合、上限閾値としては60nmが設定される。そして上限閾値を超える場合に、線幅の異常として欠陥と判定されるとすれば、図6の所定の光学画像のパターンの線幅は60nmを超えて61nmであり、光学画像には欠陥があると判定される。
【0126】
このとき、本実施形態では、図5に示したΔCDマップを用い、参照画像の再生成を行う。
【0127】
図5から分かるように、別のマスク301の面内におけるパターンには寸法分布がある。そして、マスク101の検査フレームAに対応する別のマスク301の領域は、設計値より線幅が太くなっている領域である。したがって、マスク101の検査フレームAにおけるパターンの線幅は、検査フレームAに対応する別のマスク101の領域における線幅分布の傾向が加味されることが好ましい。そこで、この場合は、参照画像の線幅は太くなるように寸法の調整がなされる。
【0128】
図8は、再生成された参照画像の模式図である。
【0129】
例えば、図5から分かるように、ΔCD=2nmであれば、図8に示すように、再生成後の参照画像のパターンの線幅(Wref’)は52nmとなる。そして、上限側の許容幅が上述したように10nmであれば、上限閾値としては62nmが設定される。その結果、図6の所定の光学画像のパターンの線幅は61nmであって、上限閾値の範囲内となる。したがって、この光学画像には検出すべき欠陥はないと判定される。
【0130】
尚、図5等を用いて説明した例のように、別のマスク301のパターンの寸法分布を考慮して、参照画像の線幅の調整を行った場合、併せて必要な場合に、欠陥検出のための上限閾値または下限閾値の調整を行うことが好ましい。
【0131】
例えば、図5等を用いて説明した例のように、別のマスク301のパターンの寸法分布を考慮して、参照画像の線幅を太くする寸法の調整を行った場合、比較回路108での欠陥判定において、閾値の上限を、線幅調整を行う前に比べて、より小さくなる方向であって、厳しくなる方向に調整することが好ましい。すなわち、所望の値を中心値とし、所望の値の許容範囲を決めて上限閾値と下限閾値とが設定される。この場合、中心値と上限閾値との間の許容範囲値と、下限閾値との間の許容範囲値とはもともと同じ絶対値を有している。しかし、上述したように、参照画像の線幅を太くする寸法調整が行われた場合、上限側の許容範囲値のみを小さくして、その絶対値が下限側の許容範囲値より小さくなるようにすることが好ましい。すなわち、上限閾値のみを小さくする修正をして、厳しくなる方向に調整することが好ましい。
【0132】
逆に、別のマスク301のパターンの寸法分布を考慮して、参照画像の線幅を細くする寸法の調整を行った場合、比較回路108での欠陥判定において、閾値の下限を、線幅調整を行う前に比べて、より大きくなる方向であって、厳しくなる方向に調整することが好ましい。すなわち、上述したように、参照画像の線幅を細くする寸法調整が行われた場合、下限側の許容範囲値のみを大きくして、その絶対値が上限側の許容範囲値より小さくなるようにすることが好ましい。すなわち、下限閾値のみを大きくする修正をして、厳しくなる方向に調整することが好ましい。
【0133】
以上のように、参照画像の線幅の調整とともに、欠陥判定のための閾値の上限または下限を調整することで、疑似欠陥の発生を低減するとともに、より高精度な検査を実現することができる。
【0134】
また、既に述べたように、参照画像に、別のマスクのパターンの寸法分布を反映させる際には、別のマスクのCDマップを用い、他のマスクの面内におけるパターンの寸法分布を算出し、反映をさせる処理(参照画像の再生成)を行う。
【0135】
その場合、選択される別のマスクについては、例えば、多層のパターン構造を有する半導体素子を製造するための一連の複数マスクのうちの1つであって、検査対象のマスク101によって形成されるパターンを有する層と隣接して配置される層のパターンを形成するためのマスクであることが好ましい。すなわち、上述の別のマスクによって形成されるパターンを有する層は、検査対象のマスク101によって形成されるパターンを有する層の上または下に隣接して配置される層であることが好ましい。
【0136】
このとき、参照画像に別のマスクのパターンの寸法分布を反映させるには、さらに別のマスクのパターンの寸法分布を加味することができる。すなわち、検査対象のマスク101により形成されるパターンを有する層と隣接して配置される層のパターンを形成するためのマスク以外のマスクのCDマップを用い、参照画像に反映させることができる。
【0137】
例えば、検査対象であるマスク101が、多層のパターン構造を有する半導体素子の上下方向の第3層目にあたる層に配置されるパターンを形成するためのものである場合、それと隣接する第2層目のパターンを形成するためのマスクのCDマップに加え、第1層目のパターンを形成するためのCDマップを用い、各パターンの寸法分布を算出し、算出結果を平均するなどして、参照画像に反映させることができる。こうすることにより、より高精度な検査が可能となる。
【0138】
同様に、検査対象であるマスク101が、多層のパターン構造を有する半導体素子の上下方向の第5層目にあたる層に配置されるパターンを形成するためのものである場合、それと隣接する第4層目のパターンを形成するためのマスクのCDマップに加え、第1層目〜第3層目の各パターンを形成するための各CDマップを用い、各パターンの寸法分布を算出し、算出結果を平均するなどして、参照画像に反映させることができる。こうすることにより、より高精度な検査が可能となる。
【0139】
本実施形態によれば、検査対象であるマスクとは別のマスクの面内での寸法分布を参照画像に反映させることができる。従来、多層のパターン構造を有する半導体素子のある1つの配線層において、パターンの線幅が所定の許容範囲内にあったとしても、他の層のパターンとの関係において不良となる場合があった。このような多層のパターン構造を有する半導体素子において、ある層のパターンと他の層のパターンとの関係において発生する不良を低減するためには、多層構造を考慮した各層パターンの形成が必要となる。そのため、各層パターンの形成のためのマスクの検査においても、それが多層のパターン構造中の1つの層のパターンを形成するためのものであることが考慮され、線幅異常の検出が行われることが好ましい。
【0140】
本実施形態により、検査対象となるマスクの光学画像が、別のマスクのパターン寸法の分布を考慮した参照画像と比較されることになる。それにより、検出する必要のない欠陥がマスク検査結果から除かれる。つまり、欠陥検出感度の低下を引き起こすことなしに、疑似欠陥の低減を図ることができる。また、検出する必要のない欠陥がマスク検査結果から除かれることで、オペレータがレビューする欠陥数が低減され、検査時間の短縮化に繋がる。さらに、欠陥情報リストに挙がる欠陥数を低減することにもなるので、マスクの製造歩留まりを向上させることが可能となる。
【0141】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。
【0142】
例えば、上記実施の形態において、比較回路108を、第1の比較部と第2の比較部との2つの比較部を有して構成することができる。そして、比較回路108の有する2つの比較部を用い、2段階の欠陥判定を行うことができる。
【0143】
例えば、第1の比較部において、マスク採取データ204と再生成前の参照画像とが、ダイ−トゥ−データベース方式によって比較されるようにする。具体的には、撮像されたストライプデータが検査フレーム単位に切り出され、検査フレーム毎に、欠陥判定の基準となるデータと適切な比較判定アルゴリズムを用いて比較されるようにする。そして、両者の差が所定の閾値を超える場合に欠陥と判定される。
【0144】
次に、第1の比較部で欠陥が検出された光学画像について、2段階目となる再度の検査を行う。すなわち、第1の比較部で欠陥が検出された光学画像と、この光学画像に対応する、上述の再生成された参照画像とを用い、第2の比較部でダイ−トゥ−データベース比較を行う。ここで、再生成された参照画像には、検査対象のマスクではない別のマスクの面内における寸法のばらつきが反映されているので別のマスクのマスク面内での寸法分布の影響を考慮した状態で、光学画像と参照画像を比較することができる。比較の結果、欠陥が検出されなければ、第1の比較部で検出された欠陥は疑似欠陥であり、本来欠陥として検出されるべきものではなかったと判断できる。
【0145】
このように、再生成された参照画像と再度比較を行うようにすることによって、高い検査効率で、疑似欠陥を低減しつつ本来検出されるべき欠陥を検出することができる。
【0146】
また、上記実施の形態では、参照回路が参照画像の再生成を行ったが、検査装置全体の制御を司る制御部としての制御計算機が参照画像の再生成を行ってもよい。すなわち、制御計算機が、マップ作成回路からCDマップのデータを受け取り、また、参照回路から参照データを受け取って、参照画像の寸法調整を行ってもよい。但し、光学画像の取得、参照画像の生成、光学画像と参照画像の比較による検査といった処理と並行して参照画像の再生成を行う場合には、参照画像生成のための処理速度に速さが求められるので、電気的回路で構成された参照回路で参照画像を再生成することが好ましい。
【0147】
また、上記実施の形態では、図1の寸法測定回路125で光学画像の寸法を測定し、この値から得られたCDマップを用いて参照画像の再生成を行った。ここで、CDマップは、検査対象となるマスクとは別のマスクの面内における寸法分布を反映したものであるが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、マスクへのパターン形成に使用される荷電粒子ビーム描画装置の特性、例えば、特定の描画領域で線幅が太くなる(または細くなる)といった特性を表したCDマップを用いて、参照画像の再生成を行ってもよい。この場合にも上記と同様の効果を得ることが可能である。
【0148】
さらに、上記実施の形態では、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要としない部分についての記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができることは言うまでもない。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更し得る全ての検査方法または検査装置は、本発明の範囲に包含される。
以下に、本願出願当初の特許請求の範囲に記載の発明を付記する。
[C1]
検査対象の第1試料に形成されたパターンの光学画像を取得する工程と、
前記光学画像に対応する参照画像を前記第1試料の設計データに基づいて生成する工程と、
第2試料に形成されたパターンの寸法分布を生成する工程と、
この寸法分布を反映させた前記参照画像を再生成する工程と、
前記第1の試料の前記光学画像と前記再生成された参照画像とをダイ−トゥ−データベース方式によって比較し、欠陥が検出された光学画像について該欠陥に関する情報を保存する工程と
を有することを特徴とする検査方法。
[C2]
前記第1の試料および前記第2の試料はそれぞれ、多層のパターン構造を有する半導体素子の複数のパターンのいずれかを形成するためのものであることを特徴とする[C1]に記載の検査方法。
[C3]
前記第2試料は複数あり、該複数の第2試料のそれぞれに形成されたパターンの寸法分布を反映させて前記参照画像を再生成することを特徴とする[C1]または[C2]に記載の検査方法。
[C4]
前記欠陥の検出は、所定の値を中心値として上限側の許容幅と下限側の許容幅とを決めて上限閾値と下限閾値とを設定することにより行われるものであり、
前記参照画像に含まれるパターンの線幅がより太くなるように前記参照画像の再生成がなされた場合には、該参照画像より太い線幅を有する前記光学画像のパターンに対して、前記上限側の許容幅が下限側の許容幅より小さな絶対値となるように前記上限閾値が設定され、
前記参照画像に含まれるパターンの線幅がより細くなるように前記参照画像の再生成がなされた場合には、該参照画像より細い線幅を有する前記光学画像のパターンに対して、前記下限側の許容幅が上限側の許容幅より小さな絶対値となるように前記下限閾値が設定されて、前記欠陥の検出が行われることを特徴とする[C1]〜[C3]のいずれか1項に記載の検査方法。
[C5]
検査対象の第1試料に形成されたパターンの光学画像を取得する光学画像取得部と、
前記光学画像に対応する参照画像を前記第1試料の設計データに基づいて生成するとともに、第2試料に形成されたパターンの寸法分布を反映させて前記参照画像を再生成する参照画像生成部と、
前記光学画像と前記再生成された参照画像とをダイ−トゥ−データベース方式によって比較する比較部と、
前記比較部で欠陥が検出された光学画像について該欠陥に関する情報を保存する保存部とを有することを特徴とする検査装置。
【符号の説明】
【0149】
20,20,20,20,20 ストライプ
100 検査装置
101、301 マスク
102 XYθテーブル
103 光源
104 拡大光学系
105 フォトダイオードアレイ
106 センサ回路
107 位置回路
108 比較回路
109 磁気ディスク装置
110 制御計算機
111 展開回路
112 参照回路
113 オートローダ制御回路
114 テーブル制御回路
115 磁気テープ装置
116 フレキシブルディスク装置
117 CRT
118 パターンモニタ
119 プリンタ
120 バス
122 レーザ測長システム
125 寸法測定回路
126 マップ作成回路
130 オートローダ
170 照明光学系
201 CADデータ
202 設計中間データ
203 フォーマットデータ
204 マスク採取データ
205 マスク検査結果
207 欠陥情報リスト
500 レビュー装置
600 修正装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8