特許第6264074号(P6264074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6264074
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】重合体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/13 20060101AFI20180115BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180115BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20180115BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   C08K5/13
   C08L101/00
   C08L65/00
   C08L45/00
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-24502(P2014-24502)
(22)【出願日】2014年2月12日
(65)【公開番号】特開2015-151422(P2015-151422A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(72)【発明者】
【氏名】古国府 明
(72)【発明者】
【氏名】寳川 卓士
(72)【発明者】
【氏名】中 陽介
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−139756(JP,A)
【文献】 特開2009−234982(JP,A)
【文献】 特開2001−181483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00 − 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液から揮発成分を蒸発させる濃縮工程を含み、
前記濃縮工程において、重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液を、290℃以上に加温することを特徴とする重合体組成物の製造方法。
【請求項2】
前記重合体が脂環構造重合体であることを特徴とする請求項1記載の重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール系酸化防止剤を含む重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子技術の発展をともに、電子電気機器の軽量化、小型化、薄型化が進んでいる。それに伴い、使用される光学レンズや光学フィルムの薄肉化への要求が高くなり、
そのため従来問題にならなかった微小異物が光学特性に与える影響が大きくなり、その低減が求められている。
【0003】
微小異物の原因物質には、樹脂酸化物や酸化防止剤の変性物が主に考えられる。微小異物低減には、樹脂の酸化や黄変を抑制する必要があり、その手法として特許文献1には吸着剤処理した酸化防止剤を重合体に成型前に配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−234982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1を参考に、重合体に後から酸化防止剤を配合した樹脂組成物を用いると、確かに高い光学特性は実現できたものの、極めて高い光学特性を持つ成形体を得ることができないことを確認した。これは、工業的には残溶剤を低減するために、重合体を高温下で乾燥する工程を含むため、その工程が原因で重合体の酸化など好ましくない反応が進行し、重合体中に樹脂酸化物等の微小異物が発生することに起因することを見出した。
【0006】
そこで、本発明者らは、重合体の高温下での乾燥工程の前に、酸化防止剤を配合したところ、光学特性が向上することを確認した。しかしながら、それでも尚、成形体には異物に起因した光学特性上の問題が認められた。
【0007】
そして、更なる検討の結果、リチウムとスズの含有量を制限したフェノール系酸化防止剤を用いることで、樹脂組成物中に樹脂酸化物又は酸化防止剤変性物由来の微小異物が極めて少なくできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして本発明によれば、重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液から揮発成分を蒸発させる重合体組成物の製造方法が提供される。
【0009】
前記重合体は脂環構造重合体であるのが好ましい。
【0010】
前記濃縮工程において、重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液を、290℃以上に加温するのが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<重合体>
ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートなどに
その利用される分野の要求性能に従い、適宜選択すればよい。光学素子に要求される性能は、耐熱性、光学特性等であり、従って、この用途に適した基材フィルムの樹脂としては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アリレート(PAR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)ポリカーボネート(PC)、脂環構造含有重合体、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリシロキサン系、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を挙げることができる。
【0012】
これらの中でも、耐熱性、透明性、低吸水性、低複屈折性に優れるという観点から脂環構造含有重合体が好適に用いられる。
【0013】
本発明で好適に用いられる脂環構造含有重合体は、主鎖及び/又は側鎖に脂環構造を有する、非晶性樹脂(融点を有しない樹脂)であり、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環構造を含有するものが好ましい。
【0014】
重合体の脂環構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
【0015】
脂環構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械的強度、耐熱性、及び成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0016】
本発明に使用される脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%である。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと耐熱性に劣り好ましくない。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0017】
この脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体及びその水素化物が好ましい。
【0018】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
【0019】
開環重合によって得られるものとして、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるものとしてノルボルネン系単量体の付加重合体及びノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましく、特に、テトラシクロドデセン系単量体、メタノテトラヒドロフルオレン系単量体、及びノルボルネン系単量体を開環重合して得られるノルボルネン系開環重合体の炭素―炭素不飽和結合を水素添加して得られるものであり、テトラシクロドデセン系単量体由来の構造単位を15〜50重量%、メタノテトラヒドロフルオレン系単量体由来の構造単位を50〜90重量%、及びノルボルネン系単量体由来の構造単位を1〜15重量%(但し、各単量体由来の構造単位の合計は100重量%以下である)からなるノルボルネン系開環重合体水素化物が好ましい。
【0020】
テトラシクロドデセン系単量体の具体例としては、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8,9−ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチル−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデン−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンなどが例示される。テトラシクロドデセン系単量体とメタノテトラヒドロフルオレン系単量体とノルボルネン系単量体の合計量は100重量%とした場合の、テトラシクロドデセン系単量体の使用量としては、15〜50重量%、好ましくは20〜40重量%である。テトラシクロドデセン系単量体の使用量が多すぎると、ノルボルネン系重合体水素化物の溶解性が低下してノルボルネン系重合体水素化物の生産性が悪化する恐れがある。
【0021】
メタノテトラヒドロフルオレン系単量体としては、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4−メタノ−8−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−クロロ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−ブロモ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンなどが例示される。テトラシクロドデセン系単量体とメタノテトラヒドロフルオレン系単量体とノルボルネン系単量体の合計量は100重量%とした場合の、メタノテトラヒドロフルオレン系単量体の使用量としては、50〜90重量%、好ましくは60〜80重量%である。メタノテトラヒドロフルオレン系単量体が少なすぎると光学レンズの複屈折が悪化する恐れがあり、多すぎるとノルボルネン系開環重合体の溶解性が低下しノルボルネン系開環重合体水素化物の生産性が悪化する恐れがある。
【0022】
ノルボルネン系単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メトキシルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチル5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンなどが例示される。ノルボルネン系単量体は、ガラス転移温度を調整する目的で用いられる。ノルボルネン系重合体の量は、通常1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%、より好ましくは3〜8重量%である。ノルボルネン系単量体が多すぎると、ノルボルネン系開環重合体水素化物の耐熱性(ガラス転移温度)が低下しすぎる恐れがある。
【0023】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンとも言う)などのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
【0024】
これらの、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体とを付加共重合する場合は、付加重合体中のノルボルネン系単量体由来の構造単位と付加共重合可能なその他の単量体由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70〜99:1、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0025】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
【0026】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0027】
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0028】
ノルボルネン系単量体の付加重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体は、これらの単量体を、公知の付加重合触媒、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて重合させて得ることができる。
【0029】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
【0030】
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−又は1,4−付加重合した重合体及びその水素化物などを用いることができる。
【0031】
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられ、ビニル脂環式炭化水素重合体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその水素化物など、いずれでもよい。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロック、又はそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体などが挙げられ、特に制限はない。
【0032】
本発明で使用される脂環構造含有重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常5,000以上であり、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは8,000〜200,000、特に好ましくは10,000〜100,000の範囲であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
【0033】
本発明で使用される脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50〜300℃、好ましくは100〜280℃、特に好ましくは115〜250℃、更に好ましくは130〜200℃の範囲であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
【0034】
本発明においてガラス転移温度は、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
【0035】
ちなみに、これらの脂環構造含有重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
<フェノール系酸化防止剤>
本発明に用いるフェノール系酸化防止剤は、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下の、リチウム触媒を用いて製造されるものである。酸化防止剤の分解を抑制できる点から、リチウム含有量が3〜30ppm、スズ含有量が200ppb以下であるものが特に好ましい。尚、金属量はICP質量分析装置により測定される値である。
【0037】
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]とも言う)、1,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジン、チオジエチレンビス[3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、イソトリデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、ベンゼンプロピオン酸・3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル(アルキル部の炭素数7〜9)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリエチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−t−ブチルベンジル)イソシアヌレート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)などが挙げられ、中でも2,6−ジ−t−ブチルフェノール構造を含有するものが特に好ましい。
【0038】
これらのフェノール系酸化防止剤のリチウム含有量とスズ含有量とを,本発明の範囲にする方法に格別な制限はないが,特開2009−234982号公報に記載されたような有機溶媒中で、酸性多孔質体と接触させる方法;特開2001−139756号広報に記載されたような、有機溶媒に対する溶解度の温度依存性を利用した再結晶する方法;などが挙げられる。
【0039】
重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液は、上述した重合体と上述した酸化防止剤とを有機溶媒に溶解して得られる。
【0040】
用いる有機溶媒としては、重合体の製造において用いられるものと同様、重合体が所定の条件で溶解もしくは分散させることが可能であり、重合反応や水素化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。
【0041】
重合体が脂環構造含有重合体である場合好適な有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類;又はこれらの混合溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類が好ましく用いられる。
【0042】
重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液を調整する方法に格別な制限はないが、工業生産性の観点から、重合体製造工程で得られる重合反応液又は水素添加反応液から触媒を除去した濾液に、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤を添加することにより調製するのが好ましい。このほか、触媒を除いた反応液を比較的低温で溶媒除去して得られた重合体のケーキを新たな有機溶媒中、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤と共に溶解させて得ることもできる。
【0043】
こうして得られた重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液から揮発成分を蒸発させる方法に格別な制限はないが、通常、溶液を構成する有機溶媒の沸点より高温条件下、常圧又は減圧環境で揮発成分を除去する方法が挙げられる。温度条件は、用いる有機溶媒や除去したい揮発成分の沸点、及び重合体と酸化防止剤の融点又はガラス転移温度などを考慮し任意に設定することができるが、揮発成分を十分に除去するために、揮発成分が実質的に除去できた時点での重合体組成物は溶融状態になる温度に設定することが好ましい。具体的には、通常290℃以上、好ましくは290℃〜310℃、より好ましくは295℃〜305℃である。圧力は、用いる有機溶媒や除去したい揮発成分の沸点や、処理温度を考慮して任意に設定することができ、通常−10kPa〜−150kPa、好ましくは−50kPa〜−130kPaである。
【0044】
溶融状態の重合体は、通常、押出機に入れられ、棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット状に成形加工され、その後成形体の製造に供される。
【0045】
また本発明において、重合体組成物には、その他の配合剤を、必要に応じて混合して用いることができる。
【0046】
その他の配合剤としては、熱可塑性樹脂材料で通常用いられているものであれば格別な制限はなく、例えば、熱可塑性エラストマー、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、無機充填剤などの配合剤が挙げられる。好ましくは、熱可塑性エラストマーを配合することにより、強度の向上が図られる。
【0047】
重合体組成物に必要に応じて用いられる配合剤を混合する方法は、重合体中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。また、配合の順番に格別な制限はない。配合方法としては、例えば、上述した重合体と、リチウム含有量が0.3ppm以下、スズ含有量が2.0ppm以下のフェノール系酸化防止剤とを含む溶液に配合する方法、溶融状態の重合体組成物に配合する方法などが挙げられる。
【0048】
<成形体>
本発明の重合体組成物は、周知の熱可塑性樹脂の成形法、例えば、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形法、圧縮成形法、回転成形法、カレンダー成形法、圧延成形法、切削成形法等によって成形加工し、成形体とすることができる。
【0049】
本発明の重合体組成物は、透明性及び耐熱性に優れる為、光学材料に好適である。具体的には、導光板、拡散板、回折格子、撮像素子用レンズ、フレネルレンズ、光ディスク、プリズムシートなどが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0051】
以下に各種物性の測定法を示す。
【0052】
(1)分子量
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)はシクロヘキサンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、標準ポリイソプレン換算値として測定した。
【0053】
GPCは、東ソー社製HLC8120GPCを用いた。
【0054】
標準ポリイソプレンとしては、東ソー社製標準ポリイソプレン、Mw=602、1390、3920、8050、13800、22700、58800、71300、109000、280000の計10点を用いた。
【0055】
測定は、カラムとして東ソー社製TSKgelG5000HXL、TSKgelG4000HXL及びTSKgelG2000HXLを3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/分、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
【0056】
(2)ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度は示差走査熱量分析計(DSC6220SII、ナノテクノロジー社製)を用いて、JISK6911に基づき昇温速度10℃/minの条件で測定した。
【0057】
(3)フェノール系酸化防止剤の金属量
ICP質量分析装置(Agilent社製;製品名「Agilent(登録商標)4500」)を用いて以下の方法により行った。
【0058】
試料2gを石英るつぼに秤取り、バーナー及び電気炉で順次灰化した。灰化物をテフロン(登録商標)ビーカーに移し、硝酸及びフッ化水素酸で加熱分解し、希硝酸で定容とした。得られた定容液のLi及びSnの定量分析をICP質量分析法で行った。
【0059】
(4)異物評価
ノルボルネン系開環重合体水素化物を、射出成型装置(日精樹脂工業製、製品名「NS20−2A」)を用いて、厚さ3mm長さ40mm、幅40mmの板を成形した。成形温度は金型温度115℃、シリンダー温度235℃とした。
【0060】
蛍光顕微鏡(キーエンス社製、製品名「BZ−8000」)を用いて、励起波長480±30Nmで励起させたときに、厚さ2mm長さ4mm、幅3mmの範囲で観察される101〜800μmの蛍光輝点の数を測定した。15個以上観察されたものを×、10個〜14個を△、3〜9個を○、2個以下を◎と評価した。
【0061】
(参考例)酸化防止剤の精製
・フェノール系酸化防止剤A
リチウム含量500ppb、スズ含量検出限界以下のテトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン25部を、トルエン100部に溶解させた。多孔質体をそれぞれ10部ずつ、トルエン溶液100部に添加した後、25℃で12時間攪拌した。攪拌終了後、多孔質体を分離・除去し、溶液を乾燥し、リチウム含量50ppb、スズ含量検出限界以下の精製ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を得た。
【0062】
・フェノール系酸化防止剤B
リチウム含量20ppb、スズ含量8000ppbのテトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン25部を、トルエン100部に溶解させた。多孔質体をそれぞれ10部ずつ、トルエン溶液100部に添加した後、25℃で12時間攪拌した。攪拌終了後、多孔質体を分離・除去し、溶液を乾燥し、リチウム含量10ppb、スズ含量300ppbの精製ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を得た。
【0063】
[実施例1]
乾燥し、窒素置換した重合反応器に、メタノテトラヒドロフルオレン(以下、「MTF」と略記)10重量%、テトラシクロドデセン(以下、「TCD」と略記)38重量%、ジシクロペンタジエン(以下、「DCP」と略記)52重量%からなる単量体混合物7部(重合に使用するモノマー全量に対して1%)、脱水したシクロヘキサン1,600部、分子量調節剤として1−ヘキセン3.24部、ジイソプロピルエ−テル0.84部、イソブチルアルコール0.21部、トリイソブチルアルミニウム0.55部並びに六塩化タングステン0.65%シクロヘキサン溶液24.1部を入れ、55℃で10分間攪拌した。
【0064】
次いで、反応系を55℃に保持し、攪拌しながら、前記重合反応器中に前記単量体混合物693部と六塩化タングステン0.65%シクロヘキサン溶液48.9部を各々150分かけて連続的に滴下し、さらに滴下終了後30分間攪拌した後にイソプロピルアルコール1.0部を添加して重合反応を停止させた。ガスクロマトグラフィーによって重合反応溶液を測定したしたところ、モノマーの重合体への転化率は100%であった。
【0065】
次いで、上記重合体を含有する重合反応溶液300部を攪拌器付きオートクレーブに移し、シクロヘキサン100部及び珪藻土担持ニッケル触媒(ニッケル担持率58%)2.0部を加えた。オートクレーブ内を水素で置換した後、180℃、4.5MPaの水素圧力下で6時間反応させた。
【0066】
水素化反応終了後、珪藻土(「ラヂオライト(登録商標)♯500」)を濾過床として、加圧濾過器(IHI社製、「フンダフィルタ−」)を使用し、圧力0.25MPaで加圧濾過して、無色透明な溶液を得た。
【0067】
この溶液に、前記水素添加物100部当り、酸化防止剤A0.5部を加えて溶解させた。
【0068】
次いで、上記で得られた濾液を、円筒型濃縮乾燥機(日立製作所製)を用いて、温度290℃、圧力1kPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン及びその他の揮発成分を除去し、濃縮機に直結したダイから溶融状態でストランド状に押出し、水冷後、ペレタイザー(長田製作所製;「OSP−2」)でカッティングしてノルボルネン系重合体のペレットを得た。
【0069】
このノルボルネン系重合体の分子量はMw=38,000、Mw/Mn=2.5であり、Tgは129℃であった。
【0070】
得られたペレットを用いて異物評価した結果を表1に示す。
【0071】
[実施例2〜5]、[比較例1〜5]
添加する酸化防止剤の種類と量を、表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様にしてノルボルネン系重合体を得た。
【0072】
得られたペレットを用いて異物評価した結果を表1に示す。
【表1】
【0073】
この結果から以下のことがわかる。
【0074】
リチウム含有量が0.3ppmより少ない場合と多い場合とで、異物数に顕著な差が認められる(実施例3と比較例1)。リチウム含有量が少ないほど、異物数が少ないことが分かる(実施例1〜3、比較例1,2)。
【0075】
スズ含有量が2.0ppmより少ない場合と多い場合とで、異物数に顕著な差が認められる(実施例5と比較例3)。スズ含有量が少ないほど、異物数が少ないことが認められる(実施例4、5)
リチウム含有量が十分少なくても、スズ含有量が多いと異物数が多いことが分かる(比較例3〜5)。