特許第6264516号(P6264516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6264516ジアルキルスルフィド、ジアルキルスルフィドの製造方法、極圧添加剤及び潤滑流体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6264516
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ジアルキルスルフィド、ジアルキルスルフィドの製造方法、極圧添加剤及び潤滑流体組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 321/14 20060101AFI20180115BHJP
   C07C 319/24 20060101ALI20180115BHJP
   C10M 135/22 20060101ALI20180115BHJP
   C10M 141/08 20060101ALI20180115BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20180115BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
   C07C321/14
   C07C319/24
   C10M135/22
   C10M141/08
   !C07B61/00 300
   C10N30:06
   C10N30:12
   C10N40:04
   C10N40:06
   C10N40:08
   C10N40:22
   C10N40:24
   C10N40:25
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-541400(P2017-541400)
(86)(22)【出願日】2016年10月27日
(86)【国際出願番号】JP2016081841
(87)【国際公開番号】WO2017104273
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2017年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-247330(P2015-247330)
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】米田 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】坂田 浩
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/188948(WO,A1)
【文献】 特開平02−006465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 321/14
C07C 319/24
C07C 319/16
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中R、Rはそれぞれアルキル基を表す。nは整数である。)
で表され、該一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が一般式(1)で表される化合物の全量に対して10.0質量%以下で、該一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜70.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%であることを特徴とするジアルキルスルフィドの混合物
【請求項2】
前記一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が一般式(1)で表される化合物の全量に対して0.5〜5質量%で、該一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜65.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%である請求項1記載のジアルキルスルフィドの混合物
【請求項3】
前記R、Rが、それぞれ炭素原子数4〜20の直鎖状アルキル基である請求項1記載のジアルキルスルフィドの混合物
【請求項4】
前記R、Rが、それぞれオクチル基である請求項3記載のジアルキルスルフィドの混合物
【請求項5】
1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを、硫化水素(c)の存在下、モル比〔(a)/(b)〕が0.6〜2となる範囲で60〜130℃の反応系で反応させる第一工程と、該反応系を170〜180℃で、5〜20時間保持する工程とを有することを特徴とするジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項6】
前記1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを、モル比〔(a)/(b)〕が0.65〜1.7となる範囲で反応させる請求項5記載のジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項7】
前記第一工程が、1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを、モル比〔(a)/(b)〕が0.65〜1.7となる範囲で80〜130℃で反応させる工程である請求項5記載のジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項8】
前記1置換体の1−オレフィン化合物(a)が、直鎖状のアルキル基を有し、炭素原子数が6〜22の1置換体の1−オレフィン化合物である請求項5記載のジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項9】
前記1置換体の1−オレフィン化合物(a)が1−デセンである請求項5記載のジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項10】
前記1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを、塩基性触媒の存在下で反応させる請求項5記載のジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項11】
前記塩基性触媒が脂肪族アミン系化合物またはアルカリ金属水酸化物である請求項10記載のジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項12】
下記一般式(1)
【化1】
(式中R、Rはそれぞれアルキル基を表す。nは整数である。)
で表され、該一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が一般式(1)で表される化合物の全量に対して10.0質量%以下で、該一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜70.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%
の条件を満たしていないジアルキドスルフィドの混合物を複数用いて、下記一般式(1)
【化2】
(式中R、Rはそれぞれアルキル基を表す。nは整数である。)
で表される化合物において、各々のnを有する化合物の含有量を
nが1である化合物の含有率が一般式(1)で表される化合物の全量に対して10.0質量%以下、
nが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜70.0質量%、
nが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%
になるように調整することを特徴とするジアルキルスルフィド混合物の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1項記載のジアルキルスルフィドの混合物を含有することを特徴とする極圧添加剤。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか1項記載のジアルキルスルフィドの混合物または請求項1記載の極圧添加剤と基油を含有することを特徴とする潤滑流体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温環境下においても金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成でき、且つ、保存安定性にも優れ、極圧添加剤として好適に使用できるジアルキルスルフィド、該ジアルキルスルフィドの製造方法に関する。また、本発明は、該ジアルキルスルフィドを含む極圧添加剤及び該ジアルキルスルフィドを含む潤滑流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から切削油、塑性加工油、ギア油、摺動面油、グリースなどの潤滑流体組成物には、金属同士の摩擦、磨耗減少や焼き付きを防止するために極圧添加剤が使用されている。金属の中でも、ステンレス鋼等のいわゆる難加工材料は、金属同士の摩擦、磨耗減少や焼き付きを防止するための金属硫化膜をその表面に形成しにくい。その為、難加工材料の切削加工や塑性加工は、当該材料や潤滑流体組成物が高温となるような条件で行い、金属硫化膜の形成を促進させる必要がある。しかしながら、高温下の条件で材料の加工を行うと、工具の寿命の短縮、熱膨張の影響による加工された物品の寸法のばらつき等の問題を生じる。その為、難加工材料に対して低温環境下でも効率よく硫化金属の被膜を形成できる極圧添加剤が求められている。
【0003】
極圧添加剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステルなどの含塩素有機化合物類;硫化油脂類、硫化オレフィン類を含むジアルキルポリスルフィドなどの含硫黄有機化合物類等が挙げられ、中でも極圧添加剤の硫黄含有量を高くすることが出来る上、基油への溶解性が高く、より多くの硫黄分を基油に添加できるとの理由からジアルキルスルフィドが広く用いられている。
【0004】
ジアルキルスルフィドとしては、例えば、ジアルキルモノスルフィドや、ジアルキルジスルフィド、ジアルキルトリスルフィド、ジアルキルテトラスルフィド等のジアルキルポリスルフィド等が挙げられる。このようなジアルキルポリスルフィドとしては、例えば、炭素原子数4〜22の非分岐状のアルキル基と、硫黄鎖長が1.5〜3.5程度のポリスルフィド構造とを有するジアルキルポリスルフィドの混合物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、硫黄鎖長が2のジアルキルジスルフィドと硫黄鎖長が3のジアルキルトリスルフィドとの合計の含有率が、全ジアルキルポリスルフィドの合計に対して80〜100質量%であるジアルキルポリスルフィドの混合物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、前記特許文献1や特許文献2に開示されたジアルキルポリスルフィドは、金属との反応性が十分ではなく、特に、近年求められている低温環境下での金属硫化膜の形成能が十分でない問題がある。
【0005】
加えて、近年では、極圧添加剤は保管を考慮して、低温、例えば、−5℃程度の低温環境下においても、析出物が析出しない安定性も要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−071343号公報
【特許文献2】国際公開第2014/188948号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、低温環境下でも効率よく硫化金属の被膜を形成でき、しかも低温環境下においても析出物が析出しない安定性を有し、極圧添加剤として好適に用いることができるジアルキルスルフィドを提供することにある。また、該ジアルキルスルフィドを含む極圧添加剤とこれを含む潤滑流体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ジアルキル基を有する特定構造のジアルキルスルフィド化合物の混合物において、硫黄鎖長が1の化合物の含有率と、硫黄鎖長が2〜4の化合物の合計の含有率と、硫黄鎖長が5〜8の化合物の合計の含有率がそれぞれ特定の範囲にある混合物は、低温環境下でも効率よく硫化金属の被膜を形成できること、低温環境下においても析出物が析出しない安定性を有すること、極圧添加剤として好適に用いることができること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0010】
【化1】
(式中R、Rはそれぞれアルキル基を表す。nは整数である。)
で表され、該一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が一般式(1)で表される化合物の全量に対して10.0質量%以下で、該一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜70.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%であることを特徴とするジアルキルスルフィドを提供するものである。
【0011】
また、本発明は、1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを、硫化水素(c)の存在下、モル比〔(a)/(b)〕が0.6〜2となる範囲で60〜130℃の反応系で反応させる第一工程と、該反応系を160〜200℃で保持する第二工程とを有することを特徴とするジアルキルスルフィドの製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、前記ジアルキルスルフィドを含有することを特徴とする極圧添加剤を提供するものである。
【0013】
更に、本発明は、前記ジアルキルスルフィドまたは前記極圧添加剤と基油を含有することを特徴とする潤滑流体組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のジアルキルスルフィドは、低温環境下でも効率よく硫化金属の被膜を形成でき、ステンレス鋼等のいわゆる難加工材料の加工の際に用いる潤滑流体組成物の極圧添加剤として好適である。また、本発明のジアルキルスルフィドの製造方法により、前記極圧添加剤を好適に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のジアルキルスルフィドは、下記一般式(1)
【0016】
【化2】
(式中R、Rはそれぞれアルキル基を表す。nは整数である。)
で表され、該一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が一般式(1)で表される化合物の全量に対して10.0質量%以下で、該一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜70.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%であることを特徴とする。
【0017】
本発明のジアルキルスルフィドは、nが1である化合物の含有率が一般式(1)で表される化合物の全量に対して10.0質量%以下である。nが1である化合物の含有率が10.0%を超えると、金属との反応性が悪くなり、その結果、低温環境下において効率的に金属硫化物の被膜を形成しにくくなることから好ましくない。nが1である化合物の含有率は、一般式(1)で表される化合物の全量に対して0.5〜5質量%が、低温環境下に加え高温環境下でも効率的に金属硫化物の被膜を形成できるジアルキルスルフィドとなることから好ましい。
【0018】
本発明のジアルキルスルフィドは、nが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜70.0質量%である。前記含有率の合計が50質量%よりも小さいと低温環境下において効率的に金属硫化物の被膜を形成しにくくなることから好ましくない。前記含有率の合計が70質量%を超えると、低温環境下保存安定性が低下しやすく、また、効率的に金属硫化被膜の形成しにくくなることから好ましくない。前記含有率の合計は、低温環境下における金属硫化物の被膜の形成性が良好で、しかも、低温環境下における保存安定性も良好となることから50.0〜65.0質量%であるものが好ましく、55.0〜65.0質量%であるものがより好ましい。
【0019】
本発明のジアルキルスルフィドは、一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%である。前記含有率の合計が30.0質量%よりも小さいと低温での金属との反応性が低下し、低温環境下で効率良く金属硫化物の被膜を形成することが困難となることから好ましくない。前記含有率の合計が40.0質量%を超えると低温環境下における保存安定性が低下しやすいことから好ましくない。
【0020】
従って、本発明のジアルキルスルフィドの中でも、前記一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が前記一般式(1)で表される化合物の全量に対して0.5〜5質量%で、一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜70.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%であるジアルキルスルフィドが好ましく、前記一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が前記一般式(1)で表される化合物の全量に対して0.5〜5質量%で、一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して50.0〜65.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%であるジアルキルスルフィドがより好ましく、前記一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が前記一般式(1)で表される化合物の全量に対して0.5〜5質量%で、一般式(1)中のnが2である化合物の含有率とnが3である化合物の含有率とnが4である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して55.0〜65.0質量%で、該一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して30.0〜40.0質量%であるジアルキルスルフィドが更に好ましい。
【0021】
一般式(1)で表される化合物において、nが種々の異なる化合物のそれぞれの含有率は、高速液体クロマトグラフ(以下、「HPLC」と略記する。)測定により得られるチャートのピーク面積により求めることができる。なお、HPLCの測定条件は以下の通りである。
【0022】
[HPLC測定条件]
測定装置:株式会社島津製作所製LC−06A
カラム:INTERSIL−C8 4.5μm 250mm×4.6mm
検出器:UV210nm
溶出液:アセトニトリル/水(体積比)=85/15、流量 1ml/min
【0023】
前記一般式(1)で表される化合物において、R、Rとしては、例えば、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等が挙げられる。前記直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等が挙げられる。また、前記分岐状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、2−メチルプロパン−2−イル基、2−ブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、3−ペンチル基、2−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、3−ヘプチル基、2−エチルブチル基、3−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルヘプチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基及び2−エチルオクチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルウンデシル基、3,6−ジメチルヘキサデシル基等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)中のR、Rの中でも、高硫黄含有量を維持でき良好に金属硫化物の被膜を金属表面上に形成できること、臭気原因となる低分子量メルカプタン類の含有量が少ないジアルキルスルフィドが得られることから炭素原子数4〜20の直鎖状アルキル基が好ましく、炭素原子数6〜18の直鎖状アルキル基がより好ましく、炭素原子数8の直鎖状アルキル基(n−オクチル基)が更に好ましい。
【0025】
本発明のジアルキルスルフィドの50%熱分解温度は、例えば、200〜300℃である。この熱分解温度は、前記一般式(1)におけるR、Rのアルキル基の鎖長が長くなるほど上昇する。従って、異なるアルキル基の鎖長を有するジアルキルスルフィドを混合することにより、所望に応じた熱分解温度を有するジアルキルスルフィド(混合物)を得ることができる。
【0026】
本発明のジアルキルスルフィドは、例えば、下記の工程を含む本発明の製造方法により、好適に得ることができる。
第一工程:1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを、硫化水素(c)の存在下、モル比〔(a)/(b)〕が0.6〜2となる範囲で60〜130℃の反応系で反応させる工程。
第二工程:前記反応系を、160〜200℃で保持する工程。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0027】
前記第一工程で用いる1置換体の1−オレフィン化合物(a)は下記一般式(2)
【0028】
【化3】
【0029】
(式中、Rはアルキル基である。)
で表される。
【0030】
前記1置換体の1−オレフィン化合物(a)としては、例えば、直鎖状のアルキル基を有する1−オレフィン化合物〔前記一般式(2)中のRが直鎖状のアルキル基である1−オレフィン化合物〕や、分岐状のアルキル基を有する1置換体の1−オレフィン化合物〔前記一般式(2)中のRが分岐状のアルキル基である1−オレフィン化合物〕等が挙げられる。
【0031】
前記直鎖状のアルキル基を有する1置換体の1−オレフィン化合物としては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン或いはその混合物等が挙げられる。
【0032】
前記分岐状のアルキル基を有する1置換体の1−オレフィン化合物としては、例えば、3−メチルペンテン、4−メチルヘプテン、5−メチルウンデセン、3,6−ジメチルヘキサンデセン或いはその混合物等が挙げられる。
【0033】
本発明で用いる1置換体の1−オレフィン化合物(a)の中でも、工業的に入手が容易で、硫黄との反応が容易に進行することから直鎖状のアルキル基を有する1置換体の1−オレフィン化合物が好ましい。直鎖状のアルキル基を有する1置換体の1−オレフィン化合物の中でも、流動点が低く、常温で液体状態を維持できることから、直鎖状のアルキル基を有し、炭素原子数が6〜22の1置換体の1−オレフィン化合物が好ましく、直鎖状のアルキル基を有し、炭素原子数が8〜20の1置換体の1−オレフィン化合物がより好ましく、直鎖状のアルキル基を有し、炭素原子数が8〜14の1置換体の1−オレフィン化合物が更に好ましく、直鎖状のアルキル基を有し、炭素原子数が10の1置換体の1−オレフィン化合物(1−デセン)が特に好ましい。
【0034】
前記硫黄(b)としては、特に限定されるものではなく、例えば、小塊状、フレーク状、粉末状の固形状態であっても、溶融状態(液体)であっても良い。中でも、大スケールでの製造での仕込み作業が容易であるとの理由から溶融状態の硫黄が好ましい。
【0035】
前記硫化水素(c)としても、特に限定されるものではないが、純度が高い本発明のジアルキルスルフィドが得られる点から、純度99モル%以上のものを用いることが好ましい。
【0036】
前記第一工程は種々の硫黄鎖長を有するジアルキルスルフィドの混合物を得る工程である(この工程で得られるジアルキルスルフィドの混合物を「粗ジアルキルスルフィド」と略記することがある。)。通常、第一工程で得られる粗ジアルキルスルフィドは、例えば、前記一般式(1)で表される化合物の全量に対して、nが1である化合物の含有率が0〜5.0質量%程度で、一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率の合計が、一般式(1)で表される化合物の全量に対して20.0〜29.0質量%程度の混合物である。
【0037】
前記第一工程において、1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを硫化水素(c)の存在下で反応させる際は、塩基性化合物(塩基性触媒)の存在下で反応させることが好ましい。前記塩基性触媒としては、例えば、アルカリ金属水酸化物やアミン系化合物等が挙げられる。前記アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0038】
前記アミン系化合物としては、例えば、脂肪族アミン系化合物、芳香族アミン系化合物等が挙げられる。前記脂肪族アミン系化合物としては、例えば、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、およびそれらの各種異性体、オクチルアミン、ジオクチルアミン、およびそれらの各種異性体、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、炭素原子数19〜22のアルキルアミン、ジシクロヘキシルアミン、およびそれらの各種異性体、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン等、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2−アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3−ビス(2’−アミノエチルアミノ)プロパン、トリエチレン−ビス(トリメチレン)ヘキサミン、ビス(3−アミノエチル)アミン、ビスヘキサメチレントリアミン等、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン、4,4’−イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、N−メチルピペラジン、モルホリン、1,4−ビス−(8−アミノプロピル)−ピペラジン、ピペラジン−1,4−ジアザシクロヘプタン、1−(2’−アミノエチルピペラジン)、1−[2’−(2”−アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11−ジアザシクロエイコサン、1,15−ジアザシクロオクタコサン等が挙げられる。
【0039】
前記芳香族アミン系化合物としては、例えば、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノビフェニル、2,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン等が挙げられる。アミン系化合物は単独でも2種以上の混合物としても使用することができる。
【0040】
前記塩基性触媒の中でも、粗ジアルキルスルフィドの混合物の収率が高く、反応後に蒸留や通気などの簡便な手法で反応系から分離除去が可能なことから、脂肪族アミン系化合物またはアルカリ金属水酸化物が好ましく、脂肪族アミン系化合物がより好ましい。
【0041】
前記塩基性触媒の使用量としては、所望とする反応速度によって適宜選択するものであるが、反応性を悪化させない範囲においてより少量であることが好ましく、1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄との合計質量に対して0.05〜1.0質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましい。
【0042】
前記第一工程において、1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)の使用割合は、モル比〔(a)/(b)〕で0.65〜1.7となる範囲が、本発明のジアルキルスルフィドを容易に得やすいことから好ましい。
【0043】
また、前記第一工程において、1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫化水素(c)の使用割合としては、モル比〔(c)/(a)〕で0.3〜0.8となる範囲が、本発明のジアルキルスルフィドを容易に得やすいことから好ましく、モル比〔(c)/(a)〕で0.4〜0.7となる範囲がより好ましい。
【0044】
第一工程において、1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄とを硫化水素(c)の存在下で60〜130℃となる反応系で反応させる。反応系の温度は80〜130℃が反応速度向上の理由から好ましく、100〜130℃がより好ましい。また、反応時間は2〜10時間が好ましく、4〜8時間がより好ましい。
【0045】
前記第二工程は、第一工程で得られた粗ジアルキルスルフィドを含む反応系を160〜200℃で保持する。この操作により、一般式(1)中のnが1である化合物の含有率が減少し、且つ、一般式(1)中のnが5である化合物の含有率とnが6である化合物の含有率とnが7である化合物の含有率とnが8である化合物の含有率が増加し、本発明のジアルキルスルフィドが得られる。第二工程は反応系を170〜180℃で保持することが、より効率的に前記一般式(1)中のnが1である化合物の含有率を低下させることができることから好ましい。また、保持する時間は5〜20時間が好ましく、10〜15時間がより好ましい。
【0046】
本発明のジアルキルスルフィドは、例えば本発明の製造方法で得ても良いし、本発明のジアルキルスルフィドではない複数種のジアルキルスルフィドを混合し、一般式(1)で表される化合物において各々のnを有する化合物の含有量を調整することで得ても良い。
【0047】
本発明の極圧添加剤は、本発明のジアルキルスルフィドを含有することを特徴とする。本発明の極圧添加剤は、本発明のジアルキルスルフィドのみからなっていても良いし、本発明のジアルキルスルフィド以外の化合物で、極圧添加剤として用いることができる他の化合物が含まれていても良い。また、本発明の製造方法において、1置換体の1−オレフィン化合物(a)、硫黄(b)、硫化水素(c)の使用量や、第一工程や第二工程における反応温度、反応時間を種々変更して得られる2種以上の本発明のジアルキルスルフィドが混合されていても良い。
【0048】
本発明の潤滑流体組成物は、本発明のジアルキルスルフィド又は極圧添加剤と、基油とを含有することを特徴とする。前記基油としては、なんら限定されるものではなく、使用目的や使用条件等に応じて、鉱油や合成油等から適宜選択して用いることができる。前記鉱油としては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油、ナフテン基系原油を常圧蒸留や常圧蒸留後の残渣を減圧蒸留して得られる留出油、又はこれを溶剤精製、水添精製、脱ロウ処理、白土処理等の精製を行って得られる精製油等が挙げられる。前記合成油としては、例えば、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、炭素原子数8〜14のα−オレフィンオリゴマーおよびこれらの水素化物、トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル等のポリオールエステル、二塩基酸エステル、芳香族ポリカルボン酸エステル、リン酸エステル等のエステル系化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等のアルキルアロマ系化合物、ポリアルキレングリコール等のポリグリコール油、シリコーン油などが挙げられ、これらは単独又は2種以上を適宜併用して用いることができる。
【0049】
前記潤滑流体組成物中の本発明のジアルキルスルフィドと基油との配合割合としては、特に限定されるものではないが、通常基油100質量部に対して、ジアルキルスルフィド0.01〜50質量部であり、好ましくは0.05〜20質量部である。
【0050】
前記潤滑流体組成物は、例えば、前記1置換体の1−オレフィン化合物(a)と硫黄(b)とを、硫化水素(c)の存在下、モル比〔(a)/(b)〕が0.6〜2となる範囲で60〜130℃の反応系で反応させる第一工程と、該反応系を160〜200℃で保持する第二工程とを含む工程でジアルキルスルフィドを得る工程を含む本発明のジアルキルスルフィドを得る工程と、該ジアルキルスルフィドと基油とを混合する工程とを含む方法により製造することができる。
【0051】
前記ジアルキルスルフィドと基油とを混合する工程は、種々の混合方法により行うことができる。具体的には攪拌装置やラインミキサー等の混合装置を用いて行うことができる。
【0052】
本発明の潤滑流体組成物は、更に粘ちょう剤を含有させることによって、グリースとして用いることも可能である。ここで用いることができる粘ちょう剤としては、例えば、金属石鹸系、複合石鹸系などの石鹸系、又はウレア系などが挙げられる。これらの粘ちょう剤を用いる場合には、予め基油に混合して均一化しておくことが好ましい。
【0053】
前記潤滑流体組成物には、前記ジアルキルスルフィドと、前記基油とを用いる以外、なんら制限はなく、例えば、添加剤として、油性剤、耐磨耗剤、極圧剤、その他の防錆剤、腐食防止剤、消泡剤、洗浄分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、乳化剤、抗乳化剤、カビ防止剤、摩擦調整剤、界面活性剤等の添加剤などを目的とする用途や性能に応じて適宜併用することができる。
【0054】
各種添加剤の具体例として次のものを挙げることができる。前記油性剤としては、例えば、長鎖脂肪酸(オレイン酸)等が挙げられる。前記耐磨耗剤としては、例えば、リン酸エステル、金属ジチオホスフェート塩等が挙げられる。前記極圧剤としては、例えば、有機硫黄化合物、有機ハロゲン化合物等が挙げられる。前記その他の防錆剤としては、例えば、カルボン酸、アミン、アルコール、エステル等が挙げられる。
【0055】
前記腐食防止剤としては、例えば、窒素化合物(ベンゾトリアゾールなど)、硫黄および窒素を含む化合物(1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカルバメート)等が挙げられる。前記消泡剤としては、例えば、シリコーン油、金属石鹸、脂肪酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。前記洗浄分散剤としては、例えば、中性、塩基性スルフォネートおよびフェネート(金属塩型)、こはく酸イミド、エステルおよびベンジルアミン共重合系ポリマーなど等が挙げられる。前記流動点降下剤としては、例えば、塩素化パラフィンとナフタレン又はフェノールの縮合物、ポリアルキルアクリレート、およびメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリ酢酸ビニルなど等が挙げられる。前記粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オレフィン共重合体、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。前記酸化防止剤としては例えば、アミン、ヒンダードフェノール、チオりん酸亜鉛、トリアルキルフェノール類等が挙げられる。
【0056】
前記乳化剤としては、例えば、硫酸、スルホン酸およびリン酸エステル、脂肪酸誘導体、アミン誘導体、第四アンモニウム塩、ポリオキシエチレン系の活性剤等が挙げられる。前記抗乳化剤としては、例えば、第四アンモニウム塩、硫酸化油、リン酸エステル等が挙げられる。前記カビ防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、ホルムアルデヒド供与体化合物、サリチルアニリド系化合物などが挙げられる。
【0057】
前記潤滑流体組成物は、前記ジアルキルスルフィドと前記基油と、必要に応じて配合される粘ちょう剤やその他の添加剤を均一に配合したものであり、その配合方法としては特に限定されるものではなく、この時、均一化のために30〜60℃に加温することも可能である。
【0058】
本発明の潤滑流体組成物の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、内燃機関や自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどの駆動系機器、ギアなどに用いられる自動車用潤滑油;切削加工、研削加工、塑性加工などの金属加工に用いられる金属加工油;油圧機器や装置などの油圧システムにおける動力伝達、力の制御、緩衝などの作動に用いる動力伝達流体である作動油などとして用いることができる。特に本発明の潤滑流体組成物は、ギア油として用いた際に使用されるギアボックスのシール剤(クロロプレンゴム、ニトリルゴムなど)への膨潤度合いを従来品よりも低減させることができるため、シール剤と接するような用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。例中、断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0060】
合成例1(本発明のジアルキルスルフィドの製造に用いるジアルキルスルフィドの合成)
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、1−デセン320gと粉末硫黄73gとを仕込んだ。ブチルカルビトール3.8gに溶解させた水酸化カリウム0.07gを触媒として仕込んだ。オートクレーブを密閉した後、反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧し、真空脱気した。その後、反応系の温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)42.5gを圧力6kg/cmで3時間を要して吹き込んだ。更に4時間、温度を120℃に保持した。その後、40℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素を留去し、粗硫化オレフィンを得た。粗硫化オレフィン430gにメタノール75gを加えて攪拌し、洗浄した。洗浄後、下層のメタノール層を分液除去して上記の洗浄と分液作業を更に2回繰り返した。上層部の淡黄色液体を60℃、20Torrで3時間蒸留し、残存するメタノールを除去し、一般式(1)で表される構造を有するジアルキルスルフィド(1´)を得た。ジアルキルスルフィド(1´)を得る際に用いた1−オレフィン(1−デセン)と硫黄とのモル比[1−オレフィン/硫黄]、硫化水素と1−オレフィン(1−デセン)とのモル比[硫化水素/1−オレフィン]、ジアルキルスルフィド(1´)中の総硫黄含有量及び一般式(1)中の種々のnを有する化合物の含有量を第1表に示す。
【0061】
ジアルキルスルフィド(1´)の低温環境下での保存安定性の評価、金属表面への金属硫化物の被膜の形成性及び金属表面の腐食性を下記方法に従って評価した。評価結果を第1表に示す。
【0062】
<低温環境下での保存安定性の評価>
ジアルキルスルフィド(1´)20gをバイアル瓶に入れて密封し、これを−5℃の恒温槽内に1か月間静置した。1ヵ月後、恒温槽から取り出し、バイアル瓶内のジアルキルスルフィド(1´)を目視にて観察し、下記基準に従って評価した。評価結果を第1表に合わせて示す。
○:濁りも確認できず、また、硫黄の結晶と思われる硫黄の析出も確認できない。
×:濁りが確認できる、または、硫黄の結晶と思われる硫黄の析出も確認できる。
【0063】
<金属表面への金属硫化物の被膜の形成性の評価方法>
金属表面への金属硫化物の被膜の形成性は金属表面の摩擦係数を測定することにより評価した。具体的には、JIS K2519に準拠し、試験球として直径が1/2インチのSUJ2製の炭素鋼球を使用し、一定値の荷重を加えて3分間試験を実施する。その後、試験球は変更せず、荷重値のみを変更して再度試験を実施する。荷重値は50kgf,63kgf,80kgf,100kgf,126kgf,160kgf,200kgf,250kgfと順に上げて行き、回転中の最大トルク値を観測する。得られたトルク値について、以下の計算式により、摩擦係数を算出する。
摩擦係数=最大トルク値(N・cm)/(1.65x単一球当たりの垂直荷重) (N)
前記計算式で得られる摩擦係数が小さい程、金属硫化物の被膜の形成性が良好であることを示す。
【0064】
<金属表面の腐食性の評価方法>
JIS K2513に準拠した方法で銅板腐食試験を行い、銅板表面の腐食状態を確認した。試験条件は20℃で1時間である。JIS K2513に定める銅板腐食試験の腐食の分類において「変色番号」が高い程、また、同じ変色番号であっても「変色の状態」を示すアルファベットが例えば「a」よりも「b」へと進んでいる程、金属硫化物の被膜の形成性が良好であることを表す。
【0065】
合成例2(同上)
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、1−デセン320gと粉末硫黄36.5gとを仕込んだ。ブチルカルビトール3.8gに溶解させた水酸化カリウム0.07gを触媒として仕込んだ。オートクレーブを密閉した後、反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧し、真空脱気した。その後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)42.5gを圧力6kg/cmで2時間を要して吹き込んだ。更に4時間、温度を120℃に保持した。その後、40℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素を留去し、粗硫化オレフィンを得た。粗硫化オレフィン390gに対し、事前にエチレングリコール66gに溶解した硫化ナトリウム(純度60%)65.8gと水酸化ナトリウム1.76gを加え、80℃に昇温して12時間攪拌した。その後、メタノール75gを加えて攪拌し、洗浄した。洗浄後、下層のメタノール層を分液除去して上記の洗浄と分液作業を更に2回繰り返した。上層部の淡黄色液体を60℃、20Torrで3時間蒸留し、残存するメタノールを除去して、一般式(1)で表される構造を有するジアルキルスルフィド(2´)を得た。ジアルキルスルフィド(2´)を得る際に用いた1−オレフィン(1−デセン)と硫黄とのモル比[1−オレフィン/硫黄]、硫化水素と1−オレフィン(1−デセン)とのモル比[硫化水素/1−オレフィン]、ジアルキルスルフィド(2´)中の総硫黄含有量及び一般式(1)中の種々のnを有する化合物の含有量を第1表に示す。合成例1と同様にしてジアルキルスルフィド(2´)の評価を行った。評価結果を第1表に示す。
【0066】
合成例3(同上)
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、1−デセン400gと粉末硫黄161gと、触媒として炭素原子数16〜22のアルキルアミンの混合物0.4gを仕込んだ。オートクレーブを密閉した後反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧し真空脱気した。その後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)53.4gを圧力6kg/cmで20時間を要して吹き込んだ。更に、175℃に昇温後、12時間保持した。その後、70℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素を留去し、一般式(1)で表される比較対照用ジアルキルスルフィド(3´)を得た。ジアルキルスルフィド(3´)を得る際に用いた1−オレフィン(1−デセン)と硫黄とのモル比[1−オレフィン/硫黄]、硫化水素と1−オレフィン(1−デセン)とのモル比[硫化水素/1−オレフィン]、ジアルキルスルフィド(3´)中の総硫黄含有量及び一般式(1)中の種々のnを有する化合物の含有量を第1表に示す。合成例1と同様にしてジアルキルスルフィド(3´)の評価を行った。評価結果を第1表に合わせて示す。
【0067】
実施例1(ジアルキルスルフィドの合成)
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、1−デセン400gと粉末硫黄141gと触媒として炭素原子数16〜22のアルキルアミンの混合物0.4gを仕込んだ。オートクレーブを密閉した後反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧し真空脱気した。その後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)53.4gを圧力6kg/cmで20時間を要して吹き込んだ。更に、175℃に昇温後、12時間保持した。その後、70℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素を留去し、本発明のジアルキルスルフィド(1)582g(収率97%)を得た。ジアルキルスルフィド(1)を得る際に用いた1−オレフィン(1−デセン)と硫黄とのモル比[1−オレフィン/硫黄]、硫化水素と1−オレフィン(1−デセン)とのモル比[硫化水素/1−オレフィン]、ジアルキルスルフィド(1)中の総硫黄含有量及び一般式(1)中の種々のnを有する化合物の含有量を第1表に示す。合成例1と同様にしてジアルキルスルフィド(1)の評価を行った。評価結果を第1表に合わせて示す。
【0068】
実施例2(同上)
比較対照用ジアルキルスルフィド(1´)50g、比較対照用ジアルキルスルフィド(2´)15g及びジアルキルスルフィド(1)35gをビーカーに入れて30分間攪拌を行い、ジアルキルスルフィド(2)を調製した。ジアルキルスルフィド(1)中の総硫黄含有量及び一般式(1)中の種々のnを有する化合物の含有量を第1表に示す。合成例1と同様にしてジアルキルスルフィド(2)の評価を行った。評価結果を第1表に合わせて示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例3(潤滑流体組成物の調製)
40℃における粘度が11mm/sの鉱物油に、ジアルキルスルフィド(1)を含有率が5質量%となるように混合し、本発明の潤滑流体組成物(1)を得た。尚、ジアルキルスルフィド(1)の評価結果から、本発明の潤滑流体組成物(1)は、金属表面の腐食性に優れ、且つ、金属硫化物の被膜の形成性に優れることは明らかである。
【0071】
実施例4(同上)
ジアルキルスルフィド(1)の代わりにジアルキルスルフィド(2)を用いた以外は実施例3と同様にして潤滑流体組成物(2)を得た。尚、ジアルキルスルフィド(2)の評価結果から、本発明の潤滑流体組成物(2)は、金属表面の腐食性に優れ、且つ、金属硫化物の被膜の形成性に優れることは明らかである。
【0072】
比較例1(比較対照用潤滑流体組成物の調製)
ジアルキルスルフィド(1)の代わりにジアルキルスルフィド(1´)を用いた以外は実施例3と同様にして比較対照用潤滑流体組成物(1´)を得た。実施例3と同様にして金属表面への金属硫化物の被膜の形成性と金属表面の腐食性を評価した。尚、ジアルキルスルフィド(1´)の評価結果から、比較対照用潤滑流体組成物(1´)は、本発明の潤滑流体組成物と比較して金属表面の腐食性と金属硫化物の被膜の形成性に劣ることは明らかである。
【0073】
比較例2(同上)
ジアルキルスルフィド(1)の代わりにジアルキルスルフィド(3´)を用いた以外は実施例3と同様にして比較対照用潤滑流体組成物(2´)を得た。尚、ジアルキルスルフィド(3´)の評価結果から、比較対照用潤滑流体組成物(2´)は、本発明の潤滑流体組成物と比較して金属表面の腐食性と金属硫化物の被膜の形成性に劣ることは明らかである。