特許第6264744号(P6264744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許6264744二次電池正極用バインダー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極の製造方法、二次電池用正極および二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6264744
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】二次電池正極用バインダー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極の製造方法、二次電池用正極および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20180115BHJP
   C08F 218/18 20060101ALI20180115BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   C08F218/18
   C08F220/12
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-94906(P2013-94906)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2013-152955(P2013-152955A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 拓己
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−072510(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029839(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/029805(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/049475(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/002057(WO,A1)
【文献】 特開2012−204244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有する粒子状重合体Aを含み、前記粒子状重合体Aに含有される前記アリル架橋性単量体単位は、分子構造中に、2つの共重合可能な炭素―炭素不飽和結合を有し且つ前記炭素―炭素不飽和結合のうち少なくとも1つがアリル基である、アリル架橋性単量体に由来する、二次電池正極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記粒子状重合体Aが、水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有する、請求項1に記載の二次電池正極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記アリル架橋性単量体単位がジアリル架橋性単量体単位である、請求項1又は2に記載の二次電池正極用バインダー組成物。
【請求項4】
アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である重合体Bを更に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池正極用バインダー組成物。
【請求項5】
正極活物質と、導電材と、粒子状重合体Aと、水とを含み、
前記粒子状重合体Aが、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有し、前記粒子状重合体Aに含有される前記アリル架橋性単量体単位は、分子構造中に、2つの共重合可能な炭素―炭素不飽和結合を有し且つ前記炭素―炭素不飽和結合のうち少なくとも1つがアリル基である、アリル架橋性単量体に由来する、二次電池正極用スラリー組成物。
【請求項6】
前記粒子状重合体Aが、水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有する、請求項5に記載の二次電池正極用スラリー組成物。
【請求項7】
前記アリル架橋性単量体単位がジアリル架橋性単量体単位である、請求項5又は6に記載の二次電池正極用スラリー組成物。
【請求項8】
アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である重合体Bを更に含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の二次電池正極用スラリー組成物。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の二次電池正極用スラリー組成物を、集電体上に塗布する工程と、前記集電体上に塗布された前記二次電池正極用スラリー組成物を乾燥して集電体上に正極合材層を形成する工程とを含む、二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
集電体上に、正極活物質と、導電材と、粒子状重合体Aとを含む正極合材層を有し、
前記粒子状重合体Aが、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有し、前記粒子状重合体Aに含有される前記アリル架橋性単量体単位は、分子構造中に、2つの共重合可能な炭素―炭素不飽和結合を有し且つ前記炭素―炭素不飽和結合のうち少なくとも1つがアリル基である、アリル架橋性単量体に由来する、二次電池用正極。
【請求項11】
前記粒子状重合体Aが、水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有する、請求項10に記載の二次電池用正極。
【請求項12】
前記アリル架橋性単量体単位がジアリル架橋性単量体単位である、請求項10又は11に記載の二次電池用正極。
【請求項13】
前記正極合材層中に、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である重合体Bを更に含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の二次電池用正極。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の二次電池用正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備える、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池正極用バインダー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極の製造方法、二次電池用正極および二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。
【0003】
ここで、二次電池の電極(正極及び負極)などの電池部材は、これらの電池部材に含まれる成分同士、又は、該成分と基材(例えば、集電体)とをバインダーで結着して形成されている。具体的には、例えば二次電池の正極は、通常、集電体と、集電体上に形成された正極合材層(「正極活物質層」と称されることもある)とを備えている。そして、正極合材層は、例えば、正極活物質およびバインダーなどを分散媒に分散させてなる正極用スラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成されている。更に、正極の形成に用いられる正極用スラリー組成物は、粒子状重合体などのバインダーを含むバインダー組成物と、正極活物質などとを混合して調製されている。
【0004】
また、近年、二次電池用の正極の製造においては、環境負荷低減などの観点から、分散媒として水系媒体を用いた水系スラリー組成物を使用することへの関心が高まっている。そして、そのような二次電池の製造に用いるバインダー組成物としては、界面活性剤の存在下でブチルアクリレート等のモノマーを乳化重合させてなるアクリル系重合体ラテックス(粒子状重合体の水分散液)などが用いられている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−195310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のバインダー組成物では、結着力が十分ではなく、また該バインダー組成物を用いて得られる二次電池の電気的特性も十分なものではなかった。これに対し、上記結着力および電気的特性向上のため、バインダー組成物に含まれる粒子状重合体の重合に、エチレングリコールジメタクリレートなどの炭素―炭素二重結合を少なくとも二つ有する架橋性単量体を用いることが考えられる。このように、架橋性単量体を使用し、粒子状重合体中に架橋構造を導入すれば、結着力を向上させることができる。また、分子鎖同士の架橋により低分子量のオリゴマー等の数を減少させれば、バインダー組成物を用いて製造した二次電池において、電解液中への低分子量成分の溶出を抑制して、高温サイクル特性を向上させることができる。
【0007】
しかし、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋性単量体を用いても、十分な結着力や高温サイクル特性が得られない場合があった。さらに、上述した架橋性単量体を用いて架橋構造を導入した粒子状重合体は、電解液に対する膨潤度が低く、電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の伝導度が大きく低下するため、当該粒子状重合体を用いた二次電池では、出力特性を十分に確保することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、結着力に優れ、かつ二次電池用正極の形成に用いた際に、二次電池の高温サイクル特性を確保しつつ、出力特性を優れたものとすることができる二次電池正極用バインダー組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性を優れたものとすることができる正極を形成可能な二次電池正極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
そして、本発明は、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性とを優れたものとすることができる二次電池用正極の製造方法および二次電池用正極を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、高温サイクル特性と出力特性とに優れる二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、粒子状重合体の重合時に架橋性単量体としてアリル架橋性単量体を使用し、粒子状重合体にアリル架橋性単量体単位を含有させると共に、該粒子状重合体中のアリル架橋性単量体単位と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合をそれぞれ特定の範囲内とすることで、バインダー組成物の結着力を優れたものとし、さらに該バインダー組成物を正極の形成に用いた二次電池が、高温サイクル特性を確保しつつ、出力特性を優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有する粒子状重合体Aを含むことを特徴とする。このように、架橋性単量体としてアリル架橋性単量体を使用し、かつ、アリル架橋性単量体単位と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とをそれぞれ特定の含有割合で含有する粒子状重合体Aを含むバインダー組成物は、結着力に優れ、二次電池用正極の形成に用いた際に、集電体と正極合材層との密着強度を確保でき、さらに二次電池の高温サイクル特性を確保しつつ、出力特性を優れたものとすることができる。
【0011】
ここで、本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、前記粒子状重合体Aが、水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有することが好ましい。粒子状重合体Aが水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有すれば、バインダー組成物の保存安定性を向上することができるからである。
【0012】
また、本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、前記アリル架橋性単量体単位が、ジアリル架橋性単量体単位であることが好ましい。アリル架橋性単量体単位がジアリル架橋性単量体単位であれば、バインダー組成物の結着力と、該バインダー組成物を正極の形成に用いた二次電池の出力特性を十分に優れたものとすることができるからである。
【0013】
さらに、本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である重合体Bを更に含むことが好ましい。バインダー組成物が上記重合体Bを含めば、該バインダー組成物を二次電池の正極の形成に用いた際に、集電体と正極合材層との密着強度等の諸特性を十分に優れたものとすることができるからである。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池正極用スラリー組成物は、正極活物質と、導電材と、粒子状重合体Aと、水とを含み、前記粒子状重合体Aが、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有することを特徴とする。このように、アリル架橋性単量体単位と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とをそれぞれ特定の含有割合で含有する粒子状重合体Aを含むスラリー組成物は、二次電池用正極の形成に用いた際に、集電体と正極合材層との密着強度を確保でき、さらに二次電池の高温サイクル特性を確保しつつ、出力特性を優れたものとすることができる。
【0015】
ここで、本発明の二次電池正極用スラリー組成物は、前記粒子状重合体Aが、水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有することが好ましい。粒子状重合体Aが水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有すれば、スラリー組成物の保存安定性を向上することができるからである。
【0016】
また、本発明の二次電池正極用スラリー組成物は、前記アリル架橋性単量体単位が、ジアリル架橋性単量体単位であることが好ましい。アリル架橋性単量体単位がジアリル架橋性単量体単位であれば、スラリー組成物を用いて形成した正極の集電体と正極合材層の密着強度を十分に優れたものとし、加えて該スラリー組成物を正極の形成に用いた二次電池の出力特性を十分に優れたものとすることができるからである。
【0017】
さらに、本発明の二次電池正極用スラリー組成物は、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である重合体Bを更に含むことが好ましい。スラリー組成物が、上記重合体Bを含めば、該スラリー組成物を二次電池の正極の形成に用いた際に、集電体と正極合材層との密着強度等の諸特性を十分に優れたものとすることができるからである。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池用正極の製造方法は、上述した二次電池正極用スラリー組成物のいずれかを集電体上に塗布する工程と、前記集電体上に塗布された前記二次電池正極用スラリー組成物を乾燥して集電体上に正極合材層を形成する工程とを含むことを特徴とする。このように、上述した二次電池正極用スラリー組成物を用いて正極合材層を形成すれば、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性とを優れたものとすることができる二次電池用正極が得られる。
【0019】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池用正極は、集電体上に、正極活物質と、導電材と、粒子状重合体Aとを含む正極合材層を有し、前記粒子状重合体Aが、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有することを特徴とする。このような正極は、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ該正極を備える二次電池の高温サイクル特性と出力特性とを優れたものとすることができる。
【0020】
ここで、本発明の二次電池用正極は、前記粒子状重合体Aが、水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有することが好ましい。粒子状重合体Aが水酸基含有ビニル単量体単位を0.1質量%以上5質量%以下含有すれば、粒子状重合体Aの保存安定性を高めて、集電体と正極合材層との密着強度や、該正極を備える二次電池の高温サイクル特性を向上することができるからである。
【0021】
また、本発明の二次電池用正極は、前記アリル架橋性単量体単位が、ジアリル架橋性単量体単位であることが好ましい。アリル架橋性単量体単位がジアリル架橋性単量体単位であれば、集電体と正極合材層との密着強度を十分に優れたものとし、加えて該正極を備える二次電池の出力特性を十分に優れたものとすることができるからである。
【0022】
さらに、本発明の二次電池用正極は、その正極合材層中に、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である重合体Bを更に含むことが好ましい。正極合材層中に重合体Bを含めば、集電体と正極合材層との密着強度等の二次電池の諸特性を十分に優れたものとし、二次電池に適した正極とすることができるからである。
【0023】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の二次電池は、上述のいずれかの二次電池用正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備えることを特徴とする。このように、上述した二次電池用正極を備える二次電池は、高温サイクル特性、および出力特性に優れる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、結着力に優れ、かつ二次電池用正極の形成に用いた際に、二次電池の高温サイクル特性を確保しつつ、出力特性を優れたものとすることができる二次電池正極用バインダー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性を優れたものとすることができる正極を形成可能な二次電池正極用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性とを優れたものとすることができる二次電池用正極の製造方法および二次電池用正極を提供することができる。
さらに、本発明によれば、高温サイクル特性と出力特性とに優れる二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池正極用バインダー組成物および二次電池正極用スラリー組成物は、二次電池の正極を形成する際に用いられる。そして、本発明の二次電池用正極の製造方法は、本発明の二次電池正極用スラリー組成物を用いて二次電池の正極を製造するものである。
さらに、本発明の二次電池用正極は、本発明の二次電池正極用バインダー組成物や二次電池正極用スラリー組成物を用いて製造し得るものであり、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用正極を備えることを特徴とする。
【0026】
(二次電池正極用バインダー組成物)
本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、水を分散媒とした水系バインダー組成物であり、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有する粒子状重合体Aを含む。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。そして、本明細書において「単量体単位を含有する」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
【0027】
<粒子状重合体A>
粒子状重合体Aは、本発明のバインダー組成物を用いて集電体上に正極合材層を形成することにより製造した正極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持しうる成分である。一般的に、正極合材層における粒子状重合体は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも粒状の形状を維持し、正極活物質同士を結着させ、正極活物質が集電体から脱落するのを防ぐ。
【0028】
そして、本発明のバインダー組成物に含まれる粒子状重合体Aは、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有することが必要である。なお、粒子状重合体Aは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
以下、粒子状重合体Aを製造するために必須であるアリル架橋性単量体および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、並びに、粒子状重合体Aの製造に使用し得るその他の任意の単量体について詳述する。
【0029】
[アリル架橋性単量体]
本明細書においてアリル架橋性単量体とは、その分子構造中に、少なくとも2つの、炭素―炭素不飽和結合を有する基等の共重合可能な基を有し、該共重合可能な基のうち少なくとも1つがアリル基である単量体をいう。
ここで、アリル架橋性単量体は、アリル架橋性単量体を使用して調製した粒子状重合体A中に架橋構造を導入し、結着力を向上させる。また、アリル架橋性単量体を介した分子鎖同士の架橋により低分子量のオリゴマー等の数を減少させ、その結果、バインダー組成物を用いて製造した二次電池において、電解液中への低分子量成分の溶出を抑制して、高温サイクル特性を向上させる。なお、架橋性単量体として所定量のアリル架橋性単量体を使用した場合、原因は明らかではないが、エチレングリコールジメタクリレート等の他の架橋性単量体を使用した場合とは異なり、粒子状重合体Aの電解液に対する膨潤度を適度な大きさとして、電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の伝導度を確保し、当該粒子状重合体Aを用いた二次電池の出力特性を十分に確保することができる。
【0030】
そして、粒子状重合体Aの製造に使用可能な、アリル架橋性単量体としては、例えば1〜3つのアリル基を有する架橋性単量体、即ちモノアリル架橋性単量体、ジアリル架橋性単量体、トリアリル架橋性単量体が挙げられる。
モノアリル架橋性単量体としては、(メタ)アクリル酸アリルなどが挙げられる。
ジアリル架橋性単量体としては、オルソフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、イソシアヌル酸ジアリル、グリセリンのジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのジアリルエーテル、ペンタエリスリトールのジアリルエーテルなどが挙げられる。
トリアリル架橋性単量体としては、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリアリルオキシエチレン、ペンタエリスリトールのトリアリルエーテルなどが挙げられる。
これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0031】
これらの中でも、アリル架橋性単量体としては、その分子構造中に、2つの共重合可能な炭素―炭素不飽和結合を有し、該炭素―炭素不飽和結合のうち少なくとも1つがアリル基である単量体が好ましい。アリル架橋単量体が、炭素―炭素不飽和結合を3つ以上有すると、粒子状重合体Aの製造の際に、架橋が過剰に進行し、正極がもろくなる虞があるからである。
また、バインダー組成物の結着力と、該バインダー組成物を正極の形成に用いた二次電池の出力特性を向上する観点からは、粒子状重合体Aの含有するアリル架橋性単量体単位は、ジアリル架橋性単量体由来のものである(即ち、ジアリル架橋性単量体単位である)ことが好ましい。更に、二次電池の出力特性の観点からは、粒子状重合体Aの含有するジアリル架橋性単量体単位は、オルソフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル由来の単位であることがより好ましく、オルソフタル酸ジアリル由来の単位であることが特に好ましい。これは、アリル架橋性単量体単位が、フタル酸ジアリルの構造異性体(特にはオルソフタル酸ジアリル)由来の単位であることで、粒子状重合体Aにおいて、分子鎖が架橋される2点間の距離が好適なものとなり、二次電池の電解液中において、電荷担体の移動がより妨げられ難くなるからであると推定される。
【0032】
粒子状重合体Aにおける、アリル架橋性単量体単位の含有割合は、5質量%以上とする必要があり、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、40質量%以下とする必要があり、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。粒子状重合体Aにおけるアリル架橋性単量体単位の含有割合が10質量%未満であると、粒子状重合体Aの製造の際に架橋が十分に進行せず、電解液中において粒子状重合体Aが過度に膨潤する。そして、その結果、高温サイクル特性が悪化する。一方、粒子状重合体Aにおけるアリル架橋性単量体単位の含有割合が40質量%超であると、架橋が過度に進行し、粒子状重合体Aの柔軟性が低下して、正極が脆くなる。
【0033】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体]
そして、粒子状重合体Aは、上述のように(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含む。粒子状重合体Aが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を所定量含有することで、結着力を高めつつ、粒子状重合体Aの柔軟性が低下して正極が脆くなるのを抑制することができる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体には、水酸基(−OH)を含有するものは含まれない。
ここで、粒子状重合体Aの製造に使用可能な(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。これらの中でも、正極の柔軟性および集電体と正極合材層との密着強度を両立する観点から、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が14以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましく、n−ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0034】
粒子状重合体Aにおける、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合は、50質量%以上とする必要があり、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、95質量%以下とする必要があり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。粒子状重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合が50質量%未満であると、正極の柔軟性が低下し、クラックが入る虞がある。一方、粒子状重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合が95質量%超であると、粒子状重合体Aのバインダーとしての機械的強度が低下し、結着力が低下する。
【0035】
[水酸基含有ビニル単量体]
粒子状重合体Aは水酸基含有ビニル単量体単位を含んでいてもよい。粒子状重合体Aの製造に使用可能な水酸基含有ビニル単量体としては、2価以上のアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アリルアルコール、2価以上のアルコールの(メタ)アリルエーテルなどが好ましい。
なお、本明細書において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。また、本明細書において、水酸基含有ビニル単量体には、上述のアリル架橋性単量体に該当するものは含まれない。
【0036】
2価以上のアルコールの(メタ)アクリル酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセリンのアクリル酸もしくはメタクリル酸モノもしくはジエステル、トリメチロールプロパンのアクリル酸もしくはメタクリル酸モノもしくはジエステル及びペンタエリスリトールのアクリル酸もしくはメタクリル酸モノ、ジもしくはトリエステルなどが挙げられる。
2価以上のアルコールの(メタ)アリルエーテルとしては、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−ヒドロキシエチルメタリルエーテル、2−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、2−ヒドロキシプロピルメタリルエーテル、3−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、3−ヒドロキシプロピルメタリルエーテル、2−ヒドロキシブチルアリルエーテル、2−ヒドロキシブチルメタリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルメタリルエーテル、グリセリンのモノアリルエーテルまたはモノもしくはジメタリルエーテル、トリメチロールプロパンのモノアリルエーテルまたはモノもしくはジメタリルエーテル、ペンタエリスリトールのモノアリルエーテルまたはモノ、ジもしくはトリメタリルエーテルなどが挙げられる。これらは1種類を単独で使用しても、2種類以上組み合わせても用いてもよい。
【0037】
これらの中でも、粒子状重合体Aの保存安定性の観点から、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートがより好ましく、2−ヒドロキシエチルアクリレートが特に好ましい。
【0038】
粒子状重合体Aにおける、水酸基含有ビニル単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。粒子状重合体Aにおける水酸基含有ビニル単量体単位の含有割合が0.1質量%以上であることで、粒子状重合体Aの保存安定性を確保することができ、1質量%以上であることで、バインダー組成物を用いて形成される正極の集電体と正極合材層との密着強度を優れたものとし、かつ、該正極を備える二次電池の高温サイクル特性を優れたものとすることができる。一方、粒子状重合体Aにおける水酸基含有ビニル単量体単位の含有割合が5質量%以下であることで、粒子状重合体Aの良好な生産性を確保することができる。
【0039】
[酸性基含有単量体]
粒子状重合体Aは、酸性基含有単量体単位を含有することが好ましい。ここで、酸性基としては、例えば、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SOH)、リン酸基(−PO)などが挙げられる。ただし、酸性基含有単量体が有する酸性基は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。また、酸性基を含有する単量体が有する酸性基の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。
【0040】
カルボン酸基を含有する単量体としては、通常、カルボン酸基及び重合可能な基を有する単量体を用いる。カルボン酸基を含有する単量体の例としては、不飽和カルボン酸単量体を挙げることができる。不飽和カルボン酸単量体は、炭素−炭素不飽和結合を有し、且つ、カルボン酸基を有する単量体である。
不飽和カルボン酸単量体の例としては、不飽和モノカルボン酸及びその誘導体;不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物;などが挙げられる。
不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸等の、エチレン性不飽和モノカルボン酸が挙げられる。
不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、及びβ−ジアミノアクリル酸等の、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体が挙げられる。
不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸等の、エチレン性不飽和ジカルボン酸が挙げられる。
不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸等の、エチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物が挙げられる。
【0041】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0042】
リン酸基を有する単量体としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
【0043】
これらの中でも、酸性基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、リン酸2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルが好ましい。さらには、粒子状重合体Aの保存安定性を高くできるという観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
粒子状重合体Aにおける、酸性基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは4質量%以下である。粒子状重合体Aにおける酸性基含有単量体単位の含有割合が0.5質量%以上であることで、結着力を高め、二次電池の高温サイクル特性を良好なものとすることができ、10質量%以下とすることにより、粒子状重合体Aの製造安定性および保存安定性を確保することができる。
【0045】
[α,β−不飽和ニトリル単量体]
粒子状重合体Aは、α,β−不飽和ニトリル単量体単位を含有することが好ましい。α,β−不飽和ニトリル単量体としては、粒子状重合体Aの機械的強度および結着力向上のため、例えばアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
粒子状重合体Aにおける、α,β−不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、好ましくは0質量%超、より好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。粒子状重合体Aにおけるα,β−不飽和ニトリル単量体単位を含有させることにより、バインダーとしての結着力を高め、正極活物質と集電体または正極活物質同士の密着強度を高めることができ、30質量%以下とすることにより、粒子状重合体Aの柔軟性を高くし、スラリー組成物を用いて得た正極を割れ難くできる。
【0047】
[その他の単量体]
さらに、粒子状重合体Aは、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述したもの以外に任意の単量体を含んでいてもよい。これらの任意の単量体は、上述した単量体と共重合可能な単量体である。上述した単量体と共重合可能な単量体の例を挙げると、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのアミド系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、任意の単量体としては、共重合可能な基としてアリル基1つのみを有する単量体を用いてもよく、そのような単量体としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル、マレイン酸モノアリル、フマル酸モノアリル、イタコン酸モノアリルなどが挙げられる。
【0049】
[粒子状重合体Aの調製]
そして、粒子状重合体Aは、上述した単量体を含む単量体組成物を重合することにより製造される。ここで、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の粒子状重合体Aにおける単量体単位の含有割合と同様にする。
粒子状重合体Aの製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。これらの中でも、乳化剤を用いた乳化重合法が好ましい。なお、乳化重合法を用いて粒子状重合体Aを製造する場合には、重合に使用する界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン誘導体などが挙げられ、アニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルケニルエーテルサルフェートナトリウム塩などのエトキシサルフェート塩などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルケニルエーテルサルフェートナトリウム塩が好ましい。このような界面活性剤を使用することで、得られる粒子状重合体Aを含むスラリー組成物を、集電体上により平滑に塗布することができ、加えて圧延処理時に滑り性を向上させるために用いられた油分等が付着したアルミ箔等の集電体にも良好に塗布が可能となる。
【0050】
そして、粒子状重合体Aの重合において、上記乳化剤の添加量は、重合系における仕込み単量体(単量体組成物)100質量部当たり、0.1〜2質量部が好ましい。乳化剤の添加量が仕込み単量体100質量部当たり0.1質量部以上であることで、重合が安定し、2質量部以下であることで、粒子状重合体Aを含むバインダー組成物やスラリー組成物の泡立ちに伴う正極の欠陥(例えば、ピンホール)を防ぐことができる。そして、乳化剤の量を上記の範囲とすることで、該粒子状重合体Aを含むスラリー組成物を、集電体上により平滑に塗布することができる。
【0051】
また、重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。また、重合開始剤としては、既知の重合開始剤、例えば、特開2012−184201号公報に記載のものを用いることができる、重合の際の粒子状重合体Aの重合率は、95%以上が好ましい。粒子状重合体Aの「重合率」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて求めることができる。
【0052】
[粒子状重合体Aの性状]
通常、粒子状重合体Aは、非水溶性である。したがって、通常、粒子状重合体Aは、水系の二次電池正極用バインダー組成物、および当該粒子状重合体Aを含む二次電池正極用スラリー組成物において粒子状となっており、その粒子形状を維持したまま二次電池用正極に含まれる。ここで、粒子状重合体が「非水溶性」であるとは、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
粒子状重合体Aの体積平均粒子径は、好ましくは10〜500nm、より好ましくは30〜400nm、特に好ましくは50〜300nmである。バインダー組成物に含有される粒子状重合体Aの体積平均粒子径が、上記範囲であることにより、貯蔵安定性が向上し、結着力を優れたものとすることができる。ここで、「体積平均粒子径」は、光散乱粒子径測定器を用いて測定したものであり、本明細書の実施例に記載の方法を用いて求めることができる。粒子の形状は、球形及び異形のどちらでもかまわない。
【0053】
粒子状重合体Aのゲル分率は、特に限定されないが、好ましくは70〜100質量%である。粒子状重合体Aのゲル分率が70質量%以上であることで、粒子状重合体Aの電解液への溶出による、二次電池の高温サイクル特性の低下を防止することができる。
なお、本発明において、粒子状重合体Aの「ゲル分率」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0054】
粒子状重合体Aのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−45℃以上、特に好ましくは−40℃以上であり、好ましくは25℃以下、より好ましくは15℃以下、特に好ましくは5℃以下である。粒子状重合体Aのガラス転移温度を前記の範囲に収めることにより、バインダー組成物を用いて製造した正極の強度および柔軟性を向上させて、高い出力特性を実現できる。
【0055】
なお、粒子状重合体Aのガラス転移温度およびゲル分率は、粒子状重合体Aの製造条件(例えば、使用する単量体、重合条件など)を変更することにより適宜調整することができる。
ガラス転移温度は、使用する単量体の種類および量を変更することにより調整することができ、例えば、スチレン、アクリロニトリルなどの単量体を使用するとガラス転移温度を高めることができ、ブチルアクリレート、ブタジエンなどの単量体を使用するとガラス転移温度を低下させることができる。
また、ゲル分率は、重合温度、重合開始剤の種類、分子量調整剤の種類、量、反応停止時の転化率などを変更することにより調整することができ、例えば、連鎖移動剤を少なくするとゲル分率を高めることができ、連鎖移動剤を多くするとゲル分率を低下させることができる。
【0056】
<重合体B>
また、本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である(または、アリル架橋性単量体単位を実質的に含まない)重合体Bを更に含むことが好ましい。このような重合体Bを含むことで、特にバインダー組成物としての結着力や、該バインダー組成物を二次電池の正極に使用した際の諸特性を向上させることができる。このような重合体Bとしては、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満であれば特に限定されず、水中において非粒子形状の重合体(非粒子状重合体)であっても、粒子状重合体であってもよい。なお、本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、重合体Bとして、非粒子状重合体と粒子状重合体との双方を含んでいてもよい。
アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満の非粒子状重合体(非粒子状重合体B)としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリル酸単量体単位を含有する共重合体、またはそれらの塩などの、水溶性高分子が挙げられる。ここで、高分子が「水溶性」であるとは、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満となることをいう。
アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満の粒子状重合体(粒子状重合体B)としては、例えば、スチレン―ブタジエン共重合体などのジエン重合体、アクリル重合体、シリコン重合体、特許第5077613号公報に記載される、含フッ素エチレン系単量体に由来する繰り返し単位と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位とを有する含フッ素系重合体粒子などの重合体が挙げられ、また、アリル架橋性単量体単位の含有割合を5質量%未満とした以外は粒子状重合体Aと同様の単量体を用いて製造可能な粒子状重合体Bも含まれる。
【0057】
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含み、更にα,β−不飽和ニトリル単量体単位および酸性基含有単量体単位の少なくとも一方を含む粒子状重合体Bが好ましく、α,β−不飽和ニトリル単量体単位および酸性基含有単量体単位の双方を含む粒子状重合体Bが特に好ましい。バインダー組成物が、このような単量体単位を含有する粒子状重合体Bを更に含むことで、該バインダー組成物を二次電池の正極に用いた際に、集電体と正極合材層との密着強度、高温サイクル特性、出力特性を優れたものとすることができる。
【0058】
なお、粒子状重合体Bは、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5%未満であれば、アリル架橋性単量体単位を含有してもよいし、アリル架橋性単量体単位を含有していなくてもよい。加えて、粒子状重合体Aの項において記載した水酸基含有ビニル単量体単位やその他の単量体単位を含有していてもよい。
【0059】
また、本発明の二次電池正極用バインダー組成物が、粒子状重合体Bを含む場合、粒子状重合体Aと粒子状重合体Bとの質量の合計中、粒子状重合体Bの質量が占める割合は、50質量%以下であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、7〜15質量%であることが特に好ましい。該割合を上記の範囲とすることで、バインダー組成物を二次電池の正極に用いた際に、集電体と正極合材層との密着強度を確保しつつ、高温サイクル特性、出力特性を優れたものとすることができる。
【0060】
そして、本発明の二次電池正極用バインダー組成物が、非粒子状重合体Bを含む場合は、粒子状重合体Aと非粒子状重合体Bとの質量の合計中、非粒子状重合体Bの質量が占める割合は、75質量%以下であることが好ましく、0.5〜60質量%であることがより好ましく、1〜50質量%であることが特に好ましい。該割合が上記の範囲であることで、非粒子状重合体Bを添加する効果を十分に得ることができる。
【0061】
<バインダー組成物の調製>
単量体組成物を重合して得た粒子状重合体Aの水分散液をそのままバインダー組成物とすることができる。
また、粒子状重合体Bを含有させる場合には、単量体組成物を重合して得た粒子状重合体Aの水分散液と、単量体組成物を重合して得た粒子状重合体Bの水分散液とを混合してバインダー組成物とすることができる。
更に、非粒子状重合体Bを含有させる場合には、単量体組成物を重合して得た粒子状重合体Aの水分散液と、非粒子状重合体Bの水溶液とを混合してバインダー組成物とすることができる。なお、本発明の二次電池正極用バインダー組成物は、発明の効果を損ねない範囲で任意のその他の成分を含んでも良い。
【0062】
(二次電池正極用スラリー組成物)
本発明の二次電池正極用スラリー組成物は、正極活物質と、導電材と、粒子状重合体Aと、水とを含み、前記粒子状重合体Aが、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有する。そして、本発明の二次電池正極用スラリー組成物によれば、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ二次電池の高温サイクル特性と出力特性を優れたものとすることができる正極を形成することができる。
ここで、本発明の二次電池正極用スラリー組成物中に含まれる粒子状重合体Aは、本発明のバインダー組成物中に含まれていたものと同じであり、粒子状重合体Aの好適な構成は、本発明のバインダー組成物における粒子状重合体Aの好適な構成と同じである。また、本発明の二次電池正極用スラリー組成物は、上述したバインダー組成物中に含まれ得る重合体Bを含有していても良い。
【0063】
<正極活物質>
本発明の二次電池正極用スラリー組成物に配合する正極活物質としては、特に限定されることなく、既知の正極活物質を用いることができる。以下、リチウムイオン二次電池の正極おいて使用する正極活物質を例に挙げて説明する。
具体的には、正極活物質としては、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
【0064】
ここで、遷移金属酸化物としては、例えばMnO、MnO、V、V13、TiO、Cu、非晶質VO−P、非晶質MoO、非晶質V、非晶質V13等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、TiS、TiS、非晶質MoS、FeSなどが挙げられる。
リチウムと遷移金属との複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0065】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O)、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、LiMaOとLiMbOとの固溶体などが挙げられる。なお、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物としては、Li[Ni0.5Co0.2Mn0.3]O、Li[Ni1/3Co1/3Mn1/3]Oなどが挙げられる。また、LiMaOとLiMbOとの固溶体としては、例えば、xLiMaO・(1−x)LiMbOなどが挙げられる。ここで、xは0<x<1を満たす数を表し、Maは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、Mbは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。このような固溶体としては、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]Oなどが挙げられる。
なお、本明細書において、「平均酸化状態」とは、前記「1種類以上の遷移金属」の平均の酸化状態を示し、遷移金属のモル量と原子価とから算出される。例えば、「1種類以上の遷移金属」が、50mol%のNi2+と50mol%のMn4+から構成される場合には、「1種類以上の遷移金属」の平均酸化状態は、(0.5)×(2+)+(0.5)×(4+)=3+となる。
【0066】
スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn)や、マンガン酸リチウム(LiMn)のMnの一部を他の遷移金属で置換した化合物が挙げられる。具体例としては、LiNi0.5Mn1.5などのLi[Mn2−tMc]Oが挙げられる。ここで、Mcは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。Mcの具体例としては、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等が挙げられる。また、tは0<t<1を満たす数を表し、sは0≦s≦1を満たす数を表す。なお、正極活物質としては、Li1+xMn2−x(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物なども用いることができる。
【0067】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)などのLiMdPOで表されるオリビン型リン酸リチウム化合物が挙げられる。ここで、Mdは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、例えばMn、Fe、Co等が挙げられる。また、yは0≦y≦2を満たす数を表す。さらに、LiMdPOで表されるオリビン型リン酸リチウム化合物は、Mdが他の金属で一部置換されていてもよい。置換しうる金属としては、例えば、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、BおよびMoなどが挙げられる。
【0068】
これらの中でも、リチウムイオン二次電池の高容量化の観点からは、LiMn、LiNiO、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O、LiNi0.5Mn1.5などを正極活物質として用いることが好ましく、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O)、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O、リチウム過剰のスピネル化合物を正極活物質として用いることがより好ましい。加えて、リチウムイオン二次電池の出力特性および高温サイクル特性の観点から、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O)が特に好ましい。
【0069】
ここで、正極活物質の配合量や粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0070】
<導電材>
導電材は、正極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、特に限定されることなく、既知の導電材を用いることができる。具体的には、導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンブラック、グラファイト等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。これらの中でも、正極活物質同士の電気的接触を向上させ、スラリー組成物を用いて形成した正極を使用した二次電池の電気的特性を向上させる観点からは、導電材として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンブラック、グラファイトを用いることが好ましく、アセチレンブラックを用いることが特に好ましい。
【0071】
なお、導電材の配合量は、正極活物質100質量部当たり、通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。導電材の配合量が少なすぎると、正極活物質同士の電気的接触を十分に確保することができず、二次電池の電気的特性を十分に確保することができない。一方、導電材の配合量が多すぎると、スラリー組成物の安定性が低下すると共に正極中の正極合材層の密度が低下し、二次電池を十分に高容量化することができない。
【0072】
<粒子状重合体A>
粒子状重合体Aは、本発明のバインダー組成物中に含まれていたものと同じものである。
また、本発明の二次電池正極用スラリー組成物中、粒子状重合体Aの配合量は、正極活物質100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。粒子状重合体Aの配合量が正極活物質100質量部当たり0.1質量部以上であることで、正極活物質同士、そして、正極活物質の集電体への結着性が良好なものとなり、高温サイクル特性、出力特性を良好なものとすることができ、10質量部以下であることで、電荷担体の移動を過度に抑制することなく、出力特性を良好なものとすることができる。
【0073】
<重合体B>
スラリー組成物に含まれ得る重合体Bは、本発明のバインダー組成物中に含まれ得るものと同じもの(非粒子状重合体Bおよび/または粒子状重合体B)である。
そして、本発明の二次電池正極用スラリー組成物が、非粒子状重合体Bを含む場合、非粒子状重合体Bの配合量は、正極活物質100質量部当たり、好ましくは、0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。非粒子状重合体Bの配合量が上記の範囲であることで、非粒子状重合体Bを添加する効果を十分に得ることができる。
【0074】
さらに、本発明の二次電池正極用スラリー組成物が、粒子状重合体Bを含む場合、粒子状重合体Bの配合量は、正極活物質100質量部当たり、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.07質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、特に好ましくは1.5質量部以下である。粒子状重合体Bの配合量が上記の範囲であることで、該スラリー組成物を用いて形成される正極における、集電体と正極合材層との密着強度を良好なものとすることができる。
【0075】
くわえて、本発明の二次電池正極用スラリー組成物が、粒子状重合体Bを含む場合、粒子状重合体Aの配合量と粒子状重合体Bの配合量との合計は、正極活物質100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。粒子状重合体Aの配合量と粒子状重合体Bの配合量との合計を上記の範囲に収めることで、該スラリー組成物を用いて形成される正極における、集電体と正極合材層との密着強度を良好なものとすることができる。
【0076】
なお、本発明の二次電池正極用スラリー組成物中、粒子状重合体Aと粒子状重合体Bとの質量の合計中、粒子状重合体Bの質量が占める割合は、本発明の二次電池正極用バインダー組成物の項で記載したものと同様の理由で、50質量%以下であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、7〜15質量%であることが特に好ましい。
【0077】
<その他の成分>
本発明のスラリー組成物は、上記成分の他に、例えば、濡れ剤、補強材、酸化防止剤、電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を含有していてもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができ、例えば国際公開第2012/036260号に記載のものや、特開2012−204303号公報に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、本発明の二次電池正極用バインダー組成物が、これらのその他の成分を含有してもよい。
【0078】
<二次電池正極用スラリー組成物の調製>
本発明の二次電池正極用スラリー組成物は、例えば、本発明の二次電池正極用バインダー組成物を調製した後、該バインダー組成物と正極活物質と導電材とを分散媒としての水中に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と水とを混合することにより、二次電池正極用スラリー組成物を調製することが好ましい。なお、スラリー組成物に重合体Bを含める場合、重合体Bは、バインダー組成物中にその一部または全部を含有させることによりスラリー組成物に配合しても良いし、バインダー組成物中に配合することなく、正極活物質や導電材などと共にバインダー組成物と混合することにより、スラリー組成物に配合してもよい。
【0079】
(二次電池用正極の製造方法)
本発明の二次電池用正極の製造方法は、上述した二次電池正極用スラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布された二次電池正極用スラリー組成物を乾燥して集電体上に正極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを含むことを特徴とする。
【0080】
<塗布工程>
上記二次電池正極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる正極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0081】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる集電体を用い得る。この際、アルミニウムとアルミニウム合金とを組み合わせて用いてもよく、種類が異なるアルミニウム合金を組み合わせて用いてもよい。アルミニウムおよびアルミニウム合金は耐熱性を有し、電気化学的に安定であるため、優れた集電体材料である。
【0082】
<乾燥工程>
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に正極合材層を形成し、集電体と正極合材層とを備える二次電池用正極を得ることができる。
【0083】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、正極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、集電体と正極合材層との密着強度を向上させることができる。
【0084】
正極合材層の厚みは、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは250μm以下である。正極合材層の厚みが前記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0085】
(二次電池用正極)
本発明の二次電池用正極は、例えば上述の二次電池用正極の製造方法により製造され得るものであり、集電体上に、正極活物質と、導電材と、粒子状重合体Aとを含む正極合材層を有し、前記粒子状重合体Aが、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有する。そして、本発明の二次電池用正極によれば、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性とを優れたものとすることができる二次電池用正極を提供することができる
ここで、本発明の二次電池用正極中に含まれている正極活物質、導電材、粒子状重合体Aは、本発明のスラリー組成物中に含まれているものと同様であり、それら各成分の好適な構成、及び、存在比は、本発明のスラリー組成物中の各成分における好適な構成、存在比と同じである。また、本発明の二次電池用正極は、本発明のスラリー組成物中に含まれ得る重合体Bを含んでいてもよく、重合体Bの好適な構成、及び、存在比は、本発明のスラリー組成物中の各成分における好適な構成、存在比と同じである。
【0086】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極として、本発明の二次電池用正極を用いたものである。
以下、リチウムイオン二次電池の場合を例に挙げて本発明の二次電池について説明する。
【0087】
<負極>
リチウムイオン二次電池の負極としては、リチウムイオン二次電池用負極として用いられる既知の負極を用いることができる。具体的には、負極としては、例えば、金属リチウムの薄板よりなる負極や、負極合材層を集電体上に形成してなる負極を用いることができる。
なお、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができるが、これらの中でもアルミニウムからなるものが好ましい。また、負極合材層としては、負極活物質とバインダーとを含む層を用いることができる。
【0088】
負極合材層に用いられるバインダーとしては、本発明を著しく損なわない限り、既知のあらゆるバインダーを使用することができる。そのようなバインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体等の重合体;アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体などを用いてもよい。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0089】
また、負極合材層には、必要に応じて、負極活物質及びバインダー以外の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、本発明の二次電池用正極の正極合材層に含まれていてもよい任意の成分などが挙げられる。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0090】
負極の厚みは、集電体と負極合材層との合計で、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは250μm以下である。負極の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度の両方を良好にできる。
【0091】
負極は、例えば、本発明の二次電池用正極と同様に、負極活物質、バインダー及び水を含む負極用のスラリー組成物を用意し、そのスラリー組成物の層を集電体に形成し、その層を乾燥させて製造してもよい。
【0092】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル等の粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。
【0093】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0094】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明の二次電池としてのリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。このようにして得られたリチウムイオン二次電池は、集電体と正極合材層との密着強度、高温サイクル特性、および出力特性に優れる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、粒子状重合体の重合率、ゲル分率は以下の方法により算出し、体積平均粒子径は以下の方法により測定した。さらに、集電体と正極合材層との密着強度、二次電池の出力特性と高温サイクル特性は、以下の方法により測定した。
【0096】
<重合率>
粒子状重合体の重合終了後、ガスクロマトグラフィー(カラム:HP−1(アジレント・テクノロジー社製)、検出器:FID)にて未反応単量体の質量を測定した。
そして、下記式にしたがって重合率(質量%)を測定した。
重合率(質量%)={(仕込み単量体(単量体組成物)の質量−未反応単量体の質量)×100}/仕込み単量体(単量体組成物)の質量
<ゲル分率>
粒子状重合体を含む水分散液を50%湿度、23〜25℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み3±0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを1mm角に裁断し、約1gを精秤した。裁断により得られたフィルム片の質量をw0とする。このフィルム片を、10gのテトラヒドロフラン(THF)に25℃±1℃の環境の下、24時間浸漬した。その後、THFから引き揚げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥して、不溶分の質量w1を計測した。
そして、下記式にしたがってゲル分率(質量%)を算出した。
ゲル分率(質量%)=(w1/w0)×100
<体積平均粒子径>
粒子状重合体の体積平均粒子径は、光散乱粒子径測定器(コールター社製、コールターLS230)を用いて測定した。
<集電体と正極合材層との密着強度>
正極合材層を形成した正極を、幅1.0×長さ10cmの矩形に切って試験片とし、正極合材層面を上にして固定した。試験片の正極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を張り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、その平均値を求めて、これをピール強度(N/m)とし、以下の基準で評価した。ピール強度が大きいほど集電体と正極合材層の密着強度に優れることを示す。
A:ピール強度が20N/m以上
B:ピール強度が10N/m以上20N/m未満
C:ピール強度が5N/m以上10N/m未満
D:ピール強度が2N/m以上5N/m未満
E:ピール強度が2N/m未満
<出力特性>
得られた二次電池について、25℃環境下、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート0.2Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.2C放電時の電池容量を求めた。次いで、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート2Cにて、3.0Vまで放電することにより、2C放電時の電池容量を求めた。そして、同様の測定を10個の二次電池について行い、10個の二次電池について、0.2C放電時の電池容量の平均値及び2C放電時の電池容量の平均値を求め、0.2C放電時の平均電池容量Cap0.2Cと、2C放電時の平均電池容量Cap2Cとの比((Cap2C/Cap0.2C)×100%)である2C放電時容量維持率を求めた。そして、得られた2C放電時容量維持率に基づき、以下の基準にて、出力特性を評価した。なお、2C放電時容量維持率が高いほど、ハイレート(2C)放電時の放電容量が高く、出力特性に優れると判断できる。
A:2C放電時容量維持率が90%以上
B:2C放電時容量維持率が75%以上、90%未満
C:2C放電時容量維持率が60%以上、75%未満
D:2C放電時容量維持率が45%以上、60%未満
E:2C放電時容量維持率が45%未満
<高温サイクル特性>
得られた二次電池について、60℃において、充電レート0.2Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート0.2Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.2C放電時の電池容量を求め、1サイクル目の放電容量とした。次いで、充電レート0.2Cとした定電流放電により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート0.2Cにて、3.0Vまで放電する操作を繰り返し、100サイクル目の放電容量を求めた。そして、同様の測定を10個の二次電池について行い、10個の二次電池について、1サイクル目の放電容量の平均値、100サイクル目の放電容量の平均値を求め、1サイクル目の平均放電容量Cap1と、100サイクル目の平均放電容量Cap100との比((Cap100/Cap)×100%)である100サイクル後放電時容量維持率を求めた。得られた100サイクル後放電時容量維持率に基づき、以下の基準にて、高温サイクル特性を評価した。なお、100サイクル後放電時容量維持率が高いほど、高温サイクル時の放電容量が高く、高温サイクル特性に優れると判断できる。
A:100サイクル後放電時容量維持率が90%以上
B:100サイクル後放電時容量維持率が75%以上、90%未満
C:100サイクル後放電時容量維持率が60%以上、75%未満
D:100サイクル後放電時容量維持率が45%以上、60%未満
E:100サイクル後放電時容量維持率が45%未満
【0097】
(実施例1)
<粒子状重合体A1の製造>
重合缶(A)に、イオン交換水102部、乳化剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.2部、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.3部を加え、70℃に加温し攪拌した。次いで、上記とは別の重合缶(B)に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としてn−ブチルアクリレート72.0部、酸性基含有単量体としてメタクリル酸2.0部、アリル架橋性単量体としてオルソフタル酸ジアリル25.0部、水酸基含有ビニル単量体としてヒドロキシエチルアクリレート1.0部、乳化剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.7部、及び、イオン交換水60部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製した。エマルジョンを、約200分かけて、重合缶(B)から重合缶(A)に逐次添加した後、約120分攪拌し、冷却して反応を終了し、その後、4%NaOH水溶液でpH調整し、粒子状重合体A1の水分散液を得た。この時の重合率は99%、粒子状重合体A1の体積平均粒子径は120nm、ゲル分率は90%以上であった。
【0098】
<粒子状重合体B1の製造>
重合缶(A)に、イオン交換水102部、乳化剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.2部、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.3部を加え、70℃に加温し攪拌した。次いで、上記とは別の重合缶(B)に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体として2−エチルヘキシルアクリレート75.0部、α,β−不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリル20.0部、酸性基含有単量体としてメタクリル酸3.0部、水酸基含有ビニル単量体としてヒドロキシエチルアクリレート2.0部、乳化剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.7部、及び、イオン交換水60部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製した。エマルジョンを、約200分かけて、重合缶(B)から重合缶(A)に逐次添加した後、約120分攪拌し、冷却して反応を終了し、その後、4%NaOH水溶液でpH調整し、粒子状重合体B1の水分散液を得た。この時の重合率は95%、粒子状重合体B1の体積平均粒子径は180nm、ゲル分率は90%以上であった。
【0099】
<二次電池正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質としてCo−Ni−Mnのリチウム複合酸化物系の活物質(セルシード(登録商標)NMC111(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、日本化学工業社製)100部、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS−100、電気化学工業株式会社製)2.0部、上記にて得られた粒子状重合体A1の水分散液を固形分相当で0.9部(水分散液中の固形分濃度40%)と粒子状重合体B1を固形分相当で0.1部(水分散液中の固形分濃度40%)とを混合して得られた二次電池正極用バインダー組成物、及び、非粒子状重合体Bに相当する増粘剤としてエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分相当で0.8部(固形分濃度2%)を、適量の水とともに、プラネタリーミキサーにて攪拌することにより、二次電池正極用スラリー組成物を調製した。
【0100】
<二次電池用の正極の作製>
上記にて得られた二次電池正極用スラリー組成物を脱泡した後、コンマコーターを用いて、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体上に、乾燥後の膜厚が70μm程度になるように塗布し、50℃で20分間乾燥し、その後、110℃で2時間加熱処理して正極原反を得た。そして、得られた正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.2g/cm、アルミニウム箔及び正極合材層からなる厚みが65μmに制御された二次電池用正極を作製した。
作製した二次電池用正極を用いて、集電体と正極合材層との密着強度を評価した。結果を表1に示す。
【0101】
<二次電池の作製>
次いで、上記にて得られた二次電池用正極を直径16mmの円盤状に切り抜き、正極合材層の形成面側に、直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、負極(直径17mmの円盤状)としての金属リチウム、及び、エキスパンドメタルを、この順に積層し、得られた積層体を、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼の厚さ0.25mm)中に収納した。なお、負極は、負極合材層の形成面側がセパレータと対向するように配置した。そして、この容器中に、電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型の二次電池を作製した。
なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させ、さらに添加剤としてビニレンカーボネート2体積%を添加したものを用いた。
作製した二次電池を用いて、出力特性、高温サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例2〜10)
粒子状重合体A1から、使用する単量体の種類や量を表1に示すように変更した以外は、同様の製造方法を用いて表1に示す粒子状重合体A2〜A10の水分散液(バインダー組成物)を製造した。そして、粒子状重合体A1に替えて、それぞれ粒子状重合体A2〜A10を使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例11、12)
正極活物質としてCo−Ni−Mnのリチウム複合酸化物系の活物質に替えて、それぞれLiFePO、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]Oを使用し、かつアセチレンブラックの配合量を5質量部とした以外は、実施例1と同様にして二次電池正極用スラリー、二次電池用正極、二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例13)
粒子状重合体B1を使用せず、粒子状重合体A1の配合量を固形分相当で1.0質量部とした以外は、実施例1と同様にして二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例1〜5)
粒子状重合体A1から、使用する単量体の種類や量を表1に示すように変更した以外は、同様の製造方法を用いて、表1に示す粒子状重合体A11、A12、A13、A14、A15の水分散液(バインダー組成物)を製造した。そして、粒子状重合体A1に替えて、それぞれ粒子状重合体A11〜A15を使用した以外は、実施例1と同様にして、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用正極、二次電池を作製し、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0106】
なお、表1中、BAはn−ブチルアクリレートを、EAはエチルアクリレートを、2EHAは2−エチルヘキシルアクリレートを、HEAはヒドロキシエチルアクリレートを、MAAはメタクリル酸を、EDMAはエチレングリコールジメタクリレートを、ANはアクリロニトリルを、NCMはLiNi1/3Co1/3Mn1/3を、LFPはLiFePOを、固溶体はLi[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]Oを、Ace.Bはアセチレンブラックを表す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1より、アリル架橋性単量体単位と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位とを所定量含有する粒子状重合体A1〜A10を使用した実施例1〜13は、集電体と正極合材層との密着強度、二次電池の出力特性、高温サイクル特性の全てを良好なものとし得ることがわかる。
一方、アリル架橋性単量体単位を含有せず、替わりに、エチレングリコールジメタクリレート由来の単量体単位を含有する粒子状重合体A11を用いた比較例1は、実施例1〜13に比して、特に密着強度、出力特性について劣っていることがわかる。
また、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満の粒子状重合体A12を用いた比較例2は、実施例1〜13に比して、特に密着強度、高温サイクル特性について劣っていることがわかる。
そして、アリル架橋性単量体単位の含有割合が40質量%超の粒子状重合体A13を用いた比較例3、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合が50質量%未満の粒子状重合体A14を用いた比較例4、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満で且つ(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合が95質量%超の粒子状重合体A15を用いた比較例5は、実施例1〜13に比して、密着強度、出力特性、高温サイクル特性の全てについて劣っていることがわかる。
【0109】
特に、実施例1〜4より、粒子状重合体A中のアリル架橋性単量体単位および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合を調節することにより、良好な密着強度、出力特性および高温サイクル特性が得られることが分かる。また、実施例1、5〜7より、粒子状重合体A中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位としてn−ブチルアクリレート由来の単位を含有させることで、良好な密着強度、出力特性および高温サイクル特性が得られることが分かる。さらに、実施例1、8〜10より、粒子状重合体A中の水酸基含有ビニル単量体単位の含有割合を調節することにより、良好な密着強度および高温サイクル特性が得られることが分かる。また、実施例1、11、12より、正極活物質としてCo−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物を用いることで、良好な出力特性と高温サイクル特性が得られることが分かる。
そして、実施例1と13より、粒子状重合体Aと粒子状重合体Bとを併用することで、良好な密着強度、出力特性および高温サイクル特性が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、結着力に優れ、かつ二次電池用正極の形成に用いた際に、二次電池の高温サイクル特性を確保しつつ、出力特性を優れたものとすることができる二次電池正極用バインダー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性を優れたものとすることができる正極を形成可能な二次電池正極用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、集電体と正極合材層との密着強度に優れ、かつ、二次電池の高温サイクル特性と出力特性とを優れたものとすることができる二次電池用正極の製造方法および二次電池用正極を提供することができる。
さらに、本発明によれば、高温サイクル特性と出力特性とに優れる二次電池を提供することができる。