(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の実施形態に係る製造方法により得られる発光素子10の概略を説明する。なお、発光素子10は半導体素子の一例である。
【0011】
図1に、発光素子10の断面を示す。
図1に示すように、発光素子10は、基板5の一方の主面である第一主面5a上に、半導体構造11として窒化物半導体層が積層されてなる。具体的には、発光素子10は、対向する一対の主面を有する基板5の第一主面5aである表面側に、第一導電側半導体層6であるn側半導体層、活性層8、第二導電側半導体層7であるp側半導体層を順に備える半導体構造11が積層されている。また、n側半導体層にはn側パッド電極3Aが電気的に接続され、p側半導体層にはp側パッド電極3Bが電気的に接続されている。発光素子10は、n側パッド電極3A及びp側パッド電極3Bを介して、外部より電力が供給されると、活性層8から光を放出し、
図1における第二主面5bから、主に光が取り出される。すなわち
図1の発光素子10では、正負一対の電極3(n側パッド電極3A、p側パッド3Bを含む)の形成面側(
図1の上側)が主な光取り出し面18となる。活性層8は、発光層に相当する。活性層8が発する光の中心波長は、例えば360nm〜650nmの範囲内にあるものとする。
【0012】
また、n側半導体層とp側半導体層の上に透光性導電層13がそれぞれ形成され、透光性導電層13上にn側パッド電極3Aおよびp側パッド電極3Bが形成される。さらに、n側パッド電極3A及びp側パッド電極3Bの所定の表面のみが絶縁性の保護膜14から露出され、他の部分は保護膜14で被覆される。
【0013】
基板5は、例えばサファイアからなり、半導体構造11は、例えばGaN等の窒化物半導体からなる。また、透光性導電層13は省略してもよい。
図1に示す発光素子10は、第二導電側半導体層7側を光取り出し面とし、第二主面5b側を実装面とするいわゆるフェースアップ型である。発光素子は、第二主面5b側を光取り出し面とし、第二導電側半導体層7側を実装面とするいわゆるフェースダウン型でもよい。
<実施形態1に係る発光素子の製造方法>
【0014】
以下、このような発光素子10の製造方法を、
図2のフローチャート及び
図3〜
図9の断面図を参照して説明する。
(半導体ウエハの準備工程)
【0015】
まず、
図2のステップS21において半導体ウエハを準備する。半導体ウエハ20は、
図3の平面図に示すように、平面視が略円形状で、一部を平坦としたオリエンテーションフラット面OLを設けている。半導体ウエハ20は、基板5と、その上に設けられた半導体構造11と、を備える。半導体ウエハ20のサイズは、例えばΦ50〜100mm程度とすることができる。また、一枚の半導体ウエハから採る発光素子の素子数は、例えば1500〜200000個程度とすることができる。
(割断起点部22の形成工程)
【0016】
次に、ステップS22において半導体ウエハ20上に、割断起点部22を形成する。割断起点部22は、半導体ウエハ20を所定の大きさに分割して発光素子を得るため、半導体ウエハ20に割断を容易にするためのガイドとなる部分であり、典型的にはスクライブラインが該当する。ただし連続した直線状であることを要せず、波線状やドット状といった、離散的なパターンで構成することもできる。また割断起点部22は、物理的に半導体ウエハの表面に形成された溝の他、半導体ウエハの内部に形成された脆弱領域が含まれる。好ましくは、割断起点部22は、レーザ光を照射して形成される。
図4の断面図に、レーザ光LBを半導体ウエハ20の内部に照射してレーザスクライブを行う例を示す。このようなレーザスクライブによれば、レーザ光を半導体ウエハ20に対して走査させることで、所望のパターンの割断起点部22を形成できる。なお、
図4では割断起点部22を半導体ウエハ20の内部に存在する線として示すが、通常、レーザ照射直後は割断起点部22が半導体ウエハ20の内部のみ(レーザ光の集光位置付近のみ)に生じ、それを起点として次第に厚み方向(上下方向)に亀裂が広がると考えられる。
【0017】
また割断起点部22は、半導体ウエハの両面に設けてもよいが、好ましくは、半導体構造が形成された面とは反対側の面、すなわち基板5の裏面(第二主面5b)に達するように形成する。これにより、半導体ウエハの割断を行い易くできる利点が得られる。また、レーザ光の集光位置を半導体構造11から離すことで、半導体構造11(特に活性層8)がレーザ光によって損傷する事態を回避し易くなる。具体的には、
図4の断面図に示すように半導体ウエハ20(基板5)の裏面BS側からレーザ光を照射させて割断起点部22を形成する。
【0018】
割断起点部22は、基板5を透過可能な波長のレーザ光を用いて、基板5の内部にレーザ光を集光させることにより形成することが好ましい。基板5は例えばサファイア基板であり、レーザ光のパルス当たりのエネルギー(パルスエネルギー)、周波数、パルス幅、波長はそれぞれ、例えば、0.8〜5μJ、50〜200kHz、300〜50000fs(フェムト秒)、500〜1100nmが挙げられる。パルス駆動でレーザ光を基板5の内部に照射すると、レーザ光の集光位置またはその周辺から亀裂が広がっていく。例えば、基板5の裏面側(第二主面5b側)寄りにレーザ光の集光位置を設定することにより、基板5の裏面に亀裂が到達する。これにより、基板5の裏面側から見ればレーザ光を走査した経路のほぼ全てで亀裂が繋がっているが、その反対側(半導体ウエハ20の半導体構造11が形成された側)の表面には亀裂が到達していない状態とすることができる。このような状態の半導体ウエハ20に対して割断工程を行うことで、精度よく割断することができる。
【0019】
さらに割断起点部22は、半導体構造の近傍にまで形成することが好ましい。例えば、基板5の裏面BSに達するように形成された割断起点部22が深さ方向(半導体ウエハ20の厚さ方向)に延伸しており、その一端が半導体構造の近傍まで達するように形成することが好ましい。これによって、割断工程において割断すべき厚みを小さくすることができるため、割断を容易に行うことができる。ただ、本発明はすべての割断起点部が半導体構造11の近傍に達していることを要さず、割断起点部の一部において半導体構造11の近傍に達していなくとも、十分に割断できるレベルであれば足りる。例えば割断起点部22の半導体構造11からの距離を0〜10μmとする。なお、割断起点部の一部において半導体構造11を貫通して半導体ウエハ20の表面に達していてもよいが、半導体構造11が完全に分断されると、割断工程に入る前に発光素子に個片化されて飛散する虞があるため、好ましくは割断工程を行うまでは割断起点部が半導体構造11を貫通しない状態とする。割断起点部がどこまで延伸するかは、スクライブ条件やスクライブ後の待機時間等によって調整することができる。また、基板5の内部におけるレーザ光の集光位置は、例えば半導体構造から150μm以内とする。
【0020】
割断起点部22を半導体ウエハ20に形成するパターンは、割断によって得られる発光素子の形状を規定する。好ましくは発光素子の平面視における形状を、五角形以上の多角形とする。一般に発光素子の形状は四角形(典型的には正方形または長方形)であるところ、レンズ等との組み合わせや出力光の照射範囲などを考慮すると、円形であることが好ましいと考えられる。ただ、円形の発光素子とする場合は、割断のための加工が困難である上、半導体ウエハ上に円形の発光素子を複数取った場合に、隣接する円形同士の間で未使用領域が生じる。これによって、一枚の半導体ウエハから得られる発光素子の取り量、すなわち利用可能な面積が減り、歩留まりが低下する。そこで、五角形以上の多角形とすることで、半導体ウエハ上の無駄な領域を低減しつつも、発光素子の平面形状を円形に近付け、より高品質な出力光を得られるよう改善が期待できる。
【0021】
好ましくは
図5に示すように、各発光素子の平面視形状が六角形状となるよう、割断起点部22のパターンを半導体ウエハ20に形成する。このため割断起点部22は、半導体ウエハ20の平面視において屈曲した折れ線状とする。なお、本発明は割断起点部のパターンを折れ線状に限定するものでなく、直線状や曲線状の割断起点部に対しても、後述する割断方法を適用できる。半導体ウエハ上の無駄な領域を可能な限り低減するためには、発光素子が平面充填されるように配置すればよい。例えば、発光素子の平面視形状を一辺の長さがD
6の正六角形とし、それらをハニカム状に配置する。
【0022】
発光素子の平面視形状を六角形とする場合には、六方晶系の結晶構造を有する基板5を用いることが好ましい。すべての割断起点部22を基板5の劈開面(例えばサファイアのm面)に沿って形成してもよいし、あるいはすべての割断起点部22を基板5の劈開面からずらして形成してもよい。これにより、発光素子の各辺の割断性を均一化することができる。六方晶系の結晶構造を有する基板5としては、例えばサファイア基板、GaN基板が挙げられる。通常、半導体ウエハ20の厚みの大部分を基板5が占めるため、基板5の割断容易性は半導体ウエハ20の割断容易性とほぼ等しい。半導体構造など基板5以外の部材が半導体ウエハの厚みの大部分を占める場合は、その部材を六方晶系の結晶構造を有する材料で形成すればよい。
【0023】
なお、割断起点部22とは、後述する発光素子を割断する工程において割断の起点となる部分であり、割断する工程を行う前に半導体ウエハに生じている亀裂を指す。割断起点部22は、カッタースクライブによって形成することもできるが、折れ線状のパターンの割断起点部を形成するためには、上述したレーザ光を用いるレーザスクライブが適している。
(発光素子を割断する工程)
【0024】
さらに発光素子に個片化するため、ステップS23において半導体ウエハ20を割断起点部22を利用して割断する。具体的には、
図6乃至
図9の断面図に示すように押圧部材30を半導体ウエハ20に押し当てた状態で半導体ウエハ20上を移動させ、割断起点部22において半導体ウエハ20を分割して個別の発光素子に分割する。押圧部材30の先端部31を半導体ウエハ20の被押圧面に当接させたり離間させたりするために押圧部材30を上下動させる垂直方向の移動と、半導体ウエハ20の平面上において押圧部材30を走査させる水平方向の移動とは、走査制御部33にて行う。つまり、発光素子の製造装置は、押圧部材30と、押圧部材30の移動を制御する走査制御部33を備えている。
【0025】
なおこの例では、半導体ウエハ20側を固定し、押圧部材30側を移動させる例を説明しているが、半導体ウエハと押圧部材との移動は相対的なもので足り、例えば押圧部材側を固定し、半導体ウエハ側を移動させてもよい。さらに、いずれか一方を固定する態様に限られず、半導体ウエハと押圧部材との間の相対移動を、両者の移動で実現することもできる。例えばXYZ方向等に分割し、XY平面内での移動を押圧部材側で、Z方向への移動を半導体ウエハ側で、それぞれ担うように構成することもできる。
(押圧部材30)
【0026】
押圧部材30は、半導体ウエハ20に押し当てる先端部31を曲面としている。これにより、割断起点部22に応力を作用させつつ、半導体ウエハ20への破損を回避できる。また多角形状の発光素子であっても効率よく割断することが可能となる。すなわち従来のように四角形状の発光素子であれば、半導体ウエハに描かれるスクライブラインが直線状となるため、
図13に示すように直線状のスクライブラインに沿ってブレイクすることが可能であるが、
図5に示すようにスクライブラインが折曲している場合は、ブレイクが容易でない。例えばブレイク刃のように直線状で割るものを使うと、スクライブライン以外の場所を押圧したときにダイスが破損するおそれがある。仮にブレイク刃で押圧するならば、破損領域を予め設けて直線状に割るか、もしくはダイスと同じサイズの小さな刃で慎重に位置合わせをする必要がある。
【0027】
そこで、上述の通り押圧部材30の先端部31を曲面状としている。この半導体ウエハ20側に向かって凸である曲面状の先端部31で半導体ウエハ20を押圧し、撓ませて割るようにすることで、従来のような押圧部材の厳密な位置合わせの必要性をなくすことができる。さらに、平面視においてスクライブラインすなわち割断起点部22が折れ曲がっている場合でも、破損領域を設けることなく割断起点部22に沿った形状に個片化でき、多角形の発光素子を効率よく割断することが可能となる。
【0028】
押圧部材30の材料は、例えばステンレスやジルコニア等が利用できる。また押圧部材30の先端部31は、曲面とすることが好ましい。これにより、割断起点部22に応力を作用させつつ、半導体ウエハ20への破損を回避できる。押圧部材30の先端部31は球面とすることが好ましい。なお、本明細書において、球面とは球の全面を意味するのではなく、球の一部の面を意味することは言うまでもない。例えば、押圧部材30の先端部31を球面とするために、先端部31の形状を半球状とすることができる。また、先端部31は、球体で構成されていてもよい。例えば、球体をホルダーに固定し、この球体によって半導体ウエハ20を押圧してもよい。球面の先端部31を用いることで、半導体ウエハ20を点に近い領域で押圧することができる。先端部31は、球面以外の楕円面でもよい。
【0029】
本実施形態において、先端部31の外径D
1は、発光素子の平面視形状の外接円の直径よりも長い。好ましくは、先端部31の外径D
1を、発光素子の平面視形状の外接円の直径の2倍以上とする。また、先端部31の外径D
1は、例えば半導体ウエハ20の直径よりも小さい。
【0030】
先端部31は、半導体ウエハ20の全体を一度に押圧可能な曲面よりも大きな曲率であることが好ましい。すなわち、半導体ウエハ20の全体を一度に押圧可能な曲面よりも小さな曲率半径であることが好ましい。曲率を大きく(曲率半径を小さく)することで半導体ウエハ20の撓み量を大きくできるため、良好に割断することが可能である。先端部31の曲率半径は、例えば2〜20mmとすることができる。また、先端部31の曲率半径は、発光素子の平面視形状の1辺の2〜25倍程度でもよい。先端部31は、押圧部材30が半導体ウエハ20の主面の内どこを押圧しても必ず、
図7、
図8に示すように、破断位置となる割断起点部22の左右を同時に押圧し得る大きさとすることが好ましい。もし先端部31の外径D
1が発光素子の外径D
2よりも小さければ割断起点部22の片側の発光素子のみを押圧する場合があり得るため、割断不良が生じる虞がある。このため先端部31の球面は、その外径D
1を、発光素子の外径D
2よりも大きくすることが好ましい。例えば発光素子が六角形の場合は、六角形の中心を挟んで対向する頂点同士の距離が発光素子の外径D
2となる。これにより、発光素子のどの位置に先端部31が接触しても、必ず両側の割断起点部22を含む範囲を押圧することが可能である。そして、そのように押圧できるように押圧部材30の押し込み量を設定することによって、割断を確実ならしめることができる。先端部31の外径D
1は、例えば、発光素子の外径D
2の5〜30倍程度とすることができる。
【0031】
なお、先端部31とは、押圧部材のうち半導体ウエハ20を押圧可能な面を含む部分を指す。押圧時には、先端部31が点に近い極めて小さな領域で半導体ウエハ20を押圧することが好ましい。これにより、小さな力で容易に割断することが可能となる。また、上述のとおり、隣接する2以上の発光素子を同時に押圧可能であるように先端部31の形状(外径、曲率など)及び押圧部材30の押し込み量を設定することが好ましい。これにより、先端部31が常に2以上の発光素子を押圧する状態で押圧部材30を走査させることができるので効率よく割断することができる。すなわち、先端部31が1つの発光素子のみを押圧する状態では、押圧された発光素子が若干沈み込む程度であって分割され難いが、この状態を避けることができる。なお、後述する保護シート52を設ける場合であっても同様であり、半導体ウエハ20は保護シート52を介して点に近い領域で押圧部材30により押圧される。
【0032】
押圧部材30の先端部31を基板5の裏面BS側に押し当てることにより、半導体ウエハ20を割断することが好ましい。このように半導体ウエハ20の被押圧面を、基板5の成長面とは異なる面とすることで、半導体構造を損傷する事態を回避できる。
【0033】
上述の通り割断起点部22は、被押圧面に達するように形成することが好ましい。そして、
図7の要部拡大断面図に示すように、割断起点部22を設けた側(割断起点部22が表面に到達している側)から押圧することが好ましく、これにより、反対側から行う場合よりも小さな押し込み量で割断起点部22から割断を進行させて、発光素子に分離することができる。このとき、押圧前の未割断部分の厚みはこのような小さな押し込み量で割断できる程度とすることが好ましく、発光素子の大きさにもよるが例えば150μm以下とすることができる。さらには好ましくは、上述したように割断起点部22を半導体構造の近傍にまで形成する。また、割断起点部22が達する面と被押圧面とをいずれも基板5の裏面BSとすることで、半導体構造を意図せず破損する事態を回避し、歩留まりよく割断を行うことが可能となる。
(粘着シート50)
【0034】
半導体ウエハを複数の発光素子に分割する際には、半導体ウエハ20の主面の内、被押圧面とは反対側の面に粘着シート50を設けることが好ましい。
図6及び
図9の断面図に示すように、予め粘着シート50を、基板5の第一主面5a側(半導体ウエハ20の半導体構造11が設けられた側)に貼付した上で、受け皿40の上面にセットする。これにより、押圧部材30によって半導体ウエハ20を粘着シート50に押し付ける状態となるため、個片化された発光素子が飛散し難い。また、半導体ウエハ20を粘着シート50に押し付けることで、粘着シート50の反発する力を利用して半導体ウエハ20を撓ませることができる。このため、凹部を有する受け皿40の面に押し付けることなく中空で半導体ウエハ20を割断することも可能である。
【0035】
このような粘着シート50の貼付は、割断起点部22を形成する前でも後でもよいが、少なくとも割断を行う前に行う。割断起点部22が半導体構造の近傍まで生じる場合は、割断起点部22の形成後に粘着シート50を貼付しようとすると意図せず個片化されて発光素子が飛散する虞があるため、割断起点部22を形成する前に粘着シート50を貼付することが好ましい。
(受け皿40)
【0036】
図6の例では、割断起点部22を設けた半導体ウエハ20に粘着シート50を貼付したものを、受け皿40上に配置している。ここでは、先に粘着シート50を受け皿40の表面に配置しておき、この状態で半導体ウエハ20を、割断起点部22を設けた側が被押圧面となるよう、つまり半導体構造の成長面側が粘着シート50に面するよう、半導体ウエハ20に粘着シート50を貼付し、半導体ウエハ20を受け皿40上に位置させる。このような受け皿40は、例えばステンレス製やジルコニア製等とできる。なお、受け皿40の直径は、半導体ウエハ20の外形よりも大きくしている。これにより、半導体ウエハ20を受け皿40上に収めることができる。この状態で、押圧部材30を半導体ウエハ20の上面側に当接させ、受け皿40に向かって押圧する。押圧された半導体ウエハ20は、粘着シート50を介して受け皿40の面に押し付けられて、強度の弱い割断起点部22で折曲されるため、割断起点部22に沿って分割される。同時に、押圧部材30で半導体ウエハ20の被押圧面を押圧した状態のまま、押圧部材30を半導体ウエハ20上で走査させることにより、受け皿40上に配置された半導体ウエハ20を順次に素子単位に分割していく。受け皿40は押し当てる方向(図中下方向)に凹んだ形状を有しており、その凹面は、先端部31よりも曲率の小さな球面であることが好ましい。これにより、先端部31の中央付近を確実に受け皿40に押し当てることができる。なお、上述のとおり半導体ウエハ20を受け皿40の面に押し付けずに割断することも可能である。この場合は、押圧部材30による半導体ウエハ20の押し込み量を受け皿40に押し付けない程度に小さくすればよい。これにより半導体ウエハ20の破損を抑制することができる。
【0037】
なお、半導体ウエハ20を載置する台は、
図6に示すような凹部を有する受け皿に限るものではなく、例えば平坦な台の上面に半導体ウエハ20を載置してもよい。この場合は、比較的小さな押し込み量で半導体ウエハ20を割断できるようにすれば、半導体ウエハの破損を抑制することができるので好ましい。
(保護シート52)
【0038】
発光素子に分割する際には、半導体ウエハ20の主面の内、被押圧面側に保護シート52を設けてもよい。このように保護シート52を介在させることで、押圧部材30が半導体ウエハ20に直接接触することを回避できる。これにより、押圧部材30が半導体ウエハ20を破損する事態を防止できるし、半導体ウエハ20の破片により先端部31が破損する事態も防止できる。さらに、押圧時の半導体ウエハ20の浮き上がりを抑制できるので、割断しやすいという効果も期待できる。また、保護シート52に、動摩擦係数の低い材質のものを使用すれば、半導体ウエハ20上において押圧部材30を滑らかに摺動させることができる。
【0039】
このように保護シート52を設ける例を、変形例として
図10の断面図に示す。この図に示すように、半導体ウエハ20の被押圧面側に保護シート52を配置し、その裏面BS側には粘着シート50を貼付した状態で、リング状のフレーム42に半導体ウエハ20をセットする。保護シート52は、半導体ウエハ20の全面を被覆できる大きさとする。また保護シート52は被押圧面に貼付する必要はなく、半導体ウエハ20と保護シート52とを重ね合わせた状態で半導体ウエハ20の周囲で粘着シート50に貼り付ければよい。また、別の形態としては、保護シート52を粘着シート50と共にリング状フレーム42で狭持してもよい。このような保護シート52には、樹脂製のシート材が利用でき、例えばPET製とする。
【0040】
なお、リング状のフレーム42は、半導体ウエハ20の周囲のみを保持するよう、中間部分を開放した枠状に形成されている。この構成であれば、押圧部材の先端部を受ける受け皿を不要とできる。ただ、押圧部材の先端部と対応する下方の位置に、上述した
図6と同様、受け皿を設けることもできる。この場合、リング状のフレーム42で半導体ウエハを保持しているため、受け皿でもって半導体ウエハを保持する必要はなく、受け皿の大きさを押圧部材の先端部と対応する大きさに小型化してもよい。
(押圧部材30の走査パターンSP)
【0041】
割断に際して、半導体ウエハ20の平面上において押圧部材30を走査させるパターンは、半導体ウエハ20の平面視において割断起点部22を構成する線分を含む直線のすべてと交差する方向に押圧部材30を移動させることが好ましい。いいかえると、各発光素子の外形の多角形を構成するいずれの辺とも平行でない方向に押圧部材30を走査させる。このような走査によって、押圧部材30を一の発光素子上を一度走査させることでその一の発光素子を割断できる利点が得られる。詳細には、従来、矩形状の発光素子を割断する際には、
図13に示すように押圧部材を縦方向と横方向にそれぞれ走査させる方法があるが、この方法では複数回の走査が必須であった。これに対して本実施の形態によれば、一の発光素子を割断するために、その一の発光素子上を一度走査すればよい。これは、従来の割断方法がブレイクライン(スクライブライン)に沿って押圧部材を走査させていたため、ブレイクラインが十字の碁盤目状に設けられている以上は、縦方向と横方向の走査が必須であったからである。この方法を本実施の形態のような多角形の発光素子、例えば六角形状の発光素子に適用すると、各断起点部のパターンが折れ線状であるため、走査パターンも極めて複雑となる。そこで本実施形態においては、敢えて割断起点部22の線分に沿わせず、逆に
図11の拡大断面図に示すように、平面視における割断起点部22の線分に対して斜めに交差する方向に走査させている。このようにすることで、様々な方向や角度で設けられた割断起点部22を構成する線分に対して応力を印加し、一気に割断させるようにしている。特に押圧部材30の先端部31を、エッジを有する面とせずに曲面とすることで、作用点からの応力を分散させやすくなり、割断起点部22を離れて意図しない方向に割れるリスクを軽減している。この方法であれば、従来のようにブレイクラインに厳密に沿わせて押圧部材を走査させる必要がないため、走査の制御も容易となる。しかも走査回数を低減することで、タクトタイムの短縮にも繋がり、発光素子の製造コスト削減にも寄与する。
【0042】
押圧部材30を走査させる方向は、
図11に示すように例えば半導体ウエハ20のオリエンテーションフラット面OLに対して傾斜した方向とすることができる。この際、オリエンテーションフラット面OLに対して押圧部材30の走査方向を傾斜させる角度θは、発光素子の外形を構成するいずれの辺とも平行とならない角度、すなわちいずれの辺とも交差するような角度に設定する。例えば
図11の例では、発光素子の外形を正六角形状とし、かつ正六角形の一辺(図において辺C)がオリエンテーションフラット面OLと平行となる姿勢に配置しているため、オリエンテーションフラット面OLに対して60°の角度で押圧部材30を走査させると、辺Aの部分と合致する。この結果、辺Aに応力が集中し、この部分では割断が綺麗に行われることが期待されるものの、他の辺に相当する部位では、割断の応力が相対的に弱くなって、割断面の品質にばらつきが生じることが考えられる。同様にオリエンテーションフラット面OLに対して120°の角度で押圧部材30を走査させると、辺Bの部分と合致することになる。さらにオリエンテーションフラット面OLに対して0°の角度、すなわち傾斜させずに平行とした場合は、辺Cの部分と合致する。そこで、
図11の例ではオリエンテーションフラット面OLに対して押圧部材30の走査方向を傾斜させる角度θは、0°、60°、120°を除く角度に設定する。
【0043】
各辺の直上を通過する場合のほか、各辺に対して垂直となる方向も割断し易い押圧方向と思われる。そこで、より好ましくは各辺に対して垂直に交差する方向も避けるように、押圧方向の傾斜角度を設定する。
図11の例では、傾斜角度θを30°とすると、辺Bと直交し、θ=90°とすると辺Cと直交し、θ=150°とすると辺Aと直交する。そこで、傾斜角度θは30°、90°、150°も避けることが好ましいといえる。いいかえると、発光素子を正六角形状とする場合、押圧部材30の走査方向の傾斜角度θは、オリエンテーションフラット面OLに対して30°の倍数を除く角度に設定することが、より好ましい。この観点から、排除される30°の倍数を除く角度の中間となる、15°、45°、75°、105°、135°、165°近傍に設定することが一層好ましい。このようにすることで、正六角形状の各辺に対して均等な応力を印加させて、各辺における割断面の品質を均質化することが期待される。
図11の例では、θ=45°に設定している。
【0044】
以上のとおり発光素子の各辺と一致する方向及び/又は垂直に交差する方向を避けて走査することで、各辺の割断容易性を均一化することができる。この結果、半導体ウエハの面内における割断状態を均一化することができる。
【0045】
走査パターンSPの間隔D
sは、半導体ウエハ20に含まれるすべての発光素子が割断されるように設定することが好ましい。1つの直線状の走査で押圧できる範囲は先端部31の形状及び押し込み量によって定まるため、それを考慮して走査パターンSPの間隔D
sを設定することができる。走査パターンSPの間隔D
sは、先端部31が押圧可能な領域の最大幅以下とすることが好ましく、さらには当該最大幅よりも小さいことが好ましい。なお、押圧部材30の走査パターンSPは、先端部31の中心が通過する軌跡を指す。
【0046】
以上ではオリエンテーションフラット面OLと発光素子の辺の1つが平行である場合を例として説明した。このような配置であれば、オリエンテーションフラット面OLを基準として走査する方向を定めることができる。ただし、これに限られるものではなく、例えば発光素子の辺のいずれもオリエンテーションフラット面OLと平行でない配置としてもよい。この場合も上述の例と同様に、発光素子の辺を含むすべての直線のいずれとも交差する角度で走査することが好ましく、さらにはそれらの直線と垂直に交差する方向も避けるように押圧方向を設定することが好ましい。
(発光素子の取り出し工程)
【0047】
発光素子を分割した後、ステップS24において各発光素子を取り出す。
図10の断面図に示す例では、各発光素子は粘着シート50に貼付された状態で保持されている。このようにすれば、各発光素子が割断起点部22に沿って割断された状態から、各発光素子を粘着シート50から剥離して、個片化された発光素子を得ることができる。
<実施形態2>
【0048】
上述した実施形態1では、押圧部材30の走査パターンSPを直線状に移動させている。すなわち、
図11に示したように押圧部材30を半導体ウエハ20のオリエンテーションフラット面OLに対して傾斜角度θで傾斜する方向に往復移動させている。しかしながら、押圧部材の走査の軌跡はこの構成に限られず、各発光素子に該当する領域のいずれも押圧可能な走査パターンを採用することができる。例えば、押圧部材を半導体ウエハの中央部から外周部へ円を描くような、渦巻き状に走査させることもできる。
【0049】
実施形態2に係る発光素子の製造方法として、渦巻き状走査させるパターンSP’の例を
図12の平面図に示す。この方法であれば、押圧部材の移動制御が、
図11に示したような直線状の移動と比べて、連続的にスムーズに行える利点が得られる。すなわち、
図11に示すような直線状に移動させる走査パターンSPの場合は、直線状の始点と終点で必ず押圧部材が一旦停止されるため、停止→移動→停止→移動→...を繰り返す。この結果、慣性が働き、停止位置の近傍では移動速度が低下することから、走査速度が各部位で一定とならない。そのため、停止位置の近傍では相対的に押圧部材の移動速度が遅くなり、より長い時間押圧される状態となる。言い換えると、押圧部材の停止が生じる半導体ウエハの周囲近傍の位置では、中心の領域に比べて割断の結果にばらつきが生じることが考えられる。これに対して、渦巻き状に走査させるパターンSP’の場合は、連続的に押圧部材を移動させることが容易となり、走査速度を一定に近付け易くなる。この結果として均一な押圧力を各発光素子に作用させることができるという利点が得られる。また、タクトタイムを短くすることができる。
【0050】
このように、押圧部の走査パターンは、直線状に限られず、曲線状とすることもできる。すなわち、一筆書き状に押圧部を半導体ウエハの平面上を走査させて、走査の軌跡が各発光素子に該当する領域のいずれにも含まれるような走査パターンとすることができる。なお、実施形態2は、押圧部材の走査パターンが異なる以外は実施形態1と同様とすることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態及び実施例、変形例等を図面に基づいて説明した。ただ、上述した実施形態乃至実施例、変形例等は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明はこれらに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以上の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略している。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。