(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265196
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】シート状被検物のしなやかさの評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/20 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
G01N3/20
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-218686(P2015-218686)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-90166(P2017-90166A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2016年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】591158128
【氏名又は名称】株式会社山王
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 聡
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 成輝
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】熊川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智史
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−526775(JP,A)
【文献】
特開平02−161335(JP,A)
【文献】
特開平10−123035(JP,A)
【文献】
特開平02−186242(JP,A)
【文献】
特開昭56−103347(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0268685(US,A1)
【文献】
特開2017−039083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物支持治具により、シート状被検物に閉じた形状の非支持領域が形成されるように、前記シート状被検物の全周を支持する工程と、
前記シート状被検物に対して垂直に、押し治具の一端を前記非支持領域に押し込み、前記押し治具が受ける力と前記押し治具の変位量との関係を測定する工程と、
前記押し治具に加わる力と前記押し治具の変位量との関係に基づいて、前記押し治具が受ける力(N)を前記押し治具の変位量(mm)で除した値(N/mm)を、前記シート状被検物のしなやか値として求める工程と、
を備える、
シート状被検物のしなやかさの評価方法。
【請求項2】
被検物支持治具により、シート状被検物に閉じた形状の非支持領域が形成されるように、前記シート状被検物の全周を支持する工程と、
前記シート状被検物に対して垂直に、押し治具の一端を前記非支持領域に押し込み、前記押し治具が受ける力と前記押し治具の変位量との関係を測定する工程と
を備え、
前記被検物支持治具が、前記シート状被検物を挟持する一対の挟持部材を有し、
前記一対の挟持部材の一方には、開口が設けられており、
前記一対の挟持部材の他方には、前記一方の挟持部材に設けられた開口に対応する位置に、開口又は凹部が設けられており、
前記非支持領域は、前記一方の挟持部材に設けられた開口に対応する位置に形成される、シート状被検物のしなやかさの評価方法。
【請求項3】
更に、前記押し治具に加わる力と前記押し治具の変位量との関係に基づいて、前記押し治具が受ける力(N)を前記押し治具の変位量(mm)で除した値(N/mm)を、前記シート状被検物のしなやか値として求める工程を備える、請求項2に記載された方法。
【請求項4】
前記シート状被検物が、金属膜である、
請求項1乃至3のいずれかに記載された方法。
【請求項5】
前記シート状被検物の厚さが、0.1μm〜100μmである、
請求項1乃至4のいずれかに記載された方法。
【請求項6】
前記シート状被検物のしなやか値が、0.5N/mm〜30.0N/mmである、
請求項1から5のいずれかに記載された方法。
【請求項7】
前記シート状被検物が、水素透過金属膜用支持体膜である、
請求項1から6のいずれかに記載された方法。
【請求項8】
前記非支持領域が、直径9mm〜14mmの円形である、
請求項1から7のいずれかに記載された方法。
【請求項9】
前記押し治具の一端が、直径5mm〜10mmの球の一部に対応する形状を有している、請求項1から8のいずれかに記載された方法。
【請求項10】
シート状被検物に閉じた形状の非支持領域が形成されるように、前記シート状被検物の全周を支持するように構成された、被検物支持治具と、
押し治具を支持し、前記シート状被検物に対して垂直に、前記押し治具の一端を前記非支持領域に押し込むように構成された、押し治具支持部と、
前記押し治具が受ける力と前記押し治具の変位量との関係を測定する、測定機構と、
前記押し治具が受ける力(N)を前記押し治具の変位量(mm)で除した値(N/mm)をしなやか値として算出する計算部と、を備える、
シート状被検物のしなやかさの評価装置。
【請求項11】
前記シート状被検物の厚さが、0.1μm〜100μmである
請求項10に記載された評価装置。
【請求項12】
前記シート状被検物のしなやか値が、0.5N/mm〜30.0N/mmである、
請求項10又は11に記載された評価装置。
【請求項13】
前記シート状被検物が、水素透過金属膜用支持体膜である、
請求項10から12のいずれかに記載された評価装置。
【請求項14】
前記非支持領域が、直径9mm〜14mmの円形である
請求項10から13のいずれかに記載された評価装置。
【請求項15】
前記押し治具の一端が、直径5mm〜10mmの球の一部に対応する形状を有している請求項10から14のいずれかに記載された評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状被検物のしなやかさの評価方法及び評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属膜等のシート状材料は、多くの分野で使用されている。用途によっては、シート状材料に対して、しなやかさが求められることがある。しなやかさに優れたシート状材料を得るためには、しなやかさを適切に評価することができる手法を確立する必要がある。
シート状材料の機械的特性を評価する手法として、例えば、引張強度試験(日本工業規格 JIS Z2241)が挙げられる。引張強度試験では、所定の形状を有する試験片が準備され、試験片の両端が把持され、一端に荷重をかけることにより、荷重と試験片の伸びとの関係が測定される。しかしながら、試験対象のシート状材料が、例えば膜厚が極めて薄い金属膜(例えば、100μm以下)である場合には、しなやかさ等の機械的特性を適切に評価することはできない。引張強度試験では、試験片を作製する為に被検物を所定の形状に切断する必要があり、その際に生じるバリや形状のばらつきによって測定結果が影響を受けるからである。
また、材料の機械的特性を評価する手法として、曲げ試験、垂れ試験、ビッカーズ硬度試験なども挙げられるが、試験対象の膜厚が薄い場合には、しなやかさを適切に評価することはできないことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の課題は、膜厚が極めて薄い場合であってもしなやかさを適切に評価することができる、シート状被検物のしなやかさの評価方法及び評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、シート状被検物に対して垂直に押し治具を押し込み、押し治具に加わる力と押し治具の変位量とを測定することにより、上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の事項を含んでいる。
〔1〕被検物支持治具により、シート状被検物に閉じた形状の非支持領域が形成されるように、前記シート状被検物の全周を支持する工程と、
前記シート状被検物に対して垂直に、押し治具の一端を前記非支持領域に押し込み、前記押し治具が受ける力と前記押し治具の変位量との関係を測定する工程とを備える、シート状被検物のしなやかさの評価方法。
〔2〕前記シート状被検物が、金属膜である、
前記〔1〕に記載された方法。
〔3〕前記シート状被検物の厚さが、0.1μm〜100μmである、
前記〔1〕又は〔2〕に記載された方法。
〔4〕前記シート状被検物のしなやか値が、0.5N/mm〜30.0N/mmであり、前記しなやか値が、前記押し治具が受ける力(N)を前記押し治具の変位量(mm)で除した値(N/mm)により表される値である、
前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載された方法。
〔5〕前記シート状被検物が、水素透過金属膜用支持体膜である、
前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載された方法。
〔6〕前記被検物支持治具が、前記シート状被検物を挟持する一対の挟持部材を有し、
前記一対の挟持部材の一方には、開口が設けられており、
前記一対の挟持部材の他方には、前記一方の挟持部材に設けられた開口に対応する位置に、開口又は凹部が設けられており、
前記非支持領域は、前記一方の挟持部材に設けられた開口に対応する位置に形成される
前記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載された方法。
〔7〕前記非支持領域が、直径9mm〜14mmの円形である、
前記〔1〕から〔6〕のいずれかに記載された方法。
〔8〕前記押し治具の一端が、直径5mm〜10mmの球の一部に対応する形状を有している、
前記〔1〕から〔7〕のいずれかに記載された方法。
〔9〕更に、前記押し治具に加わる力と前記押し治具の変位量との関係に基づいて、前記押し治具が受ける力(N)を前記押し治具の変位量(mm)で除した値(N/mm)を、前記シート状被検物のしなやか値として求める工程を備える、前記〔1〕から〔8〕のいずれかに記載された方法。
〔10〕シート状被検物に閉じた形状の非支持領域が形成されるように、前記シート状被検物の全周を支持するように構成された、被検物支持治具と、
押し治具を支持し、前記シート状被検物に対して垂直に、前記押し治具の一端を前記非支持領域に押し込むように構成された、押し治具支持部と、
前記押し治具が受ける力と前記押し治具の変位量との関係を測定する、測定機構と、
を備える、
シート状被検物のしなやかさの評価装置。
〔11〕前記シート状被検物の厚さが、0.1μm〜100μmである
前記〔10〕に記載された評価装置。
〔12〕前記シート状被検物のしなやか値が、0.5N/mm〜30.0N/mmであり、前記しなやか値が、前記押し治具が受ける力(N)を前記押し治具の変位量(mm)で除した値(N/mm)により表される値である、
前記〔10〕又は〔11〕に記載された評価装置。
〔13〕前記シート状被検物が、水素透過金属膜用支持体膜である、
前記〔10〕から〔12〕のいずれかに記載された方法。
〔14〕前記非支持領域が、直径9mm〜14mmの円形である
前記〔10〕から〔13〕のいずれかに記載された評価装置。
〔15〕前記押し治具の一端が、直径5mm〜10mmの球の一部に対応する形状を有している
前記〔10〕から〔14〕のいずれかに記載された評価装置。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、膜厚が極めて薄い場合であってもしなやかさを適切に評価することができる、シート状被検物のしなやかさの評価方法及び評価装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】
図2は、評価装置の一部を示す拡大図である。
【
図3】
図3は、一対の挟持部材を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、シート状被検物のしなやかさの評価方法を示す概略図である。
【
図6】
図6は、実施例1乃至3において得られた変位量と試験力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は、本発明の実施態様に係る評価装置1の外観図である。また、
図2は、評価装置1を示す模式図である。
図1および
図2に示されるように、本実施態様に係る評価装置1は、本体部6、台座2、押し治具支持部3、測定装置10、押し治具4、被検物支持治具5、及び駆動機構12を備えている。尚、押し治具4及び被検物支持治具5は着脱可能であり、
図2においてのみ描かれており、
図1には描かれていない。
【0008】
台座2は、被検物支持治具5を支持するために設けられており、本体部6に固定されている。
被検物支持治具5は、試験対象であるシート状被検物9を支持するために設けられている。被検物支持治具5は、台座2に着脱自在に取り付けられる。
図3は、被検物支持治具5を概略的に示す断面図である。被検物支持治具5は、一対の挟持部材(5−1及び5−2)を有している。一方の挟持部材5−1には、開口8が設けられている。また、他方の挟持部材5−2には、開口8に対応する位置に凹部7が設けられている。開口8及び凹部7は、それぞれ、所定の直径aを有する円形である。尚、挟持部材5−2には、凹部7に代えて開口が設けられていてもよい。また、各挟持部材(5−1、5−2)には、ねじ山(11−1及び11−2)が設けられており、シート状被検物9を挟持した状態で挟持部材5−1を挟持部材5−2に螺合させることができる。
一方、シート状被検物9は、開口8よりも多少大きい直径を有する円形である。シート状被検物9は周縁部で一対の挟持部材(5−1、5−2)により挟持される。
シート状被検物9の中央部、即ち開口8に対応する領域は、被検物支持治具5に当接しない。すなわち、被検物支持治具5は、シート状被検物9の全周を支持するように構成されており、シート状被検物9の中央部には、開口8に対応する閉じた形状の非支持領域が形成される。
【0009】
押し治具支持部3(
図1および
図2参照)は、押し治具4を支持するために設けられている。押し治具支持部3は、シート状被検物9に対して垂直な方向に移動可能になるように、本体部6に取り付けられている。
駆動機構12は、本体部6に取り付けられており、押し治具支持部3を移動させる機能を有している。駆動機構12は、例えばモータである。
【0010】
押し治具4は、棒状である。押し治具4は、シート状被検物9の上方において、シート状被検物9に対して垂直な方向に延びるように、押し治具支持部3によって支持される。また、押し治具4は、その一端が被検物支持治具5の開口8の中心の真上に位置するように、支持される。
図4は、押し治具4の一例を示す概略図である。好ましくは、
図4に示されるように、押し治具4の一端(先端)は、所定の直径bを有する球の一部に対応する形状を有している。
【0011】
測定装置10は、押し治具4に加わる力と、押し治具4の変位量とを検出する機能を有している。詳細には、測定装置10は、ロードセル10−1及びエンコーダ10−2を有している(
図2参照)。ロードセル10−1は、押し治具支持部3と押し治具4との間に設けられており、押し治具4に加わる力を検出する機能を有している。エンコーダ10−2は、駆動機構12に接続されており、押し治具支持部3の変位量、すなわち押し治具4の変位量を検出するように構成されている。
【0012】
続いて、本発明の実施態様に係る評価方法について説明する。
まず、被検物支持治具5によりシート状被検物9を支持し、台座2に取り付ける。また、押し治具4をロードセル10−1を介して押し治具支持部3に取り付ける。
次いで、駆動機構12により、押し治具支持部3を下方(被検物支持治具5側)に移動させる。これにより、
図5に示されるように、押し治具4の一端が、挟持部材5−1に設けられた開口8の中心から、シート状被検物9に垂直に押し込まれる。押し治具4は、シート状被検物9を突き破るまで押し込まれる。このとき、測定装置10により、押し治具4が受ける力と押し治具4の変位量とが測定される。測定結果は、押し治具4が受ける力と押し治具4の変位量との関係を示すデータとして、コンピュータ(図示せず)等に格納される。
【0013】
得られたデータに基づいて、シート状被検物9のしなやかさを示すパラメータが計算される。そのようなパラメータとして、例えば、「しなやか値」が挙げられる。
ここで、本明細書において、「しなやか値」とは、押し治具が受ける力(N)を押し治具の変位量(mm)で除した値(N/mm)により表される値であるものとする。具体的には、変位量を横軸とし、押し治具4が受ける力(試験力)を縦軸としたグラフを作成し、直線性の良好な範囲(例えば線形近似により求めた相関係数R
2が0.9を超える領域)における傾きを求めることにより、しなやか値を算出することができる。
【0014】
上述した評価方法によれば、膜厚が極めて薄い場合であっても、シート状被検物9のしなやかさを適切に評価することが可能になる。詳細には、本実施態様の評価方法により、極めて直線性が高い変位量と試験力との関係を示すデータが得られる。試験力-変位量グラフにおいて、直線性が高い範囲は、試験力と変位量が比例する領域であり、試験力と変位量との関係が最も簡潔に表現された領域である。この領域においては、シート状被検物9のしなやかさが適切に評価結果に反映されている。
また、本実施態様に係る評価方法によれば、引張強度試験を用いた場合とは異なり、試験片形状のばらつきが測定結果に与える影響を小さくすることができる。この観点からも、しなやかさを正確に評価することが可能になる。
【0015】
測定対象のシート状被検物9の種類は特に限定されるものではない。但し、本実施態様の評価方法は、金属膜(例えば、Ni膜、Al膜、及びCu膜)の機械的特性を評価するのに好適である。
【0016】
尚、シート状被検物9が金属膜である場合、その膜厚は、0.1〜100μmであることが好ましく、5μm〜50μmであることがより好ましく、5μm〜20μmであることが更に好ましく、5μm〜15μmであることが最も好ましい。金属膜の膜厚が小さすぎる場合、容易に破膜しやすくなり、正確な測定が困難になりやすい。一方、膜厚が大きすぎる場合、シート状被検物9の構造が板状に近くなり、引張試験機による評価の方が正確にしなやかさを評価できる場合がある。
【0017】
また、測定対象のシート状被検物9は、しなやか値が0.5N/mm〜30.0N/mmであることが好ましく、1.0N/mm〜20.0N/mmであることがより好ましく、2.0N/mm〜10.0N/mmであることが更に好ましい。しなやか値が小さすぎる場合、変位量に対し十分な試験力が得られず、直線性が高い関係(試験力-変位量グラフ)が得られにくくなる。また、しなやか値が大きすぎる場合にも試験力に対し十分な変位量が得られず、やはり直線性が高い関係が得られにくくなる。
【0018】
挟持部材5−1に設けられた開口8の直径a(
図3参照)は、9mm〜14mmであることが好ましく、10mm〜13mmであることがより好ましく、11mm〜12mmであることが更に好ましい。直径aが小さすぎる場合、試験力に対して十分な変位量が得られず、大きすぎる場合、大きな試料面積を必要とすることとなる。
【0019】
押し治具4の一端の形状(
図4参照)は特に限定されるものではないが、既述のように、直径bを有する球の一部に対応する形状であることが好ましい。例えば、押し治具4の一端の形状が多角形である場合は、角部分で押し治具4がシート状被検物9に接触することになり、シート状被検物9に加えられる力が角部分に集中し、シート状被検物9が途中で引き裂かれてしまいやすくなる。その結果、試験力-変位量グラフにおいて直線性が高い関係を有する領域が確保し難くなる。また、押し治具4の一端の形状が平板円形等の平板形状である場合には、この平板形状の端部においてシート状被検物9が鋭角を形成するように変形するため、直線性が高い関係が得られにくくなる。これに対して、押し治具4の一端の形状が球の一部に対応する形状を有している場合、押し治具4が曲面でシート状被検物9と接触する。この場合、押し治具4の押し込み時に、シート状被検物9が鈍角を形成しながら滑らかに引き延ばされるため、より直線性が高い関係が得られやすい。
また、直径bは、5mm〜10mmであることが好ましく、6mm〜9mmであることがより好ましく、7mm〜8mmであることが更に好ましい。直径bが小さすぎる場合、点でシート状被検物9が加圧されることになり、シート状被検物9がすぐに破れやすくなり、直線性が高い領域が確保し難くなる。一方、直径bが大きすぎる場合、被検物支持治具5も大きくする必要があり、必要とする試料面積も大きくなる。
更に、開口8の直径aに対する直径bの比(直径b/直径a)は、0.3〜0.9であることが好ましく、0.4〜0.8であることがより好ましく、0.5〜0.7であることが更に好ましい。直径aに対する直径bの比がこのような範囲であると、直線性が高い関係が得られやすくなる。
【0020】
押し治具4の押し込み速度は、0.1mm/min〜10.0mm/minであることが好ましく、0.5mm/min〜5.0mm/minであることがより好ましく、1.0mm/min〜2.0mm/minであることが更に好ましい。押し込み速度が遅すぎる場合には長時間の試験が必要になる。一方、押し込み速度が速すぎる場合には、シート状被検物9が破膜しやすくなり、直線性が高い領域を十分に確保できないまま破膜してしまいやすい。
【0021】
本実施態様の評価方法は、例えば、水素透過金属膜用支持体膜として用いられる金属膜のしなやかさを評価するのに適している。水素透過金属膜は、水素を選択的に透過させる機能を有する膜であり、水素透過金属層と、水素透過金属層を支持する支持体膜とを有する。水素透過金属層としては、例えばパラジウム、パラジウム−銀合金、またはパラジウム−銅合金などを用いることができる。水素透過金属層の厚さは、例えば0.01μm〜50μm、好ましくは0.5〜20μmである。一方、支持体膜としては、例えば、多孔質Ni膜を用いることができる。多孔質Ni膜の厚みは、例えば、1.0μm〜100μm、好ましくは1μm〜15μmである。
水素透過金属膜は、例えば、メタン含有ガス等の気体または液体の炭化水素、メタノールなどのアルコール類、及び水(水蒸気)を用いる燃料改質装置等において、水素を分離精製するために使用される。このような水素透過金属膜に使用される支持体膜に対しては、水素透過性の観点から膜厚を薄くすることが求められると共に、しなやかさが求められる。そして、本実施態様に係る評価方法は、水素透過金属膜用支持体膜に求められる大きさの膜厚及びしなやかさを有する金属膜の機械的特性を、適切に評価することができる。
【0022】
続いて、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。
[実施例1]
測定対象のシート状被検物9として、圧延法により得られた10μm厚のNi膜を用い、
図1乃至5において説明した評価装置1を使用して、試験力と変位量との関係を測定した。
詳細には、シート状被検物9を直径が20mmの円形になるように切断した。直径が12mmである開口8及び凹部7を有する一対の挟持部材(5−1及び5−2)を用いてシート状被検物9を挟持し、台座2に固定した。また、押し治具4として、一端に直径7mmの球の一部に対応する形状を有する治具を用意し、押し治具支持部3に取り付けた。押し治具支持部3を1mm/minの速度で一対の挟持部材5側に移動させることにより、開口8の中心から押し治具4の一端をシート状被検物9に接触させた。更に、シート状被検物9が突き破れるまで押し治具4を押し込み、測定装置10によって押し治具4の変位量と試験力(押し治具4が受ける力)との関係を測定した。
【0023】
[実施例2]
シート状被検物9として、圧延法により得られた10μm厚のCu膜を用い、実施例1と同様に変位量と試験力との関係を測定した。
[実施例3]
シート状被検物9として、圧延法により得られた10μm厚のAl膜を用い、実施例1と同様に変位量と試験力との関係を測定した。
【0024】
図6は、実施例1乃至3において得られた変位量と試験力との関係を示すグラフである。
図6中、実施例1の結果が線「a」により、実施例2の結果が線「b」により、実施例3の結果が線「c」により、それぞれ示されている。ここで、
図6の各グラフにおいて、試験力が急激に低下している部分は、シート状被検物9が突き破れた点(以下、破断点)に対応する。
図6に示したグラフにおいて、直線性の良好な範囲(線形近似にて相関係数R
2>0.9)を求め、その傾きをしなやか値として算出した。その結果、実施例1(Ni膜)のしなやか値は15.78N/mmであり、実施例2(Cu膜)のしなやか値は13.50N/mmであり、実施例3(Al膜)のしなやか値は1.97N/mmであった。
【0025】
図6に示されるように、実施例1乃至3のいずれにおいても、変位量と試験力との関係は、原点から破断点までの領域において非常に高い直線性を示している。このことは、本発明による方法により得られたデータが、シート状被検物9の弾性的性質を正確に反映していることを示している。
【0026】
[比較例]
実施例1乃至3で使用したシート状被検物9を用いて、引張強度試験により機械的特性の評価を試みた。しかしながら、いずれのシート状被検物9を用いた場合も、シート状被検物9の厚みが薄すぎて試験片を適切に把持することができず、適切な試験結果を得ることができなかった。引張試験では、シート状被検物9の切り抜き時に発生するバリにより、試験途中でシート状被検物9が破断する場合が多く、その傾向は膜厚が薄くなるほど顕著であった。
【符号の説明】
【0027】
1 評価装置
2 台座
3 押し治具支持部
4 押し治具
5 被検物支持治具
5−1、5−2) 挟持部材
6 本体部
7 凹部
8 開口
9 シート状被検物
10 測定装置
10-1 ロードセル
10-2 エンコーダ
11(11−1〜11−2) ねじ山
12 駆動機構