特許第6265202号(P6265202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265202
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】撥水膜形成用組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20180115BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20180115BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20180115BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20180115BHJP
   C09D 183/02 20060101ALI20180115BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   C09K3/18 104
   C09D183/08
   C09D183/12
   C09D5/00 Z
   C09D183/02
   B32B27/00 101
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-500235(P2015-500235)
(86)(22)【出願日】2014年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2014053091
(87)【国際公開番号】WO2014126064
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2016年7月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-28135(P2013-28135)
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077849
【弁理士】
【氏名又は名称】須山 佐一
(72)【発明者】
【氏名】竹田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】星野 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】石関 健二
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−350404(JP,A)
【文献】 特開2002−145645(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/008380(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
B32B 27/00
C09D 5/00
C09D 183/02
C09D 183/08
C09D 183/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(1):Rf1−Q−SiR3−p
(式中、
f1は、基:C2l+1(ここで、lは、1〜6の整数である)であり、
は、炭素原子数1〜6の2価の炭化水素基であり、
は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜6の1価の炭化水素基であり、
は、それぞれ独立して、水酸基又は加水分解性基であり、
pは、0〜2の整数である)
で表される化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と、
(B)式(2):Z−Rf2−Z
(式中、
f2は、基:−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)n8(ここで、n8は、1以上の整数である)で示される基であり、
及びZは、それぞれ独立して、Rf3、又は基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hであるが、いずれか一方は基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hであり、
(ここで、
f3は、基:C2m+1(ここで、mは、1〜6の整数である)であり、
は、−(CH−(ここで、sは、0〜12の整数である)であるか、又はエステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合及びフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上を含有する−(CH−であり、−CH−単位の一部又は全部は、−CF−単位及び/又は−CFCF−単位によって置き換えられていてもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1〜6の1価の炭化水素基であって、該炭化水素基は置換基を含有していてもよく、
は、それぞれ独立して、水酸基又は加水分解性基であり、
qは、0〜2の整数であり、
rは、1〜20の整数である)
で表され、かつ数平均分子量が2600〜10000である化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と、を含むか、あるいは
前記(A)の成分と前記(B)の成分との部分加水分解共縮合物を含む、
撥水膜形成用組成物。
【請求項2】
式(2)で表される化合物が、数平均分子量が2800〜10000である、請求項1に記載の撥水膜形成用組成物。
【請求項3】
式(2)におけるZがRf3であり、Zが基:−Q−{(CHCH(SiR3−q)}−H(ここで、Rf3、Q、R、X、q及びrは、請求項1で定義されたとおりである)である、請求項1又は2に記載の撥水膜形成用組成物。
【請求項4】
式(2)で表される化合物が、式(2’):
f3’−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)n8−Q2’−CHCHSiX2’
(式中、
f3’は、CF又はCFCF−であり、
2’は、−CFCFO−CFCFCF−C(O)NH−CH−又は−CFCFO−CFCFCFCH−O−CH−であり、
2’は、それぞれ独立して、アルコキシ基、ハロゲン原子又はイソシアナト基であり、n8は1以上の整数である)で表わされる化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水膜形成用組成物。
【請求項5】
組成物における、式(1)で表される化合物由来の部分と式(2)で表される化合物由来の部分との質量比が、0.9:0.1〜0.1:0.9である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の撥水膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の撥水膜形成用組成物を用いて形成した撥水膜。
【請求項7】
基体上の少なくとも一部に、請求項6に記載の撥水膜を備えた撥水膜付き基体。
【請求項8】
基体と撥水膜との間に、シリカを含む下地膜を備えた請求項7に記載の撥水膜付き基体。
【請求項9】
下地膜が、式(3):SiY
(式中、Yはそれぞれ独立して、アルコキシ基、ハロゲン原子又はイソシアナト基である)で表される化合物、又はその部分加水分解縮合物を含む、下地膜形成用組成物を用いて形成されたものである、請求項8に記載の撥水膜付き基体。
【請求項10】
基体がガラスを含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の撥水膜付き基体。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載の撥水膜付き基体を含む、輸送機器用物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水膜形成用組成物、この撥水膜形成用組成物を用いて形成した撥水膜、基体上の少なくとも一部にこの撥水膜を備えた撥水膜付き基体、及び、この撥水膜付き基体を含む輸送機器用物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種技術分野において、基体の表面に撥水性を付与することが求められている。撥水性を付与する方法としては、基体の表面に撥水性の被膜を形成することが一般的に行なわれており、そのような被膜を形成するための組成物に関する技術開発がなされている。特に、基体が、自動車ガラス等の輸送機器用物品の基体である場合、組成物には、被膜に対して撥水性を付与することに加えて、耐摩耗性や耐候性といった耐久性を付与することも強く求められる。耐久性に優れた撥水膜を形成し得る組成物として、含フッ素ポリエーテル基を有する加水分解性シラン化合物と含フッ素アルキル基を有する加水分解性シラン化合物を組み合わせた組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/016458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に具体的に開示される組成物によって形成される撥水膜は、撥水性に優れ、耐摩耗性に優れたものである一方、耐薬品性(耐アルカリ薬剤性及び耐塩水噴霧性)及び耐光性の点からは改善の余地があることが、本発明者らの研究により見出された。中でも、含フッ素アルキル基を有する加水分解性シラン化合物として、鎖長の短い含フッ素アルキル基(例えば、炭素原子数6個以下のペルフルオロアルキル基)を有するものを使用した場合、良好な耐薬品性を得ることが困難であることが見出された。
【0005】
本発明は、上記観点からなされたものであって、耐薬品性及び耐光性に優れた撥水膜を形成し得る撥水膜形成用組成物の提供を目的とする。更に、この撥水膜形成用組成物を用いて形成した撥水膜、基体上の少なくとも一部にこの撥水膜を備えた撥水膜付き基体、並びに、この撥水膜付き基体を含む輸送機器用物品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を要旨とする。
[1](A)式(1):Rf1−Q−SiR3−p
(式中、Rf1は、基:C2l+1(ここで、lは、1〜6の整数である)であり、
は、炭素原子数1〜6の2価の炭化水素基であり、
は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜6の1価の炭化水素基であり、
は、それぞれ独立して、水酸基又は加水分解性基であり、
pは、0〜2の整数である)で表される化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と、
(B)式(2):Z−Rf2−Z
(式中、
f2は、基:−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)n8(ここで、n8は、1以上の整数である)で示される基であり、
及びZは、それぞれ独立して、Rf3、又は基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hであるが、いずれか一方は基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hであり、
(ここで、Rf3は、基:C2m+1(ここで、mは、1〜6の整数である)であり、
は、−(CH−(ここで、sは、0〜12の整数である)であるか、又はエステル結合、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合及びフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上を含有する−(CH−であり、−CH−単位の一部又は全部は、−CF−単位及び/又は−CFCF−単位によって置き換えられていてもよく、
は、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素原子数1〜6の1価の炭化水素基であって、該炭化水素基は置換基を含有していてもよく、
は、それぞれ独立して、水酸基又は加水分解性基であり、
qは、0〜2の整数であり、
rは、1〜20の整数である)で表され、かつ数平均分子量が2600〜10000である化合物及び/又はその部分加水分解縮合物と、を含むか、あるいは
前記(A)の成分と前記(B)の成分との部分加水分解共縮合物を含む、
撥水膜形成用組成物。
【0007】
[2]式(2)で表される化合物が、数平均分子量が2800〜10000である、上記[1]に記載の撥水膜形成用組成物。
[3]式(2)におけるZがRf3であり、Zが基:−Q−{(CHCH(SiR3−q)}−H(ここで、Rf3、Q、R、X、q及びrは、上記[1]で定義されたとおりである)である、上記[1]又は[2]に記載の撥水膜形成用組成物。
]式(2)で表される化合物が、式(2’):
f3’−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)n8−Q2’−CHCHSiX2’
(式中、Rf3’は、CF又はCFCF−であり、
2’は、−CFCFO−CFCFCF−C(O)NH−CH−又は−CFCFO−CFCFCFCH−O−CH−であり、
2’は、それぞれ独立して、アルコキシ基、ハロゲン原子又はイソシアナト基であり、n8は1以上の整数である)で表わされる化合物である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の撥水膜形成用組成物。
]組成物における、式(1)で表される化合物由来の部分と式(2)で表される化合物由来の部分との質量比が、0.9:0.1〜0.1:0.9である、上記[1]〜[]のいずれかに記載の撥水膜形成用組成物。
【0008】
]上記[1]〜[]のいずれか記載の撥水膜形成用組成物を用いて形成した撥水膜。
]基体上の少なくとも一部に、上記[]に記載の撥水膜を備えた撥水膜付き基体。
]基体と撥水膜との間に、シリカを含む下地膜を備えた上記[]に記載の撥水膜付き基体。
]下地膜が、式(3):SiY
(式中、Yはそれぞれ独立して、アルコキシ基、ハロゲン原子又はイソシアナト基である)で表される化合物、又はその部分加水分解縮合物を含む、下地膜形成用組成物を用いて形成されたものである、上記[]に記載の撥水膜付き基体。
[1]基体がガラスを含む、上記[]〜[]のいずれかに記載の撥水膜付き基体。
[1]上記[]〜[1]のいずれかに記載の撥水膜付き基体を含む、輸送機器用物品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐薬品性(耐アルカリ薬剤性及び耐塩水噴霧性)及び耐光性に優れた撥水膜を形成し得る撥水膜形成用組成物を提供することができる。更に、本発明によれば、この撥水膜形成用組成物を用いて形成した撥水膜、基体上の少なくとも一部にこの撥水膜を備えた撥水膜付き基体、並びに、この撥水膜付き基体を含む輸送機器用物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は下記説明に限定して解釈されるものではない。
本明細書において、式で表される化合物又は基は、その式の番号を付した化合物又は基としても表記し、例えば式(1)で表される化合物は、化合物(1)とも表記する。本明細書において、「化合物(1)由来の部分」は、化合物(1)の部分加水分解縮合物及び化合物(1)と他の加水分解性シラン化合物の部分加水分解共縮合物における化合物(1)に由来する単位と未反応の化合物(1)を総称する用語である。
【0011】
[撥水膜形成用組成物]
本発明の撥水膜形成用組成物は、(A)化合物(1)及び/又はその部分加水分解縮合物(すなわち、化合物(1)及びその部分加水分解縮合物の群から選ばれる少なくとも1種)とを含むか、あるいは前記(A)成分と前記(B)成分の部分加水分解共縮合物を含む。本発明の組成物により形成される撥水膜は、(B)成分のペルフルオロアルキレン基の鎖長が長いため、アルカリ薬剤や塩水に曝されても、基材と撥水剤の結合点へのアルカリや塩水の浸入が防がれることから撥水性を維持する構造を保つことができ、また、光での分解を受けても、(B)成分のペルフルオロアルキレン基の鎖長が長いため撥水性を維持する構造を保つことができる。一方で、エーテル結合を有さないため光に強い(A)成分が併用されていることから、効率的に耐候性を発揮することができる。
【0012】
<(A)化合物(1)及び/又はその部分加水分解縮合物>
化合物(1)について説明する。化合物(1)は、上記式(1)で表される。
【0013】
上記式におけるRf1は、基:C2l+1(ここで、lは、1〜6の整数である)であり、直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。中でも、耐候性の点から、直鎖状の基:CF(CFl―1(ここで、lは、上記のとおりである)が好ましく、より好ましくはCF(CF−、CF(CF−、又はCF(CF−であり、特にCF(CF−が好ましい。
【0014】
上記式におけるQは、炭素原子数1〜6の2価の炭化水素基であり、炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、アミド基を有するアルキレン基、エーテル基を有するアルキレン基等が挙げられる。中でも、耐候性の点から、炭素原子数1〜6の直鎖状のアルキレン基:−(CH−(ここで、tは1〜6の整数である)が好ましく、より好ましくは−(CH−、−(CH−、又は−(CH−であり、特に−(CH−が好ましい。
【0015】
上記式におけるRは、炭素原子数1〜6の1価の炭化水素基であり、炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。中でも、入手容易性の点から、炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基又はエチル基である。複数存在する場合、Rは、同一であっても、異なっていてもよいが、入手容易性の点から同じであるものが好ましい。
【0016】
上記式におけるXは、水酸基又は加水分解性基である。ここで、加水分解性基は、Si−Xの加水分解によって、Si−OHを形成し得る基をいい、例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトオキシム基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アミノオキシ基、アミド基、イソシアナト基、ハロゲン原子等が挙げられる。Xは、水酸基、アルコキシ基(例えば、炭素原子数1〜4のアルコキシ基)、イソシアナト基、又はハロゲン原子(例えば、塩素原子)が好ましく、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、又は塩素原子であり、特にメトキシ基である。複数存在する場合、Xは、同一であっても、異なっていてもよいが、入手容易性の点から同じであるものが好ましい。
【0017】
上記式におけるpは、0〜2の整数であり、密着性、耐久性の点から、0又は1が好ましく、より好ましくは0である。
【0018】
化合物(1)としては、例えば、以下が挙げられる。式中、l、t、X、Rの例示及び好ましい態様は、上記のとおりである。
式(1−1):CF(CFl―1−(CH−SiX
式(1−2):CF(CFl―1−(CH−SiR
【0019】
化合物(1)は、単独でも、2種以上を併用してもよい。化合物(1)は、一般的な製造方法で製造可能であり、また、商業的に入手可能である。
【0020】
(A)成分は、化合物(1)であっても、化合物(1)の部分加水分解縮合物であっても、これらの混合物であってもよい。混合物は、未反応の化合物(1)が含まれる化合物(1)の部分加水分解縮合物であってもよい。
【0021】
本明細書において、化合物(1)のような加水分解性シラン化合物の部分加水分解複合物とは、溶媒中で、酸触媒やアルカリ触媒等の触媒と水の存在下に、該化合物が有する加水分解性基の全部又は一部が加水分解し、次いで脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)をいう。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、リン酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられ、アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。なお、これら触媒の水溶液を使用することにより、加水分解に必要な水を反応系に存在させることも可能である。部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解するような程度に調整することが好ましい。
【0022】
<(B)数平均分子量2600以上である化合物(2)及び/又はその部分加水分解縮合物>
化合物(2)について説明する。化合物(2)は、上記式(2)で表され、その片末端又は両末端に、ケイ素に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有する化合物である。
【0023】
上記式におけるRf2は、−O−(C2aO)−(ここで、aは、1〜6の整数であり、nは、1以上の整数であり、各−C2aO−単位は、同一であっても、異なっていてもよい)である。ここで、−C2aO−単位は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよく、例えば、−CFCFCFCFCFCFO−、−CFCFCFCFCFO−、−CFCFCFCFO−、−CFCFCFO−、−CF(CF)CFO−、−CFCFO−、−CFO−が挙げられる。nは、所望の数平均分子量に応じて、適宜、調整することができる。nの好ましい上限値は、150である。
【0024】
f2は、複数の単位の組み合わせであってもよく、その場合、各単位は、ブロックで存在していても、ランダムに存在していてもよい。例えば、耐光性の向上の点から、−CFCFCFCFCFCFO−、−CFCFCFCFCFO−、−CFCFCFCFO−を含むことが好ましく、左記構造の存在比率は大きいほうが好ましく、合成容易性の点からより好ましくは−CFCFCFCFO−と−CFCFO−とを組み合わせた単位である−CFCFO−CFCFCFCFO−である。
【0025】
f2は、具体的には、−O−(CFCFCFCFCFCFO)n1−(CFCFCFCFCFO)n2−(CFCFCFCFO)n3−(CFCFCFO)n4−(CF(CF)CFO)n5−(CFCFO)n6−(CFO)n7−(ここで、n1、n2、n3、n4、n5、n6及びn7は、それぞれ独立して、0以上の整数であるが、n1、n2、n3、n4、n5、n6及びn7の合計は1以上であり、各繰り返し単位は、ブロックで存在していても、ランダムに存在していてもよい)が挙げられ、好ましくは、基:−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)n8(ここで、n8は、1以上の整数である)が挙げられる。
【0026】
上記式におけるZ及びZは、それぞれ独立して、Rf3、又は基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hであるが、いずれか一方は基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hである。撥水性、塗膜外観の良好性の点から、好ましくは、ZがRf3であり、Zが基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hであるが、両方が基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hであってもよい。
【0027】
f3は、基:C2m+1(ここで、mは、1〜6の整数である)であり、直鎖状でも、分岐鎖状でもよい。中でも、入手容易性の点から、直鎖状の基:CF(CFm―1(ここで、mは、上記のとおりである)が好ましく、より好ましくはCF−、又はCF(CF−であり、特にCF(CF−が好ましい。
【0028】
基:−Q−{CHCH(SiR3−q)}−Hにおける、Qは、−(CH−(ここで、sは、0〜12の整数である)であるか、又はエステル結合(−C(=O)−O−、−O−C(=O)−)、エーテル結合(−O−)、アミド結合(−C(=O)NH−、−NH−C(=O)−)、ウレタン結合(−NH−C(=O)−O−、−O−C(=O)−NH−)及びフェニレン基から選ばれる1種以上を含有する−(CH−であり、−CH−単位の一部又は全部は、−CF−単位及び/又は−CFCF−単位によって置き換えられていてもよい。Qは、CF−C(=O)NH−CH基又はCF−CH−O−CH基を有することが好ましく、より好ましくは−CFCFO−CFCFCF−C(=O)NH−CH−又は−CFCFO−CFCFCFCH−O−CH−である。
【0029】
は、水素原子、又は炭素原子数1〜6の1価の炭化水素基であって、該炭化水素基は置換基を含有していてもよい。炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。中でも、入手容易性の点から、炭素原子数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基又はエチル基である。置換基としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子)が挙げられる。複数存在する場合、Rは、同一であっても、異なっていてもよいが、入手容易性の点から同じであるものが好ましい。
【0030】
は、水酸基又は加水分解性基であり、加水分解性基としては、Xにおける加水分解性基の例示及び好ましい態様が適用される。複数存在する場合、Xは、同一であっても、異なっていてもよいが、入手容易性の点から同じであるものが好ましい。
【0031】
qは、0〜2の整数であり、密着性、耐久性の点から、0又は1が好ましく、より好ましくは0である。
【0032】
上記式におけるrは、1〜20の整数であり、好ましくは1〜5の整数であり、例えば1が挙げられる。
【0033】
化合物(2)は、数平均分子量2600以上であり、耐薬品性の向上の点の点から、好ましくは2800〜100000であり、より好ましくは2800〜10000である。ここで、数平均分子量は、NMR分析法を用い、末端基を基準にしてオキシペルフルオロアルキレン単位の数(平均値)を求めることによって算出される。
【0034】
化合物(2)としては、例えば、以下が挙げられる。
式(2’):Rf3’−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)n8−Q2’−CHCHSiX2’
(式中、Rf3’は、CF又はCFCF−であり、
2’は、−CFCFO−CFCFCF−C(O)NH−CH−又は−CFCFO−CFCFCFCH−O−CH−であり、
2’は、それぞれ独立して、アルコキシ基(例えば、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、好ましくはメトキシ基又はエトキシ基)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子)又はイソシアナト基であり、
n8は1以上の整数である)で示される化合物。
【0035】
化合物(2)は、例えば、以下のようにして合成することができる。原料として、ペルフルオロアルキレン基の両末端に、それぞれ、CF=CF−O−、及びカルボキシ基又はカルボキシ基に転換可能な基を有する化合物を用意し、これをアルコール又はフッ素含有アルコールの存在下で重合させて、ペルフルオロ化されたオキシアルキレン単位を繰り返し単位として含む化合物を形成する。次いで、これをフッ素化した後、次いで、低級アルコールと反応させ、場合により、エチレン性不飽和結合を片方の末端に形成させた後、反応性基を有する加水分解性基含有シラン化合物を反応させることにより得ることができる。
【0036】
上記以外にも、化合物(2)として、オプツールDSX、オプツールAES(ダイキン工業社製)、ダウコーニング2634コーティング(東レ・ダウコーニング社製)等の市販品を使用することもできる。また、特開2011−116947号公報に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー組成物も使用することができる。この場合、組成物は、式(2)においてZ及びZの両方がRf3である化合物との混合物として供給される。
【0037】
(B)成分は、化合物(2)であっても、化合物(2)の部分加水分解縮合物であっても、これらの混合物であってもよい。混合物は、未反応の化合物(2)が含まれる化合物(2)の部分加水分解縮合物であってもよい。部分加水分解縮合物の縮合度(多量化度)は、適宜、調整することができる。
【0038】
本発明の撥水膜形成用組成物は、(A)成分及び(B)成分を含むか、あるいは(A)成分と(B)成分の部分加水分解共縮合物を含むか、あるいは(A)成分の部分加水分解共縮合物と(B)成分を含むか、あるいは(A)の成分部分加水分解共縮合物と(B)成分の部分加水分解共縮合物とを含むか、あるいは(A)の成分部分加水分解共縮合物と(B)成分の部分加水分解共縮合物との部分加水分解縮合物を含む。(A)成分と(B)成分の部分加水分解共縮合物を使用する場合、これに更に(A)成分又は(B)成分、あるいは(A)成分及び(B)成分の混合物を添加してもよい。
【0039】
(A)成分と(B)成分の部分加水分解共縮合物とは、上記と同様に、溶媒中で、酸触媒やアルカリ触媒等の触媒と水の存在下に、該化合物が有する加水分解性基の全部又は一部が加水分解し、次いで脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)をいう。部分加水分解共縮合物の縮合度(多量化度)は、適宜、調整することができる。
【0040】
本発明の組成物は、効率的に撥水膜に耐薬品性を付与する点から、(A)成分及び(B)成分、あるいは(A)成分及び(B)成分の加水分解共縮合物を、化合物(1)由来の部分と化合物(2)由来の部分との質量比(化合物(1)由来の部分:化合物(2)由来の部分)が、0.9:0.1〜0.1:0.9になるように使用することが好ましく、より好ましくは、0.8:0.2〜0.1:0.9であり、さらに好ましくは、0.6:0.4〜0.1:0.9であり、特に好ましくは、0.3:0.7〜0.1:0.9である。
【0041】
本発明の組成物は、作業性、撥水膜の厚さ制御等のし易さ等の点から、有機溶媒を含むことができる。有機溶媒としては、必須成分を溶解させるものを使用することができ、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類、エステル類(例えば、酢酸エステル類)等が挙げられる。中でも、フッ素原子を含む有機溶媒(例えば、フルオロアルコール、フルオロ炭化水素(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロ−1,3−ジメチルシクロへキサン、ジクロロペンタフルオロプロパン等)、フルオロエーテル(CFCHOCFCHF等))が好ましい。有機溶媒は単独でも、2種以上を併用してもよい。本発明の組成物は、(A)成分、(B)成分、あるいはこれらの部分加水分解共縮合化合物を製造するために使用した有機溶媒を含んでいてもよい。
【0042】
有機溶媒の割合は、(A)成分及び(B)成分、あるいは(A)成分及び(B)成分の加水分解共縮合物の合計質量を100質量部として、得られる撥水膜の均一性の点から、9900質量部以下が好ましく、より好ましくは2900質量部以下であり、例えば、400〜2900質量部とすることができる。
【0043】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、機能性添加剤を含むことができる。機能性添加剤としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物の微粒子、染料、顔料、防汚性材料、硬化触媒、各種樹脂等が挙げられる。機能性添加剤の添加料は、組成物の固形分(有機溶媒等の揮発分を除いた成分)を100質量部として、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下であり、例えば、1〜10質量部とすることができる。
【0044】
本発明の組成物を用いて撥水膜を形成することができる。撥水膜の形成方法は、含フッ素オルガノシラン化合物系の表面処理剤における公知の方法を用いることができ、例えば、基体の表面に、組成物を、はけ塗り、流し塗り、回転塗布、浸漬塗布、スキージ塗布、スプレー塗布、手塗りで適用し、大気中又は窒素雰囲気下において、必要に応じて乾燥させた後、硬化させる方法が挙げられる。硬化の条件は、適宜、選択することができ、例えば、温度20〜50℃、湿度50〜95%RHの条件が挙げられる。撥水膜の厚さは、特に限定されないが、50nm以下であることが好ましく、例えば、2〜20nmの厚さとすることができる。
【0045】
[撥水膜付き基体]
<基体>
本発明の撥水膜付き基体における基体は、一般に撥水性の付与が求められている材質からなる基体であれば特に限定されない。このような基体として、金属、プラスチック、ガラス、セラミック、又はその組み合わせ(複合材料、積層材料等)が挙げられ、中でもガラスが好ましい。
【0046】
ガラスは、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス及び石英ガラス等が挙げられ、ソーダライムガラスが好ましい。なお、基体がソーダライムガラスである場合は、Naイオンの溶出を防止する膜を更に設けることが耐久性の点で好ましい。また、基体がフロート法で製造されたガラスである場合は、表面スズ量の少ない面に、下地層及び撥水膜を設けることが耐久性の点で好ましい。
【0047】
基体の形状は、特に限定されず、板状又は全面若しくは一部が曲率を有する形状であることができる。基体の厚さは、用途により適宜選択でき、1〜10mmであることが好ましい。
【0048】
撥水膜付き基体において、撥水膜は基体上の少なくとも一部に形成される。基体表面の撥水膜が形成される領域は特に限定されず、用途より適宜選択できる。基体が板状の場合、撥水膜は、通常基体の両方の主面又はいずれか一方の主面の全面に形成される。
【0049】
<下地層>
本発明の撥水膜付き基体は、基体と撥水膜との間に、シリカを含む下地膜を備えることができる。このような下地膜を備えることで、撥水膜と基体との密着性が増し、耐久性の一層の向上が期待できる。
【0050】
下地膜は、式(3):Si(Y)
(式中、Yは、それぞれ独立して、アルコキシ基、ハロゲン原子又はイソシアナト基である)で示される化合物、又はその部分加水分解縮合物等を用いて形成することができる。
【0051】
式(3)において、Yは、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、塩素原子又はイソシアナト基であることが好ましく、4個のYは同一であることが好ましい。
【0052】
化合物(3)としては、具体的には、Si(NCO)、Si(OCH、Si(OC等が挙げられる。
【0053】
下地膜の形成方法は、公知の方法を用いることができ、下地膜形成用の加水分解性シラン化合物(例えば、化合物(3)やその部分加水分解縮合物)と溶媒とを含む組成物を、基板の表面に適用し、必要に応じて乾燥させた後、硬化させる方法が挙げられる。
【0054】
下地膜の厚さは、特に限定されないが、20nm以下とすることが好ましく、例えば、1〜10nmとすることができる。
【0055】
[輸送機器用物品]
本発明の撥水膜付き基体は、これを含む輸送機器用物品として用いることができる。輸送機器としては、電車、自動車、船舶及び航空機が挙げられる。また、これに用いられる物品としては、ボディー、窓ガラス(例えば、フロントガラス、サイドガラス及びリアガラス)、ミラー及びバンパーが挙げられる。輸送機器用物品として、輸送機器用窓ガラスが好ましく、自動車用窓ガラスがより好ましい。
【0056】
本発明の撥水膜は、静的撥水性に優れ、かつアルカリ薬剤や塩水に曝されても、良好な撥水性を維持することができる。そのため、輸送機器用物品としての屋外での使用を含む各種使用条件下での長期使用においても撥水性を維持することができ、当該用途に適している。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0058】
[撥水膜形成用組成物]
本発明の撥水膜形成用組成物に配合する各成分は、以下のとおりである。
<化合物(1)>
化合物(i):CF(CFCHCHSiCl (シンクエスト社製)
【0059】
<化合物(2)>
化合物(ii−1)は、以下のようにして調製した。
(工程1−1)
300mLの3つ口丸底フラスコに、水素化ホウ素ナトリウム粉末の14.1gを取り入れ、AK−225(製品名、旭硝子社製、HCFC225)の350gを加えた。氷浴で冷却しながら撹拌し、窒素雰囲気下、内温が10℃を超えないように化合物(4)の100g、メタノールの15.8g、およびAK−225の22gを混合した溶液を滴下漏斗からゆっくり滴下した。全量滴下した後、更にメタノールの10gとAK−225の10gを混合した溶液を滴下した。その後、氷浴を取り外し、室温までゆっくり昇温しながら撹拌を続けた。室温で12時間撹拌後、再び氷浴で冷却し、液性が酸性になるまで塩酸水溶液を滴下した。反応終了後、水で1回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した後、固形分をフィルタによりろ過し、エバポレータで濃縮した。回収した濃縮液を減圧蒸留し、化合物(5)の80.6g(収率88%)を得た。
CF=CFO−CFCFCFCOOCH ・・・(4)、
CF=CFO−CFCFCFCHOH ・・・(5)。
【0060】
化合物(5)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):2.2(1H)、4.1(2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−85.6(2F)、−114.0(1F)、−122.2(1F)、−123.3(2F)、−127.4(2F)、−135.2(1F)。
【0061】
(工程1−2)
還流冷却器を接続した100mLのナスフラスコに、TFEOの6.64gを取り入れ、炭酸カリウム粉末の7.32gを加えた。窒素雰囲気下、75℃で撹拌しながら、工程1−1で得た化合物(5)の19.87gを加え、1時間撹拌した。続いて120℃まで昇温し、化合物(5)の113.34gを内温が130℃以下になるように制御しながら、ゆっくりと滴下した。全量滴下した後、120℃に保ちながら更に1時間撹拌し、加熱を止めて室温に下がるまで撹拌を続けた。塩酸水溶液を加えて、過剰の炭酸カリウムを処理し、水とAK−225を加えて分液処理を行った。3回の水洗後、有機相を回収し、エバポレータで濃縮することによって、高粘度のオリゴマーを得た。再び、AK−225の150gで希釈し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒:AK−225)に展開して分取した。各フラクションについて、単位数(n+1)の平均値を19F−NMRの積分値から求めた。下式(6)中、(n+1)の平均値が7〜10のフラクションを合わせた化合物(6−i)の48.5g、(n+1)の平均値が13〜16のフラクションを合わせた化合物(6−ii)の13.2gを得た。
CFCH−O−(CFCFHO−CFCFCFCHO)n+1−H ・・・(6)。
【0062】
化合物(6−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重アセトン、基準:TMS) δ(ppm):4.1(2H)、4.8(16H)、6.7〜6.9(8H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重アセトン、基準:CFCl) δ(ppm):−74.2(3F)、−84.3〜−85.1(16F)、−89.4〜−90.5(16F)、−120.2(14F)、−122.0(2F)、−126.6(14F)、−127.0(2F)、−145.1(8F)。
単位数(n+1)の平均値:8。
【0063】
化合物(6−ii)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重アセトン、基準:TMS) δ(ppm):4.1(2H)、4.8(28H)、6.7〜6.9(14H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重アセトン、基準:CFCl) δ(ppm):−74.2(3F)、−84.3〜−85.1(28F)、−89.4〜−90.5(28F)、−120.2(26F)、−122.0(2F)、−126.6(26F)、−127.0(2F)、−145.1(14F)。
単位数(n+1)の平均値:14。
【0064】
(工程1−3)
還流冷却器を接続した300mLのナスフラスコに、工程1−2で得た化合物(6−i)の113.33g、フッ化ナトリウム粉末の5.0g、およびAK−225の150gを取り入れ、CFCFCFOCF(CF)COFの84.75gを加えた。窒素雰囲気下、50℃で13時間撹拌した後、70℃で3時間撹拌した。加圧ろ過器でフッ化ナトリウム粉末を除去した後、過剰のCFCFCFOCF(CF)COFとAK−225を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィ(展開溶媒:AK−225)で高極性の不純物を除去し、下式(7)中、単位数(n+1)の平均値が8である、化合物(7−i)の100.67g(収率80%)を得た。
CFCH−O−(CFCFHO−CFCFCFCHO)n+1−C(=O)CF(CF)OCFCFCF ・・・(7)。
【0065】
化合物(7−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):4.4(16H)、4.9(2H)、6.0−6.2(8H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−75.2(3F)、−80.0(1F)、−81.9(3F)、−82.7(3F)、−84.7〜−85.0(16F)、−86.0(1F)、−90.5〜−93.0(16F)、−121.1(2F)、−121.5(14F)、−128.0(16F)、−130.3(2F)、−132.5(1F)、−145.3(8F)。
単位数(n+1)の平均値:8。
【0066】
(工程1−4)
オートクレーブ(ニッケル製、内容積1L)を用意し、オートクレーブのガス出口に、0℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113(CFClCFCl)の750gを投入し、25℃に保持しながら撹拌した。オートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、窒素ガスで20体積%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を、25℃、流速3.2L/時間で1時間吹き込んだ。次いで、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブに、工程1−3で得た化合物(7−i)の130gをR−113の448gに溶解した溶液を、22時間かけて注入した。
次いで、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧した。オートクレーブ内に、R−113中に0.015g/mLのベンゼンを含むベンゼン溶液の8mLを、25℃から40℃にまで加熱しながら注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。20分撹拌した後、再びベンゼン溶液の4mLを、40℃を保持しながら注入し、注入口を閉めた。同様の操作を更に7回繰り返した。ベンゼンの注入総量は0.6gであった。
更に、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、1時間撹拌を続けた。次いで、オートクレーブ内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。オートクレーブの内容物をエバポレータで濃縮し、下式(8)中、単位数(n)の平均値が7である、化合物(8−i)の152.1g(収率99%)を得た。
CFCF−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)−CFCFOCFCFCFCFO−C(=O)CF(CF)OCFCFCF ・・・(8)。
【0067】
化合物(8−i)のNMRスペクトル;
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−80.0(1F)、−82.0〜−82.5(6F)、−84.0(30F)、−86.7〜87.8(6F)、−89.2(34F)、−126.5(32F)、−130.4(2F)、−132.4(1F)。
単位数(n)の平均値:7。
【0068】
(工程1−5)
500mLのテトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルコキシビニルエーテル)共重合体(以下、PFAと記す。)製丸底ナスフラスコに、工程1−4で得た化合物(8−i)の120gおよびAK−225の240gを入れた。氷浴で冷却しながら撹拌し、窒素雰囲気下、メタノールの6.1gを滴下漏斗からゆっくり滴下した。窒素でバブリングしながら12時間撹拌した。反応混合物をエバポレータで濃縮し、下式(9)中、単位数(n)の平均値が7である、前駆体(9−i)の108.5g(収率100%)を得た。
CFCF−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)−CFCFOCFCFCFC(=O)OCH ・・・(9)。
【0069】
前駆体(9−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.9(3H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.0(30F)、−88.2(3F)、−89.2(34F)、−119.8(2F)、−126.5(30F)。
単位数(n)の平均値:7。
【0070】
(工程1−6)
300mLのナスフラスコに、工程1−5で得た前駆体(9−i)の92.5gおよびHNCHCHCHSi(OCHの6.51gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、前駆体(9−i)の98%が化合物(10−i)に変換していることを確認した。また、HNCHCHCHSi(OCHのすべてが反応しており、副生物であるメタノールが生成していた。このようにして、下式(10)中、単位数(n)の平均値が7である、化合物(10−i)を97%含む組成物を得た。この組成物を化合物(ii−1)として使用した。化合物(10−i)の数平均分子量は、2,900であった。
CFCF−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)−CFCFOCFCFCFC(=O)NHCHCHCH−Si(OCH ・・・(10)。
【0071】
化合物(10−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):0.6(2H)、1.6(2H)、2.8(1H)、3.3(2H)、3.5(9H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.1(30F)、−87.9(3F)、−89.3(34F)、−120.8(2F)、−126.6(28F)、−127.2(2F)。
単位数(n)の平均値:7。
【0072】
化合物(ii−2)は、以下のようにして調製した。
(工程2−1)
還流冷却器を接続した200mLのナスフラスコに、工程1−2で得た化合物(6−ii)の114.72g、フッ化ナトリウム粉末の8.1g、およびAK−225の101.72gを取り入れ、CFCFCFOCF(CF)COFの95.18gを加えた。窒素雰囲気下、50℃で12時間撹拌した後、室温で終夜撹拌した。加圧ろ過器でフッ化ナトリウム粉末を除去した後、過剰のCFCFCFOCF(CF)COFとAK−225を減圧留去した。シリカゲルクロマトグラフィ(展開溶媒:AK−225)で高極性の不純物を除去し、上式(7)中、単位数(n+1)の平均値が14である、化合物(7−ii)の94.57g(収率77%)を得た。
【0073】
化合物(7−ii)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):4.4(28H)、4.9(2H)、6.0−6.2(14H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−75.2(3F)、−80.0(1F)、−81.9(3F)、−82.7(3F)、−84.7〜−85.0(28F)、−86.0(1F)、−90.5〜−93.0(28F)、−121.1(2F)、−121.5(26F)、−128.0(28F)、−130.3(2F)、−132.5(1F)、−145.3(14F)。
単位数(n+1)の平均値:14。
【0074】
(工程2−2)
オートクレーブ(ニッケル製、内容積3L)を用意し、オートクレーブのガス出口に、0℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113の2,350gを投入し、25℃に保持しながら撹拌した。オートクレーブに窒素ガスを25℃で1時間吹き込んだ後、20%フッ素ガスを、25℃、流速4.2L/時間で1時間吹き込んだ。次いで、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブに、工程2−1で得た化合物(7−ii)の213gをR−113の732gに溶解した溶液を、29時間かけて注入した。
次いで、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧した。オートクレーブ内に、R−113中に0.009g/mLのベンゼンを含むベンゼン溶液の4mLを、25℃から40℃にまで加熱しながら注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。20分撹拌した後、再びベンゼン溶液の5mLを、40℃を保持しながら注入し、注入口を閉めた。同様の操作を更に7回繰り返した。ベンゼンの注入総量は0.4gであった。
更に、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、1時間撹拌を続けた。次いで、オートクレーブ内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。オートクレーブの内容物をエバポレータで濃縮し、上式(8)中、単位数(n)の平均値が13である、化合物(8−ii)の250.1g(収率99%)を得た。
【0075】
化合物(8−ii)のNMRスペクトル;
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−80.3(1F)、−82.0〜−82.5(6F)、−84.2(54F)、−86.9〜88.0(6F)、−89.4(58F)、−126.6(56F)、−130.4(2F)、−132.4(1F)。
単位数(n)の平均値:13。
【0076】
(工程2−3)
500mLのPFA製丸底ナスフラスコに、工程2−2で得た化合物(8−ii)の110gおよびAK−225の220gを入れた。氷浴で冷却しながら撹拌し、窒素雰囲気下、メタノールの3.5gを滴下漏斗からゆっくり滴下した。窒素でバブリングしながら12時間撹拌した。反応混合物をエバポレータで濃縮し、上式(9)中、単位数(n)の平均値が13である、前駆体(9−ii)の103g(収率100%)を得た。
【0077】
前駆体(4a−1ii)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.9(3H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.0(54F)、−88.2(3F)、−89.2(58F)、−119.8(2F)、−126.5(54F)。
単位数(n)の平均値:13。
【0078】
(工程2−4)
300mLのナスフラスコに、工程2−3で得た前駆体(9−ii)の100.5gおよびHNCHCHCHSi(OCHの4.38gを入れ、12時間撹拌した。NMRから、前駆体(9−ii)の98%が化合物(10−ii)に変換していることを確認した。また、HNCHCHCHSi(OCHのすべてが反応しており、副生物であるメタノールが生成していた。このようにして、上式(10)中、単位数(n)の平均値が13である、化合物(10−ii)を97%含む組成物を得た。この組成物を、化合物(ii−2)として使用した。化合物(10−ii)の数平均分子量は、4,900であった。
【0079】
化合物(10−ii)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):0.6(2H)、1.6(2H)、2.8(1H)、3.3(2H)、3.5(9H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.1(54F)、−87.9(3F)、−89.3(58F)、−120.8(2F)、−126.6(52F)、−127.2(2F)。
単位数(n)の平均値:13。
【0080】
化合物(ii−3)は、以下のようにして調製した。
(工程3−1)
500mLの3つ口ナスフラスコに、塩化リチウムの0.92gをエタノールの91.6gに溶解させた。これに工程1−5で得た前駆体(9−i)の120.0gを加えて氷浴で冷却しながら、水素化ホウ素ナトリウムの3.75gをエタノールの112.4gに溶解した溶液をゆっくり滴下した。その後、氷浴を取り外し、室温までゆっくり昇温しながら撹拌を続けた。室温で12時間撹拌後、液性が酸性になるまで塩酸水溶液を滴下した。AK−225の100mLを添加し、水で1回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をエバポレータで濃縮し、下式(11)中、単位数(n)の平均値が7である、化合物(11−i)の119.0g(収率100%)を得た。
CFCF−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)−CFCFOCFCFCFCHOH ・・・(11)。
【0081】
化合物(11−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):1.8(1H)、4.0(2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.1(30F)、−87.7(3F)、−89.3(34F)、−123.7(2F)、−126.6(28F)、−127.8(2F)。
単位数(n)の平均値:7。
【0082】
(工程3−2)
500mLの3つ口ナスフラスコ内にて、水素化ナトリウムの2.26gをテトラヒドロフラン(以下、THFと記す。)の22.6gに懸濁した。これに工程3−1で得た化合物(11−i)の118.5gをAC−2000(製品名、旭硝子社製)の212.4gで希釈した溶液を滴下し、更に臭化アリルの15.7gを滴下した。油浴で70℃として5時間撹拌した。得られた反応粗液を水で1回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機相を回収した。回収した有機相をシリカゲルカラムに通し、回収した溶液をエバポレータで濃縮し、ヘキサンで3回洗浄し、下式(12)中、単位数(n)の平均値が7である、前駆体(12−i)の99.9g(収率83%)を得た。
CFCF−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)−CFCFOCFCFCFCHO−CHCH=CH ・・・(12)。
【0083】
前駆体(12−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.8(2H)、4.1(2H)、5.2(2H)、5.9(2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.1(30F)、−87.7(3F)、−89.3(34F)、−120.5(2F)、−126.6(28F)、−127.6(2F)。
単位数(n)の平均値:7。
【0084】
(工程3−3)
100mLのポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す。)製密閉式耐圧容器に、工程3−2で得た前駆体(12−i)の49.0g、ジ−tert−ブチルペルオキシドの0.26g、トリクロロシランの23.7gおよびHFE−7300(製品名、3M社製)の24.5gを入れ、120℃で8時間撹拌した。減圧濃縮して未反応物や溶媒等を留去した後、滴下ロートを備えたフラスコに入れ、HFE−7300の50gを入れて室温で撹拌した。オルトギ酸トリメチルとメタノールの混合溶液15.0g(オルトギ酸トリメチル:メタノール=25:1[mol:mol])を滴下し、60℃にて3時間反応させた。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、残渣に0.05gの活性炭を加えて1時間撹拌した後、0.5μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、下式(13)中、単位数(n)の平均値が7である、化合物(13−i)と、下式(14)中、単位数(n)の平均値が7である、化合物(14−i)との混合物の49.5g(収率97%)を得た。化合物(13−i)と化合物(14−i)とのモル比は、NMRより93:7であった。混合物の数平均分子量は、2,900であった。この混合物を、化合物(ii−3)として使用した。
CFCF−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)−CFCFOCFCFCFCHOCHCHCH−Si(OCH ・・・(13)、
CFCF−O−(CFCFO−CFCFCFCFO)−CFCFOCFCFCFCHOCHCH(CH)−Si(OCH ・・・(14)。
【0085】
化合物(13−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):0.7(2H)、1.7(2H)、3.6(11H)、3.8(2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.1(30F)、−87.7(3F)、−89.3(34F)、−120.8(2F)、−126.6(28F)、−127.6(2F)。
化合物(14−i)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):1.1(3H)、1.8(1H)、3.6(11H)、3.8(2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):−84.1(30F)、−87.7(3F)、−89.3(34F)、−120.8(2F)、−126.6(28F)、−127.6(2F)。
単位数(n)の平均値:7。
【0086】
化合物(ii−4)は、特開2011−116947号公報の実施例1に従って合成した。化合物(ii−4)は以下の構造を有し、(15a)50モル%、(15b)25モル%及び(15c)25モル%よりなる混合物である。数平均分子量は、4400である。
F3C(OC2F4)p(OCF2)q-OCF2CH2OC3H6Si(OCH3)3 (15a)
(CH3O)3SiC3H6OCH2-CF2-(OC2F4)p(OCF2)q-OCF2CH2OC3H6Si(OCH3)3 (15b)
F3C(OC2F4)p(OCF2)q-OCF3 (15c)
(p/q=0.9,p+q≒45)
【0087】
化合物(ii−5)は、オプツールDSX(ダイキン工業社製)であり、以下の構造を有する。数平均分子量は約4000である。
上記した化合物(ii−1)〜化合物(ii−5)は、本発明の化合物(2)の実施例に係わる化合物である。
【化1】
【0088】
化合物(ii−6):CFO(CFCFO)CFCONHCSi(OCH
(aは7〜8であり、平均値:7.3。数平均分子量:1200)
上記した化合物(ii−6)は、本発明の化合物(2)に対する比較例に係わる化合物である。
【0089】
[撥水膜形成用組成物の調液]
酢酸ブチル(純正化学社製)及びハイドロフルオロエーテル(AE3000、旭硝子社製、CFCHOCFCHF)の混合溶媒(酢酸ブチル:AE3000が質量比で2:8)を用いて、化合物(A)に相当する成分と、化合物(B)に相当する成分を表1に示す量比で含む混合物を、混合溶媒を100質量%とした場合に、7質量%となるように希釈し、60分間撹拌して、撥水膜形成用組成物を得た。
【0090】
[下地膜形成用組成物の調製]
酢酸ブチル(純正化学社製)で、テトライソシアナトシラン(マツモトファインケミカル社製)を5質量%となるように希釈して、下地膜形成用成物を得た。
【0091】
[撥水膜の形成]
基体として、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(水接触角5度、300mm×300mm×厚さ3mm)を用い、該ガラス基板の表面に、上記で得られた下地層形成用組成物0.5gをスキージコート法によって塗布し、25℃で1分間乾燥し下地層(未硬化)を形成した。次いで、形成した下地層(未硬化)の表面に、上記で得られた撥水層形成用組成物のいずれかの0.5gをスキージコート法によって塗布し、50℃、60%RHに設定された恒温恒湿槽で48時間保持して撥水層を形成すると同時に下地層の硬化を行った後、撥水層の表面を2−プロパノールを染み込ませた紙ウェスで拭き上げることで、基体側から順に下地層/撥水層からなる撥水膜を有する撥水膜付き基体を得た。
【0092】
[評価]
上記の例で得られた撥水膜付き基体の評価を、以下のように行った。
<撥水性>
撥水性は以下の方法で測定した水接触角(CA)で評価した。まず、以下の各試験を行う前に初期値を測定した。なお、初期の水接触角(CA)が100°以上であれば、実使用に充分耐える撥水性を有するといえる。
(水接触角(CA))
撥水膜付き基体の撥水膜表面に置いた、直径1mmの水滴の接触角をDM−701(協和界面科学社製)を用いて測定した。撥水膜表面における異なる5ヶ所で測定を行い、その平均値を算出した。
【0093】
<耐薬品性>
(耐アルカリ性試験)
撥水膜付き基体を1規定NaOH水溶液(pH:14)に2時間浸漬した後、水洗、風乾し、上記方法により水接触角を測定した。上記試験後における水接触角(CA)が70°以上であれば、実使用に充分な耐アルカリ性を有するといえる。
(塩水噴霧試験(SST))
JIS H8502に準拠して塩水噴霧試験を行った。すなわち、撥水膜付き基体の撥水膜表面を、塩水噴霧試験機(スガ試験機社製)内で300時間塩水雰囲気に暴露した後、上記方法により水接触角を測定した。上記試験後における水接触角(CA)が70°以上であれば、実使用に充分な耐塩水性を有するといえる。
【0094】
<耐光性>
(耐光性試験)
撥水膜付き基体の撥水膜表面に対し、東洋精機社製SUNTEST XLS+を用いて、ブラックパネル温度63℃にて、光線(650W/m、300〜700nm)を1500時間照射した後、上記方法により水接触角を測定した。上記試験後における水接触角(CA)が100°以上であれば、実使用に充分な耐光性を有するといえる。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示されるように、実施例の撥水膜付き基体は、初期撥水性に優れ、かつ耐アルカリ性試験、塩水噴霧試験及び耐光性試験後にも、良好な撥水性を維持していることがわかる。特に、(B)成分の量が増加すると、耐アルカリ性試験、塩水噴霧試験及び耐光性試験後における、撥水性の維持が一層、良好になる傾向があることがわかる。また、化合物(ii−1)及び(ii−2)を用いた実施例の撥水膜付き基体は、耐光性試験後の撥水性の維持の点で優れていることがわかる。
一方、比較例1〜3では、本発明の(B)成分に相当する成分の数平均分子量が小さい組成物が用いられているが、耐アルカリ性試験後に撥水性を維持することができず、また、比較例1及び2では、塩水噴霧試験後の水接触角の低下幅も大きかった。さらに、比較例4では、本発明の(A)成分のみを含む組成物が用いられているが、耐アルカリ性試験後、塩水噴霧試験後及び耐光性試験後の水接触角の低下幅が大きく、比較例5では、本発明の(B)成分のみを含む組成物が用いられているが、耐光性試験後の水接触角の低下幅が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、耐薬品性(耐アルカリ薬剤性及び耐塩水噴霧性)及び耐光性に優れた撥水膜を形成し得る撥水膜形成用組成物を提供される。
なお、2013年2月15日に出願された日本特許出願2013−028135号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。