特許第6265287号(P6265287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6265287選択性透過膜、その製造方法及び水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6265287
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】選択性透過膜、その製造方法及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/02 20060101AFI20180115BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20180115BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20180115BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20180115BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B01D69/02
   B01D69/10
   B01D71/06
   C02F1/44 D
   B01D69/12
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-28152(P2017-28152)
(22)【出願日】2017年2月17日
【審査請求日】2017年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮下 若菜
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−100645(JP,A)
【文献】 特開2016−159268(JP,A)
【文献】 特表2008−540108(JP,A)
【文献】 WANG Miaoqi et al.,Layer-by-layer Assembly of Aquaporin Z-Incorporated Biomimetic Membranes for Water Purification,Environmental Science & Technology,米国,2015年 3月17日,Vol.49,No.6,P.3761-3768
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的透過性を有した支持膜と、該支持膜の表面に形成された、チャネル物質を含有する脂質膜とを有する選択性透過膜において、
該支持膜が圧力0.1MPaにおいて20L/(m・h)以上の透過流束と1%〜20%の脱塩性能を有する支持膜であり、
該支持膜が多孔質体と、該多孔質体を被覆する荷電性高分子層とを有し、
該荷電性高分子層は、交互に形成されたカチオン性高分子層とアニオン性高分子層とを有する交互被覆層よりなり、
該交互被覆層の層数が2〜4であり、
前記多孔質体がMF膜又はUF膜であることを特徴とする選択性透過膜。
【請求項2】
0.1MPaにおいて1L/(m・h)以上の透過流束と90%以上の脱塩性能を有することを特徴とする請求項1に記載の選択性透過膜。
【請求項3】
前記チャネル物質が、グラミシジン、アムモテリシンB、及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の選択性透過膜。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の選択性透過膜を製造する方法であって、前記支持膜上に前記脂質膜を形成する工程と、余分な脂質を酸又はアルカリで除去する工程とを有する選択性透過膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の選択性透過膜を用いて被処理水を膜分離処理する工程を有する水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理分野で使用される選択性透過膜に係り、特に脂質膜よりなる被覆層を有する選択性透過膜に関する。また、本発明は、この選択性透過膜の製造方法と、この選択性透過膜を用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水、かん水の淡水化や、工業用水および超純水の製造、排水回収などの分野で、選択性透過膜として、逆浸透(RO)膜が広く用いられている。RO膜処理は、イオンや低分子有機物を高度に除去できるという利点を有するが、一方、精密濾過(MF)膜や限外濾過(UF)膜と比べ、高い運転圧力を必要とする。RO膜の透水性を高めるために、例えば、ポリアミドRO膜においては、スキン層のひだ構造を制御し、表面積を大きくするなどの工夫がなされてきた。
【0003】
RO膜は、被処理水に含まれる生物代謝物などの有機物により汚染される。汚染が生じた膜は、透水性が低下するため、定期的な薬品洗浄が必要となるが、洗浄の際に膜が劣化することで分離性能が低下する。
【0004】
膜汚染を抑制する方法として、RO膜等の選択性透過膜を、リン脂質の親水基であるホスフォコリン基を有するポリマーで被覆する方法が知られている。バイオミメティックな表面が選択性透過膜上に形成され、生物代謝物による汚染を防止する効果が期待できる(特許文献1)。
【0005】
近年、水分子を選択的に輸送する膜タンパク質であるアクアポリンが水チャネル物質として注目され、このタンパク質を組み込んだリン脂質膜は、従来のポリアミドRO膜よりも理論上高い透水性を有する可能性が示唆されている(非特許文献1)。
【0006】
水チャネル物質を組み込んだ脂質膜を有する選択性透過膜の製造方法として、水チャネル物質を組み込んだ脂質二分子膜を多孔質支持体でサンドイッチする方法、多孔質支持体の孔内部に脂質二分子膜を組み込む方法、疎水性膜周囲に脂質二分子膜を形成する方法などがある(特許文献2)。
【0007】
脂質二分子膜を多孔質支持体でサンドイッチする方法では、脂質膜の耐圧性は向上するが、被処理水と接触する多孔質支持体自体が汚染される、多孔質支持体の中で濃度分極が発生して阻止率が大きく低下する、多孔質支持体が抵抗となり透水性が低下するおそれなどがある。
【0008】
選択的透過性を有した膜本体の表面を水チャネル物質を組み込んだリン脂質膜で被覆し、このリン脂質膜を露出させた状態で分離層として機能させたRO膜にあっては、リン脂質膜の耐圧性が課題となる。
【0009】
特許文献3には、カチオン性のリン脂質を用いることでナノろ過(NF)膜へ強固に担持させることが記載されている。NF膜が支持膜の場合は、耐圧性は高くなるが、透水性が低いため、得られる透過流束が低くなることが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6022827号
【特許文献2】特開2012−192408号
【特許文献3】特許第6028533号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Pohl, P. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98,9624-9629.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
リン脂質二分子膜を多孔質支持体でサンドイッチにする方法では、被処理水と接触する多孔質支持体自体が汚染される、多孔質支持体の中で濃度分極が発生して阻止率が大きく低下する、多孔質支持体が抵抗となり透水性が低下するおそれなどがある。
【0013】
特許文献3では支持膜がNF膜であり、緻密であるため、耐圧性は向上するが、NF膜自体の透水性が低いことにより、得られる膜の透過流束が低くなる。特許文献3で使用されているNF膜の純水透過流束は、圧力0.1MPaの時、11L/(m・h)であり、脱塩率は50%〜55%である。実施例で得られている、NF膜にチャネル物質を含むリン脂質膜を担持した選択性透過膜の純水透過流束は、圧力0.1MPaの時、0.8L/(m・h)と、1L/(m・h)以下である。
【0014】
本発明は、透水性に優れた選択性透過膜と、この選択性透過膜の製造方法と、この選択性透過膜を用いた水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の選択性透過膜は、選択的透過性を有した支持膜と、該支持膜の表面に形成された、チャネル物質を含有する脂質膜とを有する選択性透過膜において、該支持膜が圧力0.1MPaにおいて20L/(m・h)以上の透過流束と1%〜20%の脱塩性能を有する支持膜であり、該支持膜が多孔質体と、該多孔質体を被覆する荷電性高分子層とを有し、該荷電性高分子層は、交互に形成されたカチオン性高分子層とアニオン性高分子層とを有する交互被覆層よりなり、該交互被覆層の層数が2〜4であり、前記多孔質体がMF膜又はUF膜であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の一態様では、前記チャネル物質が、グラミシジン、アムモテリシンB、及びこれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1つである。
【0020】
本発明の選択性透過膜の製造方法は、前記支持膜上に前記脂質膜を形成する工程と、余分な脂質を酸又はアルカリで除去する工程とを有する。
本発明の水処理方法は、本発明の選択性透過膜を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、支持膜として、圧力0.1MPaにおいて20L/(m・h)以上の透過流束と1%〜20%の脱塩性能を有するものを用いており、選択性透過膜が透水性に優れたものとなる。即ち、この支持膜を用いることで、透過流束が支持膜の透過流束に依存することなく、また、脂質膜を保持することが可能となり、高い透過流束と耐圧性を有する選択性透過膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実験設備の模式的説明図である。
図2】実験設備の模式的説明図である。
図3】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
図4】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
図5】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の選択性透過膜は、選択的透過性を有した支持膜と、該支持膜の表面に形成された、チャネル物質を含有する脂質膜とを有する。この支持膜は、圧力0.1MPaにおいて20L/(m・h)以上の透過流束と1%〜20%の脱塩性能を有する。
【0024】
特許文献3と同じ条件で、支持膜としてMF膜やUF膜を使用すると、チャネル物質を含むリン脂質膜を担持した時の耐圧性は、0.1MPa以下となる。
【0025】
そこで、本発明では、支持膜として、圧力0.1MPaの時に20L/(m・h)以上、好ましくは20〜200L/(m・h)、特に好ましくは20〜100L/(m・h)の純水透過流束、脱塩率1〜20%を有する支持膜を用いる。この支持膜は、NF膜とUF膜との中間の特性を有する。かかる支持膜を用いることにより、選択性透過膜の透過流束を高く維持しつつ、耐圧性を向上させることができる。
【0026】
[支持膜]
この支持膜としては、多孔質体の表面に交互積層(LBL)法によりカチオン性高分子とアニオン性高分子とを交互に被覆させたものを用いることができる。LBL法は、カチオン性高分子とアニオン性高分子を高分子間の静電相互作用を用いて交互に吸着、積層することで、層の厚さをnmレベルで制御可能な手法であり、透過流束と耐圧性を変化させることができる。
【0027】
多孔質体としては、特に限定されるものではないが、例えばセルロース混合エステル膜、酢酸セルロース膜、ポリエーテルスルホン膜、ポリフッ化ビニリデン膜などの高分子膜や、シリカ膜、ゼオライト膜、アルミナ膜などの無機膜など、水処理やガス分離に広く用いられる多孔膜を用いることができるが、MF膜又はUF膜が好適である。
【0028】
LBL法にあっては、好ましくは、この多孔質体表面にカチオン性高分子を塗布し、洗浄する。この状態を0.5層膜とする。カチオン性高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば4級アンモニウム基を有するポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDADMAC)や、アミノ基を有するポリビニルアミジン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリリジン、キトサンなどを用いることができる。
【0029】
次に、アニオン性高分子を塗布し、洗浄する。この状態を1.0層膜とする。アニオン性高分子としては、特に限定されるものではないが、例えばスルホン酸基を有するポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)、ポリビニルスルホン酸ナトリウムや、カルボン酸基を有するポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0030】
更に、カチオン性高分子を塗布し、洗浄することで、最表面がカチオン性の1.5層膜が得られる。これらの操作により、多孔質体上にカチオン性高分子層とアニオン性高分子層との交互被覆層を形成した支持膜が製造される。カチオン性高分子層とアニオン性高分子層との合計の層数は1〜5特に2〜4程度が好ましい。
【0031】
[脂質膜]
この支持膜上に形成する脂質膜としては、リン脂質二分子膜が好ましい。支持膜表面にリン脂質二分子膜を形成させる方法としては、ラングミュア−ブロジェット法、リポソーム融合法が挙げられる。リポソーム融合法では、上記のようにして得られた支持膜を、膜表面と反対の電荷を有する脂質を含むリポソームの分散液に浸漬させることで、静電的相互作用により支持膜上に形成される。
【0032】
リポソームの調製方法としては静置水和法や超音波法、エクストルージョン法など、一般的な手法を用いることができるが、均一に製膜する観点から、単一膜のリポソームを用いることが好ましく、単一膜のリポソームの調製が容易なエクストルージョン法を用いることが好ましい。
【0033】
リポソームを構成するリン脂質としては、特に限定されるものではないが、上記のようにして得られた支持膜の表面電位がカチオン性の場合はアニオン性脂質を、アニオン性の場合にはカチオン性脂質を含むことが好ましい。リポソームの安定性、及び製膜性の観点から、10〜90mol%の範囲で中性脂質を含むことが好ましい。
【0034】
アニオン性脂質としては、特に限定されるものではないが、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルグリセロール、1,2−ジオレオイルホスファチジルグリセロール、1,2−ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジン酸、1,2−ジオレオイルホスファチジン酸、1,2−ジパルミトイルホスファチジン酸、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルセリン、1,2−ジオレオイルホスファチジルセリン、1,2−ジパルミトイルホスファチジルセリン、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルイノシトール、1,2−ジオレオイルホスファチジルイノシトール、1,2−ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、1’,3’−ビス[1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスフォ]−sn−グリセロール、1’,3’−ビス[1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスフォ]−sn−グリセロールなどを用いることができる。カチオン性脂質としては、特に限定されるものではないが、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン、1,2−パルミトイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール塩酸塩などを用いることができる。中性脂質としては、特に限定されるものではないが、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、1,2−ジオレオイルホスファチジルコリン、1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、1,2−ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、エルゴステロールなどを用いることができる。アルキル基を有する脂質を用いる場合、炭素数12−24のアルキル基を有する脂質であることが好ましい。アルキル基中に1−3個の二重結合、もしくは三重結合を有していても良い。
【0035】
チャネル物質としては、アクアポリン、グラミシジン、アムホテリシンB、あるいはそれらの誘導体などを用いることができる。
【0036】
チャネル物質のリポソームへの導入方法としては、リポソーム調製段階にあらかじめ混合する方法や、製膜後に添加する方法などを用いることができる。
【0037】
リポソーム融合法によってリン脂質二分子膜を形成するに際しては、まずリン脂質を好ましくはチャネル物質と共に溶媒に溶解させる。溶媒としては、クロロホルム、クロロホルム/メタノール混合液などを用いることができる。
【0038】
リン脂質とチャネル物質との混合割合は、2者の合計に占めるチャネル物質の割合が1〜20モル%特に3〜10モル%となる程度が好適である。
【0039】
次に、リン脂質とチャネル物質との0.25〜10mM特に0.5〜5mMの溶液を調製し、減圧乾燥させることにより、乾燥脂質膜を得、これに純水を添加し、リン脂質の相転移温度よりも高い温度とすることにより、球殻形状を有したリポソームの分散液とする。
【0040】
本発明で用いるリポソーム分散液のリポソームの平均粒径は、好ましくは0.05〜5μm、特に好ましくは0.05〜0.4μmである。
【0041】
このリポソーム分散液と支持膜とを接触させ、このリポソーム分散液に接触させた状態に0.5〜6Hr特に1〜3Hr程度保つことにより、膜本体の表面にリポソームを吸着させ、リン脂質二分子膜の被覆層を形成する。その後、被覆層付きの膜本体を溶液から引き上げ、必要に応じ余分な脂質を酸又はアルカリで除去し、次いで超純水又は純水で水洗することにより、リン脂質二分子膜の被覆層を有した選択性透過膜が得られる。
【0042】
リン脂質二分子膜の厚さは1〜10層特に1〜3層程度であることが好ましい。このリン脂質二分子膜の表面に、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、タンニン酸、ポリアミノ酸、ポリエチレンイミン、キトサンなどのリン脂質と反対の電荷を有する物質を吸着させてもよい。
【0043】
本発明の選択性透過膜を用い、逆浸透膜処理又は正浸透膜処理において透過水を得る場合、駆動圧力0.05〜3MPaの範囲で、透水量1×10−11−2−1Pa−1以上を得ることができる。
【0044】
なお、本発明の選択性透過膜の用途としては、海水、かん水の脱塩処理、工水、下水、水道水の浄化処理の他、ファインケミカル、医薬、食品の濃縮などの用途が例示される。被処理水の温度は10〜40℃特に15〜35℃程度が好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例について説明する。まず、支持膜の製造材料、製造方法及び膜の特性評価方法等について説明する。
【0046】
[多孔質体(膜本体)]
以下の実施例及び比較例では、多孔質体(膜本体)として、セルロース混合エステル膜(直径25mm、孔径0.05μm、ミリポア社製)を用いた。
【0047】
[荷電性高分子]
カチオン性高分子としてポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDADMAC、平均分子量40万〜50万、シグマアルドリッチ)、アニオン性高分子としてポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、平均分子量20万、シグマアルドリッチ)を用いた。
【0048】
[支持膜の作製]
<比較例1に用いる支持膜>
まず、上記多孔質体(膜本体)を真空プラズマ装置(YHS−R、魁半導体社製)を用いて1分間処理した。プラズマ処理した膜本体を1g/LのPDADMAC(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド)水溶液に5分間浸漬し、純水で1分間洗浄した(0.5層膜)。次に、1g/LのPSS(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)水溶液に5分間浸漬し、純水で1分間洗浄した(1.0層膜)。更に、1g/LのPDADMAC水溶液に5分間浸漬し、純水で1分間洗浄した(1.5層膜)。得られた膜を、10mmol/Lの硫酸マグネシウム水溶液に1時間浸漬し、純水で洗浄し、リン脂質層を形成させる膜として用いた。
【0049】
<実施例1に用いる支持膜>
上記1.5層膜を形成した後、さらに上記のPDADMACとPSSの製膜を交互に行い、最表面がカチオン性の積層膜3.5層膜を有する支持膜を得た。
【0050】
操作圧力0.1MPaの時の各支持膜の純水透過流束と脱塩率を表1に示す。なお、この特性は、後述の評価方法によって測定した。
【0051】
【表1】
【0052】
比較例用支持膜では、LBL法での層数が少ないため、十分な被覆層が形成されておらず、純水透過流束は高いが脱塩率が得られていない。一方、実施例用支持膜では、十分な純水透過流束と脱塩率が得られている。
【0053】
[リン脂質二分子膜の形成]
<リン脂質>
アニオン性リン脂質として、1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−(1’−rac−グリセロール)(ナトリウム塩)(POPG、日油)を用いた。中性リン脂質として1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC、日油)を用いた。
【0054】
<チャネル物質>
チャネル物質としては、グラミシジンA(GA、シグマアルドリッチ)を用いた。
【0055】
<リポソーム分散液の調製>
POPCとPOPGを7:3のモル比でクロロホルムに溶解し(合計の濃度95mol%)、この溶液にトリフルオロエタノールに溶解したGAをGA濃度がリン脂質に対して5mol%になるように混合し、エバポレーターにより有機溶媒を蒸発させ、容器内に残存した乾燥脂質薄膜に純水を添加し、45℃で水和させることで、リポソーム分散液を調製した。得られたリポソーム分散液は、液体窒素と45℃の湯浴に交互に浸漬操作を5回繰り返す凍結融解法により、粒成長させた。リポソーム分散液は孔径0.1μmのポリカーボネートトラックエッチング膜(Nucrepore、GEヘルスケア)を用い、押し出し整粒し、脂質濃度が0.4mmol/Lになるよう純水で希釈してリポソーム分散液を調製した。
【0056】
<POPC/POPG被覆膜の製膜>
このリポソーム分散液中に、上記の膜本体を40℃で2時間浸漬させることで、膜本体にリン脂質を吸着させた。その後、純水で洗浄することにより、膜本体に余分に吸着したリン脂質を剥がし、POPC/POPG被覆膜を製膜して選択性透過膜を製造した。
【0057】
[膜の特性の評価方法]
図1,2に示す平膜試験装置を用いて膜の耐圧性を評価した。
【0058】
この平膜試験装置において、RO膜供給水は、配管11より高圧ポンプ4で、密閉容器1のRO膜をセットした平膜セル2の下側の原水室1Aに供給される。図2に示すように、密閉容器1は、原水室1A側の下ケース1aと、透過水室1B側の上ケース1bとで構成され、下ケース1aと上ケース1bとの間に、平膜セル2がOリング8を介して固定されている。平膜セル2はRO膜2Aの透過水側が多孔質支持板2Bで支持された構成とされている。平膜セル2の下側の原水室1A内はスターラー3で撹拌子5を回転させることにより撹拌される。RO膜透過水は平膜セル2の上側の透過水室1Bを経て配管12より取り出される。濃縮水は配管13より取り出される。密閉容器1内の圧力は、給水配管11に設けた圧力計6と、濃縮水取出配管13に設けた圧力調整バルブ7により調整される。
【0059】
圧力調整バルブ7により、膜表面にかかる圧力を0〜0.6MPaに調整した。供給液には、純水透過流束を評価する場合は純水を、脱塩率を評価する場合は0.05wt%の塩化ナトリウム水溶液を用いた。純水を通水した時の透過液の重量変化から純水透過流束を求めた。塩化ナトリウム水溶液を通水した時の透過液と濃縮液の電導度から以下の式より脱塩率を求めた。
脱塩率=1−透過液の電導度/濃縮液の電導度
【0060】
[比較例1]
上記比較例用支持膜(被覆膜1.5層)に上記方法によりリン脂質二分子層を形成し、選択性透過膜を製造した。
【0061】
[実施例1]
上記実施例用支持膜(被覆膜3.5層)に上記方法によりリン脂質二分子層を形成し、選択性透過膜を製造した。
【0062】
[実施例2]
リン脂質二分子層を形成させる際、POPCとPOPGを3:7のモル比で調製したリポソーム分散液に浸漬させたこと以外は実施例1と同様にして、選択性透過膜を製造した。
【0063】
[実施例3]
実施例1と同様にリン脂質二分子層を形成後、pH9.0の水酸化ナトリウム水溶液を用いて膜表面を洗浄し(アルカリ洗浄)、選択性透過膜を製造した。
【0064】
比較例1、実施例1、実施例2、実施例3により製造した選択性透過膜について、上記評価方法によって測定した透過流束(Water flux)の圧力(Pressure)依存性を図3(a)、(b)、(c)、(d)にそれぞれ示す。また、図3に基づいて、0.1MPa当りの透過流束を求め、操作圧力に対してプロットした結果を図4(a)、(b)、(c)、(d)にそれぞれ示す。
【0065】
図3より、比較例1、実施例1、実施例2、実施例3、共に、0.1MPaの圧力で1L/(m ・h)以上の透過流束が得られている。図4より、比較例1では、0.1MPa当りの透過流束が圧力によって変化しており、膜の破壊が進行していると考えられる。一方、実施例1、実施例2、実施例3では、0.6MPaにおいても一定に保たれており、膜が耐圧性を有していることが分かる。実施例の場合はLBLによる被覆層形成で脱塩性能が発現しているため、リン脂質二分子膜の構造を保持することができるようになったと考えられる。脱塩率を測定したところ、比較例1では0%であったのに対し、実施例2では96%であった。チャネル物質であるGAにより水分子が透過する一方で、リン脂質二分子層により、塩化ナトリウムが阻止されたためであると考えられる。
【0066】
0.1MPaの圧力で透過流速を測定した結果を図5に示す。実施例2については、実施例1と同様の透過性が得られており、アニオン性脂質の比率を変化させても膜が得られることを示している。実施例3については、実施例1より高い透水性が得られており、アルカリ洗浄により余分なリン脂質が除去されたためであると考えられる。
【0067】
以上の実施例及び比較例から明らかな通り、本発明によると、チャネル物質を含むリン脂質膜を支持膜に安定に担持することができ、高い透水性と耐圧性を得ることができる。その結果、RO膜や正浸透膜としての使用が可能となる。
【要約】
【課題】透水性に優れた選択性透過膜及びその製造方法と、この選択性透過膜を用いた水処理方法を提供する。
【解決手段】選択的透過性を有した支持膜と、該支持膜の表面に形成された、チャネル物質を含有する脂質膜とを有する選択性透過膜において、該支持膜が圧力0.1MPaにおいて20L/(m・h)以上の透過流束と1%〜20%の脱塩性能を有することを特徴とする選択性透過膜。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5