特許第6265369号(P6265369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6265369放射能汚染土壌および汚染シルト洗浄剤およびこれを用いた洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265369
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】放射能汚染土壌および汚染シルト洗浄剤およびこれを用いた洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20180115BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   G21F9/12 511A
   G21F9/28 521A
   G21F9/28 525A
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-168489(P2013-168489)
(22)【出願日】2013年8月14日
(65)【公開番号】特開2015-36406(P2015-36406A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 栄一
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】木田 敏之
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−127441(JP,A)
【文献】 特開2013−137289(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065744(WO,A1)
【文献】 特開2002−357696(JP,A)
【文献】 特開2012−242254(JP,A)
【文献】 特表平08−511091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/
C11D
B09B
B09C
A62D 3/
B08B 3/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、1または複数の酸性物質、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物、および分散剤を含む、放射能汚染物質洗浄剤。
【請求項2】
酸性物質が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、およびスルファミン酸からなる群より選択される、請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の洗浄剤。
【請求項4】
放射能汚染物質が放射性セシウムを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄剤。
【請求項5】
1または複数の酸性物質、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物、および分散剤を含む、放射能汚染物質洗浄剤と、放射性物質を含む土壌またはゼオライトとを接触させ、土壌またはゼオライトに含有する放射性物質をイオン交換によって除去し、放射性物質を含有しない土壌またはゼオライトと放射性物質汚染水とを得る、放射性物質を含む土壌またはゼオライトを洗浄する方法。
【請求項6】
該放射能汚染物質洗浄剤と、放射性物質を含む土壌またはゼオライトとを混合し、撹拌することにより接触させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
酸性物質が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、およびスルファミン酸からなる群より選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
放射性物質が放射性セシウムである、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該放射性物質汚染水と、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とが縮合したシクロデキストリンポリマーとを接触させて、放射性物質を該シクロデキストリンポリマーに選択的に固着させる工程をさらに含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性汚染物質の洗浄剤に関するものである。さらに本発明は、原子力発電所や放射性同位元素取扱等事業所をはじめとする原子力関連施設から放出され、土壌に吸着された放射性物質の除去や、除染作業により発生した放射能汚染物質を浄化するための洗浄剤およびそれを用いた洗浄方法に関する。特に、原子力関連施設の事故に伴い発生した放射性物質を含む土壌やゼオライトから放射性物質を効率よく分離除去し、周辺住民や作業者の被ばくを最小限に抑えることを可能にする洗浄剤およびその洗浄方法に関するものである。より詳細には、本発明は、特に土壌やアスファルト、コンクリート、金属類、無機吸着材に放射性物質が吸着した場合に、これを除去することのできる洗浄剤、および、これを用いて放射性物質を実質的に含有しない土壌やアスファルト、コンクリート、金属類、無機吸着材を得る方法に関する。本発明は、水に1または複数の酸性物質、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物および分散剤を溶解させることにより得ることができる洗浄剤を用いて、土壌やアスファルト、コンクリート、金属類、無機吸着材に吸着された放射性物質を選択的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中に大量に放出された放射性セシウム(Cs134、Cs137)は、人体や動植物に対して強い毒性を示す化合物である。特に放射性セシウム(Cs137)は、生体内での振る舞いがカリウムやルビジウムによく似ているため、体内に吸収され、β、γ線による内部被ばくを引き起こす。また、放射性セシウム(Cs137)は、半減期約30.1年のβ、γ核種であり、有害性が長期間に渡って持続する。このため、放射性セシウム(Cs134、Cs137)が大気中に放出されて、これが土壌等に吸着された場合は、直ちに除去する必要がある。
【0003】
放射性セシウムを含む放射能汚染物質の浄化技術としては、超音波、プルシアンブルー、シュウ酸を用いる手法が開発されている。しかしながら超音波を用いる物理的な手法は、大量に存在する放射能汚染物質の浄化処理が困難であり、またプルシアンブルーなどの不燃性の無機物質を用いる手法は、放射能汚染物を吸着させた物質の減容処理が困難であるという問題がある。一方、シュウ酸などの有機溶媒を用いる方法は、有機溶媒自体の毒性の問題があり、これを大量に使用する場合には、別の危険性を伴い得るという問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2006−78336号)には、原子力施設から発生する除染対象物を、アルカリ除染工程と酸除染工程とに付し、アルカリ除染槽が振動撹拌機及び/又は超音波振動子を有するものである、放射性物質除去方法が開示されている。超音波振動子を用いる方法は、大量に存在する放射能汚染物質や、大型の放射能汚染物質の除染は極めて困難である。
【0005】
特許文献2(特開2011−200856号)には、プルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて陽イオンをプルシアンブルー型金属錯体に吸着させることによる、液体に含まれる陽イオンを除去する方法が開示されている。金属錯体を用いる本方法は、確実に放射性物質である陽イオンを除去することができるが、大量に存在する放射性汚染物質を除染することは難しい。
【0006】
特許文献3(特開平6−59095号)には、放射能汚染物をd−リモネンを用いて除染する方法が開示されている。リモネン自体の毒性が比較的低く、放射能汚染物を除染する方法として有効であると考えられるが、より簡易に入手でき、効率的な除染作業が可能な洗浄剤の開発が望まれる。
【0007】
非特許文献1には、低濃度の酸水溶液を使用してセシウムを水溶液中に抽出した後、プルシアンブルーで放射性セシウムを回収する、放射性セシウム抽出−回収する方法が開示されている。非特許文献1に開示される方法は、セシウムを効率的に回収することができるが、セシウムを吸着後のプルシアンブルーをどのように処理するかについては何ら開示されていない。
【0008】
このような従来技術に鑑みて、本発明者らは土壌やゼオライトに含有される放射性物質を効率的に除去することができる洗浄剤を提案した(特許文献4)。特許文献4にて提案した洗浄剤は、水、酸性溶媒、金属塩化物、および分散剤ならびに場合により界面活性剤を含むものである。そして特許文献4に開示される洗浄剤を用いた汚染土壌の洗浄方法は、該洗浄剤と放射性物質汚染土壌等とを接触させ、汚染土壌等に含有された放射性物質をイオン交換によって水中に溶解させて、放射性物質を含有しない土壌等と放射性物質汚染水とを得て、次いで放射性物質汚染水と特定のシクロデキストリンポリマー(選択固着剤)とを接触させて該放射性物質汚染水に含まれる放射性物質をシクロデキストリンポリマーに選択的に固着させることを任意に含む。特許文献4の洗浄剤は放射性物質により汚染された土壌等を効果的に除染することができるが、この洗浄剤を上記のような方法で使用するにあたっては、さらに解決すべき点がある。
【0009】
放射能汚染土壌を洗浄してその後の再利用を可能とするには、洗浄土壌の放射線量を3000Bq/kg以下程度にまで低下させる必要がある。しかしながら従来の洗浄剤を用いて汚染土壌を洗浄すると、このレベルまで放射線量を低下させるには複数回の洗浄が必要であった。また、1回の洗浄操作に必要となる洗浄剤の容積が大きく、さらに上記の理由で複数回の洗浄が必須となる場合は、洗浄剤の使用量が多量になりうる。さらに従来の洗浄剤は、放射能汚染物質と接触させるために数時間〜数日にわたり撹拌する必要があり、短期間の除染作業が困難となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−78336号
【特許文献2】特開2011−200856号
【特許文献3】特開平6−59095号
【特許文献4】特願2012−42970号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本経済新聞 2011年8月31日 独立行政法人産業総合研究所プレスリリース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、土壌やゼオライトに含有される放射性物質、特に放射性セシウムを簡易な操作で簡便に除去することにより、土壌やゼオライト等の浄化を目的とする放射能汚染物質の洗浄剤を提供することを目的とする。特に本発明は、放射能汚染物質の洗浄剤を使用して、放射性物質で汚染された土壌やゼオライト等に含有される放射性物質を周囲温度で短時間のうちに除去し、以って放射性物質を含有しない土壌やゼオライト等を得る方法を提供する。
【0013】
本発明者らは、水、1または複数の酸性物質、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物および分散剤含む洗浄剤を使用して、土壌やゼオライト等の中に吸着された放射性物質を除去し、放射性物質を含まない土壌やゼオライト等を回収できることを見いだした。この洗浄剤を、放射性物質を含む土壌やゼオライト等に直接投入する等して洗浄剤と土壌等とを接触させ、撹拌する等の方法により、効率的に放射性物質を除去できる。
【0014】
本発明の態様は以下の通りである。
[1] 水、1または複数の酸性物質、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物、および分散剤を含む、放射能汚染物質洗浄剤。
[2] 酸性物質が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、およびスルファミン酸からなる群より選択される、上記[1]の洗浄剤。
[3] 分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、上記[1]または[2]に記載の洗浄剤。
[4] 放射能汚染物質が放射性セシウムを含む、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の洗浄剤。
[5] 1または複数の酸性物質、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物、および分散剤を含む、放射能汚染物質洗浄剤と、放射性物質を含む土壌またはゼオライトとを接触させ、土壌またはゼオライトに含有する放射性物質をイオン交換によって除去し、放射性物質を含有しない土壌またはゼオライトと放射性物質汚染水とを得る、放射性物質を含む土壌またはゼオライトを洗浄する方法。
[6] 該放射能汚染物質洗浄剤と、放射性物質を含む土壌またはゼオライトとを混合し、撹拌することにより接触させる、上記[5]に記載の方法。
[7] 酸性物質が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、およびスルファミン酸からなる群より選択される、上記[5]または[6]に記載の方法。
[8] 分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびこれらの2以上の混合物からなる群から選択される、上記[5]〜[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] 放射性物質が放射性セシウムである、上記[5]〜[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 該放射性物質汚染水と、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とが縮合したシクロデキストリンポリマーとを接触させて、放射性物質を該シクロデキストリンポリマーに選択的に固着させる工程をさらに含む、上記[5]〜[9]のいずれか1項に記載の方法。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明において、放射能汚染物質とは、放射性物質を含み、汚染された状態の全ての物質を指す。例えば、放射性物質である放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性プルトニウム、トリチウムなどを含有する水、土、大気のほか、放射性物質と接触した紙類、衣類など、放射性物質で汚染されうる全てのものを意味する。特に本発明の放射能汚染物質洗浄剤は、放射性物質で汚染された固体物質、特に土壌またはゼオライトの洗浄に有効である。
【0017】
土壌に含まれている2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、ケイ素と酸素とからなるシート(ケイ素四面体シート)アルミニウムと酸素とからなるシート(アルミニウム八面体シート)を挟んだ構造を有する層を一単位として、これらが積み重なってできていることが知られている。このうち、ケイ素四面体シートのケイ素の一部がアルミニウムに置き換わる、あるいはアルミニウム八面体シートのアルミニウムの一部がケイ素に置き換わること(同型置換)で、シート全体が負電荷を有している。この様子を模式的に示した図が図1である。通常、隣接するケイ素四面体シートとケイ素四面体シートとの層間にナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンなどの陽イオンが入ることにより負電荷が中和された状態になる。
【0018】
ケイ素四面体シートを上から見た模式図(図2)に表されるように、ケイ素四面体シートにはセシウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンとほぼ同じ大きさの穴が空いており、ここにこれらの陽イオンが固定されやすくなっている。これはセシウムイオンが環境中に放出された場合、ケイ素四面体シートの穴に取り込まれ、しっかり固定され易いことを意味する(図3)。このため、セシウムイオンは土壌に取り込まれると、通常の洗浄剤による通常の洗浄方法では除染することが困難であり、長期間にわたり土壌中に残存するおそれがある。したがってセシウムイオンが取り込まれた土壌を洗浄するための洗浄剤は、まず土壌を均一に水中に分散させて洗浄剤との接触面積を増やす作用を有すること、次いで分散した土壌中からセシウムイオンを引きはがす作用を有すること、そして引きはがしたセシウムイオンを土壌から追い出す作用を有することが求められる。
【0019】
本発明者らは、放射性セシウムを含有する土壌あるいはゼオライトにおいて、効率的な除染効果が得られる洗浄剤組成物及び浄化方法について鋭意研究した結果、酸性溶媒による土壌あるいはゼオライト内のカチオン性低減効果と塩化物の使用による放射性セシウムの置換効果、分散剤の使用による土壌あるいはゼオライトを水中に拡散する効果を知見し、特許文献4に係る洗浄剤を完成させた。
【0020】
しかしながら、上記の通り、この洗浄剤を用いて洗浄土壌の再利用が可能なレベルを達成しようとすると、複数回、長時間にわたり除染操作が必要となる場合があったため、より短時間で、簡便な作業により、きわめて低い放射線量レベルにまで低減させることのできる洗浄剤の開発が待たれていた。本発明者らは、ケイ素四面体シートを破壊する作用を有するフッ化物イオンを洗浄剤に導入すると、より効率的に汚染土壌の除染を行うことができることを見いだした。
【0021】
本発明の一態様は、1または複数の酸性物質、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物および分散剤含む洗浄剤である。
【0022】
本発明の放射能汚染物質洗浄剤に含まれる水は、以下に説明する洗浄成分を溶解するための溶剤のひとつであり、通常洗浄剤に用いられるレベルの純度を有する水であればよい。精製水、純水、脱イオン水などを好適に用いることができる。
【0023】
本発明の放射能汚染物質洗浄剤に含まれる酸性物質は、土壌またはシルト中に含まれる2:1型層状ケイ酸塩鉱物に存在する負電荷を弱め、これを中和する働きをする。2:1型層状ケイ酸塩鉱物に存在する負電荷を酸性溶媒が弱め、負電荷に強く固定されたセシウムイオンを引きはがしやすくすることができる。水溶液の状態で酸性を示すものであれば、どのような酸性物質を用いてもよいが、2:1型層状ケイ酸塩鉱物に存在する負電荷を弱める作用を有する好適な酸性物質としては、強酸性を示す塩酸、硫酸、硝酸、またはリン酸が挙げられ、そのほか、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、およびスルファミン酸等の有機酸が挙げられ、これらの2以上の混合物を用いることもできる。酸性物質は、水の重量に対して0.05%〜20%、好ましくは0.1%〜10%、さらに好ましくは0.5%〜5%混合することができる。
【0024】
アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物は、金属塩化物中の金属陽イオンが、土壌から引きはがされたセシウムイオンと置換することにより、セシウムイオンを洗浄剤中に追い出す働きをする。金属塩化物であれば如何なる金属塩化物を用いてもよいが、金属陽イオン部分が比較的セシウムイオンと置き換わりやすい金属塩化物として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、または塩化バリウムが挙げられこれらの2以上の混合物を用いることが好適である。例えば金属塩化物として塩化マグネシウムを用いた場合、2価のセシウムイオンが2価のマグネシウムイオンと置換することにより、セシウムイオンが洗浄剤中に放出されることになる。アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物は、水の重量に対して0.05%〜50%、好ましくは0.1%〜40%、さらに好ましくは0.5%〜30%混合することができる。
【0025】
アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物は、金属フッ化物中のフッ化物イオンがケイ素四面体シートを破壊する作用を有するため、好適に用いることができる(図4)。フッ化物イオンは ケイ素四面体シートを構成しているケイ素と反応し、ケイ素−酸素結合を切断する。これによりケイ素四面体シートの構造が崩壊し、セシウムイオン内包の空間が広がることで、セシウムイオンを容易に抽出可能となる。金属フッ化物であれば如何なる金属塩を用いてもよいが、周囲温度での安定性等を考慮して、たとえばフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムが挙げられ、これらの2以上の混合物を用いることも可能である。アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物は、水の重量に対して0.05〜20%、好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは0.5〜5%混合することができる。
【0026】
分散剤は、土壌中の土や砂を均一に分散させ、水中に拡散させやすくする働きがある。すなわち分散剤は土壌と本発明の洗浄剤の洗浄成分とをよく接触させるために使用する。分散剤は、土壌に吸着する親油性部位と、水と親和性を有する親水性部位とをあわせもつ化合物であることが好ましい。本発明に用いる分散剤として、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、またはヒドロキシプロピルセルロースが好適である。これらの分散剤の2以上を混合して用いることもできる。分散剤は、水の重量に対して0.1%〜20%、好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは1%〜5%混合することができる。
【0027】
ここで本発明において分散剤は、比較的高い粘度を有することが好ましい。分散剤は、たとえば、300mPa・秒以上、好ましくは1000mPa・秒以上、さらに好ましくは3000mPa・秒以上の粘度を有することができる。分散剤が高い粘性を有すると、分散剤自体が土壌中の土や砂を均一に分散させ、効果的に水中に拡散させることができる。
【0028】
本発明の放射能汚染物質洗浄剤には、必要に応じて界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、分散剤と同様に、土壌中の土や砂を均一に分散させ、水中に拡散させやすくする働きがある。広く用いられている陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のうち都合のよい界面活性剤を適宜用いることができるが、本発明に用いる界面活性剤として、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、またはオクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが好適である。これらの界面活性剤の2以上を混合して用いることもできる。界面活性剤を添加する場合は、水の重量に対して0.05%〜20%、好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは1%〜5%混合することができる。
【0029】
これらの成分に加えて、ケイ素四面体シート中の陽イオンとセシウムイオンとの交換を促進させるためのイオン交換促進剤を適宜添加することができる。このような機能が期待できる化合物として、例えばシクロデキストリン類が挙げられる。この他、使用の現場の状況に応じて、通常洗浄剤に使用される添加剤を適宜加えることができる。例えば、酸化防止剤、安定剤、発泡剤等を使用することができる。
【0030】
本発明の放射能汚染物質洗浄剤は、各成分を適切な量で混合することにより得られる。例えば、塩化マグネシウム、およびヒドロキシエチルセルロースを含む放射能汚染物質洗浄剤は、これらの各成分を水に添加し、よく撹拌して混合水溶液の状態で得ることができる。例えば、水の重量に対して塩化マグネシウムを1%〜40%、およびヒドロキシエチルセルロースを0.1%〜10%となるように秤量し、これらを混合することができる。さらに好ましい放射能汚染物質洗浄剤は、水の重量に対して塩化マグネシウムを10%〜20%、およびヒドロキシエチルセルロースを0.5%〜2%含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】2:1型層状ケイ酸塩鉱物の構造を模式的に表した図である。
図2】ケイ素四面体シートを上から見たときの構造を模式的に表した図である。
図3】2:1型層状ケイ酸塩鉱物中に、セシウムイオンが固定されている様子を模式的に表した図である。
図4】フッ化物イオンによりケイ素四面体シートが破壊される様子を模式的に表した図である。
図5】放射能汚染物質除去性能の評価方法を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の放射能汚染物質洗浄剤は、放射能汚染物質と接触させて、放射性物質を除染することができる。例えば本発明の放射能汚染物質洗浄剤を土壌の除染に用いる場合、含有されている放射性物質の量にもよるが、通常は放射性物質を含有する土の体積を基準として1倍〜1000倍、好ましくは3倍〜500倍、さらに好ましくは5倍〜100倍の放射能汚染物質洗浄剤を使用する。除染すべき土を適当な容器に入れ、ここに本発明の汚染物質洗浄剤を添加する。放射性物質を含有する土と洗浄剤とを撹拌してよく混合し、次いで静置して土を沈殿させる。放射性物質は上澄み液に移動して、上澄み液が放射能汚染水となるため、これを除くことにより、放射性物質を含有しない土を得ることができる。
【0033】
上記の洗浄方法は、室温付近で行うことが好ましく、洗浄の効果を高めるために温度を高くすることもできる。たとえば、60℃以上、好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上で洗浄することができる。また放射能汚染物質洗浄剤と放射能汚染物質とを接触させる際の撹拌は、磁気撹拌子を用いたスターラーを使用することができ、洗浄の効果を高めるために、撹拌羽根等を備えた撹拌機を用いる等して、激しく撹拌することができる。具体的には、接触操作に用いる容器全体を撹拌することができる形状をした撹拌羽根を使用して、好ましくは回転速度100rpm以上、さらに好ましくは200rpm以上で撹拌すると良い。このような洗浄方法を1回、あるいは場合により複数回繰り返すことにより、放射性物質をほぼ確実に水に移行させることができる。
【0034】
土壌の放射能汚染が広範にわたっている場合、放射性物質を含有する土壌に本発明の放射能汚染物質洗浄剤を直接噴霧して、除染することもできる。この場合、除染対象面積1mに対し、およそ10L〜1000L、好ましくは30L〜500L、さらに好ましくは50L〜100Lの放射能汚染物質洗浄剤を噴射することができる。
【0035】
本発明の放射能汚染物質洗浄剤をゼオライトの除染に用いる場合、含有されている放射性物質の量にもよるが、通常は放射性物質を含有するゼオライトの体積を基準として1倍〜1000倍、好ましくは2倍〜500倍、さらに好ましくは5倍〜100倍の放射能汚染物質洗浄剤を使用する。除染すべきゼオライトを適当な容器に入れ、ここに本発明の汚染物質洗浄剤を添加する。放射性物質を含有するゼオライトと洗浄剤とを撹拌してよく混合し、次いで静置してゼオライトを沈殿させる。放射性物質は上澄み液に移動して放射性物質汚染水となるため、これを除くことにより、放射性物質を含有しないゼオライトを得ることができる。ゼオライトを除染する場合は、ゼオライトをカラム状容器に詰め、ここに本発明の放射能汚染物質洗浄剤を流通させることにより放射性物質を除去することも可能である。この場合、含有されている放射性物質の量にもよるが、通常は放射性物質を含有するゼオライトの体積を基準として1倍〜100倍、好ましくは2倍〜50倍、さらに好ましくは5倍〜10倍の放射能汚染物質洗浄剤を使用する。上記の洗浄方法は、室温付近で行うことができ、洗浄の効果を高めるために温度を高くすることもできる。たとえば、60℃以上、好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上で洗浄することができる。また放射能汚染物質洗浄剤と放射能汚染ゼオライトとを接触させる場合も、磁気撹拌子を用いたスターラーを使用することができ、洗浄の効果を高めるために、撹拌羽根等を備えた撹拌機を用いる等して、激しく撹拌することもできる。このような洗浄方法を1回、あるいは場合により複数回繰り返すことにより、放射性物質をほぼ確実に水に移行させることができる。
【0036】
放射能汚染物質洗浄剤による処理により得られた放射性物質汚染水は、少量であればそのまま保管することもできるが、大量の場合は、さらにシクロデキストリンポリマーなどの放射性物物質選択固着剤を使用して、放射性物質を該固着剤に吸着させることが好適である。シクロデキストリンポリマーとは、例えば特願2012−500601号、特願2012−105307号、特願2012−152416号などに記載されているシクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とが縮合したタイプのポリマーが挙げられる。シクロデキストリンポリマーは、末端基に多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類等を反応させて、アルキル基、またはアリール基を有したタイプのものであって良く、水を反応させて得た、末端基を有していない(すなわち水酸基−OH)タイプのものであっても良い。かかるシクロデキストリンポリマーは、放射性物質を選択的に固着することが本発明者らによって確かめられており、わずかな放射性物質に汚染された大量の水などから放射性物質を選択的に固着させることに有用である。ここでシクロデキストリンとは、数分子のD−グルコースがα(1→4)グルコシド結合によって結合し環状構造をとったオリゴ糖の一種である。一般的にグルコースが6個、7個または8個結合したものが知られており、それぞれ、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンと称される。また有機二塩基酸とは、例えば、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪酸を含み、本発明においては、シクロデキストリン分子中の−CHOH基と反応して逐次縮合し、ポリマーを形成しうる化合物のことであり、有機二塩基酸ハロゲン化物とは、これらの酸のハロゲン化物のことである。有機二塩基酸および有機二塩基酸ハロゲン化物として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸およびこれらの塩化物、臭化物ならびにヨウ化物等が挙げられ、特にテレフタル酸またはテレフタル酸ジクロライド(二塩化テレフタロイル)を用いたものが好適に使用される。放射性物質汚染水中の放射性物質の固着には、上記のシクロデキストリンポリマー吸着剤を利用することが望ましいが、放射性物質を有効に固着することができる物質であれば、どのようなものを利用しても良い。例えば、フェロシアン酸塩等の無機金属塩等の従来から知られている無機吸着剤あるいは有機吸着剤を利用することができる。
【0037】
本発明の放射能汚染物質洗浄剤は、土、ゼオライトの他、放射性物質で汚染された物質全般の除染に用いることができる。例えば、放射性物質がかかった書類などの紙類、家屋、屋根、壁、樹木、アスファルトまたはコンクリート、除染作業者の衣類等の除染を行うことができる。本発明の放射能汚染物質洗浄剤は、特に除染し難いと云われているセシウムを効率的に除去することができるため、安全な環境を提供することが可能である。本発明の放射能汚染物質洗浄剤は、市販の試薬レベルの薬品を混合するだけで製造することができるため、使用に際して必要量を製造し、これを簡易に用いることができる。
【実施例】
【0038】
[フッ化物イオンを含む洗浄剤]放射能汚染物質洗浄剤の調製(洗浄剤1)
ビーカー(500mL)に水(300mL)を入れ、氷浴につけた。次いで硫酸(22g、キシダ化学)を加えた。次に塩化カリウム(40g、純正化学)とフッ化カリウム(40g、純正化学)をゆっくり加えた。ビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(粘度:4500〜6500mPa・秒、4g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を400mLに調整した。
【0039】
[フッ化物イオンを含む洗浄剤]放射能汚染物質洗浄剤の調製(洗浄剤2)
ビーカー(500mL)に水(300mL)を入れ、氷浴につけた。次いで硫酸(22g、キシダ化学)及びクエン酸(20g、キシダ化学)を加えた。次に塩化カリウム(40g、純正化学)とフッ化カリウム(40g、純正化学)をゆっくり加えた。ビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(粘度:4500〜6500mPa・秒、4g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を400mLに調整した。
【0040】
[フッ化物イオンを含まない洗浄剤]放射能汚染物質洗浄剤の調製(比較洗浄剤1)
ビーカー(500mL)に水(300mL)を入れ、氷浴につけた。次いで硫酸(22g、キシダ化学)を加えた。次に塩化マグネシウム(40g、純正化学)をゆっくり加えた。ビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(粘度:4500〜6500mPa・秒、4g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を400mLに調整した。
【0041】
[フッ化物イオンを含まない洗浄剤]放射能汚染物質洗浄剤の調製(比較洗浄剤2)
ビーカー(500mL)に水(300mL)を入れ、氷浴につけた。次いで硫酸(22g、キシダ化学)及びクエン酸(20g、キシダ化学)を加えた。次に塩化マグネシウム(40g、純正化学)をゆっくり加えた。ビーカーを氷浴から取り出した後、ヒドロキシエチルセルロース(粘度:4500〜6500mPa・秒、4g、東京化成工業)を加え、室温で完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を400mLに調整した。
【0042】
[実施例1]放射能汚染土の洗浄
500mLの三角フラスコに、放射能汚染物質(放射能汚染土)(福島県より採取、放射線量35826.1Bq/kg、4g)と洗浄剤1(400g、放射能汚染土の重量の100倍)とを入れ、温度30℃で、回転速度500rpmのスターラーを用いて24時間撹拌した。撹拌終了後、吸引ろ過を行い、土壌と放射性物質汚染水を回収した。回収した土壌中の放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除染率を算出した。同様に、洗浄剤2(400g、放射能汚染土の重量の100倍)を用いて、放射能汚染土を洗浄し、除染率を算出した。
【0043】
[比較実施例1]従来型フッ化物イオンを含まない洗浄剤による放射能汚染土の洗浄
実施例1と同様に、洗浄剤として比較洗浄剤1を用いて放射能汚染土を洗浄した。同様に比較洗浄剤2を用いて放射能汚染土を洗浄し、除染率を算出した。
【0044】
なお、放射性物質除去性能の評価方法の概略を図5に説明する。
【0045】
各洗浄剤を使用した時の汚染土の除染率を表1に示す。フッ化物イオンを含有する洗浄剤1を用いて1回洗浄して、汚染土の放射線量を3000Bq/kg以下に減じることができた。同様にフッ化物イオンを含有する洗浄剤2を用いて1回洗浄して、汚染シルトの放射線量を3000Bq/kg以下に減じることができた。フッ化物イオンを含まない比較洗浄剤1及び2は、1回の洗浄で放射線量3000Bq/kg以下にまで減じることはできなかった。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例2]洗浄剤使用量の検討
洗浄剤1あるいは洗浄剤2の使用量を20g(放射能汚染土の重量の5倍)にしたこと以外は、実施例1と同様に放射能汚染土を洗浄した。
【0048】
[比較実施例2]洗浄剤使用量の検討
比較洗浄剤1あるいは比較洗浄剤2の使用量を20g(放射能汚染土の重量の5倍)にしたこと以外は、比較実施例1と同様に放射能汚染土を洗浄した。
【0049】
各洗浄剤を使用したときの除染率を表2に示す。フッ化物イオンを含有する洗浄剤1(20g)を用いて1回洗浄して、除染率84.5%を達成できた。同様にフッ化物イオンを含有する洗浄剤2(20g)を用いて1回洗浄して、除染率82.8%を達成できた。フッ化物イオンを含む洗浄剤は、洗浄剤を大量に使用しなくても、80%以上程度の高い除染率を達成できることがわかる。一方フッ化物イオンを含まない比較洗浄剤1及び2は、洗浄剤使用量を減らすと効果的に除染することはできなかった。
【0050】
【表2】
【0051】
[実施例3]放射能汚染シルトの洗浄
放射能汚染土を大型篩機(会社名:バウアー)とサイクロン機(会社名:バウアー)を使用して粒径および比重の違いにより分級し、平均粒径75μmの放射性物質汚染シルトを得た。この放射能汚染シルト(福島県より採取、放射線量35826.1Bq/kg、4g)を、上記の実施例1と同様に、洗浄剤2を用いて放射能汚染シルトを洗浄し、除染率を算出した。
【0052】
[比較実施例3]放射能汚染シルトの洗浄
比較洗浄剤2を用いて、実施例3と同様に放射能汚染シルトを洗浄した。同様に比較洗浄剤2を用いて放射能汚染シルトを洗浄し、除染率を算出した。
【0053】
各洗浄剤を使用した時の汚染シルトの除染率を表3に示す。フッ化物イオンを含有する洗浄剤1あるいは洗浄剤2を用いて1回洗浄して、除染率80%以上を達成できた。一方、フッ化物イオンを含まない比較洗浄剤1あるいは2は、1回の洗浄で高い除染率を達成することはできなかった。
【0054】
【表3】
【0055】
[実施例4]洗浄剤使用量の検討
洗浄剤1の使用量を20g(放射能汚染シルトの重量の5倍)にしたこと以外は、実施例3と同様に放射能汚染シルトを洗浄した。また洗浄剤2の使用量を20g(放射能汚染シルトの重量の5倍)にしたこと以外は、実施例1と同様に放射能汚染シルトを洗浄した。
【0056】
[比較実施例4]洗浄剤使用量の検討
比較洗浄剤1の使用量を20g(放射能汚染シルトの重量の5倍)にしたこと以外は、比較実施例3と同様に放射能汚染シルトを洗浄した。また比較洗浄剤2の使用量を20g(放射能汚染シルトの重量の5倍)にしたこと以外は、実施例3と同様に放射能汚染シルトを洗浄した。
【0057】
各洗浄剤を使用したときの除染率を表4に示す。フッ化物イオンを含有する洗浄剤1(20g)を用いて1回洗浄して、除染率71.6%を達成できた。同様にフッ化物イオン及びクエン酸を含有する洗浄剤2(20g)を用いて1回洗浄して、除染率69.5%を達成できた。フッ化物イオンを含む洗浄剤は、洗浄剤を大量に使用しなくても、70%以上程度の高い除染率を達成できることがわかる。一方フッ化物イオンを含まない比較洗浄剤1及び2は、洗浄剤使用量を減らすと効果的に除染することはできなかった。
【0058】
【表4】
【0059】
[実施例5]放射能汚染土の除染率の経時変化の検討
フッ化物イオンを含む洗浄剤1を用いて実施例1と同様に放射能汚染土の洗浄を開始し、撹拌後15分間、30分間、45分間、1時間、3時間、5時間、7時間、9時間、12時間、24時間経過後の土壌を回収し、放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除染率を算出した。結果を表5に示す。フッ化物を含む洗浄剤1を用いて、約5時間経過後に3000Bq/kg以下の放射線量を達成することができた。
【0060】
【表5】
【0061】
[比較実施例5]放射能汚染土の除染率の経時変化の検討
フッ化物イオンを含まない比較洗浄剤1を用いて比較実施例1と同様に放射能汚染土の洗浄を開始し、撹拌後15分間、30分間、45分間、1時間、3時間、5時間、7時間、9時間、12時間、24時間経過後の土壌を回収し、放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除去率を算出した。結果を表6に示す。フッ化物を含まない比較洗浄剤1を用いると、24時間撹拌してようやく80%程度の除染率を達成できる。
【0062】
【表6】
【0063】
[実施例6]放射能汚染シルトの除染率の経時変化の検討
フッ化物イオンを含み、クエン酸を含まない洗浄剤1を用いて実施例3と同様に放射能汚染シルトの洗浄を開始し、撹拌後15分間、30分間、45分間、1時間、3時間、5時間、7時間、9時間、12時間、24時間経過後のシルトを回収し、放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除染率を算出した。結果を表7に示す。フッ化物を含む洗浄剤1を用いて、約1時間経過後に74.1%、12時間後には91.6%の除染率を達成することができた。そして、24時間後には95.3% の除染率を達成した。
【0064】
【表7】
【0065】
[比較実施例6]放射能汚染シルトの除染率の経時変化の検討
フッ化物イオンを含まずクエン酸を含む比較洗浄剤2を用いて比較実施例3と同様に放射能汚染シルトの洗浄を開始し、撹拌後15分間、30分間、45分間、1時間、3時間、5時間、7時間、9時間、12時間、24時間経過後のシルトを回収し、放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除染率を算出した。結果を表8に示す。フッ化物を含まずクエン酸を含む比較洗浄剤2を用いると、24時間経過後にようやく72.1%の除染率を達成することができた。
【0066】
【表8】
【0067】
[実施例7]振とう法による放射能汚染シルトの洗浄
放射能汚染シルトをさらに短時間で洗浄するため、実施例6の洗浄方法を変更した。ポリ便(500mL)に放射能汚染シルト(4g、福島県で採取)と洗浄剤1(400mL)を入れ、振とう機に設置して、300rpm、30℃で振とうを開始した。振とう開始後、15分間、30分間、45分間、1時間、3時間、5時間、7時間、9時間、12時間、24時間経過後に振とう液の一部を回収し、吸引濾過を行い、シルトと汚染水とを回収した。回収したシルト中の放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211、EMFジャパン株式会社)で測定し、放射性セシウムの除染率を算出した。結果を表9に示す。洗浄剤1を用い、振とう法により放射能汚染シルトを洗浄することにより、放射線量3000Bq/kg以下を9時間で達成することができた。この理由として、実施例6の撹拌法では、放射能汚染シルトが液中を対流しているのみであり、物理的な力がほとんど加わることがないため、洗浄剤が放射能汚染シルトの内部にまで浸透しづらく、よってセシウムの抽出効果が比較的低いと考えられる。一方、振とう法によると、放射能汚染シルト同士がぶつかり合い、物理的な力が加わることによって、洗浄剤が放射能汚染シルトの内部にまで浸透し、よって効果的にセシウムを抽出することができると考えられる。このように、フッ化物イオンを含有する洗浄剤を利用して、さらに放射能汚染物質と洗浄剤との好適な接触方法を採用することによって、再利用可能な洗浄土壌または洗浄シルトを短時間で得ることが可能となる。
【0068】
【表9】

図1
図2
図3
図4
図5