(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265497
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ヒドロゲル形成性組成物及びそれより作られるヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
C08L 101/14 20060101AFI20180115BHJP
C08L 83/02 20060101ALI20180115BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20180115BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20180115BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20180115BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20180115BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20180115BHJP
C08K 5/52 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
C08L101/14
C08L83/02
C08L71/02
C08L33/02
C08L97/00
C08K3/34
C08K5/053
C08K5/52
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-536877(P2014-536877)
(86)(22)【出願日】2013年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2013075154
(87)【国際公開番号】WO2014046127
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年7月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-205087(P2012-205087)
(32)【優先日】2012年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】中澤 太一
(72)【発明者】
【氏名】相田 卓三
(72)【発明者】
【氏名】石田 康博
(72)【発明者】
【氏名】為末 真吾
(72)【発明者】
【氏名】大谷 政孝
【審査官】
安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−222320(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/001657(WO,A1)
【文献】
特開2009−127035(JP,A)
【文献】
特開2009−270048(JP,A)
【文献】
特開2011−153174(JP,A)
【文献】
特開2006−028446(JP,A)
【文献】
為末 真吾 et al.,次世代型アクアマテリアル(高含水率・高強度ヒドロゲル)の創製,Polymer Preprints, Japan,2012年,61(2),p.2613-2614
【文献】
為末 真吾 et al.,次世代型アクアマテリアル(高含水率・高強度ヒドロゲル)の創製,Polymer Preprints, Japan,2011年,60(2),p.5541-5542
【文献】
Qigang Wang et al.,High-water-content mouldable hydrogels by mixing clay and a dendritic molecular binder,Nature,2010年,463,p.339-343
【文献】
相田 卓三,アクアマテリアル:低炭素社会の実現にむけた材料開発の一つの方向,高分子,2010年,59(9),p.712-713
【文献】
相田 卓三,有機、ハイブリッド系ボトムアップ型ナノ空間材料の創成とその機能,SORSTシンポジウム4講演要旨集,2010年,p.17-20
【文献】
相田 卓三,機能性ソフトマテリアルにむけての超分子化学,日本化学会講演予稿集,2010年,90(1),p.116
【文献】
相田 卓三,水がプラスチックになる,JST News,2010年,6(12),p.10-11
【文献】
為末 真吾 et al.,次世代型アクアマテリアル(高含水率・高強度ヒドロゲル)の創製,日本化学会講演予稿集,2012年,92(3),p.981
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/14
C08L 33/02
C08L 71/02
C08L 83/02
C08L 97/00
C08K 3/34
C08K 5/053
C08K 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己支持性を有するヒドロゲルを形成することができるヒドロゲル形成性組成物であって、重量平均分子量が100万乃至1000万である有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、水又は含水溶媒を分散媒としたコロイドを形成するケイ酸塩(B)、該ケイ酸塩の分散剤(C)、及び多価アルコール(D)を含むことを特徴とし、
該分散剤(C)が、リン酸塩系分散剤、重量平均分子量1000乃至2万のポリカルボン酸塩系分散剤、重量平均分子量200乃至2万のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選択される、
ヒドロゲル形成性組成物。
【請求項2】
前記多価アルコールがグリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールからなる群より選ばれる、請求項1に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項3】
前記水溶性有機高分子(A)がカルボン酸塩構造又はカルボキシアニオン構造を有する水溶性有機高分子化合物である、請求項1又は請求項2に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項4】
前記水溶性有機高分子化合物が完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、請求項3に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項5】
前記水溶性有機高分子化合物が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、請求項4に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項6】
前記ケイ酸塩(B)が水膨潤性ケイ酸塩粒子である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項7】
前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる水膨潤性ケイ酸塩粒子である、請求項6に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項8】
前記分散剤(C)が水膨潤性ケイ酸塩粒子の分散剤である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項9】
前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、重量平均分子量200乃至2万のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項8に記載のヒドロゲル形成性組成物。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のヒドロゲル形成性組成物から作られる自己支持性を有するヒドロゲル。
【請求項11】
ヒドロゲル100質量%中に多価アルコールを10質量%以上含む、請求項10に記載のヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロゲルに関し、より詳しくは、ヒドロゲル形成性組成物及びそれより作られる高強度化された自己支持性ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、水が主成分であるため生体適合性が高く、環境への負荷が低いソフトマテリアル素材という観点から、近年注目されている。
自己支持性を有する高強度ヒドロゲルとして、水に均一分散している層状粘土鉱物の共存下で(メタ)アクリルアミド誘導体の重合反応を行うことにより得られる有機無機複合ヒドロゲルが報告されている(特許文献1)。また、類似の報告例として、ポリ(メタ)アクリルアミド中にカルボン酸塩又はカルボシキアニオン構造の基を一部含有する高分子と粘土鉱物からなる有機無機複合ヒドロゲルも知られている(特許文献2)。
これらの報告例では、層状粘土鉱物の水分散液中でモノマーを重合させることで、生成する高分子と該粘土鉱物とが三次元網目構造を形成し、有機無機複合ヒドロゲルとなる。
また、アクリルアミド類及びメタクリルアミド類から選択される水溶性有機モノマーから得られる有機高分子、水膨潤性粘土鉱物、及びグリセリン等の低揮発性媒体からなる有機無機複合高分子ゲルが知られており、グリセリン等を含むヒドロゲルを経由して作製されている(特許文献3)。
【0003】
室温で混合することで製造できる自己支持性を有する有機無機複合ヒドロゲルとして、末端にポリカチオン性の官能基を有するデンドリマー化合物と層状粘土鉱物を混合することにより得られるヒドロゲルが知られている(特許文献4及び非特許文献1)。
また、ポリアクリル酸塩と粘土鉱物からなる自立性(自己支持性)を有する乾燥粘土膜が知られており、表面保護材として検討されている(特許文献5)。
さらに、層状粘土鉱物(ケイ酸塩)とポリアクリル酸ナトリウムの水分散液の粘度変化に関する研究が知られている(非特許文献2)。これは自己支持性の有機無機複合ヒドロゲルに関する研究ではなく、水分散液のレオロジー変化に関する研究である。
最近では、電解質高分子、クレイ粒子、及び分散剤を混合するだけで作製可能な自己支持性を有する有機無機複合ヒドロゲルも報告されている(非特許文献3及び非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−053629号公報
【特許文献2】特開2009−270048号公報
【特許文献3】特許第4776187号公報
【特許文献4】国際公開第2011/001657号パンフレット
【特許文献5】特開2009−274924号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Aida, et al., Nature, 463 339 (2010)
【非特許文献2】Colloids and Surfaces, A Physicochemical and Engineering Aspects (2007), 301(1-3), 8-15
【非特許文献3】第61回高分子学会年次大会予稿集、Vol.61,No.1,p.683(2012)
【非特許文献4】第61回高分子討論会予稿集、1S11(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1乃至特許文献3に開示された有機無機複合ゲルでは、毒性が懸念される未反応のモノマーや、重合開始剤などの試薬がゲル中に残存する可能性がある。また、非化学製造業者が有機無機複合ゲルを製造するのは困難であり、さらに化学反応後にゲルとなるため、任意の形状にゲルを成型することも困難である。
また、特許文献4及び非特許文献1に開示されたヒドロゲルでは、該ヒドロゲルに含有されるデンドリマーが多段階の合成反応によって製造されるため、製造コストが高価になるという課題がある。
さらに、特許文献5では、中間物としてゲル状のペーストが作製されているが、該ゲル状のペーストは自立性を有するものではない。該ゲル状のペーストはシートに塗布されており、乾燥後の膜が自立性を有するものである。
さらに、非特許文献3及び非特許文献4では、粘土鉱物含有率を上げるとヒドロゲルの力学的強度が向上するが、高濃度化に伴いゲル作製過程におけるゾルの粘性も増加するため、ゲル化作業が困難となる。
以上の点に鑑み、工業的に入手容易な原料を用いて、室温で混合するだけで作製できる安全かつ高強度な自己支持性有機無機複合ヒドロゲルが望まれている。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、室温で混合するだけで作製できる高強度化された自己支持性ヒドロゲル及びそれを形成するためのヒドロゲル形成性組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子と、ケイ酸塩と、該ケイ酸塩の分散剤から作製可能なヒドロゲルに多価アルコールを添加することにより、ケイ酸塩含量を増やすことなく力学的に著しく強度が向上する自己支持性ヒドロゲルが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、第1観点として、自己支持性を有するヒドロゲルを形成することができるヒドロゲル形成性組成物であって、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、該ケイ酸塩の分散剤(C)、及び多価アルコール(D)を含むことを特徴とする、ヒドロゲル形成性組成物に関する。
第2観点として、前記多価アルコールがグリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールからなる群より選ばれる、第1観点に記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第3観点として、前記水溶性有機高分子(A)がカルボン酸塩構造又はカルボキシアニオン構造を有する水溶性有機高分子化合物である、第1観点又は第2観点に記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第4観点として、前記水溶性有機高分子化合物が完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、第3観点に記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第5観点として、前記水溶性有機高分子化合物が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、第4観点に記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第6観点として、前記ケイ酸塩(B)が水膨潤性ケイ酸塩粒子である、第1観点乃至第5観点のいずれか1つに記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第7観点として、前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる水膨潤性ケイ酸塩粒子である、第6観点に記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第8観点として、前記分散剤(C)が水膨潤性ケイ酸塩粒子の分散剤である、第1観点乃至第7観点のいずれか1つに記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第9観点として、前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、重量平均分子量200乃至2万のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第8観点に記載のヒドロゲル形成性組成物に関する。
第10観点として、第1観点乃至第9観点のいずれか1つに記載のヒドロゲル形成性組成物から作られる自己支持性を有するヒドロゲルに関する。
第11観点として、ヒドロゲル100質量%中に多価アルコールを10質量%以上含む、第10観点に記載のヒドロゲルに関する。
【発明の効果】
【0009】
以上、説明したように、本発明のヒドロゲル形成性組成物によれば工業的に入手容易で尚且つ化粧品や医薬部外品として利用されている安全性の高い原料を用いて混合するだけで高強度な自己支持性ヒドロゲルが得られる。ゲル化する前に型に流し込んだり、押出成型したりすることにより、任意形状のゲルを作製できる。ゲル化の際、重合反応等の共有結合形成反応が不要で、室温でもゲル化させることが可能なため、製造プロセスの観点から安全性が高いという効果がある。各成分の含量を調整することにより、ゲル強度のコントロールが可能で、透明性を有するヒドロゲルを作製することができる。
本発明のヒドロゲルは、安全性の高い各原料を混合することにより、容易且つ安全に形成され、そして、高強度な自己支持性及び透明性を有するものである。本発明のヒドロゲルは、そのゲル化前に型への流し込みや押出成型を行なうことにより容易に任意形状を形成することができ、また、使用される各原料の含量を調整することにより、その力学的強度を制御し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例2におけるヒドロゲルの突刺し強度試験の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、自己支持性を有するヒドロゲルを形成することができるヒドロゲル形成性組成物であって、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、該ケイ酸塩の分散剤(C)、及び多価アルコール(D)を含むことを特徴とする、ヒドロゲル形成性組成物に関する。
本発明のヒドロゲル形成性組成物及びそれより作られるヒドロゲルは、前記成分(A)乃至成分(D)の他に、本発明の所期の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の成分を任意に配合してもよい。
【0012】
[ヒドロゲル形成性組成物]
<成分(A):水溶性有機高分子>
本発明の成分(A)は、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子である。
有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)としては、例えば、カルボキシル基を有するものとして、ポリ(メタ)アクリル酸塩、カルボキシビニルポリマーの塩、カルボキシメチルセルロースの塩、ポリ(メタ)アクリル酸アニオン、カルボキシビニルポリマーのアニオン、カルボキシメチルセルロースのアニオン;スルホニル基を有するものとして、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸アニオン;ホスホニル基を有するものとして、ポリビニルホスホン酸塩、ポリビニルホスホン酸アニオン等が挙げられる。前記塩としては、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。なお、本発明では、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方をいう。
【0013】
また、水溶性有機高分子(A)は架橋又は共重合されてもよく、完全中和物又は部分中和物のいずれも使用できる。
【0014】
前記水溶性有機高分子(A)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算で好ましくは100万乃至1000万であり、より好ましくは重量平均分子量200万乃至700万である。
また、市販品で入手できる水溶性有機高分子は、市販品に記載されている重量平均分子量として、好ましくは100万乃至1000万であり、より好ましくは重量平均分子量200万乃至700万である。
【0015】
本発明では、水溶性有機高分子(A)は、カルボン酸塩構造又はカルボキシアニオン構造を有する水溶性有機高分子化合物であることが好ましく、特に完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩であることが好ましい。具体的には、完全中和又は部分中和ポリアクリル酸ナトリウムが好ましく、特に重量平均分子量200万乃至700万の完全中和又は部分中和された非架橋型高重合ポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0016】
前記水溶性有機高分子(A)の含有量は、ヒドロゲル100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.1質量%乃至10質量%である。
【0017】
<成分(B):ケイ酸塩>
本発明の成分(B)は、ケイ酸塩であって、好ましくは水膨潤性ケイ酸塩粒子である。
ケイ酸塩(B)としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母等が挙げられ、水又は含水溶媒を分散媒としたコロイドを形成するものが好ましい。なお、スメクタイトとは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどのグループの名称である。ケイ酸塩粒子の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状、無定形等が挙げられ、直径5nm乃至1000nmの円盤状又は板状のものが好ましい。
ケイ酸塩(B)の好ましい具体例としては、層状ケイ酸塩が挙げられ、市販品として容易に入手可能な例として、ロックウッド・アディティブズ社製のラポナイト(LAPONITE、ロックウッド・アディティブス社登録商標)XLG(合成ヘクトライト)、XLS(合成ヘクトライト、分散剤としてピロリン酸ナトリウム含有)、XL21(ナトリウム・マグネシウム・フルオロシリケート)、RD(合成ヘクトライト)、RDS(合成ヘクトライト、分散剤として無機ポリリン酸塩含有)、及びS482(合成ヘクトライト、分散剤含有);コープケミカル株式会社製のルーセンタイト(コープケミカル株式会社登録商標)SWN(合成スメクタイト)及びSWF(合成スメクタイト)、ミクロマイカ(合成雲母)、及びソマシフ(コープケミカル株式会社登録商標、合成雲母);クニミネ工業株式会社製のクニピア(クニミネ工業株式会社登録商標、モンモリロナイト)、スメクトン(クニミネ工業株式会社登録商標)SA(合成サポナイト);株式会社ホージュン製のベンゲル(株式会社ホージュン登録商標、天然ベントナイト精製品)等が挙げられる。
【0018】
前記ケイ酸塩(B)の含有量は、ヒドロゲル100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.1質量%乃至15質量%である。
【0019】
<成分(C):ケイ酸塩の分散剤>
本発明の成分(C)は、前記ケイ酸塩の分散剤であって、好ましくは水膨潤性ケイ酸塩粒子の分散剤である。
分散剤(C)として、ケイ酸塩の分散性の向上や、層状ケイ酸塩を層剥離させる目的で使用される分散剤又は解膠剤を使用することができる。
分散剤(C)としては、例えば、リン酸塩系分散剤として、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム;ポリカルボン酸塩系分散剤として、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体;アルカリとして作用するものとして、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン;多価カチオンと反応し不溶性塩又は錯塩を形成するものとして、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム;その他の有機解膠剤として、重量平均分子量200乃至2万のポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
好ましくは、リン酸塩系分散剤、ポリカルボン酸塩系分散剤、その他の有機解膠剤が挙げられる。ここで、ポリカルボン酸塩系分散剤は、重量平均分子量1000乃至2万のものがより好ましい。
具体的には、リン酸塩系分散剤としてピロリン酸ナトリウム、ポリカルボン酸塩系分散剤として重量平均分子量1000乃至2万のポリアクリル酸ナトリウム又はポリアクリル酸アンモニウム、その他の有機解膠剤では重量平均分子量200乃至2万のポリエチレングリコール(PEG900等)が好ましい。
【0020】
重量平均分子量1000乃至2万の低重合ポリアクリル酸ナトリウムはケイ酸塩粒子と相互作用して粒子表面にカルボシキアニオン由来の負電荷を生じさせ、電荷の反発によりケイ酸塩を分散させる等の機構により分散剤として作用することが知られている。
【0021】
前記分散剤(C)の含有量は、ヒドロゲル100質量%中に0.001質量%乃至20質量%、好ましくは0.01質量%乃至10質量%である。
なお、本発明では、上記成分(B)として分散剤を含有するケイ酸塩を使用する場合は、成分(C)である分散剤をさらに添加しても、添加しなくてもよい。
【0022】
また、本発明のヒドロゲル形成性組成物には、層状ケイ酸塩の層間にインターカレートし、剥離を促進させるものとして、メタノール、エタノール、グリコール等の一価又は多価アルコール、ホルムアミド、ヒドラジン、ジメチルスルホキシド、尿素、アセトアミド、酢酸カリウム等を添加することができる。
【0023】
<成分(D):多価アルコール>
本発明の成分(D)多価アルコールは、ヒドロゲルのケイ酸塩(B)含量を一定のままヒドロゲルの力学的強度を著しく向上させるもので、好ましくは水溶性多価アルコールである。
多価アルコールとは、二価以上のアルコールであり、グリセリン、ポリグリセリン(ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG600等)、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール(ペンタメチレングリコール)、1,2,6−へキサントリオール、オクチレングリコール(エトヘキサジオール)、ブチレングリコール(1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,3−ブタンジオール等)、へキシレングリコール、1,3−プロパンジオール(トリメチレングリコール)、1,6−ヘキサンジオール(ヘキサメチレングリコール)等が挙げられる。
これらの中でも、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールが好ましく、特にグリセリンが好ましい。
【0024】
前記多価アルコール(D)の含有量は、ヒドロゲル100質量%中に0.1質量%乃至99質量%、好ましくは1質量%乃至60質量%である。
【0025】
上記水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、ケイ酸塩の分散剤(C)、及び多価アルコール(D)の好ましい組合せとしては、ヒドロゲル100質量%中、成分(A)として重量平均分子量200万乃至700万の完全中和又は部分中和された非架橋型高重合ポリアクリル酸ナトリウム0.1質量%乃至10質量%、成分(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.1質量%乃至15質量%、成分(C)としてピロリン酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%、重量平均分子量1000乃至2万のポリアクリル酸ナトリウム0.01質量%乃至10質量%、又は重量平均分子量200乃至2万のポリエチレングリコール0.01質量%乃至10質量%、及び成分(D)としてグリセリン1質量%乃至60質量%である。
【0026】
[ヒドロゲル及びその製造方法]
本発明のヒドロゲルは、上記ヒドロゲル形成性組成物をゲル化させることにより得られる。
ヒドロゲル形成性組成物を用いたゲル化は、ヒドロゲル形成性組成物の3成分の混合物若しくはその水溶液又は水分散液と、残りの1成分若しくはその水溶液又は水分散液とを混合することによってゲル化させることができる。又、各成分の混合物に対して水を添加することによってもゲル化が可能である。
ヒドロゲル形成性組成物中の各成分を混合する方法としては、機械式又は手動による撹拌の他、超音波処理を用いることができるが、機械式撹拌が好ましい。機械式撹拌には、例えば、マグネチックスターラー、プロペラ式撹拌機、自転・公転式ミキサー、ディスパー、ホモジナイザー、振とう機、ボルテックスミキサー、ボールミル、ニーダー、ラインミキサー、超音波発振器等を使用することができる。そのなかでも、好ましくは自転・公転式ミキサーによる混合である。
混合する際の温度は、水溶液又は水分散液の凝固点乃至沸点、好ましくは−5℃乃至100℃であり、より好ましくは0℃乃至50℃である。
混合直後は強度が弱くゾル状であるが、静置することでゲル化する。静置時間は2時間乃至100時間が好ましい。静置温度は−5℃乃至100℃であり、好ましくは0℃乃至50℃である。また、混合直後のゲル化する前に型に流し込んだり、押出成型したりすることにより、任意形状のゲルを作製することができる。
【0027】
ヒドロゲルの「自己支持性」という用語は、学術論文や特許文献において定義されることなく使用されるのが通例であるが、本明細書では、充分な強度を有することにより、容器等の支持体がなくてもゲルの形状を保持できるといった意味で用いられている。
得られるヒドロゲルの強度は、例えば突刺し破断強度測定機により測定することができる。例えば、直径28mm高さ16mmの円柱状のヒドロゲルを作製し、株式会社山電製クリープメーターRE2−33005Bにて測定できる。測定方法は、直径3mmの円柱状のシャフト(株式会社山電製プランジャー、形状:円柱、番号:No.4S、形式:P−4S)をゲル上部から1mm/秒の速度で押し当て、破断までの応力を測定する。本発明で得られるヒドロゲルの突刺し破断強度測定機による破断応力は、5kPa乃至10000kPaであり、高強度が要求される用途に関しては、下限値としては、25kPa、300kPa、600kPaが挙げられ、上限値としては、1300kPa、2000kPa、5000kPaが挙げられる。その一例としては、300kPa乃至1300kPa、600kPa乃至1300kPaである。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1:50%グリセリン含有3%ラポナイトXLSヒドロゲルの製造]
ラポナイトXLS(分散剤含有粘土鉱物:ロックウッド・アディティブズ社製)3部、水22部を混合し、均一な水分散液になるまでマグネチックスターラーで25℃にて撹拌した。グリセリン25部を加え1時間25℃で撹拌した。もう一方で、高重合ポリアクリル酸ナトリウム(アロンビスMX:東亞合成株式会社製、分子量200万乃至300万)1部、水24部、グリセリン25部を混合し、均一な水溶液になるまでマグネチックスターラーで25℃にて撹拌した。 これらの2液を混合し、自転・公転式ミキサー(株式会社シンキー製ARE−310)にて25℃、2000回転で10分撹拌したのち24時間静置し、グリセリン含有ヒドロゲルを得た。
【0030】
[比較例1:グリセリン非含有3%ラポナイトXLSヒドロゲルの製造]
ラポナイトXLS(分散剤含有粘土鉱物:ロックウッド・アディティブズ社製)3部、水47部を混合し、均一な水分散液になるまでマグネチックスターラーで25℃にて撹拌した。もう一方で、高重合ポリアクリル酸ナトリウム(アロンビスMX:東亞合成株式会社製、分子量200万乃至300万)1部、水49部を混合し、均一な水溶液になるまでマグネチックスターラーで25℃にて撹拌した。
これらの2液を混合し、自転・公転式ミキサー(株式会社シンキー製ARE−310)にて25℃、2000回転で10分撹拌したのち24時間静置し、グリセリン非含有ヒドロゲルを得た。
【0031】
[実施例2:ヒドロゲルの突刺し強度試験]
実施例1および比較例1の条件で直径28mm高さ16mmの円柱状のヒドロゲルを作製し、株式会社山電製クリープメーターRE2−33005Bにて突刺し強度測定を行った。測定では直径3mmの円柱状のシャフト(株式会社山電製プランジャー、形状:円柱、番号:No.4S、形式:P−4S)をゲル上部から1mm/秒の速度で押し当て、破断までの歪率および応力を測定した。測定結果を
図1および表1に示す。グリセリン非含有ヒドロゲル(比較例1)と比較して、グリセリン含有ヒドロゲル(実施例1)は力学的強度が約4倍となり、著しく高い破断強度を示した。すなわち、ヒドロゲルにグリセリンを配合することにより、ヒドロゲルを著しく高強度化させることができる。
【0032】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の自己支持性を有するヒドロゲルは、原料組成により、破断強度や変形率などのヒドロゲルの粘弾性を調整することが可能である。また、室温でゲル化することができ、自在に成形することが可能である。その特性を生かして、種々の製品に応用することができる。
例えば、創傷被覆材、ハップ剤、止血材等の外用薬基材、外科用シーラント材料、再生医療用足場材料、人工角膜、人工水晶体、人工硝子体、人工皮膚、人工関節、人工軟骨、豊胸用材料等のインプラント材料、並びにソフトコンタクトレンズ用材料等の医療材料、組織培養又は微生物培培養等の培地材料、ローション、乳液、クリーム、美容液、サンスクリーン、ファンデーション、ポイントメイク、洗顔料、皮膚洗浄料、シャンプー、コンディショナー、スタイリング剤、染毛剤、クレンジング料、又はパック用シート等の化粧品素材、子供用・成人用オムツやサニタリーナプキン等のサニタリー用材料、芳香剤又は消臭剤用ゲル素材、菓子又はイヌ用ガム材料、クロマトグラフィー担体用材料、バイオリアクター担体用材料、分離機能膜材料、建材用不燃材料、耐火被覆材、調湿材、耐震緩衝材、土石流防止材、又は土嚢等の建築・土木材料、土壌保水剤、育苗用培地、又は農園芸用の水耕栽培用支持体等の緑化材料、子供用玩具又は模型等の玩具材料、文具用材料、スポーツシューズ、プロテクター等のスポーツ用品の衝撃吸収材料、靴底のクッション材、防弾チョッキ用緩衝材、自動車等の緩衝材、輸送用緩衝材、パッキング材料、緩衝・保護マット材料、電子機器内部の衝撃緩衝、光学機器、半導体関連部品等の精密部品の運搬台車用緩衝材、産業機器の防振・制振材料、モーター使用機器やコンプレッサー等の産業機器の静音化材料、タイヤ用や輪ゴム用のゴム代替材料、並びにプラスチック代替材料等の環境調和材料装置の摩擦部分のコーティング材、塗料添加物、廃泥のゲル化剤又は逸泥防止剤等の廃棄物処理、接着材、密封用シール材、1次電池、2次電池、キャパシタ用のゲル電解質材料、並びに色素増感型太陽電池用ゲル電解質材料又は燃料電池用材料等の電子材料、写真用フィルム用材料等を挙げることができる。