特許第6265561号(P6265561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6265561リチウム硫黄二次電池用の正極及びその形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265561
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】リチウム硫黄二次電池用の正極及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20180115BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20180115BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/38 Z
   H01M4/139
   H01M4/62 Z
   H01M4/66 A
   H01M4/70 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-553343(P2015-553343)
(86)(22)【出願日】2014年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2014005230
(87)【国際公開番号】WO2015092957
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-259254(P2013-259254)
(32)【優先日】2013年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】野末 竜弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】塚原 尚希
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕彦
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/070184(WO,A1)
【文献】 特開2012−238448(JP,A)
【文献】 特表2013−538413(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/146445(WO,A2)
【文献】 国際公開第2013/078618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、集電体表面にこの集電体表面側を基端として集電体表面に直交する方向に配向するように成長される複数本のカーボンナノチューブと、各カーボンナノチューブの表面を夫々覆う硫黄とを備えるリチウム硫黄二次電池用の正極において、
カーボンナノチューブの成長端側から集電体とカーボンナノチューブの基端との界面まで硫黄が存在、各カーボンナノチューブの表面を覆うアモルファスカーボンを更に備えることを特徴とするリチウム硫黄二次電池用の正極。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの単位体積当たりの密度は、0.010g/cm以上0.025g/cm以下で、所定の比容量が得られる範囲であることを特徴とする請求項1記載のリチウム硫黄二次電池用の正極。
【請求項3】
基体の表面に触媒層を形成し、触媒層表面にこの触媒層表面側を基端として触媒層表面に直交する方向に配向するように複数本のカーボンナノチューブを所定の密度で成長させる成長工程と、前記カーボンナノチューブの成長端側から硫黄を溶融拡散させて各カーボンナノチューブの成長端側から触媒層とカーボンナノチューブの基端との界面まで硫黄で覆う被覆工程とを含み、
成長工程は、炭化水素ガスと希釈ガスとを含むものを原料ガスとするCVD法を用い、原料ガス中の炭化水素ガスを第1濃度に設定してカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、原料ガス中の炭化水素ガスを第1濃度より高い第2濃度に設定して各カーボンナノチューブの表面をアモルファスカーボンで覆う第2工程とを含むことを特徴とするリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法。
【請求項4】
前記成長工程にて、前記カーボンナノチューブを0.010g/cm以上0.025g/cm以下の密度で成長させることを特徴とする請求項3記載のリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法。
【請求項5】
前記炭化水素ガスは、アセチレン、エチレン、メタンの中から選択されたものであることを特徴とする請求項3又は4記載のリチウム硫黄二次電池用の正極の形成方法。
【請求項6】
前記第1濃度は、前記原料ガスに対する前記炭化水素ガスの流量比を0.1%〜1%の範囲に設定したときの濃度であり、第2濃度は、前記原料ガスに対する前記炭化水素ガスの流量比を2%〜10%の範囲に設定したときの濃度であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項記載のリチウム硫黄二次電池用の正極の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄二次電池用の正極及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は高エネルギー密度を有することから、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の携帯機器等だけでなく、ハイブリッド自動車、電気自動車、電力貯蔵蓄電システム等にも適用が拡がっている。その中でも、正極活物質を硫黄、負極活物質をリチウムとし、リチウムと硫黄の反応により充放電するリチウム硫黄二次電池が近年注目されている。
【0003】
このようなリチウム硫黄二次電池の正極として、集電体と、集電体表面にこの集電体表面側を基端として集電体表面に直交する方向に配向するように成長される複数本のカーボンナノチューブと、各カーボンナノチューブの表面を夫々覆う硫黄とを備えるもの(一般に、カーボンナノチューブの単位体積当たりの密度が0.06g/cmで、硫黄の重量は、カーボンナノチューブの重量の0.7〜3倍とされている)が例えば特許文献1で知られている。この正極をリチウム硫黄二次電池に適用すると、電解質が広範囲で硫黄に接触して硫黄の利用効率が向上するため、充放電レート特性に優れ、リチウム硫黄二次電池としての比容量(硫黄単位重量当たりの放電容量)が大きいものとなる。
【0004】
ここで、各カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆う方法としては、カーボンナノチューブの成長端に硫黄を載置して溶融させ、溶融した硫黄をカーボンナノチューブ相互間の隙間を通って基端側に拡散させるものが一般に知られているが、このような方法では、カーボンナノチューブの成長端付近にのみ硫黄が偏在し、カーボンナノチューブの基端周辺まで硫黄が拡散せず、当該部分が硫黄で覆われないか、覆われているとしても硫黄の膜厚が極めて薄くなる場合があり、これでは、充放電レート特性に優れ、比容量が大きいものが得られない。これは、溶融した硫黄は粘度が高く、また、カーボンナノチューブ相互間には分子間力が働いて間隙の幅が狭くなるため、溶融した硫黄が当該間隙を下方に拡散し難く、カーボンナノチューブの下端近傍にまで効率よく硫黄を供給できないことに起因している。
【0005】
そこで、本発明の発明者らは、鋭意研究を重ね、単位体積当たりのカーボンナノチューブの密度を上記従来例のものと比較して半分以下の密度に設定すれば、上記と同様の方法でも、硫黄を溶融拡散させたときに集電体とカーボンナノチューブの基端との界面まで硫黄が効率よく供給されることを知見するのに至った。
【0006】
然しながら、単位体積当たりのカーボンナノチューブの密度を低くすると、カーボンチューブの基端から成長端までの間でカーボンナノチューブ表面に付着していた硫黄が部分的に剥離したり、硫黄の密着性が著しく低下したりすることが判明した。これは、カーボンナノチューブの密度を低くすることで、集電体表面に成長させた各カーボンナノチューブ全体としての強度が低下し、硫黄を溶融拡散させる際に各カーボンナノチューブが熱収縮(変形)することに起因するものと考えられる。この場合、硫黄が部分的に剥離していると、当該部分はもはやリチウム硫黄二次電池として機能せず、また、硫黄の密着性が低下した状態で電池缶に収納してリチウム硫黄二次電池として組み付けて充放電を行うと、正極の硫黄活物質が失われ、結局、充放電を繰り返すことで比容量が大きく劣化していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/070184号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、カーボンナノチューブの集電体近傍の部分を確実に硫黄で覆うことができるという機能を有しながら強度に優れたリチウム硫黄二次電池用の正極及びその形成方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、集電体と、集電体表面にこの集電体表面側を基端として集電体表面に直交する方向に配向するように成長される複数本のカーボンナノチューブと、各カーボンナノチューブの表面を夫々覆う硫黄とを備える本発明のリチウム硫黄二次電池用の正極は、カーボンナノチューブの成長端側から硫黄を溶融拡散させて各カーボンナノチューブの表面が硫黄で覆われるものとし、カーボンナノチューブの単位体積当たりの密度が、硫黄を溶融拡散させたときに集電体とカーボンナノチューブの基端との界面まで硫黄が存在するように設定され、各カーボンナノチューブの表面を覆うアモルファスカーボンを更に備えることを特徴とする。
【0010】
以上によれば、カーボンナノチューブの表面をアモルファスカーボンで覆っているため、集電体表面に成長させた各カーボンナノチューブの全体としての強度は、例えば単位面積当たり0.5MPaの圧力でカーボンナノチューブの成長端側から押圧したときでも、カーボンナノチューブの成長方向の長さの変化量を10%以下にすることができ、強度に優れたものとなる。このため、カーボンナノチューブの成長端から硫黄を溶融させるときの各カーボンナノチューブの収縮量(変形量)が少なくなり、カーボンチューブの基端から成長端までの間でカーボンナノチューブ表面に付着していた硫黄が部分的に剥離したり、硫黄の密着性が著しく低下したりすることが効果的に防止される。この場合、密度が低くしているため、カーボンナノチューブ相互間の隙間を通って基端側まで硫黄が拡散し、所定の膜厚さの硫黄でアモルファスカーボン、ひいてはカーボンナノチューブの表面が成長端から基端に亘って確実に覆われる。
【0011】
なお、本発明においては、密度は、0.025g/cm以下で、所定の比容量が得られる範囲とすることが好ましく、密度の下限は、実用性等を考慮して0.010g/cm以上であることが望ましい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法は、基体の表面に触媒層を形成し、触媒層表面にこの触媒層表面側を基端として触媒層表面に直交する方向に配向するように複数本のカーボンナノチューブを成長させる成長工程と、前記カーボンナノチューブの成長端側から硫黄を溶融拡散させて各カーボンナノチューブの表面を硫黄で覆う被覆工程とを含み、成長工程は、炭化水素ガスと希釈ガスとを含むものを原料ガスとするCVD法を用い、炭化水素ガスを第1濃度に設定してカーボンナノチューブを成長させる第1工程と、炭化水素ガスを第1濃度より高い第2濃度に設定して各カーボンナノチューブの表面をアモルファスカーボンで覆う第2工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
以上によれば、例えば、原料ガスの濃度(流量)を変えるだけで、カーボンナノチューブを成長させることと、炭化水素ガスを第1濃度より高い第2濃度に設定して各カーボンナノチューブの表面をアモルファスカーボンで覆うこととが単一の成膜室にて連続実施することができ、正極を製作するための生産性を向上することができる。
【0014】
この場合、前記炭化水素ガスは、アセチレン、エチレン、メタンの中から選択されたものであるとすればよく、また、前記第1濃度は、0.1%〜1%の範囲であり、第2濃度は、2%〜10%の範囲とすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池の構成を模式的に示す断面図。
図2】本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池用の正極を模式的に示す断面図。
図3】(a)〜(c)は、本発明の実施形態のリチウム硫黄二次電池用の正極の形成手順を説明する図。
図4】CVD法によりカーボンナノチューブの成長とアモルファスカーボンでの被覆とを実施する場合の温度とガス濃度との制御を説明するグラフ。
図5】(a)及び(b)は、本発明の効果を示すために作製した試料1、試料2のカーボンナノチューブの断面SEM写真。
図6】(a)及び(b)は、本発明の効果を示すために作製した試料1、試料2の充放電特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明のリチウム硫黄二次電池用の正極及びその形成方法の実施形態を説明する。図1を参照して、リチウム硫黄二次電池BTは、主として、正極Pと、負極Nと、これら正極Pと負極Nの間に配置されたセパレータSと、正極Pと負極Nとの間でリチウムイオン(Li)の導電性を有する電解質(図示せず)とを備え、図外の電気缶に収納して構成される。負極Nとしては、例えば、Li、LiとAlもしくはIn等との合金、または、リチウムイオンをドープしたSi、SiO、Sn、SnOもしくはハードカーボンを用いることができる。電解質としては、例えば、テトラヒドロフラングライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどのエーテル系電解液、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどのエステル系電解液のうちから選択された少なくとも1種、または、これらのうちから選択された少なくとも1種(例えばグライム、ジグライムもしくはテトラグライム)に粘度調整のためのジオキソランを混合したものを用いることができる。正極Pを除く他の構成要素は公知のものを利用できるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0017】
正極Pは、集電体Pと、集電体P表面に形成された正極活物質層Pとで構成される。集電体Pは、図2に示すように、例えば、基体1と、基体1表面に4〜100nmの膜厚で形成された下地膜(「バリア膜」ともいう)2と、下地膜2表面に0.2〜5nmの膜厚で形成された触媒層3とを備える。基体1としては、例えば、Ni、CuまたはPtからなる金属箔を用いることができる。下地膜2は、基体1と後述のカーボンナノチューブとの密着性を向上させるためのものであり、例えば、Al、Ti、V、Ta、Mo及びWから選択される少なくとも1種の金属またはその金属の窒化物から構成される。触媒層3は、例えば、Ni、FeまたはCoから選択される少なくとも1種の金属またはこれらの合金で構成される。下地膜2と触媒層3とは、例えば、公知の電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、触媒金属を含む化合物の溶液を用いたディッピングを用いて形成することができる。また、下地膜2の膜厚は、触媒層3の20倍以上の膜厚とすることが好ましい。これは、カーボンナノチューブ4の密度を低下させるためである。
【0018】
即ち、後述のようにCVD法によりカーボンナノチューブ4を成長させるとき、触媒層3がカーボンナノチューブ4成長の核となる微粒子を形成するが、同時に下地層2と合金化している。この場合、触媒層3と下地膜2の間に助触媒層を触媒層の1/5〜1/2の範囲の厚さで形成すれば、カーボンナノチューブ4の密度が向上することは知られている。そこで、これとは逆に、触媒層3の20倍以上の膜厚の下地層2を設けておけば、微粒子密度を減少させ、カーボンナノチューブ4を低密度で成長させることが可能となる。
【0019】
正極活物質層Pは、集電体P表面にこの集電体P表面側を基端として集電体P表面に直交する方向に配向するように成長される複数本のカーボンナノチューブ4と、各カーボンナノチューブ4の表面を夫々覆う硫黄5とで構成される。この場合、カーボンナノチューブ4相互の間には所定の間隙S1があり、この間隙S1に電解質(液)が流入するようになっている。カーボンナノチューブ4の成長方法(成長工程)としては、炭化水素ガスと希釈ガスとを含むものを原料ガスとする、熱CVD法、プラズマCVD法、ホットフィラメントCVD法などのCVD法が用いられる。他方、カーボンナノチューブ4の表面を硫黄5で夫々覆う方法(被覆工程)としては、カーボンナノチューブ4の成長端に、顆粒状の硫黄51を撒布し、硫黄51の融点(113℃)以上に加熱して硫黄51を溶融させ、溶融した硫黄51をカーボンナノチューブ4相互間の間隙S1を通って基端側まで拡散させる。
【0020】
ところで、溶融した硫黄51をカーボンナノチューブ4相互間の隙間を通って基端側まで確実に拡散させるには、単位体積当たりのカーボンナノチューブ4の密度を低く設定すればよいが、これでは、各カーボンナノチューブ4の全体としての強度が低下する。このため、各カーボンナノチューブ4を夫々覆う硫黄5が部分的に剥離したり、硫黄51の密着性が低下したりしないようにする必要がある。そこで、本実施形態では、硫黄5を拡散させるのに先立って、カーボンナノチューブ4の表面をアモルファスカーボン6で覆っている。以下、本実施形態のリチウム硫黄二次電池用正極の形成方法を図3及び図4を参照して説明する。
【0021】
上記手順で、基体1表面に下地膜2を形成し、下地膜2表面に触媒層3を形成して集電体Pを作製する(図1(a)参照)。次に、成長工程として、上記集電体をPを図外のCVD装置の成膜室を画成する真空チャンバ内に設置して加熱し、成膜室内に炭化水素ガスと希釈ガスとを含む原料ガスを導入して熱CVD法によりカーボンナノチューブ4を成長させ(第1工程)、引き続き、同一温度で加熱保持しつつ、原料ガス中の炭化水素ガスの濃度を増加させて各カーボンナノチューブ4の表面をアモルファスカーボン6で覆う(第2工程)。この場合、原料ガスは100Pa〜大気圧の作動圧力下で成膜室内に供給され、集電体Pは、600〜800℃の範囲内の温度、例えば700℃に加熱、保持される。
【0022】
炭化水素ガスとしては、例えば、メタン、エチレン、アセチレン等が用いられ、希釈ガスとしては、窒素、アルゴン又は水素等が用いられる。また、第1工程では、原料ガスの流量が、成膜室内の容積や集電体Pのカーボンナノチューブ4を成長させる面積等に応じて100〜5000sccmの範囲に設定される。このとき、原料ガス中の炭化水素ガスの濃度は0.1%〜1%の範囲に設定され、成膜室が所定温度(例えば、500℃)に達すると、導入されるようにしている。そして、所定の長さまでカーボンナノチューブ4が成長させた後、第2工程では、原料ガスの流量が上記第1工程と同一流量に設定され、このときの原料ガス中の炭化水素ガスの濃度が2%〜10%の範囲に変更される。
【0023】
これにより、第1工程にて、0.025g/cm以下の密度で集電体Pの表面に複数本のカーボンナノチューブ4が、集電体Pの表面に対して直交する方向に配向して成長する(この場合、長さが100〜1000μmの範囲、直径が5〜50nmの範囲となる)。第2工程にて、各カーボンナノチューブ4の表面が、基端から成長端までその全長に亘ってアモルファスカーボン6で覆われる(図3(b)参照)。この場合、第1工程にて、原料ガス中の炭化水素ガスの濃度が0.1%〜1%の範囲から外れていると、上記密度でカーボンナノチューブ4を成長することができず、また、第2工程にて、2%より薄い濃度では、各カーボンナノチューブ4の表面をその全長に亘ってアモルファスカーボン6で確実に覆うことができない一方で、10%を超えると、過剰な炭化水素の分解で生じるタール状の生成物で炉内が汚れ、連続的な生産が困難となる。
【0024】
次に、被覆工程として、集電体Pに複数本のカーボンナノチューブ4を成長させ、各カーボンナノチューブ4の表面をアモルファスカーボン6で覆った後、カーボンナノチューブ4が成長した領域の全体に亘って、その上方から、1〜100μmの範囲の粒径を有する顆粒状の硫黄51を撒布する。硫黄51の重量は、カーボンナノチューブ4の重量の0.2倍〜10倍に設定すればよい。0.2倍よりも少ないと、カーボンナノチューブ4の夫々の表面が硫黄により均一に覆われなくなり、10倍よりも多いと、隣接するカーボンナノチューブ4相互間の間隙まで硫黄5が充填されてしまう。
【0025】
そして、正極集電体P1を図外の加熱炉内に設置し、硫黄の融点以上の120〜180℃の温度に加熱して硫黄51を溶融させる。この場合、各カーボンナノチューブ4の単位体積当たりの密度を0.025g/cm以下としたため、溶融した硫黄51はカーボンナノチューブ4相互間の間隙に流れ込んでカーボンナノチューブの基端まで確実に拡散し、カーボンナノチューブ4、ひいては、アモルファスカーボン6の表面が全体に亘って1〜3nmの厚さの硫黄5で覆われ、隣接するカーボンナノチューブ4相互間に間隙S1が存するようになる(図2参照)。なお、空気中で加熱すると、溶融した硫黄が空気中の水分と反応して二酸化硫黄が生成するため、N、ArやHe等の不活性ガス雰囲気中、または真空中で加熱することが好ましい。
【0026】
以上の実施形態の正極Pによれば、カーボンナノチューブ4の表面をアモルファスカーボン6で覆っているため、集電体P表面に成長させた各カーボンナノチューブ4の全体としての強度は、例えば単位面積当たり0.5MPaの圧力でカーボンナノチューブ4の成長端側から押圧したときでも、カーボンナノチューブ4の成長方向の長さの変化量を10%以下にすることができ、強度に優れたものとなる。このため、上記の如く、硫黄を溶融させるときの各カーボンナノチューブ4の収縮量(変形量)が少なくなり、カーボンチューブ4の基端から成長端までの間でカーボンナノチューブ4の表面に付着していた硫黄が部分的に剥離したり、硫黄の密着性が著しく低下したりすることが効果的に防止される。また、原料ガスの濃度(流量)を変えるだけで、カーボンナノチューブ4を成長させる(第1工程)ことと、炭化水素ガスを第1濃度より高い第2濃度に設定して各カーボンナノチューブ4の表面をアモルファスカーボン6で覆う(第2工程)こととが単一の成膜室にて連続実施することができ、正極Pを製作するための生産性を向上することができる。
【0027】
上記の如く作製した正極Pを用いてリチウム硫黄二次電池BTを組み付けると、カーボンナノチューブ4の各々はその表面全体が硫黄5で覆われているため、硫黄5とカーボンナノチューブ4とが広範囲で接触し、硫黄5への電子供与を充分に行うことができる。このとき、隣接するカーボンナノチューブ4相互間に間隙S1に電解液が供給されると、硫黄5と電解液とが広範囲で接触し、硫黄5の利用効率が一層高められ、硫黄への充分な電子供与ができることと相俟って、特に高いレート特性を得ることができ、比容量も一層向上させることができる。また、放電時に硫黄5から生じる多硫化アニオンがカーボンナノチューブ4によって吸着されるため、電解液への多硫化アニオンの拡散を抑制でき、充放電のサイクル特性もよい。
【0028】
次に、本発明の効果を確認するために次の実験を行った。第1実験では、基体1を厚さが0.020mmのNi箔とし、このNi箔表面に下地膜2としてのAl膜を50nmの膜厚で電子ビーム蒸着法により形成し、下地膜2表面に触媒層3としてのFe膜を1nmの膜厚で電子ビーム蒸着法により形成し、集電体Pを得た。次に、熱CVD装置の処理室内に載置し、処理室内にアセチレン2sccmと窒素998sccmを供給し(第1濃度は0.2%)、作動圧力を1気圧、加熱温度を700℃に設定し、30分の成長時間で集電体P1表面にカーボンナノチューブ4を成長させた。このとき、各カーボンナノチューブの平均長さは約800μmで単位体積当たりの平均密度は約0.025g/cmであった。次に、30分の成長時間経過後、処理室内にアセチレン500sccmと窒素950sccmを供給し(第2濃度は5%)、10分の時間で集電体P表面に成長させたカーボンナノチューブ4の表面をアモルファスカーボン6で覆い、これを試料1とした。なお、比較実験として、上記と同条件でカーボンナノチューブ4を成長させ、その表面をアモルファスカーボン6で覆っていないものを得て試料2とした。
【0029】
図5(a)及び図5(b)は、上記試料1、試料2に対し、単位面積当たりの0.5MPaの圧力でカーボンナノチューブ4の成長端側から押圧した後のSEM像である。これによれば、試料2では、密度が低いことで強度が低下し、各カーボンナノチューブ4が圧縮されていることが判る(図5(b)参照)。それに対して、試料1では、アモルファスカーボン6で覆うことで、各カーボンナノチューブ4は殆ど圧縮されておらず、カーボンナノチューブの成長方向の長さは殆ど変化していない(変化量は10%以下)ことが確認された。
【0030】
次に、試料1、試料2に対して、顆粒状の硫黄51を、カーボンナノチューブが成長した領域全体に亘って配置し、Ar雰囲気下で120℃、5分加熱した。加熱後に180℃、30分のアニールを行い、カーボンナノチューブ4内にも硫黄5を充填して正極Pを得た。なお、カーボンナノチューブ4と硫黄5との最終的な重量比は3:2であり、硫黄の重量は、15mgであった。
【0031】
図6(a)及び図6(b)は、試料1、試料2をリチウム硫黄二次電池として組み付けた後、複数回充放電を繰り返したときの充放電のサイクル特性を示すグラフである。これによれば、試料2では、充放電の回数(30回)が増加する度に充放電容量が低下していることが判る(図6(b)参照)。これは、硫黄のカーボンナノチューブへの密着性が悪く、正極から離れた電解液まで硫黄が溶け出し、活物質が失われていることに起因している。それに対して、試料1では、充放電の回数が増加しても、放電容量の低下割合が小さく、180回の充放電を繰り返しても1000mAhg−1の放電容量があり、充放電効率も85%であることが判る(図6(a)参照)。これは、カーボンナノチューブをアモルファスカーボンで覆うことで、強度があることに起因していると考えられる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されない。上記実施形態では、触媒層3の表面に直接カーボンナノチューブを成長させる場合を例に説明したが、別の触媒層の表面にカーボンナノチューブを配向させて成長させ、このカーボンナノチューブを触媒層3の表面に転写してもよい。また、上記実施形態では、第1工程と第2工程とを同一の成膜室内で実施するものを例に説明したが、異なる成膜室内で行うこともでき、その際、ガス種を変更することも可能である。
【0033】
更に、上記実施形態では、カーボンナノチューブ4の各々の表面のみを硫黄5で覆っているが、カーボンナノチューブ4の各々の内部にも硫黄を充填すれば、正極Pにおける硫黄の量が更に増加することで、より一層比容量を増加させることができる。この場合、硫黄を配置する前に、例えば、大気中にて500〜600℃の温度で熱処理を行うことでカーボンナノチューブの各々の先端に開口部を形成する。次いで、上記実施形態と同様に、カーボンナノチューブが成長した領域全体に亘って硫黄を配置して溶融させる。これにより、カーボンナノチューブの各々の表面が硫黄で覆われると同時に、この開口部を通してカーボンナノチューブの各々の内部にも硫黄が充填される。硫黄の重量は、カーボンナノチューブの重量の5倍〜20倍に設定することが好ましい。
【0034】
カーボンナノチューブ内部に硫黄を充填する別の方法としては、加熱炉にて硫黄を溶融させて、カーボンナノチューブ4の各々の表面を硫黄5で覆った後、同一の加熱炉を用いて集電体金属と硫黄が反応しない200〜250℃の範囲内の温度でアニールを更に行う。このアニールにより、カーボンナノチューブ4表面から内部に硫黄を浸透させて、カーボンナノチューブ4の各々の内部に硫黄5が充填される。
【符号の説明】
【0035】
BT…リチウム硫黄二次電池、P…正極、P…集電体、1…基体、3…触媒層、4…カーボンナノチューブ、5…硫黄、6…アモルファスカーボン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6