【実施例】
【0029】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
原料を溶解後、120mmw×30mmt×180mmLのサイズのブックモールドに鋳造し、以下発明例と比較例で次のような条件でサンプル試作した。
【0031】
(発明例)
溶体化熱処理を1000℃、2hで行った後、熱間圧延(700〜950℃)を圧延率80%施し、水冷後、冷間圧延(再結晶前圧延)を圧延率75〜99%施し、再結晶熱処理として500〜850℃の範囲で速度10〜100℃/秒で昇温し、850〜1025℃で処理時間において20〜90秒間保持施した後速やかに冷却し、圧延率25%の冷間圧延を行い、450〜650℃で2時間保持した。
熱処理の後に圧延を圧延率25%加え、結晶粒径、析出状態が変らない程度の低温350℃での焼鈍を30分程度施し最終特性を評価した。
【0032】
(比較例)
溶体化熱処理を1000℃、2hで行った後、熱間圧延、冷間圧延(再結晶前圧延)を圧延率50〜99%施し、再結晶熱処理として500〜850℃の範囲で速度1〜150℃/秒で昇温し、700〜1080℃で、5〜120秒間の処理を施した後速やかに冷却し、圧延率25%の冷間圧延を行い、450〜650℃で2時間保持した。この再結晶前圧延〜再結晶処理工程のいずれかの条件が本発明の製造方法で規定する範囲外とした。
熱処理の後に圧延を圧延率25%加え、結晶粒径、析出状態が変らない程度の低温350℃での焼鈍を30分間程度施し最終特性を評価した。
【0033】
なお、各熱処理や圧延の後に、材料表面の酸化や粗度の状態に応じて酸洗浄や表面研磨を、形状に応じてテンションレベラーによる矯正を行った。
【0034】
これら発明例および比較例の供試材について、下記の特性調査を行った。ここで、供試材の厚さは0.40mmtとした。
【0035】
a.再結晶粒分布測定:
まず、試験片の圧延方向に垂直な断面を湿式研磨、バフ研磨により鏡面に仕上げた後、クロム酸:水=1:1の液で研磨した断面を数秒間腐食した。この断面を走査型電子顕微鏡(SEM)の二次電子像を用いて400〜1000倍の倍率で写真を撮影し、その断面の平均結晶粒径をJIS−H−0501の切断法に準じてn200(測定個数200)の条件にて測定した。その際、個々の結晶粒径についても測定することで、結晶粒径の標準偏差を算出し、結晶粒径の変動係数(結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径)を導き出した。
【0036】
以下、引張強度、導電性、耐応力緩和特性の特性評価を行った。
【0037】
b.引張強度 [TS]:
圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じて3本測定し、その平均値を示した。
【0038】
c.導電率 [EC]:
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
【0039】
d.応力緩和率 [SR]:
日本伸銅協会 JCBA T309:2004「銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法」に準じ、以下に示すように、150℃で1000h保持の条件で測定した。片持ちはり法(片持ちはりブロック式ジグ使用)により耐力の80%の初期応力を負荷した。
【0040】
図1は耐応力緩和特性の試験方法の説明図であり、(a)は熱処理前、(b)は熱処理後の状態である。
図1(a)に示すように、試験台4に片持ちで保持した試験片1に、耐力の80%の初期応力を付与した時の試験片1の位置は、基準からδ
0の距離である。これを150℃の恒温槽に1000時間保持(前記試験片1の状態での熱処理)し、負荷を除いた後の試験片2の位置は、
図1(b)に示すように基準からH
tの距離である。3は応力を負荷しなかった場合の試験片であり、その位置は基準からH
1の距離である。この関係から、応力緩和率(%)は(H
t−H
1)/(δ
0−H
1)×100と算出した。式中、δ
0は、基準から試験片1までの距離であり、H
1は、基準から試験片3までの距離であり、H
tは、基準から試験片2までの距離である。
【0041】
e.曲げ加工性 [R/t]:
日本伸銅協会 JCBA T307:2007「銅および銅合金薄板条の曲げ加工性評価方法」に準じ、90°W曲げをGW、BWにおいて行い、曲げ表面上にクラック割れが入らなかった最小の曲げ半径Rを板厚tで割ったR/tにて評価した。
【0042】
高温環境下のバネ端子材の評価としては、TS>400MPa、EC>75%IACS、SR<25%、R/t≦1であれば特性が良好である。この値を満たす銅合金材は、EV、HEVを中心とした車載部品および周辺インフラや太陽光発電システムなどのコネクタ、その他リードフレーム、リレー、スイッチ、ソケット等の用途に使用される銅合金材料として実用できると言える。
【0043】
【表1-1】
【0044】
【表1-2】
【0045】
表1−1では本発明で規定する合金成分を有する「発明例」(合金No.1〜24)、表1−2では本発明で規定する合金成分を有しない「比較例」(合金No.25〜50)のそれぞれの合金組成について示す。これ以降、本稿で「合金番号(合金No.)」を表記したときは、この表の組成を有する合金材を示すものとする。
【0046】
【表2-1】
【0047】
【表2-2】
【0048】
表2−1は本発明で規定する合金成分の範囲内の合金、表2−2は本発明で規定する合金成分の範囲外の合金で、且つ製造条件が本発明の範囲内にある一例にて試作した合金の結果を示す。成分、製造条件が本発明の範囲内にあると、コネクタ等に必要な特性(TS>400MPa、EC>75%IACS、SR<25%、R/t≦1)は全て満たされる。成分が本発明の範囲外であると、製造条件が本発明の範囲内であっても上記特性のいずれか1つ以上の特性が満たされていないか、もしくは製造難となることがわかる。
【0049】
【表3-1】
【0050】
【表3-2】
【0051】
表3−1は本発明で規定する合金成分の範囲内の合金、表3−2は本発明で規定する合金成分の範囲外の合金の結果を示す。ただし、表3−1、3−2の各合金は、製造条件が本発明の範囲外にある一例にて試作した合金である。成分が本発明の範囲内であるか範囲外であるかに関わらず、製造条件が本発明の範囲外にあれば、コネクタ等に必要な特性(TS>400MPa、EC>75%IACS、SR<25%、R/t≦1)は満たさないか、製造難となることがわかる。この条件では特に結晶粒径が小さくなる熱処理条件をとっているため、曲げについては表2−1、および表2−2と比べより良好である試作材も存在するが、耐応力緩和特性については劣っており、コネクタ等の材料の特性としてはバランスが不十分な合金となっている。
【0052】
【表4】
【0053】
表4には、本発明の範囲内にある合金成分を有する合金(合金No.3、7、10、12、17、20、22、24)について、製造工程を本発明で規定する条件の範囲内、範囲外の数種にて試作した結果を示す。各製造工程における条件が異なっても、本発明で規定する条件の範囲内であれば特性(TS>400MPa、EC>75%IACS、SR<25%、R/t≦1)は全て満たされ、本発明で規定する条件の範囲外であれば上記特性のいずれか1つ以上が満たされていない、もしくは製造難となっている。
【0054】
すなわち、表1−1から表4を総括すると、本発明は適切な合金成分と製造条件によって成し得るものであることがわかり、本発明で規定する範囲外の成分や条件による製造ではコネクタ等に必要な特性(TS>400MPa、EC>75%IACS、SR<25%、R/t≦1)を満足しない。本発明の銅合金材料は、平均結晶粒径が15〜80μmで、結晶粒径の変動係数(結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径)が0.40以下となっていることから、かかる条件を満足するものとなっている。
【0055】
本発明の銅合金材料は、EV、HEVを中心とした車載部品および周辺インフラや太陽光発電システムなどのコネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチ、ソケット等に好適である。