【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来技術においては、表面構造を形成した後の半導体基板を裏面研削する技術事項、裏面研削によるダメージを受けた層を除去するために裏面をウエットエッチングする技術事項、裏面に注入した不純物を活性化するためのレーザアニールの技術事項がそれぞれ部分的に開示されている。
【0008】
特許文献1に開示された裏面研削は、半導体基板を低抵抗化するための薄化加工における基本技術である。また、裏面ウエットエッチングは、バックグラインド等の機械的な研削により生じた半導体基板のダメージ層を除去し、例えば、薄化加工後の半導体基板の搬送作業における割れ防止のために必要となる技術事項である。
【0009】
また、特許文献2に開示されたウエットエッチングの混合薬液では、硝酸(HNO
3)でシリコン基板を酸化させ、弗酸(HF)でシリコン酸化物を除去することでエッチングが進行する。そして、混合薬液におけるリン酸(H
3PO
4)は、シリコン基板の凹凸を自己整合的(非等方的)に減少させる効果を有し、シリコン基板の強度を増す上で有用である。
つまり、リン酸が機械的な研削等で生じた凹凸の凹部に溜り凹部のエッチングレート(エッチング速度)を低下させ、凸部のエッチングレートとの間に差を生じさせることで平坦な鏡面仕上げとすることができる。
そして、鏡面仕上げされたシリコン基板の裏面は、蒸着やスパッタにより裏面金属電極を形成する上で理想的な状態となっている。
【0010】
さらに、特許文献3に開示されたレーザアニールによるイオン注入された不純物の活性化は、局所的な不純物領域を形成しその濃度プロファイルを精緻に制御することができるので、半導体装置の高性能化のための濃度プロファイル設計を容易にする上で重要となる技術事項である。
【0011】
上記の各文献に部分的に開示された、裏面研削、ウエットエッチング、及びレーザアニールの各工程は、IGBT等の半導体基板の厚さ方向に電流を流す電力用半導体装置において半導体基板を薄化加工する上での各課題を解決するものである。すなわち、半導体基板を薄化加工して低抵抗化し、薄化で強度の低下した半導体基板に対して対策を施し、さらに高性能化のための濃度プロファイル設計を容易にしている。
従って、従来技術においては、裏面研削、ウエットエッチング及びレーザアニールの一連の工程が、半導体基板の薄化処理において、基本的な工程となっている。
【0012】
ところで、IGBTについては、ターンオフ時のスイッチング損失(以下、「E
off」と表記する場合がある。)を低減するという更なる技術の向上が求められている。ターンオフ時のスイッチング損失とは、ゲート電圧をオフにした瞬間にIGBTのエミッタ−コレクタ間に流れる電流に起因する損失である。
【0013】
図1は、V
ce(sat)−E
off特性とコレクタ濃度との関係を示す概念図である。ここで、V
ce(sat)は、飽和領域でのコレクタ−エミッタ間電圧である。同図に示すように、コレクタ濃度を低くすると、V
ce(sat)は上昇するものの、E
offが減少する傾向にある。これは、コレクタ濃度を低くすると、V
ce(sat)の上昇とはトレードオフの関係にあるものの、少数キャリアが抜けやすくなる効果が生じ、これがE
offの低減に寄与するためと考えられる。
【0014】
このように、E
offを低減するためには、IGBTのコレクタ領域の不純物濃度を下げる必要があり、特に次世代のIGBTでは、P型コレクタのP+コレクタ濃度を5×10
17atoms/cm
3程度まで下げることが必須であるとされている。
【0015】
一方、上記のように、リン酸は、半導体基板の薄化加工におけるウエットエッチングの薬液として必要不可欠なものとなっている。しかしながら、裏面ウエットエッチングが終了した段階では、エッチング薬液に含有されていたリンが半導体基板の表面に残留している。
このリンは通常のDI(純水)洗浄では除去しきれず、当該リンが残留したまま次工程でレーザアニールによる不純物の活性化が行われるとそのリンがN型不純物として活性化されてしまう。そのため、P型コレクタの濃度プロファイルが設計値とずれ、半導体装置の特性を劣化させる要因となる。
【0016】
図2は、実際の例として、シリコン基板を弗酸、硝酸、及びリン酸の混合薬液でウエットエッチングし、純水リンス洗浄後にレーザアニール処理を施した試料をSIMS(Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer:二次イオン質量分析)により分析した結果を示すグラフである。
同図に示す例では、ウエットエッチングしたシリコン基板の裏面から約0.4μmの深さにかけて、約2×10
17atoms/cm
3の濃度の意図しないリンが検出されている。
【0017】
このことは、まず、ウエットエッチング工程で薬液に含まれるリンがシリコン基板の裏面に付着すること、そして、ウエットエッチング後の純水リンス洗浄では、ウエットエッチング工程でシリコン基板の裏面に付着した残留リンを除去しきれないことを示している。そして、シリコン裏面に付着して残留したリンは、その後のレーザアニール処理によって0.4μmの深さまで拡散することを示している。
【0018】
この約2×10
17atoms/cm
3のリン濃度は、P型コレクタの目標不純物(例えば、ボロン11B
+)濃度である5×10
17atoms/cm
3の40%にもあたる。
このようにシリコン基板内に拡散したリンは、N型不純物として作用するので、例えばIGBTのP型コレクタにおけるP型不純物に対するカウンタードープとして機能し、IGBTのP型コレクタの濃度の変動を促し、精緻な不純物濃度の設計の障害となり、ひいてはE
off低減の妨げとなっていた。
従って、ウエットエッチング時に付着したリンをいかに確実に除去するかが、IGBTのさらなる特性向上の上での課題となっている。
【0019】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、半導体基板のエッチングに伴い半導体基板に付着した意図しない不純物の除去を確実ならしめ、半導体基板の不純物の濃度プロファイルを精緻に設計することが可能な半導体装置の製造方法、及び該製造方法により製造された半導体装置を提供することを目的とする。