(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波力発電システムは、海上や海中に設置されており、交換作業が容易でない。また、それ故、システムの耐久性が要求され、最低でも10年間使用できることが必要である。振子式波力発電装置では、周期が6〜12s程度の波の力を振子が絶えず受けており、ベーンが絶えず揺動している。しかし、市販されているベーンポンプは、このような周期で絶えず揺動することを想定して製造されておらず、ベーンとケーシングとの間に設けられたシールは、このような動作に耐えうることができない。そのため、ベーンポンプは、波力発電システムで使用される際に要求される耐久性を確保することが難しい。また、ベーンポンプは、10MPa程度で使用されることが多い。しかし、波力発電システムでは、システムの小型化を図るべく20MPa以上で使用することが想定されており、この要求を満たすには波力発電システム専用のベーンポンプを開発する必要があるが、専用のベーンポンプを開発するにはコストがかかり、この点でもベーンポンプで波力発電システムを構成することを難しくしている。
【0007】
また、従来の波力発電装置は、波受部材を防波堤の前方に設置し、防波堤から反射される反射波と入射波の共振現象を用いてエネルギー変換効率を向上させるものであるが、通常、防波堤の前面には消波ブロックが存在し、反射面の位置が特定できない。
【0008】
そこで本発明は、消波ブロックが存在する防波堤であっても、これを排除することなく、耐久性能及び耐圧性能を向上させることができ、且つ低コストの波力発電システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の波力発電システムは、仮想反射面から設置距離X離れた設置位置に配置され、波の力を受けて揺動する波受部材と、前記波受部材の揺動運動を直動運動に変換して作動油を主通路に吐出するラムシリンダ式の油圧ポンプ装置と、前記油圧ポンプ装置から吐出される作動油を蓄圧し、前記主通路の圧力が所定圧以下になると蓄圧した作動油を排出するアキュムレータ装置と、前記油圧ポンプ装置からの作動油が前記主通路を介して供給され、供給された作動油を吸入して吸入量に応じた回転速度で出力軸を駆動する油圧モータ装置と、前記油圧モータ装置の出力軸の回転速度に応じた電力を発生する発電機と、を備え、前記仮想反射面は、前記防波堤より沖側に設けられる消波ブロックと平均海面とが交差する場所に位置し、前記設置距離Xは、様々な周期の波のうち頻度の高い周期の波の波長の1/4の距離であるものである。
【0010】
本発明に従えば、ラムシリンダ式の油圧ポンプ装置が用いられているので、油圧ポンプ装置は、波受部材の揺動運動を直動運動に変換して作動油を主通路に吐出することができる。これにより、油圧ポンプ装置の耐久性及び耐圧性能をベーンポンプのそれに比べて向上させることができる。これにより、波力発電システムの耐久性能及び耐圧性能を向上させることができる。
【0011】
また、防波堤及び消波ブロックで反射された波の力によって波受部材を沖側に揺り戻し、沖側からの波の力により波受部材が岸側に押し付けられてもそれを戻す作用により常に往復運動を繰り返すことができる。これにより、波の力によって波受部材を効率よく揺動させることができ、波エネルギーから電気エネルギーへの変換効率を向上させることができる。
【0012】
上記発明において、前記発電機で発電された電力の周波数又は電圧を調整して出力するパワーコンディショナを備え、前記発電機は、同期発電機であってもよい。
【0013】
上記構成に従えば、同期発電機を用いるので、油圧モータ装置の出力軸の回転数が低かったり変動したりしても発電することができ、発電量を向上させることができる。また、パワーコンディショナ(周波数変換機、電圧変換器)によって発生した電力の周波数、電圧を調整することができるので、発生した電力を電力系統に供給することができる。
【0014】
上記発明において、前記出力軸の回転数を検出する回転センサと、前記回転センサの検出結果が入力されるサーボ機構用制御装置と、を備え、前記油圧モータ装置は、吸入可能な作動油の吸入量である吸入容量を変えることができる可変容量型油圧モータと、入力されるサーボ指令に応じて前記可変容量型油圧モータの吸入容量を変更するサーボ機構とを有し、前記サーボ機構用制御装置は、前記回転センサの検出結果に基づくサーボ指令を前記サーボ機構に出力して前記可変容量型油圧モータの回転数を制御するようになっていてもよい。
【0015】
上記構成に従えば、可変容量型油圧モータの回転数を所定回転数に制御することができる。それ故、発電機を一定速度で回転させることができ、発電機から発生する電力の周波数を一定にすることができる。これにより、安定した周波数の電力を出力することができる。また、高価なパワーコンディショナ(周波数変換器、電圧調整器)の使用を不用とすることも可能である。
【0016】
上記発明において、前記油圧モータ装置に供給される作動油の流量又はそれに応じた値を検出する流量検出装置と、前記流量検出装置の検出結果が入力されるモータ切換用制御装置と、を備え、前記油圧モータ装置は、作動油の吸入量に応じた回転速度で回転駆動する複数の油圧モータと、モータ用切換弁とを有し、前記複数の油圧モータは、吸入可能な吸入量である吸入容量が互いに異なっており、前記モータ切換用制御装置は、前記流量検出装置の検出結果に応じて前記モータ用切換弁の切換動作を制御するようになっていてもよい。
【0017】
上記構成に従えば、吸入容量の異なる複数の油圧モータを備えており、油圧モータ装置に供給される作動油の流量に応じて使用する油圧モータを切換えることができる。これにより、流量が小さい場合、使用する油圧モータを吸入容量の小さい油圧モータに切換えることで流量不足によって油圧モータが駆動しないということを防ぐことができ、発電効率の低下を防ぐことができる。また、流量が大きい場合、使用する油圧モータを前記流量に適した大きな吸入容量の油圧モータに切換えることで、発電量を向上させることができる。
【0018】
上記発明において、前記油圧モータ装置に供給される作動油の流量又はそれに応じた値を検出する流量検出装置と、前流量検出装置の検出結果が入力されるアキュムレータ切換用制御装置と、を備え、前記アキュムレータ装置は、複数のアキュムレータと、アキュムレータ用切換弁とを有し、前記複数のアキュムレータは、蓄圧可能な作動油の蓄圧容量が互いに異なっており、前記アキュムレータ切換用制御装置は、前記流量検出装置の検出結果に応じて前記アキュムレータ用切換弁の切換動作を制御するようになっていてもよい。
【0019】
上記構成に従えば、蓄圧容量が異なる複数のアキュムレータを備えており、油圧モータ装置に供給される作動油の流量に応じて使用するアキュムレータを切換えることができる。作動油の流れの脈動はポンプから吐出される流量に応じて小さくなったり大きくなったりするが、吐出流量に応じて使用するアキュムレータを切換えることで、脈動の大きさに関わらず作動油の流れを平均化させることができる。
【0020】
上記発明において、前記油圧モータ装置に供給される作動油の流量又はそれに応じた値を検出する流量検出装置と、前記流量検出装置の検出結果が入力される昇降制御装置と、前記海面に対する前記波受部材の波受面積を変えるべく前記波受部材を昇降する昇降装置を更に備え、前記昇降制御装置は、前記流量検出装置の検出結果に応じて前記昇降装置の昇降動作を制御するようになっていてもよい。
【0021】
上記構成に従えば、波受部材を昇降することによって海面より下に沈んでいる波受部材の面積を作動油の流量に応じて調整することができる。即ち、作動油の流量に応じて波受部材が波から受ける力(エネルギー)を調整することができ、調整することで波受部材等の破損を防ぐことができ、また発電量を調整することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐久性能及び耐圧性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態の波力発電システム1について上述の図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する波力発電システム1は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は実施の形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0025】
<波力発電システム>
図1に示す波力発電システム1は、海岸に打ち寄せる波の力、即ち波のエネルギーを電気エネルギーに変換することによって発電する発電システムであり、海岸に設けられている防波堤2の前方に設置されている。具体的に説明すると、防波堤2付近の海底3には、コンクリートシンカー4が設置されており、このコンクリートシンカー4には、複数(例えば、4本)の支柱5が立設されている。複数の支柱5の上には、平面視で大略矩形状の床板6が載せられて固定されており、床板6には、中空の防水カバー7が被せられている。防水カバー7の中には、波力発電システム1の一部分が収容されており、
図1及び2に示すように波力発電システム1は、振子式の波受機構10を備えた鋼製海洋ジャケット構造物として構成されている。
【0026】
[波受機構]
波力発電システム1に備わる波受機構10は、軸部材11と、一対の取付部12と、波受部材13とを有している。軸部材11は、防水カバー7内において左右方向に延在する軸であり、軸部材11の中間部分には、一対の軸受部材14が設けられている。一対の軸受部材14は、左右に間隔をあけて配置されており、軸部材11を回動可能に支持している。また、軸部材11には、軸線方向両端部に一対の取付部12が夫々固定されており、取付部12は、軸部材11の軸線方向両端部から下方に夫々垂下されている。取付部12は、床板6に形成される溝(図示せず)を通って床板6の下方まで延在しており、取付部12の下端部は、海面より上方に位置している。取付部12の下端部には、波受部材13が一体的に設けられている。
【0027】
波受部材13は、後方から見て大略矩形状の板であり、その上側部分を除く大半の部分が海面より下に位置している、即ち海中に沈んでいる。また、波受部材13は、それよりも沖側から伝わる波(入射波)の波面に対して略平行になるように配置されており、入力波の力を背面で受け、前面で防波堤2及びその付近で反射された波(反射波)の力を受けるようになっている。波の力を受けた波受部材13は、軸部材11の軸線を中心に揺動し、揺動することで軸部材11がその軸線周りに回動するようになっている。また、軸部材11には、一対のカム部材15,15が設けられており、一対のカム部材15,15は、軸部材11の軸線方向中間部分であって一対の軸受部材14より軸線方向内側に相対回動不能に固定されている。このカム部材15は、後方から見て大略直方体形状になっており、カム部材15の上端部は、波力発電システム1のポンプ装置20に連結されている。
【0028】
[ポンプ装置]
ポンプ装置20は、一対のポンプ21,21を有している。ポンプ21は、ラムシリンダ式のポンプであって、一対のシリンダ22,23及びロッド24を有している。一対のシリンダ22,23は、大略有底筒状に形成されており、各々の開口が対向するようにそれらの軸線方向に間隔をあけて配置されている。また、各シリンダ22,23には、1本のロッド24の一端部及び他端部が夫々挿通されており、ロッド24の一端部及び他端部は、シリンダ22,23内をその軸線に沿って夫々往復運動できるようになっている。
【0029】
また、ロッド24の軸線方向中間部分には、左右方向に延在するピン25が一体的に設けられており、このピン25にカム部材15が係合されている。具体的に説明すると、カム部材15の上側部分は、後方から見て大略U字状に形成されており、ロッド24がこの上側部分を貫通している。また、カム部材15の上側部分は、側方から見ても上側部分が大略U字状に形成されており、ピン25もまた上側部分を左右方向に貫通している。これにより、ピン25がカム部材15に係合され、カム部材15が揺動する(
図1の1点鎖線及び2点鎖線参照)とロッド24が往復運動するようになっている。即ち、カム部材15によって波受部材13の揺動運動がロッド24の往復運動(直動運動)に変換されるようになっている。このように往復運動するロッド24は、海面に対して略平行、且つ他方のロッド24と左右方向に間隔をあけて並ぶように配置されている。このように配置することで、波受部材13が波面に対して略平行に配置され、波受部材13が波の力を効率よく受けることができる。
【0030】
また、ロッド24は、
図3に示すようにその各端面と各シリンダ22,23の端面との間に油室26,27を形成している。また、各シリンダ22,23の底面には、ポートが形成されており、各油室26,27は、このポートを介してポンプ装置20の各ポンプ通路31,32に夫々つながっている。第1ポンプ通路31は、一対のポンプ21,21の第1油室26の各々にポートを介して繋がり、第2ポンプ通路32は、一対のポンプ21,21の第2油室27の各々にポートを介して繋がっている。2つのポンプ通路31,32は、その下流側及び上流側で夫々合流しており、上流側では合流した先で主止弁35を介してタンク33に繋がり、下流側では合流した先で後述する油圧駆動回路40の主通路41に繋がっている。また、2つのポンプ通路31,32には、2つの逆止弁36,37が夫々設けられている。2つの逆止弁36,37は、2つの油室26,27を挟むようにそれらの上流側及び下流側に夫々設けられている。第1逆止弁36は、タンク33から各油室26,27への作動油の流れを許容してその逆方向の流れを阻止し、第2逆止弁37は、各油室26,27から主通路41への流れを許容してその逆方向の流れを阻止するようになっている。
【0031】
このように構成されているポンプ装置20では、ロッド24が軸線方向一方に移動すると、第1油室26の作動油が第1ポンプ通路31に吐出される。そうすると、第1ポンプ通路31の第2逆止弁37が開いて第1油室26と主通路41とが繋がり、吐出された作動油が主通路41に導かれる。第2ポンプ通路32では、第2油室27に作動油を吸入すべく第1逆止弁36が開き、第2油室27とタンク33とが繋がる。これにより、タンク33から第2油室27に作動油が吸入される。他方、ロッド24を軸線方向他方に移動させると、第2油室27の作動油が第2ポンプ通路32に吐出される。そうすると、第2ポンプ通路32の第2逆止弁37が開いて第2油室27から主通路41に作動油が導かれる。第1ポンプ通路31では、第1油室26に作動油を吸入すべく第1逆止弁36が開き、第1油室26とタンク33とが繋がる。これにより、タンク33から第1油室26に作動油が吸入される。このようにポンプ装置20では、ロッド24が往復運動することでタンク33から作動油が吸入され、油圧駆動回路40の主通路41に作動油が吐出されるようになっている。
【0032】
[油圧駆動回路]
油圧駆動回路40は、前述する主通路41を備えており、主通路41には、アキュムレータ装置43が接続されている。アキュムレータ装置43は、アキュムレータ用切換弁44及び複数の(本実施形態では2つ)アキュムレータ45,46を有している。アキュムレータ用切換弁44は、いわゆる電磁切換弁であり、そこに入力されるアキュムレータ切換指令に応じて主通路41の接続先をアキュムレータ45,46のいずれか一方に選択的に切換え、且つアキュムレータ45,46と主通路41との間を遮断することができるようになっている。アキュムレータ45,46は、作動油を蓄圧可能に構成され、且つ互いに蓄圧できる作動油の蓄圧容量が異なっている。また、主通路41には、アキュムレータ装置43より下流側に流量検出装置である流量センサ42が取り付けられており、流量センサ42は主通路41を流れる流量を検出するようになっている。
【0033】
また、主通路41には、流量センサ42の下流側にリリーフ通路47が繋がっており、リリーフ通路47には、リリーフ弁49が介在している。リリーフ弁49は、主通路41を流れる作動油が所定圧力以上になるとリリーフ通路47を開くようになっている。即ち、主通路41の圧力が過剰に高くなって所定圧力になると、リリーフ弁49がリリーフ通路47を開くようになっている。リリーフ通路47は、タンク通路48を介してタンクに繋がっており、リリーフ弁49によってリリーフ通路47が開けられることで主通路41に流れる作動油をタンク33に逃がすことができるようになっている。これにより、主通路41及びその下流側(ポンプ装置20と反対側)に設けられる構成が破損することを防ぐことができる。また、タンク通路48には、オイルクーラー50が介在しており、タンク通路48を流れる作動油を冷却するようになっている。
【0034】
また、主通路41には、フィルタ51、逆止弁52及び流量調整弁53が介在している。フィルタ51、逆止弁52、及び流量調整弁53は、リリーフ通路47より下流側に配置され、上流側(即ち、ポンプ装置20側)からこの順序で並んでいる。逆止弁52は、上流側から下流側への作動油の流れを許容し、その逆方向の流れを阻止するようになっている。また、流量調整弁53は、いわゆる可変流量の絞りであり、主通路41を流れる作動油の流量を調整するようになっている。流量調整弁53の下流側には、油圧モータ装置60が設けられている。
【0035】
[油圧モータ装置]
油圧モータ装置60は、モータ用切換弁61と、2つのモータ用通路62,63と、2つの油圧モータ64,65とを有している。モータ用切換弁61は、主通路41と2つのモータ用通路62,63とに繋がっている。モータ用切換弁61は、いわゆる電磁切換弁であり、そこに入力されるモータ切換指令に応じて主通路41の接続先を2つのモータ用通路62,63のうちのいずれか一方に選択的に切替え、且つ2つのモータ用通路62,63と主通路41との間を遮断することができるようになっている。2つのモータ用通路62,63は、下流側がタンク通路48に繋がっており、第1モータ用通路62には、第1油圧モータ64が介在し、第2モータ通路63には、第2油圧モータ65が介在している。
【0036】
第1及び第2油圧モータ64,65は、吸入可能な作動油の吸入量である吸入容量を変えることができる可変容量形の斜板モータであり、出力軸66を共有している。出力軸にはクラッチ75が設けられており、駆動側の油圧モータと出力軸とを連結する。さらに詳細に説明すると、2つの油圧モータ64,65は、各モータ用通路62,63を流れる作動油を吸入し、吸入した量(即ち、吸入量)に応じた回転速度で出力軸66を回転駆動するようになっている。これら2つの油圧モータ64,65は、吸入可能な容量(即ち、吸入容量)が異なっている、即ち大容量の油圧モータと小容量の油圧モータとによって夫々構成されている。そして、主通路41を流れる流量に応じて使用する油圧モータ64,65を使い分けるべく、主通路41に接続する油圧モータ64,65をモータ用切換弁61によって切換えられるようになっている。
【0037】
また、2つの油圧モータ64,65は、斜板64a,65aを有しており、斜板64a,65aの傾転角を変えることによって吸入容量を変えることができるようになっている。即ち、2つの油圧モータ64,65は、斜板64a,65aの傾転角を変えることによって出力軸66の回転速度を調整することができるようになっており、斜板64a,65aにはその傾転角を変えるべくサーボ機構67,68が夫々設けられている。
【0038】
サーボ機構67,68は、いわゆる電動駆動型のサーボ機構であり、入力されるサーボ指令に応じて斜板64a,65aの傾転角を調整するようになっている。つまり、サーボ機構67,68は、入力されるサーボ指令に応じて可変容量型油圧モータである第1及び第2油圧モータ64,65の吸入容量を変更することができる。具体的に説明すると、サーボ機構67,68は、図示しないサーボモータと直動機構(例えば、ボールねじ)とによって構成されており、サーボモータを駆動することで直動機構のスライダーが動くようになっている。スライダーには、斜板64a,65aが取り付けられており、スライダーを動かしてその位置を調整することで斜板64a,65aの傾転角を変えて、出力軸66の回転速度を調整することができるようになっている。なお、サーボ機構67,68はこのような構成に限定されない。このように回転速度を調整することができる出力軸66には、発電機71が取り付けられている。
【0039】
[発電機]
発電機71は、いわゆる同期発電機であり、例えば永久磁石発電機によって構成されている。発電機71は、出力軸66の回転速度に応じた周波数の交流電力(以下、単に「電力」ともいう)を発生するようになっている。それ故、出力軸66が定格回転数(例えば、1500rpm又は1800rpm)以下で回転したり、また出力軸66の回転速度が安定していなかったりしても発電機71は発電することができ、発電量を向上させることができる。なお、本実施形態では、発電機71に同期発電機を採用しているが発電機71として誘導発電機を用いてもよい。このように構成されている発電機71は、パワーコンディショナ72に接続されており、発電機71で発生した電力は、パワーコンディショナ72に伝送されるようになっている。
【0040】
[パワーコンディショナ]
周波数変換機であるパワーコンディショナ72は、電力系統に接続されており、電力の電圧及び周波数を商用電源から供給される電力と略同じ電圧及び周波数に調整して電力系統74に伝送するようになっている。即ち、パワーコンディショナ72は、発電機71で発生した電力の電圧及び周波数を電力系統に接続する際に要求される値に調整し、電力系統に伝送するようになっている。また、発電機71には、回転数センサ73が設けられており、回転数センサ73は、出力軸66の回転速度、即ち回転数を検出するように構成されている。回転数センサ73は、前述する流量センサ42と共に制御装置80に接続されており、これらの2つのセンサ73,42は、検出結果を制御装置80に出力するようになっている。
【0041】
[制御装置]
制御装置80は、2つのセンサ42,73の他に、アキュムレータ用切換弁44、モータ用切換弁61、サーボ機構67,68、及びパワーコンディショナ72に電気的に接続されている。アキュムレータ切換用制御装置及びモータ切換用制御装置である制御装置80は、流量センサ42の検出結果に基づいてアキュムレータ用切換弁44及びモータ用切換弁61に切換指令を出力してそれらの動作を制御するようになっている。また、サーボ機構用制御装置である制御装置80は、回転数センサ73の検出結果に基づいてサーボ機構67,68にサーボ指令を出力し、サーボ機構67,68の動作を制御するようになっている。また、制御装置80は、パワーコンディショナ72に駆動指令を出力し、パワーコンディショナ72の動作を制御するようになっている。以下では、制御装置80の制御動作を含め、波力発電システム1の動作について詳細に説明する。
【0042】
[波力発電システムの動作]
波力発電システム1では、波受部材13が波の力を受けて揺動すると一対のポンプ21,21から作動油が吐出され、第1ポンプ通路31又は第2ポンプ通路32を介して主通路41に供給される。即ち、ポンプ装置20から主通路41に作動油が吐出される。なお、ポンプ装置20から吐出される作動油の流れ(流量及び油圧)は、一対のポンプ21がラムシリンダ式のポンプであるので脈動している。作動油が吐出されると、流量センサ42は、主通路41を流れる作動油の流量を検出し、その検出結果を制御装置80に出力する。
【0043】
制御装置80は、流量センサ42の検出結果に基づき、主通路41を流れる作動油の流量が予め定められた第1切換流量以上か否かを判定する。例えば、波受部材13が受ける波に短い周波数の波が多く含まれていたり波が大きかったりする等で前記流量が第1切換流量以上である場合、制御装置80は、前記流量が第1切換流量以上であると判定し、アキュムレータ用切換弁44にアキュムレータ切換指令を出力して主通路41の接続先を比較的に蓄圧容量が大きい第1アキュムレータ45に切換える。他方、波受部材13が受ける波に長い周波数の波が多く含まれていたり波が小さかったりする等で前記流量が第1切換流量未満である場合、制御装置80は、前記流量が第1切換流量未満であると判定し、アキュムレータ切換指令を出力して主通路41の接続先を第1アキュムレータ45より蓄圧容量が小さい第2アキュムレータ46に切換える。アキュムレータ45,46は、作動油を蓄圧したり蓄圧した作動油を排出したりして、脈動する作動油の流れを平均化する。平均化することによって油圧モータ64,65に供給する作動油の流量及び圧力が略一定になる。
【0044】
このように流量センサ42で検出される作動油の流量に応じて使用するアキュムレータ45,46を切換えているので、作動油の流量に応じて作動油の流れの脈動が小さくなったり大きくなったりしても、脈動の大きさに関わらず作動油の流れの脈動を平均化させることができる。これにより、波の周波数や大きさ等に関わらず、主通路41を流れる作動油の流れの脈動を抑えることができ、平均化された作動油の流れをアキュムレータ45,46の下流側に流すことができる。このようにして平均化された作動油は、フィルタ51及び逆止弁52を通り、更に流量調整弁53で流量が絞られて油圧モータ装置60に導かれる。
【0045】
油圧モータ装置60では、モータ用切換弁61によって選択されたモータ用通路62,63に作動油を流れる。流路の選択は、流量センサ42の検出結果に基づいて行われる。具体的に説明すると、まず、制御装置80は、主通路41を流れる作動油の流量が予め定められた第2切換流量以上であるか否かを流量センサ42の検出結果に基づいて判定する。制御装置80は、前記流量が予め定められた第2切換流量以上であると判定すると、モータ用切換弁61にモータ切換指令を出力し、主通路41の接続先を第1モータ用通路62に切換える。これにより、吸入容量の比較的大きい第1油圧モータ64に作動油が供給される。他方、制御装置80は、前記流量が予め定められた第2切換流量未満であると判定すると、モータ用切換弁61にモータ切換指令を出力して主通路41の接続先を第2モータ用通路63に切換える。これにより、第1油圧モータ64より吸入容量が小さい第2油圧モータ65に作動油が供給される。これによって油圧モータ64,65の出力軸66が回転し、発電機71が電力を発生する。
【0046】
このように油圧モータ装置60では、主通路41に流れる作動油の流量が大きい場合は、吸入容量が大きい第1油圧モータ64によって出力軸66を回転駆動させ、主通路41に流れる作動油の流量が少ない場合は、吸入容量が小さい第2油圧モータ65によって出力軸66を回転駆動させている。これにより、吸入容量に対して少ない流量しか供給されずに第2油圧モータ65が駆動しないということを防ぐことができ、発電効率の低下を防ぐことができる。また、流量が大きい場合は、その流量に適した大きな吸入容量の第1油圧モータ64を用いることで発電量を向上させることができる。このように、2つの油圧モータ64,65は、主通路41を流れる流量に応じて切換えられて使用され、使用される油圧モータ64,65によって出力軸66が回転駆動される。回転駆動された出力軸66の回転速度は、回転数センサ73によって検出され、回転数センサ73は、その検出結果を制御装置80に出力する。
【0047】
制御装置80は、回転数センサ73の検出結果に基づいて、サーボ機構67,68の動作を制御する。具体的に説明すると、制御装置80は、回転数センサ73の出力結果に基づいて出力軸66の回転数が所定回転数以上か否かを判定する。所定回転数以上であると判定されると、制御装置80は、現在駆動している油圧モータ64,65のサーボ機構67,68(以下、「対応するサーボ機構67,68」という)にサーボ指令を出力し、出力軸66の回転数が小さくなるように対応するサーボ機構67,68の動作を制御する。具体的には、対応するサーボ機構67,68を動かして斜板64a,65aの傾転角を大きくする。他方、所定回転数未満であると判定されると、制御装置80は、対応するサーボ機構67,68にサーボ指令を出力し、制御する出力軸66の回転数が大きくなるように対応するサーボ機構67,68の動作を制御する。具体的には、対応するサーボ機構67,68を動かして斜板64a,65aの傾転角を小さくする。このように、制御装置80は、出力軸66が所定回転数になるように対応するサーボ機構67,68の動きを制御し、発電機71を一定速度で回転させる。これにより、発電機71で発生する電力の周波数を一定の値に調整することができ、安定した周波数の電力を出力することができる。このようにして出力された電力は、発電機71からパワーコンディショナ72に伝送される。そして、制御装置80は、パワーコンディショナ72の動作を制御し、パワーコンディショナ72に伝送された電力の周波数を電力系統に接続される際に要求される値(又は範囲)に調整する。これにより、パワーコンディショナ72から電力系統に電力を伝送することができる。
【0048】
このように構成されている波力発電システム1では、前述の通りラムシリンダ式のポンプ21を用いており、ポンプ21は、カム部材15によって波受部材13の揺動運動をロッド24の往復運動に変換し、このロッド24の往復運動によって作動油を吐出させるようになっている。それ故、ポンプ21の耐久性及び耐圧性能が従来用いられているベーンポンプより向上している。これにより、波力発電システム1の耐久性能及び耐圧性能を向上させることができる。
【0049】
また、波力発電システム1では、アキュムレータ45,46によって作動油の流れの脈動を抑えることができる。これにより、油圧モータ64,65に供給される作動油の流れも安定し、出力軸66の回転速度を安定させることができる。それ故、発電機71で発生する電力の周波数を略一定にすることができる。また、脈動を抑えることで、出力軸66の回転速度が発電機71によって発電可能な下限回転速度以下になることを防ぐことができる。
【0050】
なお、油圧モータ64,65から排出された作動油は、タンク通路48に戻されるようになっており、戻された作動油はオイルクーラー50を介してタンク33に排出される。このように作動油は、オイルクーラー50を通って冷却されるので、作動油の熱を大気に放出することができる。また、主通路41に過大な圧力(所定圧力以上)の作動油が流れると、リリーフ弁49が開いて主通路41の作動油がリリーフ通路47を介してタンク33に導かれる。それ故、油圧モータ装置60に過大な圧力の作動油が流れることを防ぐことができ、油圧モータ装置60が破損することを防ぐことができる。
【0051】
[波力発電システムの設置位置]
以下では、波力発電システム1の設置位置について詳述する。防波堤2が配置されている海岸では、防波堤2の前側(即ち、海側)に消波ブロック8が設けられており、この消波ブロック8と海の平均水面9とが交差する場所が波の仮想反射面Pとなっている。波受部材13は、仮想反射面Pから距離Xだけ離した位置に配置されている。ここでXは、防波堤に押し寄せる波に含まれる様々な周波数の波のうち頻度の高い周波数(本実施形態では、もっとも頻度の高い周波数)の波の波長(
図1の3点鎖線参照)の1/4の距離である。このような位置に波受部材13を配置することによって、沖側からの波の力が防波堤2及び消波ブロック8で反射された波の力によって相殺されることを防ぐことができる。これにより、波の力によって波受部材13を効率よく揺動させることができ、波のエネルギーから電機エネルギーへの変換効率を向上させることができる。また、変化する波の波長に応じて常に設置位置が1/4波長となるように可変にすることもできる。その手段として、例えば、台板6から上部の機器全体をコロ等を介して波の進行方向に設置したレール上を油圧アクチュエータまたは電動アクチュエータで移動させることができる。
【0052】
[昇降装置]
波力発電システム1では、波受機構10の取付部12を引き上げたり引き下げたりして波受部材13の一部または全部を昇降する昇降装置90が設けられている。昇降装置90は、例えば油圧シリンダ及び油圧昇降機構によって構成され、昇降制御装置である制御装置80からの昇降指令に応じて油圧昇降機構が油圧シリンダに圧油を供給し、波受部材13を昇降するようになっている。このように波受部材13を昇降することによって、海面より下に沈んでいる波受部材13の面積を調整することができ、波受部材13が波から受ける力(エネルギー)を調整することができる。これにより、波受部材13、ポンプ装置20、及び油圧モータ装置60等の破損を防ぐことができ、また波力発電システム1の発電量を調整することができる。なお、上記油圧昇降機構は、油圧シリンダを電動機とボールスクリュウとを用いた駆動装置に置き換えて、電動式昇降機構とすることもできる。
【0053】
<その他の実施形態について>
本実施形態の波力発電システム1は、パワーコンディショナ72を備えているが、必ずしも必要ではない。例えば、サーボ機構67,68によって出力軸66の回転速度を高い精度で制御することによって発電機71で発生する電力の周波数を高い精度で調整することができる。これにより、発電機71で発生する電力の周波数を電力系統に接続される際に要求される値(又は範囲)に調整することができ、発生した電力をパワーコンディショナ72を介することなく電力系統に伝送させることができる。また、パワーコンディショナ72によって発電機71で発生する電力の周波数を調整できるので、サーボ機構67,68も必ずしも必要ではない。
【0054】
本実施形態の波力発電システム1は、油圧モータ装置60が複数の油圧モータ64,65を有しているが、ポンプ装置20から吐出される流量が安定している場合、必ずしも複数である必要はなく油圧モータは1つであってもよい。同様に、波力発電システム1のアキュムレータ装置43は、複数のアキュムレータ45,46を有しているが、必ずしも複数である必要はなくアキュムレータは1つであってもよい。このように各装置43,60に備わるアキュムレータ及び油圧モータを1つにすることで、部品点数を削減することができる。ポンプ11、油圧モータ64,65及びアキュムレータ45,46の数は、3つ以上であってもよい。
【0055】
また、本実施形態では、流量センサ42によって主通路41を流れる作動油の流量を直接的に検出しているが、必ずしも直接的に検出する必要はない。例えば、波受部材13の揺動角の変化によって流量センサ42の流量を推定することができる。それ故、流量センサ42に代えて波受部材13の揺動角センサを取付け、主通路41の流量に応じた値として波受部材13の揺動角を検出し、その検出結果に基づいて制御装置80がアキュムレータ用切換弁44及びモータ用切換弁61の切換えの有無を判断するようにしてもよい。