(54)【発明の名称】耐熱性シラン架橋樹脂成形体及びその製造方法、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法、シランマスターバッチ、並びに耐熱性シラン架橋樹脂成形体を用いた耐熱性製品
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シランカップリング剤が、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランである請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
前記耐熱性シラン架橋樹脂成形体が、シランカップリング剤のシラノール結合を介して無機フィラーと架橋してなる樹脂を含む請求項11に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明の「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法」及び本発明の「耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法」は、いずれも、少なくとも上記工程(1)及び(3)を有する下記工程(a)を行う。
したがって、本発明の「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法」及び本発明の「耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法」(両者の共通部分の説明においては、これらを併せて、本発明の製造方法ということがある。)を、併せて、以下に説明する。
【0021】
工程(a):ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種を含むベース樹脂(R
B)100質量部に対し、有機過酸化物0.01質量部以上0.6質量部以下、無機フィラー70質量部以上400質量部以下、シランカップリング剤4質量部を超え15.0質量部以下及びシラノール縮合触媒を溶融混合して混合物を得る工程
工程(b):混合物を成形して成形体を得る工程
工程(c):成形体を水と接触させて耐熱性シラン架橋樹脂成形体を得る工程
【0022】
そして、この工程(a)が、下記工程(1)でベース樹脂(R
B)の全部を溶融混合する場合には少なくとも工程(1)及び工程(3)を有し、下記工程(1)でベース樹脂(R
B)の一部を溶融混合する場合には少なくとも下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する。
工程(1):ベース樹脂(R
B)の全部又は一部、有機過酸化物、無機フィラー及びシランカップリング剤を有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(2):ベース樹脂(R
B)の残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(3):シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを混合する工程
ここで、混合するとは、均一な混合物を得ることをいう。
【0023】
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
<ベース樹脂(R
B)>
本発明に用いられるベース樹脂(R
B)は、樹脂成分として、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種を含有している。
本発明において、ベース樹脂(R
B)は、ポリオレフィン樹脂を含有するのが好ましく、さらに、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1種を含有するのが好ましい。
また、ベース樹脂(R
B)は、不飽和カルボン酸で変性してなる酸変性ポリオレフィン樹脂、不飽和カルボン酸で変性してなる酸変性エチレンゴム及び不飽和カルボン酸で変性してなる酸変性スチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種の酸変性樹脂を、樹脂成分として、含有するのが好ましい。
さらに、ベース樹脂(R
B)は、オイル成分として、有機鉱物油を含有するのが好ましい。この場合、ベース樹脂(R
B)は、樹脂成分としての、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマー、並びに、オイル成分としての有機鉱物油からなる群より樹脂成分を必須として選択される少なくとも1種の成分を含有する。
【0024】
ベース樹脂(R
B)は、各成分の合計が100質量%となるように、各成分の含有率が適宜に調製され、好ましくは下記範囲内から選択される。
【0025】
(ポリオレフィン樹脂)
本発明に樹脂成分として用いられるポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば特に限定されるものではなく、従来、耐熱性樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレンとエチレン−α−オレフィン樹脂とのブロック共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の重合体からなる樹脂、これら重合体のゴム、エラストマー(エチレンゴム及びスチレン系エラストマーを除く)等が挙げられる。
これらの中でも、金属水和物等をはじめとする各種無機フィラーに対する受容性が高く、無機フィラーを多量に配合しても機械的強度を維持できる点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の各樹脂が好適である。
これらのポリオレフィン樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合には、組み合わされる各樹脂は特に限定されないが、ポリエチレン及びポリプロピレンの少なくとも一方の樹脂と、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂との組み合わせが好ましい。
【0026】
ポリエチレンは、構成成分としてエチレン成分を含む重合体であれば特に限定されない。ポリエチレンは、エチレンのみからなる単独重合体、エチレンと5mol%以下のα−オレフィレン(プロピレンを除く)との共重合体、並びに、エチレンと官能基に炭素、酸素及び水素原子だけを持つ1mol%以下の非オレフィンとの共重合体が包含される(例えば、JIS K 6748)。上述のα−オレフィレン及び非オレフィンはポリエチレンの共重合成分として従来用いられる公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
本発明に用いられるポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられ、好ましくは、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが挙げられる。
ポリエチレンは1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリプロピレンは、構成成分としてプロピレンを含む重合体であれば特に限定されない。ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体のほか、共重合体としてランダムポリプロピレン等のエチレン−プロピレン共重合体及びブロックポリプロピレンを包含する。
ここで、「ランダムポリプロピレン」は、プロピレンとエチレンとの共重合体であって、エチレン成分含有量が1〜5質量%のものをいう。また、「ブロックポリプロピレン」は、ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体とを含む組成物であって、エチレン成分含有量が5〜15質量%程度で、エチレン成分とプロピレン成分が独立した成分として存在するものをいう。
ポリプロピレンは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体(ポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く。)が挙げられる。
エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィン構成成分の具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等の各構成成分が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくはエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体(ポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く。)である。具体的には、エチレン−プロピレン共重合体(ポリプロピレンに含まれるものを除く。)、エチレン−ブチレン共重合体、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0029】
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体における酸共重合成分又は酸エステル共重合成分としては、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物、並びに、酢酸ビニル及び(メタ)アクリル酸アルキル等の酸エステル化合物が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基は、炭素数1〜12のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基が挙げられる。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体(ポリエチレンに含まれるものを除く。)としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。この中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−メタアクリル酸アルキル共重合体が好ましく、さらには無機フィラーの受容性及び耐熱性の点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。エチレン−メタアクリル酸アルキル共重合体としては、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体は1種単独で使用され、又は2種以上が併用される。
【0030】
ベース樹脂(R
B)がポリオレフィン樹脂を含有する場合、ポリオレフィン樹脂のベース樹脂(R
B)中の含有率は、特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂が含有されていると強固なネットワークの形成が可能であり、高い耐熱性を得ることができる。
また、ポリオレフィン樹脂として、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−メタアクリル酸アルキル共重合体の少なくとも1種の共重合体からなる樹脂を含む場合には、該共重合体からなる樹脂の、ベース樹脂(R
B)中の含有率は、特に限定されないが、好ましくは20〜75質量%である。
【0031】
(エチレンゴム)
本発明に樹脂成分として用いられるエチレンゴムは、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレンとα−オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムが挙げられる。三元共重合体のジエン構成成分は、共役ジエン構成成分であっても非共役ジエン構成成分であってもよく、非共役ジエン構成成分が好ましい。すなわち、三元共重合体は、エチレンとα−オレフィンと共役ジエンとの三元共重合体、及び、エチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体等が挙げられる。エチレンゴムとしてはエチレンとα−オレフィンとの共重合体及びエチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体が好ましい。
【0032】
α−オレフィン構成成分としては、炭素数3〜12の各α−オレフィン構成成分が好ましく、具体例としては、オレフィン共重合体で挙げたものが挙げられる。共役ジエン構成成分の具体例としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等の各構成成分が挙げられ、ブタジエン構成成分等が好ましい。非共役ジエン構成成分の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン等が挙げられ、エチリデンノルボルネンが好ましい。
【0033】
エチレンとα−オレフィンとの共重合体からなるゴムとして、例えば、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴム等が挙げられる。エチレンとα−オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムとしては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム等が挙げられる。
なかでも、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム及びエチレン−ブテン−ジエンゴムが好ましく、エチレン−プロピレンゴム及びエチレン−プロピレン−ジエンゴムがより好ましい。
【0034】
エチレンゴムは、共重合体中のエチレン構成成分量(エチレン量という)が20〜60質量%が好ましく、25〜45質量%がより好ましい。エチレン量の測定方法は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。
【0035】
ベース樹脂(R
B)がエチレンゴムを含有する場合、ベース樹脂(R
B)中の含有率は、特に限定されず、0〜40質量%が好ましく、0〜25質量%がより好ましく、3〜20質量%がさらに好ましい。エチレンゴムの含有率が40質量%を越えると、押出機を止めた後に押出を再開した場合に外観が悪化しやすくなることがある。
エチレンゴムの含有率は、上記含有率を満たしていればよいが、ベース樹脂(R
B)がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーを含有する場合は、スチレン系エラストマーの含有率との合計が後述する範囲内にあるのがさらに好ましい。
【0036】
エチレンゴムは、上記含有率を満たしていればよいが、ベース樹脂(R
B)がエチレンゴム及び有機鉱物油を含有する場合は、後述する有機鉱物油の含有率とエチレンゴムの含有率との質量比(有機鉱物油:エチレンゴム)が3:1〜0.1:1であるのが好ましく、2.5:1〜0.3:1であるのがより好ましく、1.5:1〜0.3:1であるのがさらに好ましい。この質量比が上記範囲内にあると、エチレンゴムに有機鉱物油がほぼ油添された状態となり、水分の混入を防ぐ力が強くなって耐油性が高くなる。また、成形後に長期保管しても有機鉱物油のブリードを防止できる。
【0037】
(スチレン系エラストマー)
本発明に樹脂成分として用いられるスチレン系エラストマーは、分子内に芳香族ビニル化合物を構成成分とする重合体からなるものをいう。したがって、本発明において、重合体が分子内にエチレン構成成分を含んでいても芳香族ビニル化合物構成成分を含んでいれば、スチレン系エラストマーに分類する。
このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等からなるものが好ましい。重合体における芳香族ビニル化合物の構成成分としては、例えば、スチレン、p−(tert−ブチル)スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン等の各構成成分が挙げられる。これらの中でも、スチレン構成成分が好ましい。芳香族ビニル化合物の構成成分は、1種単独で使用され、又は2種以上が併用される。共役ジエン化合物の構成成分としては、例えば、エチレンゴムで挙げたものが挙げられ、中でも、ブタジエン構成成分が好ましい。共役ジエン化合物の構成成分は、1種単独で使用され、又は2種以上が併用される。また、スチレン系エラストマーとして、同様な製法で、スチレン成分が含有されてなく、スチレン以外の芳香族ビニル化合物を含有するエラストマーを使用してもよい。
【0038】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン構成成分の含有量が25%以上であるのが好ましい。スチレン含有量が25質量%より少ないと耐油性が低下し、又は耐摩耗性が低下することがある。
【0039】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SBS、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、水素化SIS、水素化スチレン・ブタジエンゴム(HSBR)、水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム(HNBR)等からなるものを挙げることができる。
スチレン系エラストマーは、市販品を用いることができ、例えば、セプトン4077、セプトン4055、セプトン8105(いずれも商品名、クラレ社製)、ダイナロン1320P、ダイナロン4600P、6200P、8601P、9901P(いずれも商品名、JSR社製)等を用いることができる。
【0040】
ベース樹脂(R
B)がスチレン系エラストマーを含有する場合、ベース樹脂(R
B)中の含有率は、特に限定されず、0〜50質量%が好ましく、好ましくは5〜35質量%である。スチレン系エラストマーの含有率が50質量%を超えると、耐熱性や長期耐熱性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0041】
スチレン系エラストマーは、上記含有率を満たしていればよいが、ベース樹脂(R
B)がさらにエチレンゴムを含有する場合は、エチレンゴムの含有率との合計で、2〜50質量%が好ましく、5〜35質量%がさらに好ましい。スチレン系エラストマーとエチレンゴムとの合計含有率が上記範囲内にあると、長尺押出を行った際の押出機内の樹脂滞留による外観荒れが生じにくかったり、押出機を停止させても再稼働させた際に外観荒れが生じにくかったりして、優れた外観の成形体を得ることができる。
【0042】
また、スチレン系エラストマーの含有率は、上記含有率を満たしていればよいが、ベース樹脂(R
B)がさらにエチレンゴムを含有する場合は、エチレンゴムの含有率とスチレン系エラストマーの含有率との質量比(エチレンゴム:スチレン系エラストマー)が0:100〜25:75であるのが好ましく、0:100〜50:50であるのがより好ましく、0:100〜60:40であるのがさらに好ましい。この質量比が上記範囲内にあると、押出機を停止させても再稼働させた際に外観荒れが生じにくく、優れた外観の成形体を得ることができる。
【0043】
また、スチレン系エラストマーとエチレンゴムの含有率は、上記含有率を満たしていればよいが、ベース樹脂(R
B)が有機鉱物油をさらに含有する場合は、後述する有機鉱物油の含有率とスチレン系エラストマーの含有率との質量比(有機鉱物油:スチレン系エラストマー)が4:1〜1:3であるのが好ましく、2:1〜1:2であるのがより好ましく、1.5:1〜1:1.5であるのがさらに好ましい。この質量比が上記範囲内にあると、スチレン系エラストマーに有機鉱物油がほぼ油添された状態となり、水分の混入がしにくくなって耐油性も高くなる。また、成形後に長期保管しても有機鉱物油のブリードを防止できる。
【0044】
(酸変性樹脂)
本発明に樹脂成分として用いられる酸変性樹脂は、上記ポリオレフィン樹脂の各重合体を不飽和カルボン酸で変性してなる酸変性ポリオレフィン樹脂、上記エチレンゴムの各重合体を不飽和カルボン酸で変性してなる酸変性エチレンゴム、及び、上記スチレン系エラストマーの各重合体を不飽和カルボン酸で変性してなる酸変性スチレン系エラストマー等が挙げられる。
中でも、不飽和カルボン酸をグラフトした樹脂及び/又は(メタ)アクリル酸をグラフトした樹脂が好ましい。特に好ましくは無水マレイン酸をグラフトした樹脂等である。具体的には、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性スチレン系エラストマー、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエンゴム等が挙げられる。
【0045】
酸変性に用いられる酸としては、特に限定されないが、不飽和カルボン酸又はその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸等を挙げることができる。これらのなかでも、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。酸変性量は、酸変性された重合体1分子中、通常0.1〜7質量%程度である。
【0046】
ベース樹脂(R
B)が酸変性樹脂を含有する場合、ベース樹脂(R
B)中の含有率は、特に限定されないが、2〜30質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましい。酸変性樹脂の含有率が上記範囲内であると、高い強度の耐熱架橋体が得られ、さらに優れた外観の成形体をえることが可能となるという効果が得られる。30質量%を越えると押出機を停止させたりすると再スタートの際に外観が著しく悪くなったり、樹脂の粘度が非常に高くなり押出成形が難しくなるという課題が生じる。
【0047】
(有機鉱物油)
本発明にオイル成分として用いられる有機鉱物油は、特に限定されないが、芳香族環を有する炭化水素からなるオイル、ナフテン環を有する炭化水素からなるオイル及びパラフィン鎖を有する炭化水素からなるオイルの三者を含む混合油が好ましく、非芳香族有機油がより好ましい。樹脂が有機鉱物油を含有していると、ブツの発生を抑制して優れた外観を有するシラン架橋樹脂成形体を製造することができる。
芳香族有機油とは、芳香族環を構成する炭素原子数が、芳香族環、ナフテン環及びパラフィン鎖を構成する全炭素数に対して30%以上のものをいう。本発明に好適に用いられる非芳香族有機油とは、芳香族環を構成する炭素原子数が上記全炭素数に対して30%未満のものをいう。
このような非芳香族有機油としては、ナフテン環を構成する炭素原子数が上記全炭素数に対して30〜40%であり、パラフィン鎖を構成する炭素原子数が上記全炭素数に対して50%未満であるナフテンオイル、及び、パラフィン鎖を構成する炭素原子数が上記全炭素数に対して50%以上であるパラフィンオイルが挙げられる。非芳香族有機油は、パラフィンオイルが好ましい。
【0048】
有機鉱物油は、高温下における膨潤防止の観点から、アニリン点が80℃以上であるのが好ましく、100℃以上であるのがより好ましい。アニリン点が80℃以上であると高温下における耐熱性シラン架橋樹脂成形体の強度が維持できる。アニリン点は、特に限定されないが、160℃以下が好ましい。アニリン点は、JIS K 2256:1996に準拠して測定できる。
また、有機鉱物油の40℃における動粘度は30〜400mm
2/sが好ましい。動粘度が余り高すぎると、樹脂の軟化効果が小さくなったり、ゴム材料の分散が悪くなったりすることがある。一方で動粘度が低すぎると、混練、成形時に揮発しやすくなり、又は、成形体から抜けやすくなる(ブルームが発生)ことがある。動粘度はJIS K 2283によって測定される。
【0049】
本発明に用いられる非芳香族有機油としては、例えば、ダイアナプロセスオイルPW90、PW380(いずれも商品名、出光興産社製)、コスモニュートラル500(コスモ石油社製)等が挙げられる。
【0050】
ベース樹脂(R
B)が有機鉱物油を含有する場合、ベース樹脂(R
B)中の含有率は、特に限定されないが、2〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、5〜25質量%がさらに好ましい。有機鉱物油の含有量が少なすぎると、押出機を止めた場合にブツが発生しやすくなることがある。一方、多すぎると、耐熱性シラン架橋樹脂成形体を長時間放置すると非芳香族有機油のブルームが発生することがある。
【0051】
樹脂は、上述の成分の他に、後述する添加剤、又は、上記樹脂成分以外の樹脂成分を含有していてもよい。
【0052】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒としてシランカップリング剤の樹脂成分へのグラフト化反応を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤がエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基と樹脂成分とのラジカル反応(樹脂成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
本発明に用いられる有機過酸化物は、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はない。例えば、一般式:R
1−OO−R
2、R
1−OO−C(=O)R
3、R
4C(=O)−OO(C=O)R
5で表される化合物が好ましく用いられる。ここで、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は各々独立にアルキル基、アリール基、アシル基を表す。このうち、本発明においては、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5がいずれもアルキル基であるか、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0053】
このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド等を挙げることができる。これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
【0054】
有機過酸化物の分解温度は、80〜195℃であるのが好ましく、125〜180℃であるのが特に好ましい。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0055】
<無機フィラー>
本発明において、無機フィラーは、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合等が形成できる部位もしくは共有結合による化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラーにおける、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水もしくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
【0056】
このような無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物や、窒化ホウ素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ホウ酸亜鉛、ホワイトカーボン、ホウ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛を使用することができる。
無機フィラーは、これらのなかでも、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛の少なくとも1種が好ましく、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
無機フィラーは、1種類を単独で配合してもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0057】
無機フィラーの平均粒径は、0.2〜10μmが好ましく、0.3〜8μmがより好ましく、0.4〜5μmがさらに好ましく、0.4〜3μmが特に好ましい。無機フィラーの平均粒径が0.2μm未満であると、シランカップリング剤との混合時に無機フィラーが2次凝集を引き起こして、成形体の外観が低下し、又はブツを生じるおそれがある。一方10μmを超えると、外観が低下したり、シランカップリング剤の保持効果が低下し、架橋に問題が生じたりするおそれがある。平均粒径は、アルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0058】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理した無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理金属水和物として、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学社製等)や水酸化アルミニウムなどが挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、2質量%以下である。
【0059】
<シランカップリング剤>
本発明に用いられるシランカップリング剤は、ラジカルの存在下で樹脂成分にグラフト反応しうる基と、無機フィラーと化学結合しうる基とを有するものであればよく、末端に加水分解性基を有する加水分解性シランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤は、末端に、アミノ基、グリシジル基又はエチレン性不飽和基を含有する基と加水分解性基を含有する基とを有しているものがより好ましく、さらに好ましくは末端にエチレン性不飽和基を含有する基と加水分解性基を含有する基とを有しているシランカップリング剤である。エチレン性不飽和基を含有する基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p−スチリル基等が挙げられる。またこれらのシランカップリング剤とその他の末端基を有するシランカップリング剤を併用しても良い。
【0060】
このようなシランカップリング剤としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0062】
一般式(1)中、R
a11はエチレン性不飽和基を含有する基、R
b11は脂肪族炭化水素基、水素原子又はY
13である。Y
11、Y
12及びY
13は加水分解しうる有機基である。Y
11、Y
12及びY
13は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0063】
一般式(1)で表されるシランカップリング剤のR
a11は、エチレン性不飽和基を含有する基が好ましく、エチレン性不飽和基を含有する基は、上述した通りであり、好ましくはビニル基である。
【0064】
R
b11は脂肪族炭化水素基、水素原子又は後述のY
13であり、脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1〜8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。R
b11は、好ましくは後述のY
13である。
【0065】
Y
11、Y
12及びY
13は、加水分解しうる有機基であり、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としは、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等を挙げることができる。この中でも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシがさらに好ましく、メトキシが特に好ましい。
【0066】
シランカップリング剤としては、好ましくは加水分解速度の速いシランカップリング剤、より好ましくはR
b11がY
13であり、かつY
11、Y
12及びY
13が互いに同じであるシランカップリング剤である。さらに好ましくは、Y
11、Y
12及びY
13の少なくとも1つがメトキシ基である加水分解性シランカップリング剤であり、特に好ましくはすべてがメトキシ基である加水分解性シランカップリング剤である。
【0067】
末端にビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基を有するシランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のオルガノシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は単独又は2種以上を併用してもよい。このような架橋性のシランカップリング剤の中でも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
末端にグリシジル基を有するものは、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0068】
シランカップリング剤は、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0069】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、樹脂成分にグラフト化されたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、樹脂成分同士が架橋される。その結果、優れた耐熱性を有する耐熱性シラン架橋樹脂成形体が得られる。
【0070】
本発明に用いられるシラノール縮合触媒としては、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。一般的なシラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物等が用いられる。これらの中でも、特に好ましくはジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物である。
【0071】
<キャリア樹脂>
本発明に用いられるシラノール縮合触媒は、所望により樹脂に混合される。このような樹脂(キャリア樹脂ともいう)としては、特に限定されないが、ベース樹脂(R
B)の一部を用いることができる。ベース樹脂(R
B)の一部は、ベース樹脂(R
B)を構成する一部の樹脂成分でもよく、ベース樹脂(R
B)を構成する樹脂成分の一部でもよいが、ベース樹脂(R
B)を構成する一部の樹脂成分が好ましい。この場合の樹脂成分としては、ポリオレフィン樹脂が好ましく、シラノール縮合触媒と親和性がよく耐熱性にも優れる点で、ポリオレフィン樹脂のなかでもエチレンを構成成分として含む樹脂がより好ましく、ポリエチレンが特に好ましい。
【0072】
<添加剤>
耐熱性シラン架橋樹脂成形体及び耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、電線、電気ケーブル、電気コード、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤が本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合されていてもよい。このような添加剤として、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、充填剤、他の樹脂等が挙げられる。
これらの添加剤、特に酸化防止剤や金属不活性剤は、いずれの成分に混合されてもよいが、キャリア樹脂に加えた方がよい。架橋助剤は実質的に含有していないことが好ましい。特に架橋助剤はシランマスターバッチを調製する工程(a)において実質的に混合されないのが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、混練り中に樹脂成分同士の架橋が生じにくく、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の外観及び耐熱性が優れる。ここで、実質的に含有しない又は混合されないとは、架橋助剤を積極的に添加又は混合しないことを意味し、不可避的に含有又は混合されることを除外するものではない。
【0073】
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下において樹脂成分との間に部分架橋構造を形成する化合物をいい、例えばポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のメタクリレート化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル化合物、マレイミド化合物、ジビニル化合物等の多官能性化合物を挙げることができる。
【0074】
酸化防止剤としては、例えば、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のアミン酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等のイオウ酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜15.0質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部で加えることができる。
【0075】
滑剤としては、炭化水素、シロキサン、脂肪酸、脂肪酸アミド、エステル、アルコール、金属石けん等の各滑剤が挙げられる。これらの滑剤はキャリア樹脂に加えた方がよい。
【0076】
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
【0077】
充填剤(難燃(助)剤を含む。)としては、上述の各種フィラー以外の充填剤が挙げられる。
【0078】
次に、本発明の製造方法を具体的に説明する。
本発明の製造方法において、工程(a)は、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種を含むベース樹脂(R
B)100質量部に対し、有機過酸化物0.01質量部以上0.6質量部以下、無機フィラー70質量部以上400質量部以下、シランカップリング剤4質量部を超え15.0質量部以下及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、混合物を調製する。
【0079】
有機過酸化物の混合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、0.01〜0.6質量部であり、0.1〜0.5質量部が好ましい。有機過酸化物の混合量が0.01質量部未満では、架橋時に架橋反応が進行せず、またシランカップリング剤同士が縮合して、耐熱性、機械的強度、補強性を十分に得ることができない場合がある。一方、0.6質量部を超えると、副反応によって樹脂成分の多くが直接的に架橋してしまいブツが生じるおそれがある。すなわち、有機過酸化物の混合量をこの範囲内にすることにより、適切な範囲で重合を行うことができ、ゲル状のブツも発生することなく成形しやすい、すなわち押し出し性が優れた組成物が得ることができる。
【0080】
無機フィラーの混合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、70〜400質量部であり、60〜280質量部が好ましい。無機フィラーの混合量が70質量部未満の場合は、押出機を止めたり、調整等で押出機の回転数を大きく変えた際にはブツが多く生じたりして、外観不良を生ずるおそれがある。一方、400質量部を超えると、成型時や混練時の負荷が非常に大きくなり、2次成形が難しくなるおそれがある。
【0081】
シランカップリング剤の混合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、4質量部を超え15.0質量部以下であり、好ましくは6質量部を越え15.0質量部以下である。
シランカップリング剤の混合量が4質量部以下の場合は、シラノール縮合触媒と共に成形する際に、押出機を止めたり、調整等で押出機の回転数を大きく変えた際にはブツが多く生じたりして、外観不良を生ずるおそれがある。一方、15質量部を超えると、それ以上の無機フィラー表面にシランカップリング剤が吸着しきれず、シランカップリング剤が混練中に揮発してしまい、経済的でない。また、吸着しないシランカップリング剤が縮合してしまい、成形体にブツや焼けが生じ外観が悪化するおそれがある。
【0082】
このように、シランカップリング剤の混合量が4.0質量部を超えて15.0質量部以下であると外観が優れる。その機構の詳細についてはまだ定かではないが、次のように考えられる。すなわち、工程(a)において、シランカップリング剤が樹脂成分にシラングラフトする際の有機過酸化物分解による反応は、反応速度が速い、シランカップリング剤と樹脂成分とのグラフト反応や、シランカップリング剤同士の縮合反応が支配的になる。したがって、外観荒れや外観ブツの原因となる樹脂成分同士、特にポリオレフィン樹脂同士の架橋反応は非常に起こりにくくなる。このように、樹脂成分同士の架橋反応がシランカップリング剤の混合量によって効果的に抑えられる。これにより、成形時の外観は良好になる。また、樹脂成分同士の架橋反応による上記欠陥が少なくなるため、押出機を停止後再開しても外観不良が発生しにくくなる。このように、樹脂成分同士の架橋反応を抑えて、外観の良好なシラン架橋樹脂成形体を製造することができる。
【0083】
一方で、工程(a)において、多くのシランカップリング剤が無機フィラーに結合又は吸着して固定化されている。したがって、無機フィラーに結合又は吸着しているシランカップリング剤同士の縮合反応は起こりにくい。加えて、無機フィラーに結合又は吸着せず、遊離しているシランカップリング剤同士の縮合反応もほとんど生じず、遊離しているシランカップリング剤同士の縮合反応によるゲル状のブツの発生を抑えることができる。
このように、特定量のシランカップリング剤を用いることにより、樹脂成分同士の架橋反応、及び、シランカップリング剤同士の縮合反応のいずれをも抑えることができ、外観のきれいなシラン架橋樹脂成形体を製造することができると、考えられる。
【0084】
本発明の製造方法において、工程(a)は、ベース樹脂(R
B)について、「ベース樹脂(R
B)の全量、すなわち100質量部が配合される態様」と、「ベース樹脂(R
B)の一部が配合される態様」とを含む。したがって、本発明の製造方法においては、工程(a)で得られる混合物に100質量部のベース樹脂(R
B)が含有されていればよく、ベース樹脂(R
B)はその全量が後述する工程(1)で混合されてもよく、またその一部が工程(1)で混合され、残部が後述する工程(2)でキャリア樹脂として混合、すなわちベース樹脂(R
B)が工程(1)と工程(2)の両工程において混合されてもよい。
ベース樹脂(R
B)の一部を工程(2)で配合する場合には、工程(a)におけるベース樹脂(R
B)の混合量100質量部は工程(1)及び工程(2)で混合されるベース樹脂(R
B)の合計量である。
ここで、工程(2)でベース樹脂(R
B)の残部が配合される場合、ベース樹脂(R
B)は、工程(1)において好ましくは80〜99質量部、より好ましくは94〜98質量部が配合され、工程(2)において好ましくは1〜20質量部、より好ましくは2〜6質量部が配合される。
【0085】
この工程(a)は、少なくとも工程(1)及び工程(3)を有し、特定の場合に少なくとも工程(1)〜工程(3)からなる。工程(a)が少なくともこれらの工程からなると、各成分を均一に溶融混合でき、所期の効果を得ることができる。
工程(1):ベース樹脂(R
B)の全部又は一部、有機過酸化物、無機フィラー及びシランカップリング剤を有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(2):ベース樹脂(R
B)の残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程
工程(3):シランマスターバッチ及びシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチを混合する工程
【0086】
工程(1)において、ベース樹脂(R
B)と有機過酸化物と無機フィラーとシランカップリング剤とを混合機に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら溶融混練して、シランマスターバッチを調製する。
【0087】
工程(1)において、上述の成分を溶融混合する混練温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25〜110)℃の温度である。この分解温度は樹脂成分が溶融してから設定することが好ましい。また、混練時間等の混練条件も適宜設定することができる。有機過酸化物の分解温度未満の温度で混練りすると、シランカップリング剤のグラフト反応等が起こらず、所望の耐熱性を得ることができないばかりか、押出中に有機過酸化物が反応してしまい、所望の形状に成形できない場合がある。
【0088】
混練方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば満足に使用でき、混練装置は例えば無機フィラーの混合量に応じて適宜に選択される。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられ、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが樹脂成分の分散性及び架橋反応の安定性の面で好ましい。
また、通常、このような無機フィラーがベース樹脂(R
B)100質量部に対して100質量部を超えて混合される場合、連続混練機、加圧式ニーダー、バンバリーミキサーで混練りするのがよい。
【0089】
本発明において、「ベース樹脂(R
B)の全部又は一部、有機過酸化物、無機フィラー及びシランカップリング剤を溶融混合する」とは、溶融混合する際の混合順を特定するものではなく、どのような順で混合してもよいことを意味する。すなわち、工程(1)における混合順は特に限定されない。
また、ベース樹脂(R
B)の混合方法も特に限定されない。例えば、予め混合調製されたベース樹脂(R
B)を用いてもよく、各成分、例えば樹脂成分及びオイル成分それぞれを別々に用いてもよい。
【0090】
工程(1)において、例えば、ベース樹脂(R
B)、有機過酸化物、無機フィラー、シランカップリング剤を一度に溶融混合することができる。
好ましくは、シランカップリング剤は、シランマスターバッチに単独で導入されず、無機フィラーと前混合等して導入される。これにより、シランカップリング剤が混練中に揮発しにくくなり、無機フィラーに吸着しないシランカップリング剤が縮合して溶融混練が困難になることも防止できる。また、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
このような混合方法として、好ましくは、バンバリーミキサーやニーダー等のミキサー型混練機を用い、有機過酸化物の分解温度未満の温度で有機過酸化物と無機フィラーとシランカップリング剤を混合又は分散させた後に、この混合物とベース樹脂(R
B)とを溶融混合させる方法が挙げられる。このようにすると、樹脂成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観が優れる。
【0091】
無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物は、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは室温(25℃)で、混合される。無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物とを混合する方法としては、特に限定されず、有機過酸化物は無機フィラー等と同時に混合されても、また無機フィラーとシランカップリング剤との混合段階のいずれにおいて混合されてもよい。無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物との混合方法として、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。
【0092】
無機フィラーとシランカップリング剤とを混合する方法としては、アルコールや水などの溶媒に無機フィラーを分散させた状態でシランカップリング剤を加える湿式処理、加熱又は非加熱で両者を加え混合する乾式処理、及び、その両者が挙げられる。本発明においては、無機フィラー、好ましくは乾燥させた無機フィラー中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。
上述の湿式混合では、シランカップリング剤が無機フィラーと強く化学結合しやすくなるため、その後のシラノール縮合反応が進みにくくなることがある。一方、乾式混合は、無機フィラーとシランカップリング剤の結合が比較的弱いため、効率的にシラノール縮合反応が進みやすくなる。
【0093】
無機フィラーに加えられたシランカップリング剤は、無機フィラーの表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部は無機フィラーに吸着されたり、無機フィラー表面と化学的な結合を生じたりする。このような状態になることにより、その後のニーダーやバンバリーミキサー等で混練り加工する際のシランカップリング剤の揮発を大幅に低減するとともに、有機過酸化物によってシランカップリング剤の不飽和基は樹脂成分と架橋反応すると考えられる。また、成形の際にシラノール縮合触媒によってシランカップリング剤同士が縮合反応すると考えられる。この反応の機構は定かではないが縮合反応の際に、無機フィラーとシランカップリング剤の結合があまりに強いと、シラノール縮合触媒を加えても無機フィラーと結合したシランカップリング剤が無機フィラーからはずれることがなく、シラノール縮合反応(架橋反応)が進みにくくなると考えられる。
【0094】
工程(1)において、有機過酸化物は、シランカップリング剤と一緒に混合した後に無機フィラーに分散させても良いし、シランカップリング剤と分けて別々に無機フィラーに分散させてもよい。本発明において、有機過酸化物とシランカップリング剤とは実質的に一緒に混合した方がよい。
本発明において、生産条件によっては、シランカップリング剤のみを無機フィラーに混合し、次いで有機過酸化物を加えてもよい。すなわち、工程(1)において、無機フィラーはシランカップリング剤と予め混合したものを用いることができる。有機過酸化物を加える方法としては、他の成分に分散させたものでもよいし、単体で加えてもよい。
【0095】
好ましい混合方法においては、次いで、無機フィラー、シランカップリング剤及び有機過酸化物の混合物とベース樹脂(R
B)とを、有機過酸化物の分解温度以上に加熱しながら、溶融混練して、シランマスターバッチを調製する。
【0096】
工程(1)において、シラノール縮合触媒は用いられない。すなわち、工程(1)は、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練する。これにより、シランカップリング剤が縮合せずに溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a)において、シラノール縮合触媒は、樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば存在していてもよい。
【0097】
このようにして、工程(1)を行い、シランマスターバッチが調製される。
工程(1)で調製されるシランマスターバッチ(シランMBともいう)は、後述するように、工程(a)で調製される混合物(耐熱性シラン架橋性樹脂組成物)の製造に、好ましくは、シラノール縮合触媒又は後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。このシランMBは、工程(1)により上記成分を溶融混合して調製される混合物である。
【0098】
工程(1)で調製されるシランマスターバッチは、有機過酸化物の分解物、樹脂成分、無機フィラー及びシランカップリング剤の反応混合物、有機鉱物油を含有しており、後述の工程(b)により成形可能な程度にシランカップリング剤が樹脂成分にグラフトした2種のシラン架橋性樹脂(シラングラフトポリマー)を含有している。
【0099】
本発明の製造方法において、次いで、工程(1)でベース樹脂(R
B)の一部を溶融混合する場合には、ベース樹脂(R
B)の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する工程(2)を行う。したがって、工程(1)でベース樹脂(R
B)の全部を溶融混合する場合は、工程(2)を行わなくてもよく、また後述する他の樹脂を用いてもよい。
【0100】
工程(2)におけるベース樹脂(R
B)とシラノール縮合触媒との混合割合は、後述する工程(3)におけるシランマスターバッチのベース樹脂(R
B)との混合割合を満たすように、設定される。ベース樹脂(R
B)は、キャリア樹脂としてシラノール縮合触媒に混合され、工程(1)で混合したベース樹脂(R
B)の残部を用いる。
ベース樹脂(R
B)とシラノール縮合触媒との混合は、ベース樹脂(R
B)の溶融温度に応じて適宜に決定される。例えば、混練温度は、80〜250℃、より好ましくは100〜240℃で行うことができる。混練時間等の混練条件は適宜設定することができる。混練方法は上記混練方法と同様の方法で行うことができる。
【0101】
シラノール縮合触媒は、ベース樹脂(R
B)の残部に代えて、又は、加えて、他のキャリア樹脂が混合されてもよい。すなわち、工程(2)は、工程(1)でベース樹脂(R
B)の一部を溶融混合する場合のベース樹脂(R
B)の残部、又は、工程(1)で用いた樹脂成分以外の樹脂と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製してもよい。他のキャリア樹脂としては、特に限定されず、種々の樹脂を用いることができる。
キャリア樹脂が他の樹脂である場合は、工程(b)においてシラン架橋を早く促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい点で、キャリア樹脂の配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、好ましくは1〜60質量部、より好ましくは2〜50質量部、さらに好ましくは2〜40質量部である。
【0102】
また、このキャリア樹脂にはフィラーを加えてもよいし、加えなくてもよい。その際のフィラーの量は、特には限定しないが、キャリア樹脂100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。あまりフィラー量が多いとシラノール縮合触媒が分散しにくく、架橋が進行しにくくなるためである。一方、キャリア樹脂が多すぎると、成形体の架橋度が低下してしまい、適正な耐熱性が得られないおそれがある。
【0103】
このようにして調製される触媒マスターバッチは、シラノール縮合触媒及びキャリア樹脂、所望により添加されるフィラーの混合物である。
この調製される触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)は、シランMBとともに、工程(a)で調製される耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造に用いられる。
【0104】
本発明の製造方法において、次いで、シランマスターバッチと、シラノール縮合触媒又は工程(2)で調製した触媒マスターバッチとを混合して、混合物を得る工程(3)を行う。
混合方法は、上述のように均一な混合物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。
いずれの混合においても、シラノール縮合反応を避けるため、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。得られる混合物について、少なくとも工程(b)での成形における成形性が保持された混合物とする。
【0105】
シラノール縮合触媒の配合量は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.5質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部である。シラノール縮合触媒の混合量が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋反応がほぼ均一に進みやすく、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性、外観及び物性が優れ、生産性も向上する。
【0106】
工程(b)においては、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチの混合条件は、適宜に選択される。すなわち、シラノール縮合触媒を単独でシランマスターバッチに混合する場合には、混合条件は樹脂に応じて適宜の溶融混合条件に設定される。
【0107】
一方、シラノール縮合触媒を含む触媒マスターバッチをシランマスターバッチと混合する場合、シラノール縮合触媒の分散の点で、溶融混合が好ましく、工程(1)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できない樹脂成分、例えばエラストマーもあるが、少なくとも樹脂成分等及び有機過酸化物のいずれかが溶融する温度で混練する。溶融温度は、キャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80〜250℃、より好ましくは100〜240℃である。混練時間等の混練条件は適宜設定することができる。
【0108】
この工程(3)は、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒(C)とを混合して混合物を得る工程であればよく、シラノール縮合触媒(C)及びキャリア樹脂を含有する触媒マスターバッチとシランマスターバッチとを溶融混合する工程であるのが好ましい。
【0109】
このようにして、工程(a)、すなわち本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法が実施され、後述するように少なくとも2種の架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有する耐熱性シラン架橋性樹脂組成物(難燃性シラン架橋性樹脂組成物ともいう)が製造される。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は工程(a)を実施することによって得られる組成物であって、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとの混和物と考えられる。その成分は、基本的には、シランマスターバッチ及びシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチと同じである。
上記のように、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとは、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造用バッチセットとして、用いられる。
【0110】
本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法は、次いで、工程(b)及び工程(c)を行う。すなわち、本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法において、得られた混合物、つまり本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を成形して成形体を得る工程(b)を行う。この工程(b)は、混合物を成形できればよく、本発明の耐熱性製品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。例えば、本発明の耐熱性製品が電線又は光ファイバケーブルである場合には、押出成形等が選択される。
工程(b)は、成形体の優れた外観を低下させることなく、押出機の掃除、段替え、偏心調整及び製造中段等の事由によって一旦停止させた後に再開することもできる。
また、工程(a)の工程(3)と同時に又は連続して実施することができる。例えば、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを被覆装置内で溶融混練し、次いで例えば押出し電線やファイバに被覆して所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
このようにして、本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物が成形され、工程(a)及び工程(b)で得られる耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体は未架橋体である。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、工程(a)及び工程(b)の後に、下記工程(c)を実施することによって架橋もしくは最終架橋された成形体とするものである。
【0111】
本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、工程(b)で得られた成形体(未架橋体)を水と接触させる工程を行う。これにより、シランカップリング剤の加水分解性の基を加水分解してシラノールとし、樹脂中に存在するシラノール縮合触媒により、シラノールの水酸基同士が縮合して架橋反応が起こり、成形体が架橋した耐熱性シラン架橋樹脂成形体を得ることができる。この工程(c)の処理自体は通常の方法によって行うことができる。成形体に水分を接触させることで、シランカップリング剤の加水分解しうる基が加水分解してシランカップリング剤同士が縮合し、架橋構造を形成する。
【0112】
シランカップリング剤同士の縮合は、常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(c)において、成形体(未架橋体)を水に積極的に接触させる必要はない。架橋をさらに加速させるために、水分と接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0113】
このようにして、本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法が実施され、本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物から耐熱性シラン架橋樹脂成形体が製造される。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、工程(a)〜工程(c)を実施することによって得られる成形体である。そして、この成形体は、後述するように、シラノール結合を介して無機フィラーと架橋してなる樹脂成分を含んでいる。
【0114】
本発明の製造方法における反応機構の詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、樹脂成分は有機過酸化物成分の存在下、無機フィラー及びシランカップリング剤と共に有機過酸化物の分解温度以上で加熱混練すると、有機過酸化物が分解してラジカルを発生し、樹脂成分に対してシランカップリング剤によりグラフト化が起こる。また、このときの加熱により、部分的には、シランカップリング剤と無機フィラーのうち特に金属水和物の表面での水酸基等の基との共有結合による化学結合の形成反応も起きる。
本発明では、工程(c)で、最終的な架橋反応を行うこともあり、ベース樹脂(R
B)にシランカップリング剤を上述のように特定量配合すると、成形時の押し出し加工性を損なうことなく無機フィラーを多量に配合することが可能になり、優れた難燃性を確保しながらも耐熱性及び機械特性等を併せ持つことができる。
【0115】
また、本発明の上記プロセスの作用のメカニズムはまだ定かではないが次のように推定される。すなわち、ベース樹脂(R
B)との混練り前及び/又は混練り時に、無機フィラー及びシランカップリング剤を用いることにより、シランカップリング剤は、アルコキシ基で無機フィラーと結合し、もう一方の末端に存在するビニル基等のエチレン性不飽和基で樹脂成分の未架橋部分と結合し、又は、無機フィラーと結合することなく、無機フィラーの穴や表面に物理的及び化学的に吸着して、保持される。このように、無機フィラーに対して強い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、無機フィラー表面の水酸基等との化学結合の形成が考えられる)と弱い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷もしくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が考えられる)を形成できる。この状態で、有機過酸化物を加えて混練りを行うと、後述するようにシランカップリング剤がほとんど揮発することなく、無機フィラーとの結合が異なる、樹脂成分にシランカップリング剤がグラフト反応した少なくとも2種のシラン架橋性樹脂が形成される。
【0116】
上述の混練りにより、シランカップリング剤のうち無機フィラーと強い結合を有するシランカップリング剤は、無機フィラーとの結合が保持され、かつ、架橋基であるエチレン性不飽和基等が樹脂成分の架橋部位とグラフト反応する。特に、1つの無機フィラー粒子の表面に複数のシランカップリング剤が強い結合を介して結合した場合、この無機フィラー粒子を介して樹脂成分が複数結合する。これらの反応又は結合により、無機フィラーを介した架橋ネットワークが広がる。すなわち、無機フィラーに結合しているシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が形成される。
【0117】
無機フィラーと強い結合を有するシランカップリング剤の場合は、このシラノール縮合触媒による水存在下での縮合反応が生じにくく、無機フィラーとの結合が保持される。シラノール縮合反応が生じにくい理由は無機フィラーとシランカップリング剤が強い水素結合で結合され、この結合が熱やせん断ではずれないためであると考えられる。このように、樹脂成分と無機フィラーの結合が生じ、シランカップリング剤を介した樹脂成分の架橋が生じる。これにより樹脂成分と無機フィラーの密着性が強固になり、機械強度及び耐摩耗性が良好で、傷つきにくい成形体が得られる。
【0118】
一方、シランカップリング剤のうち無機フィラーと弱い結合を有するシランカップリング剤は、無機フィラーの表面から離脱して、シランカップリング剤の架橋基であるエチレン性不飽和基等が、有機過酸化物の分解で生じたラジカルによる水素ラジカル引き抜きで生じた樹脂成分のラジカルと反応してグラフト反応が起こる。すなわち、無機フィラーから離脱したシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応したシラン架橋性樹脂が形成される。このようにして生じたグラフト部分のシランカップリング剤は、その後シラノール縮合触媒と混合され、水分と接触することにより、縮合反応(架橋反応)が生じる。この架橋反応により得られた耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性は非常に高くなり、高温でも溶融しない耐熱性シラン架橋樹脂成形体を得ることが可能となる。
【0119】
特に、本発明では、工程(c)における、水存在下でのシラノール縮合触媒を使用した縮合による架橋反応を成形体を形成した後に行う。これにより、従来の最終架橋反応後に成形体を形成する方法と比較して、成形体形成までの工程での作業性が優れるとともに、従来以上に高い耐熱性を得ることが可能となる。また、1つの無機フィラー粒子表面に複数のシランカップリング剤を複数結合でき、高い機械強度を得ることができる。
【0120】
このように、無機フィラーに対して強い結合で結合したシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が水分と接触すると、シランカップリング剤のシラノール結合を介して無機フィラーと架橋してなるシラン架橋樹脂が形成される。無機フィラーに対して強い結合で結合したシランカップリング剤は、高い機械特性、場合によっては耐摩耗性、耐傷付性等に寄与すると考えられる。
また、無機フィラーに対して弱い結合で結合したシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が水分と接触すると、シランカップリング剤のシラノール結合を介して樹脂成分同士が架橋してなるシラン架橋樹脂が形成される。無機フィラーに対して弱い結合で結合したシランカップリング剤は、架橋度の向上、すなわち耐熱性の向上に寄与すると考えられる。
【0121】
このとき、エチレンゴムを含有するベース樹脂(R
B)を用いて、少なくとも上記工程(1)及び(3)を有する工程(a)を行うと、エチレンゴムと無機フィラーとが結合してなる架橋性樹脂が水分と接触して、高いゴム弾性を発現した、つぶれにくいシラン架橋性樹脂成形体が得られる。特に、エチレンゴムは他の樹脂、例えばポリオレフィン樹脂よりも反応性が高いため、無機フィラーに対して強い結合で結合したシランカップリング剤は選択的にエチレンゴムにグラフト反応すると考えられる。このように無機フィラーと結合した架橋ゴム成形ネットワークが形成され、高い耐熱性と補強性等を有し、しかもつぶれにくいシラン架橋性樹脂成形体が得られると考えられる。
【0122】
また、樹脂が酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂を含有するベース樹脂(R
B)を用いて、少なくとも上記工程(1)及び(3)を有する工程(a)を行うと、高温で溶融せず、高い耐熱性を有し、しかも優れた強度と耐摩耗性と難燃性の両立を図ることができる。
【0123】
ところで、大量の無機フィラーを加えると樹脂成分にラジカルが発生しやすくなる。したがって、無機フィラーを大量に配合した状態でベース樹脂(R
B)成分と有機過酸化物とを加熱混合すると、シランカップリング剤と樹脂成分との反応以外にも、例えば、樹脂成分同士の反応やシランカップリング剤同士の反応が副反応として生じる。このような副反応が生じると、得られるシラン架橋性樹脂成形体には外観不良が生じ、また押出機を止めた場合に外観が著しく損なわれ、さらにはブツが発生することがある。
【0124】
特に、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂は、ポリオレフィン樹脂よりも反応性が高く、有機過酸化物により反応しやすい。この樹脂が存在していると、上記の副反応を生じやすい。
また、シランカップリング剤同士の反応やシランカップリング剤と樹脂成分の反応は、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体からなる樹脂等の反応よりも、さらに速い。
【0125】
しかし、本発明は、ベース樹脂(R
B)100質量部に対してシランカップリング剤を4質量部を超えて15質量部まで多くに加えることにより、上述したように、無機フィラーに結合又は吸着しているシランカップリング剤が支配的に速く反応し、上記副反応の発生を抑えて、外観が良好なシラン架橋樹脂成形体を得ることができる。
しかも、シランカップリング剤は無機フィラーに結合又は吸着しており、工程(a)での溶融混練中にも揮発しにくく、遊離しているシランカップリング剤同士の反応も効果的に抑えることができる。
【0126】
また、エチレンゴム又はスチレン系エラストマーを含有するベース樹脂(R
B)を用いて、少なくとも上記工程(1)及び(3)を有する工程(a)を行う場合には、反応性の高いエチレンゴム又はスチレン系エラストマーに副反応が集中する。そうすると、樹脂成分同士の反応及びシランカップリング剤同士の副反応が抑えられ、しかもエチレンゴム又はスチレン系エラストマーが動的架橋状態となる。このように、エチレンゴム又はスチレン系エラストマーが動的架橋状態になることによって、エチレンゴム又はスチレン系エラストマー中の橋かけ状態が均一化し、ブツや外観不良が生じにくくなる。
さらに、樹脂が非芳香族有機油を含有している場合には、ベース樹脂(R
B)とエチレンゴムが相溶し、よりゴムがミクロ分散化して、外観が良好になると考えられる。
【0127】
したがって、外観が優れた耐熱性シラン架橋樹脂成形体、また優れた難燃性を具備する耐熱性シラン架橋樹脂成形体(優れた耐熱性を具備する難燃性シラン架橋樹脂成形体ともいう)を、押出機を停止しない場合の成形性(押出成形性)はもちろん、押出機を停止した後に再開した場合の成形性(押出機の一旦停止後の押出成形性)においても、容易に成形し、製造することができる。
ここで、一旦停止後、再開するとは、樹脂の組成、加工条件等に左右され一義的に述べることはできないが、例えば間隔で5分間まで、好ましくは10分間まで、さらに好ましくは15分間まで停止できることをいう。このときの温度は、樹脂成分が軟化又は溶融する温度であれば特に限定されず、例えば200℃である。
【0128】
本発明の製造方法は、耐熱性又は難燃性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、強度が求められる製品、ゴム材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。このような耐熱性製品又は難燃性製品として、例えば、耐熱性難燃絶縁電線等の電線、耐熱難燃ケーブル被覆材料、ゴム代替電線・ケーブル材料、その他耐熱難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃耐熱フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気、電子機器の内部及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ケーブルの製造に適用することができる。本発明の製造方法は、上述の製品の構成部品等の中でも、特に電線及び光ケーブルの絶縁体、シース等の製造に好適に適用され、これらの被覆として形成することができる。
絶縁体、シース等は、それらの形状に、押出し被覆装置内で溶融混練しながら被覆する等により成形することができる。このような絶縁体、シース等の成形品は、無機フィラーを大量に加えた高耐熱性の高温溶融しない架橋組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚線等の任意のものを用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。導体の周りに形成される絶縁層(本発明の耐熱性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが通常0.15〜5mm程度である。
【実施例】
【0129】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表1及び表2において、各実施例及び比較例の配合量に関する数値は質量部を表す。
【0130】
実施例1〜
3、参考例1〜15及び比較例1〜4は、表1及び表2に示す成分を用いて、それぞれの諸元又は製造条件等を変更して実施し、後述する評価を併せて示した。
【0131】
表1及び表2中に示す各成分として下記化合物を使用した。
<ベース樹脂(R
B)>
(1)樹脂成分
ポリオレフィン樹脂として
「EV180」(商品名、三井・デュポンケミカル社製、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、VA含有量33質量%)
「EV523」(商品名、三井・デュポンケミカル社製、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、VA含有量33質量%)
「NUC6510」(商品名、日本ユニカー社製、エチレン−エチルアクリレート樹脂、EA含有量23質量%、密度0.93g/cm
3)
「エンゲージ7256」(商品名、ダウ・ケミカル社製、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、密度0.885g/cm
3)
「カーネル(登録商標)KS240T」(日本ポリエチレン社製、低密度ポリエチレン(LLDPE))
「PB222A」(商品名、サンアロマー社製、ランダムポリプロピレン)
エチレンゴムとして
「三井3092M」(商品名、三井化学社製、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン含有量65%、ジエン含量4.6%)
「三井0045」(商品名、三井化学社製、エチレン−プロピレンゴム、エチレン含有量51質量%)
スチレン系エラストマーとして
「セプトン4077」(商品名、クラレ社製、SEPS、スチレン含有量30質量%)
酸変性樹脂として
「アドマー XE−070」(商品名、三井化学社製、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体)
「アドテックスL6100M」(商品名、日本ポリエチレン社製、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体)
「クレイトン1901FG」(商品名、クレイトンケミカル社製、無水マレイン酸変性スチレン系エラストマー(スチレン−エチレン−ブチレン共重合体))
【0132】
(2)有機鉱物油として
「ダイアナプロセスオイルPW90」(商品名、出光興産社製、パラフィンオイル、アニリン点127.7℃、動粘度92mm
2/s(40℃))
【0133】
<有機過酸化物>
「パーヘキサ25B」(商品名、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度149℃)
<無機フィラー>
水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5、協和化学工業株社製、平均粒径0.8μm)
水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH42M、昭和電工社製、平均粒径1.2μm)
<シランカップリング剤>
「KBM−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
<シラノール縮合触媒>
「アデカスタブOT−1」(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウリレート)
<キャリア樹脂(ベース樹脂(R
B)を構成する樹脂成分)>
「UE320」(日本ポリエチレン社製、ノバテックPE(商品名)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE))
【0134】
<酸化防止剤>
「イルガノックス1010」(商品名、BASF社製、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート])
【0135】
(実施例1〜
3、参考例1〜12及び比較例1〜4)
これらの実施例及び比較例においては、ベース樹脂(R
B)を構成する一部の樹脂成分を触媒マスターバッチのキャリア樹脂として用いた。具体的には、ベース樹脂(R
B)を構成する樹脂成分の1つであるLLDPE(UE320)全量(実施例1
、2、参考例1〜12及び比較例1〜4は5質量部、実施例
3は10質量部)を用いた。
【0136】
まず、有機過酸化物、無機フィラー及びシランカップリング剤を、表1に示す質量比で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入して、室温(25℃)で1時間混合して、粉体混合物を得た。
次に、このようにして得られた粉体混合物と、表1に示す樹脂成分及びオイル成分とを、表1に示す質量比で、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には180〜190℃において回転数35rpmで12分混練り後、材料排出温度180〜190℃で排出し、シランマスターバッチ(シランMBともいう)を得た(工程(1))。得られたシランMBは、樹脂成分にシランカップリング剤がグラフト反応した少なくとも2種のシラン架橋性樹脂を含有している。
【0137】
一方、キャリア樹脂とシラノール縮合触媒及び酸化防止剤を、表1に示す質量比で、180〜190℃でバンバリーミキサーにて別途溶融混合し、材料排出温度180〜190℃で排出して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を得た(工程(2))。この触媒マスターバッチは、キャリア樹脂及びシラノール縮合触媒の混合物である。
次いで、シランMBと触媒MBを、表1に示す質量比、すなわち、シランMBのベース樹脂(R
B)が95質量部又は90質量部で、触媒MBのキャリア樹脂が5質量部又は10質量部となる割合で、バンバリーミキサーによって180℃で溶融混合した(工程(3))。
このようにして工程(a)を行い、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を調製した。この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、シランMBと触媒MBとの混合物であって、上述の少なくとも2種のシラン架橋性樹脂を含有している。
【0138】
次いで、この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24の65(スクリュー径)mm押出機(圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入し、1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線(未架橋)を得た(工程(b))。
【0139】
得られた電線を温度80℃湿度95%の雰囲気に24時間放置して、シラノールを縮重合した(工程(c))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体で被覆した電線を製造した。
この耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、上述のように、シラン架橋性樹脂のシランカップリング剤がシラノール化し、シラノールの水酸基同士が縮合反応によって架橋した上述のシラン架橋樹脂に変換されている。
【0140】
(
参考例13)
表2に示す各成分を同表に示す質量比(質量部)で用い、上記
参考例1と同様にして、シランMB(工程(1))及び触媒MB(工程(2))をそれぞれ調製した。
次いで、得られたシランMB及び触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入して、室温(25℃)で5分ドライドブレンドしてドライドブレンド物を得た。このとき、シランMBと触媒MBとの混合比は、シランMBのベース樹脂(R
B)が95質量部で、触媒MBのキャリア樹脂が5質量部となる質量比(表2参照)とした。次いで、このドライドブレンド物を、L/D=24の40mm押出機(圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に投入し、押出機スクリュー内にて溶融混合を行いながら1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線(未架橋)を得た(工程(3)及び工程(b))。
得られた電線(未架橋)を温度80℃、湿度95%の雰囲気に24時間放置した(工程(c))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆を有する電線を製造した。
【0141】
(
参考例14)
表2に示す各成分を同表に示す質量比(質量部)で用い、上記
参考例1と同様にして、導体の外周を耐熱性シラン架橋性樹脂組成物で被覆した電線(外径2.8mm、未架橋)を得た(工程(a)及び工程(b))。
得られた電線を温度23℃、湿度50%の雰囲気に72時間放置した(工程(c))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆を有する電線を製造した。
【0142】
(
参考例15)
表2に記載に示す各成分を同表に示す質量比(質量部)で用い、上記
参考例1と同様にして、シランMBを調製した(工程(a))。
一方、キャリア樹脂「UE320」とシラノール縮合触媒と酸化防止剤を、表2に示す質量比で、2軸押出機にて溶融混合し、触媒MBを得た。2軸押出機のスクリュー径は35mm、シリンダー温度を180〜190℃に設定した。得られた触媒MBは、キャリア樹脂、シラノール縮合触媒及び酸化防止剤の混合物である。
次いで、得られたシランMB及び触媒MBをバンバリーミキサーによって180℃で溶融混合した(工程(b))。シランMBと触媒MBとの混合比は、シランMBのポリオレフィン樹脂が95質量部で、触媒MBのキャリア樹脂が5質量部となる質量比(表2参照)とした。このようにして、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を調製した。この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、シランMBと触媒MBとの混合物であって、上述の少なくとも2種のシラン架橋性樹脂を含有している。
次いで、この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を、L/D=24の40mm押出機(圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入し、1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線(未架橋)を得た(工程(b))。
得られた電線(未架橋)を温度50℃の温水に10時間浸漬した状態に放置した(工程(c))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆を有する電線を製造した。
【0143】
製造した電線について下記評価をし、その結果を表1及び表2に示した。
【0144】
<機械特性>
電線の機械特性として引張試験を行った。
この引張試験は、UL1581に基づいて、電線から導体を抜き取った電線管状片を用いて、測定温度20℃、標線間25mm、引張速度500mm/分で行い、引張強度(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。
引張強さの評価は、8MPa以上が合格レベルであるが、10MPa以上が望ましいレベルである。
伸びの評価は、100%以上が合格レベルであるが、150%以上が望ましいレベルである。
【0145】
<加熱変形試験>
耐熱性試験として加熱変形試験を行った。
加熱変形試験は、UL1581に基づいて、測定温度121℃、荷重5Nで行った。
評価は、測定値50%以下が合格レベルである。
【0146】
<難燃性試験>
難燃性試験1は、JIS C 3005に基づき、60度傾斜難燃試験を行った。
着火と同時に火を取り外し、自然消火したものが合格レベルである。
難燃性試験2は、各電線を3検体準備し、UL1581 VW−1試験を行った。3検体すべて合格した場合
が電線として望ましいレベルである。
本試験は参考までに示したものであり、本難燃性試験2の結果は必ずしも望ましいレベルに到達しなければならないものではない。
【0147】
<電線の押出外観特性>
電線の押出外観特性は、電線を製造する際に押出外観を観察することで評価した。
電線の押出外観特性1は、具体的には、スクリュー径65mmの押出機にて線速120m/分で押し出した際に電線の外観が良好だったものを「A」、外観がやや悪かったものを「B」、外観が著しく悪かったものを「C」とし、「A」及び「B」が製品として合格レベルである。
【0148】
電線の押出外観特性2は、押出機を一旦停止後、再開して、行った。
具体的には、電線を製造する際に、スクリュー径65mmの押出機にて線速50m/分に設定して電線を製造し、途中で1度押出機を止め、10分後に再度同条件で押出機を稼動させて電線を製造し、製造された電線の外観を観察することで評価した。観察は、再度線速を50m/分に設定して押出機を再稼動させて5分後に押し出された電線の外観とした。
評価は、再度線速を50m/分に設定した後5分後に観察した際に、電線の外観が良好でブツが1mに2個以内だったものを「A」、外観がやや悪かったもの、又は、1mにブツが3〜9個確認されたものを「B」、外観が著しく悪かったもの、又は、ブツが1mに10個以上確認されたものを「C」とし、「A」及び「B」が製品として合格レベルである。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
表1及び表2の結果から明らかなように、実施例1〜
3は、いずれも、加熱変形試験、難燃性試験及び押出外観特性に合格し、外観、耐熱性及び難燃性が優れた電線を押出成形性よく製造できた。特に押出機の一旦停止後も押出成形性よく製造できた。また、機械特性にも優れていた。
【0152】
これに対して、シランカップリング剤の含有量が少ない比較例1は、加熱変形試験、難燃性試験及び押出外観特性1に合格したものの押出外観特性2は不合格であった。
また、有機過酸化物の含有量が少ない比較例2は、加熱変形試験が不合格で耐熱性に劣っていた。
シランカップリング剤の含有量が多い比較例3は、押出外観特性が不合格であった。
無機フィラーの含有量が少ない比較例4は、難燃性試験1及び押出外観特性2が不合格であった。