特許第6266099号(P6266099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266099可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266099
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/16 20060101AFI20180115BHJP
   C01B 19/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01L35/16
   C01B19/00 M
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-517142(P2016-517142)
(86)(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公表番号】特表2016-526302(P2016-526302A)
(43)【公表日】2016年9月1日
(86)【国際出願番号】CN2014078764
(87)【国際公開番号】WO2014194788
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】201310220037.0
(32)【優先日】2013年6月4日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510087966
【氏名又は名称】中国科学院上海硅酸塩研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】史 迅
(72)【発明者】
【氏名】劉 灰礼
(72)【発明者】
【氏名】陳 立東
【審査官】 田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第3095330(US,A)
【文献】 特開平11−233836(JP,A)
【文献】 特開2011−101047(JP,A)
【文献】 特開2012−256657(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102674270(CN,A)
【文献】 Huili Liu,外16名,Ultrahigh Thermoelectric Performance by Electron and Phonon Critical Scattering in Cu2Se1-xIx,Advanced Materials,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2013年 9月10日,Vol. 25,p. 6607-6612
【文献】 Huili Liu,外7名,Structure-transformation-induced abnormal thermoelectric properties in semiconductor copper selenide,Materials Letters,NL,Elsevier B.V.,2012年11月21日,Vol. 93,p. 121-124
【文献】 Bo Yu,外6名,Thermoelectric properties of copper selenide with ordered selenium layer and disordered copper layer,Nano Energy,NL,Elsevier Ltd.,2012年 3月 7日,Vol. 1,p. 472-478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/16
C01B 19/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電材料の化学組成は、Cu2Se1-xIxであり、その内、0<x≦0.08である、ことを特徴とする可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料。
【請求項2】
0.04≦x≦0.08である、ことを特徴とする請求項1に記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料。
【請求項3】
前記熱電材料の相転移温度が300〜390Kである、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料。
【請求項4】
前記熱電材料は、厚みが20〜50nmであるサンドイッチ層状構造となっている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法であって、
(2−x):(1−x):xのモル比で銅金属の単体、セレン金属の単体及びヨウ化銅を秤量して真空シールを行い、
1150〜1170℃まで段階的な昇温を行って溶融処理を12〜24時間行い、
600〜700℃まで段階的な降温を行い、該温度で5〜7日間焼きなまし処理を行ってから炉とともに室温まで冷却し、
400〜450℃で加圧焼結を行うことを含む、ことを特徴とする可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法。
【請求項6】
前記段階的な昇温は、
2.5〜5℃/minの昇温速度で650〜700℃まで昇温させ、恒温状態を1〜2時間維持し、
その後、0.8〜2℃/minの昇温速度で1150〜1170℃まで昇温させることを含む、ことを特徴とする請求項5に記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法。
【請求項7】
前記段階的な降温は、
5〜10℃/時間の速度で1000〜1120℃まで徐々に降温させ、恒温状態を12〜24時間維持し、
その後、5〜10℃/時間の降温速度で600〜700℃まで徐々に降温させることを含む、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法。
【請求項8】
前記真空シールは、不活性気体の保護下でプラズマ又は火炎ガンによりシールを行う方法を採用する、ことを特徴とする請求項5から7のいずれか一つに記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法。
【請求項9】
前記加圧焼結は放電プラズマ焼結法を採用し、前記加圧焼結の圧力は50〜65Mpaであり、焼結時間は5〜10分間である、ことを特徴とする請求項5から8のいずれか一つに記載の可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電材料分野に関し、具体的には、可逆的相転移を有する新規高性能熱電材料に関し、特にセレン化銅系P型熱電材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換技術は、半導体材料を用いて熱エネルギーと電気エネルギーを直接に変換する技術であり、その原理は、材料のゼーベック(Seebeck)効果及びペルチェ(Peltier)効果により熱電発電及び熱電冷却を行うことである。該技術は、適用される時、汚染、機械伝動や騒音が生じず、信頼性が高いなどの利点があり、工業余熱や廃熱の回収・利用、宇宙用の特殊電源、微型冷却デバイスなどの分野に広く適用されている。近年、エネルギー資源の不足や環境汚染などの課題が厳しくなるため、熱電材料に関する研究はますます重視されている。
【0003】
熱電材料の最適エネルギー効率は、動作する時の高低端温度及び材料の本質的性能と関連し、材料の熱電性能は、無次元量であるZT値により定められ、具体的な定義は、ZT=S2σT/κであり、その内、Sはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、Tは絶対温度を、κは熱伝導率をそれぞれ示している。材料のZT値が高いほど、熱電エネルギーの変換効率が高くなる。
【0004】
熱電材料は、冷却分野において主にマイクロデバイスの冷却に適用されている。ペルチェ効果により、二つの異なる熱電材料であるP型とN型の熱電材料を伝導片を介して接合してなるπ型デバイスにおいて、電流を流す時、デバイスの一側は吸熱が起きて冷却を行い、他側は放熱する。熱電冷却デバイスの性能を表すパラメータとして、主に冷却効率、最大冷却量及び最大温度差を含む。冷却効率は冷却量と入力電気エネルギーとの比率であり、最適な電流入力の動作状態の時、最大冷却効率は以下のようである。
【0005】
【数1】

上記式において、Tc、Thはそれぞれ冷端温度と熱端温度であり、
【0006】
【数2】

上記式は、両者の平均温度であり、Z〒は熱電冷却デバイスの平均熱電性能指数である。
【0007】
最大冷却量は、デバイスが最適な電流の動作状態にあり、且つデバイス両端の温度差がゼロになる時の冷却量であり、
【0008】
【数3】

その内、SP、Snは冷却デバイスのP型とN型の熱電材料のゼーベック係数であり、Rは冷却デバイスの電気抵抗である。
【0009】
デバイスの動作時に、外部からの熱負荷が掛かっていない場合、冷熱端で生じる温度差は以下のようである。
【0010】
【数4】

Iは入力された電流であり、kはデバイスの両アームの総熱伝導係数である。
【0011】
熱電冷却デバイスが対応の最適な電流で動作する時、デバイスの冷熱端で生じうる温度差は最大温度差である。
【0012】
【数5】

その最大温度差はデバイスの熱電性能指数ZTのみと関連する。
【0013】
高いZT値を有する新規熱電材料を探して求めることは技術者にとって最も重要な目標の一つである。従来の熱電材料の研究において、研究者らは相次いで一連の新しい材料を提出し、且つそれが見つけられ、主にはフォノンガラス−電子結晶という概念により提出された籠形化合物のskutterudite、clathrate系、層状構造を有する酸化物系、岩塩型構造のテルル化鉛材料、ワイドバンドギャップ型ダイアモンド構造系、液体に似た性質を有するCu2Se材料、及び低次元構造材料などを含み、該低次元構造材料はナノワイヤー、超格子、薄膜及びナノ構造化バルク材料等を含む。また、近年、研究者らは新しい方法と手段を探して熱電材料の性能を高めており、例えば、フェルミ準位付近に共振レベルを導入してゼーベック係数を増加させる方法、熱電性能の伝導を決定するエネルギー準位付近に複雑なエネルギーバンド構造を導入する方法、バルク材料で二次元平面電子波を実現する方法、籠形化合物に単一元素又は多元素を充填する方法、および液体に似た効果によりフォノンモードを減少させる方法などは熱電性能指数を大幅に大きくすることができる。このような材料と新しい方法の実施により、従来のバルク材料のZT値は顕著に向上し、最大値は1.5以上も達し、エネルギー転換効率は10%より大きくなる。しかしながら、これらの新材料はいずれも単一構造系であり、適用温度範囲内に構造上の変化がなく、より広い範囲で材料系を開発することがある程度制限されている。マイクロデバイスの冷却への適用において、室温付近に優れた熱電性能指数を有する材料系は、比較的に単一で、現在主に商業用で広く用いられるものとして、テルル化ビスマス材料があり、例えば中国特許出願第101273474A号を参照することができる。このような材料は、製造コストが高く、製造方法が難しく、室温付近での熱電性能指数が約1.0であり、冷却効率が約5%程度であり、熱電変換技術の広い範囲での適用を制限している。なお、今は、新規熱電材料として、多元素熱電合金が研究・開発されており、例えば中国特許出願第101823702AはCu2CdSnSe4半導体ナノ結晶を開示している。
【0014】
中国特許出願第102674270A号は低温固相反応によるCu2Se熱電材料の製造方法を開示している。Cu2Se化合物の化学組成が簡単で、400K付近に可逆的相転移がある。相転移後の高温相は立方晶逆蛍石型構造であり、銅イオンが主な結晶格子の八面体と四面体の空隙で移動することにより高速イオン伝導の性質を有し、Cu2Seも広く適用される高速イオン伝導体である。室温相の構造は複雑で、[010]方向に沿って2倍又は3倍周期を有する複合単斜晶構造となっている。この2倍又は3倍の周期内に、銅原子は主な結晶格子のセレン原子の間隙に押し込まれた状態となり、セレン原子同士はファンデルワールス力により結合するため、室温相材料は層状構造を呈している。室温相から高温相への相転移の過程において、セレン原子間の銅イオンの一部は真空層へ転移し、構造もそれに応じて安定な立方晶構造に変換される。この過程において、銅イオンの転移は構造上の変動を生じて、電子構造の変化に影響を与えており、相転移の過程はキャリアに規定外の散乱を起こさせ、材料のゼーベック係数を大幅に増加させ、熱伝導率を低下させ、材料の熱電性能指数ZTをさらに高めて、産業上で広く利用されることが期待されている。相転移材料系を熱電材料の研究に導入して、熱電研究対象の材料系を増大させるとともに、より高性能な材料の実現を可能とし、熱電材料の研究にとって非常に重要な意義がある。
【発明の概要】
【0015】
本発明は可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料であって、熱電材料はIをドープしたセレン化銅系熱電材料であり、その化学組成は、Cu2Se1-xIxであり、その内、0<x≦0.08であり、0.04≦x≦0.08であることが好ましい、ことを特徴とする可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料を提供している。
【0016】
本発明が提供する熱電材料化合物は半導体であり、室温付近に優れた熱電性能指数を有する従来のテルル化ビスマス系熱電材料に比べて、化合物組成が簡単で、原料が安価で、コストが低く、相転移区域において高いゼーベック係数と優れた電気伝導率を有するとともに、低い熱伝導率を有し、熱電性能指数(ZT値)が相転移温度区域付近で1程度に達することができる。ヨードをドープすることにより相転移温度を300〜390Kまで低下させることができ、例えばx=0.04、x=0.08の時、相転移温度はそれぞれ380K及び360K付近まで低下させることができ、その相転移区域の熱電性能指数(ZT値)はそれぞれ1.1及び0.8に達することができ、室温付近におけるマイクロデバイスの冷却、特に、電子工業デバイス冷却、CPU冷却などの分野で産業上広く利用されることが期待されている。
【0017】
本発明が提供する熱電材料は、相転移温度が300〜390Kであり、例えば350〜380Kであってもよい。
【0019】
本発明が提供する熱電材料化合物は、厚みが20〜50nmであるサンドイッチ層状構造となっていてもよい。その低次元構造はZT値の向上にも有益である。
【0020】
一方、本発明は上記可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法であって、(2−x):(1−x):xのモル比で銅金属の単体、セレン金属の単体及びヨウ化銅を秤量して真空シールを行い、1150〜1170℃まで段階的な昇温を行って溶融処理を12〜24時間行い、600〜700℃まで段階的な降温を行い、該温度で5〜7日間焼きなまし処理を行ってから炉とともに室温まで冷却し、400〜450℃で加圧焼結を行うこと、を含む可逆的相転移を有する高性能P型熱電材料の製造方法をさらに提供する。
【0021】
前記段階的な昇温は、2.5〜5℃/minの昇温速度で650〜700℃まで昇温させ、恒温状態を1〜2時間維持し、その後、0.8〜2℃/minの昇温速度で1150〜1170℃まで昇温させることを含んでもよい。
【0022】
前記段階的な降温は、5〜10℃/時間の速度で1000〜1120℃まで徐々に降温させ、恒温状態を12〜24時間維持し、その後、5〜10℃/時間の降温速度で600〜700℃まで徐々に降温させることを含んでもよい。
【0023】
本発明において、真空シールは不活性気体、例えばアルゴンガスの保護下で行うことが好ましい。真空シールはプラズマ又は火炎ガンによるシール法を採用してもよい。
【0024】
本発明において、加圧焼結は放電プラズマ焼結法を採用してもよい。加圧焼結の圧力は、50〜65Mpaであってもよく、焼結時間は5〜10分間であってもよい。
【0025】
本発明の製造方法は、原料が簡単で、コストが低く、且つ製造プロセスが簡略化され、制御性が高く、再現性がよく、大量生産に適する。本発明の方法で製造された熱電材料のCu2Se1-xIx化合物は、高いゼーベック係数と電気伝導率を有するとともに、低い熱伝導率を有し、熱電性能指数とエネルギー変換効率が高い。例えば、本発明が提供するP型Cu2Se1-xIxとN型イッテルビウム充填スクッテルダイト熱電材料からなるものの冷却性能は、同様な電流において、相転移区域の冷却温度差がノーマル相の冷却温度差より約20%以上大きくなる。本発明が提供する熱電材料化合物は300〜390Kの低い温度範囲内に相転移を有し、且つそれは可逆的相転移であり、相転移区域で熱電性能指数が高く、室温付近におけるマイクロデバイスの冷却、特に、電子工業デバイス冷却、CPU冷却などの分野で広い産業上利用性が期待されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一例である熱電材料を製造する工程のフローチャートを示す。
図2】本発明のP型Cu2Se1-xIxとN型Yb0.3Co3Sb12からなる単一ペア熱電デバイスの模式図を示す。
図3A】本発明の実施例1のCu2Se化合物の走査電子顕微鏡の写真を示す。
図3B】本発明の実施例1のCu2Se化合物の高分解能走査電子顕微鏡の写真を示す。
図3C】本発明の実施例2の熱電材料の走査電子顕微鏡の写真を示す。
図3D】本発明の実施例2の熱電材料の高分解能走査電子顕微鏡の写真を示す。
図4】実施例1のCu2Se化合物の熱電性能指数ZTの相転移区域における温度変化を示す。
図5】実施例2のCu2Se0.96I0.04化合物の熱電性能指数ZTの相転移区域における温度変化を示す。
図6】実施例3のCu2Se0.92I0.08化合物の熱電性能指数ZTの相転移区域における温度変化を示す。
図7】本発明のP型Cu2SeとN型Yb0.3Co3Sb12からなる単一ペア熱電デバイスの冷却性能図を示す。
図8】本発明のP型Cu2Se1-xIxとN型Yb0.3Co3Sb12からなる単一ペア熱電デバイスの冷却性能図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図を参照しながら下記の実施形態により本発明をさらに説明する。ここでわかるように、図及び下記の実施形態は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0028】
以下、可逆的相転移を有する新規熱電材料化合物であるCu2Se1-xIx(0<x≦0.08)を例として説明する。
【0029】
本発明が合成した化合物はCu2Se1-xIxであり、銅、セレン及びヨード元素からなり、0<x≦0.08である。
【0030】
本発明の製造過程は、真空シール、溶融、徐冷、焼きなましの過程により実現され、図1は本発明の熱電材料の製造方法のフローチャートを示す。本発明は、銅とセレンの純金属の単体、及びヨード化合物(例えばヨウ化銅)を出発原料とし、純銅(99.999%)、セレン(99.999%)単体及びヨウ化銅化合物(99.98%)をそれぞれ用いて製造されており、原料となるものが豊富で、入手しやすい。まず、(2−x):(1−x):xのモル比で銅金属の単体、セレン金属の単体及びヨウ化銅を秤量して真空シールを行う。真空シールは、アルゴンガスなどの不活性ガスの保護下に、グローブボックスの中で又は外部の真空排気下で行われており、プラズマ又は火炎ガンによるシール方法を採用することができ、シール時に石英管が真空排気され、内部の圧力が1-10000Paを保持する。銅とセレンを石英管中に直接真空シールしてもよく、銅とセレンを熱分解窒化ホウ素(PBN)坩堝に入れてから石英管中にシールしてもよい。
【0031】
その後、高温溶融処理を行うことができ、本発明の製造で採用する溶融処理は箱式溶融炉で行われる。まずは2.5〜5℃/minの昇温速度で650〜700℃まで昇温させ、恒温状態を1〜2時間維持してから、0.8〜2℃/minの昇温速度で1150〜1170℃まで昇温させ、溶融処理を12〜24時間行い、その後、5〜10℃/時間の速度で1000〜1120℃まで徐々に降温させ、恒温状態を12〜24時間維持し、また、5〜10℃/時間の降温速度で600〜700℃まで徐々に降温させ、恒温状態で5〜7日間焼きなましを行い、最後に炉温につれて室温まで自然冷却される。
【0032】
最後に、焼きなまし後のバルク体をミリングして製粉してから加圧焼結を行う。焼結方法は放電プラズマ焼結(SPS)を選択し、寸法がΦ10mmになる黒鉛金型を用い、内壁とプレスヘッドにBNを噴射して絶縁し、焼結温度は450℃〜500℃であり、焼結圧力は50〜65MPaであり、焼結時間は5〜10分間である。焼結により緻密バルク体を取得することができる。走査電子顕微鏡で観察した結果、室温で製造された化合物は厚さが数十ナノ程度(20〜50nm)になるサンドイッチ層状構造として表示され、高分解能電子顕微鏡によると、該材料中には主として小さなナノ結晶とナノ欠陥があり、たとえば、転位や双晶などがある(図3C図3Dを参照)。
【0033】
本発明により製造された単一ペア冷却試験デバイスは、P型Cu2Se1-xIxとN型イッテルビウム充填スクッテルダイト熱電材料(Yb0.3Co3Sb12)を選択し、π型設計方法で接合して(図2)冷却試験デバイスを組み立てた。単一ペア冷却試験デバイスは、厚さが0.2mmであるニッケル片を伝導片として選択し、10mm×10mm×6mmの銅塊を熱端吸熱電極として選択した。本発明により製造された単一ペア冷却試験デバイスにおいて、P型熱電材料Cu2Se1-xIxの寸法は3mm×3mm×1mmであり、N型熱電材料Yb0.3Co3Sb12の寸法は1mm×1mm×1mmである。本発明により製造された単一ペア冷却試験デバイスはP型Cu2Se1-xIxとN型Yb0.3Co3Sb12の試料表面にニッケルメッキを行う方法を選択し、はんだ付けにより伝導片と熱端吸熱電極に接合される。図8は本発明のP型Cu2Se1-xIxとN型Yb0.3Co3Sb12からなる単一ペア熱電デバイスの冷却性能図を示しており、相転移区域の冷却温度差は相転移後及び室温下での冷却温度差のいずれよりも大きくなる。
【0034】
本発明は、用いる原料が安価で、製造コストが低くなり、工程が簡略化され、制御性が高く、再現性がよい。本発明が提供する材料は、高いゼーベック係数を有し、導電率が高く、熱伝導率が非常に低い。
【0035】
本発明の更なる実施例、例えば以下の実施例は本発明をより詳しく説明する。同様に、以下の実施例は本発明をさらに説明するためのものであり、本発明の特許範囲を制限するものではない。当業者が本発明の上記内容により行う非本質的な改良及び調整は共に本発明の特許範囲に属する。下記例の具体的な温度、時間なども適合範囲内の一例にすぎず、即ち、当業者は本願の説明により適合範囲内で選ぶことができ、下記例の具体的な数値に限定されない。
【0036】
実施例1:Cu2Seの製造及び熱電性能
【0037】
純金属原料であるCuとSeを2:1のモル比で熱分解窒化ホウ素(PBN)坩堝に入れてから石英管に装着する。石英管を真空排気した後保護気体であるAr気体を送入させ、3回重複し、その後、グローブボックスの中でプラズマ火炎又は気体火炎によりシールを行い、石英管にAr気体を不活性雰囲気として僅かに送入させ、原料を保護する。原料を2.5〜5℃/minの昇温速度で650〜700℃まで昇温させ、恒温状態を1〜2時間維持してから、0.8〜2℃/minの昇温速度で1150〜1170℃まで昇温させ、恒温溶融処理を12〜24時間行い、その後、5〜10℃/時間の速度で1000〜1120℃まで徐々に降温させ、恒温状態を12〜24時間維持し、また、5〜10℃/時間の降温速度で600〜700℃まで徐々に降温させ、恒温状態を5〜7日間維持し、最後に炉温につれて室温まで自然冷却される。最終に得たバルク状生成物をミリングして製粉してから放電プラズマ焼結を行い、焼結温度は400℃〜450℃であり、焼結圧力は50〜65MPaであり、焼結時間は5〜10分間であり、緻密バルク体を製造し、緻密度は97%以上もなる。電界放射型走査電子顕微鏡による写真において、室温下のCu2Seは厚さが数十ナノ程度になるサンドイッチ層状構造として表示され、TEM写真に表示されたように、大きな結晶粒はなく、材料中には多くのナノ結晶とナノ欠陥があり、たとえば、転位や双晶などがあり(図3A図3Bを参照)、このような複雑な構造は熱電性能をさらに向上させる。熱電性能を測定した結果、該材料は400K近くに相転移を有し、且つそれは可逆的相転移であることが確かめられた。該材料は相転移区域において非常に高いゼーベック係数と優れた電気伝導率を有し、材料の力率がよい。また、該材料は相転移区域において非常に低い熱伝導率を有する。測定された性能の計算結果からわかるように、材料のZT値が室温の時0.2程度になり、相転移区域の400K近くで2.3に達することができる(図4)。
【0038】
実施例2:Cu2Se0.96I0.04の製造及び熱電性能
【0039】
純金属原料である銅、セレン及びセレン化銅を1.96:0.96:0.04のモル比で熱分解窒化ホウ素(PBN)坩堝に入れてから石英管に装着する。石英管を真空排気した後保護気体であるAr気体を送入させ、3回重複し、その後、グローブボックスの中でプラズマ火炎又は気体火炎によりシールを行い、石英管にAr気体を不活性雰囲気として僅かに送入させ、原料を保護する。原料を2.5〜5℃/minの昇温速度で650〜700℃まで昇温させ、恒温状態を1〜2時間維持してから、0.8〜2℃/minの昇温速度で1150〜1170℃まで昇温させ、恒温溶融処理を12〜24時間行い、その後、5〜10℃/時間の速度で1000〜1120℃まで徐々に降温させ、恒温状態を12〜24時間維持し、また、5〜10℃/時間の降温速度で600〜700℃まで徐々に降温させ、恒温状態を5〜7日間維持し、最後に炉温につれて室温まで自然冷却される。最終に得たバルク状生成物をミリングして製粉してから放電プラズマ焼結を行い、焼結温度は400℃〜450℃であり、焼結圧力は50〜65MPaであり、焼結時間は5〜10分間であり、緻密バルク体を製造し、緻密度は97%以上もなる。電界放射型走査電子顕微鏡による写真において、室温下のCu2Seは厚さが数十ナノ程度になるサンドイッチ層状構造として表示され、TEM写真に表示されたように、大きな結晶粒なく、材料中には多くのナノ結晶とナノ欠陥があり、たとえば、転位や双晶などがある(図3C図3Dを参照)。熱電性能を測定した結果、該材料は380K近くに相転移を有し、且つそれは可逆的相転移であることが確かめられた。該材料は相転移区域において非常に高いゼーベック係数と優れた電気伝導率を有し、優れた力率を有する。また、該材料は相転移区域において非常に低い熱伝導率を有する。測定された性能の計算結果からわかるように、材料のZT値が室温の時0.2程度になり、相転移区域の380K近くで1.1に達することができる(図5)。
【0040】
実施例3:Cu2Se0.92I0.08の製造及び熱電性能
【0041】
純金属原料である銅、セレン及びセレン化銅を1.92:0.92:0.08のモル比で熱分解窒化ホウ素(PBN)坩堝に入れてから石英管に装着する。石英管を真空排気した後保護気体であるAr気体を送入させ、3回重複し、その後、グローブボックスの中でプラズマ火炎又は気体火炎によりシールを行い、石英管にAr気体を不活性雰囲気として僅かに送入させ、原料を保護する。原料を2.5〜5℃/minの昇温速度で650〜700℃まで昇温させ、恒温状態を1〜2時間維持してから、0.8〜2℃/minの昇温速度で1150〜1170℃まで昇温させ、恒温溶融処理を12〜24時間行い、その後、5〜10℃/時間の速度で1000〜1120℃まで徐々に降温させ、恒温状態を12〜24時間維持し、また、5〜10℃/時間の降温速度で600〜700℃まで徐々に降温させ、恒温状態を5〜7日間維持し、最後に炉温につれて室温まで自然冷却される。最終に得たバルク状生成物をミリングして製粉してから放電プラズマ焼結を行い、焼結温度は400℃〜450℃であり、焼結圧力は50〜65MPaであり、焼結時間は5〜10分間であり、緻密バルク体を製造し、緻密度は97%以上もなる。熱電性能を測定した結果、該材料は360K近くに相転移を有し、且つそれは可逆的相転移であることが確かめられた。該材料は相転移区域において非常に高いゼーベック係数と優れた電気伝導率を有し、優れた力率を有する。また、該材料は相転移区域において非常に低い熱伝導率を有する。測定された性能の計算結果からわかるように、材料のZT値が室温の時0.2程度になり、相転移区域の360K近くで0.8に達することができる(図6)。
【0042】
実施例4:P型Cu2SeとN型Yb0.3Co3Sb12からなる単一ペアデバイスの製造及び性能測定
【0043】
単一ペアデバイスの製造では、P型Cu2SeとN型Yb0.3Co3Sb12を選択した。Cu2Se及びYb0.3Co3Sb12の試料は、その寸法が3mm×3mm×1mm、1mm×1mm×1mmになるようにそれぞれ切断された。表面を研磨した後、硝酸とフッ化水素酸の混合液(HNO3:HF:H2O=3:1:6)に1−3分間浸漬し、イオン交換水で超音波洗浄を行う。電気メッキ過程では、0.05〜0.08Aの電流を流し、1mol/Lの塩化ニッケル溶液で1-3分間プレ電気メッキを行った後、200g/Lのスルファミン酸ニッケル溶液で40℃で3-5分間電気メッキを行う。周縁の電気メッキされたニッケルを研磨して除去し、イオン交換水に入れて洗浄をしばらく行う。その後、はんだ付けにより、試料を銅電極と熱伝導片の間に溶接する。測定過程では、1-20Paの真空状態を維持し、測定電流は0.25-4Aである。相転移前(300K、370K)、相転移区域(約395K)及び相転移後(420K)における最大冷却温度差と電流との関係をそれぞれ測定した。測定した結果、電流が4Aである時、相転移区域のデバイスの最大冷却温度差は相転移後のノーマル相の冷却温度差よりも24.3%高くなり、室温相の冷却温度差よりも79.0%高くなる(例えば図7)。
【0044】
実施例5:P型Cu2Se0.96I0.04とN型Yb0.3Co3Sb12からなる単一ペアデバイスの製造及び性能測定
【0045】
単一ペアデバイスの製造では、P型Cu2Se0.96I0.04とN型Yb0.3Co3Sb12を選択した。Cu2Se0.96I0.04及びYb0.3Co3Sb12の試料は、その寸法が3mm×3mm×1mm、1mm×1mm×1mmになるようにそれぞれ切断された。表面を研磨した後、硝酸とフッ化水素酸の混合液(HNO3:HF:H2O=3:1:6)に1−3分間浸漬し、イオン交換水で超音波洗浄を行う。電気メッキ過程では、0.05〜0.08Aの電流を流し、1mol/Lの塩化ニッケル溶液で1-3分間プレ電気メッキを行った後、200g/Lのスルファミン酸ニッケル溶液で40℃で3-5分間電気メッキを行う。周縁の電気メッキされたニッケルを研磨して除去し、イオン交換水に入れて洗浄をしばらく行う。その後、はんだ付けにより、試料を銅電極と熱伝導片の間に溶接する。測定過程では、1-20Paの真空状態を維持し、測定電流は0.25-4Aである。相転移前(300K、370K)、相転移区域(約380K)及び相転移後(400K)における最大冷却温度差と電流との関係をそれぞれ測定した。測定した結果、電流が4Aである時、相転移区域のデバイスの最大冷却温度差は相転移後のノーマル相の冷却温度差よりも25.7%高くなり、室温相の冷却温度差よりも83.3%高くなる(例えば図8)。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の熱電材料化合物の化学組成は簡単で、低次元の層状構造を有し、ZT値が高く、新規熱電材料として開発するのに適する。本発明の製造工程は簡単で、実施しやすく、コストが低く、大量生産に適する。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8