特許第6266385号(P6266385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266385両性イオン交換体繊維シート、その製造方法及び脱塩吸水体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266385
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】両性イオン交換体繊維シート、その製造方法及び脱塩吸水体
(51)【国際特許分類】
   B01J 43/00 20060101AFI20180115BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20180115BHJP
   C08J 5/20 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B01J43/00
   B01J47/12
   C08J5/20 101
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-42391(P2014-42391)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-167876(P2015-167876A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】久野 智子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美和
(72)【発明者】
【氏名】木村 明寛
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−084087(JP,A)
【文献】 特開2001−181965(JP,A)
【文献】 特開昭62−079845(JP,A)
【文献】 特開2003−190963(JP,A)
【文献】 特開昭57−045057(JP,A)
【文献】 特開平08−197063(JP,A)
【文献】 特開平05−131120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 43/00
B01J 47/00
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートにおいて、
表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートに対して陰イオン交換体を、前記陽イオン交換基と前記陰イオン交換体が有する陰イオン交換基との間で作用する静電的な吸着力によって結合させて構成され、
前記陽イオン交換性繊維シートは、グラフト重合によって陽イオン交換基が導入された高分子からなる繊維を含み、該陽イオン交換基はH形に調整されていることを特徴とする両性イオン交換体繊維シート。
【請求項2】
前記陰イオン交換体は、イオン交換基がOH形に調整された陰イオン交換樹脂である、請求項に記載の両性イオン交換体繊維シート。
【請求項3】
陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートにおいて、
表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートに対して陰イオン交換体を、前記陽イオン交換基と前記陰イオン交換体が有する陰イオン交換基との間で作用する静電的な吸着力によって結合させて構成され、
前記陰イオン交換体は、イオン交換基がOH形に調整された陰イオン交換樹脂であることを特徴とする両性イオン交換体繊維シート。
【請求項4】
前記陽イオン交換性繊維シートは、イオン交換基がH形に調整された陽イオン交換樹脂をシート状の繊維に担持した陽イオン交換体担持繊維シートである、請求項に記載の両性イオン交換体繊維シート。
【請求項5】
前記陰イオン交換樹脂は、総交換容量に対して70%以上のイオン交換基がOH形に調整された陰イオン交換樹脂である、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の両性イオン交換体繊維シート。
【請求項6】
陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートの製造方法において、
イオン交換基がOH形に調整された陰イオン交換樹脂からなる陰イオン交換体を含むスラリーに、表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートを浸漬し、前記陽イオン交換性繊維シートに前記陰イオン交換体を吸着させる吸着工程と、
前記陰イオン交換体が吸着した前記陽イオン交換性繊維シートを乾燥させる乾燥工程と、
を有することを特徴とする両性イオン交換体繊維シートの製造方法。
【請求項7】
前記陽イオン交換性繊維シートは、イオン交換基がH形に調整された陽イオン交換樹脂を担持した陽イオン交換体担持繊維シートである、請求項6に記載の両性イオン交換体繊維シートの製造方法。
【請求項8】
前記陰イオン交換樹脂は、総交換容量に対して70%以上のイオン交換基がOH形に調整された陰イオン交換樹脂である、請求項6または7に記載の両性イオン交換体繊維シートの製造方法。
【請求項9】
前記吸着工程は、OH形に調整されたイオン交換基を変化させない液中で前記陰イオン交換樹脂を粉砕して前記スラリーとする粉砕工程を有する、請求項乃至8のいずれか1項に記載の両性イオン交換体繊維シートの製造方法。
【請求項10】
前記粉砕工程は、粉砕して得られる粉体のメディアン径が前記陽イオン交換性繊維シートを構成する繊維の平均直径よりも小さくなるように、前記陰イオン交換樹脂を粉砕する工程である、請求項9に記載の両性イオン交換体繊維シートの製造方法。
【請求項11】
陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートと、不透液性シートと、高吸水性高分子を含む吸水体と、を有し、
前記両性イオン交換体シートは、表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートに対して陰イオン交換体を、前記陽イオン交換基と前記陰イオン交換体が有する陰イオン交換基との間で作用する静電的な吸着力によって結合させて構成され、
前記両性イオン交換体繊維シートと前記不透液性シートとの間に前記吸水体が配置されている脱塩吸水体。
【請求項12】
前記陽イオン交換性繊維シートは、イオン交換基がH形に調整された陽イオン交換樹脂をシート状の繊維に担持した陽イオン交換体担持繊維シートである、請求項11に記載の脱塩吸水体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布等によって代表される繊維シートに関し、特に、陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートと、その製造方法と、この両性イオン交換体繊維シートを用いた脱塩吸水体とに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換樹脂や活性炭等の機能粉体を不織布などに固定させた繊維シートは、様々な形状に加工することができ、液体や空気中の特定の物質を捕集する用途で広く使用されており、例えば、水処理や食品精製過程において脱塩や脱色に使用されている。特に、不織布等の繊維シートであって、陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備えた両性イオン交換体繊維シートは、脱塩などの広い用途があるものと期待されている。
【0003】
機能粉体を不織布等の繊維に定着させる方法として、例えば特許文献1には、少なくとも表面が熱可塑性樹脂からなる繊維を使用し、このような繊維に対し、機能粉体の粒子とを接触させ、繊維と粒子との接触面を溶融させて繊維に粒子を固定する方法が開示されている。また特許文献2には、粉末陰イオン交換樹脂を吸着材とする繊維状吸着体の製造方法であって、粉末陰イオン交換樹脂に、反対の電荷を有する粉末陽イオン交換樹脂を加えて凝集体を形成し、さらにカットファイバーを加え、このカットファイバーに凝集体を吸着させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−174114号公報
【特許文献2】特開平5−168813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
両性イオン交換体繊維シートは、例えば、不織布などのシート状の繊維に対し、何らかの方法で、陽イオン交換基を有する陽イオン交換樹脂の粉体と陰イオン交換基を有する陰イオン交換樹脂の粉体とを固定させれば製造することができる。陽イオン交換基は、一般に耐熱性が高く、100℃に加熱してもイオン交換基の劣化は生じない。しかしながら陰イオン交換基は耐熱性が低く、陰イオン交換基(あるいは陰イオン交換樹脂)の最高操作温度は40〜80℃程度である。したがって、両性イオン交換体繊維シートの製造にあたり、特許文献1に記載されるように繊維と機能粉体の粒子との接触面を溶解させて固定する方法を用いたときには、溶解のために例えば80℃にまで加熱する必要があるとすると、陰イオン交換基の熱劣化が起きることが懸念される。
【0006】
また特許文献2に記載のものは、粉末陰イオン交換樹脂を吸着材とするものである。ここでの陽イオン交換樹脂は、カットファイバーと粉末陰イオン交換樹脂との親和性を向上させるためのものであって、陽イオンについてのイオン交換を行わせることを意図して添加されたものではない。また、特許文献2に記載のものは、粉末陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂との凝集体をカットファイバーに吸着させる構成のため、不織布のようなシート状の形状とすることが難しくて取扱いに不便であり、イオン交換樹脂の脱離等が起こりやすいという問題もある。イオン交換樹脂の脱離等を防止しようとすれば、結局、特許文献1に記載されたように熱可塑性樹脂が溶解するまで加熱してイオン交換樹脂の固定を図る必要があり、陰イオン交換基の熱劣化の可能性が生じる。
【0007】
本発明の目的は、陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備えて取扱いの容易な形状を有する両性イオン交換体繊維シートであって、陰イオン交換基を熱劣化が抑えられるとともに優れた脱塩性能を有する両性イオン交換体繊維シートとその製造方法とを提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、本発明の両性イオン交換体繊維シートを利用した脱塩吸水体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の両性イオン交換体繊維シートは、陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートにおいて、表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートに対して陰イオン交換体を結合させて構成されたことを特徴とする。
【0010】
本発明の両性イオン交換体繊維シートの製造方法は、陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートの製造方法において、イオン交換基がOH形に調整された陰イオン交換樹脂からなる陰イオン交換体を含むスラリーに、表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートを浸漬し、陽イオン交換性繊維シートに陰イオン交換体を結合させる吸着工程と、陰イオン交換体が結合した陽イオン交換性繊維シートを乾燥させる乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の脱塩吸水体は、本発明に基づく両性イオン交換体繊維シートと、不透液性シートと、吸水体と、を有し、両性イオン交換体繊維シートと不透液性シートとの間に吸水体が配置されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートを用意した上でこの陽イオン交換性繊維シートに対して陰イオン交換体を結合させることにより、陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートを構成する。このとき、陽イオン交換性繊維シートの陽イオン交換基と陰イオン交換体に含まれる陰イオン交換基との間の静電的な吸着力によって陰イオン交換体を陽イオン交換性繊維シートに対して強固に結合させることができるから、陰イオン交換体を加熱する必要がなく、陰イオン交換基の熱劣化が起こることもない。結合に関与するイオン交換基は、陽イオン交換基と陰イオン交換基の各々のうちのごく一部のものであり、残余のイオン交換基はイオン交換反応に関与できるから、本発明の両性イオン交換体繊維シートは、優れた脱塩性能を示すようになる。
【0013】
また、後述するように陽イオン交換性繊維シートは、陽イオン交換体を繊維シートに担持させたり、繊維シートを構成する繊維にグラフト重合などにより陽イオン交換基を導入したり、あるいは陽イオン交換樹脂そのものを繊維化してシートにしたりすることによって任意の形状に構成できる。このような陽イオン交換性繊維シートでは、繊維シートからの陽イオン交換基の脱離が起こりにくい。その結果、得られる両性イオン交換体繊維シートにおいても、陽イオン交換体及び陰イオン交換体の脱落が起こりにくくなり、また、取扱いの容易な任意のシート状形状とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の一形態の両性イオン交換体繊維シートの一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の一形態の両性イオン交換体繊維シートの構成の一例を示す模式拡大断面図である。
図3】両性イオン交換体繊維シートの製造工程の一例を示す工程図である。
図4】本発明の実施の一形態の脱塩吸水体の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
本発明の実施の一形態の両性イオン交換体繊維シートは、陽イオン交換基と陰イオン交換基とを備える両性イオン交換体繊維シートであって、表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートに対して陰イオン交換体を結合させて構成されたものである。図1及び図2は、それぞれ、本実施形態の両性イオン交換体繊維シートの一例を示す斜視図及び模式拡大断面図である。
【0017】
図1及び図2に示す両性イオン交換体繊維シート10は、陽イオン交換性繊維シートとして、不織布状に形成された繊維11に対して陽イオン交換体である陽イオン交換樹脂12を担持したものを使用し、このような陽イオン交換性繊維シートに対して陰イオン交換体である陰イオン交換樹脂13を結合させたものである。実際には図2に示すように、陽イオン交換樹脂12の粒子のうち陽イオン交換性繊維シートの表面に存在する粒子に対し、陰イオン交換樹脂13の粒子が接しており、この相互に接している位置において陽イオン交換樹脂12の陽イオン交換基と陰イオン交換樹脂13の陰イオン交換基との間で静電的な吸着力が作用し、陰イオン交換樹脂13の粒子が陽イオン交換樹脂12の粒子に結合し、これによって、陰イオン交換樹脂13が陽イオン交換性繊維シートに結合している。なお図2は、模式図であるので、繊維11の径に対する陽イオン交換樹脂12及び陰イオン交換樹脂の粒子の径の比率に関し、実際の比率の通りには描いていない。
【0018】
陽イオン交換樹脂12の粒子を繊維11に担持させる方法としては、例えば、両者を接着させる糊を用いる方法、繊維11として熱可塑性樹脂からなるものを使用し、繊維11と陽イオン交換樹脂12の粒子との接触面において繊維11の少なくとも表面を溶融させて繊維11に対して陽イオン交換樹脂12の粒子を溶着する方法などがある。以下の説明において、不織布状の繊維に対して陽イオン交換体を担持したもののことを陽イオン交換体担持繊維シートと呼ぶ。
【0019】
本実施形態では、陽イオン交換体担持繊維シート以外にも、例えば、陽イオン交換樹脂そのものによって繊維を形成してこれを不織布状に加工したものや、繊維に対してグラフト重合によりスルホン基などの陽イオン交換基を導入し、このように陽イオン交換基を導入した繊維を不織布状に加工したものなどを陽イオン交換性繊維シートとして用いることができる。
【0020】
次に、本実施形態の両性イオン交換体繊維シートの製造方法について説明する。
【0021】
本実施形態の両性イオン交換体繊維シートは、例えば、陰イオン交換体の粒子を水などの液体に分散させたスラリーに、上述した陽イオン交換性繊維シートを浸漬させ、これによって陽イオン交換性繊維シートに陰イオン交換体の粒子を吸着させる吸着工程と、吸着工程を経た繊維シートをスラリーから取り出して乾燥させ、両性イオン交換体繊維シートの完成品とする乾燥工程と、を有する製造方法によって製造される。
【0022】
図3は、両性イオン交換体繊維シートの製造方法の一例における工程の流れを示している。図3に示したものは、陽イオン交換性繊維シートとして、陽イオン交換体の粒子を担持した陽イオン交換体担持シート32を用いるものとしている。
【0023】
吸着工程は、大きく分けると、表面に陽イオン交換基を有する陽イオン交換性繊維シートを用意する工程と、陰イオン交換体を液体中で粉砕して陰イオン交換体スラリー34を得る陰イオン交換体粉砕工程33と、陰イオン交換体スラリー34に陽イオン交換性繊維シートを浸漬して陽イオン交換性繊維シートに陰イオン交換体の粒子を吸着・担持させる陰イオン交換体担持工程35と、からなる。陰イオン交換体担持工程35によって陰イオン交換体の粒子が担持された陽イオン交換性繊維シートを乾燥工程36によって乾燥させることによって、両性イオン交換体繊維シートが得られる。陽イオン交換性繊維シートが、不織布等の繊維シートに陽イオン交換体を担持した陽イオン交換体担持繊維シート32である場合には、陽イオン交換性繊維シートを用意する工程は、繊維シートに対して陽イオン交換体の粉末を担持する陽イオン交換体担持工程31から構成されることになる。
【0024】
以下、吸着工程及び乾燥工程について詳しく説明する。
【0025】
(1)吸着工程
陽イオン交換性繊維シートとして陽イオン交換体担持繊維シートを用いる場合、この繊維シート(母体繊維)を構成する繊維は、熱可塑性樹脂からなるものであることが好ましい。樹脂基体を構成する樹脂の種類は特に限定されるものではなく、その具体例としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、ポリブチレン、これらを主体とした共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、アイオノマー樹脂)等が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンタレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレタレート(PBT)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸をはじめとする直鎖状又は分岐状の炭素数20までのポリヒドロキシアルカン酸等のポリエステル、これらを主体とした共重合体、アルキレンテレフタレートを主成分として他の成分を少量共重合してなる共重合ポリエステル等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、6−ナイロン、6,6−ナイロン等が挙げられる。樹脂基体としては、常法に従って成形した樹脂成形体を使用することができる。
【0026】
繊維シートにおける平均繊維径は、通常は10〜40μmであり、好ましくは12〜38μm、さらに好ましくは14〜36μmである。なお、ここで記載した平均繊維径は、次の方法により測定したときの平均繊維径である。すなわち基体繊維を電子顕微鏡(株式会社キーエンス社製,VE−8800)で300倍に拡大して観察し、拡大画像中の繊維について2点間距離を計測する。任意の30本の繊維について同様の計測を行い(n=30)、その平均値を平均繊維径とする。1つの拡大画像に数本(例えば、3〜5本程度)の繊維しか映らない場合には、電子顕微鏡で拡大する繊維基体の部位を変えて、拡大画像を複数回撮影し、n=30とする。
【0027】
陽イオン交換体としては、H形のイオン交換基に調整された陽イオン交換樹脂を用いることが好ましく、陰イオン交換体としては、OH形のイオン交換基に調整された陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。これは、H形の陽イオン交換基とOH形の陰イオン交換基との組み合わせでイオン交換基間に働く静電引力(すなわち正の電荷を有するイオンと負の電荷を有するイオンとが電気的に引き合う力)が最大となり、その結果、静電力で一度吸着すると、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とが簡単に脱離しなくなるからである。
【0028】
陽イオン交換樹脂は、強酸性陽イオン交換樹脂であることが好ましい。これは、強酸性陽イオン交換樹脂が、その有効pH(水素イオン指数)範囲がほぼすべてのpHにわたるため、脱塩対象の液体のpHがどのような値であっても高いイオン交換性能を示すためである。陽イオン交換樹脂では、その総交換容量に対してイオン交換基の90%以上をH形に調整することが好ましく、より好ましくは98%以上である。総交換容量に占めるH形のイオン交換基の割合が90%を下回ると、イオン交換反応によりH形以外のイオン交換基から不純物が生成する可能性があるとともに、対イオンであるOH形のイオン交換基との間の静電引力が弱くなる。
【0029】
陰イオン交換樹脂は、強塩基性陰イオン交換樹脂であることが好ましい。これは、強塩基性陰イオン交換樹脂が、その有効pH範囲がほぼすべてのpHにわたるため、脱塩対象の液体のpHがどのような値であっても高いイオン交換性能を示すためである。陰イオン交換樹脂では、その総交換容量に対してイオン交換基の70%以上をOH形に調整することが好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0030】
次に、陽イオン交換体担持工程について詳しく説明する。
【0031】
陽イオン交換体担持工程では、H形に調整した陽イオン交換樹脂を粉砕して、不織布に担持させる。このとき、担持の強度としては、担持させた陽イオン交換樹脂が水中で剥離しない程度のものとする。担持の方法としては、例えば特許文献1に記載されるように、不織布が熱可塑性樹脂の繊維からなるとして、加熱により繊維と陽イオン交換樹脂の粒子との接触面を溶融させて繊維に樹脂粒子を結合させる方法を用いることができる。
【0032】
あるいは、熱可塑性の糊(接着剤)を不織布に薄く塗布し、そこに陽イオン交換樹脂の粒子を付着させ、糊の表面が柔らかくなる程度に加温しそこへ樹脂粒子を接着する方法を用いることができる。ここで、糊を加温する温度が高すぎると、糊が過度にやわらかくなって、陽イオン交換樹脂の粒子が糊に埋まってしまう。そのため、接着に用いる温度の選択が重要である。ここで糊としては、不織布から自然に剥がれ落ちない程度に陽イオン交換樹脂粒子を接着でき、かつ、例えば体温付近(30〜40℃)の温度では溶融しない糊であればよい。使用可能な糊としては、例えば、スチレン−ブタジエン系とスチレン−イソプレン系が配合されたゴム系の糊が好ましい。
【0033】
不織布に担持される陽イオン交換樹脂の粒径は、メディアン径(すなわちD50)で表したときに、不織布を構成する繊維の平均径以下であることが好ましい。繊維の径よりも陽イオン交換樹脂の粒径が大きい場合には、繊維表面への陽イオン交換樹脂の担持量が少なくなり、その分、脱塩性能が低下し、また、樹脂が繊維に担持されているのではなくて繊維が樹脂に付着しているともみなされる状態となってしまう。また、陽イオン交換樹脂の粒径が0.1μm以下の場合は、繊維に陽イオン交換樹脂が埋もれてしまう状態となるため、好ましくない。
【0034】
陽イオン交換樹脂の粉砕方法としては、H形のイオン交換基が他のイオンと置き換わることなく100℃以下の温度で実施することができる方法であれば、任意の方法を用いることができる。粉砕には、具体的には、媒体、例えば金属製のボールをイオン交換樹脂とともに撹拌させて粉砕するボールミルや、媒体を用いずに高圧の空気を使って粉砕するジェットミル、高速で羽を回転させて粉砕するインペラーミルなどを用いることができる。
【0035】
上記の陽イオン交換体担持工程では、陽イオン交換体を繊維に担持させることにより、陽イオン交換性繊維シートである陽イオン交換体担持繊維シートを形成しているが、本実施形態における陽イオン交換性繊維シートとしては、グラフト重合によって不織布に陽イオン交換基を導入したものを用いることもできる。以下、グラフト重合による陽イオン交換性繊維シートの形成について説明する。
【0036】
グラフト重合による方法では、高分子基材に放射線を照射して表面にラジカルを生成させてそこへグラフト鎖を重合させ、そのグラフト鎖に対して官能基(ここでは陽イオン交換基)を導入する。陽イオン交換樹脂の陽イオン交換基と同様に、グラフト重合で導入された陽イオン交換基も、乾燥などの熱によっては性能劣化を起こさない。グラフト重合によれは、不織布などの繊維シートの内部までイオン交換基を導入することができるので、単位面積あたり及び単位質量あたりのイオン交換基の数を多くすることができて脱塩性能を高めることができる。両性イオン交換体繊維シートを例えば脱塩吸水体に用いる場合、グラフト重合による陽イオン交換性繊維シートを用いることによって、吸水体のコンパクト化を図ることができる。
【0037】
グラフト重合により陽イオン交換基を導入する場合、繊維シートとしては、ポリエチレン製、ポリプロピレン製などのものを用いることができるが、ポリプロピレン製が最も好ましい。グラフト重合によって陽イオン交換基を導入する場合においても、陽イオン交換性繊維シートにおいてその総交換容量に対してイオン交換基の90%以上がH形となるように調整することが好ましく、98%以上とすることがより好ましい。
【0038】
次に、陰イオン交換体粉砕工程について説明する。
【0039】
陰イオン交換体粉砕工程では、塩類などの不純物を含まない水やアルコールなどの液体を用意し、この液体とOH形に調整した陰イオン交換樹脂とをメディアミル内に投入し、スラリー状態で陰イオン交換樹脂を粉砕し、粉砕陰イオン交換樹脂スラリーを作製する。メディアミル内に投入する液体の量は、陰イオン交換樹脂の体積の1〜10倍であり、好ましくは1〜3倍である。このとき、粉砕中も粉砕後も陰イオン交換樹脂が液体中に留まって空気に触れないようにすることが好ましい。陰イオン交換樹脂が空気に接触すると、空気中の二酸化炭素によって陰イオン交換樹脂のイオン交換基が置換されて炭酸形や重炭酸形となり、OH形のイオン交換基が維持されなくなる。陰イオン交換樹脂のイオン交換基をOH形に維持するために、メディアレスミルやメディアミル等の粉砕機内を密閉して窒素ガス等でガス置換を行い、ガス置換した状態の下で粉砕することも考えられるが、そのような方法ではコストがかかる。したがって、陰イオン交換樹脂を液中で粉砕してそのままスラリーとする方法の方が好ましい。
【0040】
粉砕後の陰イオン交換樹脂の粒径は、メディアン径(すなわちD50)で表したときに、不織布を構成する繊維の平均径以下であることが好ましい。
【0041】
塩類などの不純物を含まない水やアルコールなどの液体としては、特に塩類の含有量ががイオン交換水と同等以上に低減されているものを用いることが好ましい。
【0042】
陰イオン交換体担持工程では、陽イオン交換体担持工程で作成した陽イオン交換体担持繊維シートを、陰イオン交換体粉砕工程で作製した陰イオン交換体スラリーに浸漬する。このときは、陽イオン交換体担持繊維シートを軽く水切りしてから浸漬を行うことが好ましい。
【0043】
(2)乾燥工程
乾燥工程では、吸着工程により陰イオン交換樹脂が吸着した陽イオン交換性繊維シート(不織布)を乾燥させる。この乾燥は、陰イオン交換樹脂の使用可能範囲内の温度であって、繊維シート中の水分を飛ばすことができる温度、例えば30〜70℃に加温することによって行われる。乾燥温度が30℃を下回ると乾燥効率が悪くなり、70℃を上回ると陰イオン交換基の熱劣化が起こりやすくなる。
【0044】
糊を用いて陽イオン交換樹脂を担持した陽イオン交換性繊維シートを用いた場合には、陰イオン交換樹脂の使用温度範囲内であって、かつ、糊が溶融してイオン交換樹脂が糊に埋まることを防ぐために、糊が溶融しない温度の範囲内で乾燥を行う。この条件が満たされれば、乾燥時間は任意である。スチレン−ブタジエン系あるはスチレン−イソプレン系が配合されたゴム系の糊を使用した場合であれば、50℃以下の温度、好ましくは20℃〜40℃で乾燥を行う。
【0045】
乾燥工程では、陰イオン交換樹脂のOH形のイオン交換基が空気と接触して炭酸形あるいは重炭酸形に置き換わらないようにすることが重要である。そのために、例えば、二酸化炭素を含まないガス、例えば窒素ガスで乾燥容器内充填する、あるいは減圧乾燥を行うことが好ましい。乾燥時間は、例えば、0.5〜24時間とすることが好ましいが、使用する状況に応じて乾燥時間の調整が可能である。
【0046】
以上のようにして本実施形態の両性イオン交換体繊維シートが製造される。
【0047】
本実施形態によれば、OH形の陰イオン交換基とH形の陽イオン交換基とを高い割合で維持し、高い脱塩性能を有する両性イオン交換体繊維シートを製造できる。この両性イオン交換体繊維シートでは、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを同じ不織布に保持させるできる。その際、1回の乾燥工程で両性イオン交換体繊維シートを製造できるので、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを別々に乾燥させてから1枚の不織布に吸着させる必要がなくなる。イオン交換基としてH形とOH形との組み合わせを用いることにより、イオン交換基間の静電引力を最も高めることができるので、1枚の繊維シートにより多くのイオン交換樹脂を保持することが可能になる。
【0048】
次に、本発明に基づく両性イオン交換体繊維シートの用途について説明する。
【0049】
両性イオン交換体繊維シートが脱塩性能などに関してその本来の性能を発揮するためには、陰イオン交換体における陰イオン交換基がOH形を維持している必要がある。したがって、両性イオン交換体繊維シートは、出荷時や未使用時には、空気中の二酸化炭素と接触しないように、例えば、ガス透過性を有しない包装材料によって袋詰めされていることが好ましい。また、液体の脱塩に両性イオン交換体繊維シートを用いる場合には、例えば、二酸化炭素ガスを透過させないが液体を透過させる膜で両性イオン交換体繊維シートを覆うことが好ましい。
【0050】
図4は、本発明に基づく両性イオン交換体繊維シートを用いた脱塩吸水体の構成の一例を示している。
【0051】
紙おむつなどには、吸水体として、ポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性高分子(SAP:superabsorbent polymer)が広く用いられている。SAPは、塩類を含む水に対しては吸水性が低下するという特性を有しており、したがって、SAPの吸水性能を十分に発揮させるためには、水に含まれる塩類を除去してからその水をSAPに吸収させることが好ましい。そこで図4に示した脱塩吸水体20は、紙おむつなどへの用途を念頭において、本発明に基づく両性イオン交換体繊維シート10を用いて脱塩を行い、脱塩された水がSAPなどからなる吸水体22に吸収されるようにしたものである。この脱塩吸水体20では、不透液性シート21上に吸水体22が配置し、さらに吸水体22上に両性イオン交換体繊維シート10を配置して、両性イオン交換体繊維シート10と不透液性シート21との間に吸水体22が挟まれるようにしている。
【0052】
上述した脱塩吸水体の他に、本発明に基づく両性イオン交換体繊維シートの用途として、例えば、この両性イオン交換体繊維シートを重ねるか丸めるかしてカラムに詰めてイオン交換塔とする、空調機や空気清浄機内に設けられたり室内などに設置されるフィルターとして用いる、水溶液の流出や流入を防ぐための防水シートに適用する、などが挙げられる。酸やアルカリ液の防水シートに両性イオン交換体繊維シートを適用した場合、防水と同時に中和も行うことができる。さらには、本発明に基づく両性イオン交換体繊維シートは、水分を多く含まない土壌やpHが適切でない土壌にこのシートを埋めることで、水分を保持しあるいは土壌のpHを改善して植物の成長を促進させることに使用することができる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0054】
[参考例1]
総交換容量に対するOH形のイオン交換基の割合を97%以上に調整した強塩基性陰イオン交換樹脂(ダウケミカル社製・アンバーライト(登録商標)400)をイオン交換水と体積比1:1で混合し、ボールミルを用いてメディアン径(D50)が約10μmとなるように粉砕して、粉砕陰イオン交換樹脂スラリーを作製した。このスラリー中の総交換容量に対するOH形のイオン交換基の割合を測定した。その結果、OH形のイオン交換基の割合は91%であった。結果を表1に示す。
【0055】
OH形のイオン交換基の割合は、1gの粉末イオン交換樹脂と1mol/Lの硝酸ナトリウム200mlをバッチ撹拌させ、その後、粉末イオン交換樹脂をろ過し、そのろ液中のOHイオンを0.1mol/Lの硫酸で滴定し、総交換容量に対する流出したOHイオンの量を割合を求めることによって決定した。
【0056】
[参考例2]
総交換容量に対するOH形のイオン交換基の割合を97%以上に調整した強塩基性陰イオン交換樹脂(ダウケミカル社製・アンバーライト(登録商標)400)を気流式粉砕法によりメディアン径(D50)が約10μmになるように粉砕して、参考例1と同じ手順で総交換容量に対するOH形のイオン交換基の割合を測定した。その結果、OH形のイオン交換基の割合は1%未満であった。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
参考例1、2より、液中で粉砕した場合には強塩基性陰イオン交換樹脂の陰イオン交換基はOH形をほぼ維持するが、空気中で粉砕した場合にはほとんどの陰イオン交換基がOH形から他のイオン形に変化してしまうことが分かった。なお、参考例1、2のいずれも目標値としてメディアン径(D50)が10μmとなるように粉砕を行ったが、スラリー中の粉砕(参考例1)では実際の粒径が目標値より小さくなった。
【0059】
[実施例1]
グラフト重合によって陽イオン交換基(スルホン酸基)を導入したポリプロピレン製の不織布(寸法:110mm×1250mm、繊維径:30μm)をガラスカラムに入れ、1mol/Lの塩酸を400mL通液し、陽イオン交換基をH形に調整した。H形への調整後、1000mLのイオン交換水で洗浄し、その後、60℃で18時間乾燥したものを陽イオン交換基を有する不織布(陽イオン交換性繊維シート)とした。グラフト重合とは、高分子材料に電子線を照射し活性化させた後、官能基を高分子材料に化学的に接ぎ木する技術である。
【0060】
このようにして得られらた陽イオン交換性繊維シート1枚当たりの総交換容量は、2.2meq/枚であった。総交換容量は、カラムに陽イオン交換性繊維シートを丸めて充填し、このカラムに対して1mol/LのNaClを500ml通液し、通液後の溶液中のHイオンを0.1mol/LのNaOHで滴定することにより、シート1枚あたりのHイオン量を総交換容量とすることによって求めた。
【0061】
この不織布を、参考例1で得たスラリーをイオン交換水で希釈して得られた陰イオン交換樹脂の5%(重量比)スラリーに10秒間浸漬し、軽く撹拌した後、60℃で18時間減圧乾燥を施し、両性イオン交換体繊維シートを得た。5%スラリー浸漬前後での不織布の乾燥重量を測定し、陰イオン交換樹脂の吸着量を測定した。その結果、不織布1枚あたり570mgの陰イオン交換樹脂が吸着していた。結果を表2に示す。
【0062】
[実施例2]
実施例1で用いたものと同じ工程で得られた不織布(陽イオン交換性繊維シート)を、参考例2で得たスラリーをイオン交換水で希釈して得られた陰イオン交換樹脂の5%スラリーに10秒間浸漬し、軽く撹拌した後、60℃で18時間減圧乾燥を施し、両性イオン交換体繊維シートを得た。このとき、実施例1と同じ手順によって陽イオン交換性繊維シートの1枚当たりの総交換容量を求めたところ、2.0meq/枚であった。5%スラリー浸漬前後の不織布の乾燥重量を測定し、陰イオン交換樹脂の吸着量を測定した。その結果、不織布1枚あたり250mgの陰イオン交換樹脂が吸着していた。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
陰イオン交換樹脂におけるOH形のイオン交換基の割合の高いスラリーを用いた実施例1の両性イオン交換体繊維シートの方が、実施例2に比べ、陰イオン交換樹脂に関して2.28倍の吸着量を示した。
【0065】
[実施例3]
脱塩試験として、約0.2重量%のNaCl溶液100mlに実施例1の両性イオン交換体繊維シートを15分間浸漬し、1分ごとに5秒間軽く撹拌し脱塩を行った。処理液を0.8μmのグラスフィルターで吸引ろ過し、ろ液中のNaとCl濃度を分析した。その結果、原液の55%のNa、55%のClがイオン交換によって脱塩された。また脱塩試験中に両性イオン交換体繊維シートから脱離した陰イオン交換樹脂の乾燥重量を、処理液ろ過後のグラスフィルターと未使用のグラスフィルターの乾燥重量の差から求めた。両性イオン交換体繊維シートからの陰イオン交換樹脂の脱離量は、吸着量の2%であった。結果を表3に示す。
【0066】
[実施例4]
脱塩試験として、約0.2%のNaCl溶液100mlに実施例2の両性イオン交換体繊維シートを15分間浸漬し、1分ごとに5秒間軽く撹拌し脱塩を行った。処理液を0.8μmのグラスフィルターで吸引ろ過し、ろ液中のNaとCl濃度を分析した。その結果、原液の47%のNa、25%のClがイオン交換によって脱塩された。また脱塩試験中に両性イオン交換体繊維シートから脱離した陰イオン交換樹脂の乾燥重量を処理液ろ過後のグラスフィルターと未使用のグラスフィルターの乾燥重量の差から求めた。両性イオン交換体繊維シートからの陰イオン交換樹脂の脱離量は吸着量の78%であった。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
陰イオン交換樹脂の吸着量が多かった実施例1の両性イオン交換体繊維シートを用いた方(実施例3)が、実施例2のものを用いた場合(実施例4)に比べ、脱塩試験後も陰イオン交換樹脂が脱離しにくいことが分かった。また、陰イオン交換樹脂でのOH形のイオン交換基の割合の高いスラリーから得た実施例1の両性イオン交換体繊維シートを用いた方(実施例3)が、実施例2のものを用いた場合(実施例4)に比べ、脱塩性能がNaでは17%、Clでは120%高かった。
【符号の説明】
【0069】
10 両性イオン交換体繊維シート
11 繊維
12 陽イオン交換樹脂
13 陰イオン交換樹脂
20 脱塩吸水体
21 不透液性シート
22 吸水体
図1
図2
図3
図4