【実施例1】
【0013】
図1は本実施例のX線検査装置100の構成図の例である。X線検査装置100は、X線管1、試料搬送部3、TDIカメラ4、X線遮蔽部5、欠陥判定部7、制御部8、表示部9、入力部10を備える。
【0014】
X線管1は試料Sに向けてX線を照射する。X線管1はターゲット(陽極)を内蔵し、ターゲットに電子が加速して衝突することでX線が発生する。電子が衝突するターゲット上の領域、すなわちX線が発生する領域を焦点2とする。試料Sに照射されたX線は試料Sを透過しTDIカメラ4によってX線透過画像として検出される。検出器としてTDIカメラ4を用いることで、試料搬送部3が連続的に搬送する試料SのX線透過画像が絶え間なく取得される。また、通常のX線ラインカメラを使用する場合に比べて、TDIの段数分だけ多くの蓄積時間をとることができ、X線光量が増すことでSN比の高い画像が得られ、検査感度が向上する。
【0015】
TDIカメラ4は、表面にシンチレータ層が形成されたファイバオプティックプレートをイメージセンサと結合した構成である。イメージセンサとしてTDI(Time Delay Integration、時間遅延積分)型のCCDセンサを用いることでX線のTDI方式での撮像が可能となる。
【0016】
X線遮蔽部5はX線管1が発するX線、およびそれによる反射/散乱X線成分を遮蔽するとともに、X線が照射される空間を隔離し、人の手などがその空間に入ることを防ぐためのものである。X線遮蔽部5が所定の条件に設置されていない場合、インターロックが作動し、X線源1によるX線の照射が停止する。以上の構成により、装置オペレータ等のX線被曝が回避され、X線検査装置100の安全性が確保される。
【0017】
欠陥判定部7は、TDIカメラ4で検出されたX線透過像に基づいて、試料に存在する欠陥を判別し、その存在の有無、存在する数、位置、あるいは大きさを出力する。ここで欠陥とは、例えば医薬品の液剤バイアル、凍結乾燥剤バイアル、錠剤、および食品の検査では、それらに混入した異物(金属、ガラス、樹脂、ゴム、虫、体毛など)が挙げられる。また例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、セラミック、複合材など高機能材料の検査では、キズ、欠け、空孔などが挙げられる。また例えばリチウムイオン二次電池あるいは燃料電池の検査では、リチウムイオン電池に混入した微小金属異物、あるいは構成部材のキズや空孔が挙げられる。
【0018】
X線透過像は、試料の厚さや材料分布による背景パターンに、X線TDIカメラ4の固定パターンノイズ、出力回路の熱的・電気的なノイズ、X線光子数に応じた統計的なゆらぎとしてランダムに発生するショットノイズ、などがノイズとして加わったものとなる。欠陥が存在すると、欠陥の位置に局所的な明暗の特徴が現れる。欠陥が異物の場合は周囲に対して局所的に暗くなり、欠けや空孔の場合は周囲に対して局所的に明るくなる。欠陥判定部7において、検出した画像に対し、背景パターンやノイズを減衰するようフィルタ処理あるいは差分処理など行った後、残存する背景パターンやノイズを実質的に検出しないようなしきい値設定を行い、しきい値を超える箇所を欠陥と判定することで、欠陥が検出される。
【0019】
欠陥判定部7において、欠陥と判定された箇所の明あるいは暗パターンの空間的な広がりの中心(背景との明度差が最大となる位置、あるいは明度差の重心位置)を欠陥位置として計測する。さらに、欠陥部の背景との明度差および明度の空間的な広がりから欠陥の大きさを計測する。以上の欠陥判定結果を検査後に確認できるよう、欠陥部と周囲の背景を含む欠陥画像、欠陥位置の情報、および欠陥に付随する情報(欠陥の大きさ、種類)が、欠陥判定部7あるいは制御部8が内蔵するメモリに保存される。
【0020】
制御部8は、入力部10から、あるいは前述の各構成部品からの信号を受け、X線源1やX線TDIカメラ4の制御、及び欠陥判定部7のパラメータ設定、制御を行う。前述の各構成部品のパラメータ設定値、状態、検査条件、欠陥判定結果(欠陥個数、位置、欠陥寸法、欠陥画像)が表示部9に表示される。
【0021】
ユーザからの入力などの外部からの入力を入力部10が受け、制御部8に送られる。入力部10から入力される入力値は、各構成要件の設定パラメータ、検査条件の設定値、試料に関する情報などを含む。
【0022】
以下の説明においては、試料Sを容器6に入れて搬送する場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、試料Sが個体の場合には、必ずしも容器6に入れて搬送する必要はなく、試料Sを試料搬送部3で直接保持して搬送してもよい。
【0023】
検査対象の試料Sは容器6に収納され、容器6は試料搬送部3に保持され、あるいは載せ置かれ、搬送される。X線管1および試料搬送部3による試料の搬送速度に合せて、TDIカメラ4のラインレートが設定され、試料の搬送速度に同期した撮像が行われる。試料搬送部3はTDIカメラ4のタイミング同期に必要な、搬送速度、あるいは搬送距離などの情報を制御部8に出力する。
【0024】
例えばX線検査装置100を、試料の製造工程などにおいて予め試料が実質的に一定速度にて搬送されている環境に設置して用いる場合は、X線検査装置自体が試料搬送部3を備える必要はなく、試料の製造工程などに予め設置されている搬送系を兼用し、これに同期するようTDIカメラ4を設定して動作すればよい。この場合、必要に応じて、試料の製造工程などの搬送系の出力あるいは搬送されている試料あるいは搬送系をエンコーダによって計測して得られる位置計測値、角度計測値、あるいは速度計によって計測して得られる速度計測値、角速度計測値を同期に用いる情報として制御部8に入力して用いる。
【0025】
図2Aに本実施例における試料Sを収納した容器6の回転方法の原理を説明する。本実施例における試料Sを収納した容器6の回転方法の原理は、試料Sを収納した容器6のX方向の移動速度の観点から
図2Aを用いて以下のように説明される。試料搬送部3による試料Sを収納した容器6の回転の回転中心位置をC、焦点から回転中心までの距離をL0とする。容器6に収納した試料S内の物体の位置を、回転中心を基準とした極座標(r,θ)で表す。
【0026】
角速度ωによって位置(r,θ)の物体が受けるX方向の移動速度は−rωcosθ=−ωhと求められる。hは回転中心から物体までの容器6に収納した試料S厚さ方向の距離である。像の倍率はL/(L0−h)なので、物体の像の移動速度はL(v−ωh)/(L0−h)と求められる。ω=v/L0のときこの値は(L/L0)vとなり、容器6に収納した試料S内の厚さ方向の位置hによらず一定となる。
【0027】
すなわち、試料Sを収納した容器6の回転の角速度ωをTDI積算方向の直線移動速度vと焦点2から試料Sを収納した容器6の回転中心までの距離L0との比の値(ω=v/L0)に設定することで、容器6に収納した試料S内の厚さ方向の位置による像の移動速度の差が相殺され、容器6に収納した試料Sの厚さ方向全体にわたってTDI積算によるボケを発生させずに撮影することができる。
【0028】
具体的な搬送条件の例を挙げると、v=100mm/s、L0=300mmのとき、試料Sを収納した容器6の回転の速度はω=0.333rad/s=0.0531rps=3.18rpmとなる。ここで、容器6に収納した試料Sの厚さ方向とは
図3のZ方向であり、焦点2とTDIセンサ4の受光領域の中心を結ぶ方向である。
【0029】
図2Bに、TDIセンサ4の平面図を示す。TDIセンサ4は、Y方向に複数の画素41を並べて形成した1次元の画素列42をX方向に複数配置して形成されている。TDIセンサ4は、容器6がX方向に移動して容器6の内部の試料Sのある位置を透過したX線の像が1次元の画素列42をX方向に順次移動していくとき、容器6のX方向の移動に同期して各画素列42のY方向に同じ位置の画素41の検出信号を転送し順次加算していく。これにより、試料Sからの微弱な画像信号を検出することができる。
【0030】
なお、試料Sを収納した容器6の回転により、容器6に収納した試料S内の物体のZ方向(試料の厚さ方向)の変位も生じるが、TDIセンサ4のTDI積算の幅が焦点2から容器6に収納した試料Sまでの距離に比べて小さければ検査結果に与える影響は少ない。具体的には、L0=300mm、容器6に収納した試料SのXZ断面の寸法が直径20mm以内、TDIセンサ4のTDI積算の幅が6.14mm(=48μm×128段)、回転中心における倍率(=L/L0)が1.1倍の場合、TDI積算範囲内での試料Sを収納した容器6の回転角度は1.07度であり、それによるZ方向の変位は最大で3.72mmである。これによりTDI積算中に像の倍率が最大1.2%程度変化するが、欠陥の中心位置のずれは起きないため欠陥の有無を判別することには影響しない。
【0031】
このような構成とすることにより、TDI型の検出器による積算時間内の任意の時刻においてX線の光線方向に対する試料の相対的な方向が実質的に等しくなるようにして、欠陥の中心位置のずれを起こさずに欠陥の有無を判別できるようにした。
【0032】
試料搬送部3は
図3Aの平面図、及び
図3Bの正面図に示すように直動機構201、回転機構202、試料保持部203を備える。試料保持部203が試料Sを保持し、回転機構202がある固定の回転中心Cを回転軸として試料保持部203を回転させる。直動機構201が回転機構202をTDIセンサ4の積算方向に平行に直線的に移動する。
【0033】
図3A及び
図3Bでは試料Sを収納した容器6の例として円筒形状の瓶に凍結乾燥剤を封入した医薬品バイアルの例を示したが、試料Sを収納する容器6はこれに限らず、試料保持部203によって固定して保持できるものを対象とすることができる。
【0034】
試料Sを収納する容器6の形状は
図3AではXZ断面が円形になっているが、これに限らず、保持して回転させられるものであれば任意の形状を対象とできる。回転機構202は回転速度の相対誤差がTDIセンサ4の積算段数の逆数以下(例えば128段の場合は回転速度相対誤差0.78%以下)のものを用いることで、TDI積算中の回転誤差を十分低くすることができる。試料SがX線管1とTDIセンサ4による検出系の検出領域を通過する間、直動機構201による直線移動速度、回転機構202による回転速度は一定であり、
図2において説明したv,ωの関係を有する。
【0035】
試料搬送部3の別の実施形態を
図4Aの平面図、
図4Bの側面図、及び
図4Cの書面図に示す。
【0036】
図4A乃至
図4Cに示した試料搬送部31は、試料フォーク間隔調整機構209、試料フォーク直動機構210、211、試料フォーク212、213、およびこれら全体を直線移動する直動機構208を備える。試料Sを収納した容器6は試料フォーク間隔調整機構209、試料フォーク直動機構210、211によって位置決めされる試料フォーク212、213に挟まれて保持される。
【0037】
試料フォーク212、213は、試料フォーク直動機構210、211により、試料Sを収納した容器6を挟み込む方向(X方向)と垂直な軸上(Z方向)に、互いに逆方向に一定速で移動する。この移動によって試料Sを収納した容器6が回転する。この動作と並行して直動機構209を直線移動させることで、試料Sを収納した容器6の回転と直線移動が行われる。試料Sを収納した容器6の回転速度は試料フォーク212、213の間隔と移動速度で決められる。試料フォーク212、213の間隔は試料フォーク間隔調整機構209により調整される。
【0038】
この試料搬送部3の別の実施形態は、回転軸の試料に対する位置が一定であるために、試料Sを収納した容器6の試料フォーク212、213で挟まれる部分が円筒形状である場合に有効である。試料フォーク間隔調整機構209による試料フォーク212、213の間隔調整により、任意の径の円筒形状を持つ試料Sを収納した容器6に対応することができる。
【0039】
[実施例1の変形例]
実施例1の変形例を
図5A、
図5B及び
図6A、
図6Bを用いて説明する。
【0040】
図3A乃至
図4Cを用いて説明した例においては、試料搬送部3又は31で試料Sを収容した容器6を保持した状態で、容器6の中心軸と回転軸とがCで一致している例を示した。一方、本変形例では、試料搬送部3に対応する試料搬送部32で試料Sを保持した状態で、容器6の中心軸と回転中心軸とが一致していない例、即ち、容器6の中心軸が回転中心軸Cに対して傾いた状態でX線を照射して容器6に収納された試料Sを透過した透過X線の像を撮像する場合について説明する。
【0041】
容器6が瓶やバイアルの場合、容器6の底面の側の試料Sに欠陥が存在する場合、
図3B又は
図4Cに示したような試料を収納した容器6の真横からX線を照射すると、容器6に収納した試料の底面の凹凸によるX線の吸収などが原因で高感度に検出することが難しい場合がある。容器6の傾斜角φを変えることで、試料の底面がTDIセンサ4cに投影され、試料の底面にある欠陥も高感度に検査することができる。
【0042】
図5A及び
図5Bは、試料Sを収納した容器6を試料搬送部32で保持した状態を示す。本変形例による試料Sを収納した容器6は、試料搬送部32を構成する試料傾斜機構553、試料回転機構554、試料ホルダ555によって直線搬送レール552に保持される。試料傾斜機構553は、ゴニオメータの構成を有している。
【0043】
図5Aは試料Sを収納した容器6の中心軸と回転の中心軸Cとが一致するように容器6を保持している状態、
図5Bは容器6の中心軸が回転の中心軸Cに対して傾斜角φの傾いた状態で保持されている状態を示す。試料Sを収納した容器6は、回転中心軸Cの周りに回転可能な状態で試料搬送部32で保持されている。
【0044】
図6Aに、試料搬送部32を直線搬送レール552上を搬送しながら、4とのTDIセンサ4−1〜4−4を用いてX線透過像を検出する、本変形例の構成について説明する。近変形例においては、X線源1−1とX線源1−2の2台のX線源を用い、それらのX線源から発射されたX線が試料上で干渉するのを防止するために、遮蔽板610を設けた。
【0045】
図6Aに示した構成において、TDIセンサ4−1により撮影された後、TDIセンサ4−2により検出対象となる領域に到達するまでの間に、試料回転機構554によって試料Sを収納した容器6が90度回転され、試料Sを収納した容器6は、試料搬送部32−2の位置において、試料搬送部32−1の位置にあったときと異なる方位角に設定される。
【0046】
図6Bに示すように、条件Aと条件Bの二条件で撮影することで、容器6内の位置によらず高感度に欠陥を検出することが可能になる。例えば条件Aにおいて容器6の円筒形状内壁の側面(焦点2−1から試料を見たときの試料の中心の位置)にあった試料Sの欠陥が、条件Bにおいて容器6の内壁の側面になるため、条件Aのみでは高感度に検出できなかった欠陥が検出可能となる。
【0047】
また、試料搬送部32−2の位置でTDIセンサ4−2により撮影された後、試料搬送部32が直線搬送レール552上を搬送され、試料搬送部32−3の位置でTDIセンサ4−3により検出対象となる領域に到達するまでの間に、試料回転機構554によって試料Sを収納した容器6の傾斜角φが調整される。
【0048】
瓶やバイアルの試料では、試料の底面に欠陥が存在する場合、
図5Aに示したような容器6の真横からX線を照射すると、容器6の底面の凹凸によるX線の吸収などが原因で高感度に検出することが難しい場合がある。容器6の傾斜角φを変えることで、試料の底面がTDIセンサ4−3に投影され、試料の底面にある欠陥も高感度に検査することができる。
【0049】
更に、試料搬送部32−3の位置でTDIセンサ4−3により撮影された後、試料搬送部32が直線搬送レール552上を搬送され、試料搬送部32−4の位置でTDIセンサ4−4により検出対象となる領域に到達するまでの間に、試料回転機構554によって容器6が90度回転され、TDIセンサ4−3により撮影されたとき異なる方位角に設定される。傾斜角φの状態において条件Cと条件Dの二条件で撮影することで、容器6内の欠陥の位置によらず高感度に検出することが可能になる。例えば条件Cにおいて容器6の円筒形状内壁の底面(焦点2−2から試料を見たときの試料の中心の位置)にあった欠陥が、条件Dにおいて容器6の内壁の側面になる。このように、条件Dのみでは高感度に検出できない欠陥を条件Cで検出することが可能となる。
【0050】
本実施例に係るX線検査方法のフロー図を
図7に示す。
まず、
図1の入力部10や他の各構成部品から受信した検査条件等に関する信号を制御部8が受けて(S701)、制御部8により試料搬送部3やTDIカメラ4、X線管1などの条件設定を行う(S702)。その後、X線管1によりS702で設定した条件にて試料にX線を照射する(S703)。S703にて照射されたX線が試料を透過し、X線透過像をTDIカメラ4により検出する(S704)。欠陥判定部7がS704で検出したX線透過像を処理して試料に存在する欠陥を検出する(S705)。S705による欠陥の検出結果を表示部9に表示する(S706)。
【0051】
なお、
図6に示したような複数のTDIカメラを用いて複数の画像を取得する場合には、S703〜S704を複数のカメラの数に応じた回数(
図7の場合は4回)繰り返し、それらで得られた画像を統合してS705で欠陥検出を行えばよい。
【0052】
本実施例によれば、厚みのある被検査物に対しても分解能を低下させることなく、比較的小さな欠陥を高感度に検出することができる。
【実施例2】
【0053】
以下に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例におけるX線検査装置の構成は、実施例1において
図1を用いて説明したX線検査装置100の構成と同じであるので、説明を省略する。
【0054】
図8は、本実施例における試料搬送方法の原理を説明する図である。実施例1においては、試料Sを収納した容器6の回転中心を容器6の中心に設定した場合について説明したが、本実施例においては、容器6の回転中心をX線源1の焦点2の位置に設定する倍について説明する。
【0055】
図8において、X線源1の焦点2から発したX線は、焦点2を中心として放射状に伝搬してTDIカメラ4によって検出される。試料Sを収納した容器6は試料搬送部3によって搬送されてTDIカメラ4の検出範囲を通過する。TDIカメラ4の検出範囲を通過する間、試料搬送部3は試料Sを収納した容器6をある速度vで直進させるとともに、ある角速度ωで回転させる。
【0056】
容器6に収納した試料S内の焦点2に近い側に物体O1、遠い側に物体O2があると仮定する。焦点2から物体O1、物体O2、TDIセンサ4の受光面までの距離をそれぞれL1,L2,Lとする。物体O1、O2はそれぞれ倍率M1、M2で受光面上に投影される。M1=L/L1、M2=L/L2である。
【0057】
仮に試料Sの回転を行わない場合(ω=0)、時刻t0からt0+Δtの間の物体O1,O2のX方向の移動距離はいずれもvΔtである。よってTDIセンサ4上での物体O1,O2の像の移動距離はそれぞれΔX1=M1・vΔt、ΔX2=M2・vΔtとなり、倍率の差が原因で像の移動距離が互いに異なる。時間ΔtがTDIカメラ4のTDI積算の時間に等しいと仮定し、TDIカメラ4のラインレートを物体O1,O2のいずれかの一方の像の移動に合せると仮定すると、もう一方の物体の像の位置がTDIカメラ4の積算中に|ΔX1−ΔX2|だけずれる。
【0058】
このTDI積算の誤差により、誤差に相当するサイズの像のボケが発生する。すなわち、容器6に収納された試料Sの厚さ方向位置によって像の移動距離、あるいは移動速度が異なるため、特定の厚さ方向位置に合せてTDIカメラ4のラインレートを設定すると、他の位置は像の空間分解能が低下して検査感度が低下する。
【0059】
本実施例では、
図8に示すように、試料搬送部3によって容器6を(a)の状態から(b)の状態へ直進移動中に容器6を回転させる。回転方向は容器6の焦点2に近い側の移動距離あるいは移動速度が焦点2から遠い側のそれに対して小さくなるような方向とする。ここで、移動距離あるいは移動速度は、
図8のX方向すなわちTDIセンサ4の積算方向の移動距離成分あるいは移動速度成分を指す。このような搬送方法によって、容器6の回転を行わない場合と比べて倍率の差による移動距離の差|ΔX1−ΔX2|が縮小するため、TDIセンサ4の積算誤差による像のボケが縮小し、高感度に検査を行うことができる。
【0060】
試料Sを収納した容器6の回転方法の例は、焦点2と容器6の幾何学的な位置関係により以下のように説明される。焦点2から放射状に発生するX線の光線方向とそれに対する容器6の相対的な方向がTDIセンサ4の積算時間中に保存されるよう、容器6が回転される。
【0061】
具体的には、
図8に示したように、(a)の時刻tにおいて焦点2から発生する光線101に対する容器6の相対的な方向と、(b)の時刻t’での光線102に対する容器6の相対的な方向101とが等しくなるように、容器6が回転される。ここでは説明を単純にするために容器6に収納された試料Sの中央を通過する光線101,102を例にとって説明したが、焦点2と容器6との距離が大きく変化しなければ、上記の回転方法によって、容器6に収納された試料S内の任意の位置を通過する光線の試料Sに対する方向がTDIセンサ4の積算時間中に実質的に保存される。これにより、試料S内の任意の位置に対応する透過像の時間Δtの間の移動距離が実質的に等しくなる。
【0062】
図9に本発明の第2の実施例の試料搬送方法を示す。本実施例におけるX線検査装置の構成は、実施例1において
図1を用いて説明したX線検査装置100の構成と同じであるので、説明を省略する。
図9に示した試料搬送部において、試料Sを収納した容器が焦点2を中心とする円弧状の軌道を描いて搬送されるように試料搬送部3を構成する。
図9では試料搬送部3として円弧状のコンベア301に試料を載せて搬送する例を示す。
【0063】
本実施例では、
図9を見れば分かるように、焦点2から放射状に発生するX線の光線方向とそれに対する容器6に収納された試料Sの相対的な方向がTDIセンサ4の積算時間中に保存されるよう、容器6が回転される、という
図8を用いて説明した試料の搬送方法の条件を満たす。
【0064】
本実施例ではコンベア301の搬送速度が一定とする。この場合、コンベア301が円弧軌道を描いているため、X方向の速度成分が完全に一定とはならないが、これによる誤差は実用上問題にならないことを、
図9を用いて以下に示す。容器6に収納された試料S内のある物体位置O1に着目すると、O1はコンベア301から距離h離れた円弧軌道302を通過する。円弧軌道のコンベア301の搬送速度(線速度)をv、対応する角速度をΩ(=v/L0)とすると、TDIセンサ4上でのO1の像の時刻tでの像の位置x’はLtan(Ωt)であり、試料内の厚さ方向の位置hによらない。
【0065】
一方、TDI積算起因のボケが0となる理想的な像の位置xは、LΩtである。両者の差分ΔxはΔx=x−x’=L[tan(Ωt)−Ωt]=L[tan(x/L)−x/L]と求められる。xが最大でTDIセンサ4のTDI積算の幅6.14mm(=48μm×128段)、Lが300mmとすると、x/L<<1のため、Δxは(x/L2)
2・x/3と近似され、Δxの値は0.13μmと求められる。これはTDIセンサ4の画素寸法48μmに対し無視できるほど小さいため、TDI積算起因のボケが無視できるほど小さく抑えられる。
【0066】
図9に示した試料搬送方法の実施するための本実施例における試料搬送部3の例を
図10A及び
図10Bに示す。本実施例における試料搬送部3は試料ホルダ322、試料ホルダ位置調整機構324、試料アーム321、アーム回転機構323、を備える。試料ホルダ322が試料Sを収納した容器6を保持し、試料アーム321に固定される。試料アーム321に対する試料ホルダ322の位置は試料ホルダ位置調整機構324によって調整され、固定される。焦点2の寸法に応じて発生する像の半影ボケを低減するには、TDIセンサ4に衝突しない範囲で容器6をTDIセンサ4に近接させることが有効である。試料アーム321はアーム回転機構323によって焦点2を通る回転軸Cを中心として
図10AのXZ面内で一定の回転速度で回転する。試料アーム321の回転により容器6に収納された試料SがTDIセンサ4によって撮影されている間、容器6の試料アーム321に対する相対的な位置、方向(姿勢)は一定である。
【0067】
図9に示した試料搬送方法を実施するための試料搬送部3の別の構成例を
図11に示す。
図11に示した構成において、試料搬送部3は円弧搬送レール341と試料ホルダ342を備える。(a)の平面図に示すように、円弧搬送レール341は試料ホルダ342を焦点2を中心とする円弧状の軌跡で一定の線速度で搬送するレールあるいはガイドおよび駆動機構を備える。(b)の正面図に示すように、試料ホルダ342は試料Sを収納した容器6を保持する。試料ホルダ342の方向が分かるよう試料ホルダ342上に固定された試料ホルダマーク343を図示した。試料ホルダ342が円弧搬送レール341に沿って向きを変えて搬送されることで、焦点2が発するX線の光線に対する容器6に収納した試料Sの方向が保存されたまま搬送される。
【0068】
図9に示した試料搬送方法を実施するための試料搬送部3の別の構成例を
図12A及び
図12Bに示す。
図12A及び
図12Bに示した構成において、試料搬送部3はY軸に平行で焦点2を通る回転軸を中心として回転するターンテーブル361を備える。
図12Aに示すように、ターンテーブル361が試料Sを収納した容器6を載せて等速で回転することで、
図9に示した試料搬送方法が実施される。
図12Bに示すように、回転による加速度で試料Sを収納した容器6のターンテーブル361上での位置がずれないよう、必要に応じて試料Sを固定する試料ホルダ362がターンテーブル361上に設置される。
【0069】
図9に示した試料搬送方法を実施するための試料搬送部3の別の構成例を
図13A及び
図13Bに示す。
図13A及び
図13Bにおける試料搬送部3はベルトコンベアで試料Sを収納した容器6を搬送する構成であり、
図13Aの平面図に示すように、ベルト381、ガイドローラー382、383、円形ガイドローラー384、385、駆動機構386を備える。
【0070】
また、
図13Bの正面図に示すように、ガイドローラー382、383、円形ガイドローラー384がベルト381を押さえることで、TDIセンサ4上の検出領域上でベルト381の断面が円弧状になる。円形ガイドローラー384、385は焦点2を中心軸とする円形であり、
図13Aに示すように、ベルト381上を通過する試料Sを収納した容器6に接触しないよう、ベルト381の両端を押さえる。これらのガイドローラーは、駆動機構386によるベルト381の搬送により、固定された回転軸で自由に回転するようになっている。以上の構成により、試料Sを収納した容器6がTDIセンサ4上の検出領域を通過する際に焦点2を中心とする円弧上の軌道に沿って搬送される。
【0071】
図13A及び
図13Bに示した試料搬送部3の構成の変形例を
図14A及び
図14Bに示す。
図13A及び
図13Bに示した構成例の円形ガイドローラー384、385が、
図14A及び
図14Bでは、円弧配列ガイドローラー391、392に置き換わった構成である。
【0072】
図14Bに示すように、円弧配列ガイドローラー391、392は互いに中心軸が平行な複数のガイドローラーを、ベルト381側の包絡線が焦点2を中心とする円弧となるように配列したものである。小さな径のガイドローラーで構成することで、近似的に円形ガイドローラー384、385と同じ機能を果たす。円形ガイドローラー384、385に比べて占有する空間が小さい利点がある。
【0073】
本実施例の搬送方法を実施する領域の範囲、試料Sを収納した容器6の寸法、およびX線管1とTDIセンサ4とで構成されるX線光学系との関係を
図15を用いて説明する。TDIセンサ4のTDI積算領域の幅をW
S、試料Sを収納した容器6のフットプリントの幅をW、高さをHとする。焦点2から出てTDIセンサ4のTDI積算領域の両端に到達するX線の光線の軌跡をR2、R3とする。
【0074】
図15に示した断面で、R2、R3に挟まれた斜線を施した領域が、TDIセンサ4による検出対象となる領域である。容器6に収納された試料Sの一部がこの領域を通過する間は、実施例1で説明した
図2、あるいは本実施例の
図8に示した試料Sを収納した容器6を回転する搬送方法、あるいは
図9に示した円弧状の軌道を試料Sが通過する搬送方法を行う。
【0075】
図13A、
図13B、
図14A及び
図14Bのように、円弧状のベルトに試料を載せて搬送する場合、
図15において試料Sを収納した容器6が左から右に搬送されるとすると、容器6に収納された試料Sの右端がR2に到達する時点(試料がS1の位置にある時点)から、試料Sの左端がR3を通過し終える時点(試料がS2の位置にある時点)まで、容器6に収納された試料Sが円弧状の軌跡を搬送される必要がある。
【0076】
試料SがS1の位置にあるときの試料のフットプリントの左端から試料SがS2の位置にあるときの試料のフットプリントの右端までのベルト381の範囲を範囲401とする。容器6を載せるベルト381は少なくとも範囲401において焦点2を中心とする円弧状の軌道とする必要がある。範囲401の幅は試料Sの高さHや試料の形状によっても変わるが、概略、W
S+2Wと計算される。
【0077】
図9に示した試料搬送方法により複数の試料方向での撮影を行う搬送部3の実施例を
図16Aに示す。ここでは試料が円筒形状の瓶や医薬品のバイアルである場合の例を図示した。試料搬送部3は円弧搬送レール502と試料ゴニオメーター機構503a−d、試料回転機構504a−d、試料ホルダ505a−dを備える。円弧搬送レール502は試料Sa−dを焦点2を中心とする円弧状の軌跡で一定の線速度で搬送するレールあるいはガイドおよび駆動機構を備える。
【0078】
試料ホルダ505a−dは各々試料Sa−dを保持する。試料の方位角θが分かるように試料ホルダ505a−d上の試料ホルダマーク511a−dを図示した。試料ホルダ505a−dが円弧搬送レール502に沿って向きを変えて搬送されることで、焦点2が発するX線の光線に対する試料Sの方向が保存されたまま搬送される。試料Sa−dは各々、TDIセンサ4a−dに対して異なる方向で搬送される。
【0079】
試料Sa−dのTDIセンサ4a−dに対する方向の条件の一例を
図16Bの表の条件a−dに示す。試料入口501から入った試料が試料Sa−dの位置を順次通過して試料出口509から搬出されことで、各々の試料が条件a−dの四条件で撮影される。複数の試料搬送機構およびTDIセンサを備えて、複数の撮影条件(条件a−d)の検査を行うことで、単一のTDIセンサで複数の撮影条件の検査を行う場合に比べて高速の検査が可能となる。
【0080】
[実施例2の変形例]
図16Aに示した試料搬送部3の試料Saを保持する試料搬送機構を
図17に図示する。試料Sを収納した容器6は試料傾斜機構503a、試料回転機構504a、試料ホルダ505aによって円弧搬送レール502に保持される。容器6が円弧搬送レール502上を搬送され、Saの位置でTDIセンサ4aにより撮影された後、TDIセンサ4bにより検出対象となる領域Sbに到達するまでの間に、試料回転機構504aによって回転され、Sbの位置においてSaの位置にあったときと異なる試料方位角に設定される。
【0081】
条件aと条件bの二条件で撮影することで、試料内の欠陥の位置によらず高感度に検出することが可能になる。例えば条件aにおいて円筒形状試料の内壁の側面(焦点2から試料を見たときの試料の両端の位置)にあった欠陥が条件bにおいて試料内壁の正面(焦点2から試料を見たときの試料の中央の位置)になるため、条件aのみでは高感度に検出できなかった欠陥が検出可能となる。
【0082】
図16に示した試料搬送部3のScの位置で容器6を保持する試料搬送機構を
図18に図示する。構成は
図17に示したものと同じである。試料傾斜機構503cによって試料Scを収納した容器6cの傾斜角φが調整される。容器6cが瓶やバイアルの場合は、容器6cに収納した試料Scのうち容器6cの底面又は底面に近い部分に欠陥が存在する場合、
図17に示したような容器6の真横からX線を照射すると、容器6の底面の凹凸によるX線の吸収などが原因で高感度に検出することが難しい場合がある。
図18に示すように、容器6cの傾斜角φを変えることで、容器6cの底面がTDIセンサ4cに投影され、容器6cの底面にある欠陥も高感度に検査することができる。
【0083】
本実施例に係るX線検査方法における処理フローは、実施例1で
図7を用いて説明した処理フローと同じであるので、説明を省略する。
【0084】
本実施例によれば、厚みのある被検査物に対しても分解能を低下させることなく、比較的小さな欠陥を高感度に検出することができる。
【0085】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0086】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。