(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(イオン性素子の製造時に両親媒性物質や超音波撹拌等を用いた例)
2.第2の実施の形態(微粒子からなるpn接合のスタータ機構を設けた例)
3.第2の実施の形態の変形例
変形例1(凹凸構造からなるスタータ機構の例)
変形例2(熱電素子により温度分布を形成するスタータ機構の例)
変形例3(光源からの局所的光照射により温度分布を形成するスタータ機構の例)
4.第3の実施の形態(間欠的に電圧を低下させるイオン性素子の駆動方法の例)
5.第1〜第3の実施の形態に共通の変形例
変形例4(複数の電極の他の配置構成例)
6.適用例(イオン性素子およびイオン性素子モジュールの電子機器への適用例)
7.その他の変形例
【0020】
<1.第1の実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るイオン性素子(イオン性素子1)の断面構成例(Z−X断面構成例)を模式的に表したものである。このイオン性素子1は、一対の電極111,112とイオン層12(機能層)とからなる積層構造を有し、後述する各種の機能(多機能性)を発揮することが可能な素子である。
【0021】
(電極111,112)
電極111,112はそれぞれ、イオン層12に対して電圧を印加するための電極である。本実施の形態では、これらの電極111,112は、イオン層12を挟み込むように配置されている。
【0022】
電極111,112の厚みはそれぞれ、例えば30nmである。また、電極111,112はそれぞれ、例えば、金(Au),白金(Pt),アルミニウム(Al),ニッケル(Ni),チタン(Ti)などの各種金属の他、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)などの導電性酸化物、導電性高分子、カーボンナノチューブ、グラファイト等の導電性材料からなる。なお、このイオン性素子1では、一般的な有機EL(Electro-Luminescence)素子等とは異なり、電極111,112とイオン層12との間の仕事関数の値の差を考慮せずに、電極111,112の材料を選定することができる。このため、電極111,112としては種々の導電性材料を使用することが可能となっている。
【0023】
(イオン層12)
イオン層12は、上記したように一対の電極111,112の間に挿設されており、後述する各種の機能(この例では、蓄電機能、発光機能および発電機能)が発揮される層である。このイオン層12は、例えば
図1中の符号P1で示した拡大模式図のように、多数の細孔121hを有する多孔質材121と、この多孔質材121内(具体的には、細孔121h内)に分散された電解質(電解質の分子)122とを含んでいる。換言すると、イオン層12は、電解質122と多孔質材121とが所定の混合比(例えば、混合重量比または混合体積比など)にて混合されたものとなっている。なお、このようなイオン層12の厚みは、例えば200nmである。
【0024】
ここで、イオン層12における電解質122と多孔質材121との混合比は、例えば、電解質122:多孔質材121=1:n(例えばn≧3程度)であることが望ましい。これは、電解質122の混合率(例えば、混合重量比率または混合体積比率)が相対的に小さ過ぎると(電解質122の含有量が少な過ぎると)、後述するpn接合が形成されにくくなり、発光動作等が困難になってしまうと予想されるためである。換言すると、電解質122と多孔質材121との混合比には、後述する電圧無印加状態への移行後においてもpn接合の形成状態(発光動作および発電動作)が維持されるための好適な範囲が存在すると予想される。
【0025】
多孔質材121は、イオン層12の母材(基材)として機能するものである。この多孔質材121における細孔121hの大きさ(径)は、電解質122の分子よりも大きければよく、例えば1nmである。多孔質材121は、例えば、導電性ポリマー(発光性ポリマー)等の有機材料や、カーボンナノチューブ等の無機材料からなる。具体的には、導電性ポリマーとしては、例えば、F8T2(poly(9,9-dioctylfluorene-co-bithio-phene))等の材料が挙げられる。このように、多孔質材121としては有機材料および無機材料のいずれも使用可能であるが、導電性ポリマー等の有機材料を用いるのが望ましい。分子量が大きくなるため、イオン層12を形成し易くなるからである。また、この多孔質材121は、以下説明する電解質122との兼ね合い(相性)から、疎水性を示すものであることが望ましい。
【0026】
電解質122は、上記したように、その分子が多孔質材121の細孔121h内に分散された状態となっている。換言すると、電解質122は、多孔質材121中に含浸されている(浸み込むようにして配置されている)。
【0027】
また、例えば
図2中に模式的に示したように、この電解質122は、実際にはイオン層12内において、主にイオン状態となって分散している。すなわち、電解質122の分子には、陽イオン122cと陰イオン122aとに電離した状態となっているものが存在する。これは、多孔質材121が電解質122の溶媒として機能するからである。
【0028】
ここで、このような電解質122は、詳細は後述するが、例えば、自身の移動度を抑制する構造(イオンの移動度の抑制構造)を有する分子(イオン)を用いて構成されている。このようなイオンの移動度の抑制構造を有する分子としては、例えば、極性を有する分子などが挙げられる。また、この極性を有する分子の一具体例としては、
図1中の符号P1で示した拡大模式図中の電解質122のように、異方性形状(細長い形状)を有する分子、例えば直鎖構造を有する分子が挙げられる。この直鎖構造としては、例えば、アルキル基(一般式:C
nH
2n+2)、アリール基等が挙げられる。
【0029】
ここで、上記したイオンの移動度の抑制構造の長さ(例えば、直鎖構造の長さ)は、例えば2nm以上である(分子量が大きい構造である)ことが望ましい。また、別の観点からみると、このイオンの移動度の抑制構造は、多孔質材121における細孔121hの径に対して、2倍以上の長さであることが望ましい。これらの長さの範囲内であれば、後述するイオン移動度の抑制作用が効果的になされるからである。
【0030】
このような電解質122としては、イオン液体を用いるのが望ましい。イオン層12内に後述する電気二重層が形成され易くなるからである。このようなイオン液体としては、例えば以下の(1)式で表わされる化合物(tetradecyltrihexylphosphonium(tri- fluoromethylsulfonyl)amide [P66614][TFSA])のように、直鎖構造(この例では、アルキル基)を有する分子構造のものが挙げられる。この(1)式で表わされるイオン液体は、上記したようにイオンの移動度の抑制構造を有する分子であると共に、陽イオンと陰イオンとの間での強い分極が生じる(極性を有する)分子構造となっている。
【0032】
なお、このようなイオン液体としては、(1)式で表わされるものには限られず、イオンの移動度の抑制構造を有する分子(例えば、極性を有する分子)のものであれば、他のイオン液体を用いるようにしてもよい。具体的には、例えば、以下の陽イオンと陰イオンとを組み合わせてなるイオン液体を用いるようにしてもよい。
【0033】
(A)陽イオン
・イミダゾリウム系陽イオン:
1-methyl-3-methylimidazolium(MMI),
1-ethyl-3-methylimidazolium(EMI),
1-propyl-3-methylimidazolium(PMI),
1-butyl-3-methylimidazolium(BMI),
1-pentyl-3-methylimidazolium(PeMI),
1-hexyll-3-methylimidazolium(HMI),
1-Octyl-3-methylimidazolium,
1-oxyl-3-methylimidazolium(OMI),
1-hexadecyl-3-methylimidazolium,
1-Butyl-2,3-dimethulimidazolium,
1,2-dimethyl-3-propylimidazolium(DMPI);
・ピリジニウム系陽イオン:
1-methl-1-propylpiprodonium(PP13),
1-methyl-1-propylpyrrolidinium(P13),
1-methyl-1-butylpyrrolidinium(P14),
1-butyl-1-methylpyrrolidinium(BMP);
・アンモニウム系陽イオン:
trimethylpropylammonium(TMPA),
trimethyloctylammonium(TMOA),
trimethylhexylammonium(TMHA),
trimethylpentylammonium(TMPeA),
trimethylbutylammonium(TMBA);
・ピラゾリウム系陽イオン:
1-ethyl-2,3,5-trimethylpyrazolium(ETMP),
1-butyl-2,3,5-trimethylpyrazolium(BTMP),
1-propyl-2,3,5-trimethylpyrazolium(PTMP),
1-hexyl-2,3,5-trimethylpyrazolium(HTMP),
1-Buthylpyridium,
1-Hexylpyridium;
(B)陰イオン
bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(TFSI),
bis(fluorosulfonyl)imide(FSI),
bis(perfluoroethylsulfonyl)imide(BETI),
tetrafluoroborate(BF4),
hexafluorophosphate(PF6);
【0034】
このような電解質122は、前述した多孔質材121との相性から、疎水性を示すものであることが望ましい。つまり、多孔質材121および電解質122がいずれも疎水性を示すものとなっているのが望ましい。これにより、イオン層12を形成する際に、多孔質材121と電解質122とが均一に混ざり易くなるからである。
【0035】
[製造方法]
このイオン性素子1は、例えば、
図3に示したようにして製造することができる。この
図3は、イオン性素子1の製造方法の一例を工程順に流れ図で表わしたものである。
【0036】
(混合体の作製工程)
まず、前述した材料からなる多孔質材121および電解質122と、両親媒性物質(両親媒性分子を有する物質;レベリング剤)とを、所定の溶媒(例えば、クロロベンゼン,ジクロロベンゼン等の高沸点溶剤など)中で混合することにより、混合体を作製する(工程S11)。なお、両親媒性物質としては、例えば界面活性剤が挙げられる。また、この界面活性剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。この際、多孔質材121と電解質122とは、例えば、前述した所定の混合比にて混合するようにする。また、この混合体における両親媒性物質の含有量は、例えば1000ppm以下程度とするのが望ましく、例えば10ppm程度とするのがより望ましい。混合体への両親媒性物質の過剰な含有が防止され、後述する両親媒性物質の機能がより効果的に発揮されるからである。
・ペルフルオロアルキルスルホン酸(CF
3(CF
2)
nSO
3H)
・ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS;perfluorooctanesulfonate)
・ペルフルオロアルキルカルボン酸(CF
3(CF
2)
nCOOH)
・ペルフルオロオクタン酸(PFOA;perfluorooctanoate)
・フッ素テロマーアルコール(F(CF
2)
nCH
2CH
2OH)
【0037】
ここで、このようにして多孔質材121、電解質122および両親媒性物質を混合する際には、これらの材料について、事前に超音波(例えば、50kHz,100W程度の超音波)を用いた撹拌を行っておくのが望ましい。これらの材料同士(例えば、多孔質材121および電解質122同士)が均一に混ざり易くなるからである。なお、このような超音波を用いた撹拌は、例えば、下限時間以上かつ上限時間以下の所定の期間(撹拌時間)で行うのが望ましい。詳細は後述するが、撹拌効率を高めつつ、動作時のイオン性素子1の耐久性を確保できる(イオン性素子1が壊れてしまうのを回避できる)ようになるからである。ここで、上記した上限時間および下限時間としてはそれぞれ、例えば、3分,10分が挙げられる。つまり、例えば、超音波を用いた撹拌を3分以上かつ10分以下の期間で行うようにする。ただし、これらの上限値および下限値(適切な撹拌時間)はそれぞれ、多孔質材121や電解質122の種類、超音波の出力値等に応じて変化する。そのため、超音波を用いた撹拌を行う場合は、上記したように、撹拌効率が高く、かつイオン性素子1が壊れない程度の出力および撹拌時間で行うのが好ましい。
【0038】
(混合体の薄膜化工程)
次いで、例えばスピンコートやインクジェット等を用いて、上記した混合体を薄膜状に成形する(工程S12)。換言すると、工程S11において得られた混合体を、薄膜化させる。この際、スピンコートを用いる場合には、例えば、空気中において、500rpm(回転/分)程度の回転率にて1分間程度のスピンコートを行うようにする。なお、このようにして混合体を薄膜状にする手法としては、上記したスピンコートおよびインクジェットには限られず、他の印刷技術を用いることも可能である。具体的には、例えば、ナノインプリント法、誘導プラズマエッチング法、ドライエッチング法といったプリント技術、エッチング技術などの印刷技術を用いることが可能である。
【0039】
(乾燥工程)
続いて、このようにして得られた薄膜状の混合体を乾燥させることにより、この混合体から上記した溶媒を蒸発させる(工程S13)。これにより、
図1中の符号P1で示した拡大模式図のような、多数の細孔121hを有する多孔質材121と、この細孔121h内に分散された電解質122とからなるイオン層12が形成される。なお、乾燥させる際には、例えば、窒素(N
2)雰囲気中において乾燥を行うようにする。
【0040】
(電極の取付工程)
そののち、このようして得られたイオン層12に対して、複数の電極111,112を取り付ける(工程S14)。具体的には、工程S13において得られたイオン層12を、例えば真空蒸着法や塗布法等を用いて別途形成した一対の電極111,112の間に挟み込むようにする。以上により、
図1に示したイオン性素子1が完成する。このように、真空プロセス等の複雑な工程が不要であると共に、室温環境下にて作製可能であることから、イオン性素子1は比較的簡易なプロセスにて製造することが可能である。
【0041】
[作用・効果]
(A−1.pn接合の形成)
このイオン性素子1では、電極111,112を用いてイオン層12に対して電圧が印加されると、以下の原理にてイオン層12内にpn接合が形成される。
【0042】
すなわち、まず
図4に示したように、電極111を電圧供給源PSの正(+)側、電極112を電圧供給源PSの負(−)側とそれぞれ電気的に接続し、この電圧供給源PSから電極111,112を介してイオン層12に所定の電圧が印加されるようにする。すると、例えば
図2に示したように陽イオン122cおよび陰イオン122aがそれぞれイオン層12内で分散した状態から、陽イオン122cおよび陰イオン122aがそれぞれ選択的に移動し、イオン層12内に電荷二重層が形成される。具体的には、
図4に示したように、イオン層12内の陽イオン122cが、電極112の表面(イオン層12側の表面)と所定の間隔をおいて整列するようになる。一方、イオン層12内の陰イオン122aは、電極111の表面と所定の間隔をおいて整列するようになる。なお、
図4中において、「h」は正孔(ホール)を表すと共に「e」は電子を表し、以降の図においても同様である。
【0043】
このとき、例えば
図5に拡大して示したように、電極111側の電気二重層および電極112側の電気二重層はそれぞれ、間隔g=1nm程度の微小な距離を用いて形成される。このため、これらの電気二重層ではそれぞれ、例えば10(μF/cm
2)程度の非常に大きな静電容量が形成されると共に、例えば3(MV/cm)程度の非常に大きな電界が生じることになる。
【0044】
このようにして電気二重層に大電界が発生すると、例えば
図6に示したように、電極111から電子eがイオン層12内に注入されるようになり、イオン層12内の電極111側に電気伝導領域A1が形成される。また、電極112から正孔hがイオン層12内に注入されるようになり、イオン層12内の電極112側に電気伝導領域A2が形成される。すると、今度は、電気伝導領域A1内と陽イオン122cとの間で電荷二重層が形成されると共に、電気伝導領域A2内と陰イオン122aとの間で電荷二重層が形成されるようになる。
【0045】
そして、このようにして電荷二重層および電気伝導領域が繰り返し形成されていくことで、最終的には例えば
図7に示したように、イオン層12内にpn接合が形成される。具体的には、イオン層12内では、pn接合の接合面Sjよりも電極111側に、電子eと陽イオン122cとが混在して分散されたn型領域12nが形成される。また、接合面Sjよりも電極112側に、正孔hと陰イオン122aとが混在して分散されたp型領域12pが形成される。これらのp型領域12pとn型領域12nとによって、pn接合が構成される。以上のような原理にて、イオン層12内では電圧が印加されると自己組織的にpn接合が形成される。
【0046】
(A−2.蓄電機能)
ここで、このpn接合(p型領域12pおよびn型領域12n)では、前述したように電気二重層を利用して非常に大きな静電容量が形成されることから、換言すると、大容量の電荷を蓄えている状態(蓄電状態)であると言える。つまり、イオン性素子1では、イオン層12内に形成される電気二重層を利用して、イオン層12において蓄電機能が発揮される。
【0047】
(A−3.発光機能)
また、イオン性素子1では、例えば
図8に示したように、このイオン層12内に形成されたpn接合を利用して、発光機能も発揮される。具体的には、このpn接合の接合面Sj付近において、p型領域12p内の正孔hとn型領域12n内の電子eとが再結合し(キャリアの再結合が生じ)、その結果、この接合面Sj付近から外部へ発光光Lout(出射光)が出射する。このような原理にて、イオン性素子1において発光動作がなされる。なお、
図8では、便宜上、発光光Loutが電極111,112の方向へそれぞれ出射される態様で図示されているが、実際には発光光Loutは全ての方向に出射可能となっている。
【0048】
(A−4.発電機能)
更に、イオン性素子1では、例えば
図9に示したように、このイオン層12内に形成されたpn接合を利用して、発電機能(光電変換機能)も発揮される。具体的には、このpn接合の接合面Sj付近に外部から入射光Linが入射すると、この接合面Sj付近で光電変換がなされ、正孔hと電子eとのキャリア対が生成される。このようにして生成されたキャリア対を利用して(pn接合における光電変換を利用して)、イオン層12内に電荷が蓄積されることにより、イオン性素子1において発電動作がなされる。なお、
図9においても、便宜上、入射光Linが電極111,112の方向からそれぞれ入射する態様で図示されているが、実際には入射光Linも全ての方向から入射可能となっている。
【0049】
このように、本実施の形態のイオン性素子1では、イオン層12内に形成されるpn接合を利用して、このイオン層12において多機能性(蓄電機能、発光機能および発電機能)が発揮される。
【0050】
すなわち、例えば
図10に示したように、まず、電極111,112を利用してイオン層12に対して電圧が印加されると、イオン層12内にpn接合が形成されると共に、このpn接合では前述した電気二重層を利用して蓄電状態となる(
図10中の状態S1)。すると、次に
図10中の破線の矢印で示したように、このようにして形成されたpn接合を利用して、上記した原理にて、発光動作(状態S2)および発電動作(状態S3)がそれぞれなされるようになる。なお、このような発光動作および発電動作はそれぞれ、
図10中の破線の矢印で示したように、相補的に実現することも可能である。つまり、例えば、蓄電によって得られたキャリア(正孔hおよび電子e)に加え、発電動作によって得られたキャリアをも利用して、発光動作を行うことも可能である。また、蓄電動作および発電動作もそれぞれ、
図10中の破線の矢印で示したように、相補的に実現することが可能である。つまり、例えば、発電動作によって得られたキャリアを蓄電することも可能である。
【0051】
(B.製造方法における作用)
次に、本実施の形態のイオン性素子1の製造方法における作用について説明する。
【0052】
まず、例えば
図3中の工程S11では、多孔質材121および電解質122とともに両親媒性物質が溶媒中で混合されることにより、混合体が作製される。このように両親媒性物質もが混合されることで、この両親媒性物質がレベリング剤(表面張力調整剤)として機能する。その結果、その後の工程12においてこの混合体を薄膜状にする際に、混合体の表面張力が低下し、混合体が薄く均一に拡がり易くなる(イオン層12内での膜厚ばらつきが抑えられる)。
【0053】
また、このときの溶媒として、例えば前述した材料等からなる高沸点溶媒(例えば、沸点が80℃程度以上の溶媒)を用いているため、その後の工程S13において薄膜状の混合体を乾燥させる際に、溶媒が蒸発しにくくなり、混合体がゆっくりと乾燥するようになる。したがって、上記した両親媒性物質による表面張力の低減作用がより効果的に機能し、混合体が膜内で均等に乾燥し易くなる結果、イオン層12内での膜厚ばらつきが更に抑えられる。なお、混合体を乾燥させる際に、例えばホットプレート(50℃程度の温度)を用いた場合には、混合体が急激に乾燥するため、両親媒性物質の機能発揮が不十分になってしまうおそれがある。加えて、この場合には高温での乾燥となることから、多孔質材121(導電性ポリマー等)が壊れてしまうおそれもある。
【0054】
更に、工程S11において多孔質材121、電解質122および両親媒性物質を混合する際には、これらの材料について、事前に超音波を用いた撹拌が行われる。これにより、多孔質材121と電解質122とが均一に混ざり易くなり、工程S12において混合体を薄膜状にする際に、膜内での組成ばらつきが抑えられる。その結果、イオン性素子1における面内での特性ばらつき(前述した発光機能等の特性のばらつき)が抑えられる。
【0055】
(C.イオンの移動度の抑制構造を有する分子による作用)
続いて、本実施の形態の電解質122が、イオンの移動度の抑制構造を有する分子を用いて構成されている場合における作用について説明する。
【0056】
(他の構成例)
図11は、他の構成例に係るイオン性素子(イオン性素子101)の断面構成例(Z−X断面構成例)を、模式的に表したものである。この他の構成例のイオン性素子101は、本実施の形態のイオン性素子1においてイオン層12の代わりにイオン層102を設けたものに対応し、他の構成は同様となっている。
【0057】
このイオン層102では、例えば
図11中の符号P101で示した拡大模式図のように、多孔質材121の細孔121h内に分散された電解質103が、等方的形状を有する分子(イオン)を用いて構成されている。すなわち、イオン層102内の電解質103は、
図1中の符号P1で示した本実施の形態の電解質122とは異なり、異方性形状を有する分子(イオンの移動度の抑制構造を有する分子)とはなっていない。
【0058】
このため、イオン性素子101では、例えば
図12に示したように、イオン層102内にイオン層12と同様の原理にてpn接合が形成された後に、電圧供給源PSからの電圧供給が遮断されると(電圧印加状態から電圧無印加状態へ移行すると)、以下のようになる。すなわち、電圧無印加状態へ移行してイオン層12に電圧が印加されなくなると、例えば
図12中の矢印で示したように、イオン層12内の陽イオン122cおよび陰イオン122aがそれぞれ移動して分散し、すぐに再び
図2に示した状態に戻ってしまう。
【0059】
すると、このような陽イオン122cおよび陰イオン122aの移動に伴って、イオン層12(pn接合)内の正孔hおよび電子eもそれぞれ移動して分散する結果、イオン層12内からpn接合が消滅してしまう。このようにして電圧無印加状態へ移行した後にすぐにpn接合が消滅してしまうのは、以下の理由による。すなわち、以下説明する本実施の形態とは異なり、電解質103の分子が等方的形状となっていることから、陽イオン122cおよび陰イオン122aがそれぞれ動き易い(イオン移動度が大きい)ためである。換言すると、電解質103の分子は、本実施の形態の電解質122の分子とは異なり、イオンの移動度の抑制構造を有していないためである。
【0060】
このようにしてイオン性素子101では、電圧無印加状態への移行後にすぐにpn接合が消滅してしまうため、電圧無印加状態への移行後には発光機能および発電機能がそれぞれ発揮できなくなる。よって、このイオン性素子101では、その機能性が不十分となってしまう(多機能性が実現できないことになる)。
【0061】
(本実施の形態)
これに対して本実施の形態のイオン性素子1では、イオン層12内の電解質122が、例えば、イオンの移動度の抑制構造を有する分子(例えば、極性を有する分子)を用いて構成されている。具体的には、例えば
図1中に示した電解質122のように、異方性形状(例えば直鎖構造)を有する分子を用いて構成されている。
【0062】
これによりイオン性素子1では、イオン層12におけるイオン(陽イオン122cおよび陰イオン122a)の移動度が抑制される。具体的には、この例では異方性形状を有することから、そのような形状のイオンおよび多孔質材121の細孔121h同士、あるいは、イオン同士が互いに絡み合い易くなり、その結果、イオンが動きにくくなるものと予想される。このように、イオン層12内の陽イオン122cおよび陰イオン122aがそれぞれ動きにくくなると、それに伴って、イオン層12内のpn接合が保持され易くなる。なお、pn接合の形成時には、前述したように電荷二重層において大電界が生じるため、この大電界を利用して強制的にイオンおよびキャリアを移動させ、pn接合を形成している。
【0063】
このような理由から、例えば
図13に示したように、イオン性素子1では上記他の構成例に係るイオン性素子101と比べ、イオン層12内に形成されたpn接合が、電圧無印加状態への移行後も消滅しにくくなる。換言すると、イオン性素子1ではイオン性素子101とは異なり、電圧無印加状態への移行後も、ある程度の時間(例えば、後述するように1000秒(約17分)程度)、pn接合の形成状態が維持されるようになる。
【0064】
その結果、例えば
図14に示したように、イオン性素子1ではイオン性素子101とは異なり、電圧無印加状態への移行後においても、このpn接合を利用して引き続き多機能性が実現される。すなわち、pn接合を利用して、発光機能(発光光Loutの出射動作)および発電動作(入射光Linの光電変換動作)がそれぞれ発揮されることになる。
【0065】
以上のように本実施の形態では、混合体を作製する際に、多孔質材121および電解質122とともに両親媒性物質を溶媒中で混合するようにしたので、その後に例えばスピンコート等を用いてこの混合体を薄膜状にする際に、混合体の表面張力を低下させて混合体を均一に拡がり易くすることができる。よって、例えばスピンコートのみを用いて混合体を薄膜状にする場合と比べて、イオン性素子1における面内ばらつき(イオン層12内の膜厚ばらつき)を抑えることが可能となる。これは、スピンコートを用いただけでは、溶媒の対流による膜厚むらが生じ易いためである。
【0066】
また、このようにして多孔質材121および電解質122等を混合する際に、超音波を用いた撹拌を行うようにしたので、その後に混合体を薄膜状にする際に、膜内での組成ばらつきを抑えることができる。よって、イオン性素子1における面内ばらつき(面内での特性ばらつき)を抑えることが可能となる。
【0067】
このようにして本実施の形態の製造方法では、イオン性素子1における面内ばらつき(膜厚や特性等の面内ばらつき)を低減することが可能となる結果、例えば以下の効果が得られる。
・低電圧駆動化(例えば、従来の2〜3V程度から、1.5V程度への低電圧化が可能)
・素子の長寿命化(例えば、従来の1時間程度から、3時間以上への長寿命化が可能)
・素子の大面積化(例えば、1cm×1cm程度の面積が実現可能)
・発光動作時の高輝度化(例えば、従来の1000cd/m
2以下から、2500cd/m
2以上への高輝度化が可能)
【0068】
なお、本実施の形態のイオン性素子1の製造方法では、上記したように、両親媒性物質の混合および超音波を用いた撹拌の双方を行っているが、これには限られず、例えばこれらのうちのいずれか一方を行わないようにしてもよい。
【0069】
加えて、本実施の形態では、電解質122がイオンの移動度の抑制構造を有する分子(例えば極性を有する分子)を用いて構成されているようにした場合には、イオン層12内に形成されるpn接合を、電圧無印加状態への移行後においてもある程度維持することができるようになる。よって、このような特性を有するpn接合を利用して、機能性を向上させることが可能となり、ユーザの利便性を向上させることも可能となる。
【0070】
具体的には、イオン層12内に形成されるpn接合を利用して、多機能性(蓄電機能および発光機能や、発電機能等)を実現することが可能となる。
【0071】
また、電圧無印加状態への移行後もpn接合がある程度維持されるため、電圧無印加状態においても、pn接合を利用した各機能(蓄電機能および発光機能や、発電機能等)を実現することが可能となる。
【0072】
更に、特に本実施の形態に係るイオン性素子1の素子構造では、後述する変形例4に係るイオン性素子(イオン性素子1E)の素子構造と比べ、以下の利点も得られる。すなわち、まず、本実施の形態では変形例4と比べ、イオン性素子の応答速度を向上させることが可能となる。また、本実施の形態では変形例4と比べ、界面(例えば、後述する基板10とイオン層12との間の界面)の影響を受けにくくなり、各機能の機能性を更に向上させることも可能となる。
【0073】
[実施例]
次いで、本実施の形態における具体的な実施例(実施例1〜4)について詳細に説明する。
【0074】
(実施例1)
図15A,
図15Bはそれぞれ、比較例1および実施例1に係るイオン層の膜厚ばらつきを表したものである。なお、これらの膜厚のばらつきは、段差計で測定した。
図15Aに示した比較例1では、前述した混合体を作製する際に、両親媒性物質を混合させていない。このため、この比較例1では、600nm程度の大きな膜厚ばらつきが生じていることが分かる。一方、
図15Bに示した実施例1では、前述した混合体を作製する際に、両親媒性物質(この例では界面活性剤)を混合させている。したがって、この実施例1では、膜厚ばらつきが35nm程度と非常に小さなものとなり、上記比較例1と比べて膜厚ばらつきが1桁以上も低減していることが分かる。
【0075】
(実施例2)
次いで、
図16は、実施例2−1,2−2に係る溶媒と膜厚等との関係を表したものである。具体的には、溶媒の材料、イオン層12の膜厚、乾燥工程(工程S13)に要する乾燥時間、およびイオン層12の表面粗さ(膜厚ばらつき)の各々について、実施例2−1,2−2ごとにまとめて示している。
【0076】
実施例2−1では、溶媒としてクロロベンゼン(沸点=約130℃)を用いている。したがって、混合体を薄膜状にする際に、溶媒としてのクロロベンゼンが比較的揮発(蒸発)し易いことから、乾燥時間が比較的短くなる(18分)。よって、この混合体の表面張力が比較的高くなって混合体が均一に拡がりにくくなり、イオン層12の膜厚ばらつきが比較的大きくなっている(130〜300nm程度)ことが分かる。
【0077】
一方、実施例2−2では、溶媒としてジクロロベンゼン(沸点=約180℃)を用いている。したがって、薄膜状の混合体を乾燥させる際に、溶媒としてのジクロロベンゼンがクロロベンゼンと比べて揮発しにくいことから、乾燥時間が実施例2−1と比べて遥かに長くなり(85分)、混合体がゆっくりと乾燥する。このため、両親媒性物質による表面張力の低減作用が、より効果的に機能する。よって、この混合体が膜内で均等に乾燥し易くなる結果、イオン層12内での膜厚ばらつきが、実施例2−1と比べて非常に小さくなっている(20〜28nm程度)ことが分かる。
【0078】
これらの実施例2−1,2−2により、混合体の作製工程(工程S11)において使用する溶媒としては、できるだけ沸点が高いもの(高沸点溶媒)を用いるのが望ましいこと、また、この高沸点溶媒の中でもより沸点が高いものを用いるのが更に望ましいことが分かる。
【0079】
(実施例3)
続いて、
図17は、実施例3に係る超音波撹拌と、イオン性素子における発光特性との関係を表したものである。この実施例3の条件は、以下の通りである。
・電解質…前述した(1)式で表わされるイオン液体
・多孔質材…発光性ポリマー
・両親媒性物質…界面活性剤(含有量=10ppm)
・電解質と多孔質材との混合比…電解質:多孔質材=1:5
・発光動作時の駆動電圧(動作電圧)…2.5V,3.0Vの各々で実施
・超音波撹拌…50kHz,100Wの超音波を、0分間(超音波撹拌:無し)、3分間,10分間,20分間,30分間の各々で実施
【0080】
この
図17により、超音波撹拌が無しの場合と比べ、超音波撹拌が有りの場合では混合体において材料が均一に混ざり易くなる結果、発光特性の面内ばらつきが抑えられていることが分かる。また、超音波撹拌の時間が10分間以上の場合に、十分な撹拌効果が得られていることが分かる。ただし、動作電圧=3.0Vの場合には、超音波撹拌の時間が長くなり過ぎるとイオン性素子の耐久性が悪化(イオン性素子が劣化)し、30分間の場合には発光しなくなってしまうことが分かる。これらのことから、前述したように、超音波を用いた撹拌は、例えば、3分以上かつ10分以下程度の期間で行うのが望ましいと言える。撹拌効果を高めつつ(発光特性等の面内ばらつきを抑えつつ)、動作時のイオン性素子の耐久性を確保できる(イオン性素子の劣化を抑えることができる)ためである。
【0081】
(実施例4)
続いて、実施例4の条件は、以下の通りである。
・電解質…前述した(1)式で表わされるイオン液体
・多孔質材…発光性ポリマー
・電解質と多孔質材との混合比…電解質:多孔質材=1:5
【0082】
この実施例4のイオン性素子は、電解質としてのイオン液体が、前述した(1)式で表わされるものであるため、イオンの移動度の抑制構造を有する分子(この例では、極性を有する分子であると共に異方性形状を有する分子)となっている。また、それとともに、この実施例4のイオン性素子では、電解質としてのイオン液体の混合率が相対的に小さいため、イオンの移動度が小さくなっている。
【0083】
このため、例えば
図18中の破線の矢印で示したように、イオン層への印加電圧を増加させていくと2V程度以上にてpn接合が形成されて発光動作が行われると共に、上記比較例1とは異なり、その後印加電圧を減少させていっても、発光動作が継続している。具体的には、印加電圧が0V(電圧無印加状態)まで低下しても、pn接合の形成状態が維持され、発光動作も維持されている。なお、
図18中の一方の縦軸に示した「発光光による受光電流」とは、イオン性素子の近傍に配置したフォトダイオードにおける受光電流のことであり、発光光の強度(発光強度)に相当する値である。この点は、以下も同様である。
【0084】
また、例えば
図19に示したように、この実施例4では、印加電圧が遮断しても(電圧無印加状態へ移行しても)、素子に流れる電流および発光光による受光電流がそれぞれ、約1000秒(約17分)程度はある程度大きい値で流れ続けている。つまり、印加電圧が遮断しても、ある程度の時間はpn接合の形成状態が維持されていることが分かる。
【0085】
ちなみに、例えば
図20に示したように、実施例4において、環境温度を250K,300K,350Kと変化させたところ、以下のような温度特性を示すことが分かった。すなわち、素子に流れる電流は、環境温度が低下するのに従って、印加電圧の遮断後により長時間流れることが分かった。これは、低温になるのに従ってイオンの移動度が小さくなり、放電動作により多くの時間を要するためである。つまり、この素子に流れる電流については、一般的な電気二重層キャパシタと同様の振る舞いを示すと言える。一方、発光光による受光電流(発光強度)については、環境温度にはほとんど依存せず、いずれの環境温度の場合においても上記のように約1000秒程度は流れ続けることが分かった。
【0086】
以下、本発明の他の実施の形態(第2,第3の実施の形態)等について説明する。これらの実施の形態等のイオン性素子においても、基本的には、第1の実施の形態のイオン性素子1と同様にして製造することが可能である。ただし、前述した両親媒性物質の混合や高沸点溶媒の使用、超音波を用いた撹拌等を行わないようにしてもよい。なお、以下では、第1の実施の形態等における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0087】
<2.第2の実施の形態>
[構成]
図21は、第2の実施の形態に係るイオン性素子(イオン性素子1A)の断面構成例(Z−X断面構成例)を模式的に表したものである。また、
図22は、このイオン性素子1Aにおけるイオン層12の平面構成例(X−Y平面構成例)を模式的に表したものである。
【0088】
本実施の形態のイオン性素子1Aは、第1の実施の形態のイオン性素子1において、微細構造(微粒子14A)からなるpn接合のスタータ機構を設けたものに対応しており、他の構成は基本的には同様となっている。このスタータ機構とは、電極111,112を介してイオン層12へ駆動電圧が印加されているときに、このイオン層12内において前述したpn接合の形成を部分的(局所的)に開始させるためのものである。
【0089】
図21および
図22に示したように、このようなスタータ機構として機能する微細構造(微粒子14A)は、イオン層12内で分散配置されている。また、このイオン層12内(X−Y平面内)においてpn接合が略等方的(望ましくは等方的)に複数個所で形成されるように、これらの微粒子14Aもまた、イオン層12内で略等方的(望ましくは等方的)に配置されている。この微粒子14Aは、以下詳述するように、イオン層12内で局所的な電界集中を生じさせることによって、pn接合の形成を部分的に開始させるようになっている。このような微粒子14Aは、例えばナノスケールの微粒子、具体的には、酸化シリコン(SiO
2),酸化アルミニウム(Al
2O
3)等からなるナノパーティクル等からなる。
【0090】
[作用・効果]
本実施の形態のイオン性素子1Aでは、微細構造(微粒子14A)からなるスタータ機構が設けられていることにより、電極111,112からイオン層12へ駆動電圧が印加されているときに、このイオン層12内において、pn接合の形成が部分的に開始される。
【0091】
具体的には、まず例えば
図23中の破線で示したように、イオン層12内では微粒子14Aの近傍(周辺領域)に、pn接合(p型領域12pおよびn型領域12n)が部分的(局所的)に形成される。次いで、例えば
図24中の矢印で示したように、この最初に部分的に形成されるpn接合領域(微粒子14Aの周辺領域)を核として、その周囲にpn接合領域が徐々に拡がっていく形成態様となる。
【0092】
このように、イオン層12内で部分的に形成されてから徐々に拡がっていくというpn接合の形成態様となるため、本実施の形態のイオン性素子1Aでは、イオン層12全体で一様にpn接合が形成される場合と比べ、駆動電圧の印加時にpn接合が形成され易くなる。
【0093】
以上のように本実施の形態では、電圧印加の際にイオン層12内でpn接合の形成を部分的に開始させるためのスタータ機構を設けるようにしたので、駆動電圧の印加時にpn接合を形成し易くすることができる。よって、イオン性素子の動作電圧(駆動電圧)を低く抑える(例えば、1.0V〜1.5V程度)ことが可能となる。
【0094】
また、このスタータ機構が、イオン層12内においてpn接合を略等方的に複数個所で形成させるようにしたので、pn接合領域をイオン層12全体に拡がり易くすることができる。よって、イオン性素子1Aの動作電圧をより低く抑えることが可能となる。
【0095】
特に本実施形態では、上記スタータ機構を微細構造(微粒子14A)を用いて構成したので、素子構造によってスタータ機構が実現され、その機能を発揮する際に動的な制御が不要となる。よって、簡易な手法で低動作電圧化を実現することができる。
【0096】
また、この微粒子14Aはイオン層12内で分散配置されていることから、pn接合の形成開始領域が等方的に配置され易くなる。よって、イオン性素子1Aの動作電圧が更に低く抑えられ易くなると言える。
【0097】
<3.第2の実施の形態の変形例>
続いて、上記第2の実施の形態の変形例(変形例1〜3)について説明する。なお、第2の実施の形態等における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0098】
[変形例1]
図25は、変形例1に係るイオン性素子(イオン性素子1B)の断面構成例(Z−X断面構成例)を模式的に表したものである。また、
図26は、このイオン性素子1Bにおけるイオン層12の平面構成例(X−Y平面構成例)を模式的に表したものである。
【0099】
本変形例のイオン性素子1Bは、第2の実施の形態のイオン性素子1Aにおいて、微細構造(微粒子14A)からなるスタータ機構の代わりに、微細構造(凹凸構造141)からなるスタータ機構を設けたものに対応しており、他の構成は基本的には同様となっている。
【0100】
図25および
図26に示したように、このようなスタータ機構として機能する微細構造(凹凸構造141)は、電極111上(電極111とイオン層12との界面付近)に複数の突起部14Bが分散配置されることにより形成されている。また、本変形例においても、イオン層12内(X−Y平面内)においてpn接合が略等方的(望ましくは等方的)に複数個所で形成されるように、これらの突起部14Bもイオン層12内で略等方的(望ましくは等方的)に配置されている。この凹凸構造141(突起部14B)も微粒子14Aと同様に、イオン層12内で局所的な電界集中を生じさせることによって、pn接合の形成を部分的に開始させるようになっている。このような突起部14Bは、例えば、金(Au),白金(Pt),アルミニウム(Al),ニッケル(Ni),チタン(Ti)などの各種金属の他、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)などの導電性酸化物、導電性高分子、カーボンナノチューブ、グラファイト等の導電性材料、ナノスケールの微粒子、具体的には、酸化シリコン(SiO
2),酸化アルミニウム(Al
2O
3)等からなるナノパーティクル等の材料からなる。なお、
図25においては、便宜上、凹凸構造141の断面形状を三角形状としているが、これには限られず、凹凸構造141が他の立体的形状(例えば、断面形状が矩形状からなる立体的形状等)を有するようにしてもよい。
【0101】
本変形例においても、このような微細構造(凹凸構造141)からなるスタータ機構が設けられていることにより、基本的には第2の実施の形態と同様の作用により同様の効果を得ることが可能である。
【0102】
特に本変形例では、上記スタータ機構として、電極111とイオン層12との界面付近に形成された凹凸構造141を用いるようにしたので、この凹凸構造141の形状設計に応じて、pn接合の形成開始領域を自在に制御可能となる。よって、イオン性素子1Bの動作電圧も調整し易くすることができる。
【0103】
[変形例2,3]
図27は、変形例2に係るイオン性素子(イオン性素子1C)におけるイオン層12の平面構成例(X−Y平面構成例)を模式的に表したものである。また、
図28は、変形例3に係るイオン性素子(イオン性素子1D)におけるイオン層12の平面構成例(X−Y平面構成例)を模式的に表したものである。
【0104】
これら変形例2,3のイオン性素子1C,1Dではそれぞれ、第2の実施の形態のイオン性素子1Aにおいて、微細構造(微粒子14A)からなるスタータ機構の代わりに、以下のスタータ機構を設けたものに対応している。すなわち、イオン層12内で温度分布を形成することによってpn接合の形成を部分的に開始させるスタータ機構を設けたものに対応しており、他の構成は基本的にはイオン性素子1Aと同様となっている。
【0105】
具体的には、
図27に示した変形例2のイオン性素子1Cでは、温度分布を直接的に形成する熱電素子14Cを用いて、スタータ機構が構成されている。この熱電素子14Cは、図示しない電源から電圧が供給されることで発熱し、イオン層12における熱電素子14Cの周辺領域を相対的に高温に設定することが可能となっている。また、本変形例においても、イオン層12内(X−Y平面内)においてpn接合が略等方的(望ましくは等方的)に複数個所で形成されるように、複数の熱電素子14Cがイオン層12上に略等方的(望ましくは等方的)に2次元配置されている。
【0106】
一方、
図28に示した変形例3のイオン性素子1Dでは、イオン層12に対して局所的な光照射を行うことによって温度分布を間接的に形成する光源15を用いて、スタータ機構が構成されている。この光源15は、図示しない電源によって駆動されることで、照射光L1をイオン層12に対して局所的に照射し、その照射領域を相対的に高温に設定する(高温領域Ahtを形成する)ことが可能となっている。また、本変形例においても、イオン層12内(X−Y平面内)においてpn接合が略等方的(望ましくは等方的)に複数個所で形成されるように、このような高温領域Ahtがイオン層12上に略等方的(望ましくは等方的)に形成されるようになっている。
【0107】
このようして変形例2,3では、イオン層12内で温度分布を形成することによってpn接合の形成を部分的に開始させるスタータ機構が設けられている。これにより、相対的に高温の領域(高温領域Aht等)で最初にpn接合領域が形成され、この領域を核としてその周囲にpn接合領域が拡がっていく形成態様となる。したがって、基本的には第2の実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることが可能である。
【0108】
また、これら変形例2,3では、pn接合領域の形成態様が温度分布に応じて自在に制御可能となるため、イオン性素子1C,1Dの動作電圧も調整し易くすることができる。
【0109】
更に、特に変形例2のイオン性素子1Cでは、熱電素子14Cによって温度分布を直接的に形成することから、温度分布の調整がし易くなり、イオン性素子1Cの動作電圧も更に調整し易くすることができる。一方、変形例3のイオン性素子1Dでは、光源15からの局所的な光照射でスタータ機構が実現されることから、素子構造自体の変更は不要となり、簡易な構成で実現可能となる。
【0110】
なお、例えば
図29に示したように、これらの変形例2,3ではそれぞれ、スタータ機構(熱電素子14Cまたは光源15)が、イオン性素子1C,1Dの始動期間T1およびその後の定常動作期間T2のうちの始動期間T1においてのみ、上記した温度分布の形成を行うのが望ましい。このようにした場合、pn接合の形成が主に行われる期間(始動期間T1)において、温度分布の形成によるスタータ機能が選択的に発揮されることから、より効果的なスタータ機能を実現することが可能となる。
【0111】
<4.第3の実施の形態>
[構成]
図30は、第3の実施の形態に係るイオン性素子モジュール(イオン性素子モジュール2)の断面構成例(Z−X断面構成例)を、以下説明する駆動部21のブロック構成とともに模式的に表したものである。本実施の形態のイオン性素子モジュール2は、これまでに説明したイオン性素子1,1A〜1Dのいずれかと、そのイオン性素子を駆動する駆動部21とを備えている。なお、本実施の形態に係るイオン性素子の駆動方法は、本実施の形態のイオン性素子モジュール2において具現化されるため、以下併せて説明する。
【0112】
(駆動部21)
駆動部21は、電極111,112を介してイオン層12へ駆動電圧Vdを印加することにより、イオン性素子1(1A〜1D)を駆動するものである。この駆動部21は、本実施の形態では、このイオン性素子1(1A〜1D)を駆動する際に、駆動電圧Vdを間欠的(例えば周期的)に低下させる間欠駆動を行うようになっている。
【0113】
具体的には、駆動部21は、例えば
図31に示した駆動電圧Vdのタイミング波形のように、パルス波形を用いて駆動電圧Vdを間欠的に低下させる。詳細には、この場合、駆動電圧Vd=高電圧VHである高電圧期間TH(通常の駆動期間)と、駆動電圧Vd=低電圧VLである低電圧期間TL(後述するリフレッシュ動作期間)とが、時間軸に沿って交互に繰り返されるパルス波形となっている。つまりこの場合、駆動部21は、駆動電圧Vd=VHからVd=VLに間欠的に低下させることで、間欠駆動を行っている。
【0114】
あるいは、駆動部21は、例えば
図32に示した駆動電圧Vdのタイミング波形のように、所定の直流電圧Vdcに対して交流電圧(この例では、正弦波からなる交流電圧)を重畳させてなる交流波形を用いて、駆動電圧Vdを間欠的に低下させるようにしてもよい。詳細には、この場合、駆動電圧Vd≧直流電圧Vdcである高電圧期間VHと、駆動電圧Vd<直流電圧Vdcである低電圧期間VLとが、時間軸に沿って交互に繰り返される交流波形となっている。つまりこの場合、駆動部21は、駆動電圧Vd≧VdcからVd<Vdcに間欠的に低下させることで、間欠駆動を行っている。
【0115】
ここで、駆動部21は、このような駆動電圧Vdの低下およびその後の復帰を瞬間的(瞬時)に行うのが望ましい。換言すると、駆動電圧Vdの低下期間(低電圧期間TL)が、それ以外の期間(駆動電圧Vdの非低下期間,高電圧期間VH)と比べて相対的に短期間(微小期間)であるのが好ましい(例えば、10ms程度)。
【0116】
また、駆動部21は、この駆動電圧Vdを間欠的に0Vまで低下させるのが望ましい。これにより、駆動電圧Vdの印加が間欠的に停止されることから、後述するリフレッシュ動作がより効果的に行われ、イオン性素子1(1A〜1D)の更なる長寿命化が図られるからである。
【0117】
更に、例えば
図33に示したように、駆動部21は、イオン性素子1(1A〜1D)の始動期間T1では、駆動電圧Vdを一定とした定電圧駆動を行うと共に、この始動期間T1の後の定常動作期間T2において、上記した間欠駆動(駆動電圧Vdを間欠的に低下させる駆動)を行うのが望ましい。
【0118】
[作用・効果]
本実施の形態のイオン性素子モジュール2では、イオン性素子1(1A〜1D)を駆動する際に、電極111,112を介してイオン層12へ印加する駆動電圧Vdが、間欠的に低下するようになされる(上記した間欠駆動が行われる)。これによりこのイオン性素子1(1A〜1D)では、以下の原理にて、イオン層12内の電解質122(イオン液体等)の定期的(例えば周期的)なリフレッシュ動作が実現される。
【0119】
具体的には、まず、例えば
図34に示したように、低電圧期間VL(リフレッシュ動作期間)では、駆動電圧Vdが低下(この例ではVd=VLへ低下)するため、イオン層12内のpn接合(p型領域12pおよびn型領域12n)において、以下のような作用が生じる。すなわち、陽イオン122cおよび陰イオン122aの一部が移動し、それに伴ってイオン層12(pn接合)内の正孔hおよび電子eの一部もそれぞれ移動して分散する結果、正孔hおよび電子eの一部同士が再結合し、イオン層12内から消滅してしまう。
【0120】
次いで、例えば
図35に示したように、その後の高電圧期間VH(通常の駆動期間)では、駆動電圧Vdが復帰(この例では、Vd=VLからVd=VHへ復帰)するため、イオン層12内のpn接合において、以下のような作用が生じる。すなわち、電極111,112からn型領域12nおよびp型領域12pへそれぞれ、新たな陽イオン122cおよび陰イオン122がそれぞれ供給(注入)される結果、イオン層12内の電解質122のリフレッシュ動作が行われ、イオン性素子1(1A〜1D)の長寿命化が図られる。
【0121】
(実施例4)
ここで、
図36Aは、実施例4に係る駆動期間と発光特性との関係を表したものである。また、
図36Bは、この
図36Aの一部(符号P2で示した部分)を拡大して、駆動電圧Vdとともに示したものである。
【0122】
この実施例4では、前述した
図31の例のように、パルス波形を用いて駆動電圧Vdを間欠的に低下させている。具体的には、50秒間の高電圧期間VH(高電圧VH=3.0V)ごとに、0.001秒間の低電圧期間VL(低電圧VL=0V)を設けている。
図36A,
図36Bにより、この実施例4では、駆動時間が5000秒間にも達しても、発光光による受光電流がほとんど低下せず(ほぼ一定の値に収束しており)、イオン性素子の長寿命化が実現されていることが分かる。
【0123】
(実施例5)
一方、
図37Aは、実施例5に係る駆動期間と発光特性との関係を表したものである。また、
図37Bは、この
図37Aの一部(符号P3で示した部分)を拡大して、駆動電圧Vdとともに示したものである。
【0124】
この実施例5では、前述した
図32の例のように、所定の直流電圧Vdcに対して交流電圧を重畳させてなる交流波形を用いて、駆動電圧Vdを間欠的に低下させている。具体的には、直流電圧Vdc=2.9Vに対して、Peak-to-Peakで0.2Vの交流波形を重畳することにより、2.8V〜3.0Vの間で時間軸に沿って周期的に変化する交流波形を生成および使用している。
図37A,
図37Bにより、この実施例5においても、駆動時間が5000秒間にも達しても、発光光による受光電流がほとんど低下せず(ほぼ一定の値に収束しており)、イオン性素子の長寿命化が実現されていることが分かる。
【0125】
以上のように本実施の形態では、イオン性素子1(1A〜1D)を駆動する際に駆動電圧Vdを間欠的に低下させる(間欠駆動を行う)ようにしたので、イオン層12内の電解質122の定期的なリフレッシュ動作を実現することができる。よって、イオン性素子1(1A〜1D)の長寿命化を図ることが可能となる。具体的には、このような間欠駆動を行わない場合(定電圧駆動の場合)には、約1000〜2000秒程度の素子寿命であるのに対し、本実施の形態(間欠駆動を行う場合)では、約10000秒以上もの素子寿命を達成することが可能となる。
【0126】
また、このような駆動電圧Vdの低下およびその後の復帰を瞬間的に行うようにしたので、以下の効果も得ることが可能となる。すなわち、駆動電圧Vdの低下期間が非常に短くなるため、そのような駆動電圧Vdの低下によるイオン性素子1(1A〜1D)の動作変化(例えば、発光機能の停止等)が、ユーザによって認識(判別)しにくくなる(望ましくは、認識されないようになる)。つまり、ユーザの利便性の低下を、低減もしくは回避する(望ましくは回避する)ことが可能となる。
【0127】
更に、イオン性素子1(1A〜1D)の始動期間T1では前述した定電圧駆動を行うと共に、その後の定常動作期間T2においてそのような間欠駆動を行うようにしたので、以下の効果も得ることが可能となる。すなわち、pn接合が形成される始動期間T1では、定電圧駆動によってpn接合の形成を促進させる一方で、その後の定常動作期間T2では、間欠的な電圧低下駆動によって上記したリフレッシュ動作を行うといった、動作状況に適合したより効果的な駆動動作を実現することが可能となる。
【0128】
加えて、例えば
図31および実施例4のように、そのような間欠駆動の際にパルス波形を用いた場合には、特に効果的にリフレッシュ動作を行うことが可能となる。一方、例えば
図32および実施例5のように、そのような間欠駆動の際に、所定の直流電圧Vdcに対して交流電圧を重畳させてなる交流波形を用いた場合には、発光動作の際の光のちらつきを抑えることも可能となる。
【0129】
なお、本実施の形態においても、第2の実施の形態およびその変形例1〜3において説明した、pn接合の形成を部分的に開始させるためのスタータ機構を設けるようにしてもよい。
【0130】
<5.第1〜第3の実施の形態に共通の変形例>
続いて、上記第1〜第3の実施の形態に共通の変形例(変形例4)について説明する。なお、これらの実施の形態等における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0131】
[構成]
図38は、変形例4に係るイオン性素子(イオン性素子1E)の断面構成例を模式的に表したものである。このイオン性素子1Eは、基板10上に、一対の電極111,112、イオン層12および保護層13からなる積層構造を有している。
【0132】
基板10は、イオン素子1Eの素子構造を保持するための基板である。この基板10は、例えば、ガラス基板やプラスチック基板、シリコン基板等からなる。
【0133】
ここで、このイオン性素子1Eでは、これまでに説明したイオン性素子1,1A〜1Dとは異なり、この基板10上に、一対の電極111,112が所定の間隔をおいて並設されている。そして、これらの基板10および電極111,112の上を、イオン層12が一様に覆う素子構造となっている。
【0134】
ただし、本変形例においてもイオン層12は、例えば、前述した第1の実施の形態(
図1)等と同様の構成となっている。すなわち、イオン層12は、多数の細孔121hを有する多孔質材121と、この多孔質材121の細孔121h内に分散された電解質122とを含んでいる。また、例えば
図39中に模式的に示したように、電解質122の分子には、実際には陽イオン122cと陰イオン122aとに電離した状態(イオン状態)となっているものが存在する。そして電解質122は、前述したように、イオンの移動度の抑制構造を有する分子(例えば分極を有する分子)を用いて構成されている。
【0135】
保護層13は、イオン層12を外部から保護するための層(パッシベーション層)である。保護層13は、例えばポリマーや酸化物等の材料からなり、その厚みは、例えば10nm〜100nm程度である。なお、この保護層13は、場合によっては設けられていなくてもよい。
【0136】
なお、本変形例のイオン性素子1Eも、基本的には、前述した第1の実施の形態のイオン性素子1等と同様にして製造することが可能である。ただし、前述した両親媒性物質の混合や高沸点溶媒の使用、超音波を用いた撹拌等を行わないようにしてもよい。
【0137】
[作用・効果]
本変形例のイオン性素子1Eにおいても、基本的には、第1の実施の形態等と同様の作用により、同様の効果を得ることが可能である。具体的には、イオン性素子1Eでは以下のように作用する。
【0138】
すなわち、まず例えば
図40に示したように、電極111,112を利用してイオン層12に対して電圧が印加されると、イオン層12内にpn接合が形成されると共に、このpn接合では前述した電気二重層を利用して蓄電状態となる。すると、次にこのようにして形成されたpn接合を利用して、前述した原理にて、発光動作(発光光Loutの出射動作)および発電動作(入射光Linの光電変換動作)がそれぞれなされるようになる。つまり、イオン層12内に形成されるpn接合を利用して、多機能性(蓄電機能、発光機能および発電機能)を実現される。なお、この
図40および以下の
図41では、便宜上、発光光Loutおよび入射光Linがそれぞれ、イオン層12の延在方向に沿って出射または入射する態様で図示されている。ただし、実際には、発光光Loutは全ての方向に出射可能となっていると共に、入射光Linは全ての方向から入射可能となっている。
【0139】
また、イオン性素子1Eにおいても、電解質122がイオンの移動度の抑制構造を有する分子(例えば極性を有する分子)を用いて構成されているため、第1の実施の形態等と同様の原理にて、電圧無印加状態への移行後もpn接合の形成状態がある程度維持される。
【0140】
したがって、例えば
図41に示したように、電圧無印加状態への移行後においても、このpn接合を利用して引き続き多機能性が実現される。すなわち、pn接合を利用して、発光機能(発光光Loutの出射動作)および発電動作(入射光Linの光電変換動作)がそれぞれ発揮されることになる。
【0141】
このようにして本変形例においても、イオン層12内に形成されるpn接合を利用して機能性を向上させることができ、ユーザの利便性を向上させることも可能となる。また、特に本変形例では上記実施の形態と比べ、イオン性素子の応答速度が低下するものの、電圧無印加状態への移行後におけるpn接合の維持時間(pn接合状態の寿命時間)をより長くすることが可能となる。
【0142】
<6.適用例>
続いて、上記第1〜第3の実施の形態および変形例1〜4に係るイオン性素子(イオン性素子1,1A〜1E)およびイオン性素子モジュール2の電子機器への適用例について説明する。
【0143】
[適用例1]
図42は、適用例1に係る電子機器(携帯型照明器具3)の構成例を、模式的に斜視図で表したものである。この携帯型照明器具3は、筺体内に、1または複数のイオン性素子1(またはイオン性素子1A〜1E)、あるいは、1または複数のイオン性素子モジュール2を内蔵したものであり、光出射口30から発光光Loutを出射する機能を有している。
【0144】
具体的には、前述した蓄電機能およびpn接合の形成を利用して、電圧無印加状態への移行後もある程度の時間は、発光光Loutの発光動作を行うことが可能となっている。このようにして携帯型照明器具3では、例えば非常用の懐中電灯のような機能が、非常に小型かつ簡易な構成で実現可能となっている。
【0145】
なお、
図42は、筐体の側面に光出射口30が設けられている場合の例であるが、これには限られず、例えば筐体の上面または下面に光出射口30が設けられているようにしてもよい。この場合、電極111や電極112をITO等からなる透明電極とすればよい。
【0146】
[適用例2]
図43は、適用例2に係る電子機器(携帯型充電器4)の構成例を、模式的に表したものである。この携帯型充電器4もまた、筺体内に、1または複数のイオン性素子1(またはイオン性素子1A〜1E)、あるいは、1または複数のイオン性素子モジュール2を内蔵したものである。そして、携帯型充電器4は、光入射口40から入射光Linを入射すると共にこの入射光Linの光電変換により得られた電力Poutを外部へ出力する機能を有している。
【0147】
具体的には、前述した蓄電機能およびpn接合の形成を利用して、電圧無印加状態への移行後もある程度の時間は、入射光Linの光電変換を利用した発電動作を行うことが可能となっている。したがって、例えば
図43に示したように、この光電変換により得られた電力Poutをコネクタ41を介して各種のモバイル機器5に充電するといった用途が実現可能となる。なお、ここでは、コネクタ41を介した電力供給(有線による電力供給)の場合を例に挙げて説明したが、例えば、磁界等を用いた非接触給電(ワイヤレス給電)を行うようにしてもよい。このようにして携帯型充電器4では、例えば非常用の充電器のような機能が、非常に小型かつ簡易な構成で実現可能となっている。
【0148】
<7.その他の変形例>
以上、いくつかの実施の形態、変形例および適用例等を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0149】
例えば、上記実施の形態等において説明した各層および各部材の材料等は限定されるものではなく、他の材料としてもよい。具体的には、例えば電解質を構成する分子については、イオンの移動度の抑制構造を有するものであればよく、上記実施の形態等で説明した分子には限られない。また、場合によっては、電解質を構成する分子が、イオンの移動度の抑制構造を有さないようにしてもよい。更に、例えばイオン層における電解質と多孔質材との混合比についても、上記実施の形態等で説明した混合比には限られない。
【0150】
また、上記実施の形態等では、イオン性素子の素子構造を具体的に挙げて説明したが、これらの構造には限られず、他の素子構造としてもよい。具体的には、例えば、電極の数は2つには限られず、複数(2以上)であれば任意の数の電極を設けるようにしてもよい。また、第2の実施の形態およびその変形例において説明したスタータ機構の構成についても、これらで説明したものには限られず、他の構成でスタータ機構を実現するようにしてもよい。更に、このようなスタータ機構の配置位置についても、第2の実施の形態およびその変形例において説明した配置位置には限られず、他の配置位置(例えば、略等方的または等方的ではない局所的な配置位置)であってもよい。加えて、場合によっては、
図11に示した他の構成例に係るイオン性素子を、本発明に適用するようにしてもよい。
【0151】
更に、上記実施の形態等では、イオン性素子の製造方法および駆動方法について具体的に挙げて説明したが、これらの製造方法や駆動方法には限られず、他の手法を用いるようにしてもよい。
【0152】
加えて、上記実施の形態等では、イオン性素子(イオン層)が、蓄電機能、発光機能および発電機能の各機能を有する場合について説明したが、この場合には限られない。すなわち、蓄電機能および発光機能を少なくとも有するようにすればよく、例えば、発電機能については場合によっては有さないようにしてもよい。
【0153】
また、上記実施の形態等では、本発明のイオン性素子の適用例に係る電子機器として、携帯型照明器具および携帯型充電器を例に挙げて説明したが、電子機器の例としてはこれらには限られない。すなわち、本発明のイオン性素子は、他の様々な電子機器(蓄電機能および発光機能を少なくとも利用した電子機器)にも適用することが可能である。
【0154】
更に、本発明では、これまでに説明した内容を、任意の組み合わせで適用することも可能である。