(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する
焼成治具用多孔質セラミックス
(以下、「多孔質セラミックス」と省略して記載する)、
焼成治具用多孔質セラミックスの製造方法
(以下、「多孔質セラミックスの製造方法」と省略して記載する)および冷却装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施形態に係る多孔質セラミックスは、ゲル化、凍結、乾燥、脱脂および焼成の各工程を含む製造方法により作製することができる点で従来の多孔質セラミックスと共通する。一方、実施形態に係る多孔質セラミックスの製造方法では、凍結工程において適用される冷却装置を変更することにより、従来とは異なる特長を有する多孔質セラミックスが形成される。以下では、まず、実施形態に係る多孔質セラミックスの製造方法について説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る多孔質セラミックスの製造方法の概要を説明する説明図である。なお、
図1では、上述した製造工程のうち、左から順にゲル化、凍結、および焼成の各工程を図示し、乾燥、脱脂の各工程に対応する図示は省略する。
【0013】
まず、ゲル化工程について説明する。ゲル化工程は、セラミックス粒子1と、水溶性高分子2と、水3と、を含み、セラミックス粒子1が水溶性高分子2の水溶液中に均一に分散された懸濁体(スラリー)を、ここでは図示しない型に入れてゲル化させる工程である。懸濁体のゲル化により、セラミックス粒子1が水溶性高分子2の水溶液中に分散された状態で一時的に固定された構造体(ゲル化体)4が形成される。なお、懸濁体をゲル化させてゲル化体4を生成するための型の構成については
図3A、3Bを用いて後述する。
【0014】
次に、凍結工程について説明する。凍結工程は、ゲル化体4を冷却して凍結体6を生成する工程である。ゲル化体4を冷却すると、水溶性高分子2の水溶液から分離した水3が氷5に状態変化し、結晶構造を形成しながら成長する。その結果、セラミックス粒子1と、水溶性高分子2の水溶液がゲル化した部分(図示せず)と、結晶化した氷5の部分とを含む凍結体6が得られる。
【0015】
ここで、冷却装置12をゲル化体4の下面7側に配置してゲル化体4を一方側から冷却すると、ゲル化体4中の水3が下面7側から凍結して氷5に状態変化し、この氷5の結晶が下面7側から上面8側に向かって成長しようとする。そして、氷5の結晶が成長する際には、セラミックス粒子1を移動させるのに十分な程度の押圧力が作用する。このため、氷5の結晶が成長しようとする方向にセラミックス粒子1が存在すると、ゲル化により一時的に固定されていたセラミックス粒子1は、成長する氷5の結晶の周囲に排除されるように移動する。
【0016】
すなわち、冷却装置12を用いてゲル化体4を一方向から冷却すると、一方向側から他方向側に柱状に成長した氷5の結晶を囲むようにセラミックス粒子1が再配列され、これによりセラミックス粒子1の分布に粗密が生じた凍結体6が生成されると考えられる。例えば、ゲル化体4を冷却するための冷媒を所望する温度で安定的に保持することができる冷却装置12を適用すると、ゲル化体4を均質に凍結させることができる。すなわち、かかる冷却装置12によりゲル化体4を冷却すると、下面7側から上面8側まで全面にわたり同程度の温度および速度で凍結が進み、同程度の大きさを有する複数の氷5の結晶が下面7側から上面8側に向かって成長した凍結体6が生成される。なお、かかる冷却装置12の詳細な構成については、
図2A、2Bを用いて後述する。
【0017】
次に、乾燥工程について説明する。乾燥工程は、凍結体6に成長した氷5を除去して気孔10を生成する工程である。氷5が成長した凍結体6を、例えば真空乾燥により乾燥させると、氷5の結晶が昇華して消失し、代わりに気孔10が形成される。すなわち、乾燥工程は、氷5を気孔10に置換する工程である。
【0018】
次に、脱脂工程について説明する。脱脂工程は、乾燥工程において気孔10を生成した凍結体6から水溶性高分子2等の有機成分を除去する工程である。具体的には、セラミックス粒子1の種類に応じて、予め定められた温度条件下で水溶性高分子2等の有機成分を分解して除去する処理を実行する。
【0019】
最後に、焼成工程について説明する。焼成工程は、氷5および水溶性高分子2等の有機成分が除去され、気孔10が形成された凍結体6を焼成して多孔質セラミックス11を作製する工程である。焼成により得られる多孔質セラミックス11は、上述した乾燥工程において形成された気孔10と、気孔10を囲むようにセラミックス粒子1同士が結合して緻密化したセラミックス骨格9とを有する。
【0020】
このように、実施形態に係る多孔質セラミックス11の製造方法によれば、冷却装置12を用いることで凍結体6に生成された氷5の形状に基づき、下面7側から上面8側に向かって一方向に配向する筒状の気孔10の周囲にセラミックス骨格9が形成された多孔質セラミックス11が生成される。ここで、気孔10が「一方向に配向する」とは、気孔10の平均アスペクト比が2.0以上、好ましくは3.5以上であることをいう。なお、気孔10の平均アスペクト比は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0021】
ところで、上述した凍結工程において、従来、
図8に示すような所望する温度に冷媒を冷却することができる冷却装置12aを適用し、ゲル化体を冷却して凍結体を生成する場合があった。しかしながら、従来の冷却装置12aは、気孔径のばらつきの少ない多孔質セラミックスを製造するという観点においては必ずしも十分な構成ではなかった。以下では、上述した凍結工程において好適に適用することができる冷却装置12の一例について、従来の冷却装置12aと比較しながら説明する。
【0022】
まず、従来の冷却装置12aについて説明する。
図8は、従来の冷却装置12aの構成の概要を示す図である。なお、
図8および後述する
図2A、2Bでは、説明に必要な構成要素をごく模式的に示している。
【0023】
また、説明を分かりやすくするために、
図8および後述する
図2A、2Bには、鉛直上向きを正方向とし、鉛直下向きを負方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、後述の説明に用いる他の図面でも示す場合がある。なお、
図8における冷却装置12aの視点は、後述する
図2Bにおける冷却装置12の視点に対応している。
【0024】
図8に示す冷却装置12aは、冷却槽13aと冷媒調整部15aとを備える。冷却槽13aと冷媒調整部15aとの間には、冷媒供給口26および冷媒排出口27が隣接して配置されており、冷却槽13aと冷媒調整部15aとの間を冷媒17aが循環するように流通できるよう構成されている。
【0025】
また、冷却槽13aには、型23aに入ったゲル化体4aが配置されている。そして、型23aの底部は、冷媒17aの液面と接触するように支持されている。
【0026】
ここで、冷媒調整部15aに配置されたプロペラ20aを回転させると、所望する温度となるように冷却された冷媒17aが冷媒供給口26を介して冷媒調整部15aから冷却槽13aに供給され、ゲル化体4aを下面7側から冷却する。ゲル化体4aを冷却することで昇温された冷媒17aは、主として冷却槽13aの内壁に添うように向きを変えながらXY平面方向に流動し、冷媒排出口27を介して冷却槽13aから冷媒調整部15aに戻される。
【0027】
かかる構成を有する冷却装置12aでは、上述したように冷媒17aは冷却槽13aの内壁に添うように水平方向に流動することで循環する。ここで、例えば冷媒供給口26から冷却槽13a内に向かって流動する冷媒17aは、冷媒17aの流れ方向が大きく屈曲する冷却槽13aの隅の部分で冷媒17aの流れに淀みが生じ易くなる。そして、冷却槽13aにおける冷媒17aの流れに淀みが生じると、冷媒17aの流速が遅くなることで局所的に凍結能力が減少し、結果として気孔径のばらつきが多い多孔質セラミックスが作製される懸念がある。
【0028】
一方、冷却槽13a内での冷媒17aの淀みを防止するためにプロペラ20aの回転速度を変更して冷媒17aの流速を上昇させると、冷媒17aが波打つことで冷媒17aの液面に高低差が生じ易くなる。そして、冷媒17aの液面に高低差が生じると、例えば型23aの底部と冷媒17aの液面とが一時的に非接触となることでゲル化体4aを均質に冷却することができず、結果として気孔径のばらつきが多い多孔質セラミックスが作製される懸念がある。
【0029】
このように、従来の冷却装置12aを適用すると、ゲル化体4aを適切に冷却することができずに気孔径のばらつきが多い多孔質セラミックスが作製される懸念があった。かかる気孔径のばらつきは、淀みが生じ易い冷却槽13aの隅の部分にまでゲル化体4aが配置される、例えば冷却槽13aの寸法に相当するような比較的大型の型23aを使用する場合において特に顕著となる。
【0030】
これに対し、実施形態に係る冷却装置12では、冷却槽13全体にわたり冷媒17を適切に流動させることができ、ゲル化体4を均質に冷却させることができる。このため、冷却槽13内に配置可能ないかなる大きさの型23を使用してゲル化体4を凍結させる場合であっても、気孔径のばらつきが少ない多孔質セラミックス11を作製することができる。かかる冷却装置12の一例について、
図2A、2Bを用いて以下に説明する。
【0031】
図2Aは、実施形態に係る冷却装置12の構成の概要を示す側断面図、
図2Bは、
図2Aに示す冷却装置12のA−A’線断面図である。
【0032】
実施形態に係る冷却装置12は、冷却槽13と、冷媒調整部15と、仕切板25とを備える。ゲル化体4が入った型23は、冷却槽13の上方に開口する開口部分から底板21がゲル化体支持部14a,14bに支持されるように配置される。ここで、凍結体6を適切に生成することができる型23の一例について、
図3A、3Bを用いて説明する。
【0033】
図3Aは、実施形態に係る多孔質セラミックス11の製造方法における上述したゲル化および凍結の各工程において好適に使用することができる型23の構成の概要を示す側断面図、
図3Bは、
図3Aに示す型23のB−B’線断面図である。
【0034】
図示されるように、型23は底板21および周壁22を備える。底板21は、周壁22の端面と密着してゲル化体4の下面7の形状を規定する内面21aと、ゲル化体支持部14a,14b上に配置されて冷媒17に接触する外面21bとを有する。一方、周壁22は、ゲル化体4の外周形状を規定する内周面22aを有する。そして、底板21の外面21bが冷媒17に接触または浸漬することにより、ゲル化体4は底板21を介して下面7から順次冷却されて凍結体6となる。
【0035】
ここで、型23の材質
は、ステンレス鋼、鉄、銅またはアルミニウム
であり、好ましくはステンレス鋼である。また、底板21および周壁22の材質は同じであっても良く、また異なっていても良い。
【0036】
また、底板21の厚みt
1および周壁22の厚みt
2は同じであっても良く、また異なっていても良いが、実用上、厚みt
1およびt
2は同じであることが好ましい。また、厚みt
1およびt
2は2mm以上であることが好ましく、実用上2〜10mmが好ましい。底板21の厚みt
1が2mm未満だと、冷媒17の温度に局所的に高低差があった場合には、この冷媒の「温度ムラ」がゲル化体4にダイレクトに伝導されてしまい、ゲル化体4を均質に冷却させることができない懸念がある。また、周壁22の厚みt
2が2mm未満だと、周壁22に近いゲル化体4の外側と周壁22から遠いゲル化体4の外側とで冷却速度にばらつきが生じ、ゲル化体4を均質に冷却させることができない懸念がある。
【0037】
また、ゲル化体4の大きさは冷却槽13内に収容できる大きさであれば制限はないが、より好ましくは水平方向の寸法が135mm×135mm以上1000mm×1000mm以下、すなわち面積換算で18225mm
2以上10
6mm
2以下とされる。かかる場合、焼成後に得られる多孔質セラミックス11の水平方向の寸法は概ね100mm×100mm以上740mm×740mm以下、すなわち面積換算で10
4mm
2以上547600mm
2以下となる。ゲル化体4の水平方向の寸法が18225mm
2未満、あるいは焼成後の多孔質セラミックス11の水平方向の寸法が10
4mm
2未満だと、従来の冷却装置12aを適用して凍結体6を生成した場合との気孔径のばらつきの差異が顕著に表れないことがある。一方、ゲル化体4の水平方向の寸法が10
6mm
2超、あるいは焼成後の多孔質セラミックス11の水平方向の寸法が547600mm
2超だと、冷却装置12における攪拌機構の能力上の制約により、ゲル化体4の下面側を均質に冷却させることができない懸念がある。
【0038】
図2A、2Bに戻り、実施形態に係る冷却装置12についてさらに説明する。冷媒調整部15には、シャフト19の下端部分に取り付けられたプロペラ20が冷媒17に浸漬するように配置されている。
【0039】
また、仕切板25は、冷媒調整部15内のシャフト19およびプロペラ20と干渉しないように構成されている。仕切板25はまた、略水平方向に延びるように構成されており、仕切板25を挟んで上下で冷媒17をそれぞれ略水平方向に流通させることができる。かかる仕切板25は冷却槽13内に終端25aを有し、仕切板25は冷却槽13の全体を覆うことなく冷却槽13内で途切れることにより一部が開口している。
【0040】
制御部24により駆動制御されたモータ18がプロペラ20をシャフト19と共に回転させると、冷媒17は仕切板25の上下を互いに異なる方向に流動する。かかる冷媒17は、冷凍機16に接続された図示しないフィンを介して熱交換され、所望する温度で保持されつつ仕切板25の上側を通じて冷却槽13に順次送られる。そして、冷却槽13に送られた冷媒17は、仕切板25の終端25aよりも奥、すなわち冷媒調整部15から離れた部分で鉛直下向きに潜り込むように流動する。その後、冷媒17は仕切板25の下側を通じて冷媒調整部15側に送られることで冷却装置12内を循環することができる。
【0041】
かかる構成を備える冷却装置12によれば、冷却槽13の全面にわたり、型23が配置された冷媒17の表層部分において冷媒17の液面を波打たせたり冷媒17の流動を淀ませたりすることなく、冷媒17を絶えず流動させることができる。そして、ゲル化体支持部14a,14b上に載置されたゲル化体4は型23の底板21側から均質に冷却される。ここで、「冷媒17の表層部分」とは、冷媒17の液面を含み、型23の底板21が浸漬した部分よりも上方をいう。
【0042】
なお、冷却装置12で使用する冷媒17としては、凝固温度が低く、ゲル化体4を凍結させるために所望する温度まで液状であるものであれば特に制限はない。具体的には、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。なお、これらの冷媒17を単独で、あるいは複数種類併用し、また必要に応じて水と混和させて使用することができる。
【0043】
また、冷媒17の液量は、底板21が冷媒17の液面に接触し、あるいは底板21の一部または全体が冷媒17に浸漬するように調整される。なお、ゲル化体4のより均質な凍結の観点から、冷媒17の液面は周壁22には接触しない、すなわち底板21の内面21aの高さを超える高さにまで到達しない高さとなるように調整されることが好ましい。
【0044】
実施形態に係る多孔質セラミックス11の製造方法において、セラミックス粒子1は、焼成工程において適切に焼成可能なものであれば特に制限はない。具体的には、例えば、ジルコニア、アルミナ、シリカ、チタニア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、コーディエライト、ハイドロキシアパタイト、サイアロン、ジルコン、チタン酸アルミニウム、およびムライトのうち1種以上をセラミックス粒子1として適用できるが、これらに限定されない。また、例えば、アルミナおよびシリカを適用してムライトを作製したり、ジルコニアおよびアルミナを適用して複合体を作製したりといった、所望する特性に応じて複数のセラミックス粒子1を組み合わせて使用することができる。
【0045】
また、セラミックス粒子1は、実用上、平均粒径が100μm以下のものが好ましい。セラミックス粒子1の平均粒径が100μmを超えると、所望する多孔質セラミックス11の形状や大きさによってはセラミックス粒子1の適切な焼成が困難な場合がある。ここで、「平均粒径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置(湿式法)において、球相当径に換算した体積基準の粒度分布に基づいて得られたメジアン径(d50)を指す。なお、同じ結果を得られるものであれば、測定方法に制限はない。
【0046】
懸濁体中のセラミックス粒子1の配合量は、1〜50vol%の範囲が好ましく、より好ましくは1〜30vol%である。セラミックス粒子1の配合量が1vol%未満だと、例えば乾燥工程において形状を維持することができない場合があり、また、所望の強度を有する多孔質セラミックス11を製作することが困難となる。また、セラミックス粒子1の配合量が50vol%を超えると、得られる多孔質セラミックス11は気孔率が低くなり、多孔体として所望される特徴を十分に示さない場合がある。ここで、「気孔率」とは、JISR1634:2008に規定する手法に基づき、アルキメデス法により得られた値をいう。かかる測定では、閉気孔は考慮されないため、「見掛け気孔率」とも呼ばれる。なお、本実施形態では、閉気孔はほとんど形成されないため、この「見掛け気孔率」を「気孔率」として取り扱うことができる。
【0047】
また、水溶性高分子2としては、ゲル化工程から乾燥工程までセラミックス粒子1の分散を安定的に保持することができるものであればその種類に制限はない。具体的には、例えば、N−アルキルアミド系高分子、N−イソプロピルアクリルアミド系高分子、スルホメチル化アクリルアミド系高分子、N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド系高分子、ポリアルキルアクリルアミド系高分子、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、ポリエチレンイミン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、デンプン、ゼラチン、寒天、ペクチン、グルコマンナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カラギーナンガム、グァーガム、およびジェランガムのうち1種または2種以上を水溶性高分子2として適用できるが、これらに限定されない。
【0048】
また、懸濁体中の水溶性高分子2の配合量は、ゲル化工程から乾燥工程までセラミックス粒子1の分散を安定的に保持することができる程度であれば制限はない。具体的には、例えば、100質量%の水3に対して、水溶性高分子2を0.5〜10質量%の割合で配合することが好ましい。水溶性高分子2の配合量が0.5質量%未満だと、例えば乾燥工程において形状を維持することができず、所望の強度を有する多孔質セラミックス11を製作することが困難となる場合がある。一方、水溶性高分子2の配合量が10質量%を超えると、水3への溶解が不十分となり、懸濁体としての均一な攪拌・混合が困難となる場合がある。
【0049】
なお、懸濁体中へのセラミックス粒子1の均一な分散を容易にするために、セラミックス粒子1の種類に応じた分散剤を適用しても良い。また、セラミックス粒子1を適切に焼成させるために、懸濁体にセラミックス粒子1の種類に応じた焼成助剤を配合しても良い。また、懸濁体を適切にゲル化させるために、必要であれば水溶性高分子2の種類に応じたpH調整剤や開始剤、架橋剤、増粘剤などの各種添加剤を添加しても良い。
【0050】
また、凍結工程におけるゲル化体4の凍結温度は、ゲル化体4中の水3が凍結して氷5を生成することが可能な程度であれば制限はない。なお、水溶性高分子2の種類によっては、水溶性高分子2と水3との相互作用により−10℃以上ではゲル化体4が凍結しない場合があるため、−10℃以下の凍結温度が好ましい。
【0051】
また、乾燥工程において、凍結体6の内外の乾燥速度の差を抑制しながら、徐々に氷5を気孔10に置換することにより亀裂を防ぐ乾燥手法を利用することが可能である。具体的には、凍結体6を凍結乾燥、あるいは水溶性有機溶剤や水溶性有機溶剤水溶液中への浸漬と風乾により、氷5を気孔10に置換することができる。
【0052】
例えば、凍結体6を水溶性有機溶剤や水溶性有機溶剤水溶液中に浸漬すると、凍結体6中の氷5は融解し、水溶性有機溶剤と混合される。かかる操作を1回または複数回実行することにより、まず、凍結体6中の氷5であった部分は水溶性有機溶剤に置換される。その後、凍結体6内部が水溶性有機溶剤で置換された凍結体6を、大気中または減圧条件下において乾燥させると、凍結工程において氷5であった部分が気孔10に置換される。
【0053】
水溶性有機溶剤を利用した乾燥工程において、水溶性有機溶剤としては、水溶性高分子2を浸食せず、かつ水3よりも揮発性が高いものが適用される。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸エチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの水溶性有機溶剤を単独で、あるいは複数種類併用した乾燥を1回または複数回実行することにより、凍結体6内で氷5であった部分に、気孔10が形成される。
【0054】
また、脱脂工程において、例えば300℃〜900℃の脱脂温度が適用される。ここで、例えば、炭化珪素、窒化珪素などの非酸化物セラミックスを脱脂する場合には、アルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気下で脱脂をすることが好ましい。これに対し、例えば、アルミナ、ジルコニア、アパタイトなどの酸化物セラミックスを原料とする場合には、大気雰囲気下で脱脂をすることが好ましい。
【0055】
そして、焼成工程では、使用するセラミックス粒子1の種類や配合量、目標とする強度等に応じて、焼成温度、焼成時間および焼成雰囲気が適宜調整されることにより、気孔径のばらつきが少ない多孔質セラミックス11が作製される。
【0056】
このようにして得られる多孔質セラミックス11の構成について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施形態に係る多孔質セラミックス11の模式図である。
【0057】
図4に示すように、実施形態に係る多孔質セラミックス11は、気孔10の平均アスペクト比が2.0以上、好ましくは3.5以上となるように形成される。このような平均アスペクト比を有する気孔10は、例えば、互いに向かい合う一方の面f
1から他方の面f
2に向かって一方向に配向するように形成される。
【0058】
また、実施形態に係る多孔質セラミックス11は、気孔径のばらつきが130%以下であり、好ましくは85%以下である。気孔径のばらつきが130%を超えると、例えば、粗大な気孔を含むことで局所的に機械的強度が低い箇所が生じ、取扱い上の不具合が生じることがある。また、気孔径がばらつくことで濾過特性がばらつくため、例えばフィルタ用途での使用において不具合が生じる懸念がある。なお、気孔径のばらつきは、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0059】
また、実施形態に係る多孔質セラミックス11は、平均気孔径が1μm〜500μmであることが実用上好ましく、より好ましくは12μm〜102μmである。なお、平均気孔径は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0060】
また、実施形態に係る多孔質セラミックス11の気孔率は、50%〜99%の範囲が好ましく、より好ましくは70%〜99%である。多孔質セラミックス11の気孔率が50%未満だと、実施形態に係る多孔質セラミックス11の製造方法を用いる必要性が低減する。また、多孔質セラミックス11の気孔率が99%を超えると、例えば乾燥工程において形状を維持することができない場合があり、また、所望の強度を有する多孔質セラミックス11を製作することが困難となる。
【0061】
次に、実施形態に係る多孔質セラミックス11を製造する方法について、
図7を用いて詳細に説明する。
図7は、実施形態に係る多孔質セラミックス11を製造する処理手順を示すフローチャートである。
【0062】
図7に示すように、まず、セラミックス粒子1と、水溶性高分子2と、水3とを混合して懸濁体を調製する(ステップS101)。焼成助剤やpH調整剤、開始剤、架橋剤などの各種添加剤は、このタイミングで添加すると良い。なお、水溶性高分子2は、セラミックス粒子1と混合する前に予め水3と混合して水溶液としたものを使用しても良く、また、水溶性高分子2とセラミックス粒子1とを予め混合したものを攪拌中の水3に添加しても良い。そして、分散剤を使用する場合には、セラミックス粒子1と予め混合しておくことが好ましい。
【0063】
続いて、ステップS101において調製した懸濁体をゲル化させてゲル化体4を形成する(ステップS102)。懸濁体のゲル化を促進させるために、必要であれば懸濁体を加熱しても良い。
【0064】
次に、実施形態に係る冷却装置12を用いてゲル化体4を凍結させて氷5の結晶が一方向に成長した凍結体6を生成する(ステップS103)。続いて、凍結体6を乾燥させて凍結体6に成長した氷5を除去し、気孔10を生成する(ステップS104)。
【0065】
さらに、氷5が除去されて気孔10が生成された凍結体6から水溶性高分子2等の有機成分を除去する脱脂を行い(ステップS105)、引き続いて焼成を行う(S106)。以上の各工程により、実施形態に係る一連の多孔質セラミックス11の製造が終了する。
【0066】
上述してきたように、実施形態に係る多孔質セラミックスの製造方法は、ゲル化工程と、凍結工程と、焼成工程とを含む。ゲル化工程は、セラミックス粒子と、水溶性高分子と、水とを含む懸濁体を
、ステンレス鋼、鉄、銅またはアルミニウム製の型に入れてゲル化させたゲル化体を生成する工程である。凍結工程は、ゲル化体を凍結させて凍結体を生成する工程である。乾燥工程は、凍結体に成長した氷を除去して気孔を生成する工程である。焼成工程は、氷が除去された凍結体を焼成する工程である。凍結工程は、対面する一方の側から他方の側に表層部分が流動する冷媒にゲル化体の入った型の底板を接触させてゲル化体の下面側から凍結させる工程である。
【0067】
したがって、実施形態に係る多孔質セラミックスの製造方法によれば、気孔径のばらつきが少ない多孔質セラミックスを作製することができる。
【0068】
ところで、実施形態に係る多孔質セラミックスが気孔径のばらつきが少ないことによる利点としては、例えば、以下のことが挙げられる。
【0069】
まず、実施形態に係る多孔質セラミックスは、気孔径のばらつきが少なく、機械的強度にばらつきが生じ難いので、局所的に機械的強度が劣ることによる使用上の不具合を低減することができる。また、実施形態に係る多孔質セラミックスを例えばフィルタとして利用すると、気孔径のばらつきが少ないことで濾過特性が安定する。かかる用途の場合には、一方向に配向した気孔を有することが好ましい。
【0070】
さらに、実施形態に係る多孔質セラミックスを、例えば積層セラミックスコンデンサなどの電子部品を載せて窯炉内で焼成するための焼成治具(例えば、セッター、さや(匣鉢)またはラックなど)として利用すると、電子部品焼成時の脱脂効果がほぼ均等になり、窯炉内の配置によらず焼成した電子部品の諸物性が安定する。かかる用途の場合、上面から下面に向かって一方向に配向するように形成された気孔を有する多孔質セラミックスを適用することが好ましい。
【0071】
なお、上述した実施形態では、冷却装置12は型23をゲル化体支持部14a,14bに直接配置する構成として説明したが、かかる構成に限定されない。例えば、網状の、または複数の開口を有するカゴまたは棚の上に型23を静置し、このカゴまたは棚をゲル化体支持部14a,14bに支持されるように配置する構成としても良い。
【0072】
また、上述した実施形態では、冷却装置12における冷媒17は仕切板25の上側を冷媒調整部15から冷却槽13に送られ、仕切板25の終端25aよりも奥で鉛直下向きに潜り込むように流動し、次いで仕切板25の下側を冷却槽13から冷媒調整部15に送られる構成として説明したが、かかる構成に限定されない。すなわち、冷媒17が仕切板25の下側を冷媒調整部15から冷却槽13に送られ、仕切板25の終端25aよりも奥で鉛直上向きに湧き出るように流動し、次いで仕切板25の上側を冷却槽13から冷媒調整部15に送られる構成としても良い。
【0073】
また、上述した実施形態では、脱脂工程(ステップS105)は必須の工程として説明したが、水溶性高分子2の種類および配合量によっては省略しても良い。かかる場合、水溶性高分子2は焼成工程(ステップS106)において分解、除去される。
【実施例】
【0074】
(実施例1)
平均粒径0.5μmのアルミナ粒子(セラミックス粒子1に対応)10vol%と、水90.0vol%とを混合した。これにゼラチン(水溶性高分子2に対応)3.0質量%(水3に対して)を添加して調製した懸濁体を銅製の型23に入れ、5℃の冷蔵庫内に静置し、ゲル化体4を得た。
【0075】
次に、ゲル化体4の入った型23を、冷媒17として−35℃のエタノールを適用した冷却装置12で冷却し、凍結体6を生成させた。続いて凍結体6を型23から取り出し、凍結乾燥装置で24時間乾燥した。さらに、大気雰囲気下の電気炉にて600℃で2時間脱脂した後、1600℃で2時間焼成することにより、鉛直方向の厚さc=9mmの多孔質セラミックス11が得られ、さらに水平方向の幅を均等に揃える加工を施す事により、a×b×c=100mm×100mm×9mmとした(
図6参照)。なお、加工を施す前の多孔質セラミックス11の水平方向の幅a×bは、(104〜106)mm×(104〜106)mm程度となる。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。また、本実施例で作製した多孔質セラミックス11の部分縦断面図を
図5Aに示す。
【0076】
ここで、多孔質セラミックス11の「気孔10のアスペクト比」は、
図5Aに示す部分縦断面図の画像解析に基づいて算出することができる。すなわち、気孔10の断面部を楕円体に近似し、面積、長径および短径を測定したときの長径から短径を除した値を「気孔10のアスペクト比」という。そして、任意に選択した50個の気孔10のアスペクト比の平均値を、「気孔10の平均アスペクト比」と規定する。
【0077】
また、多孔質セラミックス11の「平均気孔径」および「気孔径のばらつき」は、次のようにして算出した。まず、作製された多孔質セラミックス11を、
図6に示すように幅a
1×b
1=15mm×15mm、厚さc=9mmの試料片として中央(α)と端部(β、γ、δ、ε)の計5ヶ所からそれぞれ切り出した。次に、この5つの試料片についてそれぞれ平均気孔径を算出した。ここで、各試料片の「平均気孔径」とは、接触角140度で水銀圧入法を用いて各試料片についてそれぞれ測定し、気孔10を円柱近似した際の気孔分布に基づいて得られたメジアン径(d50)をいう。
【0078】
そして、各平均気孔径のうち、最大値と最小値との差を求め、この値((最大値)−(最小値))を各平均気孔径の平均値で除した値の百分率を「気孔径のばらつき」(%)とした。また、試料片ごとに得られた平均気孔径の平均値を、多孔質セラミックス11の「平均気孔径」と規定する。
【0079】
(実施例2)
型23の厚みを変更したことを除き、実施例1と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。
【0080】
(実施例3)
型23の材質をアルミニウム(Al)に変更したことを除き、実施例2と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。
【0081】
(実施例4)
型23の材質をステンレス鋼(SUS)に変更したことを除き、実施例2と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。
【0082】
(実施例5)
型23の材質および厚みを変更したことを除き、実施例1と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。
【0083】
(実施例6)
エタノールの温度を−20℃としたことを除き、実施例4と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。
【0084】
(実施例7)
エタノールの温度を−10℃としたことを除き、実施例1と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。
【0085】
(実施例8)
セラミックス粒子1として平均粒径0.7μmのイットリア完全安定化ジルコニア粒子を使用したことを除き、実施例1と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。また、本実施例で作製した多孔質セラミックス11の部分縦断面図を
図5Bに示す。
【0086】
(比較例1)
冷却装置12を冷却装置12aに変更したことを除き、実施例1と同様にして多孔質セラミックス11を得た。得られた多孔質セラミックス11の気孔率、気孔10の平均アスペクト比、平均気孔径、および気孔径のばらつきを、型23の厚みおよび材質と共に表1に示す。
【0087】
実施例および比較例において使用した冷媒17の温度、型23の厚みおよび材質、ならびに作製した多孔質セラミックス11について、表1にまとめて示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されるように、実施例1〜8のように作製された多孔質セラミックス11はいずれも、気孔10の平均アスペクト比が3.5以上であり、互いに向かい合う一方の面から他方の面に向かって一方向に配向するように気孔10が形成されている(
図5A、5B参照)。また、実施例1〜8のように作製された多孔質セラミックス11ではいずれも、適用する冷却装置12が比較例1とは相違することに起因して、気孔径のばらつきが86%以下と少ない気孔10が形成されたことがわかる。
【0090】
また、実施例1および2を比較すると、型23の厚みが大きい方が気孔径のばらつきが小さくなることがわかる。この理由は、型23の厚みが大きいと、冷媒17の温度に局所的に高低差があった場合であっても、型23の底板21がこの冷媒の「温度ムラ」を緩衝し、底板21の内面21a側の温度を均質化させてゲル化体4側に伝えられるためであると考えられる。
【0091】
また、実施例2〜4を比較すると、型23としてステンレス鋼を適用した場合に気孔径のばらつきが最も小さくなることがわかる。この理由としては、例えば、ステンレス鋼の方が、他の物質(銅およびアルミニウム)よりも単位体積当たりの比熱が大きいことに起因して冷媒17のごく局所的な温度差をも型23に伝達させにくいためであると解釈することができる。
【0092】
なお、上述において、ゲル化体4およびこのゲル化体4から凍結体6を経て作製される多孔質セラミックス11の形状は直方体、すなわち四角柱として説明したが、これに限定されるものではない。ゲル化体4および凍結体6を生成するための型23の、特に周壁22の形状を変更することにより、多孔質セラミックス11の形状を例えば三角柱、五角柱などの多角柱、円柱または楕円柱など自由に変更させることができる。
【0093】
また、作製された多孔質セラミックス11の形状に応じて、セラミックス粒子1の「平均気孔径」および「気孔径のばらつき」を測定するために試料片を切り出す位置および形状ならびに切り出す試験片の個数を自由に変更させることができる。
【0094】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。