(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267091
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】廃棄物処理炉の操業方法及び廃油または再生油の処理装置
(51)【国際特許分類】
C10L 1/32 20060101AFI20180115BHJP
F23K 5/12 20060101ALI20180115BHJP
F23G 7/05 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
C10L1/32 DZAB
F23K5/12
F23G7/05 M
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-202046(P2014-202046)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69569(P2016-69569A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中島 光一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義昭
(72)【発明者】
【氏名】永戸 敏博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎保
(72)【発明者】
【氏名】平松 優毅
【審査官】
大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−166178(JP,A)
【文献】
特開平10−236801(JP,A)
【文献】
実開昭57−185739(JP,U)
【文献】
特開2006−052884(JP,A)
【文献】
特開2007−054815(JP,A)
【文献】
特開平10−202228(JP,A)
【文献】
特開昭53−004376(JP,A)
【文献】
特開2002−275480(JP,A)
【文献】
特開昭60−202227(JP,A)
【文献】
特開昭51−025378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1
F23G 7
F23K 5
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃油または再生油を処理する方法であって、水を含む廃油または再生油を対象とし、該水を含む廃油または再生油に含まれる水と油を乳化させることにより、前記水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料とし、
前記エマルジョン燃料と、理論空気量の1.0〜1.3倍の燃焼用空気とを、廃棄された金属製スクラップを焼却するためのロータリーキルン炉である廃棄物処理炉内に送り込み、該エマルジョン燃料を前記廃棄物処理炉内での燃焼に用いる廃棄物処理炉の操業方法。
【請求項2】
前記水を含む廃油または再生油の乳化直前に含まれる水分の量を3質量%〜25質量%とする請求項1に記載の廃棄物処理炉の操業方法。
【請求項3】
前記廃油または再生油が、灯油、重油、潤滑油または絶縁油である請求項1または2に記載の廃棄物処理炉の操業方法。
【請求項4】
処理の対象とする前記水を含む廃油または再生油が、界面活性剤および/または乳化剤を含むものとする請求項1〜3のいずれか一項に記載の廃棄物処理炉の操業方法。
【請求項5】
水を含む廃油または再生油に含まれる水の量に応じて、前記水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料とした後に該エマルジョン燃料を前記廃棄物処理炉に供給すること、または、前記水を含む廃油または再生油を直接的に前記廃棄物処理炉に供給することを選択する請求項1〜4のいずれか一項に記載の廃棄物処理炉の操業方法。
【請求項6】
前記水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料とした後、該エマルジョン燃料を、前記廃棄物処理炉の燃料として用いるに先立って貯留させる請求項1〜5のいずれか一項に記載の廃棄物処理炉の操業方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の廃棄物処理炉の操業方法に用いる廃油または再生油の処理装置であって、
水を含む廃油または再生油を貯留させる廃油・再生油貯留タンクと、管路により前記廃油・再生油貯留タンクに連結されて、該廃油・再生油貯留タンクから送られる前記水を含む廃油または再生油からエマルジョン燃料を製造するエマルジョン燃料製造装置と、管路により前記エマルジョン燃料製造装置に連結されて、前記エマルジョン燃料製造装置で製造されたエマルジョン燃料を貯留させるエマルジョン燃料貯留タンクと、エマルジョン燃料貯留タンク内のエマルジョン燃料を前記廃棄物処理炉に送る燃料供給管路とを備える廃油または再生油の処理装置。
【請求項8】
前記廃油・再生油貯留タンク内の廃油または再生油を前記廃棄物処理炉に送る廃油・再生油供給管路をさらに備える請求項7に記載の廃油または再生油の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定の廃油または再生油を処理
して燃料として用いる廃棄物処理炉の操業方法
及び廃油または再生油の処理装置に関するものであり、特には、炉の操業に要する燃料の使用量を有効に削減することのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
内部で、たとえば、廃棄された電気・電子機器その他の金属製スクラップ等の焼却を行うロータリーキルン炉等に供給する燃料としては一般に、重油が用いられている。
【0003】
なおここで、近年は、環境保護等の観点から、たとえば特許文献1に示されるように、水と界面活性剤などの添加剤とを燃料油に添加し、これを機械的に撹拌することによって、油中に水を分散させたエマルジョン燃料を、ボイラー用の燃料として用いることが注目されている。
【0004】
このエマルジョン燃料は、水と油との乳化によって、水粒子の周囲を油粒子が取り囲む構造をなすものであり、燃焼に際しては、まず水を取り囲む油が燃焼し、そして油内の水が急激に沸騰・膨張することにより油が微粒子化し、それにより、空気との接触面積が飛躍的に増加して、理論空気量に近い空気量で完全燃焼することから燃焼効率が向上する。
しかもここでは、燃焼に要する空気が少なくなるので、冷たい空気の流入によって奪われる熱エネルギーを削減できるとともに、燃焼後の排ガス量が削減されることに起因する排熱量の削減により、使用燃料油の削減効果をも期待することができる。
【0005】
しかしながら、このようなエマルジョン燃料は、上記の効果と対比して、乳化に必要な添加剤に大きくコストが嵩むことが否めないので、通常の重油への水および添加剤の添加によって製造すると採算がとれず、それ故に、特に炉の操業に用いる燃料としては十分に実用化されるに至っていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−148866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、炉の燃料としては、使用済みの廃油をリサイクルするため、廃油または、廃油中の劣化生成物や混入異物を分離除去等して再生させた安価な再生油を用いることがあり、かかる廃油または再生油は、廃油それ自体に、または、廃油に対して所要の処理を施す過程で、比較的多くの水が混入している場合がある。なお、この再生油のうちの再生重油は、JIS K2170によれば、水分が5質量%以下のものと規定されている。
しかるに、このような水を含む廃油または再生油を、炉の燃料として用いるに当っては、それに含まれる水の量に応じて、予め水を取り除く必要があることから工数およびコストの増大を余儀なくされる。
【0008】
またこの場合は、油中の水が、不安定な燃焼状態や、過剰燃焼空気による燃焼効率の悪化を引き起こす等の悪影響を及ぼし、それにより、失火や火力不足や排ガス異常の操業トラブルや燃料使用量の増大を招くことがある。
【0009】
この発明は、このような問題の下、特に炉の操業コストに着目してなされたものであり、それの目的とするところは、水を含む廃油または再生油を炉の燃料として用いるに当り、燃焼効率を高めて炉の操業に要する燃料使用量を減らし、炉の操業コストの低減に寄与することのでき
る廃棄物処理炉の操業方法
及び廃油または再生油の処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、水を含む廃油または再生油を炉の燃料に用いる場合に、燃料使用量を削減することができないかどうかについて鋭意検討した結果、エマルジョン燃料の優れた燃焼効率に着目するとともに、水を含む廃油または再生油に、エマルジョン燃料を製造するために添加する必要のある水がそもそも含まれている点に着目した。
そして、エマルジョン燃料製造装置等を用いて、水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料とした後に、これを炉の燃料とすることにより、低廉な廃油または再生油を炉の操業に有効に用いることができることを見出した。
【0011】
このような知見に基づき、この発明の廃棄物処理炉の操業方法は、廃油または再生油を処理する方法であって、水を含む廃油または再生油を対象とし、該水を含む廃油または再生油に含まれる水と油を乳化させることにより、前記水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料とし、前記エマルジョン燃料と、理論空気量の1.0〜1.3倍の燃焼用空気とを、廃棄された金属製スクラップを焼却するための
ロータリーキルン炉である廃棄物処理炉内に送り込み、該エマルジョン燃料を前記廃棄物処理炉内での燃焼に用いることにある。
【0012】
ここで好ましくは、前記水を含む廃油または再生油の乳化直前に含まれる水分の量を、3質量%〜25質量%とする。ここでいう「乳化直前に含まれる水分の量」とは、エマルジョン燃料製造装置等に供給可能な状態における、水を含む廃油または再生油に含まれる水分の量を意味する。
【0013】
また好ましくは、前記廃油または再生油が、灯油、重油、潤滑油または絶縁油である。
そしてまた、処理の対象とする前記水を含む廃油または再生油が、界面活性剤または乳化剤を含むものとすることが好ましい。
【0014】
また、この発明の
廃棄物処理炉の操業方法では、水を含む廃油または再生油に含まれる水の量に応じて、前記水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料とした後に該エマルジョン燃料を
前記廃棄物処理炉に供給するか、または、前記水を含む廃油または再生油を直接的に
前記廃棄物処理炉に供給するかについて選択できるようにすることが好ましい。
なお、この
操業方法では、前記水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料とした後、該エマルジョン燃料を、
前記廃棄物処理炉の燃料として用いるに先立って、一定期間にわたって貯留させることができる。
【0015】
また、この発明の廃油または再生油の処理装置は、
上述したいずれかの廃棄物処理炉の操業方法に用いる廃油または再生油
の処
理装置であって、水を含む廃油または再生油を貯留させる廃油・再生油貯留タンクと、管路により前記廃油・再生油貯留タンクに連結されて、該廃油・再生油貯留タンクから送られる前記水を含む廃油または再生油からエマルジョン燃料を製造するエマルジョン燃料製造装置と、管路により前記エマルジョン燃料製造装置に連結されて、前記エマルジョン燃料製造装置で製造されたエマルジョン燃料を貯留させるエマルジョン燃料貯留タンクと、エマルジョン燃料貯留タンク内のエマルジョン燃料を
前記廃棄物処理炉に送る燃料供給管路とを備えるものである。
【0016】
この発明の廃油または再生油の処理装置は、前記廃油・再生油貯留タンク内の廃油または再生油を
前記廃棄物処理炉に送る廃油・再生油供給管路をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、エマルジョン燃料製造装置等を用いて、水を含む廃油または再生油にそもそも含まれる水と油を乳化させることにより、水を含む廃油または再生油を、優れた燃焼効率を発揮するエマルジョン燃料として、炉内での安定した燃焼に用いることから、操業トラブルを防止し、また燃焼効率を有効に高めて、炉の操業に要する燃料の使用量を削減することができる。
そして、このように比較的低廉な廃油または再生油を有効に用いることにより、炉の操業コストの低減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の一の実施形態
に用いることのできる処理装置を示す概略図である。
【
図2】この発明
に用いることのできる処理装置で処理された燃料が供給される廃棄物処理炉の一例を示す概略図である。
【
図3】この発明の
一の実施形態
に用いることのできる他の処理装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る
廃棄物処理炉の操業方法では、水が所定の割合でそもそも含まれる廃油や再生油のうちのいずれか一方または両方を対象とし、その水を含む廃油または再生油に水を追加せずに、また水を含む廃油または再生油から水を除去することもなく、水を含む廃油または再生油に含まれる水と油を乳化させることにより、水を含む再生油をエマルジョン燃料とし、そして、そのエマルジョン燃料を
所定の廃棄物処理炉の燃料として用いる。
【0022】
ここで、廃油または再生油は、たとえば、製油所や発電所、機械工場その他の事業所で生じた鉱物性油、動植物性油、潤滑油、絶縁油、洗浄油、切削油、溶剤、タールピッチ等の油脂および油状の物質である廃油それ自体、または、当該廃油から、劣化生成物や混入異物を分離除去することにより生成した再生油とすることができる。
再生油を生成するために廃油に施す具体的な処理としては、たとえば、油分分離、軽質分除去、スラッジ除去等がある。一例としては、廃油を、粗ごみ除去ストレーナーに通過させた後、タンク内にて油水分離・加温静置を行い、熱交換器、反応管およびストレーナーを経て冷却する。そしてその後、遠心分離機でスラッジを除去し、所定の温度に保持したストレーナーを経て、再生重油を生成することができる。
なおここでいう廃油は、たとえば、それに含まれるごみを除去した後の、上記の油水分離を行う前のものとすることができる。
【0023】
このような廃油または再生油としては、灯油、重油、潤滑油または絶縁油等があるが、なかでも、炉の燃料に用いるには、重油、たとえば再生重油が好ましい。
この再生重油は、JIS K2170に規定されている1種または2種のいずれであってもよい。
【0024】
また、水を含む廃油または再生油に含まれる水としては、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、イオン交換水、アルカリ水、酸性水、純水、超純水等を挙げることができる。
上記の水を含む廃油または再生油はそもそも、0.5質量%〜25質量%の水分を含むことがあるが、JIS K2170に規定されている再生重油の水分量とは異なり、水分を5質量%より多い量で含むものを対象とすることができる。
【0025】
なおここで、後述のエマルジョン燃料製造装置等を用いて、水を含む廃油または再生油の水と油を有効に乳化させ、水を含む廃油または再生油からエマルジョン燃料を有効に製造するため、水を含む廃油または再生油をエマルジョン燃料製造装置等に供給するに先立ち、水分量の異なる複数種類の、水を含む廃油または再生油を混ぜ合わせることにより、その水分量を調整することができる。但し、ここでは、水を含む廃油または再生油に対して、水だけを追加ないし除去することは行わない。
それにより、従来は炉の燃料として使用することが不可能であった、たとえば20質量%程度と多量の水を含む廃油または再生油をも有効に利用することが可能になる。
なお、複数種類の水を含む廃油または再生油を混合する場合は、そのうちの少なくとも一種類が、上述したように、水分が5質量%を超える量で含まれるものであればよいので、他の種類は、水分が5質量%以下であってもよく、水を含まないものであってもかまわない。
【0026】
このような、複数種類の混合による水分量の調整を行うか否かを問わず、エマルジョン燃料製造装置に供給することのできる状態にある乳化直前の水を含む廃油または再生油に含まれる水分の量は、好ましくは3質量%〜25質量%、より好ましくは、8質量%〜20質量%とし、特に10質量%〜15質量%とすることが一層好ましい。
なおこの場合の水と廃油または再生油との含有量の質量比は、3:97〜25:75であることが好ましい。この質量比は、より好ましくは、8:92〜20:80、さらに好ましくは、10:90〜15:85である。
【0027】
かかる廃油または再生油は、比較的安価な価格で入手することができるので、多くは添加剤コストが嵩むことに起因して実用化され難いエマルジョン燃料を、このような廃油または再生油を用いて製造することにより、全体的な炉の操業コストの増大を抑制することができる。
【0028】
このような水を含む廃油または再生油は、
図1に概略的に例示する処理装置を用いて処理した後、たとえば廃棄物処理炉に供給して、その燃料に供することができる。
図1に示す廃油または再生油の処理装置は、上記の水を含む廃油または再生油を貯留させる廃油・再生油貯留タンク1と、廃油・再生油貯留タンク1に連結されて、廃油・再生油貯留タンク1から送られる水を含む廃油または再生油からエマルジョン燃料を製造するエマルジョン燃料製造装置2と、エマルジョン燃料製造装置2に連結されて、エマルジョン燃料製造装置2で製造されたエマルジョン燃料を貯留するエマルジョン燃料貯留タンク3とを備えるものである。
またこの処理装置は、上述したように、廃油・再生油貯留タンク1とエマルジョン燃料製造装置2、および、エマルジョン燃料製造装置2とエマルジョン燃料貯留タンク3のそれぞれを連結する管路4および5に加えて、エマルジョン燃料貯留タンク3に貯留されたエマルジョン燃料を炉に供給するための燃料供給管路6を備える。
なおこの装置では、廃油・再生油貯留タンク1とエマルジョン燃料製造装置2との間の管路4、および、燃料供給管路6のそれぞれに、廃油・再生油貯留タンク1内の水を含む廃油または再生油、および、エマルジョン燃料貯留タンク3内のエマルジョン燃料のそれぞれの下流側への流動をもたらすポンプ7、8のそれぞれを設けている。
【0029】
この処理装置を用いて廃油または再生油を処理するに当っては、はじめに、水を含む廃油または再生油を廃油・再生油貯留タンク1に注ぎ込み、そこで貯留させることができる。なおこのとき、エマルジョン燃料製造装置2の仕様ないし性能に合わせて、先に述べたように水分量の異なる他の廃油又は再生油を混合させることにより、水を含む再生油に含まれる水分を、上述したような範囲に調整することもできる。
【0030】
次いで、ポンプ7の作動に基づき、水を含む廃油または再生油は、管路4を経てエマルジョン燃料製造装置2に送られる。そしてここでは、必要に応じて、水を含む廃油または再生油に、界面活性剤ないし乳化剤等の添加剤を添加するとともに、これを撹拌することにより、水を含む廃油または再生油にもともと含まれる水を油中に分散させて、それらを乳化させることができる。
【0031】
ここで用いるエマルジョン燃料製造装置2は、油からエマルジョン燃料を製造できるものであれば特に制限されるものではなく、たとえば、公知のもの、又は公知のものと実質的に同じものを用いることができる。具体的には、このエマルジョン燃料製造装置2は、水を含む廃油または再生油を、所要の圧力の作用下で、又は圧力の作用なしに、ミキサもしくは超音波その他の手段によって撹拌し、それに含まれる水を油中に分散させることで、それらを乳化させることのできるものである。それにより、水を含む廃油または再生油中の水粒子は油粒子に包み込まれた形態となって、エマルジョン燃料が製造される。なお、このエマルジョン燃料製造装置2の性能に応じて、エマルジョン燃料中の水粒子は、約300nm〜約10μm程度の大きさとなる。
【0032】
またここで、水を含む廃油または再生油に添加する添加剤としての乳化剤は、たとえば、陰イオン乳化剤、陽イオン乳化剤、非イオン乳化剤または両性イオン乳化剤等とすることができる。
ここにおいて、水を含む廃油または再生油にはそもそも、界面活性剤および/または乳化剤が含まれている場合があり、この場合は、上記の添加剤を添加することなしに乳化を生じさせることができるので、添加剤に要する費用を削減して、操業コストを大きく低減させることができる。
【0033】
そしてその後、上記のようにして製造されたエマルジョン燃料は、必要な場合に必要量を炉に供給するため、エマルジョン燃料貯留タンク3に一旦貯留することが可能である。
エマルジョン燃料は一般に、製造した後に1週間以上経過すると水粒子が凝集して水層ができるので燃料効率が悪化するが、近年の装置では、1週間以上経過した後も、燃焼効率の悪化をもたらさないものもある。
このエマルジョン燃料貯留タンク3内のエマルジョン燃料は、ポンプ8の作動に基づき、燃料供給管路6を通して、炉に供給することができる。
【0034】
図2に、この発明
に用いることのできる処理装置で処理された燃料が供給される廃棄物処理炉9を概略的に示す。
この廃棄物処理炉9は、たとえば、ロータリーキルン炉、固定式乾燥炉、溶解炉等とすることができる。
【0035】
図2に例示するような廃棄物処理炉9では、その内部に、エマルジョン燃料F等の燃料とともに、燃焼用空気Aが供給される。そしてここでは、エマルジョン燃料Fは、廃棄物処理炉9の内部で、廃棄された電気・電子機器その他の金属製スクラップ等の焼却その他の燃焼に供される。
【0036】
ここで、廃棄物処理炉9に供給される燃料が、上述したようにして製造されるエマルジョン燃料Fであった場合、エマルジョン燃料Fは、理論空気量に近い空気量で完全燃焼することから、水を含む廃油または再生油を用いて製造したエマルジョン燃料Fで優れた燃焼効率をもたらすことができる。具体的には、この燃焼用空気Aは、好ましくは理論空気量の1.0〜1.3倍程度、より好ましくは理論空気量の1.05〜1.13倍程度供給することによって、廃棄物処理炉9の燃焼を行うことができる。
しかも、このエマルジョン燃料Fは、通常の重油等に比して、少ない燃焼用空気Aの量で燃焼するので、廃棄物処理炉9内への大量の冷たい空気の流入によって熱エネルギーが奪われることを抑制することができ、また、排ガスGの量が削減されて、油使用量を削減することもできる。
【0037】
図3に、この発明
に用いることができる処理装置の他の
例を示す。
図3に示す処理装置は、廃油・再生油貯留タンク11からの燃料供給ラインが二つに分岐しており、一方のラインは、廃油または再生油が、先に述べたようなエマルジョン燃料製造装置12によってエマルジョン化された後にエマルジョン燃料貯留タンク13を経て炉に供給されるものであり、また他方のラインは、廃油または再生油がそのまま、廃油・再生油供給管路20を経て直接的に炉に供給されるものである。
なおここでは、廃油・再生油貯留タンク11からラインが分岐した直後に、それぞれのラインでの廃油または再生油の流動を制御する開閉弁21、22を設けている。
【0038】
図3の処理装置によれば、廃油・再生油貯留タンクに供給された廃油または再生油の水分量に応じて、直接的に炉に供給するか、または、エマルジョン化して炉に供給するかを選択することができるので、様々な水分量の再生油に対応することができる。
【実施例】
【0039】
次にこの発明に係る廃油または再生油の処理方法を試験的に実施し、その効果を確認したので、以下に説明する。但し、この発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
表1に示す水分量で水を含む再生油につき、発明例1、2および3では、エマルジョン燃料装置製造装置に供給するとともに、該エマルジョン燃料製造装置で、水を含む再生油に含まれる水と油を乳化させて、水を含む再生油をエマルジョン燃料とした後に、炉に供給して、炉内での燃焼に用いた。なお、発明例3は、水分を5%含む再生油と水分を35%含む再生油を再生油貯留タンク1にて混合し、表1に示すように水分を15%含む再生油とした。
一方、比較例1および2では、水を含む再生油をそのまま炉に送り込み、炉内での燃焼に用いた。
【0041】
この場合の燃料使用量、空燃比、操業トラブルの有無を確認し、炉の燃料として使用することができるかどうかを検討した。その結果も表1に示す。
なおここで、表1中の空燃比は、炉に送り込む燃焼用空気の質量を、燃料質量で除した値であり、この値が小さいほど、炉内での燃焼に必要な空気量が少なく、理論空気量に近い空気量で完全燃焼させることができることから燃焼効率に優れることを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示す結果より、水を含む再生油をエマルジョン化した発明例1、2および3はともに、比較例1および2に比して十分に小さい燃料使用量および空燃比で、しかもトラブルの発生なしに、炉の燃焼を行い得ることが明らかである。
また、水を含む再生油をエマルジョン化せずにそのまま用いた比較例1および2では、排ガスに窒素酸化物が含まれ、または火力不足によって処理量が減るという問題があったが、発明例1〜3では、排ガス異常が発生せず、また水分量が多くても火力不足が生じなかった。
それ故に、発明例1、2および3での燃料は、炉の燃料として有効に用いることができた。
【0044】
以上のことから、この発
明によれば、燃焼効率を向上できるとともに、炉の操業に要する燃料の使用量を有効に削減できることが解った。
【符号の説明】
【0045】
1、11 廃油・再生油貯留タンク
2、12 エマルジョン燃料製造装置
3、13 エマルジョン燃料貯留タンク
4、5、14、15 管路
6、16 燃料供給管路
7、8、17、18 ポンプ
9 廃棄物処理炉
20 廃油・再生油供給管路
21、22 開閉弁
A 燃焼用空気
F 燃料
G 排ガス