(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(A)成分中のダイマー酸型ジアミンが、全ジアミン成分に対し、4〜8モル%の範囲内にあり、前記(B)成分が、(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対し、5〜10重量部の範囲内で含有する請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[ポリアミド酸組成物]
本発明のポリアミド酸組成物は、(A)芳香族テトラカルボン酸無水物を含む酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させて得られるポリアミド酸であり、前記ジアミン成分が、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを含むポリアミド酸、及び、(B)有機ホスフィン酸の金属塩を含有する。
【0017】
<ポリアミド酸、及びポリイミド>
本発明のポリアミド酸組成物に用いるポリアミド酸は、芳香族テトラカルボン酸無水物を含む酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させて得られるポリアミド酸である。このポリアミド酸は、ジアミン成分が、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを含むものである。
【0018】
また、本発明のポリイミドは、上記ポリアミド酸を熱処理してイミド化してなるものである。本発明のポリイミドの一例として、下記の一般式(1)及び(2)で表される構造単位を有するポリイミドが好ましい。
【0019】
【化1】
[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、R
1はダイマー酸型ジアミンから誘導される2価のダイマー酸型ジアミン残基、R
2は芳香族ジアミンから誘導される2価の芳香族ジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.04〜0.4の範囲内、好ましくは0.04〜0.2の範囲内、nは0.6〜0.96の範囲内、好ましくは0.8〜0.96の範囲内である]
【0020】
基Arは、例えば下記の式(3)又は式(4)で表されるものを挙げることができる。
【0021】
【化2】
[式中、Wは単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−NH−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示す]
【0022】
特に、ポリイミドの極性基を減らし、誘電特性を向上させるという観点から、基Arとしては、式(3)、又は式(4)中のWが単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−で表されるものが好ましく、式(3)、又は式(4)中のWが単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−CO−で表されるものがより好ましい。
【0023】
なお、上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構成単位として存在してもよい。構成単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。
【0024】
ポリアミド酸及びポリイミドは、一般に、酸無水物とジアミンとを反応させて製造されるので、酸無水物とジアミンを説明することにより、ポリイミドの具体例が理解される。上記一般式(1)及び(2)において、基Arは酸無水物の残基ということができ、基R
1及び基R
2はジアミンの残基ということができるので、好ましいポリイミドを酸無水物とジアミンにより説明する。
【0025】
基Arを残基として有する酸無水物としては、例えば無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が好ましく例示される。また、酸無水物として、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、例えば1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
【0026】
基R
1はダイマー酸型ジアミンから誘導される2価のダイマー酸型ジアミン残基である。ダイマー酸型ジアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(‐COOH)が、1級のアミノメチル基(‐CH
2‐NH
2)又はアミノ基(‐NH
2)に置換されてなるジアミンを意味する。
【0027】
ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11〜22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20〜54の他の重合脂肪酸を含有する。本発明では、ダイマー酸は分子蒸留によってダイマー酸含有量を90重量%以上にまで高めたものを使用することが好ましい。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。
【0028】
ダイマー酸型ジアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性を付与することができる。すなわち、ダイマー酸型ジアミンは、分子量約560〜620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸型ジアミンの特徴は、ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7〜9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、ポリイミドを非対象的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、ポリイミドの低誘電率化を図ることができると考えられる。
【0029】
ダイマー酸型ジアミンの仕込み量は、全ジアミン成分に対し、4〜20モル%の範囲内、好ましくは4〜15モル%の範囲内がよい。ダイマー酸型ジアミンが4モル%未満であると、ポリイミドの誘電特性が低下する傾向になり、20モル%を超えると、ポリイミドのガラス転移温度の低下によって耐熱性及び難燃性が悪化する傾向となる。
【0030】
ダイマー酸型ジアミンは、市販品が入手可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、コグニスジャパン社製のバーサミン551(商品名)、同バーサミン552(商品名)等が挙げられる。
【0031】
また、基R
2は、例えば下記の式(5)〜式(7)で表されるものを挙げることができる。
【0032】
【化3】
[式(5)〜式(7)において、R
3は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、Zは単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−NH−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0〜4の整数を示す]
【0033】
特に、ポリイミドの極性基を減らし、誘電特性を向上させるという観点から、基R
2としては、式(5)〜式(7)中のZが単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、R
3が炭素数1〜6の1価の炭化水素基、n
1が0〜4の整数であることが好ましい。
【0034】
基R
2を残基として有するジアミンとしては、例えば4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
【0035】
ポリイミドの誘電特性を踏まえ、ポリアミド酸の調製に好適に用いられる芳香族テトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)等を挙げることができる。その中でも、特に好ましい酸無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)等を挙げることができる。これらの芳香族テトラカルボン酸無水物は、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0036】
また、ポリイミドの誘電特性を踏まえ、ポリアミド酸の調製に好適に用いられる芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等を挙げることができる。その中でも、特に好ましいジアミン成分としては、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)等を挙げることができる。これらの芳香族ジアミンは、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0037】
上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記一般式(1)及び(2)に含まれないその他のジアミン及び酸無水物を上記の酸無水物又はジアミンと共に使用することもでき、この場合、その他の酸無水物又はジアミンの使用割合は好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下とすることがよい。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0038】
一般式(1)及び(2)で表わされる構成単位を有するポリイミドは、上記芳香族テトラカルボン酸無水物、ダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを溶媒中で反応させ、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成するポリアミド酸が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0039】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0040】
<有機ホスフィン酸の金属塩>
本発明のポリアミド酸組成物で用いる(B)成分の有機ホスフィン酸の金属塩は、2つの有機基がリンに結合しているリン酸の金属塩であり、好適には下記式(8)で表される。
【0042】
式(8)中、2つの有機基R
11及びR
12は、互いに同じか又は異なる直鎖状もしくは枝分かれした炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基若しくはトリル基であることが好ましい。また、式(8)中、金属種Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群の少なくとも1種より選択されるものであることが好ましい。なお、金属種Mが2価以上のn価の金属である場合は、式(8)のMをM1/nと変形する。
【0043】
また、難燃効果を向上させるため、(B)成分中のリン含有率を高めることが好ましく、具体的には2つの有機基R
11及びR
12は炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、また、ポリイミドの難燃性及び可とう性を向上させ、並びに金属塩としての水への溶解性の抑制させるため、金属種Mはアルミニウム(Al)が好ましい。
【0044】
また、(B)成分の有機ホスフィン酸の金属塩は、硬化前のポリアミド酸組成物において固体粒子状に分散し、硬化後においても固体粒子状のまま存在するフィラーの形態をとる。この場合の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内が好ましく、より好ましくは0.5〜5μmの範囲内がよい。平均粒径が10μmを超えるとポリイミドの可とう性が低下する傾向にあり、0.1μm未満であると十分な難燃性を発現するために使用量が増加し、経済的に不利である。なお、上記(B)成分の平均粒径は、レーザー回折法によって測定される平均粒径であり、例えば、島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−2000(商品名)」を用いて測定することができる。また、上記(B)成分としては、市販品が入手可能であり、例えば、クラリアントジャパン株式会社製のホスフィン酸アルミニウム塩であるエクソリットOP930(商品名)、エクソリットOP935(商品名)、エクソリットOP940(商品名)等が挙げられる。
【0045】
<配合量>
本発明のポリアミド酸組成物における(B)成分の配合量は、(A)成分中のダイマー酸型ジアミンに対する(B)成分の重量比{(B)成分/(A)成分中のダイマー酸型ジアミン}が0.5〜6.0の範囲内、好ましくは0.6〜3.0の範囲内となるようにすることがよい。上記下限未満では、十分な難燃性が得られなくなる場合があり、上記上限を超えると、ポリイミドの形成が困難になる場合があり、また得られるポリイミドフィルムの脆弱化が生じる場合がある。
【0046】
また、本発明のポリアミド酸組成物における(A)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは60〜95重量部の範囲内であり、70〜95の範囲内が好ましい。(A)成分の配合量が60重量部以下では、ポリイミドの形成及びその低誘電率化が困難になる場合があり、95重量部を超えると十分な難燃性が得られなくなる場合がある。
【0047】
また、本発明のポリアミド酸組成物における(B)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対し、5〜40重量部の範囲内であり、5〜30の範囲内が好ましい。(B)成分の配合量が5重量部以下では、十分な難燃性が得られなくなる場合があり、40重量部を超えるとポリイミドの形成が困難になる場合があり、また得られるポリイミドフィルムの脆弱化が生じる場合がある。
【0048】
<任意成分>
本発明のポリアミド酸組成物は、上記(A)成分及び(B)成分以外に、例えば溶媒、有機ホスフィン酸の金属塩以外の難燃化剤、充填材などの任意成分を含有することができる。溶媒としては、ポリアミド酸の重合反応に用いる上記溶媒を挙げることができる。
【0049】
[樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、上記のポリイミドから形成されるポリイミド層を含む絶縁樹脂のフィルムであれば特に限定されるものではなく、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態の絶縁樹脂のフィルムであってもよい。また、本発明の樹脂フィルムの厚みは、好ましくは3〜100μmの範囲内、より好ましくは3〜75μmの範囲内にある。
【0050】
本発明の樹脂フィルムは、FPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するために、3GHzにおける誘電率が3.0以下であることが好ましい。樹脂フィルムの3GHzにおける誘電率が3.0を超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0051】
また、本発明の樹脂フィルムは、FPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するために、3GHzにおける誘電正接が0.005以下であることが好ましい。樹脂フィルムの3GHzにおける誘電正接が0.005を超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0052】
上記のポリイミドから形成されるポリイミド層の中でも、低接着性であって、低熱膨張性のポリイミド層は、ベースフィルム層(絶縁樹脂層の主層)としての適用が好適である。具体的には、熱線膨張係数が1×10
−6 〜30×10
−6(1/K)の範囲内、好ましくは1×10
−6 〜25×10
−6(1/K)の範囲内、より好ましくは15×10
−6 〜25×10
−6(1/K)の範囲内にある低熱膨張性のポリイミド層をベースフィルム層に適用すると大きな効果が得られる。一方、上記熱線膨張係数を超えるポリイミド層も、例えば金属層や他の樹脂層などの基材との接着層としての適用が好適である。このような接着性ポリイミド層として好適に用いることができるポリイミドとして、そのガラス転移温度が、例えば350℃以下であるものが好ましく、200〜320℃の範囲内にあるものがより好ましい。
【0053】
低熱膨張性ポリイミド層を形成するポリイミドとしては、上記一般式(1)及び(2)で表される構造単位を有するポリイミドが好ましい。一般式(1)及び(2)において、基Arは式(3)又は式(4)で表される4価の芳香族基を示し、基R
1はダイマー酸型ジアミンから誘導される2価のダイマー酸型ジアミン残基、基R
2は式(5)又は式(7)で表される2価の芳香族基を示し、R
3は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、W又はZは独立に単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO
2−、−NH−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0〜4の整数を示す。このような構造単位を有する低熱膨張性ポリイミドの中で、好適に利用できるポリイミドは、非熱可塑性のポリイミドである。
【0054】
上記一般式(1)及び(2)において、基Arは酸無水物の残基、基R
1はダイマー酸型ジアミン残基、基R
2はジアミンの残基ということができるので、好ましい非熱可塑性のポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、ポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0055】
非熱可塑性のポリイミドの形成の好適に用いられる酸無水物としては、上記のポリイミドの説明で挙げた酸無水物を挙げることができる。この中でも、特に好ましい酸無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)から選ばれる1種以上の酸無水物が挙げられる。
【0056】
非熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられる芳香族ジアミンとしては、上記のポリイミドの説明で挙げたジアミンを挙げることができる。この中でも、特に好ましいジアミンとしては、耐熱性及び寸法安定性の観点から、分子内にフェニレン基又はビフェニレン基を有するものが好ましく、例えば、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選ばれる1種以上のジアミンが挙げられる。
【0057】
難燃性を付与した低熱膨張性のポリイミド層とするため、好ましい実施形態としては、上記一般式(1)及び(2)で表される構造単位を有するポリイミドを選定し、(A)成分中のダイマー酸型ジアミンが、全ジアミン成分に対し、4〜8モル%の範囲内となるようにし、(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対し、(B)成分を5〜10重量部の範囲内となるように配合することがよい。
【0058】
接着性ポリイミド層を形成するポリイミドとしては、上記一般式(1)及び(2)で表される構造単位を有するポリイミドが好ましい。一般式(1)及び(2)において、基Arは、式(3)又は式(4)で表される4価の芳香族基を示し、基R
2は、式(5)、式(6)又は式(7)で表される2価の芳香族基を示し、R
3は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、W及びZは独立に単結合、炭素数1〜15の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−、−SO
2−若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0〜4の整数を示す。このような構造単位を有する接着性ポリイミドの中で、好適に利用できるポリイミドは、熱可塑性のポリイミドである。
【0059】
上記一般式(1)及び(2)において、基Arは酸無水物の残基、基R
1はダイマー酸型ジアミン残基、基R
2はジアミンの残基ということができるので、好ましい熱可塑性のポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、ポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0060】
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物等が挙げられる。その他、上記のポリイミドの説明で挙げた酸無水物を挙げることができる。この中でも、特に好ましい酸無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)から選ばれる1種以上の酸無水物が挙げられる。
【0061】
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられる芳香族ジアミンとしては、耐熱性及び接着性の観点から、分子内にフェニレン基又はビフェニレン基を有するもの、あるいは、分子内に酸素元素又は硫黄元素を含む2価の連結基を有するものが好ましく、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。その他、上記のポリイミドの説明で挙げたジアミンを挙げることができる。この中でも、特に好ましいジアミン成分としては、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン(DANPG)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、パラフェニレンジアミン(p−PDA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE34)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE44)から選ばれる1種以上のジアミンを挙げることができる。
【0062】
本発明の樹脂フィルムとしてのポリイミドフィルムの形成方法については特に限定されない。例えば、本発明のポリアミド酸組成物を任意の基材上に塗布し、熱処理(乾燥、硬化)を施して基材上にポリイミド層(又はポリアミド酸層)を形成した後、剥離してポリイミドフィルムとする方法を挙げることができる。ポリアミド酸組成物を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリアミド酸組成物を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。
【0063】
本発明の樹脂フィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を含むことができる。この場合、ポリイミド層の少なくとも1層が、本発明の非熱可塑性ポリイミド又は熱可塑性ポリイミドを用いて形成されていればよく、ポリイミド層の全部が、本発明の非熱可塑性ポリイミド及び/又は熱可塑性ポリイミドを用いて形成されていることが好ましい。例えば、非熱可塑性ポリイミド層をP1、熱可塑性ポリイミド層をP2とすると、樹脂フィルムを2層とする場合にはP2/P1の組み合わせで積層することが好ましく、樹脂フィルムを3層とする場合にはP2/P1/P2の順、又は、P2/P1/P1の順に積層することが好ましい。なお、P1、P2のいずれかの層は、本発明以外のポリイミドによって構成されていてもよい。
【0064】
本発明の樹脂フィルムは、必要に応じて、ポリイミド層中に無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0065】
本発明の樹脂フィルムを低熱膨張性のポリイミドフィルムとして適用したものは、例えばカバーレイフィルムにおけるカバーレイ用フィルム材として適用することができる。本発明の樹脂フィルムに、任意の接着剤層を積層してカバーレイフィルムを形成することができる。カバーレイ用フィルム材層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5μm以上100μm以下が好ましい。また、接着剤層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば25μm以上50μm以下が好ましい。
【0066】
本発明の樹脂フィルムを接着性のポリイミドフィルムとして適用したものは、例えば多層FPCのボンディングシートとしても利用することができる。ボンディングシートとして用いる場合、任意の基材フィルム上に、本発明の樹脂フィルムをそのままボンディングシートとして使用してもよいし、この樹脂フィルムを任意の基材フィルムと積層した状態で使用してもよい。
【0067】
[金属張積層体]
本発明の金属張積層体は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された金属層と、を有する。金属張積層体の好ましい具体例としては、例えば銅張積層体(CCL)などを挙げることができる。
【0068】
<絶縁樹脂層>
本発明の金属張積層体において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有する。この場合、金属張積層体に優れた高周波伝送特性と難燃性を付与するためには、ポリイミド層の少なくとも1層が、本発明の非熱可塑性ポリイミド又は熱可塑性ポリイミドを用いて形成されていればよく、ポリイミド層の全部が、本発明の非熱可塑性ポリイミド及び/又は熱可塑性ポリイミドを用いて形成されていることが好ましい。また、絶縁樹脂層と金属層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における金属層に接する層は、本発明のポリイミドを用いて形成された熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。例えば、絶縁樹脂層を2層とする場合において、非熱可塑性ポリイミド層をP1、熱可塑性ポリイミド層をP2、金属層をM1とすると、P1/P2/M1の順に積層することが好ましい。なお、P1、P2のいずれかの層は、本発明以外のポリイミドによって構成されていてもよい。
【0069】
本発明の金属張積層体において、絶縁樹脂層は、FPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するために、3GHzにおける誘電率が3.0以下であることが好ましい。絶縁樹脂層の3GHzにおける誘電率が3.0を超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0070】
また、本発明の金属張積層体において、絶縁樹脂層は、FPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するために、3GHzにおける誘電正接が0.005以下であることが好ましい。絶縁樹脂層の3GHzにおける誘電正接が0.005を超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0071】
<金属層>
本発明の金属張積層体における金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する本発明の回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。
【0072】
信号配線に高周波信号が供給されている状態では、その信号配線の表面にしか電流が流れず、電流が流れる有効断面積が少なくなって直流抵抗が大きくなり信号が減衰する問題(表皮効果)がある。金属層の絶縁樹脂層に接する面の表面粗度を下げることで、この表皮効果による信号配線の抵抗増大を抑制できる。しかし、電気性能要求基準を満足させるために表面粗度を下げると、銅箔と誘電体基板との接着力(剥離強度)が弱くなる。そこで、電気性能要求を満足可能であり、絶縁樹脂層との接着性を確保しつつ金属張積層体の視認性を向上させるという観点から、金属層の絶縁樹脂層に接する面の表面粗度は、十点平均粗さRzが1.5μm以下であることが好ましく、かつ、算術平均粗さRaが0.2μm以下であることが好ましい。
【0073】
金属張積層体は、例えば本発明のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成することによって調製してもよい。
【0074】
また、金属張積層体は、本発明のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0075】
さらに、金属張積層体は、金属箔の上に本発明のポリアミド酸組成物を含有する塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成することによって調製してもよい。
【0076】
[回路基板]
本発明の回路基板は、絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層上に形成された配線層と、を有する。本発明の回路基板において、絶縁樹脂層は、単層又は複数層のポリイミド層を有することができる。この場合、回路基板に優れた高周波特性を付与するためには、ポリイミド層の少なくとも1層が、本発明の非熱可塑性ポリイミド又は熱可塑性ポリイミドを用いて形成されていればよく、ポリイミド層の全部が、本発明の非熱可塑性ポリイミド及び/又は熱可塑性ポリイミドを用いて形成されていることが好ましい。また、絶縁樹脂層と配線層との接着性を高めるため、絶縁樹脂層における配線層に接する層が、本発明のポリイミドを用いて形成された熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。例えば、絶縁樹脂層を2層とする場合において、非熱可塑性ポリイミド層をP1、熱可塑性ポリイミド層をP2、配線層をM2とすると、P1/P2/M2の順に積層することが好ましい。なお、P1、P2のいずれかの層は、本発明以外のポリイミドによって構成されていてもよい。
【0077】
本実施の形態において、本発明のポリイミドを使用する以外、回路基板を作成する方法は問われない。例えば、本発明のポリイミドを含む絶縁樹脂層と金属層で構成される金属張積層体を用意し、金属層をエッチングして配線を形成するサブトラクティブ法でもよい。また、本発明のポリイミド層上にシード層を形成した後、レジストをパターン形成し、さらに金属をパターンメッキすることにより配線形成を行うセミアディティブ法でもよい。
【0078】
以下、代表的にキャスト法とサブトラクティブ法との組み合わせの場合を例に挙げて本実施の形態の回路基板の製造方法について、具体的に説明する。
【0079】
まず、金属張積層体の製造方法は、以下の工程(1)〜(3)を含むことができる。
工程(1):
工程(1)は、本発明のポリアミド酸組成物を得る工程である。この工程では、まず、上記のとおり、原料のダイマー酸型ジアミン及び芳香族ジアミンを含むジアミン成分と酸無水物成分を適宜の溶媒中で反応させることにより(A)成分のポリアミド酸を合成する。次に、得られたポリアミド酸の溶液に、(B)成分である有機ホスフィン酸の金属塩、及び必要な場合は任意成分を添加する。
【0080】
工程(2):
工程(2)は、金属層となる金属箔上に、工程(1)で得られたポリアミド酸組成物を塗布し、塗布膜を形成する工程である。金属箔は、カットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状で使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。さらに、回路基板における配線パターン精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、銅箔は長尺に形成されたロール状のものが好ましい。
【0081】
塗布膜を形成する方法は、溶液状のポリアミド酸組成物を金属箔の上に直接塗布するか、又は金属箔に支持されたポリイミド層の上に塗布した後に乾燥することで形成できる。塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0082】
ポリイミド層は、単層でもよいし、複数層からなるものでもよい。ポリイミド層を複数層とする場合、異なる構成成分からなるポリアミド酸組成物の層の上に他のポリアミド酸組成物を順次塗布して形成することができる。この場合、少なくとも1層が本発明のポリアミド酸組成物であればよい。ポリアミド酸組成物の層が3層以上からなる場合、同一の構成のポリアミド酸組成物を2回以上使用してもよい。層構造が簡単である2層又は単層は、工業的に有利に得ることができるので好ましい。また、ポリアミド酸組成物の層の厚み(乾燥後)は、例えば、3〜100μmの範囲内、好ましくは3〜50μmの範囲内にあることがよい。
【0083】
ポリイミド層を複数層とする場合、金属層に接するポリイミド層が熱可塑性ポリイミド層となるようにポリアミド酸組成物の層を形成することが好ましい。熱可塑性ポリイミドを用いることで、金属層との密着性を向上させることができる。このような熱可塑性ポリイミドは、ガラス転移温度(Tg)が360℃以下であるものが好ましく、より好ましくは200〜320℃である。
【0084】
また、単層又は複数層のポリアミド酸組成物の層を一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド層とした後に、更にその上にポリアミド酸組成物の層を形成することも可能である。
【0085】
工程(3):
工程(3)は、塗布膜を熱処理してイミド化し、絶縁樹脂層を形成する工程である。イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。金属層の酸化を抑制するため、低酸素雰囲気下での熱処理が好ましく、具体的には、窒素又は希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、水素などの還元ガス雰囲気下、あるいは真空中で行うことが好ましい。熱処理により、塗布膜中のポリアミド酸がイミド化し、ポリイミドが形成される。
【0086】
以上のようにして、ポリイミド層(単層又は複数層)と金属層とを有する金属張積層体を製造することができる。
【0087】
また、回路基板の製造方法は、上記(1)〜(3)の工程に加え、さらに、以下の工程(4)を含むことができる。
【0088】
工程(4):
工程(4)は、金属張積層体の金属箔をパターニングして配線層を形成する工程である。本工程では、金属層を所定形状にエッチングすることによってパターン形成し、配線層に加工することによって回路基板を得る。エッチングは、例えばフォトリソグラフィー技術などを利用する任意の方法で行うことができる。
【0089】
なお、以上の説明では、回路基板の製造方法の特徴的工程のみを説明した。すなわち、回路基板を製造する際に、通常行われる上記以外の工程、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
【0090】
以上のように、本実施の形態のポリアミド酸組成物及びポリイミドを使用することによって、FPC等の回路基板に加工した場合に伝送損失を低減でき、難燃性に優れた金属張積層体を形成することができる。また、本実施の形態のポリアミド酸組成物及びポリイミドを用いることにより、FPCに代表される回路基板において、電気信号の伝送特性を改善するとともに、難燃性を付与できるので、電子機器の信頼性と安全性を向上させることができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0092】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
熱膨張係数は、3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、240℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を求めた。
【0093】
[誘電率及び誘電正接の測定]
空洞共振器摂動法誘電率評価装置(Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363B)を用い、所定の周波数における樹脂シート(硬化後の樹脂シート)の誘電率および誘電正接を測定した。なお、測定に使用した樹脂シートは、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0094】
[難燃性の評価方法]
難燃性の評価は、ポリイミドフィルムを125±5mm×13±0.5mmにサンプルカットし、UL94V規格に準拠した試験片を作製及び燃焼試験を行い、V−0の判定基準を合格した場合を「◎」とした。また、200±5mm×50±1mmにサンプルカットし、直径約12.7mm、長さ200±5mmの筒状になるように丸め、UL94VTM規格に準拠した試験片を作製及び燃焼試験を行い、VTM−0の判定基準を合格した場合を「○」とした。尚、VTM−0の判定基準を合格しなかった場合を「×」とした。
【0095】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
DDA:ダイマー酸型ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074、炭素数;36、アミン価;205mgKOH/g、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
m‐TB:2,2’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル
BAPP:2,2‐ビス(4‐アミノフェノキシフェニル)プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’ ‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
OP935:ホスフィン酸のアルミニウム塩(クラリアントジャパン株式会社製、商品名;エクソリットOP935、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、リン含有量23%、平均粒径2μm)
【0096】
合成例1
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、4.193gのDDA(0.0079モル)、14.994gのm‐TB(0.0706モル)及び212.5gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、4.618gのBPDA(0.0157モル)及び13.694gのPMDA(0.0628モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを得た。ポリアミド酸溶液aの溶液粘度は24,000cpsであった。
【0097】
合成例2〜5
表1に示す原料組成とした他は、合成例1と同様にしてポリアミド酸溶液b〜eを調製した。
【0098】
【表1】
【0099】
[実施例1]
合成例1で得られたポリアミド酸溶液a(固形分として85重量部)に対して、OP935の10重量部を配合し、これを厚さ18μmの電解銅箔の片面(表面粗さRz;1.5μm)に、硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結した。得られた金属張積層体について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、樹脂フィルム1を得た。樹脂フィルム1の熱膨張係数、周波数3GHzにおける誘電率、誘電正接及び難燃性の評価結果を表2に示す。
【0100】
[実施例2〜7]
表2に記載の割合(重量部)で各成分を配合して、実施例1と同様にして樹脂フィルム2〜7を調製した。各樹脂フィルムの熱膨張係数、周波数3GHzにおける誘電率、誘電正接及び難燃性の各評価結果を表2に示す。
【0101】
比較例1
表2に記載の割合(重量部)で各成分を配合して、実施例1と同様にして樹脂フィルムを調製した。この樹脂フィルムの熱膨張係数、周波数3GHzにおける誘電率、誘電正接及び難燃性の評価結果を表2に示す。
【0102】
参考例1
表2に記載の割合(重量部)で各成分を配合して、実施例1と同様にして樹脂フィルムを調製した。樹脂フィルムの熱膨張係数、周波数3GHzにおける誘電率、誘電正接及び難燃性の各評価結果を表2に示す。
【0103】
[実施例8]
表3に記載の割合(重量部)で各成分を配合して、実施例1と同様にして樹脂フィルム8を調製した。樹脂フィルム8の熱膨張係数、周波数3GHzにおける誘電率、誘電正接及び難燃性の各評価結果を表3に示す。
【0104】
参考例2
表3に記載の割合(重量部)で各成分を配合して、実施例1と同様にして樹脂フィルムを調製した。樹脂フィルムの熱膨張係数、周波数3GHzにおける誘電率、誘電正接及び難燃性の各評価結果を表3に示す。
【0105】
実施例1〜8、比較例1及び参考例1〜2の結果をまとめて表2、表3に示す。なお、表2、表3中の「OP935/DDA」は、ポリアミド酸中のDDAに対するOP935の重量比を意味する。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
[実施例9]
銅箔9(日本電解社製、商品名;HLS―Type2、電解銅箔、厚さ;9μm、樹脂積層側の表面粗度Rz;1.06μm、Ra;0.16μm)に、実施例8で使用したポリアミド酸組成物を硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、85℃〜110℃まで段階的な加熱処理にて溶媒を除去した。次に、その上に、実施例5で使用したポリアミド酸組成物を硬化後の厚みが、約42〜46μmとなるように均一に塗布し、85℃〜110℃まで段階的な加熱処理にて溶媒を除去した。更に、その上に、実施例8で使用したポリアミド酸組成物を硬化後の厚みが約2〜3μmとなるように均一に塗布した後、85℃〜110℃まで段階的な加熱処理にて溶媒を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から320℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、金属張積層体を得た。得られた金属張積層体の樹脂層側に、銅箔9を重ね合わせ、温度330℃、圧力6.7MPaの条件で15分間熱圧着して、金属張積層体を得た。得られた金属張積層体について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、樹脂フィルム28を得た。樹脂フィルム28の熱膨張係数は26.1ppm/K、周波数3GHzにおける誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.99、0.0042、難燃性の評価結果は、VTM−0の判定基準を合格した。
【0109】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。