特許第6267948号(P6267948)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6267948
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】真空磁気遮蔽容器の構造
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/09 20060101AFI20180115BHJP
   H01J 37/16 20060101ALI20180115BHJP
   H01J 37/18 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01J37/09 Z
   H01J37/16
   H01J37/18
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-257775(P2013-257775)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-115249(P2015-115249A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100140615
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100154313
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 忠志
(72)【発明者】
【氏名】宮本 松太郎
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−032505(JP,A)
【文献】 特開2012−178293(JP,A)
【文献】 特開2006−351622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/09
H01J 37/16
H01J 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防錆処理が不要な鋼材により形成された内側容器と、内側容器の周囲を囲うように配置される前記内側容器とは異なる磁性鋼材により形成された外側容器を備え、前記内側容器で容器内の真空を保持し、前記外側容器で容器内の磁気遮蔽がなされるように構成された、試料を保持するステージを内包した電子線応用装置の真空磁気遮蔽容器の構造において、
前記外側容器の上部に鏡筒が載置される上板が設けられ、前記内側容器の上部が内蓋で塞がれるとともに、この内蓋に、前記上板に形成された鏡筒内部と通ずる開口部と略同じ面積の開口部が設けられ、且つ当該内蓋の開口部と前記上板の内面間を真空シールして、鏡筒内と内側容器の内部が真空に保持され、内側容器と外側容器の間の空間が大気圧に保持されるようにした構成を有することを特徴とする真空磁気遮蔽容器の構造。
【請求項2】
内側容器は、当該容器を構成する部材同士が溶接又は接着により接合された構成を有することを特徴とする請求項1に記載の真空磁気遮蔽容器の構造。
【請求項3】
外側容器は、当該容器を構成する部材同士が留めネジにより締結して接合された構成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の真空磁気遮蔽容器の構造。
【請求項4】
内側容器と外側容器は、四枚の板材を組み合わせて方形筒状に形成され、外側容器は方形筒状に組み合わせた板材の下方に下板、上方に上板をそれぞれ直接接するように形成された構成を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の真空磁気遮蔽容器の構造。
【請求項5】
内側容器と外側容器の側面部が留めネジで締結された構成を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の真空磁気遮蔽容器の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームやイオンビーム等の荷電粒子線を利用する電子線検査装置や電子線描画装置等の電子線応用装置に装備される真空磁気遮蔽容器、いわゆる真空チャンバ(以下、「真空容器」ともいう。)の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線応用装置は、例えば図8に示されるように、ウエハやマスク等の試料を保持し移動させるステージが内部に組み込まれた真空容器100の上部に、試料表面に電子線を照射する一次電子光学系と試料から放出される二次電子を検出器の電子検出面に結像させる二次電子光学系を内部に備えた鏡筒110を設けて構成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ここで、真空容器100から鏡筒110に至る装置内部の電子線の軌道領域で電子線の安定性と直進性を確保するには、この領域を真空にするとともに磁気の影響を最小化する必要がある。そのため、装置内部を真空ポンプと接続した排気管を通して真空排気することができるように設け、また真空容器100は磁性材料を使用して、装置外部の磁気が容器内部に及ばないように磁気遮蔽するとともに、減圧による変形が生じないように高剛性に形成される。
【0004】
前記真空容器100は、磁性材料のブロック体を切削して、六面立方体の上面又は下面を除いた内部が空洞な五面体を削りだして形成したり、磁性材料からなる複数の板材を方形箱型に組み合わせ、各板材の端部同士を溶接によりに接合して形成したりすることができるが、後者により形成する場合は、一般に、例えば図9に示されるように、板材101の端部同士を突き合わせて真空容器100の周側壁を構成し、真空となる真空容器100の内側角部101aの突き合わせ端部はその全体をTIG溶接等により、外側角部101bの突き合わせ端部は断続又は連続溶接等によって板材101の端部同士を接合して形成される。なお、真空容器100の周面部に設けられる着脱部位には、容器内部の気密性が保たれるように、Oリングシール構造が採られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−56390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空容器100を形成する磁性材料として、一般的にSS400やS45C等の鉄が考えられるが、これら純鉄系の材料は基本的に錆びやすいため、これらの材料からなる板材101を用い、これを溶接して真空容器100を組み立てたときは、防錆処理としてニッケル鍍金等による表面処理を施す必要がある。
一方、前記図9に示されたように、板材101の端部同士を突き合わせて溶接した場合、突き合わせ部分(同図中の符番101aと101bの間の部分)には溶接により確実に一体に固着する部分の他に、突き合わせた面内で僅かに隙間となる微少な空間部分が必ずできてしまう。
【0007】
そして、前記ニッケル鍍金等による表面処理は、予め真空容器100の表面を脱脂洗浄し、次いで金属(亜鉛等)薄膜の密着性向上を図るために薬液に浸すなどの前処理を行った後、真空容器100の表面に金属薄膜を溶着することにより行われるが、この処理過程で、前記板材101の端部同士の突き合わせ部分にできた微少な空間部分に洗浄液や薬液が入り込み、空間部内に残留することがある。
液類の残留防止策として、浸入した液類を外部に排出させる抜け穴設計を板材101の端部同士の接合部分にしておくのが通常であるが、これによっても液類を完全に排除することは困難であり、前記接合部分の隙間に洗浄液や薬液が残留することにより錆を発生させ、ニッケル鍍金等の表面処理の本来の防錆作用を阻害する原因となっていた。錆びた部分が拡がると、真空容器100の強度低下や錆による汚染が問題となるため、真空容器100を構成する材料に応じて、錆が発生しないような適切な対処が必要である。
【0008】
前記SS400やS45C等の純鉄系に代えて、耐食性が良好で防錆処理をせずに真空容器100の組み立てに使用することのできるパーマロイ等の合金鋼の利用も考えられるが、パーマロイは非常に高価であり、真空容器100を形成する磁性材料としては実用性に乏しい。また、前記の通り磁性材料のブロック体を切削して真空容器100を形成することも可能であるが、加工コストが嵩張って装置全体がコスト高になってしまう。
【0009】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、錆が発生し難く、大気圧との差圧の影響を受けずに容器内部を確実に真空状態に保持することのできる真空磁気遮蔽容器を低コストで構成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
真空容器は、その内部に大気から遮断された真空空間を形成するため、板材を方形箱型に組み合わせて構成する場合、板材の端部同士を隙間なく接合して一体化させる必要がある。その接合手段としては溶接が最適であるが、前記の通り純鉄系の材料では表面処理が必要となる。
一方、真空容器の材料として、耐食性が高く防錆処理が不要な鋼材、例えばステレス鋼を用いれば、溶接組み立て後の防錆処理は不要であるが、ステンレス鋼は非磁性であるため、これのみでは磁気遮蔽能力が劣り、別に磁気遮蔽手段を設ける必要がある。
【0011】
そこで、本発明では、真空容器を別々に形成される内側容器と外側容器の二重構造とし、内外両容器を重ねて設置して真空容器の周側部を構成することで当該容器全体の剛性を確保するとともに、内側容器を防錆処理が不要な鋼材を用いて形成することで組み立て後の表面処理を不要とし、外側容器を磁性鋼材を用いて形成することで、真空容器内を磁気遮蔽して外部磁気の影響が及ばないように構成した。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するため本発明は、試料を保持するステージを内包した電子線応用装置の真空容器の構造において、
防錆処理が不要な鋼材により形成された内側容器と、
内側容器の周囲を囲うように配置される前記内側容器とは異なる磁性鋼材により形成された外側容器を備え、
前記内側容器で容器内の真空を保持し、前記外側容器で容器内の磁気遮蔽がなされるようにした構成を有することを特徴とする。
【0013】
これによれば、内側容器は防錆処理が不要な鋼材を箱型に組み合わせて形成されるので、真空容器組み立て後の防錆のための表面処理は不要であり、鋼材の端部同士を溶接により一体に接合して、大気から遮断された真空空間を容器内部に形成することができる。また、外側容器が磁性材料である鋼材を用いて形成されるので、外側容器を内側容器の周囲を囲うように配置することで、真空容器の磁気遮蔽能力が担保され、容器内部における外部磁気の影響を排除することができる。
【0014】
内側容器を形成する防錆処理が不要な鋼材としては、SUS304等のオーステナイト系のステンレス鋼や、耐食性が高いその他の鋼材を用いることができる。また、外側容器を形成する磁性鋼材としては、SS400,S45C等の鉄や、保磁力が小さく透磁率が大きいその他の鋼材を用いることができる。外側容器は、錆の発生を防ぐため、ニッケル鍍金等の表面処理が施された磁性鋼材を用いて形成することが好ましい。
【0015】
内側容器の形成は、当該容器を構成する部材同士を溶接により一体に接合して行うことができる。溶接と同等の固着性能が確保できれば、内側容器を構成する部材同士を接着により一体に接合して形成してもよい。
また、外側容器は、当該容器を構成する部材同士をボルトなどの留めネジで締結することにより一体に接合して形成することができる。これにより、耐食処理の容易な板形上の部材を組み合わせて容易に構成することができる。また、組み立て後の表面処理加工が必要となってコスト高となるが、薄板等の溶接により、残留空間を極小化させるように、部材同士を溶接により一体化して組み立ててもよい。
【0016】
内側容器は外側容器の内側に略一杯に挿入される大きさに形成され、真空容器は外側容器の中に内側容器を配置し、真空容器の上面に設置される鏡筒の内部と内側容器の内部を連通させた状態で外側容器の一部と内側容器の内部を密閉して構成される。
内側容器と外側容器は、それぞれ上面が開口した有底箱型や、上蓋も具備した箱型に形成することができる。
【0017】
また、内側容器と外側容器は、ともに四枚の板材を組み合わせて上下が開口した方形筒状に形成し、外側容器は方形筒状に組み合わせた板材の下方に下板、上方に上板をそれぞれ直接接するように形成してもよい。
この場合、真空容器は、外側容器の中に内側容器を配置し、両容器の上部に上板、下部に下板を設置して上下の開口を塞ぎ、上板の下面と内側容器の上部周縁、下板の上面と内側容器の下部周縁にOリング等の密封部材をそれぞれ設けて、内側容器の内側を真空シールすることにより構成することができる。このように、内側容器と外側容器を四枚の板材を組み合わせて方形筒状に形成し、これと上板と下板を組み合わせて真空容器を構成すれば、各部材を一枚板で形成可能であり、加工コストを低廉に抑えて製造することが可能となる。
また、外側容器の方形筒状の下方に下板、上方に上板を直接接するように形成し、所謂メタルタッチにより接合するこことで、下板から上板までの寸法を正確に管理することが容易になるとともに、同寸法に対する内側容器の変形の影響をなくすことができる。
【0018】
前記構成の真空容器は、内側容器と外側容器の内側、上板下面及び下板上面の間に設置されたOリングにより内側容器の内部が真空シールされ、電子線応用装置の作動時に、真空容器の上面に設置された鏡筒内部と内側容器内部の間の空間が電子線応用装置の作動時に真空に、内側容器の外側が大気圧にそれぞれ保持される。電子線応用装置を作動し、装置内部を真空ポンプにより大気圧から真空状態に又はその逆に変化させる過程で内側容器に発生する応力は、内側容器が変形することで吸収される。内側容器の大きさや厚みの設計により変形量が大きいと予想されるときは、内側容器の側面部などの大きく変形する部位を、外側容器の側面部に留めネジで締結するなどして、減圧時に内側容器の内方への変形量が緩和或いは軽減されるように構成してもよい。
【0019】
また、前記構成の真空容器において、外側容器の上部に鏡筒が載置される上板が設けられ、内側容器の上部が内蓋で塞がれるとともに、この内蓋に、前記上板に形成された鏡筒内部と通ずる開口部と略同じ面積の開口部が設けられ、且つ当該内蓋の開口部と前記上板の内面間を真空シールして、鏡筒内と内側容器の内部が真空に保持され、内側容器と外側容器の間の空間が大気圧に保持されるように構成することができる。
これによれば、内側容器と外側容器の間が大気圧となるように構成することで、鏡筒の接合部の投影面積分の差圧作用分のみが変形要因となり、真空容器の上板全体の面積と比較して変形要因部分が大幅に少ないため、前記上板の大気圧と真空との差圧により変形は極小化され、結果として上板上面に取り付けられた鏡筒の設置位置や姿勢が前記差圧の影響を受け難くなり、電子線応用装置の高精度化を達成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、構成部材を溶接により組み立て、その後に表面処理を行うという煩雑な加工作業によることなく、構成部材同士を内側容器は溶接、外側容器は留めネジで締結するなどの簡易な加工工程により、容器内部を確実に真空状態に保持することのできる真空磁気遮蔽容器を低コストで構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態の真空容器の要部を破断した外観構成図である。
図2図1の真空容器の構成部材を展開して示した外観斜視図である。
図3】内側容器の概略外観図である。
図4】外側容器の概略外観図である。
図5図1の真空容器の横断端面図である。内側容器と外側容器の間の隙間は拡大して示してある。
図6】側面部同士を接続した内側容器と外側容器の重合部分を、半面を破断して示した図である。
図7】他の形態の真空容器の横断端面図である。内側容器と外側容器及び上板の間の隙間は拡大して示してある。
図8】真空容器と鏡筒を備えた従来の電子線応用装置の一例の構成を示した図である。
図9図8に示した真空容器の部材の接合態様を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図面には主として真空容器の構成を示し、真空ポンプや送・排気管等の電子線応用装置に装備される他の装置・機器類の図示は省略してある。
【0023】
図1は本発明の一実施形態の真空容器を電子線応用装置に適用した状態を示し、同図に示されるように、真空容器1はその内部に試料を保持・移動させるステージ6が設置されるとともに、その上面に形成された開口部5a上に鏡筒11が設置されて、防振又は除振装置7で支持された定盤などのベース材8上に搭載される。
【0024】
前記真空容器1は、図2に示されるように、方形筒状の内側容器2と、内側容器2の周面を囲う大きさに形成された同じく方形筒状の外側容器3と、両容器の下部開口を閉鎖する下板4と、上面に開口部5aが形成された上板5とを組み合わせて内部が中空な六面箱型に形成してある。
【0025】
詳しくは、内側容器2は、ステンレス鋼等の防錆処理が不要な鋼材を用いて形成されており、図3に示されるように、適宜な厚みの四枚の板材21を方形に組み付け、各コーナー部の板材21,21同士の突き合わせ端部を溶接により一体に接合して形成してある。内側容器2は、外側容器3の内側に略一杯に嵌る大きさに形成されており、その各コーナー部の内側には補強片22,22を溶接により固着してある。
【0026】
外側容器3は、図4に示されるように、ニッケル鍍金等の表面処理が施された鉄等の磁性鋼材を用いて形成されており、図4に示されるように、一側の端部に凹面部31aを形成した適宜な厚みの四枚の板材31を、一の板材31の一側の端部に形成された凹面部31aに他の板材31の他側の端部を継ぎ合わせて方形に組み付けるとともに、各コーナー部の継ぎ合わせ部にボルトなどの留めネジ9を螺子入れて一体に締結することにより、板材31,31の端部同士を接合して形成してある。外側容器3は、その内側に内側容器2を略一杯に嵌め入れて、内側容器2の周囲を囲う大きさに形成してある。
【0027】
下板4と上板5は、外側容器3と同様に、ニッケル鍍金等の表面処理が施された鉄等の磁性鋼板を用い、ともに外側容器3の平面視方形をなす上下の開口端部に接合して外側容器3の上下の開口を閉鎖する大きさに形成してある。上板5には、その上面に設置される鏡筒11の取り付け位置に開口部5aを形成してある。
【0028】
これらの部材により構成される本形態の真空容器1は、図5に示されるように、外側容器3の中に内側容器2を配置し、両容器2,3の下部に下板4、上部に上板5を設置して上下の開口を塞ぐとともに、外側容器3の下端部と下板4の上面及び外側容器3の上端部と上板5の下面は接触面を密着させたメタルタッチにより接合し、内側容器2の下部周縁と下板4の上面及び内側容器2の上部周縁と上板5の下面に密封部材であるOリング10をそれぞれ設けて、内側容器3の内側を真空シールすることにより組み立てられる。
【0029】
組み立てられた真空容器1は、その内部にステージ6が設置され、また、図7に示される如く、上板5の上面に鏡筒11が設置され、鏡筒11の内部と真空容器1の内部とが開口部5aを通じて接続されて電子線応用装置に装備される。鏡筒11内は、鏡筒11の下部と上板5の上面に設けられたOリングシール構造により封止される。
なお、図示されない真空ポンプや送・排気管等の、真空容器1の側部に取り付けられて容器内部に通じる機器類は、内側容器2に直接真空シールを設けて取り付けられ、或いは機器類が取り付けられる箇所のみに内側容器2と外側容器3間に真空シールを設けるとともに外側容器3と機器類の間で真空シールを設けて取り付けられる。
【0030】
このように構成された本形態の真空容器1によれば、電子線応用装置の作動時に、防錆処理が不要な鋼材を溶接して組み立てられた内側容器2の内部が真空に保持され、また、磁性材料からなる外側容器3により磁気遮蔽して、容器内部における外部磁気の影響を排除することができる。また、真空容器1は、内側容器2と外側容器3がそれぞれ四枚の板材21,31を組み合わせて形成され、これに下板4と上板5を接合して構成されているので、加工コストを低廉に抑えて製造することができる。
さらに、外側容器3の下端部と下板4の上面及び外側容器3の上端部と上板5の下面は接触面を密着させたメタルタッチにより接合しているので、下板4から上板5までの寸法管理が容易になるとともに、同寸法及び最終的に鏡筒11とステージ6の間となる部分の寸法に対する、内側容器2の変形の影響をなくすことができる。
【0031】
なお、電子線応用装置を作動し、装置内部を真空ポンプにより大気圧から真空状態に又はその逆に変化させる過程で内側容器に発生する応力は、内側容器が変形することで吸収されるが、内側容器2の変形量を軽減するため、図6に示されるように、内側容器2と外側容器3の側面部同士を留めネジ9で締結し、減圧時に内側容器2の内方への変形量が緩和されるようにしてもよい。
【0032】
図7は、本発明の真空容器1の他の形態を示しており、これは、前記形態と同様に形成された内側容器2に上部開口を塞ぐ内蓋23を設け、この内蓋23に上板5に形成された鏡筒11の内部と通ずる開口部5aと略同じ面積の開口部23aを形成し、内蓋23の開口部23aと上板5の内面間にOリング10を設けて真空シールすることで、鏡筒11の内部と内側容器2の内部が真空に保持され、内側容器2と上板5を含む外側容器3の間の空間が大気圧に保持されるように構成したものである。
【0033】
これによれば、内側容器2と外側容器3の間及び内蓋23の上面と上板5の下面間が大気圧に保持されることで、鏡筒11の接合部の投影面積分の差圧作用分のみが変形要因となり、この変形要因が真空容器1の上板5全体の面積と比較して大幅に少ないため、上板5の大気圧と真空との差圧による上下方向の変形が極小化され、上板5の上面に取り付けられた鏡筒11の設置位置や姿勢が差圧の影響を受け難くなり、電子線応用装置の高精度化を達成することが可能となる。
【0034】
なお、図示した真空容器1や内側容器2,外側容器3の形態は一例であり、本発明はこれに限定されず、他の適宜な形態で構成することが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 真空容器、2 内側容器、3 外側容器、4 下板、5 上板、6 ステージ、7 防振又は除振装置、8 ベース材、9 留めネジ、10 Oリング、11 鏡筒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9